デゲデデデッテテーン♪

中井出「人生(ラヴィ)!!」

 空を飛んで落下したが復活した馬鹿がおる。
 ここは妖怪の山。
 鬼の住む洞穴の前でワムウポーズを取るその馬鹿は、柱の男に倣うようにケツをキュッと絞めていた。

中井出「先ほどのデゲデデデッテテーン♪がカブキロックスの“O-EDO”の、
    雲を突き抜け星になった時のBGMだと解る人は玄人だよ?
    ところでクロウトって、苦労人とも書けるよね。
    玄人で苦労人なんて、どこぞのモミアゲさんみたいだ。
    さてと。じゃあ用も済んだし行こうか」
こいし「え? 鬼たちに出てけー、って言うんじゃないの?」
中井出「フフッ……俺は…………精一杯戦った。……懸命にだ。
    けど空を二回飛んだ。拳で風を感じたのは何度目だろうな。
    それだよ。結果は。……とてもじゃあねぇが……言えねぇだろう…………?
    出て行け、なんて……《ゴゴゴゴゴゴ……!》」
さとり「なぜわざわざ無駄に迫力を出しながら言うのかは───
    解りました言わないで結構です」
中井出「言わせてよ!」

 ただのジョジョの真似だったらしい。
 それを見ていた鬼の一人、星熊勇儀は、たはぁと溜め息を吐くとニカッと笑った。

勇儀 「あとで殴り倒そうがどうしようが、一度の負けは一度の負け。
    鬼は事実を覆したりはしないよ。……さ、お前は私にどうしてほしい」
中井出「友達になってください!《ずぱーん!》ァアゥチ!!」

 言った途端に妹紅に後頭部を叩かれ、ガルフォードチックな声が飛び出た。

中井出「な、なにをなさるの?」
妹紅 (友達って……! あの話はどうなったのよ……!)
中井出(あの話。……おお)

 言われて、出来れば鬼を追い出して欲しい的なことを頼まれたのを思い出す。
 しかし腹を割ってみれば案外いい鬼。
 どの世界にもある上下関係は、他人が割って入るもんじゃあないのかもしれんと彼は思った。

勇儀 「友達って。言ったろ、私たち鬼は怖がられてなんぼだ。
    それが人間と友達って……笑えない冗談だ」
中井出「じゃあ親友になろう!」
妹紅 「博光!」
中井出「なんじゃいコナラー! 俺の願いとあっちの願いは別ですもん!
    でもその所為で毎日が辛いのは須藤さんみたいでダメだね。
    そんなわけで姐さん。願いとは別にひとつ訊きたいんだけど」
勇儀 「? なんだい、改まって」

 逃げも隠れもしないとばかりにドッカと地面に腰を落ち着けた勇儀は、左肘を胡坐を掻いた左膝に乗せて頬杖をつき、右手は右膝にパンッと叩き付けたまま動かさずの姿勢でいる。
 堂々とした姿勢がステキだと笑みつつ、中井出は続きを語る。

中井出「今のこの山って誰が支配してるの? 姐さん?」
勇儀 「支配か。鬼神が統治している」
中井出「鬼神とな」

 鬼神。
 強さの例で挙げられる“鬼のような強さ”や“鬼神のごとき力”などといったものの基となった存在。
 それがこの山を統治しているのだという。

中井出「鬼の神さまかぁ……」

 妻に鬼子母神とかいらっしゃるのかしらと思ったが、考えてみればヤツは女神の類だったと首を振る。人の子を食うが、一応女神だった。
 じゃあその夫のバーンチカ? ……って、それインドの鬼神さまだよ。
 ……鬼神は鬼神か。OK納得。
 そんな流れで納得した。

中井出「まあじゃあそれはいいや。願うことはひとつだ。
    力こそが正義って考えを捨てろとは言わないけど、
    もうちょい下のお子にやさしい鬼になってあげてね。
    力で押さえつけるばかりだと、いつか卑劣な手でひどい目を見させられるよ」
勇儀 「鬼を騙すのなんて人間くらいじゃないか」
中井出「とんでもない。妖怪だって人を騙すよ。
    鬼が嘘をつかないのは嘘をつかなくても渡っていける道があるからであって、
    そんな力がなければ誰だって虚言は吐く。自分の安穏のためにです。
    嘘をつかないのはそれだけで素晴らしいって考えもあるだろうけどさ、
    ついてやるやさしさってのも当然存在します。
    そして、俺は場をやさしくする楽しい嘘が大好きだ」
勇儀 「そうかい。こっちは嘘が大嫌いだ。どんな嘘でもね。
    だからあんたが望むなら下の子にやさしくする鬼ってのになろうじゃないか。
    ただし受け入れるのはそれだけだ。
    嘘をつく者は許さないし、嘘が好きなお前も好きになれないだろうね」
中井出「フフフ、口ではそう言っているが、お前は既にこの博光の虜よ。
    今もこの俺と全力で戦いたくてうずうずしているんだろう?」
勇儀 「───!」
中井出「ゲゲェ適当に言ったのにマジだった!!
    か、勘弁して!? もういいじゃないかそんなの!
    バトルなんて主人公のやることだよ!? 脇役にそんなの求めるなよぅ!」

