【プロローグ18】

 ……ヒソヒソ……ヒッソォ……!

中井出「それで……! コトの運びはどうだい大和ョゥ……!」
大和 「ああ……冬馬と下見に言ってきたが、やっぱり妙な機械があったな……」
冬馬 「あれは強く触れれば警報がなるタイプですね。
    取り外すには電源を切る必要があります」
中井出「ぬ、ぬう……!」

 さて、女集がキャイキャイと騒いでいる中、我ら男衆もキャップを除いて盛り上がっていた。京とユキとワン子が大自然での鍛錬だーとか言って山の奥に行ったが、まあそっちは余裕でなんとかなるだろう。迷わなければ。
 なので僕らは安心して夜に実行する覗きの下準備を着々と進めていた。
 ええ、大和と冬馬に下見に行っててもらったのです。

中井出「覗き易い位置とかは?」
冬馬 「北側の森ですね。覗き易いだけあってセンサーも随分取り付けられていましたが」
大和 「まずはそれをどう潜り抜けるかだ。
    感応式みたいだから、カメラの視界に入れば終わる。
    鳥みたいに小さいものには反応しないヤツだな」
岳人 「ガタイが売りの俺様だが、今だけは小人になりたいぜぇ……」
卓也 「小さくなったら今度は柵が邪魔で見えないでしょ」
冬馬 「そういうことです。
    なかなかに高い柵が立てられていましてね、これは難しいですよ」

 冬馬が、僕にスケッチブックを所望し、それを渡すや絵を書いていく。
 簡易なものだがなるほど、カタチをきちんととれてれば、手早く描いたものでも解る。

冬馬 「機械はこのように、一対になって存在しています。
    その範囲内に入れば間違い無く警報が鳴りますね」
中井出「ふむふむ」
大和 「正確な数は数えられなかったが、10以上はあると踏んでいい」
岳人 「うげっ、マジかよっ」
準  「こりゃあ厳しい戦いになりそうだなぁ……やっぱあれか?
    範囲外から一対を同時に壊すか」
大和 「バレれば弁償ものだ、出来れば壊すのは無しにしたい」
卓也 「うん、そういうのって結構高いから」

 カリカリと機械の絵が描かれてゆく。
 妙な丸っこい機械が、枝とかに括り付けられているらしい。

中井出「ふむ……弁償する必要がなければいいと?」
準  「おいおいぃ、
    だからってヒロが払うっつーなら俺ゃ降りるし断固阻止させてもらうぞ?」
冬馬 「もちろん僕もです」
中井出「おおありがとう。でも違うから安心して。まず山の皆様に助力を願おう」
準  「山の?」
冬馬 「ん……なんですか? それは」
中井出「えっとね、つまり───おっと」

 早速発見したその子に、ちょいと声をかけてみる。
 するとその子はちこちこと走ってきて、僕の肩に乗った。

中井出「リスのウィヂュヂュウェルジュシュです」
卓也 「なにその名前!」
中井出「いや、リス語な彼の名前を口にするとそんな感じにナルノデス。
    で、彼の仲間にまず機械を落としてもらう。
    括り付けてあるだけなら、ぼとーんとね」
大和 「あ……なるほど、それならさすがに弁償しろなんて言えないな」
中井出「問題は落とした後の機械だけど。リス達に持っていかせたら、
    やっぱり旅館側の損害になるからさすがに非道にございます。
    なのでアグレッシヴに……リスにコンパクトカメラを装着!
    高い木の上からおなごのアハンな姿を堂々とこちらのモニタで!
    ……と楽をするのは一流の男ではございません。
    覗き───それは肉眼でするからこそ意味がある!!」
準  「そうだ!」
大和 「その通りだ!」
岳人 「よく言った!!」

 はい、熱き魂を身に宿した男はどんな困難を前にしようが風呂を覗くのです。
 女体を見たいのではない……これはそう、女湯というものを見たいがための行動!
 ……みんな女体目当てっぽいが、まあリスクを負って自由を楽しんでいるってことで。
 漢ではなく男になるからこそ出来ることですね。
 僕は既に漢は捨てているので、男で十分ですが。

中井出「そィで───むっ!?」
準  「ン……《ピクリ》」
大和 「───!」
冬馬 「おや……これは」
岳人 「んお? どしたー?」

 テリトリーに侵入者アリ……10人以上の、気配を殺した何者か。
 しかもその中の一人が結構な腕前だ。
 準も大和も冬馬も気づいたみたいで、目を鋭く細めて僕を見る。

中井出「ふむ」

 ちらりと見てみれば、どうやらモモもまゆっちも気づいている様子。
 クリスは……なんか思い切りアウトドアを満喫しているようで、気づいてないです。

中井出「話の途中ですまんね、ちょっとビッグに行ってくる」
卓也 「普通にトイレって言おうよ……」
中井出「大か小か言ったほうが、待ってる人もいろいろ行動しやすいと思うんだ」

 だからビッグorスモール。
 そんなわけで、準たち気づいているやつらに一度頷いてみせてから行動を開始した。


───……。


 まったく、せっかくの家族旅行を監視だなんて、なんと趣味の悪い。
 でも能力を使う気は無いので、這い寄って混沌。じゃなくて這い寄って落とす。

中井出「AGIマックス! ダンターク流奥義ぶちかまし!」

 すまん、這い寄るというのはウソだった。
 目にも留まらぬ速度でタックルして、迷彩服を着た者どもを気絶させてゆく。
 タックルってすごいよね。それだけで相手が気絶するんだよ?
 そんな調子で1人1人を確実にツブしていき、やがて弱い氣の全てをツブしてみせたところで、氣と氣がぶつかり合うのを察知!
 この氣は……京にユキにワン子───そして一際大きかった謎の誰か!

