さて。
 のちに喧嘩するほど仲がいいという言葉の良い例とまで思えるほどの仲になった二神に巻き込まれ、得意でもない酒を連日飲まされ日々を涙で過ごすハメになった中井出。
 しかも自分が醸造した酒を無理矢理飲まされることとなり、ついに「もう……もう耐えられません!」と諏訪大社を飛び出した。
 二人に散々止められたが、止まる理由は特にはなく。そうして再び旅に出た彼は……盛大に道に迷い、何処とも知らぬ地に立っていた。
 既に諏訪大社を飛び出して何年何十年経ったのか。旅をする中でどんどんと様変わりしてゆく世界に驚きつつも、彼は旅を楽しんでいた。

  その過程。場所を移し、話は浦島太郎伝説へ。

 浦島太郎が竜宮城へ───とのことだが、実際は月の都へ迷い込んだだけだった。
 そこでもろもろの事情により八意永琳により300年もの間コールドスリープ状態にされてから、再び地上へ。
 月の都の存在を他者に知られないようにするため、浦島太郎を殺す必要があった。
 そもそも浦島太郎は神隠し現象で月の都に迷い込んだのだが、永琳はこれを即座に「殺すべきだ」と判断。仲間である豊姫はそれは可哀相だと彼をかくまい、結局のところ彼は3年の時を月の都で過ごすのだが───彼は結局地上に戻りたいと言いだす。
 月の都の話が外に漏れることはやはり危険であると判断した永琳は、浦島太郎をコールドスリープで300年寝かせ、地上に送ったのちに玉手箱で老人にした。当然、300年も先では浦島太郎を知っている者が居るはずもなく、誰にも相手にされないままに老衰というかたちで彼は死んだ。むごい。

  のちの時代、聖徳太子(ノーパン……もとい)、豊聡耳神子が産まれる。

 言わずと知れた聖徳太子……が、女だった。
 旅をした先でそんな聖徳太子と出会い、彼は盛大にショックを受けた。
 しかし十人の声を聞き分けることが出来るのは本当らしく、試してみれば見事な聞き分け。

神子 「君は不思議な人ですね。
    望んでもいないのに人の心にずかずかと入り込んでくる」
中井出「そりゃきみ、あんたが“聞き手”なのがいけない。
    聞き手は人が話し始めれば、その終わりを待ってしまうもんだ。
    人の言葉を十まで聞ける脳の回転は羨ましいが、
    逆を言えばきみ、それは十を聞けるのであって十を返せるのとは違うだろ」
神子 「なるほど。聞ける耳はあっても返す言葉は一しか返せないわね。
    けれどそれを嘆いたことはありません。
    十を聞いて十を返す際、相手は十を語るまで待ってくれるものです」
中井出「そうかな」
神子 「当たり前でしょう。でなければ、聞き手に話しかける意味が生まれない」
中井出「ああ、そりゃ正解で正論だ。
    でも、語るだけが生き甲斐の人の話を聞かない馬鹿も居るよ?」
神子 「ならば聞いていればいいだけのこと。
    返す言葉も耳に入れる余裕の無い人に、一の口を裂く理由がこちらには無い」
中井出「……なんか格好いいね、きみ」
神子 「十を聞き続ければ、口も達者になるというものですよ。
    けれど、それでも尚満足出来ないでいます」
中井出「満足?」

 どこか自嘲気味の聖徳太子に、中井出はハテと首をかしげた。
 満足とは……?
 訊くにしても自分に理解出来るかも解らなかったので、やめた。
 相手が話すのなら別だが。

神子 「人の言葉には人の欲が混ざります。それは実に自分の利益が大半。
    それらをほぼ常に十ずつ耳に入れ続ければ、歪みも産まれるというもの。
    私は聖徳太子などと呼ばれてはいますが、人であるからには欲はあります」
中井出「なんだ急に己を語りだした>>神子
    おもえは急に己語りをされた人の対応のしづらさを知っているのか?
    俺も結構やるから今とても恥ずかしいんですがねぇ」
神子 「利己の根源の話です。己の満足のために人が私に欲を語るならば、
    私の利己、私の満足は何処にあるのかと考えるのです。
    そう。聞き手である私には利己を唱える時間すら与えられない。
    語ったところで“君は聞き手だ”と返されて終わるようなものよ。
    それを満足と受け取れるかは私次第なのだろうけれど、
    私はそれを待つのが辛い。むしろめんどい」
中井出「めんどい!?」

 まさかの聖徳太子のめんどい宣言におったまげた。
 しかし彼女とて人間なのだからと思い直すと、聞く体勢に入る。

神子 「仏教も道教も正直どうでもいい。語るだけ語って満足するならすればいい。
    その先にある目的が手に入るのなら、永遠の聞き手だって構わないのよ」
中井出「目的? その目的が手に入ったらどうするの?」
神子 「語り手に回って、語り手の気持ちを知ってみるわ。
    飽きたら聞き手に戻って人の欲に容赦のない指摘をします。
    その程度の知識を満足げに語る君は実に愚かしいと」
中井出「結構毒舌っすね。気に入ったので目的訊いてもいい?」
神子 「……大地は神々の時代から変わらず、海は水を湛えている。
    何故、人間は死を受け入れなければならないのか。私はそこに疑問を感じた」
中井出「死への疑問っつーと……なるほど、狙いは不死か。もしくは不老も混ぜたもの」
神子 「ええ。すぐにそこへ辿り着くあたり、
    君は死というものをよく頭に思い浮かべているようね」

 まあそれなりに。
 そう答えて、中井出は今の世の空を眺めた。
 ……空を、一人の神がごしゃーと飛んでいくのを見た。

神子 「道教仏教大いに結構。私はこれでも以前は毘沙門天を信仰していました。
    霍青娥に奨められ、今では道教の研究を進め、表向きには仏教を広めている。
    道教は秘術の宝庫です。そこには仏教にはなかった様々があり、
    その果てには不死さえ存在すると信じている」
中井出「結果はまだ出ない?」
神子 「……ふふっ。結果はもう出ています。研究とはいわば手探りの法。
    誰かがそれは不死への近道だと言えば、
    たとえそれが嘘だとしても手を伸ばしてしまうのが人の欲。
    ……この身は既に壊れているのです。そう長くは保ちません」
中井出「出会って早々にいろいろ話してくれたのはそれが理由か」
神子 「遺言にするつもりはありませんが。
    私は尸解仙になるつもりです。
    秘術の中にはそれがあり、肉体は滅びますが私という個は残ります」
中井出「仙人か。基本不老不死だっていうし、まあ目的は合ってるよね」
神子 「ですが自分で試すにはあまりにも無謀なので、生贄を用意しようと思います」
中井出「冷静にひでぇねキミ!! で、生贄って誰? 知り合い?」
神子 「学ぶべきものがない人間などいないとはこのことですね。
    まさか出会ったばかりの人とこうも話が合うとは思いませんでした」
中井出「や、だって僕外道を自称している凡人ですもの。既に不老不死だがね」
神子 「!?」

 大層驚かれた。
 その方法を是非教えてほしいと頼まれたから、不老不死の存在と融合すればいいのさと解くと、なるほどと妙に納得された。

神子 「生憎と融合の秘術は知りませんし、それを学ぶにも時間が少ない。
    なので、私は私の方法で不老不死を目指します。
    ああ、ちなみに生贄というのは物部布都といいます。
    彼女ならば疑いもせず実行してくれるでしょう」
中井出「これ道教だから教えた通りに死んでみて? って?」
神子 「ええ《どーーーん!》」
中井出「……おめぇ大物だよ」
神子 「人を超えるべくして生まれましたから」

 自分に負けないくらいの外道を久しぶりに見た気がした。
 しかし信じた上で死ぬことになる物部さんが少し気の毒だったので、せめて一撃くらいは喝を入れておいてやろう。そう思い、彼は武具宝殿から湯飲みを取り出すや湯飲みマッスルアタックを実行。あっさり躱され、お気に入りの湯飲みが粉々になった。
 大ショックだ。
 全部妹子の所為だ。


───……。


 巻き込まれたものの、最後は神子を信じて秘術(呪い)を用い、眠りについた物部布都。その肉体が朽ちないことを確認した神子もまた秘術を用い、眠りについた。
 それを見届けてから彼の旅は再び始まる。
 ちなみに仙人には三種あり、天仙、地仙、尸解仙がそれを指す。
 尸解仙はその3種の仙人の中でも位が下である。
 さてさてそんなことはどうでもよろしいとして、永い永い旅の中、あちらこちらに移動をしてはいろいろな話を聞く。

  稗田阿礼、降臨。

 稗田阿礼という、古事記を書く一人との出会い。
 特にどんな接触があったということもないが、軽く話をし、56億以上を生きていることを話してみると大変驚かれた。
 それからはどんな日々を過ごしてきたのかを軽く話す仲になる。
 自分も、先に“自分”を残すものを書いてみたいと言っていた。
 のちに閻魔と交渉、100年間を部下として務める対価として、寿命は30年程度ではあるが転生することを許可され───“自分を残すもの”を幻想郷縁起として書き始める。

  藤原妹紅、誕生。

 いろいろあった頃から視線をよく感じる。
 時折に空間が裂け、そこから沢山の目玉が彼を見つめていた。
 そんなことを気にしながらも、中井出は一人で遊ぶ妹紅と遊んでいたりした。
 望まれぬ子として産まれた彼女は父親だけが唯一の味方であり、父にしか心を許していなかったが……そんな父もこののちに起こる事態を前に、妹紅を見なくなる。
 これは、そんな彼女の心に恨みというヒビが入る前の話だ。

