【プロローグ19】

 明けて翌朝、旅館で迎えた明るき時間。

大和「にぁああああっくしゃいっ!! っくしゅっ! えぇーーーっくしゅ!」
冬馬「けほっ! けほこほっ! えっほっ!」
卓也「げほっ! ごほっこほっ!」

 ……先生、お元気ですか? 博光です。誰だ先生って。ちなみちゃんでいいか。
 ちなみちゃん、あまり鍛えておらぬ三人が風邪を引きました。
 今現在、布団に寝かせて様子を見ているところアマス。
 やあ、なんか並んだ布団って心トキメくよね。どうしてだろ。
 やっぱ普段出来ないことだからかな。こう、並んだ布団の上でゴロゴロしてー。そんなマイハートが燻るから火をつけるのだと思います。

中井出「普段から体鍛えて体温上げておかねーからそんなことになるアマス。
    ほれ、これ飲みんしゃい」

 創造は負担がかかるので、バックパックから取り出した薬草等をすり潰して薬にしたものを、水と一緒にハイと渡す。
 ほんと、不便なもんです。
 マナや癒しが無ければな〜んも出来ないんだもの。
 でも、“だからこそ人間”って感じはするね。

大和 「うう、いつもすまないねぇ……」
中井出「すまねぇって思うなら“いつも”にしない努力をしやがれスットコドッコイ」
大和 「かつてない切り替えしを受けた……」

 いいえ? スットコドッコイは褒め言葉です。
 ユーアーベリースットコドッコイ。
 そういえばスットコドッコイってどういう意味だっけ?
 
中井出「能力みたいに一瞬にしてってのは無理だが、薬としての即効性は無類だと思う。
    今日の決闘にはきっちり間に合うさね」
大和 「じゃないとさすがに困るよ……う、うぅう……だるぃい……」
中井出「まあ……お約束ってやつだろ。
    男が女湯覗こうとして、いい結果のまま終わるなんてまずないってことだね。
    そしていっつも得をするのは主人公ばかりなのさ」

 ちなみに僕はどう考えても脇役Aで終わりそうな僕なので、そんなゴッドからのギフトなんぞございません。勝手にやった行動が誰かの未来に偶然繋がったとかで、美談を少々残して勝手に死ぬような役どころだろう。
 ……実際、そんな感じの道を歩いちまってんだから笑えない……ところを笑うのが───そう、僕だ。などと妙に気取ってないでと。

中井出「で、さっきまで居たキャップは?」
岳人 「お前が水取りに行ってる間に“モモ先輩と打ち合わせしてくる〜”って出てった」
中井出「あらそう」

 元気ね、キャップとモモったら。
 でも博光解ってる。ここで“あれで結構お似合いなんじゃ”とか言うのは地雷さ。
 似合うかどうかは当人の問題であって、僕らが茶化していいことじゃないのさ。
 もちろんカップリャが出来たら盛大につつくけど。
 しかしそうかぁ……ふむ。ならばパンパンと手を叩いてハイ一言。

中井出 「誰かある」
京&ユキ『《ズシャアッ》ここに』
中井出 「ほんとに居たの!?」

 なんと! 声を出してみれば、押入れの戸を開けて現れるおなごが二人!
 つーか朝っぱらからなんつーところに潜んどるのアータら!

京  「あなたの妻が召喚により馳せ参じました。
    用件はあらぶる肉体のぶつかり合いですね?
    じゃあすぐその布団でしっぽりと熱い朝を……大和ちょっとどいて」
大和 「病人相手になんてひどい!」
京  「まあ冗談。さすがにそこまで鬼畜じゃないよ。
    ファミリー以外になら平気でやるけどね」
中井出「うむうむ、いかなる時でもふざける余裕を心に秘める。いいことだ」
京  「おおっ……褒められてしまいました。
    もしかしてお兄さんは京にめろめろですかー?」
中井出「妙な声色使わない!」
京  「声が似てるってステキ」
小雪 「僕は僕のこと、シャオって呼べばヒロミツは喜ぶ?」
中井出「ユキはユキです」

 溜め息ひとつ、きっぱり返す。
 さて、誰かを呼んだのは他でもない───いや、まさか押入れから来るとは思わんかったけど、他でもない。

中井出「ちょいとメシをいろいろと持ってきてはくれまいか。
    ヴァイキング形式だから好きなだけ取れるし」
京  「あなたの食事になりたい」
中井出「人を食べる趣味はございません。じゃなくて、食わせるのはこの三人にだよ」
京  「《がーーーん!》ひ……ろ……みつ……?」
中井出「誰がキミを食わせるとか言いました!?
    つーかもうなんでショック受けたのかが解る俺も、
    なんかもういろいろと引っ張られてきた感がいなめーーん!」

 でも大事だからこそのこの勘違い……だと思いたいです。
 くそう、手が込んでくると普通の対応じゃあ躱しきれなくなる。

京  「少しずつ仕込んで、いつかウンと頷かせる。
    知らずに少しずつ侵食されるあなたが好きです」
中井出「ありがとう家族愛。
    もう俺が取ってくるからユキ、京と一緒にこやつらの様子見といて」
小雪 「それなら僕がいくよー。ヒロミツとミヤコはぁ、ここに居てー?」
中井出「どっかからマシュマロ取ってきそうだからダメ」
小雪 「うーうー」

 危なかった、どうやら図星だったらしい。
 ユキは少し恨めしそうにこちらを見てくるが、僕の隣に座る京の隣……まあ、立ち上がった僕が座っていたところを軽く促すと、大人しくそこに座りもうした。
 根は素直なのになぁ、どうしてこう妙なところでマガっとるんでしょう。
 ……俺の所為以外のなにものでもないね、ごめんなさい。
 ともかく、薬を先に飲ませた三人の分の食料調達に出る。
 ヴァイキング形式ってのはこういう時、ありがたいやね。
 三人の嫌いなものをとことん持っていこう。
 酷い? 違う、僕のは外道です。

中井出「というわけで持ってキタヨー」

 ガクトにも手伝ってもらって、こうして持ってきた料理。
 こいつを……混ぜます。

中井出「ハリケ〜ン・ミキサ〜〜〜ッ♪《ぺぺらぺ〜♪》」

 バックパックからミキサーを取り出す。たとえ僕の武具から意思が消えてしまったのだとしても、その頃まで散々と詰めたこのバックパック、ドラえもんのポケットよりも優秀であると断言したい気分でありたいというかなんというか。
 ええとまあその、まずはこれに、大和が嫌いなものを全部入れてシェイク。容器に移し、次にモロの嫌いなもの、冬馬の嫌いなものをシェイクして、それぞれを容器に移した。
 ふう……すげぇ匂いダゼ。

大和 「……病人の前でそういうことするか……」
中井出「“僕の信頼=無遠慮”ですんで。大体キミら固形物とか食えそうにないし。
    今、先に飲ませた薬が腹を空かせようと頑張ってくれてると思うから、
    とりあえず体起こしなさい」

 寝ている三人をよっこいせーと起こして、ハイと渡すはカオスドリンク。

大和「むあっ! しみるっ! 涙出てくるぞこれ!」

 大和はそんなシェイクドリンクに目を潤ませて感動していた。

中井出「心に響くやさしさがある。そのやさしさ、プライスレス」
大和 「嫌いなものの匂いしかしないぞこれ!
    しかも相乗効果で匂い嗅いだだけでもえずくっつーか《ごぽり》フヴゥッ……!」
中井出「大丈夫! キミなら出来る!(Yes You Can)」
大和 「うおおこのやろ人が弱ってるからって……!」
中井出「ちなみに飲み干すまでずーっと見てるからなーーーっ!
    ズルしようったってそうはいかねーーーっ!!」
卓也 「画太郎先生の“ドラゴンボール外伝”思い出すなぁ……げほげほっ」
中井出「どれ、熱は?」
冬馬 「ああはい、体温計です……こほっ」

 冬馬がハイと差し出す体温計を受け取り、確認。
 ふむふむ……8度7分か。なるほど風邪だ。
 でも体温が上がれば上がるほど、体内で組織が戦っているのだと誰かが言っていた。
 治ろうと頑張ろうとしているってことですね、頑張りめされい肉体組織。
 その回復を助けるためにも、このシェイクは必要な栄養をたっぷり含んでおりマッスル。
 なにせ飲めば、必要な栄養を先に飲ませた薬の成分があっという間に吸収、体内に行き渡らせてくれる。

中井出「大丈夫だ、39度6分出しても仕事して、
    ゲロぶちまけても平気だった馬鹿を俺は知っている」
卓也 「ぶちまけてる時点でいろいろアウトでしょ! 〜〜〜げほっ! ごっほげほ!」
中井出「あぁこれこれ、無理をするでないよ。まあともかくそれ飲みなさい。
    カロリー計算もバッチリ! 朝に必要なエネルギーが摂取できるぜ!」
冬馬 「……いただきましょう。良薬口に苦し…………いざ!」

 冬馬が容器を両手で掴み、一気にいく!
 味わわないように一気飲みだ! あ、でも拒絶反応起きた。体がビクゥッて跳ねた。
 ……おお! それでもいった! トーマがいった!

冬馬「〜〜〜っ……ぷはっ……う、うヴッ……!!」
京 「日々常にエチケットを大切に」
小雪「トーマー? エチケット袋だよー」

 飲みきった冬馬にへと、家族がエチケッツ袋を差し出す。
 しかし冬馬はスッと手を上げそれを制し、遠慮した。

冬馬「うっ……、うぶっ……い、いえっ……それにはっ……ヴッ……およびません……!」
京 「涙目でそんなこと言われても」
冬馬「ふ、ふふ……たまには男の子も見せなければいけません……。
   それをしてこそ男性にも惚れられるという……も───の…………《どしゃり》」

 葵冬馬…………殉職。じゃなくて気絶。
 顔を青くし、しかし笑顔のままに布団へと突っ伏した。

小雪 「お〜……トーマが男を見せた……」
中井出「男だな……敬礼ッ!《ビッ!》」
岳人 「だははははっ、んじゃあ飲めないこっちの二人は男じゃねぇのか」
大和 「───《ピクッ》」
卓也 「───《ピクリ》───二番師岡卓也、いきます!」
大和 「なんの! 直江大和! 推して参る!!」

 ガクトの言葉にピクリと肩を震わせた男二人も一気にいく!
 しかし一口目からモロの動きがビクゥと止まる!

岳人「おぉっとぉ? 先に男失格になるのはモロくんかなぁ〜?」
卓也「《ムカリ》〜〜〜っ……う、うえっ……けほっ!
   の、飲むよっ! 飲めばいいんでしょ!? んむっ……ん、んんーーーーっ!!」

 もとはと言えばガクトが覗きに行こうなんて言い出すからでしょって顔でガクトを見て、モロが再び一気にいく!
 その間にも大和はごっふごっふと飲み干し、容器をダンッと畳みの上に置きながらサワヤカな笑みを浮かべた。
 …………直後にぐしゃりと、糸の切れた人形のように倒れたが。
 そしてその隣では、ごくりと飲みきったモロがにこりと笑顔を作り……ガタガタと震え出して、口の端から危険な汁をブシュッ、ブブシュッと噴き出し始めてオワァアーーーーッ!!?
 ……!? いや! 飲み込んだ! 踏み止まった! 踏み止ま───……あ、倒れた。

中井出「そして誰もが滅びていった……。
    ワンリトール・ツーリトール・スリーリトール・インディアンズ♪」
小雪 「フォーリトール・ファイブリロール・シックスリトール・インディアンズ♪」
京  「セブンリトール・エイトリトール・ナインリトール・インディアンズ♪」
中井出「テンリトール・インディア〜ン・ボーイズ♪」

 そして誰も居なくなった。
 あとに残るは、シェイクの臭さと遺体にも似た、動かない男三人。
 僕と京とユキ、そしてガクトは、ただ静かに彼らの生き様を見届けた。

岳人 「……全員気絶しちまったが、そんなにマズイのか?」
中井出「人によっちゃあ好物かも。ただ三人の嫌いなものをとことん混ぜただけなので。
    で、クリスのほうはどう? 探してみたけど見つからんかった」
岳人 「準とワン子とまゆっちがなんとか食い止めてるぜ。
    風邪引いた〜なんつったらクリス、絶対に戦わねぇだろうからな」
中井出「おおさすが。親睦深めるためにも、ぶつかり合いはやったほうがいいしね。
    “私闘は面白いのでガンガンやれ”ってやつだな」

 うむ。気絶は予定通りとして、今は他に体力を使わせるわけにはいかん。回復にだけ力を使ってもらうとして、目覚めるまではとことんクリスをここには近寄らせん!
 よしそれでいこう。

中井出「京、ユキ、参ろう。クリスにこの事実を知られてはならぬ」
京  「同じ部屋で寝たのに気づかないクリスも結構抜けてるよね」
中井出「旅行というものが騎士を子供にさせたのよきっと」
岳人 「ま、ヒロほどじゃあねぇと思うけどな」
中井出「押忍! 全力で楽しんでます!」

 テンションおかしくなったし。
 まあ僕のことはヨロシ。ともかく今は大和復活まで時間を稼ぐのだ!
 クリスのことだ、きっと大和が起きだしてこないのは、だらしがないからだ〜とか思っておるに違いねー。それを存分に利用させてもらうぜ〜〜〜っ!

