【プロローグ11】

 放課後。
 ヨンパっつぁんが賭場で負けたとかで、ナッパばりに「ちぃいっくしょおおお!」と叫びながら教室に戻ってきた。リゾンベ……もとい、リベンジに大和が動いてみれば、対戦相手は2−Sの不死川心。
 一緒に見学に行ってみたんだけど……おおうダメ、僕麻雀とか全然ダメ。

心  「フッ……狙い通り、雑魚が雑魚を連れてきたのじゃ」
中井出「ナギーっぽい……」
大和 「第一声がそれかよ」
卓也 「しかもそれ口調だけでしょ」

 や、でもこのいかにも口先だけで、失敗すれば泣きそうなところとかさ、ねぇ?
 なんだろう……僕のハートからこう、抱き締めて振り回したい謎の、破壊衝動にも似た欲求が。あ、ちなみにハートといったのは、心って例えると相手の名前と被ってややこしいからです。

大和 (2−Sには常に着物を着てるヤツが居るって聞いたことはあったけど、こいつか)
卓也 (いかにも高貴ですって、体全身でアピールしてるね)
中井出(あの頭のおだんごを見て、亞莎しか思い出せない俺はもうダメだと思う)
卓也 (人恋しい年頃が一気に押し寄せてきたって感じだね)
大和 (二千万年も前の子のこと、まだ思いだせるだけすごいって)

 何気に声も似てるんだよね。 
 ぬう、頭撫でたい俺はもっとダメかもしれん。
 おだんごの位置は違うわけだが。

中井出(賭場では初めて?)
大和 (ああ、新顔だ。2年になって初めて賭場の存在に気づいたんじゃないか?
    誰かと麻雀をやる機会があって、たまたまここを知って、
    勝ったもんだから調子づいてるって、そんな感じだと思う)
心  「この調子で完膚なきまでに劣等をシめるのじゃ」
卓也 (丁度その心境が語られたね……なんてタイミング)
大和 (心に思ったことをそのまま言うタイプとみた)
中井出(心だけにかっ!)
大和 (や、そういう意味でなく)

 大和、モロ、ヨンパっつぁん、僕の四人で来たわけだが、卓には3年が二人、アンデッドリバーさんが一人。つまりあと一人を待っているところのよう。
 麻雀はよーけ解らん、手の打ちようがない。ここは大和に任せよう。

心  「丁度今、面子3人で最後の一人待ちじゃ」
大和 (ふむ。別の二人常連さんだな。グルってことはなさそうだ)
中井出(なのにアンデッドリバーさんが一人勝ちしてるって雰囲気?)
卓也 (なに普通にものすごいあだ名を会話に混ぜてるのっ!)
大和 (ん、そうっぽい)
卓也 (うわ、さらりと流したよ)

 観察は大事です。
 賭場ってのはイカサマが多いらしいでの、僕もそんな偏った知識ばかりを持つ場所です。
 印象ってそんなもんだと思う。

心  「どうする劣等種。面子に入れてやってもよいぞ」
中井出(……頭撫でたら慌てそうだ。撫でていい?)
卓也 (会話のキャッチボールくらいしようよ!)
中井出(だ、だってさぁ! あのいかにもな滲み出るヘタレクィーンっぽさがさぁ!)
大和 (やめときなさい)
中井出(つーか無視して会話しすぎだよね僕たち)
卓也 (誰の所為だと思ってんの)

 俺の所為ですね。自覚してます。
 そんなわけで大和はあっさり受け取り、卓に座る。
 ヨンパっつぁんの暖かい声援も受け、いざ麻雀!
 …………でもよく解らん。
 役ってなに? 解らんからモロに適当に高い役を教えてもらった。
 もちろん特定の相手を潰す用の。

心  「お前等2−Fは最近調子に乗って騒ぎすぎじゃ。
    よってボロ負けして己の分を弁えてもらうのじゃ」
中井出「あの。ボロ負けして、だとキミが負けてますけど?」
心  「あ」
中井出「………」
心  「…………っ《かぁああっ……!》う、うるさいのじゃ!
    なんじゃおぬしは勝手に人の会話に割り込んできおって!」
中井出「やだこのお子カワイイ……! 撫でていい? ね、撫でていい……!?」
大和 「落ち着けヒロ! それはナギーじゃない!」
心  「よく解らぬが高貴な此方をソレ扱いするでないわ!!」
卓也 「なんだか今日はいろんなヒロが見れるなぁ……」

 これが素なんだと思います、ハイ。
 ともあれ場は進む。
 なんか親がどーとかゆーのが回りに回って、よく解らんうちに大和が親の番が回ってくる。オーラス……これがラストっぽいのだが、大和は安い手っていうので上がりながらも現在二位らしい。
 このままだとアンデッドリバーさんの一人勝ちだっていうので───

中井出「えーと」

 牌がシェイクされ、纏められる。
 その瞬間に時を止めて、皆様の牌を好き勝手に変えた。
 さて。これでどうなるかだけど。
 3年のほうも、勝つ度に罵るアンデッドリバーさんの態度に怒りが燃えてきてるみたいだし……ふむ。

心 「ほほ、やはり運は此方に向いておるのじゃ。
   いらぬ牌などくれてやる、ありがたく頂戴するがよいぞ?」

 ……それが、彼女が余裕顔でいられた最後の時じゃったぁ……。

……。

 で……2−Fの教室。
 放課後ってこともあって、人もまばらなそこで、僕らは三人寄ってハフーと溜め息を吐いていた。

中井出「泣いて逃げてしまわれたなぁ……」
大和 「ヒロ、仕組んだろ」
中井出「バレなければイカサマじゃないなら、
    時間止めることほどパーフェクトなイカサマはないでしょ」
卓也 「無敵だなぁ……」

 アンデッドリバーさんは、マジで泣いて逃げてしまわれた。
 アガリ止めとかゆーので、ビリになったらしい。うん、やっぱりよく解らん。

中井出「まあ金は元通りになる程度しか取らなかったし、
    相手にはイカサマだともバレない。
    これで恨むとか言ったらおかしいってなもんさ」
大和 「トーマとか連れてリベンジに来たらどうしよ」
中井出「ダイジョーブ。あのテのお子は、没落貴族に手は伸ばさない。
    言い方悪いけどね、冬馬の家柄がよかったのは告発する前のことさね。
    そこから落ちた冬馬に、あの貴族馬鹿のお子が声をかけるとは思えん」

 腹立たしいけどね。

中井出「だがいや待て?
    冬馬のことだから、持ち前の甘い言葉と顔で既に落としているかもしれん。
    落ちぶれても元上流家庭とびんぼっちゃまも言っていた。
    将来有望であることには変わりないんだから、高貴な此方も案外……!」
卓也 「ヒロ、それって親ばかの台詞みたいなんだけど」
中井出「一度言ってみたかったんだ《ニコリ》」
大和 「まあ、ヨンパチにお礼金として少しもらえたし、なにか買って帰るか」
中井出「うむうむ」

 と、そんな話に耳をぴくりと動かした正義が一人。

クリス「今、悪の匂いがしたぞ」
中井出「ふっ……俺の匂いもとうとうおなごを惑わせるほどの悪になったか……!」
卓也 「や、どんな匂いなのそれ」
クリス「んー……《すんすんっ》……森林の中のひなたのような香りだ」
卓也 「おかしいでしょそれ!!」
大和 「いや何、クリスはかわいいなって話をしていたんだ」
クリス「───軽薄だな。そういう世辞は好かないぞ、直江大和」
中井出「いなり寿司美味いですね」
クリス「それほどでもないっ……!《キラキラ……!》」

 モノスゲー笑顔でした。
 そんな笑顔のままにスタスタ行ってしまった。

卓也 「……どう反応したらいいんだろ」
大和 「棒読みすぎた俺の言葉か、それともヒロの言葉のチョイスか」
中井出「クリスの無邪気さでいいんでない?」

 よい笑顔が見られましたし。

中井出「ていうか、大和は随分とクリスに警戒されてるね?」
卓也 「やっぱり影でこそこそっていうのが気に入らないみたいだね」
中井出「悪、いいのにねぇ。負けちゃあ正義がどうとか言ってられないのに」
大和 「譲れないものは俺にだってあるんだ、これだけは折れるわけにはいかない」

