【プロローグ15】

 ミギシシシシシィイ……!!

一子「あうあうあうあうあぁああ……」

 先生、ここにポンコツ人間がおる。
 というわけでハイ、明けて翌日、土曜で休みの五月二日が来たよ。
 人器が切れると同時に鍛錬も終わり、超筋肉痛を初めて味わったワン子はそれはもう絶叫した。その声に駆けつけたファミリーに介抱してもらったが、そればっかりは癒すのにマナを随分と使うため、自力でとオススメする。
 風呂にはモモが入れてくれて、食事も京が手伝い、着替えは今までの教えの賜物が生きて、ユキがやってくれた。
 それで日を跨いでも、まだまだミシミシと体を軋ませるワン子が居た。

中井出「よぅしでは柔軟だ! 崩れた筋肉組織を柔らかく再構築して、
    さらに強度を上げるためにいろいろやってくぞー!」
一子 「《キッ》おうっ!」

 しかし鍛錬となるや目はキリッとして、言われたことはなんでもこなす。
 ……ほんに、いつか悪い虫がつかんか心配ですよお兄さんは。
 そんなわけでググーっと柔軟を。すると即座に響くワン子の絶叫!!

一子 「ギャーーーーーッ!! いたいいたいいたいーーーっ!!」
中井出「我慢なさい! 柔軟しないとひでぇことになるよ!?
    我が中井出邸で過ごすということは、常にマナと癒しに包まれているということ!
    つまり壊れた箇所はどんどんと癒されていくのだから、
    伸ばしておかねばかなり固まる!
    せっかく鍛えた筋肉繊維がガチガチの邪魔者にしかならなくなるのだ!」
一子 「あうぅう……それは、わ、解ってるけどぉぉお……」

 ともかく柔軟!
 それが終わると再びマットに寝かせ、不純物の分析をして吸い出し、マッサージをする。
 そうするだけでもワン子の体は熱くなり、癒しやマナがそれを促進させる。
 普通なら三日以上はかかるであろう超回復が助けられ、その結果として熱が出ている。
 ちらりと見れば、マットに寝ているワン子はエネルギーを消費しすぎた所為かぐったりとしていた───ので栄養水とカロリーメイツを進呈。
 サクッと食べればモシャアと立ち上る湯気! 湯気! 湯気!
 でも熱くなりすぎて血液が固まるといかんので、適温になるようにと冷気を送る。
 送りながらも、ぐったりしているワン子を起こして体をほぐしてゆく。
 強制ストレッチですね。

一子 「うう……ごめんね、ヒロ……」
中井出「気にしなさんな。さすがにこればっかりは根性論ではどうにもならん」

 何度も味わった僕が太鼓判を押します。
 超筋肉痛だけは、誰もが耐えられん。

……。

 しばらくするとワン子は寝てしまった。
 今日は旅行のための準備をする筈だったんだが、まあしょうがない。
 なのでせめて癒し効果を促進させるために、ホギっちゃんにとっては苦い思い出、エッグ型の癒しアイテムを創造。ワン子の傍に置くと、そこからモシャアアアアと放たれる霧がワン子を包み、癒してゆく。

中井出「うむよし、ではこの博光も準備を始めるとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 ぐぅっと伸びをして行動開始!
 まずは日常で使うものは必須だね。歯ブラシ歯磨き粉、その他もろもろ。
 着替えはまあ……いろいろと“装備”があるからどうとでもなるし。
 食料は現地調達だなっ! 川とか山があるならサヴァーーイ!!
 山篭りチックでワン子が喜びそう───ハッ!? なんか最近ワン子に構いっきりな気がするワ僕!

中井出「…………《ちらり》」
京  「…………《じー……》」

 見てる……つーか見てた。
 や、やりおるわ京……! この博光に気づかれずに存在しておったとは……!

中井出「よ、よーし一緒に旅行の準備でもするか京っ」
京  「新婚旅行は熱海がいい《ぽっ》」
中井出「結婚すらすっ飛ばして何処に行きたいんだキミは」
京  「博光と一緒なら何処へだって行きたい。
    むしろファミリー全員で永遠を過ごしたいとさえ思ってる。
    ……でもそれは勝手だよね。だからせめて私は一緒に居たいよ」
中井出「京……」
京  「たぶん、博光が居ない歴史では私は父さんに引き取られた。
    離婚はどの歴史でも確定。それはそれでいいって思ってる。
    誰が私を助けてくれるのか、助けてくれないのかは別としても、
    この歴史の私は博光無しでは立ち直れなかったから。それはユキも一緒」
中井出「むう……一番いいのは、俺がこの世界に残れることなんだけどね」
京  「無理なんだよね?」
中井出「うん」

 “うむ”ではなく“うん”で返した。
 覆せないことって、どうしようもなくあるんだよね。悔しい。
 
中井出「まあ、それはいつかどうにかしよう。今は旅行の準備だ!
    金柳街に行っていろいろ揃えよう!」
京  「デートのお誘い?」
中井出「や、結局のところこの博光、まともなデートってしたことないんだよね。
    だからこれがデートなのかを俺は知らん」
京  「デートだね《きっぱり》」
中井出「そ、そうなん?」

 そうか……おなごと二人で街に出かけるのってデートなんか。

京 (博光の初めてをいただける……なんであれ初めてはなんだか蜜の味。10点)

 ……なにやら京が頬を染めまくってじゅるりじゅるりと唾液を飲んでらっしゃるんだが。
 デートってそんなもんなの?

京  「ハア、ハア……! ま、待ち合わせは10時、金柳街入り口前で……!」
中井出「なんでそんなに息遣い荒いの!?
    つーかどうせ一緒の場所から出るんだし、一緒に行けばいいじゃん!」
京  「デートとはそういうものらしい。待ち合わせることに意味がある。
    男も女もどちらが遅れようが、今来たところだからと返すのが鉄則」
中井出「そ、そうなんか」
京  「そうなん」

 こくこく頷く京を前に、僕は心のメモにそのことを書いて記憶した。
 チェックだチェックゥ、とばかりに。

京  「あと、基本誰に見つかっても同行を許してはいけない」
中井出「マジでか。レベル高ぇなオイ」

 さらに書く。
 ううむ、“出餌屠(でえと)”とは恐ろしいものであるな……!

京  「無理にでもついてくる人が居る場合、あらゆる手段を使ってでも一人で来ること」
中井出「あらゆる手段か……それは腕が鳴るな」
京  「そのために遅れた時は、なんとなく察しているからこそ今来たところと返す」
中井出「な、なるほど、繋がった」

 奥が深ぇな出餌屠。

中井出「よし、じゃあ早速出餌屠とやらを体感してみよう。
    10時は……そろそろだな。
    モモも川神院での稽古が終わる頃だろうし、気配殺していかねば」
京  「ナイス判断。そして好き」
中井出「家族で」

 今日も一日が始まります。


───……。


 ズチャッ……

???「FUUUUM……」

 知人にバレないようにと歩きました。
 変装って大事だね。
 なのに何故か視線を欲しいままにしている気がしてならない。
 やっぱり偉大な人に化けすぎた?
 というわけで金柳街前までやってきたわけなんだが………………オリバ姿で。

通行人1 「お、おい見てみろあれ……! オリバだろ、絶対オリバだろ……!」
通行人2 「え? スェルジオ=オリバー? マジ?」
通行人3 「み、見ろっ! 視線が集まってるのを確認した途端に、
      これみよがしの逆三角形を作り出した!」
通行人4 「柔能く剛を制すどころではないっ……!
      これは剛こそ柔を制すという、技術者への強烈なアンチテーゼ……!」
通行人5 「怪力無双……間近で見ると物凄い迫力だ……!」
通行人6 「胸が……まるでケツだ……」
通行人7 「腕が……頭よりもデカい……」
通行人8 「大体技が通用するのか……?」
通行人全員(というか……どうしてトランクス一丁なんだろう……)

 視線を感じる。
 やはりビスケット=オリバは偉大であるな。
 さて、ここで待っていればじきに京も来るであろう。
 それまではこうして待って───

ポリス「貴様かぁあっ! ここらをうろつくトランクス一丁の変態というのはぁぁあっ!」
オリバ「ゲェエーーーーッ!!!」

 早速ポリスに通報されたらしい!
 やべぇ! 捕まったら出餌屠どころじゃあ……ねぇぜっ!!
 だが待て!? 思い出すンだッッ!! 京はこう言っていたじゃアないかッッ!!

  あらゆる手段を使ってでも一人で来ること

 そう! そう言ってたネ! 今がその時!!
 なので言ったね! 駆けつけたポリスに!