中井出「………」

 あら。でもなんだか結構いい戦いになってるっぽい。
 氣で探ってるだけではあるものの……まあ3対1じゃあ当然か?
 いやでも待て、つーことは相手はそれだけ強いってことか?
 ワン子がまだ超人の域に行くために本調子ではないとはいえ、あの3人相手に戦っていられるとは。

中井出「ちょいと見てみませう」

 気配は殺したまま、AGIをそのままにゴシャーーと走った。
 すると案外早くにその現場には辿り着けて、そこでは3人相手に立ち回る赤髪の迷彩服を着た、左目に眼帯をつけたねーちゃんが。

小雪「おー、強いねこの人ー」
京 「ワン子の動きが鈍いのが気になる。平気?」
一子「へ、平気、へっちゃらっ」

 言われた通りにイメージをそのままに体を動かしているんだろう。
 でも体が追いつかないから動きが逆に鈍る。
 しかしそうと解っていてもやめないワン子、キミに乾杯。

??「私相手によく立ち回っていることを褒めてあげてもいいでしょう」
小雪「えらそーだねーおばさん」
??「おばっ……!?
   口の利き方に気をつけなさい。私はそんなふうに言われる歳では───」
小雪「えいやー♪」
??「《がどぉんっ!》っ───!? お、重っ……!?」

 にこにこ笑顔から繰り出される鋭い蹴りが、迷彩服さんの腹に埋ま……いや、腕でガードした。けど、たたらを踏んでいる。

小雪「そう簡単に壊れちゃやだよー? 襲いかかってきたのはそっちなんだから」
??「なるほど、様子を見ていたということですか。
   初見相手に全力を見せないことはある意味優秀と言えます。褒めてあげてもいい」
京 「敵を相手にべらべら喋るのはよくないと博光が言っていた。10点」
??「ええその通りです。ですがどうです?
   これほど何もせずに待機しているというのに、あなたたちは仕掛けてもこない」
一子「襲い掛かられたからって襲い返すだけってのも芸がないじゃない。
   用が済んだんなら去ってくれないかしら。
   ヒロに予定外の鍛錬なんてするなって言われてるのよ」
??「なっ……」
京 「おおっ……ワン子が戦を前に一歩退いた。これは10点満点」
一子「わっふわっふー♪ もっと褒めて褒めてー♪」

 おお……ワン子も成長しておるなぁ……つーかこうして隠れて見てる俺こそが成長してないね……うう、過保護かぁ……そりゃ言われもするわい。

京 「そもそも私たちは遊びに来ている。
   確かにこうして鍛錬はしているけど、誰かと戦うことは無駄な労力といえる」
小雪「えー? やらないのー? 僕もっと蹴りたいのに……」
京 「だめ。妙なところで敵を作るのは博光の敵を作ることにも繋がりかねない」
小雪「あ、そっか。じゃあいいや。ばいばいおばさん」
??「おばっ……! ───謝罪することを許可します! 謝りなさい!!」

 言うや、迷彩服さんが踏み出して攻撃を仕掛ける。
 そこに京がパチンコの玉を指弾で弾き、それを躱す動作にワン子が突きを合わせ、しかしそれさえ避けた相手目掛けて、

小雪「だからぁ……ばいばい♪」

 容赦の無い踵落とし……ネリチャギが炸裂───しなかった。
 なんとまああの体勢から両腕でガードしてみせたのだ。……そのガードも弾かれて、咄嗟に身を引いた相手さん、信じられないって顔してるけど。

??「馬鹿な……この私がっ……嘘だ!」
京 「あなたはどこの、この私さんですか?」
小雪「ヒロミツもよく“このひろみつ〜”って言うよね」
一子「あれってなにか意味があるのかしら。
   ……アタシもこのアタシとか言ってみると解るかもしれないわっ」
??「………」
小雪「……あれれー? 怒ったー?」
京 「だとしたらさすがに呆れる。
   急に襲いかかってきておいて、やられたら怒るのは始末に負えない」
??「……Hasen(野ウサギ達め)」

 キン、と空気が冷えるのを感じた。
 そんな空気の中、迷彩さんがつけていた眼帯を外す───と、急に氣が溢れだした!
 お、おおお!? あんた何処の更木の剣八さん!?
 是非とも髪に鈴とかつけない!? そしてウチのクラスの委員長とS組のハゲを仲間にして、どっかの十二番隊隊長とか名乗らない!?

??「Jagd(狩ってやる)!!」

 迷彩さんが地を蹴る!
 まずは目の前に居たユキ目掛けて!
 鋭い突きが放たれ、ユキはそれを足でガードするが───勢いに飛ばされ、宙に舞った。

小雪「え? わ───」

 上手く着地はしたが、信じられないものを見る目……じゃないな。面白いものを見つけたって目で、迷彩さんを見つめた。

??「Hasen(ハーゼン)! Jagd(ヤークト)!!」

 さらに地を蹴る。蹴って、近づいて、いつの間にか手に構えていたトンファーで攻撃。
 単純だが隙の無いそれに、瞬く間に京たちは追い詰められてゆき───

中井出(……なんて言ってんだろ。サーセン・ヤグード?)