 人の世ってそんなもんだと思います。
 交流が広いからって、なんでもかんでも妥協するんじゃ男じゃない。
 それが直江大和って男です。


【SIDE】  ……一方、2−S。 心 「うぅう……ひぐっ、くすんくすんっ……」 小雪「おー、泣いてるー……ましゅまろあげる、たくさん食べると元気になれるー♪」 心 「い、要らぬのじゃ! それより井上! 葵くんは何処におるんじゃ……?」 準 「知りたくばそのマシュマロを食べなさい。情報料はそれでいい。    人のやさしさを、特にユキのやさしさを無碍にするヤツなんて知らん」 心 「ぐっ……食えばよいのじゃろ食えばっ!    むぐっ……んぐんぐ…………おぉお、甘いのじゃ〜……♪」  準は心の中で突っ込んだ。お前はそれでいいのかと。 心 「さあ食ぅたぞ! 葵くんはどこじゃ!」 準 「あ、知らん」 心 「……死にたいらしいのぅおぬし」 準 「誰も知ってるなんて言ってません。    しかしまあ若の行動を考えるに、定番の“女の子とお遊び”なんじゃないかねぇ」 小雪「いつものごとくねー」  葵冬馬。元大病院の院長の息子……だったが、現在はアパート暮らし。  周囲から見れば没落貴族扱いだろうが、成績優秀、顔も広く、なにより平均的に万能なだけあって、周囲の評価は割と高い。Sクラスには一年の間に自分を認めさせ、不死川心もまた、なんだかんだと認めるところにまで至っていた。  その関係者たる準や小雪ともなにかと会話を交わす過程、ひどく見下すような態度は取らないでいる。……つもりなのだが、性格が性格なだけに普通にそう見えることもしばしばらしい。 心 「またか……でも葵くんならばあいつを倒せるのじゃ」 準 「なにお前。賭場で2−Fやっつけるとか言っておいて、惨敗?」 小雪「それで泣いて逃げてきたんだー」 心 「逃げて来たのではない! 奴らから逆方向に走ってきただけじゃ!」 準 「高貴な此方さんが廊下を走るんじゃあありません」 心 「う、うるさいのじゃ!    おおおお前はいつもそうやって細かなことを気にしておるからハゲるのじゃ!」 準 「これは好きでこうやってんの! 何度言わせる!」 心 「くぅううっ……どいつもこいつも此方を馬鹿にしおってぇえ……!    次は必ず血祭りにあげてやるのじゃ! そのためにも葵くんが必要じゃ!」 準 「それでなに。相手誰ェ。    もしかして猿顔のエロ野郎に視姦されて集中できなくて負けたとかいうクチか?」 心 「高貴な此方がその程度で集中を乱すものか!」  心の言葉に、準がふむと片目を閉じて息を吐く。  それから心の顔をじっと、イメージを沸かせながら見つめる。 心 「な、なんじゃ」 準 「…………惜しいなぁ。是非とも幼女時代に巡り会いたかった。    今からでも遅くない、若返れ」 心 「お前は此方をなんだと思っておるのじゃぁああーーーーっ!!」 小雪「ほらほらー、泣いた顔にはましゅまろ〜♪」 心 「んぐんぐ……甘いのじゃ……」 準 「惜しいなぁ……」  そう呟き、放課後の空を窓越しに見て、彼はただたそがれるのであった。  相手の名前を聞くまでは、普通に。
 ……で、帰宅中。 準  「というわけで。明日にでもリベンジに行くかもしれん」 岳人 「受けてたとう! 勝負方法は柔道! 寝技のみで!」 中井出「モモみたいなこと言わないの。     相手はアンデッドリバーさんじゃなくて冬馬だってば」 百代 「……ガクトと同レベルにされた……」 岳人 「本能で通じ合ってるってことだな……。     モモ先輩、俺様たちもう付き合っちゃいましょう《テコーン♪》」 百代 「輝かせるなら歯にしろよ……」 卓也 「ここで筋肉輝かせるって、どうかしてるでしょ」 京  「脱ぎながら会話するガクトもガクトなら、光る筋肉も筋肉だと思う」 小雪 「ワセリンー?」 岳人 「馬鹿言えユキっ子、俺様のは天然の輝きだ!」  ムキーンとポーズを取るマッスルがいた。 大和「けど、トーマがまさか乗ってくるとは」 冬馬「すいません。これも交流の一環と、女の子の涙のため」 大和「いや。だったら明日は全力で。勝っても負けても恨みっこ無し。    ……というか、俺もヨンパチの借りを返しただけだから、    返される謂れがないんだけど」 冬馬「メンツ問題、だそうですよ。お金持ちは高貴ですから」 大和「なるほど、負けたままではいられないわけね」 冬馬「ふふっ、すいません」  穏やかに認め合ってる。  うん、いい関係だ。  これで大和を見る冬馬の目がうっとりしていなければ、なおよかったんだが。 クリス「リベンジか……いいことだが、しかし悪はいけない。     イカサマなんてされては、真面目に勝負をする者が報われない。     その……考えてみたんだ。確かに必要悪というものはある。     だが、それでも懸命に正しきで勝とうとする者にとって、     それは屈辱でしかないじゃないか《なでなで》───って何故撫でる!」 中井出「いや……受け取ってくれただけでもありがとうだよ。     まずは必要悪もあるって認めて、その上で考えることに意味がござる」 京  「ソレを受け入れただけでも前進。しかも偉大な一歩。10点」 中井出「おめでとう」 大和 「おめでと」 一子 「? あ……お、おめでと!」 岳人 「おめでとう」 卓也 「おめでとー」 百代 「おめでとう」 京  「おめでとう」 小雪 「おめでとー」 準  「おめでとさん」 冬馬 「おめでとうございます」 クリス「お、おお……? なんだか解らないが……そんなに拍手されるほどのことなのか」  皆様がクリスを囲み、うっすらとした笑みで拍手を贈った。  まあようするに例のアレの真似なわけだが。 準  「……んお? そういやぁ黛さん家の由紀江ちゃんは?」 中井出「おおそれよ。今日はお友達から誘いがあったとかで、     感涙しながら行ってきますと報告に来たよ」 準  「青春だな。帰路という幸せの道を歩く姿が目に浮かぶ。南無」 中井出「青春だね。ほんと、テンパりながらも感涙し続ける姿が目に浮かぶ。南無」 卓也 「なんで二人して片手で拝んでんの」 準  「意味はない。ただ幸運を願ってだ」 中井出「理由もない。ただ漠然とした道の先を祈ってだと思う」  そんなわけで帰路を歩んだ。  途中で皆様と別れ、各々が散る中、一人「鍛錬があるから」と河川に残るワン子。  僕はといえば……しばし進んだのちに忘れ物をしたと断って、京とユキに先に帰ってもらい、来た道を戻る。まあ、二人には見透かされてたっぽいけど。 中井出「ワン子〜」 一子 「え……あ、ヒロ」  ワン子はいつもの体操服にチェンジすることもなく、ぼーっと流れる川を見ていた。  なんだかんだと賑やかだった中で、あまり話題に入ってこなかったこやつのことが、少々どころかかなり気になっておったわけです。  モモも気づいてたようだけど。 中井出「ふむ」 一子 「《きゅむ》おおぅ? なに? どしたの?」  とりあえず背後から首に腕を回すように捕縛する。  抱き締めるのではなく腕をクロスにしてみてるだけ、な感じです。 中井出「ワン子〜、悩みがあるだろ〜」 一子 「…………やっぱり解る?」 中井出「元気が無かったし、それなりに気を使ってたつもりだから」 一子 「ん。映像見て思った。気を使われてたんだなーって」  声は明るい……けどカラ元気って感じだ。  ならばと抱き締めて草むらに腰掛けると、胡坐の上に乗せるように座らせて頭を撫でる。 一子 「うぅう……」 中井出「師範代、目指すの辛くなったか?」 一子 「……お姉様、アタシの前じゃ全然全力出してなかったんだよね。     それって、アタシの夢がお姉様を支える……     好敵手とか師範代になるとかだったから、言えなかったわけで……」 中井出「んむ。武術の才能が無いって、きっぱり言えなかったんだ」 一子 「…………ヒロはきっぱり言うなぁ……」 中井出「言いもします。早いほうがいいから。     ワン子、お前には武術の才がござらん。     この博光にあらゆる才能が無かったのと同じく、お前には武術の才が。     しかし努力でそれをカバーして、今のお前が居る」 一子 「うん……」 中井出「でも、居るだけだ。限界なぞ作るなが俺の持論だけど、     あっさり努力を捨てた俺の言葉は他人にゃ届かん。持論だからしゃーない。     お前は努力でここまで来れたけど、こっから先はどうにも才能問題っぽいから。     ……だから、言うぞ? お前はどうしたい?」 一子 「………」  しょんぼりと頭が下がる。  そんな頭を撫でながら、ただ返事を待った。  試してみなければ解らないって言葉はあるけど、そんな次元を越えてやがるんだ、モモの強さは。師範代になって支えるとか、いつかお姉様のレベルになってライバルになるとか、そんな“常識”は通じない。  そんなものを直接ではなく、映像ってもので間接的に知ろうが、それでもどうしようもないくらいに解ってしまうほどの力を見た。落ち込みも当然だ。  いつかお姉様の隣に立つ。それが、こやつの夢だったのだから。 