……。

 ジャーーーン!

中井出「イデオン合体!」
京  「Aメカ」
小雪 「Bメカー!」
岳人 「重機動メカ!」
クリス「………」

 やあ僕博光。
 今日はそう、そんなこんなでやってきたヴァイキング食堂からお送りするよ?
 するとどうでしょう、さっきは居なかったクリスが居たので、ガクトと合体劇場を繰り広げてみたのです。準とワン子とまゆっちは居ない様子です。メシ食うなら安心だって踏んだのかな。多分今頃部屋に戻っておるでしょう。
 ……ちなみに合体っていっても、ただ肩車してるだけですよ?

クリス「お前ら……食堂に肩車で入るなど非常識にもほどがあるぞ!」
中井出「常識破壊が好きだから、非常識こそを愛します。最強」
京  「世の中、馬鹿の一歩先に辿り着けたほうが楽しいこともある」
小雪 「すごいだろー、ヒロミツは馬鹿の最高実力者なんだよー?」
中井出「すげぇだろ」《どーーーん!》
クリス「それは身内への言葉として適切なのか判断に悩むが……」
中井出「褒め言葉ですとも。馬鹿だと自覚して、尚且つ周りに遠慮せぬ心があれば、
    これで案外無遠慮ってのも面白いもんですよ?
    映像みたなら解ると思うけど、
    原中時代なんて仲間にクズがカスが外道がとか言うのなんて普通だったし」
クリス「あ、ああ。あれは驚いた。侮辱されても笑っているんだからな」

 侮辱も侮辱ととるかどうかだもんね。
 我ら原中の場合は、語調でそれが本気かウソかを見極めてたし。
 “黙れクズが! 死ね!”なんて何度言われたことか。

中井出(……ほんに、楽しき時代であった)

 やつらに会う方法が全く無いわけじゃないんだが、無理すぎて逆に期待できない。
 ようはドリアードが世界に忘れられ、最果てに辿り着けばいい。それだけだ。
 意思の全ては武具から外され、結果として俺から離れたカタチあるモノ───つまり“ドリアードの核”に全て移った。だから最果てだろうがどこだろうが、ドリアードと出会えれば、やつらとはまた出会える。
 出会えるが……果たして俺が辿り着く最果てってのは弥勒に会いたくて辿り着いた56億7千万の時代の前か? 後か? そこにドリアードが辿り着けられる確率は? ……と、考えれば考えるほど可能性が低いのだ。
 第一、ドリアードはもう俺のことを忘れているし、そもそも彼女自身は不老不死では断じてない。……まず無理なんだよな。最果てが、行こうとしてすぐに行ける場所ならまだしも。しかも互いに、いつ忘れていつ辿り着けるのかも解らないなら、出会える確率なんてものはますます存在しない。

中井出(……しんみりはいかんね。元気元気っ)

 ズパァンと頬を叩いてギャアアアムと叫んでからの行動は早かった。
 ガクトを下ろして、ヴァイキングで納豆を探し、しかし無いことに気づくとがっくり。
 仕方なしにご飯と適当なおかずとで朝食を。もちろんその間中、クリスと話をして時間稼ぎをすることも忘れない。ウフフ、この博光の話術を以ってすれば、人1人をこの場に釘付けることなぞ───わけない事だわ!《ク、クワッ!》

中井出「うう……納豆食いたい……朝は納豆食いたいよぅ」
クリス「我が儘を言うな。
    食べられるだけでも恵まれているということを、自分達はもっと知るべきだ」
中井出「納豆って、こんな脂っぽいラインナップより贅沢なのな……。
    最近の納豆って、3パック69円だぞ……?」
岳人 「69という言葉にトキメキを隠せない俺様参上《ムキーン》」

 言葉だけで鼻の下を伸ばしながらポージングをとる筋肉がいた。
 うん、今朝もはよから実に善き筋肉である。
 だから食事中はやめてください。

中井出「……なんか実際に、“六条 紀由(ろくじょう きゆ)”とかいう名前の人がいたら、
    年中無休でガクトが興奮してそうだよね」
岳人 「さすがに似た名前で興奮なんざしねーよ」
中井出「相手が年上のグラマラス美女で、あだ名がシックスナインでも?」
岳人 「やべぇ勃った!」
京  「節操無しだね」
小雪 「あなたを救う拙僧はおりませんー」
中井出「ユキ、“せっそう”の意味が違う」
小雪 「石をぶつけるとポピーって叫ぶ」
京  「それはゾンビですか?」
中井出「それは摂政(せっしょう)です」

 家族間でよく解らん話をしながらの朝食は続いた。
 クリスはそんなよく解らん空気にぽかんとしながらも、なんだかんだと食事に付き合ってくれました。謝謝。
 現在、時刻は7時57分。
 バトルは9時を予定しているから、その少し前までは大和の体力回復を図る。
 なので───

クリス「ごちそうさまでした。よし、部屋に戻るか」
中井出「お待ちなさい!」

 ───部屋には絶対に行かせぬわ!

クリス「うん? 自分になにか用か?」

 席を立ち、部屋に戻ろうとしたクリスに待ったをかける。
 こういう状況でも踵を返すと言っていいかは解らんが、律儀に向けていた足をこちらへ戻してくれた彼女に感謝しつつ、さて。続く言葉はなにがいい。

1:パンナコッタナタデココナッツタピオカと叫びつつ、頭の上で合掌して腰を左右に振る

2:イデオン合体

3:日本について語ってみる

4:即興昔話で場を盛り上げる

5:9時まで気絶してもらうってのはどうでしょう

 結論:1

中井出「パンナコッタ・ナタデココ・ナッツ・タピオカ!!」

 頭の上で合掌! 腰を左右に振りながら叫んだ!
 …………冷たい目で見つめられた。

クリス「それはたしか……“僕の血を吸わないで”の某国の挨拶だったな」
中井出「え? そ、そう! そういえば朝の挨拶がまだだったことを思い出しましてね?」
クリス「ああ、挨拶は大事だな。だがここは日本だ。おはようと言うべきだろう」
中井出「出会いがしらにイデオンでごめんなさいでした……」

 森写歩郎は、なんつーか憎めないヤツでした。
 一緒に居ると楽って、素晴らしいことだね。それを言葉にせずに教えてくれる、ほんと愉快なヤツだった。感情に目覚めてから、もう一度会いたいと思うのはやっぱり未練かね。アイラブジャパンユーラブジャパン。

中井出「じゃあ……クリス、善い風。今日も善き風車日和であるな」
クリス「ああ、おはよう───って、おはようじゃないぞそれは!」

 はい、これはプリズムアークの世界の挨拶でおじゃ。
 いろいろな世界回ってるとね、いろいろと妙な挨拶ばかり印象に残るもんなんです。
 何気に気に入ってます、“善き風車日和であるな”は。

中井出「まあまあ。それよりクリス、面白いモンがあるんだが、ちょっと見てみない?」
クリス「面白いもの? なんだっ?」

 警戒もせずに表情を輝かせました。おおう、素直だ。
 ならばこちらも───誠意を以って応えねばならんなっ!
 いえまあ、大図書館から蔵書を取り出して見せるだけなのですがね? ともかく9時までは時間を稼ぐノデス。なんかもう9時に治るならそれでいいではないかとか言われそうだけど、このお子ってば“体調管理も出来ないとは情けない”とか言っちゃいそうだし。
 そういうことはもうちょい仲良くなって、遠慮って言葉が無くなってからでOKさ。

中井出「ではこれをどうぞ。晦が責任編集した、日本の歴史写真全集だ。
    遡ること何年前になるか解らんが、相当昔の日本の写真等がびっしりだ」
クリス「おぉおおっ! そ、それは素晴らしいなっ! 是非見せてほしい!」
中井出「そうか。では勝負だクリス!」
クリス「な、なに!?」

 手を伸ばしたクリスの手から逃すように、シェエエイと写真集を引く。
 戸惑うクリスに悪スマイルを送るとともに、きっちりと状況をお報せするのを忘れません。

中井出「グオッフォフォ……!!
    言い忘れていたが、これを見るには我らじゃんけん四天王に勝たなくてはならぬ。
    何を隠そうこの博光こそがじゃんけん四天王の1人、チョキ出しのヒロ!」
岳人 「宣言してる時点で負け確定じゃねーかよそれ」
クリス「───! ふ、ふふふ……そうか。生憎だが勝負と言われたからには退けん。
    なにより自分はそれを見たい! 退くことはしないぞ! 勝負だ!」
中井出「おお! ノリの良いお子でよかった! ならばじゃんけんだ!」

 川神の人、みな、いい人。ノリのいい人、ワレ、スキ。
 ククク、クリスめ……! この博光にじゃんけんを挑まれたことを後悔するがよいわ!

クリス(チョキ出しということはチョキを出すんだな。よし、楽勝じゃないか)
中井出「ではゆくぞ! あ、じゃーーんけーーん! ホイッ!」
クリス「はっ!」
中井出「………(チョキ)」
クリス「………(グー)」
中井出「…………負けました……」
岳人 「ほんとにチョキだしてどーすんだよ!」
中井出「う、ウルサイワーイ! チョキ出しのヒロと名乗ってチョキを出さないで勝つ!
    そんな悪の常識と戦う義務が僕の中で善しとなっただけだい!」

 あっさり負けた。
 うう、俺って弱ぇえ……。

中井出「だ、だが解っているだろう……! この博光は四天王の中でも最弱!
    あとに控える三人はこの博光を凌駕するチョキ出し三人衆よ!」
クリス「……四天王じゃなくなっているんだが?」
中井出「《ぐさっ!》ふぐぅ! しょうがないでしょ!?
    四天王になれたのが不思議なくらいの弱者とかいうフレーズを愛してるんだから!
    元々三人衆だったんだよ!
    そこに僕が参加して泣く泣く四天王になったって設定なんだもん!
    今考えたんだけどね!?」
クリス「忙しいやつだな……だが写真集のためだ、お前ら……覚悟するがいいっ!」

 クリスがキッと、京、ユキ、ガクトを睨む!
 でも僕はそんなクリスに待ったをかけました。

中井出「あの。やる気になってるところをごめんなさいだけど、
    あとの三人はこやつらじゃないよ?」
クリス「な、なにっ!? そうなのか!?」
中井出「考えてもみるんだ。
    四天王が一堂に会して、しかも都合よく一緒に戦うわけないじゃない。
    四天王は僕、準、モモ、キャップだ。ナンバーワンはキャップ。
    キャップに勝てたら他二人に勝たずとも写真集を見る権利を得られます」
クリス「そうなのか……よしっ、ならばキャップに勝負を挑む!」

 言うや、クリスは席を立ってズシャーーアーーーと走っていってしまった。
 ……しかし少しして戻ってくると、律儀に皿等を片付け、少し顔を赤くしながら去っていった。
 うん、途中で何かに気づいて戻ってくると、少し気まずいよね。