 ノリで気を強く持って言ってみたことが裏目に出た。
 しかも勇儀自身、嘘が嫌いと言ったばかりなのにそれを虚言にされたこともあり、わなわなと震えている。

勇儀 「くっ……! 鬼が虚言を吐いたからには居場所なんてないじゃないか……!
    ───お前達! よく聞きな! 私は今ここで、この山を降りる!」
中井出「えぇえーーーーーっ!!?」

 ざわぁっ! と鬼たちがどよめく中で、中井出はさらに混乱した。
 なにがどうなって天狗の思い通りにコトが運んでるんですかと問いたいくらいだ。

中井出「お、落ち着くんだブロリー! それ以上コトを早まるんじゃあない!」
勇儀 「誰のコトを言ってるんだか知らないが、別に早まっちゃいないさ。
    ここに居るのも段々と飽きてきていたところだ。
    同じ場所にとどまり、人を攫い、勝負して、勝てば喰らう。
    そんな生き方に色を見失っただけの話さ。
    違う山に行けば、また違った色も見えるだろう。私はそれを探すだけのこと。
    嘘をついたんだ───人間、あんたの言う“楽しい”ってのを、
    一度だけ追ってみてもいいって思った」
中井出「な、なんと……姐さん、あんたって鬼は……!」
こいし「ニョショーでありながらなんと雄々しいー、ってヒロミツが言う」
中井出「かかったな馬鹿め! それは最初からこいしに言わせるつもりだったのさ!」
こいし「《がーーーん!》な、なんだってーーーっ!!」
さとり「読まれたからそう言っているだけですね」
中井出「《がーーーん!》読まれたーーーーっ!!」
勇儀 「嘘つきには鉄槌だ」
中井出「《メゴチャア!!》ジェルァアーーーーーーッ!!」

 流れるような言葉の中で、流れるように殴られる馬鹿が居た。

妹紅 「……お前はさ、なにがしたいのさ……」
中井出「《どくどくどく……》な……なんだろね……」

 鼻っ柱を砕かれ、泣きながら鼻血を垂れ流す馬鹿と、それを介抱するやさしい妹紅の図。とてもいつも通りの状況ではあるが、それが好転したというのか、下の鬼の連中にも動きがあった。
 勇儀が降りるのならと、腰を持ち上げるものが居たのだ。
 しかしそれでも全員ではない。当然といえるだろう。
 だが、だからといってこの場で中井出たちに出来ることなどもうない。
 あとは天狗連中に任せる以外になにが出来ると───と妹紅が考えていた時、あたりが急に霧に包まれた。

妹紅 「!? な、なに!?」
さとり「これは…………きましたね」
中井出「………《ゾブシャア》みげーーる!!」
さとり「誰がそのっ……も、もよおしたなんて言いましたかっ!」
中井出「なにも言ってないよ僕!
    ていうかそれが当然みたいに目潰しするのやめよう!?」
こいし「ヒロミツ……なにがそんなに悲しいの?」
中井出「いや別に悲しくて液体流してるんじゃないよ!?
    これ悲しみの涙じゃなくて血の涙だからね!? 比喩じゃなくて本物の!」

 言っている間に霧が濃くなり、濃くなった霧はさらに濃度を増し、勇儀の隣に竜巻のように渦を巻きながら集まると……一人の少女の姿を象った。

??「やっ、帰ったよ勇儀」
勇儀「ああ、おかえり萃香。人っこ一人攫うのに随分時間くってたようじゃないか」
萃香「活きのいいのが居なくてね。
   噂になってた妖怪退治のやつらでもって思ってたんだが、
   見つからなかったんだよ」

 へえ、そうかいと返しつつ、勇儀は中井出を笑みとともに睨んだ。
 それ、お前のことだろう? と口には出さずに訊ねていた。
 その問いに中井出は───

中井出「? ?」

 顔になにかくっついているのかと、しきりに自分の顔をさわさわさと触っていた。

中井出「アッ!」

 そして気づく。鼻血だらけだと。
 おまけにさわさわ触った所為で顔面血まみれ状態である。
 顔面血まみれ状態の彼にハタと気がついたちっこい鬼が、そんな彼の傍へと頭の後ろで手を組みながらてっこてこと近寄る。

萃香 「血まみれじゃないか。これ、勇儀がやったの?」
勇儀 「殴ったのは確かだが、吹き出た血で化粧してやる趣味はないよ」
萃香 「ははっ、そりゃそうだ。じゃあこれは自分でやったのか。大げさだなぁ。
    そこまで血まみれになれば、鬼は手を出さないとでも思ったか?」
中井出「………《こくこく》」
萃香 「そっか。それじゃあこれはお前にとって残念なお報せだ。
    鬼はそんなことで人へ恐怖を与えることをやめないし、
    止まったりなんかしないのさ!」
中井出「言質は取った。覚悟するがいいこのたわけが《ザヴァー》」
萃香 「へ?」