一子 「師範代になって支えるなんて、無理って解った。     だって、支えようがなかったよ。     お姉さまはアタシが居なくても……ううん、誰も居なくても強くて……。     ……あははっ……なにもしてないのに、夢が終わっちゃった……」 中井出「………」  そんな辛さを抱いていたってのに、人のことを追っかけて……。  この犬っこは、どこまでお人好しなのか。 中井出「俺と一緒に泣いたのって、やっぱそのことも混ざってたろ」 一子 「…………ん」  小さく頷いた。  少しの申し訳なさと惨めさが、その小さな体から見てとれた。 一子 「これから……どうしようかな……。     強くなる意味、無くしちゃったよ……」 中井出「ふむ? 花嫁修業でもして、よいお嫁さんになるー、とか?」 一子 「うあ、ガラじゃない……」 中井出「言うと思った。傷心なのに元気だねぇこのお子は」 一子 「そういうヒロは夢とかあるの?」 中井出「んー……正直、夢も希望も全部ブッ潰れた生き方してきたからなぁ。     あるのかと言われれば悩むところだ。でもこれだけは絶対にって思いならある」 一子 「ん……それってなに?」 中井出「お前ら家族を絶対に幸せにすること。で、絶対に俺も、笑って消える。     今までの、笑顔を貼り付けたような消え方じゃなくてさ。     ここに来れて、お前らに会えて本当に良かったって、そんな笑顔で消えたい」 一子 「………」  それは本当の言葉。  “誠”で例えるのも容易く、胸を張って言える、己の真剣(マジ)
だ。  しかし気恥ずかしいことは確かなので、なんとなくワン子の髪をわしゃわしゃと撫でた。 一子 「…………それってアタシも?」 中井出「当然だ。お前らって言ったでしょーが。     だから、な? ちっさくても構わんから夢を持て。     たとえばモモなんかは頭はよろしくないから、     家庭教師目指して猛勉強してみるとか」 一子 「うあー……アタシも勉強はちょっと……」 中井出「勇往邁進。最初は弱かったくせに強くなったお前が何言ってんの。     いいかぁワン子、向かった先で挫けても、     そこから何かを見つけるクセをつけなさい。     俺は人を殺したし、家族も仲間も無くしたけど、     今ではいろんなものを手に入れられたぞ。もったいないって思えるくらいだ」  言って、きゅうっとワン子を抱きしめる。  ワン子も「うん」と頷いてされるがままになっていた。 中井出「“こっちならもしかして”を拾い集めるんだ。     武術の才が無いなら別の才を見つけなさい。     俺の才なんて、家族の魂が無ければ開花すら見せなかったんだ。     今じゃな〜んの意思も残らない武具と世界だけが残った。     それでも才は消えない。ちゃんとここにある。     ……だから、な? 信じるのは神でも仏でもない。     お前も自分の何かを信じてみろ。     それは、お前らが俺に教えてくれたことなんだから」 一子 「…………信じる…………自分の何かを……」 中井出「うむっ」  ぽむぽむと頭の上で手を弾ませる。  すると、少し強張っていた体から力が抜け、ワン子はハァ、と息を吐いて体重をかけてきた。  で、第一声。 一子 「料理を美味しく食べられる」 中井出「うむ」  続いて二声。 一子 「元気」 中井出「うむ」 一子 「足にも自信あるかも」 中井出「うむ」 一子 「む、でもこれ、お姉様には敵わないわ」 中井出「はは、やっぱお姉様か」 一子 「思い浮かぶのがそれしかないのよぅ……」  自分の長所を探っているワン子。  そんな彼女を足に乗せたまま、ぽてりと倒れて空を見た。 一子 「…………広いね」 中井出「ああ」 一子 「どこに手を伸ばせば、お姉様に届くかな」 中井出「ふむ。訊くより先に、何処がいい?」 一子 「隣り」  それだけは決まっているようで、すっぱりと声が出た。  ならばとそのままぎゅうっと抱き締めてやり、 中井出「だったら栄養が偏りがちな偏食な馬鹿姉に、食のありがたさを教えてやりなさい」  そう、言ってやる。  返ってきた言葉は「……え?」って戸惑いの言葉。  すぐに苦笑みたいなものが漏れたが、さらに抱き締めてやると、その笑みも消えた。 中井出「川神院の食事は?」 一子 「えと、専門の調理家がやってるわ」 中井出「バランスは?」 一子 「ほうっておけば、好きに作らせて好きに食べるわね……」 中井出「じゃあ問題。俺がモモやワン子に、時々飲ませていたものは?」 一子 「栄養水! って……あ《わしゃわしゃっ》あうぅううっ……」 中井出「よく出来ました。ほれ、これじゃあ不満か?」 一子 「………」  頭を撫でられながら、ワン子が空を見る。  放課後の空に、飛行機が飛んでいた。  吹く風は穏やか。遠くで親に対しての愚痴をこぼす孺子どもの声が聞こえる。 一子 「……我が儘だね。しっかり生かしてもらってるのに」 中井出「生かしてくれない親も居たけどね」 一子 「うん……あのさ、ヒロ」 中井出「んむ?」 一子 「アタシが頑張ってきた道……無駄だった?」 中井出「…………」  可能性のある道は見えた。けど、だったら今までの道は?  ワン子はそう言いたいのだろう。  今やスポーツなどは栄養のバランス、体作りが重要な世。  そこにきて管理栄養士ってのは、モモの隣りに立つには十分な、いわゆるパートナーってものになる。  それをもっと早くから知っていればと。 中井出「武術、好きか?」 一子 「……好き」 中井出「決闘、好きか?」 一子 「好き」 中井出「モモのこと、好きだろ?」 一子 「大好きっ」 中井出「じゃあ、いいじゃないの。好きでやってた。でも夢までは届かなかった。     武術やってたからモモがやっている動作だのを知れたし、共通の話題もあった。     武術やってたから泣き虫が直った。強くなれた。     言っただろー? お前は今ここに居る。     それは、武術に真っ直ぐだったからこそのワン子だ」 一子 「うぅ……」 中井出「大丈夫だ。勉強嫌いなお前でも、集中しだせば真っ直ぐなんだ。     難しいことも覚えられる。     解らなかったら教えてやるし、教えてくれる奴らが居る。     もっとどどんと頼りなさい。家族でしょーが」 一子 「…………うん」  ワン子の首に回した腕に、ワン子の手が添えられた。  真っ直ぐに捉えた空に赤が差し掛かる頃、ひとつの夢が消えて、ひとつの夢が生まれた。  ただそれだけの、誰かにとってはどうでもいい、小さなお話があった。 ───……。  ……明けて翌日、四月二十八日、火曜日。 中井出「京、さあ起きなさい京。今日も善き風車日和であるぞ」 京  「キスしてくれたら目覚めるかも」 中井出「何処へとは言われてないので自分の手にしてみました。さあ起きろ」 京  「ぁあああん……! いけず……!」 小雪 「うー……すっかりいつものヒロミツだー……」 中井出「なんでそこで残念そうに言うのかは知らんけど、さあ起きた起きた」  ほんに今日もいい天気さ。川神市は雨を知らんね。  なんて思っておると、断りもなしに玄関を開け、中に入ってくる音。 中井出「ぬぅ何奴!」 一子 「あ」 中井出「……OH」  スターンと襖を開けて廊下に出れば、そこを歩くワン子さん。  あれま、どうしたのかね。 中井出「ワン子でねがや。どぎゃんしたとよオメ」 一子 「お姉様と喧嘩してきた! 泊めて!」 中井出「………………ワ、ワッツ!?」 一子 「だ、だから……お姉様と……けっ……喧嘩ぁあ……」 中井出「ギャアアアア泣くでないよ!? だだだ大丈夫この博光がおるよ!?     おんのれアンニャロワン子泣かせおってぶち殺してやるぁあ!《ドス》ハオッ!」 京  「落ち着いてダーリン」 中井出「ナ、ナイス脇腹貫手だ蜂蜜(ハニー)……」  OK冷静になろう。  そして脇腹が痛い。 中井出「ど、どうしたのワン子、昨日しょんぼりながらも元気で戻っていったのに」 京  「ようするに空元気だね」 中井出「はいそこハッキリ言わない」 小雪 「喧嘩するほど仲がいいっていうよね」 中井出「喧嘩する?」 小雪 「やー♪」  あっさり断られた。 一子 「あの……武の道を諦めるって言ったら……」 中井出「あれま……」 一子 「頑張り切らずにやめてそれでいいのかって言われて、     でも、だけど、だから解ることもあったのに……。     ねぇヒロ……アタシもうなにが正しいのか解んないよぉお……」  俯き、涙を滲ませたワン子を京が抱きしめる。  だが……ぬう。 中井出「結論言やぁどっちも正しいけどね。     ただ、モモにしてみりゃ“最後まで”やってほしいんだろうさ。     あいつも気を使ってた一人だ、お前に才能がないってのは解ってる。     だからこそ、才能が全てじゃないってのを見せてもらいたかったんだろ。     でも諦めた。ぶつかって燃え尽きたんじゃなく、諦めたのが許せない。     モモの性格考えると、そんなところだろうね」 小雪 「うーん……結構勝手?」 中井出「勝手にもなりませう。     