オリバ「格好つけんでよろしい。お前さんは私に敵さんの情報をくれるだけでいい」
ポリス「なにが!?」

 駆けつけたポリスは、それはもう驚いておりました。
 そして何やらギャースカと騒ぎ、この怪力無双を連行しようとしたが、ここに用があるこの怪力無双が動くわけもなし。
 手錠を取り出したがサイズが合わず、やはり騒ぐので───張り倒した。


【SIDE】  その頃の川神院。 ルー「今日はまた、随分と張り切っていたネ、百代」 百代「ルー師範代」 ルー「一ヵ月後に一子に試験を与えるそうじゃないカ。そのための準備カ?」 百代「補佐に回っているヤツが厄介でして。そいつがワン子についたとなれば、    一ヵ月後のワン子は確実に最高の状態になっています。    ……ワン子の夢が私の好敵手や、川神院の師範代になって私を支えること───    そうだとしても、才能が無いままではどちらも叶わない」 ルー「それを……姉自らが断ち切るつもりかネ」 百代「今のままではどれだけ鍛錬しても、私に一撃さえ与えられないと踏んでいます。    ただし───人が出せる全力を本当に引き出せたなら、    才能なんてものは一歩後ろを付いてくるものなのだと、私はある日に知りました」 ルー「才能が……一歩後ろを? 面白いことを言うなァ百代ハ」 百代「それを見せてくれた、才能が一つしかない男を知っています。    だからこそ、ワン子の全力、本気というものを受け止めて───」  拳が振るわれる。  正拳が風を穿ち、何にぶつかったわけでもないのにパンッと音を立てた。 百代「試験が成っても成らなくても、私はワン子を受け入れます。    願う通りに管理栄養士になるも、師範代になるも、    その両方であろうと、その両方でなかろうと」 ルー「……ナルホド。愛だネ。それも相当に不器用な愛だヨ」 百代「ワン子の“限界”を受け止めなければいけません。    確実に、最高の状態でくる。つまりそれがワン子の限界だから」  人が出せる限界を100%引き出せるバケモノが居る。  そして、それを使いこなすために必要な“努力”ってものの天才が居る。  相性は異様なまでにいいのだ。だから万全でなくてはならない。  負けるとは思っていない。だが、鍛えたからといって一撃を食らうとも思っていない。  そんな壁を軽々と越えられたのなら、それこそまだ才能など後から付いてくるものだと信じられる。  彼女はそんな思いを込め、もう一度拳を振るった。 ルー(確実に、最高のカ。人が出せる全力を本当に引き出せるのならネ、百代。    確実だの最高だのといった言葉なド、恐らく常識の外の言葉だヨ。    人体があるから人は人と呼ばれル。それを極限まで引き出せるのなラ、    “限界”なんて言葉は、それこそ必要ではないのだヨ)  ルーは正拳を繰り返す百代を見ながら小さく息を吐いた。  「ホントにそんなものを引き出せるのならネ」と呟いて。 ルー「それはそうと百代。さっき面白いことを耳にしてネ。    話し掛けたのは元々そのことを言うつもりだったんダ」 百代「面白いこと?」 ルー「商店街……金柳街のほうでビスケット=オリバと名乗る怪力無双が、    なんでも警察相手に暴れまわったらしいんダ。    終いには麻酔銃での狙撃までされたらしいんだけれどネ、    筋肉に弾かれて刺さりもしないとくル」 百代「………」  一瞬にしてオリバの正体を察した百代は硬直した。  まさか知人ですとも言えるはずもなく。 百代「それで、そいつは?」 ルー「まだドンパチやってるヨー? そこで百代に頼みたイ。    なんでも旅行の準備をするとかデ、金柳街に行くそうじゃないカ」 百代「……なりきってるアイツと戦うのはどうもなあ……」 ルー「うン? なにか言ったネ?」 百代「いえ。まあ……強ければ退屈凌ぎにはなるか。    よしっ! というわけで報酬はっ!?」 ルー「現金ネ〜百代……上食券5枚でどウ?」 百代「少ない! せめて50枚!」 ルー「それはボリすぎヨ!! ついでってことだから百代に頼んだんであっテ、    必ずしも百代が行かなきゃいけない理由はないからネ!?」 百代「いや……師範代はアイツの馬鹿っぽさを知らないから……」 ルー「? なにか言ったネ?」 百代「いえ何も。じゃあせめて10枚で」 ルー「……も少し安くならないネ?」 百代「なりません」 ルー「トホホ……仕方ないネ、ワタシもこれから門下生を見なければならなイ」  交渉は成立した。  しかし百代は「どうしたもんかなぁ……」と呟き、その場をあとにする。  強者と戦うのは望むところなのだが、なりきり状態の彼はいろいろと性質が悪いことを知っているからだ。それはもう夜の校舎で体感済みだ。  そして結論が出た。全力で潰そう。それしかない。
 パァンッ! コインッ─── ポリス「弾丸を弾いた!?」 オリバ「銃が小さすぎるぜ……なぁジェフ」  もはや金柳街前は戦場でござった。  つーかね、ただ待ってただけなのになんで銃まで撃たれるのか。  や、そりゃあ最初にポリスをブッ叩いて気絶させたよ?  でもそれだってただ立ってただけなのに、急に手錠なんてかけてくるから。  つまり……正当防衛!! そしてこのオリバは地上最自由!  もはや何人たりとも私を縛ることはできぬゥウウ!! 声  「うえ……ほんとにオリバだよ」 オリバ「ンー……?」  と、逆三角形ポージングをしていると、背後から声。  振り向いてみれば、胸の下で腕を組みながらトホーと息を吐くモモ。 百代 「たしかこいつ、守護竜とかを片手で振り回してたんだよな……。     攻撃くらっても傷ひとつ付かないで、平気な顔して……」 オリバ「………」 百代 「……自分のレベルを試すには、いい機会かもしれないな」 オリバ「………」 百代 「……? お、おいおい? 無反応か?     お前をなんとかするようにって連絡受けて来たんだぞ私は」 オリバ「………」  基本、誰に見つかっても同行を許してはいけない。  そんな鉄則が出餌屠にはあったというのに、合流地点への到着を許してしまった。  これはもはや出餌屠どころの騒ぎではないッッ!! オリバ「遠路はるばるようこそおいでなすった、川神百代。オリバだ」 百代 「いや……お前ヒロだろ?」 オリバ「どうやら私に挑みたいようだが……生憎とここは商店街だ。     こんな場所でドンパチやらかしては民に迷惑だろう?」 百代 「既にドンパチやってるだろお前……ていうか聞けよ」 オリバ「それは誤解というモノダ。私はここに立っていただけにすぎない。     アンチェインの名に恥じぬよう、縛られぬ自由な格好で……!」 百代 「自由すぎだろおいー…!」 オリバ「そんなわけなので場所を移そうじゃないか……なあジェフ」 百代 「誰だよ」  大丈夫、遅れても今来たところだからを使えばいいのだ。  なのでズチャッ……と妙な音を立てて移動を開始した。 ───……。  そんなわけで。 中井出「シンバルがやられた……!」 京  「いきなりなに?」  ドッペル先生をオリバにして、モモとともに向かわせたあとのこと。  やってきた京に今来たところサ!と返したはいいんだが、ドッペル先生がまさかの敗北!  馬鹿な……ヤツはこのヒロミツ大魔王の影なのだぞ……! それをこの短時間で……!  ええまあその、モモが来る前にドッペルは作っておいて、やってきた京ととっとと合流を果たした僕は、こうして京と買い物してたわけなんだけどサ。 中井出「う、うーむ。何発かもらったら消される能力とはいえ、こうも早いとは」 京  「?」 中井出「いやいやなんでもないや。さぁて準備だ準備。京はなに買っていく?」 京  「精力増強───」 中井出「はい却下。京、シモーヌ(シモ的なこと)は忘れて女の子なものを買いなさい」 京  「ある意味とっても女の子《ぽっ》」 中井出「攻め手ばっか考えてないで退くことも考えなさいと言っておろうに……」  溜め息を吐きながら持っていくものを漁る。  創造すればいくらでもーとは思うものの、こういうのって買う時がわくわくするものだからね、創造でその喜びは得られんです。 中井出「そういえばユキは?」 京  「トーマと準に任せてきた。代償は高くついたけど」 中井出「代償って?」 京  「次にユキが博光となにかをする際、決して邪魔しない契約」 中井出「…………」  自分の知らないところで、自分の自由が販売されている気分でした。  女の子(めのこ)