 止まる気がないらしい鬼のお子を前に、中井出は高速で顔をウオッシュ。
 月然力で出した水で一気に洗うと止血も完了させ、血化粧のないすっぴん博光フェイスを見てびしりと固まった萃香の、両側頭部から生えている角をムンズと掴む。

萃香 「え? え? ……え、ぇえええええええっ!!?」
中井出「ホホ……嬢。今止まらないって言ったよね? 覆したら嘘だよね?
    ならば勝負だよね? 受けるよね? 逃げないよね?」
萃香 「ととととととーちゃ!? え、なんで!? なんでここに居るの!?」
中井出「ウェーーーヒヒヒヒ!! いろいろあって辿り着いたのさ!!
    この山には鬼が居て、しかも二本角のちっこい鬼までおるという!
    ならばとーちゃ、会いに来るしかあるまいて!
    さあ勝負だ萃香! 鬼は人間なんぞの勝負から逃げないよね!?」
萃香 「うあああああ!! 離せ! はーなーせぇえええええっ!!」

 持ち上げられ、暴れる萃香を見て勇儀があんぐりと口を開ける。
 自分の知っている伊吹萃香とは、あまりにもかけ離れた反応だったからだ。
 そんな彼女の考えとは別に、ともかく掴まれた角を解放させなければと、萃香はすぐに自分の密度を疎めて霧となって逃れた。

中井出「伊吹萃香を萃めるブラックホールが出ます。弾けろ」

 ……のだが、すぐに創造されたブラックホールによって萃められ、もとの姿へと。

萃香 「うわああああーーーーーっ!! やっぱりとーちゃだぁあーーーーーっ!!」
中井出「おー! とーちゃだともー!」

 泣きはしないが嫌がっていた。
 本気で脱出にかかっているのだが逃げられないという様は、間近で見ている勇儀の目から見ても異常以外のなにものでもない。そもそも鬼の腕力をもってほどけない拘束があるなどと、いったい鬼の中の誰が信じようか。

中井出「久しぶりー! 元気だったか萃香ー!」
萃香 「久しぶりなのは解ったからとりあえず降ーーろーーせーーーっ!!」
中井出「それはだめ」
萃香 「なんでそこで冷静に断るんだ!」

 言いつつもすとんと降ろし、はっはっはと頭を撫でる。
 対する萃香は……子煩悩の親が授業参観に来た時の子供のような様子で、そっぽを向いている。

妹紅 「ひ……博光。とーちゃ、って」
中井出「ヌ? おお、もこたんやこいしやさとりんは初めてだったね。
    このお子が伊吹山にて谷から落ちてきた鬼のお子、伊吹萃香だ。
    赤子なのに喋れたんだ、スゲーだろ。きっと大物になるに違いねーって、
    僕が父親代わりを努めました。なのでとーちゃ。
    トーチャースラッシュみたいだから別の呼び方を希望したのに、
    とーちゃ以外では呼んでくれなかったんだ……」
萃香 「なに言ってんだ、せめてもの抵抗で博光って呼んだら嬉しそうだったくせに」
中井出「父扱いと友扱いは、そりゃあ違うもんでしょう。
    父扱いより友扱いのほうが嬉しいのですよ俺は」
萃香 「……人間は友達の頭を撫でるのか?」
中井出「特殊な例のみね。……うん、無事でいてくれてよかった。
    家出しちゃった時は本当に心配したぞ、萃香」
萃香 「鬼が家を出たくらいで大げさだなぁ。
    いったい何に対して心配する必要があるっていうんだ」
中井出「徒党を組んだ人間は卑怯だからね。人の可能性ってのは人間最大の武器であり、
    今は“出来るわけがない”と笑えることを、
    いつかは“出来て当然”に変える力がある。僕らはそれを“順応”って呼ぶ。
    そういう積み重ねを強みに出来る種族だから、侮ってはなりませぬ」

 肩にポムと両手を置いて、真正面から目を見て言う。
 萃香は少しぽかんとしていたが、すぐに呆れてみせた。

萃香 「それはとーちゃが人間だから言うこと?
    自分の種族は強いんだーって、そう言いたいから?」
中井出「いや、人間めっちゃ弱いよ?
    強いのは弱点を受け入れて克服して積み重ねる速度。
    それが真に、種族全体の危機になった時にこそ一気に解放されるから怖いの。
    個々の時は対して発揮されないのにね……ちと理不尽だ」

 当然乗り越えられない時もあるが、過去においては様々を乗り越えて来たから怖いと言える。未知の病気にも頼るべきものもなく打ち勝ち、毒物に対抗する術だって死者を出しながらも乗り越えたのだ。
 そういった何かを無駄にしない過去の存在の強みには、素直に尊敬すべきものがある。

中井出「あ、ところで呼び方は博光でいいよ? もうキミも立派な鬼っこさ。
    俺も今さら親父ヅラするつもりもないし」
萃香 「そうか、それはよかった。
    私も今さら親が出てきましたーとか言われたって困る。
    だからまあ、今は───」
中井出「今は?」
萃香 「過去の汚点を乗り越えるためにも、博光。お前に勝負を挑ませてもらおう!」