小雪 「アレ、いいの?」
中井出「いいのいいの。有り得ぬくらいに運が無けりゃあ、運勝負でキャップにゃ勝てん」
岳人 「だな」
京  「それを解ってて写真集をエサにするなんて……博光も結構Sだよね。でも好き」
中井出「Sっつーか、その場のノリが好きなだけですよ?
    悪いことしたら殴られます。あまりに理不尽なことには抵抗します。
    可愛いお子には旅させます。まあその、なんつーか、壮健ならばそれで良し?
    む……いかんな、また見守る側に立ってる気がする」
京  「博光の場合、立場じゃなくてそういう性格なだけだと思う。さらに好き」
中井出「性格ねぇ……まあ長生きもしたし、
    その前からも大抵のことは許せる馬鹿ではあったと思う。
    楽しいことが好きだったからね、それ以外に繋がることは割と気にしなかったね」

 などと言っておると、自分の分を食べ終えたユキが席を立ち、てこてこと歩いて僕の後ろに立つ。そして何故か椅子をぐいっと引くと、空いたスペースに割り込むようにして僕の膝の上に座った。
 ……甘えたいお年頃? いや、別にいいけど。

中井出「話は変わるけど、ガクトもたまには膝に乗ってみません?」
岳人 「どんな頭してりゃあそんな言葉が出てくんだよ!」
中井出「え? どんなと言われましても……」

 どんなだろ。
 少し考えてみるが……う、うむむ、よく解らん。
 解らんが、とりあえずは膝に乗ったユキの頭を撫でた。
 これはもうクセだね。俺、頭撫でるの大好き。様々な人々の意思を受け取った結果、これはもうクセ……いや、クセなんてものを超越したなにかになっている。
 でも恋心とかが溢れるか〜っていったら違います。
 大事にしたいとは思うものの、ライクから上にはいかないんだよね。
 そんな僕ですが、心を込めて言えます。ファミリーのみんなが大好きです。

中井出「や、ガクトも大事な家族ですから。あたしゃ家族は愛しますよ?」
岳人 「腕にすっぽり入るヤツが好きなんだろ?
    だったら俺様は腕に収まる器じゃねーな」
中井出「腕に収まらんなら霊章で収めるのみ! つーわけでカモーーーン!!」

 ユキを乗っけたまま腕を広げてカムオン! しかしガクトは嫌そうな顔で眉を八の字に顰めて「やめろ気色悪ぃ!」と仰った。

岳人 「抱かれるなら年上のお姉様って決めてんだよ俺様は!」
中井出「ならばここで俺が女化すれば、アルティメット年上お姉様!!」
岳人 「見た目も年上じゃなけりゃ断固として断る!」
京  「見た目年上なら誰でもいいんだ……ガクトがひどいこと言った。0点」
小雪 「そっかー、だからガクトはモテないんだね」
岳人 「うるせーよ! ほっとけっ!
    今はまだ俺様の魅力に全国の女どもが追いついてないだけだ!
    今に俺様の時代がくる!」

 これぞ、筋肉時代の幕開けである───!
 ええウソですが。
 さて、雄々しくポージングしながらメシを食うガクトはそっとしておくとして、さきほどからクイクイと僕の服を引っ張る京さんはどうしましょう。
 どうやら“好き”って言葉をとことんスルーしてるから、それが気になって……───あの? なんでハアハア言ってるんですか? ……ち、違うよ!? 放置プレイとかじゃないよ!? なんでそんな期待を込めた目で見るの!?

中井出「こ、こほん。ところでユキ? もうご飯終わったから降りません?」
小雪 「ねぇヒロミツ? スキンヘッドってどうしてスキンヘッドっていうの?」
中井出「うわーいいきなり全然関係ねぇ話題が出た!
    く、くそうこういう時にモロか準が居れば!
    だが身元引受人として、知識を教えるのはなんか義務っぽいソレ!
    スキンヘッドの由来を説明しよう!」

 ◆スキンヘッド
 反社会的に髪を剃り上げた人、という意味らしい。
 ハゲと言うならボールドヘッドと呼ぶほうが適切なんだとか。
 「アイアム……スキンヘッド!」と名乗ると、
 「フハハハハ! 我は反社会的なハゲである!」と叫んでるのと一緒なのだそうだ。
 というか相手の姿が見えない時以外でこんな自己紹介する人は居ないと思うので、
 頭を見れば一目瞭然ではあるとは思うのだが、
 自分はスキンヘッドですと説明する時は気をつけましょう。
 誤って使って、「ンマッ! この子ったら不良なのね!」とか思われたら厄介です。
 *神冥書房刊:『輝けっ! 青春っ!』より

 ……。

京  「どうせ輝くのは青春じゃなくて頭だろう、と思った人は挙手」
岳人 「はいよ。まぁ、ヒロだしなぁ」
小雪 「僕も思った。ヒロミツだもんねー」
中井出「うむうむ、以心伝心ってやつだね。家族愛って素晴らしい」
岳人 「その家族愛が行き過ぎて、お前までバイにならないことを祈るぜ……」

 微妙な顔で少し引かれた……ひでぇ。だがご安心。肉体関係には正直興味がございませんから平気ですハイ。
 体よりも信頼という名の心で繋がりたい……こんにちは、中井出博光です。

中井出「でも、実際どうなんだろうね? 彼女が出来たらなにかいいことある?」
岳人 「自慢できるじゃねーかっ!」

 引いた分を埋めても余るほどに接近してくるマッスル。鼻の下が伸びまくってて怖い。

中井出「いや……僕自慢とか考えなかったからさ。麻衣香とは腐れ縁で一緒になって、
    幼馴染の延長〜って感じだったし、自慢することじゃないわなぁ。
    ドリアードとは………………ほら。自慢出来るって空気じゃないだろ、あれ」
岳人 「あ、いや、まあ……なぁ……。
    確かに相手が眩しすぎて、自慢って空気じゃねぇなぁ。逆にお前が場違いだった」
中井出「でしょ!? そうだよね!? 自分で振り返っても“なんで俺!?”だよ!」

 でも好きです、愛してます。
 56億7千万、恋した歴史はハンパない。
 ええまあ、周りからはバカップルにしか見えんかったらしいのですがね。散々茶化されたさ、ええそりゃもちろん。バカッポーをほうっておくほど、我ら原メイツは暇人ではないのだ。
 あれ? 暇だからほっとかないのか? まあいいや、うん。楽しい時代だった。
 でも、過去をどれだけ振り返っても、今自分が立っているこの場が劣ってるなんて思えないんだから笑える。

中井出(んむ)

 俺は確かに“幸せ”ってものの中に混ざれてるんだと思う。
 思うだとか、だろうとか言ってしまうのは、幸せってものを確かめる術がないからだ。
 調べることが出来るのなら、メーターなんて振り切っちゃうんだろうな、今の俺。
 ……そんなことを考えたら、自然と顔が笑っていた。

中井出「ねぇガクト」
岳人 「んー? なんだー?」

 俺が考え事をしている最中に持ってきたのか、コップになみなみと回収してきた肉汁をテーブルに置いて、どこか誇らしげなガクトに声をかけた。
 ああ、なんか旅館の人が有り得ないものを見る目でガクトを見てらっしゃる。

岳人「……《ニコリ。モキッ、モコムキッ》」

 それを羨望(?)の眼差しとして受け取ったのか、ハンサム顔でポージングをとりだすガクト。どうしたものかと躊躇したものの、そのまま話すことにした。

中井出「俺さ、お前のこと、好きだぜ」
岳人 「《ムキ───……》…………」

 穏やかな笑顔のまま硬直し、汗をだらだら掻いてポージングしたまま、ギギギとゆっくりこちらを向くハンサム。
 その両脇にはいつの間に移動したのか、京とユキが冷たい笑顔で立っていた。

京 「……ちょっと表出ようか」
小雪「大丈夫だよー、気絶させてから関節外して、目が覚めたら痛いようにするから」

 そんな彼の肩をポムと叩き、無理矢理立たせるおなご二人。
 どうしたのでしょう。確かにもうメシは終わってるけど、こげに急に。ガクトが何か言おうとしたけど、笑顔の二人に口をガバッと塞がれた上で引きずられてゆく。

中井出「遊びに行くん? なら僕も───」
小雪 「ダメー」
中井出「《ぐさり》……イ、イエッサ」

 あっさりダメ出しされました。
 い、いやいや、僕傷ついてないよ?
 つーか普段は何言われても平気なのに、このグサリは一体……!?
 カスがともクズがともゴミがとも外道がとも死ねとも、なに言われても笑って返せるこの博光ともあろう者が……ホワイ?
 …………まあいいや、きっとそんな気分だったのよ。

中井出「というわけでガクト、連れて行かれる前に是非とも愛と友情のハグを!」
小雪 「僕でいいなら喜んで《がばしぃっ!》はうっ」

 返事を聞いてすかさずハグ。
 頭撫でるのも好きだけど、ファミリー相手だとハグしたくなるのはどうしてなのかしら。
 やっぱりこれって愛情? きっとそうだね。ならばと、次いで京をハグして、流れに乗ったままガクトをハグ。するとその体勢のまま投げっぱなしフロントスープレックスに移行され、僕は空を飛んだ。
 だが僕はニヤリと余裕の笑みを浮かべると、身を捻ってキュルキュルと回転して、顔面でドグシャアと着地した。
 すると周囲から、というか旅館の人達から上がる歓声! 俺……今とっても輝いてる!

中井出「ありがとー! ありがとー! 声援ありがとー!」
岳人 「顔面で体支えながら喋んなよこえーな!」
中井出「お馬鹿! こうじゃなきゃ顔面で着地したって言えないじゃないか!
    着地したなら立っていなければ……! だからこその顔面直立!!」

 顔面で体支えてピーンと立っています。でも疲れる。
 つーか鼻血が! 俺こんなんばっかだねもう! なんて思っていると、視界の端で京が息を飲むのに気づいて、すぐに鼻血を止めた。

岳人 「おお、溢れ出るエロスだな」
中井出「エロくないよ僕! 鼻血出たからってエロ言わないでよ!」

 俺の扱いって、親しくなればなるほど、きっと変わらんのだろうね。
 鼻血が出ればエロス。昔っからこうだった。

中井出「ん、よっと……さて。あ、大丈夫です皆様、頑丈さだけが取柄の博光ですから!
    ご迷惑をかましましたー!」

 顔面で立つのをやめて、旅館の人々に謝ってから歩き出す。
 騒ぎすぎると迷惑にしかならんし、むしろもう迷惑だったに違いねー。

岳人 「迷惑かましたって、言葉としていいのか?」
中井出「人生いつでもぶちかまし。博光です《脱ぎっ》」
岳人 「脱ぐんじゃねぇって!」
京  「そして脱いだらソッと受け取る妻心」
中井出「ひょ? あ、ど、どうも……?」
小雪 「ヒロミツの匂いだー♪」

 ひょいと、脱いだ服が京とユキによって奪われた。
 しかもその服がぎゅうっと抱き締められていて、本来僕を温める筈の服が暖かく、僕だけが今まさに寒かった。
 それでも歩きます。クリスがキャップに負けて、そのまま部屋に戻ったら困るし。
 それを阻止するのが僕らの天命!! ……いえウソです。

中井出「ショ……ショックだ……!
    か、彼女らは僕の服を勝手に奪ってうっとりしている……!
    それにもう2度とあの服は戻らないような気がする……破れるまでッ!」
京  「そんなことない。返すよ」
中井出「え? あ、そうだよねぇ」
小雪 「匂いがしなくなったらねーっ」
中井出「ガクトガクト!
    僕の服が、味が無くなったらポイ捨てされるガムみたいな扱いだよ!
    そしてシャツ一枚寒ぃ!! そのタンクトップ貸して!」

 服を奪われてしまった僕は、上半身タンクトップひとつのガクトに助けを求めた!

岳人「それだと俺様が上半身裸じゃねーか!!」

 ……当然断られました。ハイ。
 正直、そんな格好なら着ても着なくても同じだろうとはツッコんじゃいけない。何故ってそれは、モロがもう何度もツッコんで、それでも今日まで直らない彼のスタイルだからだ。
 と、部屋への通路を歩く途中、何故かその通路の壁にへたり込みながら真っ白になっている誰かさんを発見。……クリスだな。

中井出「クリスー? どしたー?」

 なんか壁にそっと……え、えぇと……? すがりつく……とも違うし、寄り添うのとも違うし、ともかくそんな格好で小さく涙を浮かべてぶつぶつ言ってるクリスに声をかけた。
 反応は………………無い。

小雪「………?《ぴとっ》」

 それを不思議がってか、ユキが真似して壁際に座ってそっと両手と側頭をつけて停止。
 …………面白いのか?