って怖いワ。 中井出「持って行く歯ブラシは───普段は太陽星ガムを使ってたから、     まあそれでいいかもだけど、ここは栗スマイルでいこう。     栗がニカッと笑っているシンボルが実にいい。     歯磨き粉はいつもコレ、純粋オーラ・ナノ!」 京  「博光、それ好きだよね。私も使わせてもらってるけど」 中井出「うむ。なんか落ち着くんだよね。磨いた〜って気になる。     ていうかね、俺の歯ブラシってなんでか磨耗が激しいんだよね。     同じ時期に買った京とユキのは全然新品っぽいのに。     やっぱ使い方が荒いのかなぁ……気をつけてるつもりなのに」 京  「…………《ぽっ》」  なんか京が頬を赤らめてた気がしたけど、割りといつものことだから気にしないでいた。  それより買い物を続けよう。  えーと、こだわるならやっぱりシャンプーとかも自分で持っていきたいよね。  ボディスポンジとかも、どうせならタオルも。  浴衣も自分で用意してみようか。 中井出「おや。リスのタオルだ。なんかモモあたりが喜びそう」 京  「モモ先輩、リスT好きだもんね」  リスT。リスプリントのTシャツである。  モモはそれが好きで、夏にはよく着ていたりする。ヘソ出して。  去年の夏、新しいリスTを手に入れたーとかでヘソ出しルックで現れたモモに対して、僕は“中国4000年”と言いつつ人差し指を掲げ、その後にゾスッとモモのヘソに突き刺した。ええ、半殺しにされました。  ただ刃牙vs烈海王の真似をしたかっただけなんだけどね。 中井出「京はどれにする? せっかくだしおにーさんが買ってあげよう」 京  「パパぁん、京、あれが欲しぃ〜ぃ」 中井出「さよなら京」 京  「ちょっとした冗談。それよりもあれがいい」  京が指差したのは、薄紫色のタオルだった。 中井出「これでいいのか? つーか歯ブラシも俺と一緒のやつでいいのかね?」 京  「ペア歯ブラシ。なんだかステキ」 中井出「ぬう……なんだかむず痒い」 京  「照れてる?」 中井出「てれっ!? ててれてて照れてませんよ!? 何を言うのかねこのお子は!」 京  (……隙を見て取り替えて、博光が使ったのをじっくりと味わう……じゅるり) 中井出「《ぞくぅっ!》ひぃ!? な、なに!? なにやら今、喩えようのない寒気が!     ていうかあの、京さん?     何故僕のハードタイプ歯ブラシを、ソフトタイプに替えますか?」 京  「だって、とっても敏感でデリケートなところだから、ハードなんて痛いよ……」 中井出「お、おおお……この博光の歯茎をそんなに気遣って……!     よいお子だな京はっ! よっし何か食べていくかっ!」 京  「知識は持っていても純粋思考が基準な博光が好き」 中井出「オウ? なんか言った?」 京  「なんでもない」  む、む……? なんだか嫌な予感がするのに、漠然としていて解り辛いです。  まあいいや、旅行準備旅行準備〜♪ 中井出 「おや? ……おおヴァンプ将軍じゃないですか!」 ヴァンプ「え? あぁ博光くぅん、久しぶり。京ちゃんも相変わらずべったりみたいで」 京   「妻ですから。えっへん」  家庭用品コーナーでヴァンプ将軍を発見した。  珍しいな、こっちまで来てるなんて。 中井出 「今日は何かの用事ですか?」 ヴァンプ「そうなの。こっちで特売するって聞いたから、      自転車で張り切ってこっちまで来ちゃったの」 中井出 「じ、自転車でスカ。頑張りますね。      あ、それはそうと以前は美味しい漬け物の漬け方、ありがとうございました」 ヴァンプ「あぁそうそう、それ気になってたんだけど……どう? 上手くいった?」 中井出 「ええそりゃもちろん! 俺の中の漬け物の漬け方の歴史が変わりました!」 ヴァンプ「漬け物は基本にして大切な一品だからね、      力を入れてこそ食卓が輝くと思うの、私。      あ、それじゃあまだ行かなきゃいけないところがあるから」 中井出 「おっと、引き止めちゃってごめんなさいです。それじゃあ」 ヴァンプ「今度、何かのついででいいから基地まで食べにおいでね〜」  ヴァンプ将軍が手を振って去っていった。  うーむ、なんと話しやすい将軍であることか。 中井出「…………」 京  「………」 中井出「今さらだけど、一般人に食べに来いって……秘密にする気ないよね、絶対」 京  「秘密結社なのにね……フロシャイム」  言いながら、京が手に取った紫色のタオルを見る。  連想するのはヴァンプ将軍の着衣だった。 京  「ヴァンプ将軍が嫌ということは絶対にないけど、     それでもあれを見たあとだと抵抗が……」 中井出「解るから、替えたいなら替えなさい」 京  「うん」  しかし中々決まらないのがオトメゴコロというものなのか、京はあっちへうろうろこっちへうろうろしていた。  そしていつものようにこちらをちらりと見るわけだ。 中井出「……これにしなさい」  そう来るであろうことが読めていた俺は、既に取っておいた少し青がかった大きめのタオルをハイと渡す。  京もそう来ることを読んでいたのか、嬉しそうにそれを胸に抱いた。  よーするに俺が選んだならどーでもいいわけだ、こいつは。 京  「そんなことない。博光が選んだからこそ、私の肌に合うと確信が持てる。     映像を見たあとなら尚更に」 中井出「……照れるからやめなさい。そして心を読むな」 京  「少しの感謝で真っ赤なあなたが好き」 中井出「家族でお願いします」  こんな調子で買い物をした。  戻ってきたモモに気配で悟られないように、気配を殺しながら。 ───……。  黄金週間。ゴールデンウィークというものをご存知?  そう、旅行にはこのゴールデンヌウィークを利用して行く。ヌが入ってる意味はない。  その限られた時間の中、如何に旅行を楽しむかを僕らは話し合っていた。  場所は寝室。大きな布団を中心に僕らは円を作るように座っている。  中心の布団にはワン子が寝ております。 百代 「ヒロ。今すぐ外に出て戦え」 中井出「いやでごわす」 百代 「面白くなってきたところでドッペルゲンガーが破裂して、欲求不満なんだよー!     戦え戦え、たーたーかーえーよー!!」 大和 「おお、姉さんがジタバタしだした」 百代 「戦わないっていうなら基本的な挑発をしよう。……怖いのか?」 中井出「僕、基本的にヤクゥザにビビる一般人なので。     刻震竜よりヤクゥザが怖い……博光です」 百代 「む〜〜……」 中井出「あんま騒ぐでないヨ。ワン子まだ寝てるんだから」 百代 「……お前、ワン子相手だとやたらと過保護だよな」 中井出「才能無い者への一方的な共有感ってやつかねぇ。     でも努力家とそうしなかった者であって、僕とワン子は違います。     過保護っつーよりは、半端に目指すんじゃなく全力で夢に向かうヤツの果て。     そーゆーもんを是非見てみたいの」  ちなみにいつまでも外のマットで寝かせるわけにもいかんので、風呂に入らせたあとは布団で寝かせてあります。  過保護にもなりましょう? 応援はキライだが、見てみたい果てがあるのだから。 中井出「うじゃ、試験内容を確認していい?」 百代 「私に一撃当てればそれでいい。防御させるのでもいい。     とにかく私に一撃を当てること」 由紀江「一撃……それは、今の一子さんでは───」 百代 「平気で出来るようならこんな内容は出さんさ。私も本気でかかる」 クリス「あの“川神百代”の本気……なるほど、     たとえ一撃であろうと当てられるかどうか」 百代 「なんなら試してみるか? 望むところだぞ」 中井出「はいその言葉拾った。ブン殴ってやるから表出ろコノヤロー」 百代 「え゙っ……い、いや、今の話にお前は関係ないだろぉお……!」 中井出「というわけで欲求不満なモモちゃんを満足させてきますね。一方的に」 百代 「お、おいこらっ! ずるいぞそれは! 私にも殴らせろよー!」 中井出「ホホホやだ。なんなら貴様もこの博光に一発当ててみせんしゃい」 百代 「試験の真似事ってわけか……だったらそれこそ望むところだ!」  こうして……旅行の話もハンパに、僕とモモは庭へと出た。  そこで能力を解放した僕は、モモと思う存分バトった。 中井出「はっはっはっはっは! 当たらない! 当たらないなぁ水越ィイイイ!!」 百代 「くぁあああこンのちょこまかとぉおおっ!! こうなったら奥の手だっ!」 中井出「ぬう!?」  モモが接近! 