大事な妹なんだ、見ていた夢には真っ直ぐでいてほしかったんだろーさ。     だが敢えて言おう。才ある者、しかも相手が欲してやまない才を持つ者に、     才の無い者の気持ちは一生かかっても“本当に”は解らんさ。     だからえーっと……」  黒電話までを歩いて、そこでジーコロジー。  コールが続いて、しばらくすると電話に出る……ありゃ、門下生かな? 中井出「ゲェッヘッヘッヘ、お宅の元気っ子は預かったぁ……!     返してほしくば今から言う住所に川神百代をよこしなぁ……!     おおっと間違えるなよ!? 一人でだ!」  はい住所を教えてがちゃーんと。 一子 「え……ど、どうしてお姉様を呼ぶの?」 中井出「いえね?」 百代 「ヒロォオオオオーーーーーッ!!! お前っ! どういうつも」 中井出「喧嘩意地(ゴロメンツ)!!」  バゴォッシャドガシャァアアンッ!!!  マッハでやってきて開けっ放しだった玄関から入ってきたモモを殴り飛ばし、玄関ごと吹き飛ばしました。 百代 「かっ、ぐっ……い、いきなりおまえっ……」 中井出「ほっほっほ……モモさん?《ゴキベキバキゴキ……!!》」 百代 「えっ……やっ……な、なんだお前、怒って……る……のか……?」  笑顔のままに阿修羅が現れるほどの質量を持ったマナを溢れ出させ、今、拳を鳴らす僕がゆく。玄関先の庭で起き上がるモモに向かい、ズシャーリズシャーリと一歩を踏みしめて。 中井出「おんしゃあなにテメェん勝手ばっか押し付けて     人の決意潰しとんじゃあワレェエエエエーーーーーッ!!!」 百代 「い、いぃいいやちょっと待て! 私の話もヴァアーーーーーーーッ!!!」  久々にキレました。  ええ、ほんに今日はいい天気。  こんな青の下には、きっとお似合いの喧嘩祭りです。 ……。  しゅぅううう……。 百代 「うぅう……」 中井出「正座」 百代 「い、いや……だからな……?」 中井出「正座」 百代 「うぅ……わかったよぉ……」  散々バトり、相手の全力を叩き潰し、戦闘意欲ごとへし折った現在がここにあります。  言われるままに畳みの上に正座するモモの首には、“私は悪いことをしました”と書かれた板がかけられている。 中井出「馬鹿じゃなかと!? 決意まで折ったらどこもこもなかろーもん!?     アタ自分がなんしょっとか解っとーと!? はらくしゃあ!」 百代 「うう……」 中井出「怒る気持ちも解ります! 解りますがね!     アータも“いつかは言わなければ”とかもやもやしとったでしょーに!     それなのに自分の手を煩わせずに相手が諦めればやれあーだこーだ!     おんしゃあ相手の意思を尊重したいのか決意潰したいのかどっちじゃあ!!」 百代 「諦めるにしても場面ってものがあるだろ!     強敵と戦って負ける! 試験の合格に届かなくて諦める!     そういったものに本気でぶつかったあとの方が諦めってものがつく!     だからこそそんなことが無い限り、諦めてほしくなかったのが私の本音だ!     未練なんて残してほしくなかったんだよ私は!」 中井出「んなもん残るに決まっとるでしょーが!     次の夢を選ぶからって前の夢の全てが消えるわけではござらん!!     師範代になってモモを支える! 素晴らしい!     でもなにより、ワン子は貴様の隣りに立ちたかったのだ!     ならばなにも武術だけじゃないと、     そう思って打ち明けたというのにこのお子はァアーーーッ!!」 百代 「私だって出来ることなら傍に居てほしいと思ったんだ!     けど夢を途中で諦めた先のもので、ワン子は満足して隣りに居られるか!?     師範代として隣りに立ちたかったとずっと後悔するんじゃないのか!?     そんな中途半端を認められるか!」 中井出「だぁああからなにより     “お前の隣りに立ちたかった”って言ってんだろうがァアーーーーッ!!     中途半端なんかじゃねぇ! 強くなりたい願いはもうとっくに叶ってる!     師範代の夢は届かなかった! でもお前の隣りには立てるんだ!     力だけが強さじゃねぇ! 貴様を支えられるのは力だけじゃあ断じてねぇ!     ほっときゃ肉と桃とピーチジュースばっかな貴様に、     栄養の素晴らしさを伝えんとするワン子の心が解らぬか!     今まで通りトレーニングもすればいい! 一緒になんでも話せばいい!     そこに栄養管理が加わるだけだと理解すりゃあ簡単に受け入れられるだろうが!」 百代 「ぶつかりもせずに諦めた夢に“誠”があるか!?」 中井出「ある! ぶつかった! 現実って壁にもうぶつかっちまったんだろうが!     映像なんて、それこそ中途半端なもので知った現実に、     お前はもう一度立ち向かってもう一度破壊されろってのか!     才能が無いって解ってて、努力でも庇いきれないって解ってて!     ルー師範代とは違うだろ! 努力で師範代になった例はあっても、     その“無い才能”にだって幅がある!     ワン子の幅がルー師範代に届かなければ、     どうしようもない現実を余計に知るだけだ!     ならば問おう川神百代! 貴様にそんな壁へと妹を向かわせる勇気があるか!」 百代 「…………」  周りも気にせず一気に叫び合い、やがてひとつの質問をする。  モモは荒げた息を整える中でワン子を見て、ギュッと拳を握った。  そして俺は、そんなモモに目で告げる。 百代「…………」  これ以上引き伸ばす気なら、期待させるだけ辛くなるだけだ、と。  憧れている相手なのだ。そいつに期待されればワン子はきっと諦めない。  諦めずに夢に向かって、そして……期待させた相手にこそ潰されるのだ。 百代「……ワン子」 一子「は、はいっ、お姉様っ」 百代「……お前は、もう本当に諦めたのか?」 一子「え……?」 百代「本当に武術をやめて、栄養士になって私を支えてくれようとしているのか?」 一子「え……そ、それは」  勇気を持つのは大変なことだ。それを、最近になって物凄く実感した。  おかしいよね、バケモンと戦う時はいっつもギャーギャー言ってたのに、家族と向き合う時が一番怖かったなんて。  でも……多分、モモもワン子も今、そんな勇気と戦ってる。 一子 「……諦めきれない。     本当だったら、武術でお姉様を満足させられるくらい強くなりたかった」 百代 (…………。…………なりたかった、か……) 一子 「でも……だめだね。解っちゃったんだ、アタシ。     子供の頃からずっとって条件は同じなのにクリに負けて、     頑張っても頑張っても上にはいけなくて。     周りには、負けても“割とよくあること”なんて言われて……でも頑張ればって。     でも…………だめだったんだよ。だから───」 百代 「だから?」 一子 「───《ちらり》」 中井出「……およ。…………ああもう。うむ、頑張ってらっしゃい」 一子 「───! ……うんっ! だからっ! その常識を破壊する!!」 百代 「…………へ?」  滲んでいた涙を拭い、ワン子が拳を突き上げた。  そしてそれを姉であり憧れであるモモに向け、“決意”を口にする。 一子 「お姉様、お願いがあります! アタシにお姉様が言う試験を受けさせて!     吹っ切れるかどうかじゃない、諦めきれないから全力で!!     上手くいけばもうけものじゃない、掴み取るから夢であり希望!     アタシは夢を諦めない! 折られるまでは、挫けません!!」 百代 「………………ワン子…………お前……。     折れて……ないのか? まだ……やれるのか……?」 一子 「ずっと前にヒロに言われたから。どうしてもダメな時はここに来なさいって。     そこで得た答えはきっとアタシにとっての勇気になるわ!     川神一子! 好きな字は勇気の勇! やらずに逃げるは勇気に非ず!」 京  「いや……逃げてきたじゃない」 一子 「に、逃げてないわ! 相手とは逆方向に走っただけ!」 小雪 「おー……泣いてないだけココロより強いねー」 一子 「え、うそ、強い? アタシ強い?」 小雪 「強い強いー」  ……はぁ。結局諦めないことにしちまったらしい。  庇った身としては情けない限りだが、まあ頑張るって言ってるんだから応援するだけだ。  応援、苦手なんだけどなぁ。 百代 「……気に入らない」 中井出「ホ? なにが? キミの思い通りになったじゃん」 百代 「ワン子に勝手にがっかりしそうになった自分も、     そんなワン子に裏をかかれたことも、     ワン子が言った決め台詞がお前が好きな“常識破壊”ってことも、全部だー……」 中井出「ぶほっしゅ、急に妹が大人びて見えたもんだから狼狽えてやがる。     コココ、ほんに武術以外のことになると《バゴォン!》ドルジェフ!」 百代 「いちいちうるさいよお前はぁあ……!!」 中井出「オゴゴゴゴ……! 血……鼻血が……! お、おのれ朕の鼻を殴るとは……!     なんだこら八つ当たりかこら表出ろコノヤロー!!」 百代 「上等だ今度こそ叩き潰す!!」  こうして朝から騒がしいことになりました。  