 肩に置かれた手をパンと弾き、トンッと距離を取って構える。
 構えと言っても自由なもので、ひと呼吸したら手に持っていた瓢箪……伊吹瓢と呼ばれるそれを口に、ぐびぐびと酒を飲み始めた。

中井出「……受け取った。あんた、覚悟をしている目だな。その目…………。
    実にいい。ウン。その目は好感が持てるものだ…………実にいい。
    ところで…………勝負方法とかはなににするのかな。
    まだ聞いていない……重要なことだ。おろそかにしちゃあいけないことだろう」

 対する中井出では何故かジョジョ顔とジョジョ立ちをしながら、微妙に顔を揺らしつつ語り掛けている。
 余裕とも違うようだが……“ただ遊びたいだけなんだろうなぁ”と、妹紅はジト目で見守っていた。

萃香 「もちろん拳さ。戦って勝つ。
    鬼が力を示さないで、どう人間を怖がらせるっていうんだ」
中井出「ベネ。だが足りないな。聞こうじゃあないか……なにをもって決着とするのか。
    ただ捻り潰すんじゃああまりに一方的じゃあないか、鬼にとって」
こいし「まいったー、って言ったら負けだって」
萃香 「あっ! こらっ! 鬼の決闘に口を挟むな!」
さとり「独り言です。どうぞお気になさらず」
萃香 「……ふん。まあ、そういうことさ。
    どっちかがまいったって言うまで決着じゃない。
    言わない努力も大事だろうけど、言わなければ言わないだけ苦しむだけだよ」

 ニヤッと笑む萃香はもう一度グイッと酒を飲むと、にやりとしたその顔を酔っ払いの笑顔に変えた。
 ゆらりゆらゆらと体を揺らしては、酔っ払いそのものの姿勢で中井出と対峙する。

妹紅 「……気をつけなよ博光。これじゃあ相手の思う壺だ。
    なにせ鬼が相手なんだ、出来るだけこっちが有利な条件に───」
中井出「よっしゃ乗った!」
妹紅 「人の話を聞けよっ! どうしてお前はそうなんだぁあああああっ!!」

 襟首掴まれてガックンガックン。
 拍子に揺れた頭が妹紅にチョーパンをかまし、彼女がうずくまるのを、彼はなんだか申し訳ない気持ちで見送るハメになった。

中井出「いやあの……なにやりたいのキミ……」
妹紅 「う、うるふぁい……!」

 先ほどの中井出のごとく涙目&鼻血だが、戦いの気配というよりは萃香の攻撃的な気配を感じてすぐに二人の間から離れる。

萃香 「さあ……今まで生きてきた中で、ずうっと後悔していた過去を清算する時だ!
    簡単に壊れないでおくれよ!
    私は今、久しぶりにわくわくしているんだからね!」
中井出「私を倒してみるがいい!!《ゴヴァーーーン!!》」

 それぞれ、格闘ゲームの大戦前みたいにポーズを取りつつそれは始まった。

勇儀 「萃香相手じゃ随分と簡単に挑戦を受け取るじゃないか」
中井出「バトルっていうよりはスキンシップみたいなもんなので」

 ゆらゆらと揺れる萃香は、揺れながらもトトトッと一気に中井出へと接近。
 対する中井出は冷静にその動きを見て、振るわれた拳に───なんとッ! 自分の拳を重ねたッ!

中井出「《バゴシャア!》なにィイイイーーーーッ!!?」

 そしてあっさりと砕かれた。
 砕けた拳に入った亀裂は拳だけには留まらず、腕を伝い肩を伝い、やがて顔面まで辿り着くと───!

中井出「ば、馬鹿なっ! このDIOが! このDIOがぁあーーーーっ!!」

 ドッパァーーン、と激しい音を鳴らしつつ、バラバラになった。

鬼たち『弱ぇええーーーーーーっ!!!!』

 観客である鬼たち、大驚愕ののちに大爆笑。
 ゲラゲラと笑い、あまりの弱さ故に指差してまで腹を抱えている者も居る。
 だが勇儀と萃香は違った。
 妹紅も焦った様子もなくそれを見守り、こいしはにこにこ笑い、さとりはハァと溜め息を吐いている。

萃香「お前さん相手に油断なんかしやしないよ博光。
   後ろでも見せた瞬間襲い掛かろうとしたんだろうが、
   生憎とあんたの行動のぱたーんなんてのは予想できているんだからね」
勇儀「ああそうだろうさ。その男がその程度で死ぬわけがない。
   不老不死って言葉があるのなら、まさにそれだ」
萃香「微塵にして燃やし尽くすまでは安心出来るもんかね。
   時間稼ぎは結構だ。すぐに続けようよ、退屈は敵だ」

 言いつつ能力を解放。
 密と疎を操る程度の能力を使い、バラバラになった中井出の肉片を萃めた。
 すると彼女の目の前で中井出博光という存在の形が元通り形成され───

萃香  「《がしぃっ!》おおうっ!?」
中井出?『ツカマエタ』

 萃香を抱き締めるやカタカタと顎を動かすソレは、閃光を放ち……爆発した。
 ちゅごぉおおおんっ! 耳を劈き視界を塞ぎ肌を震わす轟音と衝撃。
 こいしとさとりは読んでいたのか早々に距離を取っており、心配で近寄った妹紅はそれはもう激しく吹き飛ばされた。
 勇儀は豪快に笑っている。