京  「負けたんだろうね、キャップに」
岳人 「あー、じゃんけんか」
中井出「ああなるほど」

 つまり写真集を見ることが叶わなくなったから、こうして燃え尽きていると。
 ……なんつーか、こんなポーズで白くなってるヤツを前にも見たよな。
 元気でいらっしゃるかね、我らがエルダー千早お姉様は。

岳人 「そうまでして見たいもんかねぇ。俺様、エロ写真集とかなら見たいが」
中井出「ポージングとりながら鼻の下伸ばすでないよ」
京  「………」

 京も俺と同じこと(ガクトのことじゃなくて)を考えているのか、壁際のクリスを見てから少し目を閉じた。目を開ければ、どうしてか僕の腕に腕を絡め、ピトリと寄り添う。

中井出「どぎゃんしたとね?」
京  「女になって女学院に入った感想はどうだった?」
中井出「んー……普通。いろいろぐったりしながら過ごしたからね、なんとも言えん」

 ただまあ、思い返せば楽しかった。
 1、2があるゲーム世界とかファンディスクがある世界ってのは結構クセモノだ。
 なにせ人物の性格が180度変わってるヤツが居たりする。
 多少面識あった男が、実は女でした〜なんてのもあった。あれはたまげた。

中井出「瑞穂お姉様と奏お姉様と千早お姉様と薫子お姉様、四人を見送りましたとも。
    なにが悲しゅうて女化して何度も乙女の園を生きなければならんかったのか」
京  「それを知るのは私だけ。なんだかとってもハートフル」
中井出「……耐えられたほうに感心したいけどね、俺は」

 昨日の夜、ガクトと一緒に旅館に戻った俺は、皆の帰りが遅いこともあって、京にディレクターズカット(?)の創世の猫を見せた。もう猫じゃないから創世の博光?
 京の反応は……吐きもしたし泣きもしたし叫びもしたし怯えもした。
 でも見きって、こうして僕の傍に立っております。
 でも寂しさには敏感になってしまったようで、なんかこう……ねぇ?

中井出「メシ、唐辛子入れなかったのは……」
京  「……今は赤いもの、見たくない」
中井出「だよなぁ……」

 俺の過去は、感情込みだと赤すぎた。当然絵の具なんてものではなく、血の色。さっき、俺の鼻血を見て息を飲んだのもそれを思い出したからだろう。
 映像を一緒に見た俺でさえ吐いた。お陰で、麻痺していた感覚が湧き出てきた。それは、喩えようのない罪悪感ってやつだった。
 けど───そんなものをもう一度背負い直しても、結局自分の意思は変わらないのだ。
 どれだけ誰に何を言われようと、最果てに辿り着くことを諦めない。
 “生きることから逃げるな”、だな。

中井出「……ほんと、もっと早くに欲しかったよ、この感情」

 溜め息とともに、半分がバケモノになっちまったリーダーのことを思い出した。
 その腕を元に、鬼の手に重ねるように創ったのが幻影竜装。あくまでバケモノの素材とイメージとで繋ぎ合わせた武器だが、効果は……モモが暴れて見せた通りだ。
 モモが驚くのも無理はねぇわなぁ……事実、バケモノ素材の腕だった。
 あの時のモモの反応を思い出すと、少し胸が痛い。そういう道を歩いてきたんだ〜って、こうした平和の只中に居ても嫌でも思い出してしまう。

中井出「よし、じゃあ俺も」

 自分を笑う。苦笑で。それからクリスとユキの真似をして、壁際に座って額と両手を軽くついて落ち込んだ。うん、冷たくてなんか落ち着ける。
 そんな妙な状態で京も軽く手招きで誘うと、京も真似して息を整え始めた。
 そんな僕らを、ガクトだけが笑いながら眺めていた。

中井出「………」

 京の状態を見て思うこと。
 前に見せた創世の猫は、“俺”ってものを知らせるためのもの。だからこんな場所をこう旅してきたって、ダイジェストっぽくなっていた。
 俺が犯した罪の部分を見ることで吐きもしただろうが、それは人間が持つ防衛本能が働いた視界で見たもの。現実ってもんから感情だけが逃げてくれたお陰で、あくまで“狂う”ところまではいかなかったかつての俺。
 それを真正面から見た京と俺の心境は、正直辛いもので満たされていた。
 だってのにふざけていられる自分の在り方にこそ、こうする前に笑った。苦笑した。
 感情は大事だ。でも、それよりもそんなものも無いままに56億以上を生きたこの体は、自分が思うよりもよっぽど逞しく出来ているらしい。
 だから苦笑でもなんでも受け入れる。受け入れるから胸を張る。

中井出(我が歩みし道に、感謝を)

 人間、何が吉になるかなんて解らんのだから、生きることを諦めるのはもったいない。
 生きることから逃げるのなんて、死んでからで十分でしょーよ。
 無様でも生きろ。苦しみに泣いても、孤独に叫んでも生きていけ。
 動けなくなるまで足掻いて足掻いて、動けなくなった時にこそ……もう一度、泣こう。
 俺は、ずっとそんな生き方をしていればいいんだと思う。
 俺の“感情”が未来視した通り、ばーさんのように誰かを救って死ぬのだとしても、その行為に後悔しながら死ぬのだとしても、どのみち涙は流せるのだろうから。
 ただ願う。
 走馬灯ってものが本当にあるのなら、どうかそれまで出会った人達の笑い声や怒った声……それら全ての思い出ってものが、せめて───忘れられ続けた先で死んじまう、1人の馬鹿への鎮魂歌になってくれますようにと。

中井出(まあ……死ぬつもりはねーがなー!)

 画太郎チックに心の中で叫んで心に喝を入れた。
 頑張ろう。
 応援は苦手だけど、頑張るのだけはきっと得意……じゃないよ俺。
 足掻くのが得意なだけだ。
 まあともかくやることをやるンだッッ! ゆーおーまいしんっ!

中井出「………」

 アー……でもなんかきもちいいー……。
 壁さん……あなたって冷たいお方。でもどうして落ち着くの? ひんやりしててステキ。

京  「ところで博光」
中井出「オウ?」

 ソッと僕の耳に口を近付け、囁く京。
 僕は壁と一体になるイメージを働かせそうになっていた自分をなんとか留めて、京の言葉に耳を傾けた。したっけ、続く言葉に思わず赤面。
 ……エエハイ、ディレクターズカットはノーカットでお送りしました。ええ、その、麻衣香との情事も。……空いてた部屋を無断で使ってね、こう……暗いところで京と二人、かつての自分と妻の情事を。俺、もう泣きたかった。
 そのことについてを訊かれ、顔が赤くなるのを確かに感じた。だって僕のだけじゃなくて、その、晦とか彰利とか……ええぇとそのぉお……ねぇ……?
 ごめんみんな。なんだか思い切り謝りたい気分だ。ごめん。
 なんか……仲のいいヤツの情事をうっかり見てしまった気分っつーかさ……。


───……。


 その後、壁の一部になりかけていた俺と京とユキとクリスは、準備が出来たっていうキャップに連れられ、河原に訪れていた。もちろんガクトも。
 昨日、魚を釣った場所だね。そこでは既に大和と冬馬とモロを除いた全員が揃っていて、僕らを暖かく迎えてくれたノデス。

中井出「…………で?」
準  「おおバッチリだ。もう体調も快調、ピンピンしてるぞ」
中井出「オッケン! では9時までもうちょいあるし……っと、来た来た」

 大和がやってきた。
 その後ろにはモロも冬馬も居て、どうやらきちんと薬が効いたようだった。
 これで効きませんでしたじゃあ話にもなりんせん。
 しかし腹を押さえております。まあ解る。飲んだものも結局栄養に回されて、腹ン中カラッポ状態でしょうし。だがそんなことはお見通しよッッ!
 こんなこともあると確信して、弁当を用意してあるのサッ!!

中井出「腹減ってるかいボーイズ!」
大和 「正直眩暈がするほど……」
冬馬 「これは辛いですね……」
卓也 「お腹と背中がくっつく前に、眩暈で世界が揺れることってあるんだね……」
中井出「オーウ! ソンナトキハコレェ! ワタァシ、カテキタヨー!!」
大和 「! そ、それは! HOTTOMOTTOの弁当!」
中井出「OHYES! では声高らかにいきましょう! 貴方は弁当が好き!?」
大和 「大好きだ!」
冬馬 「大好きです!」
卓也 「大好きだね!」

 善きお返事です!
 ならば最後のスパイス! 大声を出して、内臓さんたちを活発にしてやりましょう!
 さすればさらに腹が減り、さらに美味しく食べられる!

中井出「さらに大声で! I LOVEベェーーーン!!」
三人 『とーーーう!!』
中井出「YOU LOVEベェーーーン!?」
三人 『とーーーーう!!』
中井出「WE LOVEベェーーーーン!!」
三人 『とぉおおおおう!!』
四人 『HOTTO・MOTTOォオオオッ!!!』

 河原の傍で弁当に向けて愛を叫ぶ。
 叫ぶのって気持ちいいよね。
 ということでサワヤカに汗を拭って、みんなの好みの弁当を渡してゆく。
 ウヌ、このためのマズイシェイクだったって言っても、きっとウソつけとか言われるね。だってウソだもの。

中井出「ぬう、このどっしりとした歯ごたえ……!」

 で、僕はといえば、一緒に買ってきたパンにハンバーグを挟んでバーガーにして食っておりました。朝飯食ったけど、こういうのって食いたくなるんだよね。

百代 「なんでお前まで食ってるんだよ……むしろ私にもよこせ!」
中井出「だめさ《ぱしぃっ!》───ややっ!?」

 なん……だと……!?
 僕の手に確かにあったどっしりバーガーが無くなっている……!?

百代 「おおっ……これは確かにこの歯ごたえがクセになるな」
中井出「あれぇちょっと!? なに普通に食ってんの!?
    つーか見えなかったんだけど今! いつの間に奪ったの!?」
百代 「お前の真似して光速に挑戦してみた。袖が破裂したが気にするな」
中井出「破裂しないバーガーに驚きだよ! つか返せ! 返せよう!」
百代 「ダメさ」
中井出「ムキキー! 真似すんなー!!」

 言ってる間に食われた。うう、ちくしょう……。

中井出「えーと……キャップー?
    大和たちがメシ食い終わったあたりに9時になりそげだけど、
    結局勝負方法ってなんなの?」
翔一 「おうっ! プチ川神戦役だ!」
中井出「な、なんだってーーーっ!? 正気かキャップ!
    よりにもよってそれを! 正気かキャップ!」
翔一 「二回言われても正気だ!」
クリス「川神……戦役?」
京  「か、川神戦役……」
由紀江「し、知っているのですか京さん」
京  「川神戦役……伝説のみの存在だと思っていたのに……」

 ◆川神戦役───かわかみせんえき
 中国で言うところの童貫遊戯。
 南栄の時代、童貫という元帥が居て、彼が敵国の僚との間でやっていたとされるもの。
 兵力を失わず戦の優劣を決められる、大変優れたシステムとして知られている。
 それぞれが出す勝負方法を箱に入れ、引いたものをこなし、
 勝った者が敵の中から自国に欲しい者の名を呼び、仲間に引き入れる。
 が、これは縮小版でしかもタイマン勝負なので登用などは無し。
 そして相撲の掛け声である「どすこい」という言葉は、ドスコイカーンの名前から(略)
 *神冥書房刊:『信じるとダメになる』より

 ……。

由紀江「ド、ドスコイカーン……」
大和 「まゆっち、神冥書房が出たらまず嘘だと思っといていいから」
由紀江「は、はい、それは一応映像で知っているつもりですので」

 失礼な、きちんとホントのことも混ざってるよ。
 しかしドスコイカーンまで説明するとは、京もやりおるわ……!