ワン子はこれからここで修行していくことになり、モモはハイスピードグラビティトルネードフィッシャーマンズスープレックスの餌食となり、庭に埋まっていた。  まあ……その後だが、だからといって姉妹の仲が悪くなるといったこともなく、モモとワン子は仲良し姉妹のままでござった。 ……。  コキコキコキッ…… 百代「あぁ〜……首が痛い……」 大和「朝っぱらからクレーター作るような喧嘩したんだって?」 百代「ヒロのやつがキレたんだよ……。    自分だって好き勝手に意見押し付けてるくせにさー」  登校中。とっくに瞬間回復で治ったろうに、わざわざじとーと睨んでくるモモさん。  あんれまぁ確かにちょいとやりすぎたかもだけど、仕方もなし。 中井出「言うだけ言って、どうしますか?と訊いてるだけです。     まるで生徒会長に好き勝手に意見ぶつけて、     責任問題は会長にありますと暗に言ってる役員どもみたいだねっ! 実に悪だ!」 百代 「うわ、お前最低な……」  相変わらず変態の橋まで来る頃には丁度よくと言えばいいのか、全員が揃う。  待ってるわけでもないのに、不思議と会うんだよね。 中井出「提案ならいくらでもします。     それは否だとつっぱねて決めるくらいじゃなきゃあ、意思も夢には追いつかん。     その意味ではクリスはきちんといけそうだけど───」 クリス「もちろんだ。自分の言葉に責任が持てないのはいけないからなっ」  さて、長い通学路を歩む途中で話題が尽きないのはいつものこと。  べらべら話しながらでも結構時間は経つもので、学校も目の前ってところで夢の話をしてみた。ワン子のことで、他のみんなの夢がちと気になって。 中井出「でも親がそれはダメとか言ったら従いそうだから、自分の夢は持てなそうだ」 クリス「しっ……失礼だなお前は!! そんなことはないぞ!     父様は自分の夢ならば応援してくれる!」 中井出「父が正義であなたの正義を挫こうとしたら。その質問にあなたが出した答えは?」 クリス「はうっ!《ぐさっ!》」  なのにクリスはこれですもの。  うむむー、夢ってのはまた中々難しいもんだね。  一方ワン子はさっきからハンドグリップ握るのに大忙しだし。  ……でもなんでかいつもより近くに居る気が。気の所為? クリス「だ、だが強き意志を持つものの往く手を阻むことはよくない!     自分はきちんと自分の意思を以って夢に向かう!」 中井出「モモはなにか夢ってあるか?」 百代 「お前を潰して今度こそ世界最強になる《ギリリ……!》」 中井出「いやそんな、ツリ白目&富士山ムキ歯で涙まで滲ませなくても」 クリス「というか聞けぇっ!!」 中井出「そんなクリスの夢はなんですか?」 クリス「えっ───あ、んっ。───父様のような軍人だ!」 中井出「……生まれる子供の友達が苦労しそうだ」 総員 『同感……』 クリス「何故だっ!?」  何故もなにもないと思うが……だってあのパパリンだし。 翔一 「夢ねぇ。俺は冒険家だな。     ヒロの世界だけでも十分堪能できる気がすっけどー……それはそれだな。     この世界自体を攻略したいって気持ちが当然ある!」 京  「訊かれてないのに答えるのは、進路希望の影響と見る。     ちなみに私は博光のお嫁さん」 中井出「そうか。全国の博光くんが喜ぶな」  ニコリとサワヤカスマイルで迎えると、京もニコリと笑んで……どっからか弓矢を取り出した。え? それってどんなカッパーフィールド? 京 「今からこの場の博光以外に忌々しく点在する、    全国の博光くんの心臓(ハート)を射抜く旅に出る」 卓也「弓矢持って何処行くの!? あぁいや射抜くんだっけ!?    って物理的に射抜いちゃダメだよ!!」  走り出す京! そしてそれを止めるモロ! だがしかしそれを止める僕! 中井出「モロ! 強き意思を持った人を止めちゃだめだ! ……ってクリスが言ってた」 クリス「おおぉおいっ!!? い、いや待て京! これはっ、これはそのっ!」 準  「クリ公……お前容赦ねぇなぁ……」 冬馬 「意思を貫くためなら犠牲も問わぬ……なるほど、これが騎士道」 クリス「いや違う断じて違う誤解だ濡れ衣だ!!     ままま待て待て京! それは待つべきだ!」 中井出「ほうらクリスー、いなり寿司だぞー」 クリス「わぁい」 中井出「そしてごらん、弓矢を持った京がもう行ってしまった。     正義はいなり寿司に負けたのだ」 クリス「うわぁああああああああーーーーーーーーーーーーっ!!!!」 翔一 「忙しくて騒がしくて愉快なヤツだな」 総員 『まったくだ』  というわけで解散です。今日も一日頑張りましょう。  ちなみに京は転移で回収しました。 ……。  で、昼休みの2−F。  相も変わらず賑やかなこって、皆様がガヤリータ状態です。 千花 「クリスって肌、綺麗すぎだよねー」 クリス「そうなのだろうか」 中井出「うむ。まるでいなり寿司のようだ《ゴシャア!》オビャァアアア!!」  そして昼休み開幕直後に鮮血乱舞、マッハで殴られる俺が居た。 中井出「ちくしょうあいつら人がYOU・MOREをあげたというのになんてことを!」 卓也 「いや意味わかんないから」  鼻血を流しながらすごすご戻ってきた僕を、モロが暖かいツッコミで迎えてくれました。  自席周辺には男子ファミリー諸君+京とワン子が居て、中々に賑やかだ。  ───と、ここでガガッと放送が通る音を聞いた。  おや? 今日ってLOVEかわかみの日だっけ? ラジオ『ハァイエブリバディ、     ケータイの待ち受けを自分の写真にしてるナルシストはいないかな?」 中井出「ガクトだな」 大和 「ガクトだ」 岳人 「してねーよ!!」  証拠にと見せてもらったケータイの待ち受け画像は、どこぞの水着アイドルだった。 ラジオ『ハイ今のでケータイの待ち受け見せ合う人続出だねー。     というわけで今週もラジオ番組LOVEかわかみがはじまるよー。     パーソナリティーは2年でスキンヘッドの井上準と───』 ラジオ『人生、百花繚乱酒池肉林、3年の川神百代だ』 ラジオ『いや〜、最近さらに暖かくなってきましたねぇ〜』 ラジオ『それほどでもない』 ラジオ『話広げてくださいよォオオ! ───まあいいや、メール読みます。     あ、その前に一言。2年でスキンヘッドと言いましたが、     別に生誕2年でハゲたわけではありません』 ラジオ『そうだぞ。ロリに目覚めて2年でハゲた』 ラジオ『ロリは生来だっつっとるでしょーがァァァァ!!     それじゃあ結局生誕2年でハゲってことになるでしょォォォ!!?』 ラジオ『いやお前、生来だったらなにか、酸素に触れた瞬間、胎児に恋してたってことか。     つかツッコミそれでいいのかハゲ』 ラジオ『お腹の中の誰かが女の子であると解った時から愛してます《ドゴォ!》あべし!』 ラジオ『変態は無視してメール読むぞー。     あー……“小さい子が好きな準さん、病院行ってください”。     ははははっ、お前リスナーからもツッコまれてるな』 ラジオ『小児科なら喜んで《ボゴス!》ほべし!』 ラジオ『次不当な発言したら骨外すぞ。じゃあ次だ』 ラジオ『いやいやァ、ちょっと待ってくださいよモモ先輩だって解るでしょ。     初めての病院、広い空間、見知らぬ人。     しかしソワソワしながらも風邪だというのに落ち着きなく動き回る幼女たち……!     これでなごまんでなにになごみますか』 ラジオ『2枚目のメールだ』 ラジオ『はいシカト入りましたー! あ、俺が読んじゃいますね?     “無人島に1つだけ持って行けるとしたら、何?”     あ、ちなみに泳いで帰るとかは相当無粋なので、戻れないこと前提で』 ラジオ『ふむ……仲間だな』 ラジオ『“持っていく”の定義から思いっきり外れてますねぇ』 ラジオ『うっさいぞハゲ。そーゆーお前はどうなんだ。どうせ幼女アルバムとかだろ』 ラジオ『過程から考えましょう。     まずどこへ向かう途中に無人島に辿り着いてしまったのか。ここ大事。     無難なところで……幼女だけが生きる島を探して船に乗った俺は、     その輝かしい航海の途中、嵐に襲われた。これでいきましょう』 ラジオ『無難でそれってお前……』 ラジオ『で、幼女の住む島に行くとしたら持って行くものはなにか』 ラジオ『……一応続きを聞こうか』 ラジオ『ハーイ今隣りに物凄く黒い笑顔で右手ゴキベキ鳴らす修羅がいまーす!     だが言おう。ロリコンは決して退きはしない。     ───というわけで、持っていくなら少女かな。     こう、胸がほんの少しふくらみかけの《ゴキリ》ホァッ!?     オァギャァアアアーーーーーーーーーーーーーッ!!!!』 ラジオ『じゃあ骨も外れたことだし曲流すぞ〜』  ……またいきなりなラジオの中、曲とともに準の悲鳴が流れ続けた。  結構いい曲だったのに、準の悲鳴が台無しにしていた。  というか次この曲聞いても、準の悲鳴しか思い出せそうになかった。 中井出「女房思いのいいやつだったな……」 卓也 「関係ないこと言って、なかったことにしようとしてるね……。     