勇儀「あっははははは! 自爆か! いいねぇ潔いねぇ!!
   どーしたんだい萃香ー! 梃子摺ってるなら手ぇ貸してやってもいいよー!?」

 その言葉に爆煙が吹き飛ぶ。
 爆心地でけほこほと咳き込むちっこい鬼は、怪我をしながらも大分ピンピンしていた。

萃香「馬鹿言うないっ! これは私の喧嘩だ! 邪魔したら勇儀だって許さないよ!」

 咳き込む萃香の足元にはこんがり焼けたヒロミツモドキ。
 爆弾が仕込まれていたらしいドッペルゲンガーはサラサラと塵になり、萃香はそれを見るや面白そうに辺りを見渡す。……と、その足元からズボォと手が突き出て、萃香の足首をムンズと掴む。

萃香「うわあっ!? つ、土の中!? いつの間に!」

 しかし掴んだからなんだというのだとばかりに、萃香は土から出ている手を逆に掴み、思い切り引っ張った。するとゴボボボォンッと土や砂利を掘り起こすように外へと出る───! ……手首。
 が、掴んでいる萃香の手に握手するようにがっしりとしがみつくと、

萃香「へ? あ、あれぇっ!?」
手首『ツカマエタシュカァッ───!!》』
萃香「へやっ!? うわっ! あわぁああーーーーーっ!!!」

 そしてまた大爆発である。
 大したダメージはないが、このままでは髪の毛がアフロになりかねないほどの爆発。
 煙にまかれながら、萃香はもう一度けほこほと咳き込むと、もはや容赦なしと自分の密度をいじくり始めた。

萃香「そっちがちかちか爆発するなら───
   そんな爆発なんて無駄に終わるくらいの姿になってやる!
   ミッシングパワー!」

 手を天に突き出し、能力を解放。
 すると、鬼にしては小さかった萃香の体がどんどんと大きくなり、成長とは違った形の巨大化をしてみせ、見る者を沸かせる。

萃香『はっはっはっはっは! さあどうした博光!
   出てきて私と勝負《ポム》───ほえ? 誰?』

 巨大化した萃香の頭を撫でる存在。
 いつもの調子でちらりと見上げてみれば、そこには超巨大化をしてみせている存在。

萃香 『………《ぱくぱくぱく……!》』
中井出『………《にこり》』

 指差し、信じられないものを見た者の顔のままに口を開閉。
 直後に発動したマキシマリベンジャーにて、妖怪の山は大地震にみまわれた。

萃香 『ぶべぇえっぺぺぺっ! 砂噛んだっ! くそう!
    だったらちっこくなって、見えないところから───!』
中井出『マーキングミサイル!《ドゴトトトトチュゥウウン!!》』
萃香 『うわぁああああ!! なんかヘンなの飛んできたぁああっ!!』

 リベンジャーで叩きつけられても即座に小さくなって逃れ、しかしマーキングミサイルで場所を特定され、霧になって躱してみせれば義聖剣・スチームレイザーで霧ごと焼かれ、これはたまらんと元の姿に戻れば巨大なままの姿での松平さんの全体重も霞むほどの超受身でプチーンと潰されて。

萃香 「うぅうううううっ!! なんでそんなにめちゃくちゃなんだー!
    人間なのに! 人間なのにーーーっ!!」
中井出「青ざめたな? 鬼が。人間相手に。
    これ以上恐怖しないためにも、約束の言葉を口にするべきじゃあないかな?」
萃香 「誰が言うもんか! 言うのはお前さ博光!」
中井出「そうか……それは残念だ……。ではこの博光───今だけ鬼になりましょう!」
萃香 「ははっ、なに言ってんだ。人間が鬼になれるわけが───」
中井出「月聖力、標的固定モード!」

 意思から引きずり出した能力を解放。
 すると対峙していた萃香の動きがビタァと止まり、───いや、止まったのだが、なにさこんなものとばかりに強引に固定を破壊。
 キッと相手を睨んだ───頃には、中井出は萃香を持ち上げ、次なる行動に出ていた。
 まず膝を立て、その上に萃香を横たわらせる。伏せるのだとすればうつ伏せの形。
 萃香の腹を自分の膝に乗せるようにした格好。そこから繋がる奥義といえば───

中井出「奥義! 悪死裡貶邊(おしりぺんぺん)!!」
萃香 「へあぅっ!? うあっ! ままままさかあれをっ!?
    ややややめろぉ! みんな見てんだぞぉっ!!」
中井出「いざ! 南無三!」
萃香 「《ずぱぁあんっ!!》痛ぁああああああああっ!!?」

 炸裂音。
 人の張り手が鬼になど通用するものかという常識を破壊するほどの音が、見る者全てに苦笑ではなく恐怖を与えた。
 見ている分ならまだいいが、あれが自分だったらと思うと笑えない。
 なにせおしりぺんぺんなのにショックウェーブが出てる。
 あんなのくらって平気なのは鬼くらいだ。