クリス「つまり、用意された勝負方法の中からランダムで選ばれたもので決闘。
    より多く勝った者の勝ち、と……?」
百代 「そういうことだ。安心しろ、公平になるようにいろいろ入れたからな。
    不利なものばかりを引いても、まあ運も実力の内ってやつだ」
クリス「なるほど……何回制で?」
百代 「5回だ。まずはじゃんけんでどっちが引くかを決めろ」
翔一 「種目が二つ書いてあるやつもあるからな。
    引いたヤツが好きに決めていい。不利な状況になりづらくなるぞ」
クリス「なるほど……だが私はどちらでも構わない。
    どんな不利な状況でも勝てるという自信と、逃げ出さない覚悟がある!」
中井出「───ほう。覚悟と申したか」
総員 『あ』

 覚悟。そう言われてはこの博光も黙ってはおれぬ。
 黙る気もないが。
 キャップの手から花丸ボックス───じゃなくてクジボックスをひったくる。
 それを大和にハイと突き出し、クジを引いてもらう。
 引かれたのは───

中井出「ナイフエッジデスマッチ!!」
大和 「危なすぎるだろおい!」
中井出「はいウソです。えー……チェーーンデスマッチ!!」
大和 「せめてデスマッチがウソであってほしかった」
中井出「……《ゴ、ゴクリっ……》お前……チェーンフェチだったのか……!」
大和 「そういう意味じゃなくてだな《がちゃんっ》って人の話を聞けぇーーーっ!!」

 ニコリと笑って大和とクリスの手首にチェーンを絡める。
 左手にも絡めるようにして持ってもらったそれを前に、大和は汗がだらだらだ。

クリス「はっはっはっはっは、これ面白いなぁ直江大和」
大和 「くっ……こ、ここは───」
中井出「ちなみに苦手だからって敵前逃亡したら、ガクトのハンサムしっぺが待ってます」
大和 「無傷で次に繋ぐ策とかも考慮しろよ!!」
中井出「ホホホやだ」

 そんなわけで、チェーンデスマッチ……レディ〜……ファアイッ!!

クリス「はははははは! いくぞ直江大和! 正義の鉄槌をくらえ!」
大和 「ちょっ《ぶんっ》おわぁっ! 待っ《スカッ》ひわっ!」

 開始の合図が出されるや、クリスが仕掛ける。
 大和はそれを危なっかしく避けていた。
 つーかあの距離で避けるか。さすが、伊達にモモに鍛えられてない。
 ……まあ、鍛えられてるのは回避能力だけだが。

クリス「無駄な動きが多いなっ! 避けるだけでは自分には勝てないぞ!」

 言いながらもラッシュラッシュ!
 しかしそれを避ける避ける! つーか避け方がいろいろ危なっかしい! うお当たる! いや避けた! うわ当たるっ! あ、おお、避けた!
 なんて危なっかしい攻防が続いたわけだが───……そろそろ違和感に気づいてくる。

中井出「……キャップ。これ、一発当てたら勝ちだっけ」
翔一 「おう。さすがにやっつけるまで、ってのは大和に分が悪すぎるだろ」
中井出「そか。んじゃあ……」

 攻撃を“大袈裟に躱す”大和に視線を向ける。
 こりゃあ、もしやするかもだな。

クリス「目に見えて疲れているな……騎士の情けだ、せめて一撃で仕留めてやろう!」
大和 「ちょっと待てっ! 一発当てれば済むんじゃないのかこれ!」
クリス「日本には“会心の一撃”という言葉がある!
    それで殴りあった者たちは夕日をバックに仲良くなるのだと聞いた!
    お前もその痛みを噛み締め、賭け事やイカサマから手を引くがいい!」
大和 「───!」

 デカイ一撃が来る!
 大振り───だけど、鋭く貫くような一撃!
 大和はそのままでは確実に当たるであろうそれを目を見開いて見つめ、ギリギリのところで───避けた!

クリス「なっ!?」

 返す一撃はクロスカウンター! ではなく、もっと素早くバレにくい、動きに無駄がない貫手。それがドスッとクリスの腹部に軽く刺さった。

クリス「ふくっ!?」
百代 「はい終了〜」
クリス「なぁぅっ!? う、うぅううう……!!」

 余裕の顔が一気に悔しげに歪んだ。
 それは当然だ。なにせ己の土俵、武で負けてしまっただから。

クリス「つ、次だ次だっ! 次は自分が引くぞ!」

 だからだろうが、少し怒った風情で僕の前まで来ると箱の中に手を突っ込み、勝負方法が書かれた紙を持ち上げていた。

準  「惜しいなぁ……やはりこっちも幼女の頃に出会いたかった」
中井出「負けてムキになるところは、
    子供だからこそめんこいって部分、なんとなく解るよ」
冬馬 「つい構いたくなりますね。それがたとえ意地の悪いことでも」

 本人の前で好き勝手に言いすぎですね僕ら。
 それはそれとして受け取った紙をペラリと広げてみれば、そこには……“絵を描く”の文字が!

中井出「お題! 絵を描く!」
クリス「絵? ……絵か。得心は多少あるが……」
大和 「好きなものを描いていいのか?」
百代 「いや。描くものは───これだ!」

 モモがンバッと出したもの! それはまゆっちのお友達、伊予ちゃんの写真であった!

百代 「描く相手はこの一年。判定は友達のまゆっち。
    双方ともに付き合いが深くないこいつだからこそいい」
大和 「これは……レベル高いな……」
クリス「自分の技術で出来ることをするまでだな」
百代 「どうせならヌードデッサンが良かったんだがな……了承を得られなかった」
準  「これ撮るためだけにわざわざ川神まで戻ったあなたの根性がどうかしてるよ……」
百代 「私は容姿が幼女の女の写真に10万出す感性が解らん」
準  「ロリにはァ……汚れがありませんから。無邪気な少女たち……癒される」
百代 「頭もハゲで拝み手も似合ってるのに、言うことがコレだからなこのハゲは……」
準  「だからついでみたいにハゲ言うのやめましょうよ……」

 モモや準がギャースカ騒いでいるうちにキャップから具体的な勝負方法や制限時間、絵の具や写真が渡され、二人は早速写真をもとに絵を描き始める。
 せっかくなのでとキャップも描き始めて、軽い写生大会が始まった。
 絵の具の赤をちらりと見ただけで僕に近付いてきて服を掴む京さんは……まあ慣れてもらうしかないのだろう。身内が死んだ赤ではない分、あの絵描きのタマゴのトラウマよりはマシなんでしょうか。
 などと別の世界のことを思い出しつつも、僕も絵を描いてみる。
 先に描かれていたマスコット(主にガクト)に笑いつつ。

……。

 さて、一時間後。

中井出「見てくれまゆっち! 僕の考えたステキなモンスター! その名もザクロパス!」
由紀江「うわぁわわわわ伊予ちゃんの面影どこにもありませんーーーっ!!」
中井出「あれ? …………ゲェーーーーッ!!」

 お題忘れて好きなもん描きすぎた!
 あっさり落選だったさ。ごめんよザクロパス。

中井出「うう、ちくしょう……」
準  「好きに動きすぎだが……まあ妙に力が篭ってるのはよく解ったさ。
    お前さんはよくやった」
中井出「ト、多謝(トーチェ)」
準  「まあお題に触れてすらいないのは確かだったが」
中井出「だよねー」

 ちらりと見れば、まゆっちの審査を受けているクリスと大和。
 僕はそんな二人を羨ましく思いつつ、下されるであろう反応を待つ……!

百代 「それでまゆっち……判定は?」
由紀江「はい……私はこの、クリスさんの絵を選びますっ」
クリス「おおっ!」
大和 「なん……だと……!?」

 おおう!? まさかの大和の敗北!?
 キャップほどとはいかんまでも、そこそこなんでも出来るヤツだというのに!
 その絵にはいったどれほどの差が……!? と見てみれば、

中井出「…………なんだいこれ。メシ食ってる絵?」

 いつか1年の教室で見たように、ちまちまとご飯を食う伊予っちの絵がそこにあった。
 えとー……うん、どうしてでしょう。それだけなのに、“ああ伊予っちだ”って思わせる何かがある。

準 「幸せ笑顔で小さな口でご飯を食べる……いいねぇ。
   是非幼女に目の前でそんな仕草をしてほしい」
百代「お前は少し黙ろうな」

 対する大和のは普通の笑顔の絵なわけだが……これはアレだな。渡された絵が悪かった。

中井出「対する大和は……普通に楽しげな笑顔だな」
冬馬 「なるほど。絵の差はそこまでではないものの、
    黛さんからすると、ご飯を食べる姿のほうがより彼女らしい、
    ということなのでしょうね」
由紀江「い、いえあの、べつにそんな年中なにか食べてる印象があるとかではなくっ!」
中井出「いや、なんか解るからOK。
    そっかー、これがまゆっちの伊予っちに対する印象かー」
由紀江「はうぅー!? 妙なところで妙な誤解がぁあ!」
翔一 「よーぅし! つーわけで第二回戦はクリスの勝ち!」
大和 「勝つ自信、あったのにな……どこで間違えた」
卓也 「うーん……もらった写真が悪かった、とか?」
岳人 「ちなみにキャップはどんな絵───んがぁっ!?」

 ガクトがひょいと覗いたキャップのスケッチブック。
 それは、まるで写真を貼り付けたような精巧さだったという。

……。

 さて次です。
 ファミリーに応援されながらも箱から対戦方法が書かれた紙を引き、渡してくれる大和。
 僕はソレを広げ、高らかにお報せする!

中井出「ザ・肝試し!」
百代 「“ゲーム”が抜けてるぞ……」
中井出「肝試しゲーム! 」

 嫌そうな顔で言い直しを要求されつつ次のお題! 肝試しゲーム!
 ルールを説明しよう!
 肝試しゲームとは、ポッケー(ポッキー)を自分と誰かとで両端で銜え、相手側にどんどん食べてもらって何秒保つかを競うゲーム!
 嬉し恥ずかしなんて言ってる場合ではなく、相手が嫌な場合は地獄でしかない。
 そして気になるお相手は───!?

百代「お相手は公平にするためにトーマにした」
大和「俺滅茶苦茶不利な気がするんですけど!? ほ、ほらほら!」
冬馬「…………《ぺろり》」
大和「ひぃい!? 熱い視線でこっち見ながら舌なめずりしてるんだけど!?」
一子「男を見せる時ね!」
大和「見せた時点で唇奪われてそうだがなっ!! ああもういいよやってやる!!」

 仕掛けたのは自分だとばかりに勇ましく前に出る大和!
 おお、男であるな! そんな度胸、他ではなかなか拝められませぬぞ!
 ポッケーを用意、互いが端をちょこんと銜え、合図を待つ。
 「あ、ちなみに相手の目を見ながらじゃないと無効な」と言ったモモに対して、うらめしそうな視線を送っていた大和が印象的でした。

翔一「んじゃあ度胸試しとも言う肝試し!
   正確に測るために携帯のタイマーを使って───と。
   よしいくぞー? 用意……始めぇぃ!!」
大和「───!」
冬馬「……《ポッ》」
大和(頬を赤らめるなぁあああっ!!)

 バトル開始!
 なにも喋ってなくても、たとえ見るだけでは地味でも、やってる大和にとっては真剣にとりくまなきゃいけないバトルだということは、もう雰囲気だけで十分なくらいだった。
 だって、みんなも固唾を飲んで見守ってるくらいだし。
 つーか男が頬を染めながらねっとりとポッケーを食べつつ近付いてくる様は、いったい大和にとってどう映っているのか。……想像したくないね。

準 「おー……なんかガタガタ震えだしてるな」
岳人「想像したくもねぇよ……俺様だったら即リタイアだな」
百代「その時のハンサムしっぺは私に任せろ。骨の一本は頂くがなっ」
卓也「しっぺで骨折るとかやめようよ!」
                                
 騒いでいる間にどんどんと迫る顔!
 汗だらだらの大和と、そんな顔もステキですとばかりにゆっくりと近付く冬馬!
 やがて大和が耐え切れず、口を放そうとした瞬間、僅かな感触を感じ取った冬馬が一気に距離を縮めて《がしぃっ!》

大和「放したっ! 放したからなっ!?」
冬馬「……それは残念です。もう少しだったのですが」

 そこは冬馬の頭を掴むことで、なんとか事なきを得たようだった。
 その時点でタイムが発表される……大和、12秒48!