  ───竹取物語。

 えらい美人が竹から産まれたとし、彼は翁の家へ忍びこんだ。
 普通に訪ねるという選択肢はなかったらしい。
 数多の男を虜にし、数多の男を袖にしたその女性は……確かに美しかった。
 妹紅の父である藤原不比等も彼女に心を奪われ、妹紅を見なくなった。このことが原因で妹紅は会っても居ない輝夜を嫌うようになる。
 そんな美女を前にしている中井出なわけだが、好きになった女以外にトキメキを覚えないそいつにしてみれば、かぐや姫という存在は“自分の美しさを理由に男達に無理難題を吹っかける嫌な性格の女”だった。

輝夜 「目の前で随分と言ってくれるのね」
中井出「そりゃね。ありもしないものを取ってこいとか、
    確実に無理なものを取ってこいとか。
    まあ、嫌だって言ってるのに結婚してくれとか言う男が馬鹿なんだけどさ。
    だったらもっとすっぱり結婚はしませんって言えばいいじゃん」
輝夜 「お爺さんとお婆さんに迷惑がかかるわ」
中井出「現状の方がよっぽど迷惑でしょうに……。
    まあいいや、退屈している者をほうっておくほど僕は辛抱強くはござんせん。
    えーと月からの使者が来るんだっけ? それまで暇潰しをいろいろ教えます。
    なにがいいかね。昔の人に携帯ゲームとかパソコンやらせるのも、
    これで結構面白そ…………なんかニートになりそうだからやめとこ」
輝夜 「ニート?」
中井出「仕事しないで部屋にこもってずーっと遊んでる社会不適合者のこと。
    不適合とか、言うこと結構キツいよね。
    生命の危機に瀕すれば、無理にでも動こうとするだろうに。
    まあ、働こうとするまでの時点で家庭にかける負担は相当なもんだろうけどね」
輝夜 「私は働きたくても働かせてもらえないだけよ。
    むしろやってみたいくらいだわ」
中井出「だろうね。なんかそんな感じする」

 箱入り娘も大概にしろとは本人にではなく親に言うべき言葉だ。
 なのでお爺様お婆様に言ってみたら“とんでもない!”と返された。
 最初こそ畑仕事や竹取仕事を手伝ってもらっていたようだが、彼女の美しさが世間に知られてくるとろくに外にでも出られなくなったんだとか。

中井出「男ってめんどくせー……。まあいいや、それよりゲームしよゲーム。
    どうせ迎えが来るんなら、ニートがどうとかそんなの自己責任だ」
輝夜 「よく解らないけど望むところよ。退屈なんて大嫌いだもの」

 で、ゲームといえばこれ! とばかりに彼が取り出したのはPWP。
 ゲームは魔物ハンターであり、PWPはプレイワールドポータブルの略である。
 “世界を体験する”意味で作られたそれはPSPに似てなくもないが、作るための素材はノヴァルシオ素材が主なので、一応常に中井出と繋がっている。
 バージョンアップもお手のモノで、やろうと思えばtellも飛ばせるスグレモノ。
 常にオンライン状態なのでチャットも協力プレイも出来るが、同じくプレイしている人がこの時代に居るかといったら否である。
 なので中井出は輝夜のPWPをフェルダールに繋げ、そこでの協力などは意思たちに任せた。それからは自由な時間の始まり始まりだ。
 輝夜にはまず操作の仕方をゲーム機内臓のプラクティスモードで練習させる。
 案外飲み込みが速いらしく、あっという間に未来の機械操作に慣れるや、早速ゲームを始めた。

  ───それから、三日後。

 竹取の翁の家にて、今日も輝夜姫の愉しげな笑い声が響いていた。

輝夜「よっしゃーーーっ! ミル・ジャブヤの逆鱗ゲットォゥ!!」

 ……口調も随分と馴染んだようで。
 さてこのゲーム、製作はメイドイン・ヒロラインであり、武具に宿る全ての意思の“こうだったらいいな”が結晶となったゲームだ。
 故に人の心を擽るのがとても上手く、初めてのゲームに興奮した彼女がどっぷりハマるのも無理もないことだった。

輝夜「これでようやくジャブヤの尖剣が作れるわ……!
   これを手に入れるために何回ジャブヤに挑んだか……!」

 ジャブヤというのはトカゲの大型モンスターであり、ミルはその種族の頂点を指す。
 頂点のくせになんで何度も狩れるんだとかはツッコんじゃいけない。ゲームなのだ。
 そして逆鱗で解る通り、現在まだ下位ランク。彼女は上位やG級、デッドランクなどがあることをまだまだ知らない。

輝夜 「あはははは! うろちょろと鬱陶しかったランポスが一撃! とうとう一撃!
    私はこの時を待っていた! ねぇねぇ博光ちょっと見てみなさい!
    私強くなったわよ! もうこのゲームも極めたも同然でしょ!?」
中井出「輝夜さん。このゲームの武器の量は1000を軽く超えます。
    そしてその武器は1000以上ある武器の中の下位装備でしかないのです」
輝夜 「えぇ!? こっ……これが!?」
中井出「励みなされ。
    極めれば、ミルモンスターといえど一撃で屠れる最強のあなたが完成します」
輝夜 「……!《ぱあああ……!》」

 とても嬉しそうだったという。
 まあそれはそれとして、中井出はこの家でなにをしているのかというと、実は家に侵入者が居ないかの見張りや警護といったものをしていた。
 他には畑を耕したり竹取をしたりと、老人好きの彼はそれはもう老夫婦の手伝いを自主的にしまくっていた。逆に輝夜姫のことはどうでもいいに近いというか、ついで的なものである。

中井出「輝夜ー、メシできたぞー。こっち来て食えー」
輝夜 「え、ま、待ってー!? 今ミルシルバリオと戦ってるところなのー!」
中井出「中断機能があるでしょう。それを使いなさい」
輝夜 「この興奮は中断したら冷めちゃうのよ!
    冷めたら次は同じテンションで戦えないで負けちゃうかもしれないじゃない!」
中井出「その気持ちは激しく解るけど食べなさい!
    お爺さんお婆さんを待たせる気かね!」
輝夜 「う、うー……それを引き合いに出されたら逆らえないじゃない……」
中井出「むしろテンションって言葉を普通に使ってるのが驚きだよもう」

 大人しく中断して自室から出てくる輝夜。
 部屋とはいってもそれほど大きな家でもないため、声を出せば届く位置。
 少し不満そうな顔をした輝夜が来たところで、みんなして手を合わせていただきますを言った。

輝夜 「ん、む……相変わらず美味しいわね」
中井出「伊達に長生きしとりませんわい」
輝夜 「またその話?
    どう見ても人間のあなたがその姿で長生きとか、おかしな冗談よ」
中井出「まあ昔にいろいろあってねー。
    あ、そういや月といえば……月夜見って元気? まだ生きてる?」
輝夜 「ブゥウッフゥッ!?」
中井出「キャーーーッ!!?」

 急に知っている名を出され、輝夜は盛大に咀嚼中だったものを吹き出した。
 ……主に中井出の顔面目掛けて。

中井出「な、なにをするだァーーーッ!!」
輝夜 「けっほこほっ! ……つ、月夜見って……月読命様!?」
中井出「え? なにそれ。知らねー。月夜見っていったら月夜見さ。
    月に行くーとか言って、僕やアマテラスやスサノオ、
    ヒルコらを置いて月に飛んでっちまった僕の友達のこと。
    あ、じゃあこれだ。八意さん。八意永琳ってのが居たと思うんだけど、どう?
    月に都でも作ってのんびり暮らすわって言ってたし、都、出来てる?」
輝夜 「………」

 あんぐり。
 美女にはありえない驚愕フェイスで固まった輝夜は、お爺さんとお婆さんが軽く引くくらいにそれはもう盛大に驚いていた。

輝夜 「あ、あなたね……!
    それがどれくらい前だか解っていて言っているの……!?」
中井出「解ってないかなぁ……もう忘れちゃったし。
    あ、ちなみに僕と永琳さん、不老不死の霊薬の研究をしててね?
    その時に一緒に飲んだのが不老不死の薬だったんだよね。
    その時から老いとは無縁に生きてた筈だから、
    永琳さん生きてるはずなんだけど……生きてるよね?」
輝夜 「…………使者が迎えに来るって言ったわよね。その一人が永琳よ」
中井出「おお! それは素晴らしい! 懐かしい顔に会える!」
輝夜 「……これも巡り合わせってもの……なのかもね。
    ねぇ博光。私ね、月になんて、あんな退屈なところになんて帰りたくないのよ。
    だから永琳と結託して、迎えから逃げるつもりでいるの」
中井出「なんと!?」

 素直に驚く。翁も、その妻である老婆も相当に驚いていた。
 その驚きはどちらかといえば歓喜に近かったが、輝夜はそんな老夫婦に向けて首を横に振るう。

輝夜 「月人には生半可な抵抗は無意味よ。
    月人の技術はこの世界より遥かに発達している。
    ……言っていることが真実なら、あなたなら知っているでしょう?」
中井出「おお知っているよ。なにせ神々の技術だし、僕が入れ知恵した部分もあるし」
輝夜 「…………じゃあなに? 主にあなたの所為で私は強制送還させられるって?」
中井出「キミの場合は禁じられてるのに不老不死の霊薬を飲んだからでしょ。
    なんてったっけ? 蓬莱の薬だっけ?」
輝夜 「…………ええ」

 無闇に使わないほうがいいよと、薬の残りに封をしていた永琳に言った光景が思い返される。“好き好んで飲む人などいないでしょう”と苦笑していた彼女の顔も。
 結果としては……コノザマというべきか。

中井出「つーかさ、不老不死のくせに拾われた時は竹の中に入ってるサイズって。
    キミ、いったいどんな魔法使ったのさ」
輝夜 「“老い”は大人が自覚して受け入れていくもので、
    子供がするのは“成長”なのよ。不老というなら成長はその枠に入らない。
    考えてみればいいのよ。成長が老いの部類に入るなら、
    じゃあ人はそれ以上のことを学べないということになるでしょう?
    不老になった瞬間に孤独になって、一人で生きる術を永久に学べなかったら、
    それは生きているのとは違うわよ」
中井出「はー……語るねぇ。まあ同じ意見だけどさ」