顔が近付き、耳元まで顔を近づけると、「好きだぞ……」と吐息とともに甘く囁いた───!  途端に赤くなる僕の顔! そして一気に振るわれる拳! 中井出「見える!《シェェエイ!》」 百代 「なっ!? 避け《ゾス》うひゃひぃっ!?」  それをサッと避けて、伸びきったモモの脇腹に軽く貫手。  痛みともくすぐったさとも取れぬ微妙な感触に身を竦めた瞬間、僕は彼女を抱き締め、デンジャラスアーチで地面に沈めておりました。 中井出「フッ……愚かな。囮に使う告白なぞで、     京から熱烈な告白を受けまくっているこの博光が完全に動じるものか」 百代 「……一応少しは動じたんだな」 中井出「ほっといてよもう! ……とまあ、ワン子もこうなる確率が高いわけだが」  地面に倒れるモモを見下ろして言う。  モモは少し悲しそうな顔をしてから、俺に訊ねた。 百代 「ワン子はどうだ? いけそうか?」 中井出「お前も補佐はワン子がいいんだよな?」 百代 「当たり前だ。気心知れたワン子だ、     どれだけ他の誰が優れていようが、私はワン子がいい。     けどな、それが師範代試験というのなら話は別だ。手を抜くことは出来ない」 中井出「手を抜けなんて言わんよ。お前はお前の、ワン子相手の全力で戦いなさい。     どーせ川爺相手の時とは出す全力のレベルが違うでしょ?」 百代 「………」 中井出「俺も同じだ。だからな〜んも言わん」 百代 「……私は、ワン子がいい。補佐であり妹であり、傍で和ませてくれる者として。     おかしな話になるけどな、ヒロ。……一発当てられるようにしてくれ。     私は手を抜けない。それは姉だからとかどうとかの意見じゃなくて、     抜けばワン子の努力を侮辱することになるからだ」 中井出「解っちょーよ。     まったく、女の子はしないくせにお姉ちゃんはするんだからなぁモモは。     そういうところは大変好ましく思えます。10点」 百代 「じゃあ私のものになれっ!」 中井出「不意打ちが卑怯だとは思わないけど、     こと告白については卑怯だと認めたい。0点」  なので却下。  顔が熱くなるのを感じながら、それでも笑って空を見上げた。  涙は止まっている。でも赤の景色は変わらない。  感情も手にして、余計に赤くなった56億続くこの景色。  恐らくこれももう、破壊することは出来ないのだろう。  それでも笑顔でいられるこの世界には、せめて感謝し続けようと思っている。 中井出「とりあえず10秒ダウン制って今決めたからモモの負けね」 百代 「今決めたなら今から10秒だろ!」 中井出「じゃあ……グラビティ」 百代 「今すぐ起きればまだ《ずぅっしぃいい!!》ぬわーーーっ!!?」  起きようとするモモにグラビティをかける。  すると起きようとしたのに重力に潰され、起きれないモモさん。 中井出「ワ〜〜ン、トゥ〜〜〜ッ、スルィ〜〜〜ッ、フォォ〜〜〜ッ」 百代 「ま、待てこらっ……卑怯だろこれっ! ぬ、ぬぐぐぎぎぎぎぎぃいい……!!!」 中井出「オッ、オワッ!?」  しかしさすがMOMOYO!  メキメキと体を軋ませながらも無理矢理立とうとしている! 勝負を諦めていない! 中井出「キミのそーゆーところ、ほんとワン子みたいだねぇ」 百代 「っ……姉妹、だからなっ……!!」 中井出「じゃあさらに重力100倍を」 百代 「なぁっ!? ちょ、待ギャーーーーーーッ!!!」  ドバーンと、重力に負けて潰れ───ない!?  うおおマジかこのお子! グラビティに重ね掛けした重力100倍に屈しねぇ!! 百代 「ワン子が頑張っているのに……!     これくらいで……目標の私が潰れてたまるか……!」 中井出「モモ……」  モモが起き上がる。  体はそれこそミシミシ鳴っているのに、それでも。 中井出「モモ」 百代 「さあ、立ったぞ……! 続き、だ……!」 中井出「いや、もうテンカウント入ったから」 百代 「だぁっ!?《ズドベシャーーーン!!》ギャーーーーッ!!」  ズッコケの拍子に力を抜いてしまい、見事に潰れた。  さすがに切なくなったので、重力を解いて手を差し伸べた。 百代 「うぅうう……お前、私をイジメて楽しいか……?」 中井出「姉の心、妹知らず。妹の心、姉知らず。     悔しさとかも、相手の立場になってみなけりゃ解らんもんさ。     だから俺はお前に敗北を教える。立てるならまだいい。     でも、ワン子の場合はそれが“夢”なんだ。     負けてもまた目指して打ちのめせばいい、世界最強への道とは違うのです」 百代 「むうっ……」 中井出「ちなみに俺は貴様に負ける気は一切ない。     永遠に敗者気分を味わわせてやるわゴフェフェフェフェ……!!」 百代 「いちいち腹の立つヤツだなお前はぁああ……!!」  涙目で睨むモモの手を引いて起こし、砂を払ってからきちんと立たせる。  うむ、ビューテホー。 中井出「まあ、負けたらきちーんと“モモ先輩”って呼ぶからさ。そーいう約束だもんな」 百代 「……そっか。勝ったら対等じゃなくなるわけだよな」 中井出「そだよー? きちんと後輩らしく振る舞いましょう」  昔にした約束だ。  モモが勝ったら、対等で居るっていう条件を無くすって約束をした。  いつかそんな日が来た時、きちんと年下らしく振る舞う覚悟は出来ておる。  ん? 年下? まあいいや、学年下だし。 中井出「さ、それより話の続きだ。     みんな首を長くもしないで待ってないから、さっさと戻ろう」 百代 「……よーするに話題が逸れてるわけだな」 中井出「押忍」  想像に容易いとこぼすモモと一緒に家へと戻った。  ワン子もそろそろ起きる頃だろうし、昼も近い。  美味しい料理でも作りますか。 ───……。  昼。一部では10:30になれば昼だと言われている。でもなんとなく12:00以降にメシを食いたい気分。まあそんなことはよしとして。 中井出「よっしゃーーーっ! 今日は博光特製ワン子蕎麦! もとい椀子蕎麦!     かつて晦一等兵が時代と根性と日本ラヴを重ねて作った至高の蕎麦とそばつゆ!     そして茹で時間を導き出して完成した極み蕎麦!!     なお、わんこそばとは本来、     ゆっくりと味わってもらうための郷土料理として知られるものではあるが、     どうせなら大食いにもチャレンジ!     より多くの椀を重ねたものには豪華賞品として10万円をどどんと進呈!!」 準  「よし乗ったァ!!」 冬馬 「というか乗ってください。     今月の生活費、準が魍魎の宴で10万出して買った写真の所為で無いのですから」 準  「ロリに文字通り命を費やしてみました」 冬馬 「巻き込まれる私の身にもなってほしいものですが。     いえ、もちろん私も挑戦しますがね」 岳人 「10万かよ……! 最新のモテグッズが買えそうだぜぇ……!」 百代 「……瞬間回復じゃなくて瞬間消化を会得すればよかったかもな」 大和 「姉さん、それ怖い」  まあ結局は昼食なわけで、全員参加である。  我を囲むように和室ダイニングに並べられた長机に、皆様がどっかと座る。  ええ、もちろん椅子などありません。座布団だけですじゃ。 由紀江「蕎麦ならいけます、何杯でもっ……!」 松風 『けっぱれまゆっち〜! オラ応援してっかんな〜!』 クリス「晦殿の日本愛は、見ていて気持ちがよかったからなっ!     これは期待できそうだっ!」 中井出「期待、なんて言葉で待っていると後悔するぜ?     この博光、クリスがもし美味くないと感じたら、京を嫁に貰う覚悟さえある」 翔一 「おおっ!? すっげぇ自信だなぁ!」 卓也 「カップメンでさえあれだもんね……うわわ、想像しただけでヨダレが」 京  「クリスー、調味料に45倍獄辛ソースなど」 クリス「いらんっ!!」 一子 「ヒロヒロ、はやくっ、はやくっ」 小雪 「ハゲー、調味料にやわらかましゅまろ〜♪」 準  「マシュマロは調味料じゃあありませんっっ!!」 クリス「蕎麦といえば日本の心。自分はゆっくりと味わって食べるぞっ」 一子 「ふーん? なんだクリ、負けるのが怖いの?」 クリス「そうは言っていない。だが晦殿が研究に研究を重ねてようやく至った究極だ。     自分はじっくりと味わいたいんだ」 一子 「クリは理由をつけて逃げるわけね。不戦敗〜」 クリス「誰が逃げるものかっ! いいだろう犬……自分も参加だっ!」 大和 「ほんとちょろいな……」 卓也 「ちょろいね……」  それぞれがワイワイと箸を構える。  