岳人「おお……意外に粘ったじゃねぇか」
京 「やったのがモロだったら、最後に迫られた瞬間薔薇が生まれた」
卓也「恐ろしいこと言わないでよ!」
小雪「へー……トーマとモロモロがキスすると、薔薇が生まれるんだ。僕見てみたい」
卓也「やめてよ! 僕にそういう趣味なんてないからっ!」

 新発見の化学反応(?)に興奮するユキはさておいて、続いてクリスの番である。
 心底困ったって顔をするクリスと、ニコリと優雅に微笑む冬馬がポッケーを銜え……やがて始まる耐久レース。
 しかしなんというか、クリスは……

一子「真っ赤だわ……」
小雪「まっかっかー」

 可愛そうなくらい赤かった。
 そういうことに関しての免疫が、たとえ遊びといえど無いのか、顔が真っ赤だった。

準 「恥らう嬢ちゃんってのもいいもんだな……」
小雪「相手が幼女だったらー?」
準 「相手の男殴ってるね」
大和「親類かもしれないからやめよーな───あ」

 準がロリについてを語っているその途中、クリスがさらに顔を赤らめて一歩を引いた。
 引いたっつーよりは逃げたに近いが……ここに、決着はついた。まあまだあるけど。

百代 「クリス、7秒23。大和の勝ちだな」
クリス「うぐっ……そ、それだけ……!? 自分は30秒以上我慢した気でいたが……!」
大和 「俺は1分近く頑張ったつもりだったぞ……」
翔一 「今のところ大和が2、クリスが1の勝ち星だな。ほれクリスー、次引け次〜」
クリス「くぅうっ……楽しんでないかお前らっ」
翔一 「正直見てる分には楽しい!」
中井出「やったな! 楽しませてるぜ!」
クリス「元気に返すなぁっ!」

 怒りながらも箱に手を突っ込んで中を掻き回し、これだとばかりに引く。
 そのクジには……

中井出「石投げゲェーーーム!!」

 石投げゲーム、とあった。川に石を投げて、何回跳ねるかを競うゲームである。

大和 「俺に不利すぎないかこれ!」
中井出「お黙り! クジ様の決定である!
    さあ各自河原で好きな石を拾い、同じ位置から投げませい!」

 大和とクリスが石を選び始める。
 確かに投げる力の必要で、武に心得のあるクリスに有利なものだ。
 しかし投げ方、石の形ひとつで大きく変わるのがコレ。一概に不利だ不利だと言ってもどうなるかなぞ……己の目と風、そして川の状態にもよるのよッツ!!

大和 「……よし! これに決めた!」
クリス「よし! 自分はこれだ!」

 双方石を選び終え、モモが手招きしている場所へと向かう。
 位置は、下流方面へ目掛けて川を斜めに切るように投げる場所。
 そこから向こう岸への距離の中、何回跳ねたかを競うわけだ。

百代 「ちなみに沈んだらそれまでだ。
    跳ねた回数で1ポイント、向こう岸までつけば3ポイント。
    し〜っかり見といてやるから頑張れよー」
大和 「十分に跳ねさせた上に、向こう岸までつけなきゃいけないってことか……」
クリス「これは解り易いな。
    ようするにずーっと跳ねるように投げれば勝てるということだな」
大和 (……山の川ってのは、投げる場所を間違えると突き出た岩とかに弾かれて終わる。
    けど、“向こう岸につけばいい”ってのを逆に利用すれば……)
翔一 「んじゃあ始めるぞー。クリスからだ」
クリス「よしっ、いくぞっ」

 クリスが構え、やがて投げる!
 鞭のようにしなる腕がサイドスローで石をシュピィーンと投げ、放たれた石が水に着水!
 シパンシパンと水を弾き、それを繰り返しながら───やがて沈んだ。

クリス「む……川が思ったより曲がりくねっているな……」
冬馬 「やる場所が多馬川だったなら、クリスさんが勝っていたでしょうね」
クリス「? なんだ、自分はまだ負けていないぞ?」
冬馬 「ええ。確実性の話をしたまでですよ」
百代 「クリは8ポイントだな。
    斜めだから僅かな波立ちに飲まれやすいのを頭に入れなかっただろ」
クリス「む……」

 次いで大和。
 平だが、先は丸い意思を手に、クリスが立っていた場所へと入れ替わる。

翔一 「準備はいいかぁ?」
大和 「いつでも」
翔一 「んじゃあ───用意!」
中井出「ギリギリス!!」
準  「いやそれ全く関係ねぇから」
大和 「すぅ……はぁ……───んっ!」

 大和が投げる!
 着水、跳ね、どちらもよい感じ!
 しかしクリスに比べればやはり勢いはなく、しかも6回ってところで川の中の岩と衝突したのか、中空に弾かれた。

クリス「はははっ、運が無いな大和。この勝負───」
翔一 「はい大和の勝ちー」
クリス「なっ!? 何故だっ!?」
準  「…………あ、あー、なるほど」
一子 「なになに? どしたの?」
小雪 「ヤマトの石、弾かれちゃったんだよー?」
京  「その弾かれた石が落ちた場所をよく見る。“向こう岸”だよ」
クリス「あ───」
百代 「跳ねた回数は6回。だが向こう岸についた時点でプラス3ポイント。
    合計9ポイントで、ギリギリ大和の勝ちだ」
クリス「く、くぅうっ……弾かれたものまで計算に入れるのか!?」
中井出「条件を出してないものには気をつけるべきですぞクリスさん。
    “石が向こう岸につけばポイントが入る”。過程や方法なぞ問題じゃあねぇ。
    さあ! 引くがよい直江大和! 現在貴様が3ポイント! 大きくリード中!」
大和 「よしっ、このまま勝ちきってやる!」

 悔しがるクリスを他所に、大和がくじを引く。
 渡されたくじには───


…………。


 ……さて、時は既に昼。
 あれから何度か決闘し、しかし決着がつかないままに勝負は続行。
 埒が明かないってんで、次でダメならじゃんけんでってことになった。

中井出「つーわけで! ダウンヒルランニングバトル〜!」
大和 「終わった……」
中井出「いきなり落ち込むでないよ! キャップ、ルールは?」
翔一 「山頂の展望台からここまでを駆け下りるランニングレースってやつだな。
    ただし山の中腹でクイズを受けて、
    それに正解した上でサインボールを受け取らないとゴールしても無効。
    途中で無くしたって言っても、持ってなければ絶対に無効」
百代 「中腹の近い場所には難しい問題、遠い場所には簡単な問題が用意される。
    乗り物に乗る、相手を妨害する等の行為は禁止。
    ただしパートナーを1人選べる」
クリス「クイズ……知力も必要で、パートナーを選ぶ目も必要というわけか」
翔一 「そういうこと。ちなみにパートナー候補は俺、準、京、ユキ、ワン子だ」
一子 「うぇっ!? あ、やー……アタシはそのー……」

 ちらりと僕を見るワン子。
 ふむうぅ……。

中井出「のうキャップ? そのパートナーって何をする者なん?」
翔一 「なんでもいいぞ。クイズに答えるのも、代わりに走るのでも。
    サインボールを持ってるやつがゴールすれば、そのタッグの勝ちってわけだ」
中井出「なるほど」
一子 「うぅう……」
中井出「まあ、選ばれたら全力でだ。その時はイメージを気にせず、全力で走りなさい」
一子 「! うんっ!」
百代 「んーじゃあまずはじゃんけんだな。パートナーを選んでもらう」

 大和とクリスがジャンケンをし、クリスが京を選び、大和は……意外、準を選んだ。

準 「ご指名あんがとさん。んで、俺はなにをすればいい?」
大和「出発地点は同じらしいから、
   先にチェックポイントに走ってクイズに挑戦しててくれ。
   正解したらそのままサインボール持ってゴールまで頼む」
準 「あいよ了解。……あとでワン公のフォローしとけよ?」
大和「……出来る限りはするつもりだよ」

 ちらりと見てみれば、意気込んだのに選ばれなかったワン子ががっくりと落ち込んでいた。おうおう落ち込むんじゃあありませんとばかりに頭を撫でる中、四人は山の中へ。

中井出「えーっと、どうしよう」
百代 「問題にはそれぞれ種類を用意するつもりだ。全員来い。
    簡単なのと難しいのとで分かれてもらう」
中井出「ラーサー! ではチェックポイントへ」

 各々の行動……開始!
 僕と冬馬は難しい方のチェックポイント、キャップとモモはゴール代わり、ユキやワン子は山頂でスタートの合図、まゆっちやモロやガクトは簡単なほうのチェックポイントとバラけた。
 ウフフ、問題を出していいとは……オモシロ!