 僕は僕で、離れた位置で聞こえる迷彩さんの言葉の意味に悩んでいた。
 あれだろうか。FF11でヤグードさんに対して酷い仕打ちをしてしまって、サーセンと謝っているんだろうか。

一子「モノを握ってる分、直突きも怖いわね……! ここは間合いを取って───」
??「トンファーキック!!」
一子「《ドゴォォォ!》んきゃうっ!? かっ……げほっ!」

 ややっ!? ぼーっとしている内にワン子が痛打を!

小雪「トンファーつけてるのに蹴った……ヒロミツみたいな考えだねー」
??「我がトンファーは天地と1つ。故にトンファーは無くともよいのです」
京 「無茶苦茶な理論が出た。でも確かに蹴るならトンファーは無くてもいい」

 うむ、正論だけどちと問題アリだな。
 鍛錬をしている者を急に襲ってヤバくなればキレて武器を出す……いかんぜよ。
 どうせなら最初から武器を使うことを言っておきなさい。
 何が何でも勝ちたくて仕掛けたんならまだしも、これはいけません。
 なので僕もトンファーを装着してと。

中井出「これこれそこなキミ、急に襲い掛かったりしては危ないでしょう」
?? 「!? ───この私に気配を感じさせずに背後を取るとは!」
一子 「あ、ヒロ」
中井出「もう襲いかかって満足したでしょ?
    僕ら遊びに来てる学生なんですわ、見逃してくださいません?」
?? 「……なるほど。先ほどから名が出ていたが、貴方がヒロミツという存在。
    いいでしょう、少し腕試しをすることを許可します。かかってきなさい」
中井出「トンファービーム!!」

 キュボドガァアアンッ!!!

??「くうああああーーーーっ!!?」

 許可されたので0フレームでビームを発射しました。ええ、もちろん目から。
 直撃した迷彩さんはこんがり焼け、ピクピクと痙攣しながら倒れております。

中井出「強敵だった……! トンファーが無ければ負けていた……!」
一子 「トンファー最強ね……!」
小雪 「そのトンファーがあれば、僕も目からビーム出せる?」
中井出「このトンファーと、あとは器詠の理力が無ければ無理だね」

 つーわけで能力使ってしもうたよ。
 幸いにして自然に囲まれたところだったから、消費もそう高いものじゃあなかったが。

中井出「で、この人誰? ヤグードに何したの?」
京  「知らない」
小雪 「うん、僕も知らない」
一子 「よく解らないこと言ってたけど、ヤグードに何かしたって意味だったのね!」
中井出「うん。なんかサーセン・ヤグードって聞こえた」
京  「ハーゼン・ヤークトじゃなかった?」
中井出「空耳から学べることってきっといっぱいあるよ。妖精哲学の三信とか」
一子 「つまり空耳だったの?」
中井出「距離が遠かったもんで。で、どうしようかこの人」

 目を回している迷彩さん。
 そんな彼女の左目に眼帯をつけて、どうしたものかと思案。
 と、そこにモモとまゆっち、そしてなんとなく付いてきたのか、クリスが。

クリス「どうしたんだいったい───って、マルさん!?」
中井出「なに!? こ、この人が噂の赤いきつねと緑のたぬきの!?」
一子 「ワオ! ほんとに!?」
中井出「おぉおおいつも美味しくいただかせてもらってます!
    あ、握手してもらっていいスカ!」
京  「博光、絶対に違う」
中井出「そうなん!? ぬ、ぬう……博光ったら早とちり」

 そういや開発してる人とかってもっとお歳を召していらっしゃるだろうしね……。
 しかしマルさん……む? マルさん?

中井出「おおっ、ということはこやつが以前、
    クリスが言っていた“父様とマルさんだな”のマルさん」
クリス「ああ。お前の意地の悪い問題の時に出した名前だ」
中井出「ほかほか。で、この人なんでこんなところに?」

 ……ハッ!? もしやドイツで訓練中に迷って、いつの間にかこんなところに!?
 そしてクリスを見つけたもんだからつい喜びのあまりにヤグードに“サーセーン”って!
 うう、苦労したんだなぁマルさん。

クリス「いや……自分にもよく解らない」
京  「クリスの知り合い……となると、」

 京が言葉を続けようとした時、視界の端に動く影。
 自然が教えてくれておりました。クリス父だね。

クリス父「クリス、我が娘。今日も美しい……」
クリス 「父様!」
京   「……展開の速さについていけない」
クリス父「部下が失礼を働いたようだね。彼女はマルギッテ=エーベルバッハ少尉。
     自尊心が高く、とても優秀な存在なのだが……近接戦闘に長けている分、
     キミたちのような手練れを見ると勝負をフッかけるクセがある」
京   「傍迷惑な……」
クリス父「ふふ、確かに。だがその若さ故の無鉄砲さが、私は嫌いではない」
中井出 「それで襲われてもたまらんけどね……。
     で、襲ったってことは倒してよかったんだよね?」
クリス父「キミは…………なるほど、ますます失礼した。
     クリスから聞いている。RIKISHIに挑み、勝てる筈もなかった。
     しかもDOHYOUの外で戦うことを良しとしない戦士に戦わせてしまった」
中井出 「それならばお気になさるな。RIKISHIといえど、
     MAGEを結わぬ時はせめて一般人として過ごしたいもの。
     それに僕程度の実力ではRIKISHIとしての実力があるかどうか」
クリス父「謙虚なことだな……さすがは日本、素晴らしい」