 なるほど、成長と老いか。
 中井出はフムリと頷き、翁らは首を傾げていた。

輝夜 「というわけだから、博光。あなた、手伝いなさい。
    永琳と知り合いで、月読命様と友人関係にあるのなら、私を───」
中井出「友人を盾に手伝いなさいなんて言われて、この博光が手伝うわけないでしょ。
    いやだよそんな、めんどくさい」
輝夜 「お礼に蓬莱の薬あげるから」
中井出「まだ持ってるの!?」
輝夜 「ん、二つばっかり。
    一つはお爺様に、一つはしつこくても良くはしてくれた帝様に渡すつもりよ。
    というか帝様、贈り物の一つでも渡さないと諦めそうにないし」
中井出「ほんと……男ってやつはねぇ……」

 すまんこってすと男を代表して謝ると、彼はそのまま食事に戻った。

輝夜 「で、手伝ってくれるのよね?」
中井出「魔物ハンターなら付き合うよ」
輝夜 「こんなに美しい私がお願いしてるのに?」
中井出「自分を自分で美しいなんて言うヤツはクズだって思ってる。
    だから、それを言葉遊びで使うキミはまだ正常だ」
輝夜 「ありがと。それはいいから手伝ってよ。
    長生きしてるなら強かったりするんでしょ?」
中井出「んー……月ってそんなにつまらんの?」
輝夜 「どこを見ても大して変わらないような、森ばかりの場所よ。
    海があるけど生き物は居ない。ただただ殺風景な景色が続いていて、
    都も活気があるなんて言葉じゃなくて、規律だけが生きているって言える場所」
中井出「うーわーそりゃつまらん。
    OK、じゃあ貴様が楽しいを掴むためにこの博光、逃亡を手助けしましょう。
    つーわけで今から逃げるよ? 永琳には僕がGODモールス信号送るから」
輝夜 「そんなことが出来るの!?」
中井出「うそじゃ」

 両手に箸と茶碗を持っているためにビンタが出来ないかぐや姫に、腹部へと超頭突きをされた。それが丁度みぞおちにヒットして、狙って技名にGODとかつけたわけでもないのにこの瞬間、ゴッドストマックが完成した。
 ……ちなみにゴッドストマックとは、ゴッドマンが敵の猛進を腹部に受け、芝居ではなく純粋に痛がっていた様を指すゴッドマンが持つ究極奥義の壱である。*神冥書房刊:『ふぃぎゅGOD謝肉祭』より


───……。


 満月時。
 帝が意地でも輝夜を月へと帰さないつもりで護衛兵や、意味あるのかと突っ込みたくなる陰陽師まで雇って連れて来た現在。
 まんまるい満月に黒い点の影がひとつ。
 それがゆっくりと近づいてくると、

中井出「ねぇ輝夜? 月人の武装って僕らじゃ太刀打ちできないって言ったよね?」
輝夜 「なにをやっても傷ひとつつかないでしょうね」
中井出「そっか。じゃあ先手必勝の意味も込めて! ハイペリオンレッツゴー!」
輝夜 「え?」

 彼は躊躇することなく、ブレイブポットスキルから核兵器を撃ち出したそうです。
 ドンチュゥウウン……と飛んでゆく核兵器をただ呆然と見る傍ら、中井出は傷ひとつつかずに無傷で爆煙を抜けて出てくる牛車の姿を待望してチュヴォガドンガァアアアアン!!!

輝夜 「ひきゃあああーーーーーーっ!!?」
中井出「たーーーまやーーーっ!!」

 超爆発が起こった。
 もちろんスキルなので、核といえど直撃物以外には害はなく、死の灰を撒き散らすなんてこともない。
 ないが…………なにかが空中に存在する煙の中からぼてりと落下し、ズドドドドと走ってきて───

永琳 「どれだけ生きればその身勝手さが直るのですかあなたはぁあーーーーっ!!!」
中井出「《マゴチャア!!》つぶつぶーーーーっ!!」

 走ってきた唯一の不死身な彼女に、渾身の右ストレートを進呈されたそうな。
 むしろあの爆発の中で平気な衣服に驚きである。

輝夜 「え、永琳……その、無事?」
永琳 「───! 輝夜……! お変わりないようで、なにより」
輝夜 「不死人に何を変えろというのよ」
永琳 「性格です」
中井出「わあ、そこで僕を見るところはさっすがー」

 ギロリと睨まれてもニコリと笑う図太い男、博光です。
 などと歯を輝かせたが、対する永琳は盛大に溜め息を吐いていた。

永琳 「手筈が全て水の泡ね。まさかあそこでハイペリオンとは……」
中井出「だ、だって輝夜が僕なんかがなにをやっても傷ひとつつかないって言うから!
    し、仕方なかったんだ! 僕、輝夜に脅されて……!」
輝夜 「えぇっ!? ちょっ……確かに傷はつかないとは言ったけど!」
永琳 「博光。輝夜……姫様に武具宝殿のことはお話に?」
中井出「いえ詳しいことはトント」
永琳 「なら貴方が悪い」
中井出「《さくり》ギャアーーーーッ!!」

 笑顔で矢をブスリと刺された。額である。
 しかし不老不死なので痛かっただけで済んだ。

中井出「で、これからどうするの?
    そもそもキミが月を……月夜見を裏切るってのは正直予想GUYデェス」
永琳 「まあさすがに、相手が輝夜でなければ考えもしないことね。
    月での暮らしに飽きたという事実もないわけではないけど」
中井出「そかそか、やっぱり退屈は敵だものね。じゃあ今すぐ逃げるといいさ。
    今なら爆発でみんな驚いてるし、逃げるなら今だよ?
    帝が今にも指示出そうとしてるし、すぐにでも突撃がくる。
    よってここは僕が引き受けよう。貴様らはすぐに逃げれ」
永琳 「あなたが誰かを守ろうなんて、珍しいこともあるものね」
中井出「旧知の者に会えて、しかも覚えてもらえてるってのは幸せなことなのさ。
    僕は今気分がいい。なので行きなさい。あ、これに乗っていって?
    一応牛車に似せた乗り物だ。これで月へ向けてかっ飛ばせば、
    月に帰ったと思われるでしょう」

 そんなことを言いつつ霊章からずるりと取り出したのは、ちょっと待てといろいろツッコミたくなるような大きさの魔導船。
 しかし物珍しさからか輝夜はさっさと乗ってしまい、永琳もまともに話し合えば疲れるだけだと真実とっくの昔に思い知っているので、素直に乗った。

輝夜 「博光はこないの?」
中井出「僕は旅があるからね。世界中をマナの花いっぱいにしてやンのヨ」
輝夜 「ふぅん……あ、そうだ。ねぇ、PWPちょうだい?
    代わりに帝にあげる薬を博光にあげるから」
中井出「だから不老不死になったってどうにもならないんだっての」
永琳 「輝夜。大変呆れることで溜め息も枯れ果てるほどの昔のことだけれど、
    この男は私が産まれる前から不老不死なのよ」
輝夜 「そこらへんは聞いたわ。でも、だからこそ要るかなーって。
    ほら、不老不死ってあれだから。誰かに居て欲しいって思うこと、あるでしょ」
中井出「旅してりゃあ誰にだって会えるし、べつにかなぁ」

 死はよっぽど望まん限りは平等がいいなと口にする。
 輝夜はそんな彼を見てけらけらと笑ったが、そんな彼女へPWPが投げ渡されると、彼女もまた蓬莱の薬を投げ渡してきた。

輝夜 「一緒に居て、とっても楽しませてもらったわ。
    “楽しい”っていいわね。ありがとって言っとく」
中井出「あー、構わん構わん。それが俺の願いなんだから。
    それと、そのPWPは永久電池ついてるからずっと遊べるスグレモノぞ。
    マナが届く場所なら永久的にバージョンアップされるから、
    飽きない程度に楽しみなさい。僕が望むことなぞそれだけさね」
輝夜 「欲がないわねー」

 言いつつ、輝夜は慣れた手付きでPWPを起動。
 魔物ハンターを選んでゲームを開始すると、いつものように存在する高レベルのオンラインプレイヤーを発見して「うわ、また居る」なんてこぼしていた。
 そのオンラインプレイヤー。名を、諏訪子と神奈子といった。

輝夜 「ねぇ博光。結局この諏訪子と神奈子って誰なの?
    なんかもう呆れるくらいの高レベル高ランクなんだけど」
中井出「昔知り合った神様。まだやってくれてるみたいだね、なんか嬉しい」
輝夜 「神って……はあ、まあいいわ。話してみても、トゲのない感じで話しやすいし」
中井出「協力してみたの?」
輝夜 「ランク無差別イベントでたまたまね」
中井出「神様ってやっぱり暇なんだなぁ……」

 呆れた風に口にする中井出。
 そんな彼に、輝夜はくすりと笑うとゲームをスリープモードにして、中井出の眼を見て言った。

輝夜 「まあゲームはともかく。飲まないんだったら大事にしてよねそれ。
    ……じゃ、またいつか会いましょ」
永琳 「縁があるのならね。あるのなら」
中井出「永琳さん!? 一言余計だよ!? まあでも一度目の縁はあったわけだし、
    二度あることは三度……グオッフォフォ……!!」
永琳 「輝夜。安住できて彼が探せないような場所へ住みましょう」
中井出「うわひっでぇ! な、なにもそこまで言わずとも!」
輝夜 「永琳がここまで遠慮無しに言うのも珍しいわねー……。
    まあいいわ。次に会うときには、どのゲームでも私が勝つんだから。
    腕鈍らせてたりしたらただじゃおかないから、腕磨いておきなさいよ」
中井出「返り討ちじゃい、小童が」