僕? ええ、僕は茹でて入れるだけの修羅となる。  補佐はクッキーが担当してくれます。 クッキー『僕にかかれば蕎麦の茹でる分量を計ることなんてお茶の子さいさいだね』 中井出 「うむ。でもこれから始まるは戦。是非とも第二形態で頼む」 クッキー『なんだよこの僕のままじゃ戦えないっていうのか!?《カシャコキューン……》      ……許せないな、その発言。だが戦であるならこの姿で当たるとしよう。      そして度肝を抜いてやる』 中井出 「よろしゅう」  第二形態になって、声がルルーシュっぽくなったクッキーが構える。  蕎麦は用意してある。お湯も、入れればすぐ茹で上がる常識破壊仕様。  でも蕎麦を同分量計るのは難しい。ので、機械であるクッキーの出番だ。 中井出「ではゆくぞ! 一杯を食べ終わったら即座に椀を置くこと!     そこへ我が蕎麦を入れよう! 手に持っていても大丈夫! ただ下に置け!     そして汁が薄くなったら箸と椀を下に下ろせ! 汁も一緒に補充する!     では用意はいいな!?」 総員 『いつでもこいっ!』 中井出「うむよし! ではこれより椀子蕎麦を開始する! レディ───ファイッ!!」  シュバッと一瞬で全員の椀に蕎麦と汁を入れる!  それをほぼ丸飲みみたいに食う皆様! しかし─── 総員『美味ァアアーーーーーーッ!!?』  あまりの美味さに行動停止!  だが無意識に下ろした椀に、即座に盛られた蕎麦を見るや再び食う! 岳人 「うおおっ! んぐっ! 味わいっ! んぐっ! てぇっ! んぐっ!」 卓也 「あはは……僕は勝てる気しないからのんびり食べるよ。     …………うわぁああ……美味しいなぁ……しみじみとそう思うよ」 由紀江「……………《もくもくもくもく……!》」 松風 『まゆっち〜、美味いか〜? そうかそうか美味いか〜』 卓也 「うわぁっ! 自分は食べるのに専念して、感想を松風に喋らせてるっ!     どうやってるのそれ!」 クリス「くっ……すまない、晦、殿っ……こんなに、美味しい、ものをっ、     こんなに、乱暴に、食べたり、してっ……!」 京  「とか言いつつ凄いスピード」 卓也 「あれ。京は大食いしないんだ」 京  「博光がくれるものは大切に食べると決めている。     たとえどれだけ裕福になっても、お金で博光の料理は買えないから」 卓也 「なるほど〜……うん、それもそうだね」  京とモロはのんびりペースで味わって食べている。  他のみんなは……冬馬は早くも大食いは諦めて普通に食べ、ユキは…… 小雪 「ほらほらハゲハゲ〜、もっと早く〜」 準  「人の椀にっ、自分のっ、分をっ、突っ込むのはっ……ん、んぐっ、ぐっ……!     やめなさぁーーーーーい!!」 小雪 「でもこれで二倍の速度」 準  「腹がいっぱいになるのもね!!」 翔一 「うおおっほ! うンめぇえ〜〜〜っ!! そして速度でも負けない俺!!」 大和 「こ、これはさすがにきついっ……つうか、頑張って作ってくれただけあって、     流し食いみたいなことをするのが晦氏に申し訳ない気がっ……!」 百代 「だったら私の椀にお前の分を入れろ、弟。まだまだいけるぞ私は」 大和 「いや、俺も普通に味わいたいし」 百代 「一口で食って、食ってる間は私の椀に入れろっ!」 大和 「おお、姉さんやる気だね」 卓也 「お金絡みだと性格変わるからね。変わってないとも言うけど」 一子 「ぐまぐまぐまぐまぐま……!!」  それぞれが結構な速度で食べる食べる。  その中でもワン子の速度は結構なもので、二個食いしている準と百代に負けていない。  まあワン子、食った先から消化吸収されてエネルギーになってるだろうし。 岳人 「まだまだいけるっ! 汁おかわりだっ! モロ、お前のもこっちによこせ!」 卓也 「えぇええ!? 本気!?」 百代 「おおっ、やるなぁガクトぉ! こっちも汁おかわりだ!」 クリス「自分もいける! 犬には負けん!」 冬馬 「さあ準、力の違いを見せてあげましょう。私の分もどうぞ」 小雪 「ふふふー……ハゲはまだ本気じゃないんだよー?     まだ三回も変態を残してるんだから」 準  「それって変身でしかも三回も残ってねぇしそもそも変身出来なくてとっくに本気だ     しさらに若までなにしてんのォオオオ!!! ええいくそ汁よこせー!!」 大和 「ツッコミながらでもすごいな……」  他の人から貰っても、食べれば食べるほど汁は薄まってるから、結局は汁は貰わなきゃあいかん。いろいろ大変です。 百代 「さすがに3杯ずつは無謀だろハゲェ……」 準  「10万のためと幼女のためなら修羅になろう!」 中井出「あ、ちなみに吐いたりしたらその時点で失格なので」 準  「そゆこた先言おう!?」 翔一 「甘いぜっ!! 勝手ルールは結構だが、     他のヤツから貰った蕎麦をカウントするなんてヒロは一度も言ってねぇ!     コツコツ食いきったヤツが勝つのさ!」 準  「あ」  びしりと固まるハゲがいた。  もちろんガクトもモモも固まったわけだが。 百代 「あ、あー……ヒロぉ……? 他のやつの蕎麦は……」 中井出「ホイ? 椀から蕎麦が無くなればカウントだから、     誰が食べようが椀を持ってるヤツのカウントにしかならんよ?」 準  「オイィイイイイイイーーーーーッ!!!     それじゃあ俺ってただの食い損じゃあねぇかァァァァ!!!」 中井出「ルールは説明したじゃない。それ以外など認められん」 岳人 「うおおっ……いい、もう普通に味わうわ俺様……」 卓也 「それがいいよ。ほんと美味しいもん」 京  「モモ先輩もそうするべき」 百代 「だな……がんばれワン子ー、お姉ちゃんが応援してるぞー」 一子 「んぐんぐんぐんぐ……!!」 百代 「……聞こえてないな」 京  「相変わらず凄い集中力」  そんなわけで、わんこそばバトルは───キャップ、ワン子、クリス、まゆっちの戦いとなった。他のみんなはのんびりと味わい、しかしその速さに驚きを隠せないでいる。  ワン子は前からよく食っていたが、よもやクリスがこうも食えるとは。  そしてなによりまゆっち。  食べ方は優雅なのにめっちゃ速い。 中井出「制限時間は残り30秒!」 クリス「───! スパートをかける!」 岳人 「おおっとクリス選手、ラストスパートに入ったぁあ!」 卓也 「あ、キャップもだ。ていうかよくそれだけ入るよね」 一子 「じゅるっ! じゅるっ! じゅるっ! じゅるっ!」 京  「ワン子はほぼ丸飲みだね……味わわない犬みたい」 百代 「まゆっちも速いな。蕎麦好きとは聞いていたが、ここまでとは」 中井出「……ごぉーーーっ! よーーーんっ!     さぁーーーんっ! にぃーーーっ! いぃーーーちっ! 終了ぉーーーっ!!」  終了とともに、蕎麦を送るのをやめる。  と、残った4人……いや、3人が一斉に息を吐いた。  残る1人は僕を見て、 一子「あれ? お蕎麦は?」  と首を傾げていた。 卓也 「あはは、もう終了したって。今椀の数を数えてるから」 一子 「おおっ……終わったことに気づかなかったわっ」 岳人 「言われても、蕎麦が来なくなるまで気づかなかったなんて、ほんと犬だよなー」 一子 「むうぅっ……美味しかったんだからしょーがないじゃないっ」 由紀江「はい、こんな美味しい蕎麦は初めてです《にこり》」 卓也 「うわ……あのまゆっちが引き攣らずに満面の笑みを……!」 クリス「いや、同感だ。願わくばじっくりと味わいたかったものだが……」 大和 「ワン子に簡単に乗せられすぎ」 クリス「なんだとぉっ!? じ、自分は決して乗せられたわけではないぞ!」  賑やかなこと、スバラシイ。  そうこうしている間に椀を数え終え、ここに勝者を発表する場を設ける! 中井出「えー、集計結果が出ましたぞい。勝者は───」 クリス「自分だろうなっ」 京  「はい負けフラグ立ちましたー」 クリス「何故だっ!?」 大和 「まゆっちは調子どうだった?」 由紀江「い、いえいえ、私は勝つことよりもより多くの蕎麦を味わい尽くしたくて……」 岳人 「おおっ……なんか勝利フラグっぽいぜ」 クリス「だから何故だぁっ!」 卓也 「ワン子はどうだった?」 一子 「美味しかったーっ!」 卓也 「賞金のこと忘れてそうだね……」 百代 「10万入ったらどうしようかなぁ……うへへへへ……」 大和 「いや、ワン子が勝ってもワン子の賞金でしょーが」 準  「はぁ……ぐだぐだだったねぇ……」 冬馬 「ドンマイですよ、準。