 誤解は見事に続いているようでした。
 つーかクリス、なんでもかんでも父に報告するのはやめてください。

クリス 「それで父様、何故ここへ?」
クリス父「何故? そんなことは決まっているだろう愛しい娘クリス。
     可愛い娘が友人と旅館に泊まると聞けば、
     いてもたってもいられなくなるのは親として当然のことだ。
     だからこそ精鋭30人を連れ、こうして来たのだよ」
クリス 「それでわざわざ……自分は幸せ者です!」

 ……娘の泊まりの警護のために、部下を30人近くも連れてきたと?
 全員ノしたけど、何考えてるんですかアータ……とか思ってる間に騒ぎを、というかビームの爆音を聞き付けてか、大和たちもやってきた。

大和  「おーい、どうし───って、あの時の軍人さんっ!?」
クリス父「おおキミか。また会ったね」

 大和がクリス父と話している間、僕は僕でヤグードさんにキツケをすることにした。
 っと、ヤグードじゃなくてマルギッテさんだっけ。
 エーベルさんでいいね。バッハはちょっといきすぎだ。

中井出「焚ッ!」
マル 「《ドスッ》けふぅっ!? ───!!」

 腹に一撃。すると目を開け───るや、シュババババッと体を回転させて起き上がるエーベルさん。そして僕を睨んで構えるが、クリス父とクリスがこの場に居ることに気づくと、構えをあっさりと解いた。

マル 「私を気絶させるとは。少年、褒めてあげてもいい」
中井出「お手前こそ。武器にトンファーを選ぶとは素晴らしいセンス。褒めましょう」
マル 「…………」
中井出「………」
マル 「年上には敬意を払うべきです」
中井出「え───年上なの!?」
マル 「見て解るでしょう。さあ、敬うことを許可します」
中井出「京! ユキ! 僕より年上が居たよ! 久しぶりに会った!」
京  「……………………ぶぷくっ!」
小雪 「あはははははは!」

 話を振った途端に京が耐え……は、したんだが、吹いた。
 ユキは無遠慮にエーベルさんを指差して笑っている。
 エーベルさん自身は何が可笑しいのかを疑問に思っているようで、とりあえずは「人を指差すのはやめなさい」と仰った。


───……。


 いったいなんだったのでしょう。
 結局心配をするだけして、クリス父はエーベルさんと一緒に去っていってしまった。
 ちゃんと部下も回収していくっていったから、それはそれでいいんだけど……なにしに来たんだいったい。心配するためだけに軍隊を? ……いや、さすがにそれは。

中井出「そしてクリスが機嫌がいい内に、クリスとの距離を縮めようとする大和の図」

 なんだかんだで尖り合ってる二人だから、どっちかが積極的である内に和解してもらいたいもんですが……うーむ。
 しかしクリスも少しずつ受け入れ始めてると思うのだ。策略も時には大事で、大和が仲間を大事に思ってる〜ってことも。
 あとはクリスがどれだけ歩を進められるか……かな。
 大和はもう自分を見せたと思います。いや、見せたとしてもそれを見るクリスが何処まで見れるかか。じゃあもっと見せる必要もあるわけで……うーむ、友情って難しいね、ばーさん。

中井出「知り合い、友人。口にするだけのソレなら簡単なんだけどね」

 どれだけ知ってもそいつが大事って思えるヤツなんて一握りだ。
 そんな一握りだって、些細なことの積み重ねやほんの小さな偶然の果てに誤解や意見の食い違いで別れることになる。
 解り合いたいって思ってたって、それが上手くいくとは限らんのだ。

大和 「勝負だクリス! こうなったらお前に俺ってものを叩き込んでやる!」
クリス「自分に挑むか……いいだろう直江大和!」

 ……ほら、あんなふうに。
 もうちっとだけでも、穏やかに済まそうって思えればなぁ……。
 引く事を知らない人が喧嘩を始めると、ほんと終わりが見えなくて困る。
 そして勝負って言葉には弱い人がファミリーには結構居るんだよね。

百代「よぅしそれじゃあ私が公平にジャッジしてやる。
   決闘というからには公平さが必要だからなぁ」
翔一「頭脳なら大和。戦闘ならクリスってことで、それが公平になるようにしないとなー」
一子「食べもの競争がいいと思うわっ!」
準 「早食い大食いはもういいだろーよ。んで? どーすんの」
翔一「明日に保留だ! 今日は今日で思い切り楽しもーぜぇ!
   いろいろ準備もあるからなっ! 安心しろ、きちんと勝負方法は考えておく!」
冬馬「僕も及ばずながら手伝いましょう。面白そうですし」
卓也「それって僕にも出来ることかな。だったら手伝うよ」
準 「おーお、雲行きが怪しくなることこの上ないメンバーだねぇ」
大和「……そこはかとなく不安だ……」
百代「ということで今日は遊び倒すぞー!」