 中井出の言葉にニカッと歯を見せて笑った輝夜。
 そんな彼女の隣に立つ永琳は、溜め息を吐きつつも傷薬を投げつけてくれた。

中井出「お、おう? これは?」
永琳 「特製の傷薬よ。
    古い友人に、不老不死とはいえ深い傷は負ったままにはしておけないから。
    見事なものでしょ? いつかあなたが言っていた、馬鹿につけられる薬よ」
中井出「えぇ!? か、開発に成功していたのか!
    すげぇや! さっすが天下の“××”さんだ!」
永琳 「───……発音、出来るようになったのね」
中井出「あれからGOD語をいろいろ勉強してね。
    まあ、一度呼んでみたかっただけだし、もう永琳って呼ぶことにするけどね」
永琳 「ええ。もう私もその名が定着しているから。呼ばれるまで忘れていたくらいね」
中井出「月の頭脳がまた、随分とうそくさいことを仰る」

 互いにもう一度笑う。
 会話はそこまでだった。
 魔導船は出発し、翁もお婆様もその出発を笑顔で見送れた。
 そんな翁の手には蓬莱の薬が。
 永琳と話している間にさっさと渡してしまったらしい。

中井出「こんなお別れでよかったかな」
翁  「はっは……なぁに。
    あの子が元気でいてくれるのなら、たとえこの場で暮らせずとも……のぅ。
    さて、博光くんや。わしはこのまま不老不死になどならず、
    自然と死にゆきたいと思っておる。
    そうなるとこの薬は誰に奪われるわけにもいかぬもの。
    わしもそう永くはないじゃろうて……きみに受け取ってほしいのじゃが」
中井出「へ? いいの? 輝夜の置き土産だろうに」
翁  「思えばあの子のあんな笑顔など、
    成長してからはろくに見ることが出来なかった。
    綺麗だからというただそれだけの理由で、
    つまらない幼少の頃を生きさせてしまったよ。
    だがわしらはそれも仕方ないことだと半ば諦めてしまっておった。
    ……子供の頃は、あんなにも笑顔で手伝ってくれていたのになぁ……」
中井出「爺様……」
翁  「これは、礼じゃよ、博光くん。最後まで輝夜の笑顔を見られてよかった。
    最後まで、笑顔で見送ることが出来てよかった。
    帝様は諦めきれぬのだろうが、わしらは今後もあの子が笑って過ごせるのなら、
    この場以外でなら笑って過ごせるのならと、笑顔で見送れた。
    ……それだけで満足じゃよ。望むことなぞ、その後の静かな暮らしだけじゃ。
    ばあさんと一緒に、眠りにつくまで楽しく生きる。それだけなんじゃ」

 老夫婦はどこまでも穏やかに笑っていた。
 中井出も老夫婦の気持ちを正面からしっかりと受け取ると、静かに頷く。
 それじゃ、また旅に出ようか。
 懐かしい顔も見れた。やさしく明るい老夫婦と話すことも出来た。
 彼にとっては随分と懐かしく暖かい時間だった。
 ……懐かしむ対象に出てこない輝夜のことはどうでもいいのだろうか。

中井出「じゃ、ちょっといってきます」
翁  「……面倒をかけるのう。輝夜と一緒に居たのだからと、
    付け回されることを解っていて残ったのじゃろう?」
中井出「はっはっは、おじーさん? 僕ァね。
    同じ釜の飯食って同じことやって笑い合えたヤツを、
    見捨てるようなことは絶対にしないのさ」

 状況にもよるけど。それを付け足して、ドタバタと屋敷へ入ってきた兵達と対峙した。
 口々にかぐや姫は何処だだの帝様の前で姫を帰す手助けをするなど、などと喚き散らしては襲い掛かる。こちらの言い分など聞く耳持つ気もないようだ。
 ここに居ては老夫婦を巻き込むと判断すると外へと飛び出て、彼はこれまでの経緯を肉体言語で語り、帝様に輝夜との別れを納得してもらうのだった。物理的に。


───……。


 それからしばらく。
 姿を変えて生きる中で、藤原不比等(ふじわらのふびと)車持皇子(くらもちのみこ))が死亡したという話を聞いた。
 すぐに頭の中に浮かんだのが、望まれぬ子と言われていた妹紅の存在。
 屋敷に行ってみれば案の定、家にも入れてもらえず父の死を目にすることも出来ずに泣き崩れている妹紅が居た。

校務仮面『もし。もし、そこの方』
妹紅  「っ……だ、誰───……博光?」
校務仮面『ち、違う!』

 そして姿を変えて生きていたわりにあっさりとバレた。
 藤原妹紅。綺麗な黒髪の可愛らしい少女だ。
 父のみを愛し、父のみに愛され、他には嫌われ、嫌った少女。
 既に自分の味方がどこにも居ないことを悟っていた少女は、ならばせめて愛する父の必死な心を弄んだかぐや姫に復讐をと拳を握り締めていた。
 そこに現れたのが、この紙袋を被った変態である。
 どうせこの男も自分が一応とはいえ不比等の娘であることを知っての接触だったのだと、疑る目で睨む。しかし彼はといえば独りなら、一緒に来るかい? と暢気な声をだした。

妹紅  「……解ってるの? 父は死んだわ。私に接触する理由なんて、もう───」
校務仮面『? 接触する理由なんて、つまらなそうだなーってので十分なんだが。
     このひろ───ゲホッ! ゴッホゲフ!
     ……この校務仮面、人を楽しくすることを生業としております故。
     もちろん校務は当然なので生業からは外しますが』
妹紅  「……え?」
校務仮面『え?』

 意見の食い違いを感じた。
 妹紅は戸惑い、その戸惑いをそのまま口に出す。

妹紅  「父に、不比等に取り入るために私に接触してたんじゃ……」
校務仮面『なんでそんなつまらんことをせにゃならんのだ。
     私はお子がつまらなそうにしてたから一緒に遊ぼうと言っただけぞ?
     この校務仮面の前でつまらん顔などいつまでも出来ぬと知れ』

 目の前でワハハと笑い、腰に手を当て胸を張る変態。
 たった今孤独になったばかりの少女にはその時に芽生えた感情がなにかなどは解らなかったが、一言で言うのならそれは喜びだった。
 孤独な少女が当てもなく生きていけるわけもない。
 不安ばかりのところで手を差し伸べられれば握りたくもなるだろう。
 だから少女は思った。
 どうせもう無くすものもないのなら、べつに騙されてもいいのかもしれないと。
 生きるのに疲れたら相手を恨んで死ねばいい。
 でもせめて、死ぬ前にかぐや姫を殴ってやりたい。
 それだけは譲れないと思いながら、どこか死んだ目で彼の手を取った。


───……。


 稗田阿礼の子、阿一が幻想郷縁起を書き連ね始める。
 この頃から、まるで寝巻き姿のようにも見えなくもないお子が中井出の周りに現れるようになる。
 名を八雲紫というらしい。
 隙間妖怪だそうで、人を化かすキツネのような性格だった。

中井出「これこれもこたん、そんなに走ると危ないよ」
妹紅 「その呼び方はやめてって言ってるでしょう!」

 さて。ここに一人の少女と一人の凡人がおる。
 旅を始めてどれくらいか。少々成長した彼女は今や輝夜と同じくらいの容姿になっていた。さらりと揺れる長い白髪が眩しく、そのてっぺんには父から貰ったらしい紅白のリボンが揺れている。
 ある意味形見みたいなものだからと、中井出はこれにエーテルコーティングというか、固定化の魔法を何重にも施した。彼自身は魔法なぞ使えないので、当然武具から意思を取り出して。

中井出「はーあ。せっかくの綺麗な黒髪だったのにねぇ」
妹紅 「まだ言ってるの? いい加減慣れたほうがいいよ」

 妹紅は蓬莱の薬を飲んで不老不死になっていた。
 飲む前は綺麗な黒髪だったそれは、飲んだ途端に白へと変わり、目も綺麗な黒と茶が混ざったものから赤へ。皮肉なもので、父から贈られたリボンと同じ色になってしまっていた。
 神の親族(永琳)が作った薬だからかどうなのか、その時点で妹紅は妖力を持っていて、現在では小さな種火のような火を出せるようになっている。

妹紅 「上手くいかないなぁ。ねぇ博光、こういうのってコツとかあるの?
    ていうか同じ不老不死なのに博光は火とか出せないの?」
中井出「いろいろ出せるよ? 刃物とか乗り物とか、内包してるのならなんでも」

 言いつつ武具宝殿からズチャアと様々な武器の切っ先を覗かせてみせた。
 霊章から飛び出るそれらは妹紅にとってはマジックショーのソレに近い珍しさ。
 歳相応の顔できゃいきゃいと目を輝かせて喜んでいる。
 ……あの死んだ目はどこへいったのやら。
 楽しませ続ける日々の中、復讐は復讐、楽しいは楽しいと割り切れたのかもしれない。

中井出「輝夜のこと、まだ恨んでる?」
妹紅 「独りでうじうじ悩んでたら恨んでたかもね。
    今はとりあえず一発殴れたらそれでいいのかも。
    美しいからって理由で夢中になっていたのは父様だけで、
    かぐや姫はべつにそう望んでたわけじゃなかった。
    博光の話を聞いて、少しずつだけど受け入れられるようになったわ」
中井出「そか、そりゃ結構」
妹紅 「ただ、皆の前で父を虚仮にしたことだけは許せない」
中井出「いや、ありゃあ細工屋に金払ってなかったもこたんのパパが悪いだろ」
妹紅 「うぐっ……そ、それでもっ!」