お腹は満たされたのですから」 準  「いや、それなら俺も味わいたかったなぁと思うわけで。     やれやれ、世の中ってのは上手くいかんもんだねぇ」 小雪 「元気が無いならましゅまろを食べよ〜♪」 準  「蕎麦とマシュマロって合うのか……?」  いや……つーか喋らせてよ。  うむ、もういいや、いきましょう。 中井出  「仕切り直して……わんこそば王者の発表をする!       まずは第3位! 椀の数72杯! 風間翔一!」 翔一   「ベスト3進出は果たしたぜ!」 岳人   「おおお! また女どもで占めると思ったのにやるじゃねーかキャップ!」 翔一   「たまには男の意地も見せねーとなっ! ……賞金はないけど」 クッキー2『いいや、賞金は無いが3位までならば賞品がある。全力で受け取るがいい。       3位は世界中で限定3個しか作られなかったという、       伝説のクマのぬいぐるみだ!』 翔一   「限定品かぁ〜、まあ戦利品だしありがたくいただくぜっ!」 クリス  「あっ、ぁああっ、いいなっ、いいなぁあ……!」 大和   「クリス、熊のぬいぐるみが好きなのか?」 クリス  「な、なんだ悪いかっ、いいだろうべつにっ!」 中井出  「続いて2位の発表! 2位は椀の数123杯、川神一子!」 一子   「えっ? アタシ? イエーーーッ!!」 卓也   「うぇえっ!? 123杯で2位なの!? そっちに驚きだよ!!」  うむ、博光びっくり。  だが事実です。 クッキー2『2位の一子にはこの賞品を贈ろう。       5万円分の上食券と博光ワールドお食事券3枚!』 一子   「? 博光ワールドお食事券ってなに?」 クッキー2『ああ……いいだろう説明してやろう。       これはな、中井出博光の中の世界の、       どの料理でも一品食べられるというお食事券だ。       映像の中で見たどれであろうと1品。それを3回分だ!』 百代&岳人『ジュエルミートが食べたいっ!!』 クッキー2『黙れ敗北者が。これは勝者にしか齎されんものだ』 百代   「ぐっ……スクラップにしてやろうかこの機械……!」 一子   「おおお……何気にお姉様に勝ってた……!」 百代   「さすがに食う量では負けるな……で、ワン子はなに頼むんだ?       ジュエルミートか? センチュリースープか? 王陸鮫の───」 大和   「はいはい姉さん、それはワン子の賞品だから」 百代   「食いたいじゃないかっ! 食いたいだろっ!?」 岳人   「肉汁花火! この目で見てぇだろっ!?」  はいはいそこの二人はほっときましょうね。  さて、いよいよ第一位の発表だが─── 中井出  「では、第一位の発表でごわす」 クリス  「自分だなっ! ま、またクマのぬいぐるみだといいのだが……!」 大和   「敗北フラグ〜」 クリス  「うるさいぞ直江大和! 黙っていろ!」 卓也   「ていうか10万もらって賞品もあるって思ってるんだ……」 クッキー2『あるぞ。秘密だがな』 卓也   「うわぁ……大盤振る舞いだね……」  つーかあの、喋らせてください。  あ、あー……ごほん。 中井出「第一位! 椀の数132杯!」 クリス「わくわくっ……!」 京  「……しょーもない」 中井出「黛! 由紀江ぇえーーーーっ!!」 クリス「わーーい! ……あれ?」 由紀江「ふえっ……!? わ、わたっ……私ですか!?」 中井出「うむ! おめでとう! 見事優勝したまゆっちには賞金10万円と!」  賞金が入った祝儀袋をコサリとまゆっちに渡す。  戸惑うまゆっちにクッキー2が近寄り、さらに賞品を。 クッキー2『これが優勝者に与えられる賞品だ。その名も擬似モテ薬。       他には博光ワールドお食事券5枚とゴースト九十九の幻だ』 百代   「なんだその一番最後の嫌な予感のする名前の物体は」 クッキー2『ただのシールだが、貼れば意思を植えつけられるスグレモノだ。       たとえばこれを先ほどのクマのぬいぐるみに貼ると───』 ぬいぐるみ『我輩はクマである。製造番号AB-1000型、名前は柳生閃兵衛である』  キャップが貰った賞品にシールが貼られた途端、ぬいぐるみが自己紹介をする。  うん、実に不気味……なのだが、クリスは目をキラッキラ輝かせて羨ましがっていた。 クリス「おぉおおお喋った! 喋ったぞ! いいなぁいいなぁいいなぁああ!!」 準  「や、エビセンなのか煎餅なのかどっちなのよ」 クリス「うるさいぞハゲ! そんなものは可愛さの前ではどうでもいいことだろう!」 準  「いやいやお嬢さん!? 初めてまともに呼ぶ呼び方がハゲってあんた!」  だめだ話にならない! クリスは興奮中だ! 準  「……一度伸ばしてみるかねぇ。そしたらハゲとか言われんで済むし」 小雪 「そしたらすかさず僕が剃るんだね?」 準  「気に入ってるけど、髪があるのが嫌いなわけじゃないんだからやめなさいね?」 小雪 「ハゲじゃない準なんてハゲじゃないよー……」 準  「いえあのー!? ハゲじゃないんだからハゲじゃないのは当然ですけどー!?」 中井出「いや、もうハゲじゃない準なんて想像できないし。      もういいじゃないかハゲで。むしろハゲは褒め言葉として受け入れれば」 準  「ロリコンはそうであってもハゲはいやなんだよ……。     よく考えてみなさいよぉ、     ハゲって言葉ってなんだか馬鹿にしてる雰囲気あるじゃない。     確かに俺はハゲだ。だがハゲじゃない俺がハゲじゃないというのはハゲじゃない。     つーかもう意味解らねーよ! 解るだろこの繊細な心!」 中井出「お前が苦労してることだけはよーく解った」  ハゲってだけでもいろいろ大変なんだなぁ……。  でも俺もいずれハゲるとするなら、髪はいっそ剃りたいな。そう思う。 クッキー2『さらにそのストラップに貼ってみれば───』 松風   『オッスオラ松風! まゆっちの善きパートナーだぜー!』 由紀江  「!? ま、ま……まままつ、かぜ……!?」 クッキー2『とまあ、こんなものだ』 翔一   「いや、これまゆっち以外喜ばなくないか?」 クッキー2『馬鹿なことを言うな。女に餓えた男どもならば喉から手が出るほど喜ぶ。       アハンなものに意志を込めれば意志をもつアレに大変身。       ゲーム世界の相手だろうと、フィギュアに貼れば現実世界へようこそ。       等身大人形に貼れば、ささやかな夢とて叶うのではないかな?』 岳人   「俺様今から理想の女の人形を作る旅に出るぜ《キリッ》」 大和   「落ち着けガクト、それは意思を持った人形であって人間じゃない!」 卓也   「意志を持ったゲーム世界の女の子と話せる……」 大和   「モロー! 帰ってこーーい! その道を歩いちゃだめだーーーっ!!」  一枚のシールを巡り、やがて暴走が始まった……!  いやうそです、始まってません。  だってまゆっちの賞品ですし。 百代   「ところでクッキー? そのモテ薬っていうのはなんだ?」 クッキー2『使用可能回数は10回の飲み薬だが、       これを飲むと同性異性問わずにモテまくる』 百代&岳人『くれ!!』 準    「あ、あー……それはなにか? 年下とかにも───」 クッキー2『例外なくモテる』 準    「今すぐそれを寄越しなさいお嬢さん。悪いようにはしないから《ニコリ》」 百代   「すっこんでろハゲ! それは私がいただく!       可愛い仔猫ちゃんや綺麗なねーちゃんに囲まれる楽園を作るんだー……!」 岳人   「モモ先輩は既にモテまくりだからいーじゃねぇか!       ここは俺様に譲るべきだ! それがいい!」  ……あのー、だから、まゆっちの賞品だからね?  どのみちまゆっちが許可しなきゃ飲めませんからね? 京  「ちなみにそれは博光にも効く?」 中井出「ぬ? うむ。これはきちんと効きまする。     相手を選ばずにズヴァーっと効いたりします。なにせモテ薬じゃけぇのぉ!」 京  「まゆっち、タバスコあげるからひと瓶ちょうだい?」 由紀江「えぇえ!? タバスコをどうしろと!?」 京  「……? 飲む以外になにがあると?」 由紀江「いぃいいいえいえいえいえいえ飲めません飲めませんから!!     ってうぇええええ!? 飲んでますーーーーーっ!!?」  