うん、まあベストだと思うけど」  俺達は何も聞かなかった。それでいいじゃない。 中井出「というわけで軍師大和、話題」 大和 「ここで俺なのな……えー───あぁ。クリス、随分馴染んでるよな」 中井出「お、おおそうね」 卓也 「だよね。とても転校したてとは思えないよ」  無理矢理話題を作ることに成功した。  OK、強く生きろ2年でスキンヘッドボーイ。 京  「その点、大和とは未だに馴染まない」 中井出「まったくなんとかなさいよ?     せっかく僕らがいい感じに怒髪天させてるっていうのにこのお子は」 大和 「怒らせる意味が解らない!」 中井出「いやお前あれだよ? そこで華麗に宥めることを繰り返していけば、     キミってば実は頼り甲斐のある男なんだって見られることになる」 京  「───ってガクトが言ってた」 大和 「だめじゃん……」 岳人 「どういう意味だそりゃあっ!!」 京  「そのままの意味。ありのままを受け入れたほうが自分のためだよガクト」 岳人 「言うじゃねぇか京ぉお……!     いーぜだったら頼り甲斐のある様を見れるような例をみせてやるぜっ!     ヒロ、手伝え」 中井出「おうともさ」 一子 「!」  のっしと動き出したガクトとともに歩き出す。  と、何故かワン子までたととっと駆け寄ってくる。  ? まあいいや、かわゆいし。 岳人 「俺様が男っぽい部分を見せるから、上手くフォローしてくれ」 中井出「教室で恥部を露出するのはどうかと思うぞ」 岳人 「しねーよそんなことっ!     とにかくまずはヒロ、お前が場を騒がせて、俺様が華麗に鎮めるんだ。     文句なく頼り甲斐がありそうなふうに見えるだろぉ……!」 中井出「おおなるほど……! よっしゃ任せとけ!     こう見えても俺は! 騒ぎの達人!」 岳人 「こう見えてもなにも、騒ぎの中心大体お前じゃねーか」 中井出「し、失礼なっ!!」 一子 「?」  一緒についてくるワン子の手を引いて、仕方も無しにクリスたちの近くへ。  さて、騒がせるねぇ……。 中井出「おーいクリちゃーん」 クリス「む。クリスと呼べと言っているだろう」 中井出「いやさ、実は俺、この学園に寄付することで制服自由の権利を得たんだけど、     外国的にこう、ビシッとした服選びとかないかな。     将軍服はどうにもこの博光には合わんでの」 クリス「ああそうだな。卑怯者には似合わなさすぎる」 中井出「うむ。だからなにがいいかと」  皮肉なんぞスルーです。だって別に気にしないし事実だもの。 クリス「……皮肉くらい否定してくれ。すまん、言いすぎた。     ふむ……寄付はいいことだな。それを考えれば確かに将軍服でもいいとは思うが、     裏金を使ってそうしているようにも聞こえなくもない。     ならば───そうだ! 越後屋の服がよく似合いそうだ!」 中井出「越後屋! なんとまあ……ダメです」 クリス「いきなり否定するのか!?」 中井出「馬鹿もん! この博光をあげな低俗な悪と一緒にせんでもらおう!     貴様ら正義にいろいろな正義があるように、この博光の悪にも様々な意思がある!     人の命を金のためにあるものみたいに思うヤツの格好なぞ出来るか!」 クリス「お……おおぉ……! そ、そうか……そうかぁあっ……!!     よく言ったぞヒロ! お前は正しい!     二度も否定しなければさすがに怒ろうと思ったが、そうか!     そうだ、あいつは最低な悪だ!     それを良しとしないお前はもう立派な正義───」 中井出「誰が正義だてめぇ! 表出ろコノヤロー!!」 クリス「えぇええええええっ!!?」 中井出「───《キッ!》」 岳人 「───《クワッ!》」  アイコンタクト終了!  さあこの騒ぎを華麗にシズメルノデス!! 岳人「ちょおっと待ったお二人さん! 何を《ズッパァンッ!》ウボルメ!」 一子「決闘の邪魔っ!」 総員『えぇええーーーーーっ!!?』  岳人の頬に、綺麗なハイキックが決まりました。ええ、もちろんワン子の。 一子 「邪魔者は排除したわっ! ほらヒロ、勝負勝負っ!」 中井出「エ、ヤ、エートソノー……」  褒めて褒めてとばかりに輝く瞳で僕を見上げるワン子さん。  思わず撫でそうになるが、ギンッと視線を感じました。ハイ解ってます京さん。 中井出「ワン子よ……さっきの話、聞いてなかったの?」 一子 「聞いてたわっ! 決闘ねっ!」 中井出「違う違うっ! ほら、ガクトのっ……!」 一子 「? なんか言ってた?」 中井出「オオウ……!」  口をすぼめての悲しい声が自然と出ました。  そして背後から僕の肩をワッシと掴むドイツさん。 クリス「よくは解らんが、表に出ろと言われて引き下がるは騎士の恥。     むしろ太古の英雄と戦えるとは光栄だ!     お前の悪的好みはどうあれ、その強さは認めているからなっ!」 中井出「アレェエーーーーーッ!!!?」 クリス「自分はレイピアを使う。お前はなんだ?     まさか───冗談だったから逃げるなんてこと、家族に言わないよなぁ?」 一子 「言うわけないでしょドサンピンがぁ!     今にヒロの強さを知ることになるんだからせいぜい吠えていることね!」 クリス「ならばいい、むしろ望むところ───!!」 中井出「や、やめてぇ! やめてぇえええ!! ややこしくしないでぇえええ!!」  俺はガクトに助けを求めた!  するとガクトは頬を「おーいて」と言いながらさすりつつもハッとして、 岳人    「おぉっとお嬢さんたち、喧嘩は」 クリス&一子『ふっ!《ギンッ!!》』 岳人    「……大いにヤリナサイ」 中井出   「うぉおーーーーーーーいいぃい!!?《ズガァーーーン!!》」  筋肉が眼力に負けた!  し、しっかりしろ筋肉! お前筋肉だろ!? 人が行動するには必須なものでっ……無くてはならない存在じゃないかっ! 育郎 「おーい大和ー、昨日のS組女子がお前のこと呼んでるぞー。屋上来いってさー」 大和 「っと、来たか」 中井出「ならばこの博光も《がしぃ!》やだぁーーーーーっ!!!」 クリス「敵前逃亡は見苦しいぞ! 男だろう!」 中井出「僕差別が嫌いな両生類だもん!     穏やかな学園生活が大好きなだけの善良一市民だもん!」 クリス「……本当に戦いたくないのか?」 一子 「ふっ……甘いわねクリ。     これはクリを油断させるこーしょーじゅちゅとかゆーものよ!」 クリス「───! 既に戦いは始まっているということか!     危うく騙されるところだった……!!」 中井出「助けてぇえええええーーーーーーーっ!!!」  このお子めら自分らで勝手に誤解していく!  助けてみんな! 助けて僕のファミリー! 翔一 「ようっし大和VS冬馬だ! 賭けたいやつは俺に言えー!」 岳人 「大和に一口!」 卓也 「じゃあ僕は冬馬で」 岳人 「じゃあってなんだよじゃあって!」 京  「私もトーマで」 大和 「むっ……負けられんなこれは」 中井出「アレェ無視!? まさかの京までスルー!?」 京  (……迫りすぎるのがダメなら引いてみる。そして涙目なあなたが好き) 中井出「……成長したなぁ京。お兄さん嬉しいよ《ホロリ》」 京  (ま……まさかの無反応……! むしろ感涙された……!) 中井出「?」  なんだか京がず〜んとした空気を背負って歩いていきなすった。  そしてやっぱり助けてくれないらしい。つーかガクトが逃げた。  ちくしょうあの野郎、今度トゥシューズに画鋲入れてロッカーに詰め込んでやる。  ワケの解らぬ状況に戸惑うがよいわ! ……。  どどんっ!! 鉄心 「おぬしも飽きんのぅ……」 中井出「そう思うんなら了承すんなよぉお……!」  さて。あっさり学長権限で了承された決闘です。  グラウンドに出て双方名乗りなさいってんで、現在川爺の前でワン子と二人、クリスと向き合ってるわけだ。 中井出「2年F組! 中井出博光である! 武器は己が拳!」 クリス「同じく2年F組! クリスティアーネ・フリードリヒ! 武器はレイピア!」 一子 「2年F組! 川神一子! 武器は薙刀!」 鉄心 「おぬしは見ておれっ」 一子 「うー」  ワン子が引きずられていった。 鉄心「よろしい! この決闘、ワシが見届けよう! 始めえいっ!」  川爺の声とともに勝負開始!  と同時にクリスが地を蹴り一気に迫る! 短期決戦か!  望むとこ《ドクンッ》───ろ……お、あ……? 中井出(あ……やば……! 妙なことに力使いすぎた所為で……)  視界がブレる。  なのにその視界にはクリスのレイピアが迫っていて───お、おお、分身レイピアか、やるなぁクリ《ザゴンッ!!》 ───……。  ……。 クリス「まったく無茶をするっ! なにを考えているんだお前は!」  保健室。  初めて入ったそこで、お手々にクヌソを塗られていた。ウソです、薬です。クスリ。 中井出「いやはや、まさかあそこで力が無くなるとは。博光うっかり」 クリス「だというのに自分に決闘を申し込むなど……!」 中井出「あら心配してくれるの? ありがとうねぇクリちゃん」 クリス「クリ言うな!」 