 車持皇子……藤原不比等は、輝夜に出された課題……蓬莱の玉の枝を細工屋に偽装で作らせ、それを輝夜に献上した。
 その出来映えに輝夜でさえ最初は本物だと信じてしまったほど。
 しかしそこへ細工屋が現れ、不比等に未払いの代金の請求を口にし、細工がバレたのだ。当然といえば当然だが、様々な人が輝夜に課題の献上をしようと集まっていた中でのその暴露は赤っ恥以上のいい曝し者状態となり、集まっていた者からの侮蔑の嘲笑を散々とされた。
 不比等とともにそこに居た妹紅は、それが許せなかったのだ。
 細工をした不比等が悪い? 違う。そもそも用意出来ないと理解できようものを要求した輝夜が悪いのだ。嫌ならば心底嫌だと最初から断ればよかった。何故希望を持たせるようなことをしたのだ。あんなことさえなければ、父は馬鹿にされることなどなかったのに。
 考えれば考えるほど腸が煮えくり返る。
 しかし、勝手に見惚れて勝手に輝夜の生活を潰したのも父らなのだ。
 妹紅はそういった事情をしっかりと自分の中で噛み砕いてから、蓬莱の薬を飲んだ。
 輝夜は不老不死。ならば生きていれば絶対に会えるだろう。
 博光も不老不死。ついていくならその方が自分も寂しくはない。
 そういった理由もあり、躊躇はなく薬を飲んだ。

中井出「親しくなった人を見送るってのも、心が死ぬまでは辛いもんだよ?」

 そう言う中井出の言葉など右から左だ。
 何故って、そんなものは味わってみなければ理解できるはずもないのだから。
 そうして、同意のもとで彼女は不老不死の妖へと至った。
 何故輝夜は黒髪のままで、妹紅は白髪赤眼となったのかの疑問は残ったが、月人と地上人との差なのだろう。月人が作ったものだ、月人には正常に働くのが当然。逆に地上人を穢れた存在だと言う者から見れば、妖怪めいた力の覚醒とともに変色するのになんの疑問も感じない。

中井出「親のためなら妖怪になろうが、ってやつかね」
妹紅 「私自身が自分を父の娘だって誇りに思えていれば、
    種族も姿もどうだって構わないじゃない。
    私は藤原妹紅。藤原不比等の娘で、不老不死になった人間。
    誰がどう思おうが、それが私を形成する結果の全てよ」
中井出「……そか。いや強いキミはレスラーだ」
妹紅 「れすらー? なにそれ」
中井出「パンツのみで戦う雄々しき存在のこと」
妹紅 「ぱんつ?」
中井出「下着のこと《ベパァン!》ジェノバ!!」

 電光石火でビンタが飛んだ。
 自業自得である。


───……。


 旅の途中。
 村や町などを見つけると寄ってみて、そこで食べたり話したり。
 白髪赤眼は目立つこともあり、妹紅を見るやそそくさと逃げる人も結構居る。
 そんなことが続くとさすがに妹紅もしょんぼりとするのだが、

中井出「ははははは、そいでさー」
妹紅 「うまい! カツ丼!」

 そんな時は食った。
 しょんぼりの時はメシでしょう、とばかりに。
 ともかく自分の中に巨大図書館という知識の宝庫を持つ中井出だ。
 食べ物や娯楽に関しては尽きることのない知識があるため、落ち込んだ彼女にとっては彼はなんというか退屈しないおもちゃ箱のようなものになっていた。
 特に食べたことのないものは新鮮さの塊であり、カツ丼の味と食感に眼を輝かせている妹紅は無邪気な年頃の子供そのものだった。

スキマ「あら。おいしそうですわね。ご相伴に預かっても?」

 そんなのどかな光景の中、すう、と空中に切れ目のようなものが出来たかと思うと、それが縦にぱくりと広がって“スキマ”と呼ばれる空間の裂け目が出来る。
 そこからひょこりと姿を見せたのは、いつもの幼女だ。

中井出「おは幼女」
妹紅 「おはようじょ」
スキマ「……その挨拶、やめてもらえるかしら」
中井出「まだちっこいのに無理して大人っぽく振る舞っても得なんてしないよ?
    もっとお子らしくなさい」
スキマ「かっ……体が小さいのは、妖力が足りていないからですわ。
    ももも元々はこう、胸もばいーんと、背だってするりと」
中井出「おは幼女」
妹紅 「おはようじょ」
スキマ「何故言い直しますの!?」

 幼女がムキーと怒り出す。
 頭にナイトキャップを常時被る、おかしなお子だった。

中井出「ほーれゆかりーん、ケーキだぞーう」
スキマ「! く、くれるの!? ……あっ……い、いただけますの?」
中井出「言い直したからだめ」
スキマ「ムキー!!」
妹紅 「そうそう、お前にやるもんなんて無いんだ、いいから失せろ」
中井出「これこれもこたん、そう口汚く言うものじゃあござんせん」
妹紅 「だってこいつ前に私のうまティー盗んだ!」
スキマ「ええ、あれは最高でしたわ。
    あれがなければこうまで付き纏うこともなかったかもと思えるほどで」
中井出「えーと、なんつったっけ。八雲紫さん?」
紫  「ええ、それで合っていますわ。なんでしょう、最古の人類さん」

 彼は質問をした。
 キミはいつごろ妖怪として現れたのか。

紫  「……それが、よく覚えていないのよね。
    気づいたら、というか……最初は覚えていたのだけれど。
    ただ、その時は背がもっと大きくて、胸もこうばいーんと」
中井出「…………《にこり》」
妹紅 「…………《にこり》」
紫  「……なんでそこで優しい笑顔で見るのよう!!」

 とことん信用されていないようだった。

紫  「ほ、ほんとよ? ほんとなんだからね?
    そ、そう、思い出した。私は前は“ダイガク”とかいうところに居て、
    でも何故か気がつくと知らない場所に居ることがよくあって」
中井出「ホ? そりゃあれか? 境界を越えるとかそんなの?」
紫  「! そう! え? 知ってるの!? ……あ、こほん。し、知っていますの?」
中井出「や、ほら。よく神隠し〜とかあるじゃない?
    あれって妖精に惑わされたりとか妖の妖気で感覚を狂わされた人が、
    知らずに道に迷って妖側の道に辿り着いていたり〜ってのがあるらしいけどさ。
    稀に自分でそういうところに入っちゃう人が居るらしいって聞いたことがある」
紫  「……それで、どうなるの?」
中井出「最初の頃は夢だとかで済ませてなんとかなるんだけどね。
    自覚してそれが自分の“力の一部だ”って認識しちゃうと、色々と変わる」
紫  「変わる……?」

 様々な世界の知識を図書館から引き出しながら喋る。
 混ざり合って混沌とした知識だが、そういった場合に辿り着くものというのはどの世界でも大体は同じらしい。

中井出「“その力に見合った自分”に至るのさ。
    きみの場合でいえば、人間から妖怪になったとか、そんな感じ」
紫  「…………人間? 私は人間だったと?」
中井出「勝手に相手の過去を見る趣味はないねぇ。状況によりけりだけどね。
    でもダイガクって聞いて意味を重ねるなら、ダイガクは大学しかないし、
    キミが境界を操る妖怪だってんならそこにしか辿り着けないんじゃない?
    きっと時間の境界さえ飛び越えてきたお子なのよ」
妹紅 「境界って……隙間妖怪のことはこいつ自身が自慢げに語ってたから解るけど、
    時間を飛び越えるなんてことまで出来るのか?」
中井出「ま、そこらへんの事情に関してはいろいろと詳しいというか体験済みだから、
    ここは“出来る”と断言するよ。
    で、境界のことだけど……知らぬ間に境界を越えるってのが一番厄介だね。
    どこそこへ行きたいって確固たる意思がないから、
    たとえば“ずぅっと昔にはなにがあったのかなー”なんて軽く思えば、
    自分の中にある境界を操る力が整った時にいきなり飛ばされたりする」
妹紅 「うわ、好きな時に使えないなんて、役に立たないどころの話じゃないわね」
中井出「そゆこと。だから体とその“力”自身が、その能力を受け入れようと努力して」
紫  「妖怪に、なった?」
中井出「境界を越えた先が妖怪とかがたくさん居る時代なら、
    そこらにある妖力を力が覚えて“人と妖怪との境界”を操ったんだろーさ。
    境界ってのはあやふやなようだけど、そこにはきちんと“境”がある。
    その影響で妖怪になっちまったなら、
    そりゃあ人だった頃の記憶なんて消えていくさ」
妹紅 「あー……」
紫  「………」

 妹紅はなるほどと頷き、紫は腕を組んで考え込んでいる。

中井出「キミの姿が小さいのも、
    もちろん妖力がなくて安定してないってのもあるんだろうけどね。
    キミは“産まれてあまり経ってない”からその姿なのさ。
    境界に妖怪か人間かで分けられる前には人間だったキミの体は、
    モノには成長過程ってものがあることを忘れなかった。
    だからキミは妖怪の年齢を基準に小さい姿から始まって、
    寿命が長い妖怪だからこそ、幼女の姿のままの時間が長い。
    まあ、そのうち容姿の安定期がくるさ。
    亜人が青年期の容姿での期間が長いように、妖怪もそんな感じだろうね」
紫  「じゃあ、ちゃんとばいーんとなるのね?」
中井出「それは俺には解らん」
紫  「…………むうっ……!」

 元はばいーんでするりだったと言っていたに不安を語るという、語るに落ちている小さなスキマ妖怪に、ホレとうまティーとケーキを差し出すと、途端にパアアと笑顔になる妖怪さんを横目に食事を続けた。