中井出「俺自身驚愕(おどろ)いてるんだ……」
萃香 「《ずぱぁああんっ!!痛ぁあああっ!!!」
中井出「だってよ……ブチ当てることだけを考えてきた日々…………」
萃香 「《ずぱぁああんっ!!痛ぁああああっ!!!」
中井出「そうして…………最後に辿り着いた最終形態…………が、あろうことか───」
萃香 「《ずぱぁあんっ!!痛ぁあああっ!!!」
中井出「当てない(●●●●)打撃だったなんて………」

 十分に当たっている。
 しかし誰もツッコめずに居た。
 なにせ中井出が、“来るならおいで……二の舞になりたいのならね……”と目を輝かせているのだ。ショックウェーブで破けない萃香の服も服だが、音速を超えて砕けてもすぐに再生する中井出の手も異常である。

萃香 「ここここっこここのぉおっ! 子供扱いすんなぁっ!」
中井出「よろしい! ならば! 大人のジャーマン!!」
萃香 「《ごどしゃあっ!!ふぎゅんっ!?」

 膝に寝かせていた体を両腕で抱えると、そのまま後方へとジャーマン。
 思い切り頭から落下した萃香は頭を押さえて悶絶し、中井出はそんな萃香をにこりと見下ろし、

中井出「まだやるかい」
萃香 「ふぅううぐぐぐ……! あ、あったりまえだっ!」

 一言を告げたのち、痛みながら唸る萃香の足をがっしと掴み、

中井出「リバース……」
萃香 「!? やっ! ままま待ぁあーーーーっ!!?」
中井出「パワァアアーーーッ!! ボムッ!!」
萃香 「《びぃったぁあああんっ!!ぴぎゃああーーーっ!!」

 うつ伏せ状態の足を持ち上げ、高くまで振りかぶって大地に叩きつける。
 これをリバースパワーボムといい、やられるととても痛い。顔面をざらざらとした山肌に叩きつけられた萃香は、見るも無残にぴくぴくと痙攣している。

中井出「まだやるかい」
萃香 「ま、まだ……まだ……!」

 もう一度されてはたまらないと、萃香は体を捻ってうつ伏せ状態から逃れた。
 結果として中井出の手からも逃れられたが、今度は仰向け状態の足をガッシと掴まれる。

萃香 「ひえっ!?」
中井出「脱穀スープレックス!!」
萃香 「《ヴオびたーーーん!》ふぎゃうっ!?」

 そしてそのままスープレックス。
 足を脇に抱えてのスープレックス=再び地面に顔面直撃。
 びたーんと痛そうな音が鳴り、萃香、再び痙攣するの巻。
 しかしそれだけでは終わらず、中井出は体勢を変えると再び萃香の足を脇に抱え、

中井出「リバース……!」
萃香 「わやややや! やめれー! くそっ! 霧になって───!《ボファアッ!》」
中井出「ぬう!?」

 再びのリバースパワーボムを恐れた萃香が、霧になって拘束から逃れた。
 再びブラックホールで吸い込もうと行動を起こすが、吸い込む力に影響されないほどに密度を薄めたために吸い込むことは出来なかった。

中井出「ぬ、ぬう! 考えおったわ! よもや吸収できないほどに己を薄めるとは!
    想像と創造の先をゆくその思考、まさに人にはない鬼のごとき思考!
    だが忘れるな萃香よ! 貴様が相手にしているのは主人公ではなく脇役ぞ!
    主人公のような正当な思考の持ち主ならばそれで終わっていただろうが、
    生憎このワシは。非道(ヒデ)ェのよ」

 言うや、右手に水を、左手に月の属性を集わせ、両手を叩き合わせて融合させる。
 弾き出される結合効果は水鏡の月という“相手の行動をなんでも真似る”なんていう卑劣技。すぐに中井出の姿が霧になり、それぞれ見ていた者が視認出来ない状況へと至った。

妹紅「博光まで消えた!?」
勇儀「人間のくせに随分とおかしなことが出来るもんだ。
   まさか、萃香の能力を真似るなんて」

 妹紅は驚き、勇儀は腕を組んでクックッと笑う。
 しかしその笑みは、褒めの部類ではなく哀れみに近く。

勇儀「だが萃香相手にそりゃ自殺行為だ」

 そう呟いた刹那に霧が一気に一箇所に集合。
 萃香の姿に戻ると、笑んでいる萃香はすぐにこの場に散った中井出の霧を萃める。
 人に戻るほどの密度は許さず、あくまで霧の状態のままに。
 そうして右手の上に球状の霧を萃めると、酒を口に含んで───霧に向け、業火として吹き出した。

さとり「なるほど、考えますね」
こいし「霧が蒸発しちゃったら、いくらヒロミツでも耐えられないもんねー」
妹紅 「……まあ、あれが本当に博光ならだけど。
    ていうか燃やし尽くすくらいで消え果てるなら、とっくに私がやってると思う」
さとり「あなたでは火力が足りません」
妹紅 「うるさいな、どうせ力不足よ」