 黒い年長者は特に気にせず川に飛び込んでいった。
 足を水に浸すヨロコビを知ったようだ。まあ、ほっとこう。

百代 「おいヒロ〜、お前もこい〜っ、来て、お姉さんの濡れた足に興奮するがいい〜」
中井出「どんな趣味してんですかモモの中の俺は!」
百代 「エロマニアだな」
中井出「ようし上等だそこ動くなテメェエエエエ!!」
百代 「熊で肩慣らしして、アウトドアで開放的なお姉さんに勝てるかなっ!?」

 能力を使うわけにもいかんので、ステータス移動だけで向かいましたさ。
 既に生きた年月がレベルであるようなこの博光! 容赦せん!
 そんなわけでバトりました。回復などは使えないから、防御重視の戦いになったが。

中井出「亀田バスター!」
百代 「甘いっ! 一人タイガースピン!」
中井出「ぬおっ!? ギャーーーッ!!」

 なもんだから、ここぞという力が必要な時に技を返されたりして、それはそれで面白かった。
 つーかやっぱり瞬間回復卑怯だって!
 僕がどれだけ攻撃当ててもすぐ回復するんだもの!
 こちとら能力使いたくないから、どんどん疲労していくってのに!

百代 「お前の欠点を見つけたぞー……マナが無いと疲れやすいってことだ。
    無駄な動きが多いからな。これが鍛えた者と鍛えてない者の差だな」
中井出「無駄な動き……? 違うな。
    俺のは無駄な動きという言葉で片付けたいものではない。
    俺のは無駄に洗練された無駄のない無駄な動きで片付けて頂きたい!
    さあここで問題だ! 今俺は何回無駄と言ったでしょう!」
百代 「えっ……あ、あー……その、……」
中井出「いぃいいーーーーまぁーーーだぁあーーーーっ!!」
百代 「なっ!?《ボグシャア!!》ぶるはぁあっ!!?」

 悩んだ隙を突いて不意打ちナッコー!!
 外道!? おうとも僕外道! 褒め言葉どころではない、呼び名ですらあるわ!!

中井出「ゲハハハハ! 正々堂々など俺以外の全てがすればいい!
    お行儀いいままで今までの世界を生きれるものですか!」
百代 「同感だ! そして外道は相手にする分にはぞくぞくくるんだ!
    今さらお前に変わられても私が困る!!」
中井出「ゲゲェもう復活しやがった! ち、ちくしょう卑怯だぞてめぇ!!」
百代 「はっはっはー、この能力についてのその言葉は聞き飽きたな〜っ」

 ステータスだけの戦いでも、結構どころか異常バトルにゃなります。
 ただし人器が使えないからどうしても凡人な僕のまま。
 つーかモモがどうかしてるんだと思います。
 瞬間回復のお陰とはいえ、こうまで食い下がりますか普通。

中井出「バッスー・ピンコオ拳!」
百代 「それはもう見切っている!」

 突き出した掌底が、手首を掴まれることで防がれる。
 だが掴んだことで発動させた渋川流がモモの体を宙に舞わせ、一気に地面へと落下させる!

百代 「よっ……っとぉっ!」
中井出「なんと!?」

 しかしモモは地面に自分の手一本を着くことで勢いの乗った自分の全体重を支えて見せ、逆に僕を逃がさんようにしっかりと手首を掴んだまま、ブレイクダンスみたいに回転して蹴りを放ってくる。

中井出「ジョイントフェチの誰かさん流関節外し!」
百代 「《ゴキンッ!》つっ───!?」

 俺の手首をしっかりと掴んでいるモモの手と肘の関節を外し、軸を崩す。
 するとモモは蹴りの遠心力の分だけ腕を捻らせ、苦痛の声をあげるが───放さない!? ちょっとお待ちなさいどんな根性してんのキミ!

中井出「当てが外れ《バゴォンッ!!》べばっ!? 〜〜〜〜っ……ぬおおおおおっ!!」

 驚いているうちに顔面にヒットする蹴り。だがしかしそんな足にかじりつき、首の筋肉でもってモモを振り回し、地面に叩きつける!
 そうすることで手首を掴む手はようやく離れ、モモは起き上がるついでみたいにさっさと関節を直してしまった。

中井出「………」
百代 「……ここまで保ったのは初めてか?」
中井出「いつもはすぐに気絶させてたからねぇ……今の僕にそれだけの“能力は”使えん」

 なにせ、生命維持にだってマナと癒しを使ってるんだ。
 ここが自然に囲まれてるからってマナが豊富かといったらそうでもない。
 だから無茶すれば最悪消えかねないから、能力は極力使いません。

百代 「じゃあ今日は、とうとう私の勝ちで勝負を納められるってことかな〜……♪」
中井出「ジョセフ=ジョースター」
百代 「? ───あ」

 一言を贈ってからは遠慮しなかった。
 56億にも至るレベルをそのまま解放するつもりで疾駆。
 腹に拳を埋め、体を折ったところへ顎へハイキック。
 脳を揺らしたソレに次いで喉に親指を埋め、咳き込んだところへ胸の中心へと掌底を叩き込んだ。一気に両の肺が衝撃を受け、咳き込んで吐いた分の酸素が散ると、今度は息を吸いづらくなり呼吸困難へ。