【SIDE】  ───早速と言うべきか、山を駆け下りる影が二つ。  男女であるその影は、男を直江大和、女をクリスティアーネ・フリードリヒといった。  普通ならば歩むべき道を歩み降りる山を、木々が鬱蒼と生えた場所を駆け下り、チェックポイント目掛けて一気に進む。そんな無茶を、互いが勝利のために躊躇なく実行していた。  バランスを崩せば木に衝突、転倒と同時に転げ落ち、骨も折れるやもしれぬ状況でも、構わず駆け続けていた。  しかし身体能力に早くも差が付き、クリスは前へ、大和がそれを追うカタチになる。 大和「〜〜〜っ……やっぱり走りじゃ負ける!」  しかし諦めない。  チェックポイントではクイズがあるというのなら、それに賭ける。  彼は自分の出せる全力で駆け下り続けた。  ───一方で、既にチェックポイントに辿り着いていた準は。 中井出「イラッシャーイ!」 冬馬 「ようこそ、準」  そこで待っていた家族を見て、げんなりしたという。 中井出「ハーイ、問題のジャンル選んでホシイヨー! つーか速いねキミ!」 準  「5段飛ばしの準とは俺のことよ。降ることなら任せとけ。で、ジャンルだが……」 中井出「雑学とカオスと異世界知識の三つからお選びください」 準  「無茶言うねお前! わ、若? 若は……」 冬馬 「はい、雑学担当ですね」 準  「じゃあ雑学!」 冬馬 「間違えれば1分のロスとなります。ただしその1分の間が待てないなら、     簡単な方のチェックポイントに行くのもありです。では出題。     カメレオンという生き物の話ですが、この生き物の本来の色は何色でしょう」 準  「緑!」 冬馬 「不正解です。1分間出題されません」 準  「なんですとーーーっ!?」 中井出「ちなみに正解は、本来の色などない、でした。     場の環境によって勝手に色が変わるから、カメレオン自体の色なんてナイノデス」 準  「ぬ、ぬおお……この1分は痛い……!」  その1分の間にクリスと京も到着し、問題を受ける。……雑学で。 中井出「なんでー!? なしてカオスを選ばんとやー!」 京  「今は勝負の時。愛を示すのはその後」 中井出「あ、愛……!」  愛なら仕方ないね。  うん、愛なら仕方ない。僕大人しくしてる。 冬馬 「問題です。日本一の名山、富士山は世界遺産であるか否か」 クリス「当然“世界遺産である”だ!」 冬馬 「不正解です」 クリス「な、なんだとー!?」 京  「……時代劇とかの見すぎで感覚崩れた? というか相談くらいしてほしい」 クリス「く、くうぅうう……!」 中井出「はい一分! 準、ジャンルは!?」 準  「雑学!」 中井出「カオス選べよコノヤロー!!」 クリス「───京、プランBだ!」 京  「了解」  クリスが走る。  簡単なほうのチェックポイントへと走ったのか、すぐに見えなくなった。  その後姿をなんとか見送る形で大和が到着。  既に雑学を選んだとのことで、安堵とともに問題を受けた。 冬馬「摂氏の雑学です。摂氏何度、という言葉はセルシウス度のことを指しますが、    このセルシウス温度という単位の体系は、元々なんと言われていたでしょう」 大和「センチグレード!」 冬馬「正解です。ではこのサインボールを」 準 「一発かよ……」 大和「準、頼むっ!」 準 「あいよ了解!    小学の時、保健室で5段飛ばしの準と呼ばれた実力は伊達じゃあねぇぜぇっ!!」 大和「ああっ! なんか死亡フラグ聞いた気が!!」  呼ばれた場所が保健室という事実に大和は愕然。  しかし走る速度や能力、全てをとっても準は自分よりも上である。  それを理解した上で大和は頷き、別の方向へと走った。 中井出「うむ。では京、一分である」 京  「カオスで」 中井出「御意。僕の世界の話。     未来凍弥のガッコの二年、そこに存在するエビヤンの名前は?」 京  「ゴリモルジェフ・メルドントエビヤン」 中井出「ハイ正解! サインボールをどうぞ」 京  「ん。じゃあこれを……投げる!」 中井出「なんと!?」  博光から渡されたボールをおもむろに遠投する京。  それを見て納得したという顔の冬馬と、少ししてからなるほどと頷く博光。 中井出「なかなかにステキな策でゴワスな」 京  「石投げでのことが結構気になってたみたい。     ボールを持った者がゴールすればいいなら、先に行ってボールを投げてもらって、     受け取って走れば森を走る分が大幅ショートカット」 冬馬 「考えましたね。ですが準も大和くんも、そう簡単には負けませんよ?」  大和が走っていった方向を見て、彼は笑った。  京は少し首を傾げたが、このままでは終わらないことをなんとなく感じ取っていた。   ───その一方。  飛んできたボールを河原で受け止めたクリスは、既に追いついていた準とともにゴールまでの道を駆けていた。  女がやたらと強いこのグループにおいて、しかしさすがはS組だと納得できる速さの準。  大和が賭けたのはこの、翔一に勝る身体能力。  運が翔一の味方をするのなら、力は準であるとし、パートナーに選んだ。 クリス「〜〜っ……お前っ、そんなに速かったのか!」 準  「のほほんとしてそうなヤツほど、影でいろいろやってるもんだ。     悪いが……負けねぇぜ?」  速度がさらに上がる。  クリスも追いすがり、追い抜き、しかし足場の悪さが追い越し追い抜かれを繰り返させる。見える位置にゴール……翔一は立っている。  そこまでを走りきれれば勝ちだ。  しかしそんな、ただ翔一が川の傍に立っている景色に、異様なものが混ざる。 クリス「───え?」 準  「なぁっ!?」  一見のどかな風景。  その上方から何かが───いや、自分らがよく知る人物が降ってきたのだ。  しかもソレは川の深い場所に落ちると即座に泳ぎ、這い上がるや翔一目掛けて駆ける。 大和「っ───準ーーーーっ!!」  ソレ───直江大和は準に向けて手を振り、ボールを投げろと指示。  すぐに状況を理解した準は大きく振りかぶり、サインボールを大和へ向けて投げつけた。 クリス「しっ……しまっ……!!」  それを見事キャッチし、翔一にタッチした時点で───大和の勝ちは決定していた。
 …………。  クリス「そうか……そんな作戦だったのか……」 準  「作戦じゃねーよ。ん〜なことひとッ言も聞いてないぞ俺は」  勝負がついてしばらく。  皆様が集まってからの種明かしは面白いものでした。  元々危険ならばそうするつもりでいたらしく、大和は昨夜、モモに落とされて川に落ちた場所から再び落下。川に落ちて、大幅なショートカットを実現させたというわけだ。  いわばクリスが考えたのがボールを投げることなら、大和は己を飛ばしたってことだね。  ボールだけ飛んでも意味はない。ならば自分が飛べばそれで良し。 クリス「負けは負けだ。己の未熟さを痛感した。……認めよう直江大和。     策も時には必要で、その策を想定せずに手を打たぬ者に、     どうのこうのと文句を言う資格などない。     それら全てを含めたものを“戦”と呼べばいい。自分はそれを知ることが出来た」 大和 「解ってもらえてなによりだよ。体張った甲斐があった」 百代 「無茶するなぁ弟ぉ。だが、意地でも勝ちにいくその姿勢は見事だな」 大和 「売った喧嘩だ、勝たなきゃ格好悪いじゃん」  こうして……川神戦役(ミニ)は終了した。  大和とクリスの間にあった卑怯がどーのの話も落ち着きを見せ、策に対する妙な偏見をすることもなくなった……ってのは言いすぎで、多少は口出しする程度になりました。  え? あと? あとは……そりゃあ楽しむだけです。  覗きと釣りくらいしかしてないもの、楽しまなきゃ。 翔一 「よぅっし! そんじゃあ早速携帯の番号を飛ばすか!     オヤジさんに禁止されてるなら仕方ないかもだけど、クリスは大丈夫か?」 クリス「ああ。友と認めたなら当然だ。そこに父様の感情は関係ない」 百代 「成長したなクリ〜。じゃあ───」  赤外線交換が実行される。  そんな中で大和が言う。携帯が濡れるのは困るから、崖の上に置いてきた、と。  ナルホロ、ならば。 中井出「せいやぁーーーーっ!!」  STRマックスで跳躍。  一気に崖の上まで跳んで、ケータイを手にして同じように降りた。 中井出「はいどうぞ」 大和 「……能力無くても普通にすごいなお前」 中井出「博光ですから」  答えになってなくても大丈夫。  僕のこれは、つまりそういう道を歩いてきた自分ですからって意味だから。  そんなわけで赤外線通信。  電話番号やメールアドレスを交換して、ようやく一息ついた。 由紀江「ああっ……松風っ……! アドレスのページが、ページが2ページ以上に……!     先に携帯電話を買いにいってよかったです……!」 松風 『やったなまゆっち〜、オラも、オラもきちんとその瞬間を見たぜ〜!』 クリス「……ああ。なんだか嬉しいな。より家族に近づけた気がする」 準  「ケータイ買った当時は、     全ページをロリっ子アドレスで埋めるんだーなんて張り切ったなぁ……。     儚い夢だった……」 卓也 「儚いにもほどがあるでしょ!」 一子 「ぷふっ! クリのメアド、EDOとか入ってるわ!」 クリス「ああ。幕府の名を使わせてもらった」 卓也 「うわぁ……逆に得意げだよ」 中井出「ちなみに僕のメールアドレスはユグドラシルです」 翔一 「スペルがいちいち面倒なんだよなー、ヒロのは」 大和 「自分で打つ気にはならないよな」 中井出「それだけ大事なものなんだから仕方ないでしょ!」  ユグドラシルは、僕にとって大切なものでした。  だからメアドとかゆーのに使った。  既に使われてたから、ちょっとヒネって。  “ユグドラシルと意思”って意味で、ユグドラシルってあとにWillをつけた。  でもどうせユグドラシルの最後がLなんだから、yggdrasilliwと。  Willを逆にしたんですよ。lliWって。  そんなつまらなくも少し大事な意味を込めたアドレスです。  家族用なので、ファミリー以外には教えておりません。 中井出(うむ)  ニコリと笑いつつ、多少の意地悪さを心に秘めながら───このままここに居るのもなんだってことで、一度旅館へ戻った。どうせならあとは観光して帰ろうってことになり、その支度をするさなかで、完全な仲間、家族になるためにもそれぞれの意思を固めていく。 翔一 「よーし! じゃああとは、お前たちに川神魂を授けるぜ!」 クリス「川神魂……? ああ、ヒロの映像の中にあった───」 百代 「そう。詩は憶えているな? あえて荒野をいかんとする者の詩だ」 小雪 「長いからゆーおーまいしん。だね」 クリス「勇往、邁進……」 由紀江「困難をものともせずに突き進むこと、ですね」 クリス「……いい言葉だな。前に進む意思が溢れている」 冬馬 「ええ。辛い時に口にすることをお勧めします。     自らが進む旅は困難であるが、その道には同じ意思を持った仲間がいる。     そう考えると、自然と力が沸いてくるのです」 中井出「かくいう俺も、この言葉にオトされたクチだと思う」 一子 「今までは一人だったかもだけど、これからはアタシたちがヒロと一緒に居るわ。     だからこそゆーおーまいしん!!」 準  「そーゆーこったな。んじゃあ風間ァ、せっかくだしカンパイとシャレ込むか」 翔一 「だな。よーしお前らー、飲み物持てー」 岳人 「じゃ、俺様は肉汁を」 卓也 「カンパイの時くらい普通のドリンクにしようよ!」  騒ぎの渦中に居る。  オトされた、って言葉に敏感に反応した京とユキが俺に体当たりめいた抱きつきをしてきて、そこに準と冬馬が加わる。  みんな笑顔で、曇った表情など一片たりともありはしない。  そんなみんなを見る俺もどうしようもないくらいに笑っていて、 翔一「堅苦しいのはナシだ! 楽しくやろうぜ! 以上!!」 総員『カンッパァーーーーーイッ!!!』  それぞれがグラスを思い切り頭上に掲げ、拍子に飲み物が飛び散ろうと笑い合う。  世話になった旅館で大いに騒ぎ、怒られても平謝りで騒ぎ、半ば追い出されるようにして旅館をあとにした。 翔一 「だっはっはっはっは! 怒られたなぁ〜!」 中井出「実に青春っぽくていいじゃないですか。で、これからの予定は?」 翔一 「観光だ! 遊覧船があるらしいから乗りに行こう!」 中井出「オッシャーーーイ!!」  芦ノ湖を横断する遊覧船ってのがあるらしく、それに乗ることになった。  ええもちろんこのテンションのまま。  追い出されたならば振り返らぬとばかりに走り、残り時間も少ないこともあって燥ぎまくった。 中井出「イデオン合体!」 翔一 「Aメカ!」 準  「Bメカ!」 大和 「重機動メカ!」  そして船の先っちょで肩車を重ね、トーテムポール。  僕の背中側からそっと京が抱きつけば、変則タイタニックのアレの完成である。 中井出「はぁーーーっはっはっはっはぁあああっ!!     風が気ィイイイン持ちいぃいいーーーーーーっ!!」  船は芦ノ湖の中心をグングンと進んでらっしゃる。  その先っちょでトーテムポーる俺達……ステキ!  他の人を誘ってもやりたがらなかったんだ……仕方ない。  ワン子はワン子で燥いでるし、これもまた仕方ないね。 中井出「ややっ!? 向こう側からも遊覧船が!」 翔一 「海賊船っぽいデザインもあって、なんかこう……大砲でも撃ちたいな!」 準  「物騒なこと言うねぇ。まあ俺も撃ちてぇけど」 大和 「ヒロならほんとに撃ちそうだから、滅多なこと言わないほうがいいぞ……」 中井出「え? 撃っていいの?」 総員 『ダメだっ!!』 中井出「な、なんだよ! 訊いてみただけじゃないか!」  遊覧船と擦れ違う。  