首をぶんぶん振るまゆっちの目の前で、新品をパキャッと開けて一気飲みしてみせる京。  うんうんそうだよな、あれ絶対に最初は驚くよな。  だって今でも驚くもの。 松風 『す、すげぇよまゆっち、オラさっきから驚きの連続だ〜……!』 由紀江「いえいえいえっ、今のあなたにこそ私が驚きです松風……!     まさか本当にそんな口調だったとは……!」 松風 『まゆっちがこうやって大切に扱ってくれたから、こういう意思がついたのさー』 由紀江「ま、松風……貴方という人は……!」 松風 『でもなぁまゆっち、さすがにオラを使って週七回は』 由紀江「うわーーーっ!! わーーーっ!! わぁあああああっ!!」 百代 「なんだなんだぁまゆっちぃ……今なんだかエロォスの匂いがしたぞぉ……?」 由紀江「そんなんじゃないですはいそんなんじゃあ!!」 中井出「あのー、ところで賞品や賞金は渡し終わったんだから、静かに食べません?     みんなまだ食えるっしょ?」 クリス「もちろんだ! 今度こそゆっくり味わうとしよう!     というか……自分はどうなったんだ? 頑張ったんだが……」 中井出「71杯で僅か一杯差でキャップに負けた」 クリス「なぁっ!?」《ズガーーン!!》  あ、落ち込んだ。 クリス「うぅうう……! なぜあの時、自分はたった2杯が食べられなかったぁあ……!」 中井出「まあま、そんな日もあります。     ありますけど、商品授与は3位からだからなにも渡さんが」 クリス「くぅううっ……次だっ!     次の早食いでは絶対にクマを手に入れてやるんだからなっ!」 大和 「早食い対決では勝てないと思うが」 クリス「うるさいぞ直江大和! 勝つと言ったら勝つんだ!」  そうまでしてクマのぬいぐるみが欲しいんか……女の子やねぇ。  しかし勝負の世界は非情ナノデス。  勝たねば何もない。ないけどメシは美味い。救いはそこにございますとも。 クリス「おぉおおっ……やはり美味いなっ!     自分は甘いものが好きだが、これはなんとも言えぬ美味さがある!」 由紀江「はい。私もまだまだ食べられます」 松風 『まゆっち〜、オラが言うのもなんだけど、ほどほどにしないと太るぜ〜……?』 由紀江「そ、その分運動しますから大丈夫ですよ、松風」 松風 『オラ知ってる……太るヤツはみんな最初はそう言うんだ……』 由紀江「ああぅ……友達の心配の言葉が痛いですぅ……」 大和 「……ストラップが跳ねたり喋ったりする様子は、なんというか怖いな」 松風 『それは偏見だぜ直江っち、     オラたちだって意志さえあれば生きてるのと変わらないんだぜ?     けど確かに動き回るのはまゆっちに迷惑がかかるから、オラ大人しくしてるなー』 大和 「おお、意外に聞き訳がいい」 岳人 「不思議なもんだけど、こうして見ると面白ぇもんだよな」 卓也 「意志を付加させる道具かぁ。     これは大切にすればするほど生きてくるアイテムだね」 百代 「大事に着こなした胴着につけたらエロ親父っぽい意思が浮上しそうだな。     というか意思を持った途端に駆動するとかすごいなこの馬」 由紀江「ああっ、松風っ、こんなにも貴方に注目してくれる人が居ますよっ!」 松風 『やったぜまゆっち、今まではストラップに話し掛ける人として見られてたけど、     これならマスコットキャラに話し掛ける女の子として人気急上昇───』 百代 「や、人気上がってるのはまゆっちじゃなく馬だけどな」 由紀江「あっはそうですよねぇ! くっふぅう……!!」  あ、泣いた。 中井出「ままま、お食べまゆっち。     つーか意思シールをつけるのはガッコ外だけにしたほうがいいやね。     じゃないと余計な噂が立ちそうだし」 松風 『おおひろちー、あんたのこともまゆっちからよーく聞かされてるぜー?     こうして話せて光栄だ。オラ松風だ、よろしくなー』 中井出「おお、これはご丁寧に。拙者、中井出博光と申す者」 松風 『一時は校務仮面の野郎にまゆっちを奪われるかとヒヤヒヤしたもんだが、     けどオラは頑張ったぜー! 何せ週七回の《べりゃあ!》ウワーーーーッ!!』 中井出「ややっ!?」  松風からシールが剥がされた!  途端に松風は断末魔の悲鳴を上げて、コトリと倒れたまま動かなくなってしまった……! 由紀江「はぁ、はぁっ……」 中井出「あ、あのー、まゆっち?」 由紀江「な、なんでもありませんから……」 中井出「や、でも」 由紀江「なんでもありませんからぁっ!!」 中井出「エ、ア、ハ、ハイ」  ぬ、ぬうなんという気迫……!  あまりの迫力にこの博光、知らずに一歩引いてしまっておったわ……!  正座しながらだけど。 中井出  「まあともかくみんなで食おうね。クッキー、ありがと。元に戻って?」 クッキー2『人使いの荒いことだなまったく《カシャコキュイーン……》』  頼んでみれば元に戻り、なんというか人型から卵型に戻る。  どうすればこんなカタチのものが、あそこまで変われるんだろうか。  九鬼財閥ってスゲェ。 クッキー 『さあさあみんな、今度はゆっくりと食べてね。       もう量を測る必要はないから僕は配ることしか出来ないけど、       言ってくれればポップコーンくらいいつでも作るから』 岳人   「いらねーよ。蕎麦にポップコーンとか、合わないにもほどがあるだろ」 クッキー 『こいつ僕が自分に出来ることを精一杯アピールしてるのになんてことを!!       《カシャコキュイーン》許せないな。今すぐその筋肉を八つ裂きにしてやる』 岳人   「だからいちいち第二形態に変身するんじゃねぇってぇえっ!!」 クッキー2『フフフハハハハハ! 泣いて叫んで命乞いをするがいい!       切り刻む結果は変わらんがなァ!       クッキィーーーッ! ダァーイナミィーーーック!!』 岳人   「うっぎゃあーーーーっ!!」  振るわれるビームサーベルをあの巨体で見事に躱すのを見た!  おお! ガクト素早い! 一子   「おおっ、ガクトなかなかやるわねっ……!」 準    「サックリ行くと思ったのになぁ」 百代   「日々、私が愛を込めて殴ってるからな。回避能力は見た目の二倍はあるぞ」 クッキー2『ならば二倍の速度で仕留める!』 卓也   「状況悪化させてどーすんのモモ先輩!!」 翔一   「落ち着けってクッキー、       埃がたったら蕎麦が不味くなってまゆっちが怒るぞー?」 クッキー2『むぅっ……マイスターの命令か。ならば仕方あるまい……。       《カシャコキュイーン……》もう、疲れるんだから変身させないでほしいよ』 岳人   「てめぇが勝手にキレて変身したんだろーが!       こっちは危うくキズモノになるところだっての!」 クッキー 『なんだよそっちが人の親切を考えも無しに否定するのが悪いんだろ!?       《カシャコキュイーン……》許せないな。やはり今すぐにでも細切れに……』 岳人   「だから変身すんなってぇえーーーーっ!!」  ドタバタ騒ぎが続く中で、いろんなことがあっても笑える。  気安いってのはいいことだ。  そんなことを思いながら、俺はこんな日常がずっと続けばいいな、なんて……そんなことを願っていた。  まあ、いつかは消えるんだとしても、それまでは。 ───……。  さて。昼も終わり、話すことも纏まってからの行動は早い。  みんなでいろいろ買い漁りに行こうってことになって、今度はみんなで金柳街に出た。 卓也 「あ。そういえばあの子、まだ居るかなぁ」 中井出「あの子?」 卓也 「ゲーセンでやたらと乱入してくる子が居てさ。女の子だったんだけどー……」  何人かに分けての移動中、俺とモロと準の三人はゲーセンの近くまで来ていた。  んで、ついでってことで中に入って覗いてみれば、なにやらハデな服を着たお子が「ウヒャハハハ!」って独特の笑い方をしながら格闘ゲームをやっていた。  ……あいつじゃないよな? 卓也 「あぁいたいた、あの子」 中井出「俺、モロってもっと大人しい子が好みかと思ってた」 準  「意外な事実発見だな。俺もそう思ってた。     間違ってもあんな派手な女との交流なんてねぇと思ってたぜ……」 卓也 「なんでそんな話になるのっ! ただゲームやっただけだって!」 準  「いやだってウヒャハハハだぞ? お前のイメージと合わねーだろアレェ……」 中井出「どっちかっつーとほら、アレだよお前。     