中井出「はい。相手が勝ち誇った時、既にそいつは敗北しております」

 酸素を求めてうずくまるモモの項に手刀を落として気絶に導いた。
 咳きこまなければスッと酸素が入るっていう、困った人体機能を利用させてもらった。
 だから気絶してしまえば案外落ち着く。
 意識として酸素が足りないって体が跳ねるから、仕方ないっていえば仕方ないけど。
 勝てる〜なんて思うから心の尖りが丸くなるんじゃよモモさん。
 もっと尖ったまま突っ込んでくれば勝てたやもなのに。

中井出「キツケのツボは……ここだな」
百代 「《ゾスッ》あうぅっ!?」

 背中の肩甲骨の下あたりに指をゾスッと刺すと、モモの体が跳ねた。というかめっちゃ痛がってこちらを睨んでくる。
 ……んん? 間違えたか? まあでも起きたからオーライ。

中井出「ほぅれ、まだまだ今日という日は……長くもないか。だが遊ぶぞ力の限り!
    つーかさっきから京がエモノを狙う目で僕のこと見てるから、ちと宥めてくる」
百代 「うう……負けてボロボロな私にフォローはないのかよー……」
中井出「ふっかけるきっかけはほぼキミなのに、何故俺がフォローせにゃならんのです」
百代 「美人のお姉さんが弱ってるんだぞっ、なんかこう、クるものがあるだろっ」
中井出「なるほどっ! トドメさしていいかモモ!」
百代 「……それは弱った美人のお姉さんに対する反応として合ってるのか?」
中井出「万物の正解は万物が決めます。だからな、モモ。
    こういう時は胸張ってこう言うんだ。合っている!!」
百代 「いやいやちょっと待てお前弱った相手をそんな《ドスッ》はぴゅっ!?」

 再び手刀を落とした。
 さてと、瞬間回復の賜物か、今度は気絶しなかったモモをタワーブリッジで抱えつつみんなのもとへ。恥ずかしがろうが知ったことではございません。人をエロマニア扱いするからバチが当たったんじゃ!
 てな感じで昼も夕方も平穏無事に過ぎ、賑やかなままに夜へと移行しました。


───……。


 そんなわけで夜である!!
 女衆が思い思いに行動している今が好機! 全軍打って出る!!

岳人 「軍師担当が二人も居てくれりゃあ心強いぜぇ……!」
大和 「風呂場は覗きたい……だが、俺はそこまでエロくはない」
冬馬 「けど、モモ先輩に抱きつかれ、
    胸をぐいぐい押し付けられるのは好きなんですね?」
大和 「な、何故それを!」
岳人 「あれ羨ましいんだよな〜……っとと、話はいいから早く行こう」
中井出「うむ。今なら京もユキも居ない。ワン子も備え付けゲームに夢中だしな」

 まゆっちはクリスとお土産の再確認をしている。
 エーデルさんを発見したことで、クリスにもお土産ソウルが湧き出したようだ。

卓也「これだけ大人数でいって大丈夫かなぁ……」
準 「嫌ならやめてもいーんだぞ、少年よ。
   だがな、少年じゃなく青年だと己を語れるのなら、
   平穏よりも大死を抱いてみなさいよォ。そこで見える世界ってのがきっとあるぜ?」
卓也「話だけ聞けば綺麗なのに、することが覗きなんだもんなぁ……」

 だが、なればこその覗き。
 大志でなく大死を抱く。それ即ち見つかることは死へと繋がる。
 それを知っていてなお突き進むことに意味がある。あるならば進むのみ!
 そう、これは言わば男の祭り! 男だらけのカーニバルやでぇ!

中井出「男はパンケーキの如く純情たれ! さあ行こうぜみんな!」
総員 『応ッ!!』

 僕らはそれぞれの顔を見て、同時にうんと頷き───部屋を出た。
 のだが、旅館を出る前のロビーにて、閻魔様に出会った。

百代「聞ーいーたーぞー……♪ 覗きだ覗きだー……♪」

 ───モモである。
 ロビーで胸の下で腕を組み、どこぞのオーガのように髪の毛をざわりざわりと揺らしていた。

岳人 「大和! いきなりラスボスが出たぞ!」
大和 「どれほど難度が高けりゃこんな所業が許される!」
中井出「お、おのれ妖怪! ───ガクト、ここは俺が食い止める!
    お前はその目で楽園を見てくるのだ!」
岳人 「ヒロ……てめぇってやつは……!
    必ず戻ってくるからなっ! それまで死ぬんじゃ───」
百代 「私も行こう《キリッ》」
総員 『───へ?』

 ……エ?

中井出「今……なんと?」
百代 「私もねーちゃんの裸を覗きに行くと言ったんだっ」
中井出「覗きに…………マジすか」

 馬鹿な……いきなりラスボスが仲間になったって状況だぞこれ。
 じゃあラスボスとか山場はどうなるんだ?