結構近くに寄るために、迫力があった。  そんな中で僕らは向こう側に同志がおらんかを知るべく叫びまくる。 中井出「イェエーーーーーーーッ!!」 一子 「イェエエーーーーーーイッ!!」 準  「元気ですかぁーーーーーっ!!?」  するとどうでしょう。  向こう側の船首に人が現れ、イィヤッホォーーーーッと返して───…… 中井出「あ……」 一子 「あれ? …………あぁあーーーーーっ!!」  両手を挙げ、叫ぶその姿は……カニだった。  前の世界での知り合い。  その傍にはしっかりとフカヒレが居て、カニに促されるままに奇声をあげていた。 中井出「っ……うおぉおおおーーーーーっ!!     うおっ! うおっ! うぉおおおーーーーーーっ!!!」  自分の中で何かが弾けたと感じた時には、もう言葉にならない何かを叫びまくっていた。  それに対抗して叫ぶカニやフカヒレに大きく手を振って、こんなところで出会えたことにせめて感謝して。 中井出「…………そっか。そっか、そっか……元気してた……うん、元気だった……」  忘れられた相手と出会うことなんてよくあることだ。  もちろん相手は俺のことなんて覚えていない。  だけど感情ってものを手に入れた今、たとえ忘れられていても再会出来る喜びがあることを知った。……そんなんでいいんだと思う。現に、俺は嬉しかったんだから。 京  「……大丈夫?」 中井出「大丈夫だ、問題ない」  心配そうに寄り添ってくる京に、心からの笑顔で返した。  そうだ、問題ない。  忘れられるのは仕方がないんだ。  それでも前に進みたいって、この世界で思えるようになった。  仕方なく進むんじゃなく、帰ってくるために進む。  だから、大丈夫だって胸を張れる。 中井出「へへっ……ようっし! 楽しむぞぉこの世界を!     俺は今っ! この世界で生きてる!     終わりが見えない“続き”を歩く途中で、家族っていう“勇気”に出会えました!     みんな! ありがとう! この世界にもありがとう!!     みんなみんな大好きだぁあーーーーーーーっ!!!」  嬉しさが極まって、気づけば叫んでいた。  何事かと、他に乗っていた客がこちらを見る。  恥ずかしさなんてものはなく、誇れる思いが湧き出てくることだけを感じていた。  ああ、絶対に辿り着こう。立ち止まらず、歩いていこう。  三人居ればなんでも出来たのは、もう過去。  それでも、意思は無くても彼らがくれた力は、まだ我が内に。  越せぬ壁など我が身に在らず、我が意思こそが無限の自由。  いつまでもその言葉だけは忘れずに、いつまでも、いつまでも───…… ───……。  ───午後4時。  散々遊び通した俺達は、帰るためのバスを待っていた。  空ももう赤く、そんな赤の中でのんびりと。  ……俺の視界で夕陽の赤が確認出来るのか、なんてツッコミは勘弁を。 中井出「いや〜、遊んだ遊んだ。キャップが芦ノ湖に落ちた時はどうなるかと思ったよ」 翔一 「ユキが急にヒロに抱きついたりするからだぞぅ?     てっぺんの俺だけ落ちるなんて、     もうちょっとキャップ労って一緒に落ちるとかしろよお前ら……」 卓也 「いや、それ労りとは違うから」  バスが来る。  大和と冬馬が先に調べておいてくれたお陰でスムーズだ。 冬馬「頭の使いどころというのは、こういう場面なのでしょうかね」 大和「ちょっと違う気もするけど、待つのが短いっていうのはいいことだな」  停まったバスに、ぞろぞろと乗る。  しかしその途中で、ふとお爺さんに引き止められる。  お爺さん……なんつーか、“ああ占い師だ”って思える風貌です。  なんかみんなもうバスに乗っちゃってるんで、僕と京だけが占ってもらうことになった。  出発するまではもうちょいある。  名前で占えるっていうから、どうせなら皆さんの分の名前も教えた上で占ってもらった。 占い師「おぉおお……あなた方は強い運、そして輝かしい未来に恵まれておる……」 中井出「マジですか!?」  眉唾でも、決意を新たにしたところにその言葉は嬉しかった。  ただ、それはあくまでそこまで見て行った者の未来のことを指しただけ。  二枚残ったカード……つまり俺と京の未来は……良い、とは言えないものだった。 占い師「……あなたは、いずれ一人になるでしょう」 京  「私……?」 占い師「ええ……仲間にも恵まれ、家族にも恵まれ。しかし、だというのに一人になる」 中井出「む? それって京が孤独を───」 占い師「いえいえ……そうではなく……家族も仲間も傍に居る……だというのに、独り。     そんなものがあなたの未来には見えるのです」 京  「………」 中井出「よく解らんね……で、俺は?」 占い師「あなたは……───」  俺を見とタロットカードを見比べて、老人は息を飲んだ。  言うべきかを躊躇しているようで、けれど俺が促すと、苦しげに言葉を吐く。 占い師「……ただひたすらなる孤独を生きると…………そう、出ております」 中井出「………」 占い師「気を悪くなされるな……ただ、そんな未来しか見えないのです……」 中井出「救いはないんですか?」 占い師「あなたは……あまりに未来への脈が長すぎる。     可能性というものの大半を何かに消される運命にあるようだ……。     それに負けず、“あくまで己を貫けた”なら、その先には救いが待っている、と」 中井出「───……」  自分を貫く。  そうすれば、俺は…… 中井出「……そっか。ありがと、じいさん」 占い師「いやいや……じじいのたわごとに付き合わせてしまって申し訳ない。     お代は結構ですじゃ……どうか、強く生きてくだされ」 中井出「…………ん」  じいさんはそれだけ言うと、ゆっくりとお辞儀をして歩いていってしまった。  俺と京は、バスが出発していることにも気づかぬままに、ただ呆然と立っていた。 ───……。  家に戻ってきた。  バスへはまあ……飛び移って。  コックローチライトニング状態で京を背中に乗せ、ガサガサと追い掛けたわけですよ。  やあ、他のお客さんの叫びといったらなかったね。 準  「いや〜ぁ、疲れた疲れたっとぉ」 冬馬 「勝手知ったるなんとやら、ですね。博光、牛乳をもらっていいですか?」 中井出「好きになさい───つーかなんで居るのキミたち」 準  「今日は疲れた。アパートまで戻るのめんどい」 冬馬 「というわけで泊めてください」 中井出「いや……いいけどさ」  ほんに勝手知ったるなんとやらだね。  もう我が家顔でくつろぎ始めております。  しかし家族が家に帰ったならば、それは当然でござんす。 中井出「ほいじゃあ今日はちと豪勢にいきますかい。ワン子〜、手伝え〜」 一子 「がってん!」  やっぱり川神院ではなくこちらへ来たワン子とともに釜戸方面へ。  相変わらずひんやりとしたそこで火を燃して、料理ドン。  ……だったんだが、どうしてか冬馬も準も、京もユキも手伝うと仰り、お台所はあっという間に暖かくなった。まあ広いから構いませんがね。 中井出「どしたのキミたち。料理したいなんて珍しい」 準  「んや、珍しく落ち込んでた気がしたんでね。なんかあったか?」 中井出「ホ……はっは、準は相変わらずこの博光に関しては鋭いねぇ」 準  「幼女以外では、恐らく一番気を向けてる相手だからな。     そんなお前が元気ないと、やっぱ気になるわけよ、家族としては」 一子 「おお……幼女以外ってところは抜くべきだと判断するわ」 冬馬 「ええ。私も空気で感じていました。いえ、幼女の話ではなく」 小雪 「ヒロミツが元気ないの、僕やだよー」 中井出「き、貴様らという家族たちは……!」 準  「だからなんかおかしいだろ! こういう場面で“貴様”は!」  倒置法っぽいツッコみをされた。  しかしどこもおかしくはないな。だって僕がおかしいのなんていつものことだもの。 京  「占いのコト?」 中井出「む……まあ、そうだね」 一子 「占い? あ、そーいえば妙なおじいちゃんが居たわね」 準  「占いってのは……あれか。バスに乗る前の」 中井出「んむ。なんか気になること言われちゃってね」 冬馬 「それは? と、訊いていいですか?」 中井出「遠慮するねぃ家族でしょ。     えとね、“ただひたすらなる孤独を生きる”って言われた」 準  「孤独……そりゃ、この世界から弾かれたあとのことか?」 中井出「それが解らんのですわ。     でも間違いでもないと思うと、今度は逆に京のことが気になってね」 冬馬 「京さんの?」  そう、京のだ。  俺が孤独を生きるのは今さらだ。  でもそれを当ててみせたってことは、京の占いも当たってるやもしれんのだ。  独りじゃないのに独りになる、なんてなぞなぞみたいなことを言われた。  そのことを話してきかせてみれば、冬馬も準も少しの間を黙っていた。 準  「なまじ、ヒロが非常識の中を歩いてきたヤツってだけで、     占いなんてものも信じちまいそうだなぁ……。     “孤独に生きる”なんて、普通は客相手に言いやしねーだろ。     となれば……京のこともあながち間違いじゃねぇってことになる」 冬馬 「ええ、その通りです。しかし謎かけのようで引っかかる言葉ですね。     独りではないのに独りになる、など」 一子 「きっとイジケて自分の殻に閉じこもってるんだわ!」 京  「さすがにそれはない」 小雪 「それってヒロミツが忘れられた時のことみたいな感じ?」 中井出「───…………」  ユキの言葉に、なんとなくピンと来てしまった。  なるほど、それなら言葉の意味も解る。  間違っていてほしいとは思うものの、それはとても悲しいことだった。 中井出「……京だけが俺を忘れるか、京以外が俺を忘れるか、だと思う」 準  「おいおいぃ……それ、どっちも冗談じゃねーぞ?」 中井出「俺もだけどね。仲間も家族も居るのに独りってのがちと気になった。     どうしてそうなるのかまでは予想が立てられんが……」 冬馬 「博光は少し自分の未来のことを悪く考えすぎです。     忘れてしまうのだとしても覚えていられるのだとしても、     また会って、また始めればいいのですよ」 小雪 「そうそう、ヒロミツは考えすぎだよー」 中井出「ぬう……そうなのかな」 一子 「そうそう。それにヒロならいつでも大歓迎だしねっ」 準  「おー、そーゆーことにしとけって。     俺達ゃ、出来ればお前が消えるなんてことは考えたくもねーんだからな」 中井出「………………そっか。そだね」  自分が逆の立場だったら、と考えてみた。  ……笑えないね。悲しいわ。 中井出「よしっ、じゃあみんなで料理ね! 暗い気持ちなんて吹き飛ばそう!」 冬馬 「ええ。博光には弾けた笑顔が似合っていますよ。     元気でいてもらわなくては私達が困ります」 準  「そうそう、辛気臭い顔なんてどうやっても似合わねーんだから、控えなさい」 中井出「ぼ、僕の勝手だろ!」  人の表情にまでケチをつけるとは! でも心配されてるって解ったから、素直に頷くことにした。 中井出(未来かぁ……)  先のことなんて解らないままの人生はまだ続く。  どこで死んじまうのかも解らないこの永遠にも近く、魂の枯渇にも近い人生を、自分はいったいどんなふうに謳えるのか。  一緒に謳い続けていられる誰かは居なくても、これからもきっと、出会う人出会う人に勇気を貰いながら歩くのだろう。  それが嬉しくもあり、悲しくもあった。 中井出「久々にオムライスでも作ろうか。チキンライスの」 準  「チキンライスじゃなくてチャーハンでのオムライスも悪かねぇよな」 中井出「あれウメーよね。じゃあ半々で作るか」 冬馬 「ええ、異議無しです」 小雪 「おお〜……」 中井出「あ、大事なこと訊き忘れた。オムライスに刺す旗、どこの国のがいい?」 準  「オイィィィィ!? あれまだ刺してるのかよ!」 中井出「中井出家の伝統であるからな! ナギーもオムライスには旗をと覚えたものさ!」 小雪 「僕スペインー♪」 京  「カナダで」 一子 「迷うわね……どれがいいかしら」 冬馬 「準のために日本はとっておきます」 準  「いや若!? 別に要りませんからね俺!」  今日もまた、いつも通りの日々。  明日が来ればまた学校に行って、似たような、けれど二度とはこない一日ってのを何度も何度も過ごしていくのだろう。  いつ俺が消えるのか、なんてのはやっぱり解らない。  案外あっさり消えるのかもだが、それでも笑顔で消えたい。いや、消えよう。  先に孤独しか待っていないのだとしても、それでも進むしかないんだからね。 中井出「むっ!? 人の気配! これは…………僕のキミたち、料理の量増やすよ」 準  「ん? どしたいいきなり───って、なるほど」 冬馬 「おやおや、他の方たちまで遊びに来てしまいましたか」 一子 「お姉様たちねっ! 腕によりをかけるわっ!」 小雪 「僕は腕より足がいいなー……」 中井出「どうやってかけんの、そんな“より”」  そういやよりをかけるのよりってどういう意味なんだろね。  まあいいや。  ずっとこんな調子で、強制的に飛ばされるまではこうしてアホをやっていこう。  俺らしくいればいいってお墨付きなんだ、一生そうやって飄々と生きていこう。  ただし、家族に対しては素顔でね。  そんなことを考えて苦笑しながら歩いた。  玄関で迎えたやつらはやっぱりファミリーで、どうせだから朝まで騒ごうって、勝手に布団だしたり遊び始めたりで落ち着きがない。それでも笑っている自分は、本当にこの家族にやられてしまっているんだろう。  恋する僕は切なくて以下略ってやつだ。  そんな暖かな思いと、若干の不安を胸にしたまま、やがて今日って1日が終わった。 Next Menu Back