中井出「《グリャアッ!》いたやあーーーーーーっ!!!」  決闘は……まあ、一応勝った。  勝ったには勝ったが、視界がブレてたからちと無茶しました。  突き出されたレイピアに向けてね、手を突き出したんです。  当たるか、風でも感じられれば何処にあるか明確に解るから。  で、見事に掌貫通してくれやがったそれを掴んで、驚いているクリスさんを……ええ、デンジャラスアーチでドカーンと。 一子 「………」 中井出「およ? どしたんワン子。勝ったんだから喜びなさい」 一子 「……だって。アタシが決闘決闘騒いだから……。     力が無くなるなんて思ってなくて……」 中井出「気にしないの。善き刺激になったわい。     見学者もあんま居なかったし、噂にゃならんでしょ。     まあ屋上での決闘が2−FVS2−Sなんてカードで、しかも大和と冬馬だ。     ほっほっほ、こげな平凡フェイスの男の決闘よりも、     よほどに見ごたえがあるであろうよ」 クリス「それは自分まで平凡に見られているという意味に聞こえるが」 中井出「ワオ! クリちゃんたらナルスィン!?」 クリス「な! 違う! それは聞き流せない誤解だぞ!」 中井出「ほれワン子、こっちゃこい。このお子ぶきっちょだから代わりに手当てして」 クリス「失礼なやつだなお前は! 人がせっかく」 中井出「《ブシュッ》…………ややっ!?」 クリス「へ? あ、うわっ!? さ、さささ刺さって───!?」 中井出「ギャアーーーーーーッ!!《ぶしーーーーっ!!》」  クリスが抗議しようと身を乗り出そうとした瞬間、ピンセットが消毒液を染みこませた脱脂綿ごと傷口にズボリとギャアアアアアアアアアアアッ!!!! 中井出「くっ……見事だ……!     こうやって敗北した恨みにじわじわと嬲り殺していくつもりなのだな……!?     汚いなさすが騎士道きたない……!」 クリス「それは誤解だ! 今のは体勢の問題もあってだな!     というかそもそもだな!     レプリカだろうと尖っているものに手を突き出すなどどうかしている!」 中井出「馬鹿め! この博光、伊達に死線を絶叫しながら命からがら涙流して叫びながらく     ぐりぬけようとしてコケて潰されてボコボコにされながら生き延びちゃいない!!     こんな方法で勝つことなどチャメシゴトよ!!」 クリス「困難すぎるだろお前の人生!!」 中井出「そう……これは縮図。人々が生きてゆく人生を纏めた、まるで縮図……!」 クリス「縮図どころか長すぎだろう……」 中井出「あれ? 縮図の逆ってなに?」 クリス「…………治療を続けよう」 中井出「え? あ、はい。…………?」  なんだっけ? わかんないや。  まあともかくしょんぼりしているワン子を手招きして、頭を撫でた。  心を込めて。 一子「…………《こくり》」  その心をきちんと受け取ってくれたのか、ワン子は素直に頷いてくれた。  うむ。  ではあとは大和と冬馬だけど───まあ、昼休みも終わる。  放課後に持ち越しってところか。 …………。  さて、そんなわけで放課後の屋上なわけだ───が。 中井出「《グギギギギ……》オゴゴ〜〜〜……」 百代 「お前ぇえ……! 私以外のヤツに傷つけられるなんて何考えてるんだぁあ……!」  僕は大絶賛、モモちゃんに首を絞められておりました。  見物人がたくさん居る中で、まあ中っつーか脇で、首絞められてるわけですよ。  他の人から見れば、生意気な馬鹿者がモモさんにナマ言ったとかそんな感じに受け取られていることでしょう。うん僕上級生にシメられてる。いろんな意味で。 百代 「早く治せ! 早く!」 中井出「げっほごほっ……! 無茶言わんといてくださいよ! 今力が無いから無理なの!     つーかなんでキミがそんな怒ってんのさ!」 百代 「なんだか知んないけどむかつくんだっ! 早く治せっ!」  ンマアアアこのお子ったらなんと我が儘な!  でも無理なもんは無理。  これ以上別に回したら存在率に関わるかもしれん。 百代 「ゔ〜……なにか代価になるものとかないのか!?     それを飲めば一発回復とか!」 中井出「そんなもんあったらマナなんて必要ねーでしょうが。あ、でも……」 百代 「なんだ!?」 中井出「おいモモ、午後茶買って来い」 百代 「午後茶だな!? 待ってろ!!」 中井出「あれぇ!?」  言うや、モモはパァーンと屋上のフェンスを飛び越えて地面に降り立ち、走っていってしまった。  あ、あの……僕ただ、“私はパシリかー!”とかそーゆーツッコミが欲しかっただけで……あ、あの………………ヤベェェェェェ!! 中井出「あ、あうあっ、ヒアッ……!!」 岳人 「んお? どしたーヒロー。ヘンな声出して」 中井出「あぁガクト! てめぇガクト! さっきはよくも人を見捨てて!     いやそんなことはいい! そんなガクトにお願いが!」 岳人 「う……さっきの手前、断りづらいぜ……。まあいい、聞くだけ聞いてやる」  聞く姿勢を取ってくれたガクトに理不尽な感謝を抱きつつも、僕は話した。  彼女……川神学園の覇者、川神百代にパシリをさせてしまったことを───! 中井出「そんなわけで影武者になってくれ」 岳人 「死ぬわ!!」  そして、このソウルシャウトである。 岳人 「つかなんでそんな状況になってんだよ!     いやそれより近付くんじゃねぇ巻き込まれて死ぬのはごめんだ!」 中井出「ぼぼぼ僕たち友達だろ!?」 岳人 「友達ならまずこんなことに巻き込まねぇだろ! 大体ぎひぃっ!?」 中井出「? ガクト?」  どしたのかな。なんかヘンな声出して硬直してしまった。  ……ハッ!? もしやこの博光のあまりの情けなさに同情してくれた!?  ならばもう一押しだね! そしたら地獄への道連れに《つんつん》誰!? 今忙しいからあとに《つんつんつん》だから誰!? 僕今からこのマッスルを説得しなきゃ───……ア…… 百代「買ってきたぞっ、午後茶だっ♪」  …………サヨナラ神様。  僕には……振り向いた先の笑顔が……眩しすぎたんだ……。  眩しすぎたから─── 中井出「嘘じゃ《バゴルチャアアア!!》ヘゴルギャアアアアアア!!!」  たとえ殴られると知っても、受け止めるのが人の道。  ふざけるならば対価を払おう。それが体を張ってふざけるという道。  我が放課後に───一片の悔い無し!! …………。  しゅうう…… 中井出「グビグビ……」 卓也 「うわー……顔がひどいことに……」 百代 「まったく、心配してやったってのにこの馬鹿は」 一子 「で、結局大和とトーマ、どっちが勝ったの?」 小雪 「トーマだよー。頭脳戦では一歩先を行ったねー」 大和 「地味に悔しいな。今度またなにかで勝負だ」 冬馬 「ええ。大和くんのお誘いならば、喜んで」  クリスとまゆっちが用があるとかで居ない、ファミリーとの帰路。  顔面をデコボコにした俺が、モモに担がれていた。  力が無いだけでこうも一方的だ。やっぱ弱いね僕。  でもそんな自分が大好きだ。 中井出「ちくしょう人が弱ってるところに……。     おぼえてろよモモてめぇ午後茶美味かったぞ……」 百代 「さりげなくじゃなくてもっと盛大に感謝しろよ……」 中井出「ありがとうモモ! そして下ろしてください!?     キミ体重かけづらいから負ぶさるのも気ぃ使う!」 百代 「んん? 失礼だな。     私に負ぶってもらえるヤツなんて世界広しといえど、何人居るか」 中井出「大和なら余裕っしょ。じゃなくて、僕がコマルノデス」  あ、これユキッ! 腰をゾスゾス突くのはやめなさい! 痛くすぐったいでしょう! 百代 「だから。なんで。遠慮なくどどーんと体を預けてみろ、お姉さんに」 中井出「や、だからさ。その。胸デケーから体重かけると触っちゃうじゃない」 岳人 「モモ先輩! 俺様負ぶさり《メゴシャア》ぶぅううるぇっ!!」  電光石火で殴られたマッチョが居た。  まあすぐ復活するだろう。 百代 「ほほーう? お姉さんの胸に興味津々か」 中井出「いえとりたてては」 卓也 「即答で返した!?」 百代 「お前ほんとに男か……? それとも控えめな女がいいのか」 中井出「愚かな……好きになれば全てを愛する。それが人。     大きい小さいではない。好きになるかどうかである」 百代 「ム……好きだぞ」 中井出「家族で」 百代 「うー……! つまらないぞー! さっさと慣れるなよー!!」 中井出「ほほっ、負け犬が吠えておるでおじゃ《ゴチュッ!》オジェーーーイ!!」  後頭部頭突きされた。見事に鼻にヒットだ……おお痛い。  でも大丈夫、痛いのには慣れてる。痛いけど。 中井出「とにかく下ろしなさい! 下ろすのです!」 京  「あなた……あなたの子供よ」 中井出「でかした。将来立派な透明人間になりましょう」 京  「勢いで下ろすのですと言わなかったあなたの愛が大好きです……!」 中井出「家族で」  ともかく下ろしてもらった……んだが、おおう、やっぱフラつくね。足にきてる。 中井出「グ、グウウ……! 