岳人 「おいおい……いきなりラスボスが仲間になっちまったぞ……?」
卓也 「なんかもう展開がいろいろ滅茶苦茶でついていけない僕がいる……」
準  「だが考えようによっちゃあ、これでもう敵は居ねぇってことになるな。
    おいおいおいぃ、これ本気で行けるんじゃないの? 俺たちのエルドラドへ」
百代 「ロリ目的のお前とエルドラド一緒にされたくないぞ私は」
総員 『同感……』
準  「どうして真実はいつも迫害されるんだろうーなぁ……」
中井出「嗜好の真実が人の数だけあるからさ、きっと。だがここに───」
岳人 「ああ、ここに───」

 ロビーの中心で愛を叫ぶ……もとい、叫んだらバレるから、無言で手を伸ばす男衆+女1人が居た。円陣となって、決意を新たにこくりと頷く。
 みんなの顔は……とても凛々しかった。


───……。


 ガサガサと、草を掻き分けるように進む。
 山の下の旅館といってもあくまで俺達が泊まる場所よりは下というだけで、結構な高さの位置にあったりする。
 そこまでの山道を、下見済みの大和と冬馬が的確に指示し、通り易い道をゆく。

準 「けどモモ先輩? なんだって覗きなんかする気になったんですか?
   女なんだから一緒に入っちまえば済むことじゃないすかね」
百代「私は視姦がしたいんだ。こう、無防備な肢体を舐めるよォにねっとりとぉお……!
   ……なのに視線が露骨すぎるのか、みんな離れていくんだ……。
   だったらもう……覗くしか、ないだろう?《キリリッ……!》」
準 「心がある意味雄ですね。俺はどうしてこんな人とラジオやってんのか解りません」
百代「うるさいぞロリッパゲ、それは私の台詞だ」

 どっちもどっちだと思う。
 そんなアイコンタクトを、こんな暗がりでも受け取った男衆がこくこくと頷いていた。
 さて、そうこうしてるうちに山の下の旅館が見えてきたわけだが。

百代「ど、どこだ? どこで覗ける……!」
大和「あんま興奮しないで姉さん。すぐ近くにセンサーがある筈だから。───モロ」
卓也「うん。あのテのタイプは前面には強いけど、それだけだよ。
   横とか後ろには滅法弱いね」

 モロがノートパソコンを開いて、既に取得していたデータを開いて説明してくれる。
 その画面を僕も見ながら、なるほどと頷く。

中井出「では……リスの皆様、お願いします」
リス 『ギチュウ』

 リスにお願いして、装置を固定しているぐるぐる巻きのテープなどを噛み切ってもらう。
 で、それらが同時に一対では無くなったところをモモと一緒に超スピードで回収、バックパックに突っ込んで霊章に仕舞い込んでしまう。
 グフフ、これで警報は鳴らせぬ……!

岳人「ト、トトトトーマ、ヤヤヤ大和、他に、他に装置はっ?」
大和「声大きいぞ、もちっと抑えて……。モロ、ノーパソの光くれ」
卓也「うん。これでいい?」
大和「おっけ。っと、こことこことここを潰したから、あとはこの死角の……」

 ノーパソの明かりでスケッチブックを照らし、描いておいた位置を特定。
 それらを俺とモモで潰して、人の気配察知は準に担当してもらう。
 誰か来たら引き付けて、ガクトがハンサムラリアットで沈める。

大和「……よし。これで大丈夫な筈だ」
冬馬「大和くん、こんなセンサーの配置の場合、この部分も少し気になりませんか?」
大和「それは俺も思った。けど、探してもなにもなかったろ?」
冬馬「備え付けとは別に、夜につけるものなのかもしれません」
大和「なるほど。注意して、しすぎるということはないってやつか」
冬馬「ええ、そういうことです」
大和「というわけでヒロ、柵の右側。その妙にぽっかり空いた空間、なにかないか調べて」

 オウ? おお、お安い御用さ。
 リス達にお願いして、センサーの密集具合とは別に、なんだか妙に空間が空いている場所を調べてもらう。
 するとどうだろう。そこには妙な黒いものがあるというではないか。

卓也 「どうしたの、ペンなんか出して」
中井出「リスたちや自然たちの声をもとに、絵に描きだしております。
    えっと…………黒、四角、その先には妙な丸いものがあって……」
卓也 「わっ、これって監視カメラ……!?」
中井出「人が通りやすいところには、人物特定のためのカメラか。やるなぁ」
卓也 「そう言いつつ描いてるカメラのレンズをガクトの顔にするの、やめようよ」
岳人 「ハンサムだな《ニコリ》」
百代 「撮られたヤツが全員そっぽ向いてそうなカメラだな……」
大和 「あ、それ俺も思った」
岳人 「うるせーよ……っ!!」

 おお、きっちり声を抑えた。
 さすがだガクト、エロのことになると自分を制御できるのか!
 なるほど、いつか大和が言ってたな……。
 人間、なにか1つでも秀でたものがあればそれでいいのだと。なんかそれっぽいことを。
 つまりガクトにとってのそれは……エロなんだなぁ……。