中井出「キミももうちょい妖力が安定してきたら、
    未来にでも過去にでも飛んで自分探しでもしてみるとええぞ。
    その時にはもう過去の記憶なんて無くなってるかもだけど、
    いい刺激や退屈凌ぎにはなるでしょ」
紫  「もぐもぐもぐもぐ……」
妹紅 「聞いちゃいないわよ」
中井出「それでいいさね」

 食事を終えると移動を開始。
 気がつけば紫も居なくなっていて、中井出は妹紅と一緒に苦笑しながら後片付けをして、旅を再開した。


───……。


 しかし、博光は不思議なやつだよな。
 そんな言葉が妹紅の口から出たのはいつだったか。

中井出「不思議? いいえ、僕は普通です」

 返された言葉にでまかせを言うなと妹紅が返した今が、その“いつ”だろう。
 ある程度の旅を終えると、中井出は景色を見渡せる丘に家を建てた。
 典型的なる日本家屋……妹紅にとっては懐かしい形の家であり、それを作る際に一つの意思がとても張り切っていたのは記憶に新しい。そこを拠点として、彼は妹紅とともに畑を耕したり花を育てたりと自由気儘に生きていた。

妹紅 「いろいろなことが出来るのに、
    することと言えば移動しながら花を植えるだけって。
    もっと名を広めてなにかする、とかしないの?」
中井出「目立つよりも地味に楽しみたいんだよね。妹紅はこういう暮らし、嫌い?」
妹紅 「ううん、とりあえず退屈だけはしないから、これはこれでいいとは思うわ」

 実際、中井出とともに作った畑や菜園、自然の景色は絶景といえる。
 わざわざ人が寄り付かない丘に家を建てた理由も、暮らしの邪魔をされないためだというのも今なら解る。
 しかしながら、そういうことが出来る存在が自分の近くに居ると、人というのはどうしても“もっとすごいことをしようとは思わないのか”と期待せずにはいられない。
 多くの場合はその期待も“やってしまった後”だと後悔に回るのだが。
 ともあれ広い土地の中にあり、見下ろす景色も見事なここでの暮らしは最高。
 人が来ない理由として妖怪も普通に住んでいたのだが、人が寄り付かないから逆に飢えていたらしく、もっと人が居るところを目指すとか言っていずこかへ消えてしまった。
 そこに残ったものといえば───

声  「もっとすごいところを見せてほしい、と思ったろ」
妹紅 「う……また来た」
声  「もう来ないでほしい、と思ったろ」
妹紅 「思ったからわざわざ言わないでほしいわ」
中井出「やあ、また来たね、覚妖怪さん」
声  「お茶にするからおあがり、と思ったろ───……相変わらず遠慮がないね」

 どこからともなく聞こえた声に、まあねと答えてお茶を用意する。
 彼と妹紅の前にちょこんと座ったのは、中井出が言った通り覚妖怪だ。
 覚妖怪───人の心を読む力を持ち、それ故に人からも妖怪からも嫌われる存在。
 元々この丘に住んでいた者であり、他の妖怪がさっさとここから出て行った理由には、この妖怪から離れたかったという理由もあるのだろう。

中井出「で? いい加減───」
覚  「名前くらい名乗ったらどうか、と思ったろ。
    人の言葉を遮るでないよ、と思ったろ。
    先読みまで出来るのか、と思ったろ。オボベバーニョって思ったろ。
    ……オボベバーニョってなに? 俺も知らん、って思ったろ」
妹紅 「会話にならないじゃないか」
中井出「ふむり。覚妖怪さんや?」
覚  「心を読んでもいいから、喋るまで待ってみたらどうかな、と思ったろ。
    ……え? 読んでもいいの? みんな嫌がったのに」
中井出「別に好きにせい。で、まずは自己紹介。
    僕は中井出博光と申す、人間にござる。ちょっと不老不死だけど。ほい」
妹紅 「え? 私も? え、えーと……藤原妹紅。同じく人間で、不老不死やってる」

 ほら、と妹紅が促す。
 覚り妖怪はきょとんとしているが、すぐにハッとして自己紹介を始めた。
 心を読んで、どうすればいいのかなんて知っていたのだが、そんな気持ちよりも驚きが勝っていたのだ。

覚  「え、えと。古明地。古明地こいし。
    覚妖怪で、お姉ちゃんと一緒に暮らしてるの」
中井出「おお、こいし言いますか。よろしく」
こいし「…………?」
中井出「どうされた? 握手、知らん?」
こいし「えっ、あっ、し、知ってるっ、知ってるし、読んだもの! ───あっ……」
中井出「ん? どうされた?」
こいし「………」

 少女にとって“心を読んだ”と言って、なんでもない顔をされたのは初めてだった。
 一緒に居るこのモコーとかいうのはとても嫌がっているのに、目の前の男はてんで気にしていない。それどころか“あ、あれー? 握手嫌いなのかな……”とか的外れなことを考えている。
 しかもそんな考えまでもが段々と道を逸れていって、なにやら物語が始まる始末。


-_-/脳内物語

 ───ヤツの名は古・名人。
 コ・メイジンと読む。
 ヤツは人の心を読むが、べつに読むからといってどうこうしてくるわけでもない。
 逆に読まれたからってこちらに不利な状況が出来上がるわけでもなく、不利になってもまあ別にいいので古・名人は無害だった。

こいし「今日、お姉ちゃんの背中に……ラフレシアの花が咲きました。
    聞いてください……コメイジング・グレイズ」

 なにやら歌いだしたがその歌声は素晴らしく、どっかのアメイジング・グレイスを思い出させるものだった。
 なんかBGMの中にカリカリという何かが掠るか削るかする音が聞こえてくるあたり、ゲームでの“グレイズ”と“グレイス”をかけているのだろう。
 しかしまあ割りとどうでもよかった。


-_-/現実

 …………。

妹紅 「……ねぇ。いったいなにしたの?」
中井出「いや……解んない。なんか急に爆笑しだした」

 少女こいしは爆笑中だった。
 覚妖怪ではあるものの、人の心を読んで物語を知ったことなどなかったのだ。
 そんな新鮮さと、心の中の映像までもが読めた事実が新鮮であり、何故かその映像の中で憂い気な顔でギターを弾く自分の姿が物凄くおかしかったのだ。歌声の綺麗さにはとても驚いたけど。
 でもギターってなんだろう。引っかかりはあったものの、それよりも笑撃の方が強かった。ただそれだけだった。

こいし「面白い人間なのね、博光は。心を読む妖怪なんて、誰であろうと嫌がるのに」
中井出「まあ……全部知った上で付き合ってくれる相手が好きなんで、
    逆に読んでくれるくらいが望むところじゃって感じなもんで。
    そんなわけでこいしさん? 握手」
こいし「ゆーこーの証、なんだよね? うん」

 きゅむと握る手が、互いの体温を確認させる。
 こいしの手は少々冷たく、中井出の手は暖かかった。

こいし「……不思議だねー……。今まで私を怖がった人間は、みぃんな冷たかったのに」
中井出「人は恐怖でも体温が変わるってメンヌヴィルが言ってた。
    ともかくこれで僕ときみはお友達さ!
    ……あ、ところでこいし…………ちゃんとさん、どっちがいい?」
こいし「呼び捨てでいいよ。私もヒロミツって呼ぶから」
中井出「オーライ。じゃあこれより貴様に───ごちそうをご馳走しよう!!」
妹紅 「うわぁ……」
中井出「あれ? なんで引いたような顔するの? ……ハッ!?
    いやいや今のギャグとかじゃないからね!? ご馳走だよほんとに!」
こいし「あははははっ、どんなご馳走くれるのかなぁ。
    ……あ、そっか。でも……うん、口にしないで、
    ヒロミツが言うまで待てばいいんだよね?」
中井出「そうそう。種明かしは何も読める人個人のものじゃあないのさ。
    妹紅にだって黙っていた方が驚かせられることだってある……それを知るのです」
こいし「それが“楽しい”に繋がるの? ……そっか」
中井出「だから言うまで待ちなさいって」
こいし「あはは、ごめんなさい」

 二人はにこにこと笑い、心が読めない妹紅は首を傾げながら溜め息を吐いた。
 そんな、よく解らん状況のままに料理は開始され───妹紅とこいしの前には、それぞれ別の料理が並んでいた。

妹紅 「あれ? 私とそいつとで違うのか?」
中井出「違いますよ? あれ? 一緒のがよかった?」
妹紅 「そりゃ……う」
こいし「……!《ぱああ……!》」
妹紅 「いや違うわよ!? べべべつに一緒のほうが友達っぽいかなとかそんなっ!」
こいし「妹紅はいい人だねー。でもダメだよ、これはね、妹紅は食べちゃいけないの」
中井出「そ。食べたらきっと立ち直れないよ?」
妹紅 「…………いや、いい。なんかその響きで予想がついた」
こいし「うん、そう。思っている通りのことだよ」
妹紅 「わざわざ言わなくていいって…………はぁ。で、どうやって調達したの?」

 妹紅は疲れた顔で中井出を見た。
 この男のことだ、酷いことにはなっていないと思うが……といった、少しだけ不安が混ざった表情だ。

中井出「どうやってもなにも。僕自身を分析して、部位をコピーして料理しただけだよ?」
こいし「そう! 題して! えーと……ヒロミツフルコース! ふるこーすってなに?」
中井出「僕の全てがそこにある……そんな料理のことです。
    ていうかこいし、読んでもいいから僕に喋らせてよ、格好つかないじゃない」
こいし「選ぶのは私だからいいの。楽しそうなら私が言おうって決めたんだから」
中井出「わあ」

 彼女の言葉に、彼は正義のヒーローピカプーのような言葉を放った。
 目をつけられた……だが望むところ! そう思った瞬間には既にそれを読み取られており、こいしはにこにこ笑顔で意味もなくえへへと笑いながら中井出の服を引っ張っていた。