眩暈なぞどれくらいぶりか……! モモ、キミ強く殴りすぎ」 百代 「むー……ステータス移動とかでなんとかならないのか?」 中井出「ダメージ受けてるのに防御とか上げても意味ないのと一緒なのさ。     に、してもこれほどとは……なるほど、     あぁいたたたた……こりゃ普通の人じゃあ耐えられんわ」  ふらつきます。  しかし歩きましょう。また負ぶってもらうのも悪いし。 大和 「膝が笑ってるな」 中井出「笑止!《ビシィッ!》」 大和 「震えが止まった!?」 中井出「いえ、笑えない冗談を言えば、笑ってる膝も落ち着くかと《ガタタタタ……!》」 大和 「どんだけおかしさに命燃やしてるんだよお前」  いやぁ大爆笑。この膝め、なにがそんなにおかしいのか。  しかしどんだけ。どんだけかぁ……ふうむ。 中井出「生涯だ。俺は我が存在をかけ、人を楽しませるに尽くす生を往く。     是即ち尽生。人生ってのは俺の全てだ。     それを楽しいで埋め尽くす。出来うる限り」 大和 「……そりゃ、大変そうだな」 中井出「夢はおっきくでしょ? だから俺は書くぞ。進路希望は“道化”だ!!」  かつてはドナルドになりたいと書いて、ちなみちゃんに泣きながらダメ出しくらった男……こんにちは、中井出博光です。  そういやちなみちゃんどうしたのかな。いい旦那さん、見つけられたんかな。  今となってはもう解らん。  ……とまあそれはそれとして。 京  「道化……素敵な夢……!」 中井出「修正液とペンを用意するのはやめなさい。それとキミは部活でしょう」 京  「こんなところまで連れてきておいて、ひどいっ……!」 中井出「頑張れ。頑張ってるお前の顔、俺は好きだぞ」 京  「部活に行ってくる《ゴシャーーーアーーーーッ!!》」 岳人 「速ぇえーーーーーーっ!!!」  風のようにすっ飛んでいった。  それにハンケチーフを揺らして見送ったんだが、やっぱりフラつく。  いつの間にか復活していたガクトがとすっと支えてくれたお陰で、倒れなくて済んだ。 岳人 「…………おお、ヒロって結構筋肉あるのな」 中井出「フッ……知らぬ間に精霊王に鍛えさせられていた、筋肉痛地獄の果ての筋肉だ。     ……なんか知らんけど無駄の無い極上の筋肉状態だーって言ってたけどね」 一子 「!《ピョコッ》」  あ、なんかワン子が反応した。耳が立ってる。  近付いてきて、じろじろと僕のボデーを見てくる。  ……あの。匂いなんて嗅いでも、筋肉の状態は解らんよ? 一子 「これが極上の……!」 中井出「ワン子、どうかした?」 一子 「…………アタシもその鍛錬、受けられない?」 中井出「鍛錬っつーかね。     見て解ったと思うけど、人器の副作用でなったようなもんだから。     たとえその筋肉痛の分だけ送ったとしても、     動けていない分、固まった筋肉になる。それはワン子の機動力を殺すものです」 一子 「うぅ……」 中井出「はいはい暗く考えない。やると言ったからにはレッツゴーだ。     つーわけでモモ、試験は一ヵ月後あたりでいい?」 百代 「…………ああ。じじいに伝えておこう。ワン子もそれでいいな?」 一子 「はいっ!」  モモの目を真っ直ぐに見て、元気に返した。  うむうむ、やはりワン子はこうでなくては。  “納得”は必要だろうけど、出来れば師範代兼管理栄養士になってもらいたいもんだ。 中井出「つーわけで肩を貸してください」 一子 「あ、お安いご用だわっ!」 京  「ここに《スチャーン!》」 中井出「おおうっ!?」  ワン子が肩を貸そうとしたところに京が滑り込んできた。  そして反対側にはすかさずユキが。 中井出「っておいィ!? お前部活は!?」 京  「窓ガラスが割られてたとかで3年や顧問が片付けに回されて中止。     ということで駆けつけたあなたの妻です」 中井出「家族で」 百代 「おいおいヒロ〜? それだと結局胸に当たるんじゃないかぁ?」 中井出「フッ、甘いわ。この博光は肩をと言ったのだ。     よって肩を掴めば問題な───ちょ、京さん!?     なに無理矢理引っ張って胸触らせようとしてるの!? やめてよ!     今抵抗できるほど五体満足じゃないんだから───あ、うそ! 嘘ですよ!?     だからやめて腕引っ張らないでぇええ!!     やめめやめやめ《ゴキンッ!》ウギャアアアアアーーーーーーッ!!!」 卓也 「うわぁ腕いったぁーーーっ!!」 準  「生々しい音が響いたぞおいぃ……!」  腕っ……僕の右腕がっ……肘関節から先がゴギンッて!!  ゴゴゴッゴゴゴゴゴキゴキキゴキキンッてギャアーーーーーッ!! 小雪 「おおー……! ヒロミツの腕伸びた……! 僕もやるー♪」 中井出「エェエ!!? いやちょ待ママママなに聞いてたのさっきの絶叫聞いたでしょ!?     ややややめなさいヒィやめて許してギャヤヤヤヤァーーーーーーッ!!!     《ボグッ!》ギャオアアァアーーーーーーッ!!!!《……ガクッ》」 京  「あ……博光の手が私の胸に……」 小雪 「? こうすればいいの? もにもに〜」 岳人 「おおうっ……なんと羨まし───…………すまん」 卓也 「ガクトが謝った!? ……って、うわ……ヒロ、気絶してる……」 岳人 「いくら両手に花でも胸触れても、気絶してるんじゃ意味ねぇよな……」 準  「人はこうして大人になっていくんだなぁ……」  夕日が綺麗なその日。  僕は久しぶりに誰かに追われる夢を見ました。  こういう夢見ると、いろいろと切羽詰った気分が蓄積されてるんだっけ?  もはやそげなことも覚えておらぬが、ともかくよろしくない夢でした。 ……。  モキモキモキモキ……!! 中井出「FUUUUUUUUUM……! やはり自宅はいい……!」  マナと癒しが我が体を癒してゆく。回路という回路にマナが通っていくのを感じる。  ああ、暖かい。  孤独の冷たさは知っていても、この木々の暖かさだけは変わらない。  ありがたいことだ。 中井出「さてワン子さん」 一子 「うんっ! なになにっ!? まずなにするのっ!? 修行!? 鍛錬!?」  同じじゃないですか?  いや、お野暮はおよしだね。 中井出「まず“冷静”になる特訓をしてもらおう。     心にいつでも氷の心。バトル中は熱くなっちゃだめ。いいね?」 一子 「ん……よく解らないけど、うん。ヒロの言う通りにする」 中井出「ありゃま……」 京  「いつの間にそんなに手なずけたのっ……!?」 中井出「はーいはいはい京さん?     そんな嫉妬する若奥様みたいに柱の後ろに隠れてないで。     ───お前が必要だ。頼む」 京  「私もあなたが必要っ……!」 中井出「家族で」 京  「普通ここまで焦らしたらもう誰かに刺されてる。     一途な私に感謝があってもいいくらい」 中井出「感謝? してるけど……あれ? 足らない? じゃあ失礼」  ワン子の頭をひと撫で。  京の前までを歩くと、その体をぎゅっと抱き締めてマナを解放する。 京  「え? え?」 中井出「……ありがとう」 京  「───!!」  なんでもない、いつものとも言える行動。  だけど、解放したマナが暗くなってゆく景色に緑色の粒子を飛ばし、それらひとつひとつに感謝の“想い”を込め、京に贈った。  それらの粒子が京に触れるたびに俺のありがとうが彼女に届き、その度に癒される京は───とすんと、腰を抜かしたように座り込み、顔を真っ赤にさせていた。 中井出「……足らない?」 京  「……《ふるふる》……ごめんなさい。十分……すぎる……」  座り込んだまま、両手で自分の体を抱くようにして微笑んだ。  なんと幸せそうな笑顔でしょう……ほんに、いっつもツンとしてないでこんな笑顔をしておればよいのに。 小雪 「───」 中井出「───」  で、じーっとこっちを見ている、京の真似をして柱の影に隠れておるお子がそこに。  真似をすれば同じことをしてもらえると思っておるのでしょうか。  ……“想い”を使うの、結構しんどいんだけどなぁ。 中井出「……まぁ」  幸いにもまだ粒子は飛んでる。  『呼んだ?』なんて囁くような小さな声で語りかけてきてくれる。  今は思いを届けて頑張ってもらおうか。  俺は家族が大好きだーって、伝えてもらうために。 中井出「よぅしワン子、お前も来いっ! 鍛錬はそのあとだっ!」 一子 「なにするのっ!? なになにっ!?」 中井出「ほっほっほ、元気じゃのうワン子は。ではそんなワン子に、     もっと元気の出るおまじないをしてあげよう、の」 一子 「その喋り方、麻呂っぽくてキライ」 中井出「ごめんなさい」  そんなわけでハグしました。  この場でなら問題なく能力は使える……ものの、無茶すれば枯渇も有り得るのでほどほどでやめましょうね。  さて、こっから一ヶ月、ワン子を鍛えましょう。  幸いにして京もユキも居るんだ、対戦相手には事欠かない。  温泉完備でリラックスも出来る! さらに疲れてもすぐ癒される! 最強!  グフフフフモモめぇええ……必ず吠え面かかせてやるけぇのぉお……!!  あ、はい。そういうことで明日は水曜日。祝日ですからのんびり休めます。 Next Menu Back