百代 「で? どうなんだ?」
中井出「監視カメラだからな、絶対に見ている人が居る。
    今のところ目立った動きをしてないし、
    感づかれるほどゆったりと行動してないからからバレてないけど……
    こりゃのんびりしてたら捕まるかもしれねぇ」
百代 「じゃあリスにレンズの上に落ち葉でもかけてもらうか?」
中井出「それこそ人が来るよ」
岳人 「んじゃあカメラを再起不能にして、駆けつけたやつらもノしちまうとか」
中井出「旅館の信用問題に関わる。
    エロスに目を向けてばかりで、旅館の人のことを考えないのはいけないことだ。
    女湯を覗く時はね、誰にも邪魔されず自由で……
    なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」
百代 「なんだ、えらく真面目じゃないか。普段の外道宣言はどうした?」
中井出「男ってのは風呂と便所では“紳士”にならなきゃいかんのさ」

 というわけでアレをどうするか。
 ショートさせて黙らせて、調べに来て戻るまで待ってをしたとして、そんな騒ぎが柵の外から聞こえりゃ風呂入ってるおなごも気味悪がって風呂を出るだろう。
 ならばどうするか?
 ……どうしましょう。

中井出「い、いや、方法が1つだけあった。かなり危険な方法だが……」
岳人 「おおっ……! もう覗けるならどうでもいい、やってくれ……!」
中井出「すごいドスケベ根性ですねガクトくん……!」
岳人 「楽園がすぐそこにあるなら、覗かないわけにはいかないだろう?《ニコリ》」

 物凄いハンサムフェイスだったという。
 なのに言ってることがアレなのは、男の悲しいサガとして受け取りましょう。

中井出「いいか? まず俺が絵を描く。
    リスや自然に聞いた通りの“カメラが捉えている風景”を精巧に描く。
    それをカメラの前に括り付けるんだ。
    ソレがおかしいと感づかれるまでは、安心して覗ける……!」
岳人 「でもお前、べつに絵の才能とかないだろ……平気かよ」
中井出「まあ落ち着きめされい。今、INTとAGIにステータスを割り振った。
    頭を回転させて、どこにどうペンを滑らせれば絵になるのか、
    それを巨大図書館から検索している。
    能力は一切使わずに、しかし引き出せる我が全てを以って……!」

 ノートパソコンの光がぼんやりとスケッチブックを照らす中、僕は手を動かした。
 光具合もきちんと精巧に描き、遠近法もきちんと精巧に……う、うむむ、これは難しい。
 しかしながら、出来上がってみれば結構な出来栄え……なのだが、どうにも光の都合上、カメラの前に設置しても真っ暗にしか映らなそうなのだ。

中井出「ぬう……どうする───はうあ!」
大和 「静かにっ……! ど、どうしたヒロ」
中井出「ソ、ソーリー。ほら、あれですよ。
    まずリスたちにカメラの向きを変えてもらいます」
百代 「でもそれだと人が来るだろ」
中井出「うす。だが向きを変えた先で、小動物達に和やか劇場を繰り広げてモラウノデス。
    本日の監視役が動物嫌いでない限りはしばらく動きを封じることが出来る……!」
準  「おお、幼女の動向に目が行って、動けなくなるのと同じ原理だな」
百代 「だから、それと一緒にするなって……」
冬馬 「しかしなるほど、嫌いでもない限りは多少は見ていたいと思ってしまう筈。
    地味な選択だとは思いますが、
    むしろリスが勝手にやったことだと受け入れるしかありません。
    なにしろ私達ではリスと会話出来ませんし」
大和 「だな」

 ならばOK?とみんなに目配せをする。
 全員が頷くのを見てから俺はリスの皆さんにお願いし、カメラの向きを変え、そこでドーブツ奇想天外劇場を繰り広げてもらった。

中井出「ガクトくん! 今!」
岳人 「おうっ!」

 そしてガクトが走り出した。
 否、男たちと女1人が駆け出した。
 夢、野望、様々な思いを胸に秘め、柵の先の楽園へと───!!

  ズボォッ!

岳人「うぉおあっ!?」

 だがしかし、やはり楽園への扉は強固なものであった。
 あと一歩のところ……いや、むしろ柵に張り付くくらいに近寄らなければ引っかからない位置に、なんと落とし穴! 見事に楽園満喫気分から落とされたガクトは当然のごとく叫んでしまい、落とし穴の中に仕掛けられていたのか、高鳴る警報装置!

百代 「───! 人が来るぞ……! 6人くらいだ……!」
準  「対応早すぎだろおいィイ……!!」
冬馬 「ともかく散りますよ。みなさん、ご武運を」
卓也 「まあなんとなく、上手くいかない気はしてたけどさ」
大和 「いいから走ろう、見つかるとシャレにならない」
中井出「モモ、大和とモロをよろしくっ……! 準はトーマを頼むっ……!
    俺はガクト回収するから……!」

 小声で話し合い、一気に散る!
 俺も他の心配はしてられません。
 見た後ならともかく、見る前に捕まるのは対価に見合いませんので意地でも捕まらぬ!
 そんなわけで各自が風のように走り、リスさんたちに警報装置を元の位置に戻してもらいつつ、僕らの熱き夜は過ぎ去った。


 ……その後。
 僕とガクトを除く男衆が、逃げるために旅館下の川に放り込まれた事実を知りました。
 ええ、実行犯はモモですが。逃げた方向がマズかったらしいです。
 結構な高さから5月の川に放り込まれた男衆はひどい思いをしたらしく、見事逃げおおせた首謀者ガクトをよってたかってリンチした。
 まあ……これも青春、なんでしょうか。




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