モロが金ゆすられて、ガクえも〜んとか走って行きそうな相手じゃん」 卓也 「クリスのお父さんが教室来た時にワン子に言った言葉思い出そうよ!」 中井出「バカモン! 人を見た目で判断するでないわ!」 卓也 「いや僕に言うんじゃなくて!」  などと騒いでいると、さすがに気づいたのか、ゲームで負けたらしいお子がこちらへ歩いてくる。 卓也 「あ、えと」 ?? 「んあぁ、さっきのヤツじゃん。またやられに来たのかよ」 中井出「なにぃ、負けたのか、ゲーセン四天王と呼ばれたモロが」 準  「ぬう、よもやゲーセン四天王のモロを倒す者が洗われるとは……」 卓也 「洗ってどうすんの!」 中井出「発音でツッコミどころを選ぶモロは実にいい。10点。     というわけでお嬢さん、よかったら今度はこの博光と勝負せん?」 ?? 「あぁ? なんだよオマエ」 中井出「自己紹介が遅れました。わたくし、中井出博光と申す者。     ゲームが好きな、一般人にございます」 準  「井上準だ。是非2年ほど前にお会いしたかった」 卓也 「あぁ、これでもだめなんだ……」 準  「何気にストライクゾーンには厳しいのが真のロリコンってもんだ。     しかもこれはあれだろ、ワン公チックな立ち位置だろ、俺らにしてみりゃあさぁ」 卓也 「あ、なんか解る」  準が目の前の派手な衣装のお子をじーーーっと見つめたのち、片手で拝み手を作る。  本心の一言だったらしい。  まあ……なんか解る。俺もなんつーか、ムギーとかカニとかいろいろ連想するもの。 中井出「お嬢さん。モカマロンケーキなどいかが?」 卓也 「出会って間も無くなにいきなりナンパしてんの!!」 中井出「いや絶対好きだってモカマロンケーキ。エクステとか絶対似合うって。     攻撃のたびにハレルヤァとかクライストォとか叫ぶとなお良し」 ?? 「よく解んねーけどおごりならいーぜ? 丁度腹減ってたし」 中井出「NOォ……その前に自己紹介をよろしくです」 ?? 「あー……? めんどっちぃやつ。まあいいや、ウチは板垣天使ってんだ」 中井出「エンジェル?」 天使 「あーそーだよ、天使って書いてえんじぇるだ。天使って呼んだらコロスぞコラァ」 中井出「すげぇ……なんて壮大な名前だ……!《ホロリ……》」  おおう!? 涙が溢れる!  よもや……よもや実際にこげな名前のお子と会える日が………いや、わりと会ってるか。 天使 「ウチ、この名前嫌いだからこれで呼んだらとりあえずコロスかんな。     天とかならまだ許す」 中井出「ほかほか。んじゃあ天さん」 天使 「ウチのどこが三つ目族だテメェ!!」 卓也 「わぁっととっ!」 準  「おーお、割と迫力あるじゃないの。ワン公とどっこいってくらいかねぇやっぱり」 中井出「強さの基準はまあ置いといて。名前キライなら名前変更申請出してみたら?」 天使 「うぇー? 面倒なのキライなんよ」 中井出「じゃあテンちゃん」 天使 「……オメェ今、ウチを火を噴く子鬼として見なかったか?」 中井出「いえ全然。つーか会ったばっかの人の名前なんて言うもんじゃないね。     つーわけでゲームやらん? 俺に勝ったらモカマロンケーキだけ奢ろう」 天使 「おーいいぜぇっ! ヒャッハー今日はタダメシだーーっ!」 中井出「そして俺が勝ったら貴様の頭を思う存分撫でさせてもらう」 準  「ゾーン広いねお前……」 中井出「ツン子さんを撫でる喜びを知りなさい。俺はとにかく嫌なヤツじゃなけりゃあ、     とりあえず撫でたい男だ。だから撫でる。トーマもよく撫でるし」  愛ですか? ええ、家族愛ですとも。  そして誰かの頭を撫でることは、もはや我の中では普通のことぞ。  様々な人の頭を撫でることがもはや喜びにさえ近くなっている。  ある意味変態だね、うん。 卓也 「気をつけてね……結構強いよ」 中井出「フフフ、この博光とてゲームでだけは上級者よ。     キティに負け越してばっかりだったあの時代から今まで、     ひたすらにゲームの腕と指パッチンの練習だけはしてきた……!     ……相変わらず指パッチンは出来ないけど。     だが断言するね! 負けたくねぇ!」 準  「えらく後ろ向きな断言だなオイ。断言には違いねぇのに褒められたもんじゃねぇ」 中井出「うるさいよもう!」  そんなわけでレッツバトル!  金が無いってんで、500イェンを進呈。  バトルはそれぞれ一回ずつを違う格闘ゲーで競い、より勝利数が多いほうの勝ち! 天使 「今から口の中がケーキの味で満たされる気分だぜぇ! ヒャハハハハ!!」 中井出「さあ、どこからでもかかってきなさい」  けどまあ、勝負にこだわらずに楽しんだもん勝ちです。  だってゲームだもの。  なので散々楽しみながら意外な接戦を繰り広げ───全戦全勝で納めました。最強。 天使 「ま、負けた……ウチが……《なでなで》うぉおわっ!? なにしやがるテメェ!」 中井出「勝ったので頭を撫でてます。10点」 天使 「テンメそんなら金ぐらい払えやコラァ!」  拳が振るわれる。しかしシェェエイと避ける。  その華麗なる避け方が気に入らなかったのか、ムキになって拳を振り回しまくってくる天ちゃん。しかし構わず避けまくり、ぜーぜー言い出したらまた撫でて、避けて、疲れさせて、撫でて。  それを数度繰り返していたら、ギャーと叫んで逃げ出してしまった。 中井出「……からかいすぎたか。くそうもっと撫でたかった」 準  「どんだけハイスペックなのお前。撫でながら全部避けるとか普通する?」 中井出「常識破壊が大好きな博光ですから」 卓也 「ていうか、モモ先輩に似てきたよねヒロ……」 中井出「え? そう?」 卓也 「だってほら、可愛い子はすぐ撫でたがるし、無意味に強いし」 中井出「失礼な。俺は差別とかキライだぞ。撫でたいヤツは性別関係無しに撫でる。     食事中の川爺の口だって仕方のない子〜とか言って拭える男だぞ俺は」 卓也 「それは差別しなさすぎでしょ!」 中井出「長生きしてるとねー……どうも年齢差とかどうでもよくなってきちゃって」 準  「まあそんだけ生きてりゃそうなりもする……のか?」 中井出「俺から見ればみんな可愛いお子ですから。     ファミリーは家族であって、差別しまくりではあるけど」  うん、家族大事。  なにより大事だね。  随分とまあ丸くなったもんです、魔王様ともあろう者が。 中井出「じゃあ行こうか」 卓也 「そだね」 準  「あ、あ、あー……、ところで俺、     ちょっと先に行ったところの幼女DVDが気になってて」 中井出「懲りろ、写真に10万使った男」 準  「2−F委員長を邪な目から救うためだったんだ! 仕方ねーだろ!」 中井出「お馬鹿! お前が守らなきゃいけないのは、     写真化されてのっぺりとした真与ちゃんじゃねーだろ!     お前が愛するロリは現実世界に居るんじゃねーか!     それを守らず写真を守って、なにがロリコンだ!」 準  「一理あるがそれでも俺はロリの全てを守りたい。それが愛だ《ニコリ》」  準……お前…………男だな……。  10万は明らかにいきすぎだけど、男だよ。 卓也 「ていうかさ、あれってきちんとネガごと買ったの?」 準  「おーお当然。じゃなきゃ10万も出さねーよ。     他に持ってやしねーか脅しもかけた」 卓也 「お手柔らかにね……多分もう呼ばれないだろうけど」 準  「2−F委員長を始めとするロリの今は俺が守る! 未来は知らん!」 卓也 「うわぁ最低だこの人!」 中井出「このクズが!!」 準  「うるせーなァァ!     ロリコンにとっちゃあ幼児であるか幼児体型であるかが問題なんだよ!     そしてそんな子と一緒に風呂に入って一緒の布団で寝たい! それだけなんだ!     いつか幼児体型の誰かと結婚したとしても産まれて来る子に愛を注ぐ!     幼児である内は全力で愛でる! それがロリコンの道というものだ!     な? ほらほらァ、ここまでハッキリ自分の好みを言えるもすごいじゃないの。     こういう勇気ってのを買ってみなさいよォコノヤロー」 中井出「クズが!!」 準  「あれぇ!? ますますストレートにクズ呼ばわり!?」  すまん、男すぎだそれは。  どこまでロリコンなんだよ。  ───……その後、いろいろやってる内に夜が来た。  明日はいよいよ旅行です。  ちなみにワン子はまた鍛錬をした所為でぐったりモードである。  超筋肉痛の後だってのによくやるよ、ほんと。 Next Menu Back