 味方側は案外のんきだ。
 それを見るや勇儀は笑みを引っ込め、状況を見守る。
 萃香の手の上の霧はとっくに蒸発したが、先ほどのようにドッペルゲンガーとかいうものであるならば油断は禁物。
 いや、それ以前にこれでは負けは無いが勝ちも無い。
 なにせ勝利条件がアレなのだ、永遠に勝ちはない。

萃香 「さあどうだ! 遠慮無しにやらせてもらったぞ!」
中井出「さあどうだって確認は負けフラグだとあれほど教えたのに……」
萃香 「《ビビクゥッ!》ふやぁわぉうっ!? え!? な、なんで……」

 たった今蒸発させた霧を思う。
 隣で腕を組みつつ“とほー”と溜め息を吐く男は、けだるそうにピンと立てた人差し指をくるくると回しながら説明を開始する。

中井出「いやほら、使った能力が“相手を真似るもの”だからね?
    きみが姿を戻した時点で僕も戻ってイルノデス。
    ただ戻った場所が土中でございまして。キミが僕って霧を萃め始めたから、
    せっかくならと霧に中井出博光って名前をつけて吸引させたわけです」
萃香 「いっ……いんちきだぁあーーーーっ!!
    おまえいっつもそんなんばっかじゃないかーーーーっ!!」
中井出「ホホ……嬢。主人公でも相手にしているつもりならそれは大きな間違いじゃよ?
    なにせこの博光。およそ主人公には向かないほどに外道を自負するクズよ。
    そして俺は…………主人公じゃなくていい」

 ドリアン海王を燃やした愚地克己のような顔で彼は言う。
 その顔に腹を立てた萃香が今度こそはと真っ向勝負を挑み、中井出もこれを了承。
 互いが一歩も退かずのナックルアーチ対決をするに至り、老若男女構わず殴るを自負する彼は、相手の見た目が少女だろうと構わず顔面ナックル。
 当然中井出も散々と殴られ、一撃のあまりの重さに口からナルトを吐き出しつつも退くことはせず。やがて彼の回復力が彼女の攻撃力に負けた時点で、勝敗は決した。
 というより、鬼はどれだけ追い詰められようとも“まいった”などとは言わないことをのちに教えられて、彼は泣いた。
 ごっこ遊びならまだしも、真剣勝負で人に負けたとあっては鬼の名折れ、らしい。
 簡単に認めようものなら鬼としての死を意味するだのどーのこーのの話なのだそうだ。

中井出「うう……いてぇよぉお……! そったらことならもっと早く言ってよ……!」
萃香 「言ったら開始直後にまいったするじゃないか」
中井出「僕だからね《ニコリ》」

 ともあれ勝ちは勝ち。
 鬼に負けた人間は食われなければ云々を持ち出され、中井出は博光ハンバーグをご馳走した。一瞬なにか解らなかった萃香だが、口に突っ込まれたハンバーグの味に衝撃を受け、そのままモムモムと食べてしまう。
 食べ終わってからその肉が中井出ミートで出来たものだと知らされ、お決まりごとは果たされたと知るやがっくりと落ち込んだ。

萃香 「勝ちを十分に誇ってから食べたかったのに……」
中井出「嫌味に育ったなぁ」
萃香 「なにいってんだ、あんたの所為じゃないか」
中井出「萃香立派! すげぇ立派に育った! 僕のお陰だね!」
妹紅 「うわあ……」
中井出「なんでそこで引くのもこたん!!」
萃香 「引くだけの理由があるからさ。で、そこのお前は誰だい?
    そっちのは前に出ていった覚妖怪だって解るけど、初めて見る顔だ」
中井出「みんなのアイドル博光くんだよ?」
萃香 「や、あんたじゃないよ」

 萃香が見る先には当然妹紅。
 鬼と対峙することにさすがに戸惑いがあるのか、じり、と距離を取る。

中井出「僕の旅仲間です。名前は藤原妹紅。元人間で、今は半人半妖みたいな不老不死」
萃香 「へえ、混ざり物か。どっちつかずは嫌われやすいもんだぞ。
    なれるんだったらどっちかになったほうが絶対にいい」
中井出「萃めたり疎んだりと対極的なきみがよくほざくわ」
萃香 「能力は関係ないだろ! これは私の意志とは無関係だっ!
    〜〜……大体、鬼ってのは嫌われてなんぼさ。それのどこが悪いのさ」
中井出「僕は差別嫌いだから嫌ったりしないけどねぇ」
萃香 「《なでくりなでくり》だから子ども扱いするなったら!」
中井出「なんと! ならばまた大人のジャーマンを」
萃香 「《がしぃ!》うわばかやめろぉっ! そういう意味じゃないぃっ!」