妹紅 「自分を料理って……少しでもいい匂いって思った自分にかなり引いた……」
中井出「仕方ないでしょ、実際美味しくなるように作ったんだから。
    然の精霊と深く契約して、
    さらに体内にユグドラシルがあるといっても過言ではないこの博光。
    部位の全てが極上の味であり、血の一滴で吸血鬼を感動させる猛者ぞ?
    おかしな臭みもなく、極上以上のワインのように芳醇だとキティも絶賛!
    まあ……言っちゃえばユグドラシルが全ての精霊と契約してる上に、
    果実もどんどん作るもんだから、根付かれてる僕はマナの宝庫。
    それらが僕の体をどんどん浄化してるお陰で人間なのに人外的な美味しさらしい」
こいし「んぐんぐ……おいしい!《ぱああ!》」
中井出「モノブロスハートならぬヒロミティックハートのお味はいかが?」
こいし「コリコリした歯応えで、なんかこう弾むような面白い味!」
中井出「うむうむ、我が青春が刻まれたハツだものね。存分に味わいなさい」

 にっこにこ笑顔で食事をする妖怪を前に、これまたにっこにこ笑顔を見せる男。
 妹紅はそんな二人を見てまさしく「うわぁ……」と言っており、常識外れであることは散々知っていたというのに、まだまだ知らない無茶があったんだなぁと新たな知識を得ていた。
 しかしながら自分用にと作られたこれも素晴らしい味。
 ぱくりと食べれば勝手に口角が持ち上がってしまい、緩む頬を抑えられない。

妹紅 「相変わらず料理が上手いなぁ……私にもなにか出来ないかしら」
中井出「ふむ。もこたんは火が使えるし、焼き鳥でも作ってみる?」
妹紅 「う……こうして調理してあるのを食べるならまだしも、
    生きてるのを殺すのはなぁ……ちょっと抵抗があるんだよね」
中井出「もこたん、口調が安定しないよね」
妹紅 「何年も男と一緒で、男側に引っ張られるなっていうのが無理あるよ」
中井出「そうかも」

 一緒に行動するのが中井出ばかりで、しかもからかわれたり楽しいことに巻き込まれているのなら当然だ。最近は中性的な口調が目立ってきており、無邪気な妹紅はあれはあれでめんこかったのに……というのが中井出の心内。それまでもが読まれ、こいしにニヤニヤした顔で見られても……彼はサムズアップで返した。こいしも笑顔でそれを返し、二人はウェーイ!と手を叩き合わせて笑う。

こいし「ところで妹紅は、なんで妹紅って名前にしたの?」
中井出「妹紅だからだよ?」
妹紅 「生まれた直後から妹紅だったみたいな言い方はやめてよ。
    あー……まあ、読んだならどうでもいいんだけど。
    妹紅っていうのは自分でつけた名前だよ。
    私自身が忌み子っていうか……望まれてない子だったからね。
    まともな名前なんてなかったし、じゃあ自分で名乗ればいいんだってことで」
中井出「なるほど。名前の由来は……妹、紅……とくると……」
こいし「“自分も紅に染まれ”って思いたかったんだって」
妹紅 「うなっ!? こ、こらっ! 読んだからって言うなって言ったでしょ!?」
中井出「ホワイ!? なしてそれで妹紅に!?
    紅って部分は“紅に染まれ”で解るけど、妹は!? 妹はいったいどこから!?」
こいし「あて───」
妹紅 「言わないでいい!」
中井出「あ、もしかして忌み子とはいえ“一番下の妹”だから?」
妹紅 「〜〜〜〜〜〜ッ……!!《かぁあっ……!》」
中井出「……あらま」

 涙目になって真っ赤になり、俯いてしまった。
 その反応だけで十分だろう。
 きっと、忌み子と思われようとも家族として見てもらいたかったのだ。

中井出「うむ。今のきみこそ妹紅だ。妹で紅い。実に妹紅ヨ! OH妹紅!」
妹紅 「〜〜……ねぇ、燃やしていい? 博光のこと燃やしていい?」
中井出「ふっ、やってみろ。
    その瞬間、僕の丸太のように太い足が一緒に燃え上がることになる」
こいし「燃やしていいって。ところで……ねぇヒロミツ?
    “さくらたいせんすりー、ぱりはもえているか”ってなに?」
中井出「燃える前にネタ曝ししちゃダメェェェ!!《ジュゴォンッ!》ややっ!?」
こいし「わっ、燃えた!」

 燃えた。
 妹紅が放った火が彼に直撃し、全身が一気に燃え上がり……部屋が熱気と明るさに包まれる。

中井出「え、えーと……巴里はもう言われちゃったからえーとえーと《メラメラメラ》」

 そんな中、彼は今言える最高の言葉を探すことに燃えていた。物理的に。

こいし「ふわっ!? 燃えながら考え事してる!
    苦しくないの!? 全身燃えてるんだよ!?」
中井出「ククク馬鹿め。この博光は四天王になれたのが不思議なくらいの面汚しよ。
    そんな博光が炎くらいで苦しむ筈があるまいて《メラメラメラ……!!》」
妹紅 「いつ聞いてもお前の思考基準がまるで解らない」
中井出「火炎入道とでも呼んでおくれ。さ、料理を続けましょう」
こいし「もう食べ終わったよー」
中井出「なんですって!?」
妹紅 「食べ終わってないの、お前だけだよ」
中井出「……なんとまあ」

 見れば中途半端に食べた料理。
 それを見下ろし、彼は箸を取って食事に取り掛かる……のだが、箸が燃えた。

中井出「ていうかさ、鳥を燃やすのは怖いと言っているお子が、
    カッとなったからって人に火を放ってはいけませんよ? メッ」
妹紅 「この状況で説教されるとは思わなかった……けど……うん。ごめんなさい」

 次いで木製茶碗が燃え、中にあった米が味のないチャーハンになってゆく。
 これはいかんと無理矢理食べようとすると、燃えた箸が口内を焼き、アツアツのご飯が舌を焼き、中井出悶絶。
 そのくせ家は燃えないのだから、いったいこの家はどうなっているのか。

中井出「ごちそうさまでした《メラメラメラ……》」
妹紅 「あの……ごめん、燃やしておいてなんだけど、いい加減消さないか?」
中井出「消えたさ……僕のメシは、炭クズとなって消えた……言われなくても解ってるさ」
妹紅 「いや、そういうこと言ってるんじゃなくて」
こいし「もしかしてこの火、熱くないの?」
中井出「熱いよ? ただ僕は体を内側から再生させまくって、
    皮膚を作り続けているのです。すると皮膚の表面だけが燃えて、
    燃えてる間にまた次の皮膚が作られてってことが続いてね?
    まあそんなわけで、口内が熱くなければ案外耐えられるの」
妹紅 「面倒なことはいいから消してったら!」
中井出「《ズパンスパパパパ!!》ぶべっ! ぶべらっ!
    べらっ! べらっ! はべらっ!もべらっ!」

 ビンタ(往復)が炸裂。
 顔から火が飛び散り、素顔の彼が見えたと思いきや……体が燃えっぱなしだったのであっさりと顔も燃える。そんな彼は「僕はゴーストライダー! 顔が燃えるんだ! すげぇだろ!」とか言っている。直後に妹紅に顔面を殴られて泣いていたが。

中井出「そんなわけで鎮火しました。
    ちょっぴり焦げて今が食べごろ……博光です……───しまった脱げねぇ!」
こいし「へぇ〜、いっつも脱いでるんだ」
中井出「ウギャア読まれた! 自分で言ってるんだから読まれてもいいんだけど!」

 中井出博光。自己紹介とともに何故か上着を肌蹴るのが好きな変態として有名な男。
 とあるゲームキャラの真似だというが、真実は今のところ語られていない。
 しかしなんだろう。生まれたままの姿の男を前に、こいしは平然としており、妹紅だけが顔を赤くしてそっぽを向いている。

中井出「あ、そういえば一度訊いてみたかったんだけどさ。
    妖怪にとって、こうしてファイヤーされた人間って香ばしく感じるの?」

 そんな赤さもこいしの反応もまるで知らん顔……というよりは羞恥心より疑問を優先させた彼は、奇妙なマッスルポージングをしながらこいしに質問を投げた。
 帰ってきた言葉は……「燃えた人間ってくさいよ?」というものだった。
 なるほど、いい匂いではないと聞いたことはあるし、彼自身嗅いだことがあるのでそれも頷けるものだ。しかし「ヒロミツはなんか、いいにおいがするけどね。香草が燻されてるみたいな……んんと、わかんないや」と続けるこいしに、中井出は苦笑した。
 様々な人に“森の日向の香りがする”と言われたが、まさか燃えた時の香りまでもが香草だとはと。

妹紅 「それよりも、早く服を着てよ。目のやり場に困るじゃないか」
中井出「おお、これは博光失敬」

 言われてマッスルポージングを解くと、ブリュンヒルデにお願いして服になってもらう。
 ヂュルリと彼を纏った服装は……ゆったりとした和服だった。
 彼の友人である晦悠介ほどではないにしろ、彼も日本人で和服は割りと好きなもの。
 そのままの格好でニコリと笑うと、心を読むという言葉の度にぴくりと肩を震わせていたこいしの前にとある幻想機械を差し出す。
 差し出された一方の反応はといえば───「?」───だ。首を傾げるだけで、そのままついついと機械をつついていたりするが、受け取ろうとはしない。

中井出「これを使えば相手の心は読まないで会話が出来るけど……どうするね?」
こいし「え……ほんと?」
中井出「うむ。まずは起動させて……チャットを選ぶ。
    部屋は全体と個別とグループとで適当に選べるから、まあ適当に。
    初期は問答無用で全体になってるから気をつけてね。
    ……あ、諏訪ちゃん入ってら」
妹紅 「諏訪……って、前に言っていた神様だっけ」
中井出「そうそう、親しくなった相手にはこの機械を渡しているのです。
    妹紅にはまだだけど」
妹紅 「な、なんで!? 私とは親しくないっていうの!?」
中井出「いや、むしろ旅してる横で一人がゲームとかって居心地悪いかなぁって」
妹紅 「……げーむ?」

 こてりと首を傾げられた。
 なのでもう一台を創造すると妹紅に渡して説明を開始した。

中井出「じゃあこいし、これを見ながら会話してみて。
    口にださなくてもいいから、
    PWPを掴みながら話したい言葉を頭の中に思い浮かべて」
こいし「うん……えと。(“私はこいしっていいます。あなたは誰ですか?”)」

 頭の中で思ってみる。と、PWPの画面にその通りの言葉が現れた。
 こいしは驚き、思わず「わっ」と声をあげた。
 そんなこいしを気にすることもなく、すぐに画面内にある『諏訪子』の名前の横に“:”が現れて、

諏訪子:『私は諏訪子。土着神だよ。
     新人さんだよね? ようこそー、冒険の世界ヒロラインへ』

 出てきた返事に驚き、心が読めないこともあって二重に驚き、目をぱちくりさせているこいし。そんな彼女だったが次第に笑って、次から次へと質問を飛ばす。
 相手である諏訪子はそれに適当である返事をしつつ、自らも質問を挟んでいった。

諏訪子:『新人ってことは、そこに博光がいるんだろう?
     たまには遊びに戻ってこいって伝えてくれるかい?
     メール飛ばしてもちっとも返事よこさないんだよ、その家出馬鹿は』
こいし:『へえ、ヒロミツって家出してるんだ』
諏訪子:『ちょいと酒と娯楽を望んだだけでこれだもの。まったく根性のない。
     ……っと、メールが……って博光? あっはは、やっぱりそこに居るんだね。
     えーとなになに? “あれのどこがちょいと望んだだけだ”?
     ちょいとはちょいとだよ。
     神様を満足させたいなら、あれの倍は用意しろっていうんだ』
こいし:『倍用意したら、食べすぎで太ったらどうするのさ! って怒られたって』
諏訪子:『うわ…………うん、なんかごめん、うちの神奈子が』
こいし:『諏訪ちゃんに言われたって』
諏訪子:『………』

 白かった“諏訪子”の文字が灰色になった。ログアウトしたらしい。常にオンライン状態のPWPだが、ゲームに集中したい場合はチャット機能からのログアウトは出来るようになっている。
 それだけでこいしは抱腹絶倒。随分と貴重な体験だったようだ。
 その横では妹紅も笑い、胡坐を掻いた自分の膝を叩きながらクックッと苦しそうにしている。しかし……そうして初めてログアウト中の名前が並んでいることに気づくと、その名前の中に蓬莱山輝夜を発見。瞬間的にミキリと青筋が浮かんだ。

妹紅 「……これ、蓬莱山輝夜も持ってるのか」
中井出「おうさ、持ってるよ。なんなら妹紅も魔物ハンター始めてみる?」
妹紅 「……やる。今直接殴れないなら、げーむで負かしてやる。
    ところでこれってなにするものなの? 話が出来るもの?」
中井出「話も出来てバケモノとも戦えて武器も防具も作れるゲーム」
妹紅 「ってことは輝夜とも戦えるのね!?」
中井出「あくまで“記録”的なものでね。
    味方にも攻撃は出来るけど、ダメージは入らないよ」
妹紅 「攻撃が出来る…………やる! 今すぐ!」
中井出「わあ……」

 物凄い元気な反応だった。
 それからは妹紅も魔物ハンタープレイヤーとなり……案の定、どっぷりハマった。
 しかも輝夜が自分より上位の存在であることを知るや、休むこともせずにゴールデンゲーム三昧。食事中でも風呂でもトイレでもPWPを離さず、こいしと協力して打倒輝夜を目指し、日夜キャラクター強化に励んだ。
 ……まあ、ところどころでその目的を忘れ、純粋に魔物ハンターを楽しんでいたようでもあるし、こいしともなんだかんだと楽しそうにやっていた。

  しかしながら、そんな日がいつまでも続くわけもなく。

 いつまで経っても戻らない妹を心配して、妖気でも辿ってきたのかこいしの姉を名乗る少女が中井出宅を訪れた。

中井出「おやいらっしゃい」
覚  「人間……そう、そういうこと。妹を……こいしをどうしたの」
中井出「おお、こいしですか。あのお子ならば───」
覚  「喋ってもらわないで結構」
中井出「ラーサー! …………」

 元気に返事をして、心の中で会話を始めた。
 そんな彼の反応に若干の驚きを見せた彼女はしかし、遠慮もなく彼の心を読んでゆく。
 すると…………突然、ピンク色の髪をした覚妖怪はバブフゥ!と吹き出した。

中井出「虚しい勝利ですね……」

 真面目な話を心で思い浮かべつつ、突発ギャグを読ませるというステキトラップ。
 こいしと相手をしている内に会得したものであり、こいし自身が気に入っている行為でもあった。妹と同じ部分で笑ってしまった彼女……古明地さとりは、笑いを堪えてからキッと中井出を睨むと……その心の中にある小話でまた笑ってしまった。
 読みたくなくても相手を見れば読んでしまうので、さとり自身が参るほどに笑えてしまえる現状。中井出は中井出で「人の目を見て話さぬとは何事です!」などと笑いながら厳しく言う。“解ってて言ってるでしょ、この悪魔!”とばかりにまた睨むさとりだが、その拍子に再び読んでしまって笑うの繰り返し。
 やがてそんなことが十何分か続いたのち……笑い疲れてくたりと脱力しているさとりさんが、中井出の手によって運ばれ、こいしの隣に横たえられた。
 こいしはこいしで縁側近くの部屋の畳の上にうつ伏せに寝転がり、足をぱたぱたさせながらPWPで遊んでいる。

こいし「あれ、お姉ちゃんだ」
中井出「あ、やっぱりこいしの姉さんか。妙な目玉が伸びてるからそうじゃないかなーと。
    一応姉だとは言われたけど、最近の妖怪さんは人を騙すのが上手いから」

 くたりとしながらも恨みがましい目で中井出を見るさとり。
 しかし体力がないのか、笑っただけでも相当なぐったりさん状態。
 だというのに心配した妹は楽しそうに、しかしリラックスして遊んでいたりする。
 もうなんなのか。
 さとりは溜め息を吐いて自分の意思でも脱力した。

さとり「こいし、こんなところで何をしているの……」
こいし「遊んでたの。面白い人間を見つけたから」
さとり「面白い人間……まあ、面白くはあったけど」

 ムスッとした顔で中井出を睨む。が、心の中の小話をまた覗くハメになり、ばぶふっと吹き出した。妹の前で格好つかないことに苛立ちながらも、睨みたいのに睨めない状況に軽く頭を痛める少女の図である。

中井出「初めまして。誰かに楽しいを提供する馬鹿者、中井出博光です。
    あ、一応種族は人間で、不老不死なぞをやっております」
さとり「もう知っているわ。喋らなくていいから」
中井出「え? やだ」
さとり「……人として喋れるのに喋らないのは、喋りたくても喋れない人への冒涜?
    そんなことは、言われた方……喋れない人自身への冒涜よ」
中井出「おお、早速読まれた。
    まあさ、こいしにも言ったけど読んでもいいから会話はしよう。
    時間あるなら食事とかもどう?」
さとり「……食事に何かを盛る気満々だというのに、食べるとでも?」
中井出「盛りますよ? 人間を」
さとり「───」
中井出「───」
さとり「嘘じゃない……? 正気なの? 人間なのに人間を料理するなんて」
こいし「ぷふっ!」
さとり「こいし?」

 黙って聞いていたこいしは吹き出した。
 困惑する姉に、こいしは丁寧にこれまでの経緯をじっくりと、しかし楽しそうに話す。
 当然さとりはぽかんと口を開けるばかりで、信じられないと思うたびに中井出を見るのだが……その度に心で笑わされ、調子が狂いっぱなしだった。

  しかしながら。
  心を読まなくても会話が出来る機械というものには興味を示したようで。

 その日から、妹の友達に姉が混ざって楽しむ、といった、妹紅にとっては少し居心地の悪い状況が完成した。そう、こいしとだけ遊ぶという状況は、長続きはしなかったというだけの話だった。
 さとりは中々に嫌らしい性格らしく、こいしのように会話を楽しむよりも心を読み取って先に口に出すことのほうが多い。ともかく“会話”をしようとしなかった。お陰で妹紅は言いたいことと知りたいことの結論を早々に言われてしまい、終始うろたえるばかりだ。
 こいしへの質問もさとりが答えて、そこにキツめの言葉も上乗せするもんだから妹紅としてもやりづらい。

妹紅 「ああもうお前いい加減にしろ!
    いちいちいちいち人の心読んで言いたいことズケズケと言って!
    私はこいしと話してるんだからお前は静かにしてなさいよ!」
さとり「知りたいことを知れたら満足しろと言っているの。
    あなたが望もうが望むまいが、結論は用意したのだから納得しなさい」
妹紅 「うがぁああああ!! 痛い目合わせてやる! 表出ろコノヤロー!!」
さとり「……ふふっ、あの人間の真似ですか。ずっと一緒だっただけはありますね」
妹紅 「うぅううううぅううるさいうるさい!!
    あいつの口調が伝染っただけだ!」
さとり「言われなくても知っています。読みましたから」
妹紅 「だったらわざわざ鼻で笑うなぁああああああっ!!」

 いつしか喧嘩するようになっておったとさ。
 それに対しての中井出の反応は、

中井出「ご近所の迷惑にならないようにねー」

 割烹着を着ながら料理して、この言葉。
 なんていうか、オカンみたいな反応だった。





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