 特に何を言うでもなく、様々な者の前で騒ぐ二人。
 鬼も覚も不死もぽかんとするばかりであり、ハッとした萃香はすぐにこほんと咳払い。

萃香 「……えと。紹介する。一応、捨てられた私を拾ってくれた精神異常者だよ」
中井出「名を中井出博光。シソ目シソ科のエスケリキア属にございます」

 訳:いわゆる人間をやめた植物的大腸菌である

さとり「ぶふっしゅ!」
こいし「ぷふっ!」
妹紅 「? どうしたんだ二人とも」
さとり「い、いえ、なんでも」
こいし「へー、ヒロミツってそうなんだー……!」
中井出「うおう……口走ったところから奇妙な誤解が」
妹紅 「なあ、そのえすけ……なんたらってのはなんなんだ?
    横文字とかいうやつだよな?」
中井出「そうそう。エスケリキア。いい名前だよね。
    もこたんももっと火を上手く操れるようになったら、
    火で巨大な鳥でも象ってカイザーフェニックスとか名前をつけるといいよ」
妹紅 「よく解らないけど格好よさそうね」
中井出「うむ! 横文字には日本語にない魅力があるのは確か。
    だからってなんでも横文字にするのはどうかなーとは思うんだけどね」
妹紅 「そのなんたら目なんたら科ってのは私でもなれるのかな」
中井出「名乗るだけならタダだもの。さあもこたん!」
妹紅 「あ、ああ! 私は妹紅!
    えーと、シソ目シソ科のエスケリキア属、藤原妹紅だ!《どーーーん!》」

 訳:私は植物で大腸菌の藤原妹紅です

中井出「ややっ!? さとりんが急に抱腹絶倒!?」
妹紅 「ど、どうしたんださとり! なにかあったのか!?」

 自己紹介の直後、さとりが背を向け腹を抱えてうずくまった。
 心配する声に余計にカタカタと震えが増すが、少しして「問題ありません」といつも通りの顔で立ち上がり「……ぶふっ!」……妹紅の顔を見るなり吹き出した。

妹紅 「……なぁ博光。怒らないからエスケリキアの意味とシソ目シソ科の意味、教えて」
中井出「うむ。まずは大腸菌の勉強から始めましょう」

 少しのお勉強の末、彼が殴られ燃やされたのは言うまでもない。

……。

 さて、ここに一人の馬鹿がおる。

中井出「さて。じゃあもこたんに元気に燃やされたところで質問なんだけど」
萃香 「燃やされても平然としてるなんて、どういう存在なのさ」
中井出「みんなのアイドル博光くんだよ?」
妹紅 「それはもういいったら」

 出て行くと言った勇儀もなんだかんだで腰を折られる形になり、少し離れた樹に背を預け、ちびちびと酒を飲んでいる。
 ……下手したらついてくるんじゃああるまいなと心配する中井出の心を読んださとりとこいしは、断固拒否断固拒否とジト目&三角口状態でふるふると首を横に振っている。

中井出「まあまあ。質問ってのは他でもない。酒呑童子ってどこ?」
鬼総員『へ?』

 中井出がしたかった質問はそれだ。
 未だに伊吹童子……萃香がソレだとは思っていないようで、鬼達の反応に「エ?」と小首を傾げている。

さとり「本物の阿呆ですねあなたは」
中井出「いや……照れるな、そんな、本物だなんて……」
さとり「阿呆にとっては最高の褒め言葉かもしれませんが、認めるのもどうなんですか」
こいし「あのね、ヒロミツ。そこの小さいのが酒呑童子だよ?」
中井出「小さいの? ……」
萃香 「《なでなで》なんで当然みたいに頭を撫でるんだーーーっ!」
中井出「……おいおいこいしぃ、このお子ったらこんなこと言ってるぜ?」
こいし「オーウ、ワカッテェ、ナイネェ、この鬼子さァン。
    はふぅ〜……解ってない、ワカテーナイヨォゥ。鬼さん、それはねぇ……」

 アメリカンホームドラマのように大げさに言うこいし。
 もちろんただ中井出の頭の中のことをそのまま再現しているだけなのだが、どれだけ奇妙な事柄に関して鮮明なのだろうか、この馬鹿者の頭は。

二人『そこに頭があるからさ!《どーーーん!》』

 しかも出た答えがそんなもんである。
 萃香はジト目で二人を睨んだのち、樹に寄りかかる勇儀をちょいちょいと手招き。
 中井出の隣に立たせると、顎でサァと促す───前に、既に撫でていた。
 ……四天王奥義が炸裂した。

……。

 ズキズキズキズキ……!

中井出「ワガガガガ……! と……と、いうように……!
    ぼぼ僕は差別とか子供扱いをしているわけではなくてですね……?」
こいし「あははははっ、ヒロミツへんな顔ー!」
中井出「ご婦人方にまたモテそうだ《ジャァーーーン!!》」
さとり「どのツラさげでほざきやがりますか」
中井出「さとりちゃんひどい!」
さとり「ちゃん付けで呼ばないでください」

 顔が無惨だった。
 しかしいつも通り「ワムウ!」と叫ぶと顔がシャキーンと戻る。

勇儀 「自信なくすね……あんだけ殴ってどうして平然としていられるんだ」
妹紅 「大腸菌だからでしょ」
中井出「ははっ、こやつめぇっ、ようやく認めおったかっ!」
妹紅 「私のことじゃなくて!!《なでなで》頭撫でるなぁああっ!!」

 現在の問題。
 萃香が酒呑童子と知った中井出は、アレを伝えるべきかを悩んだ。
 源頼光による鬼退治の話だ。

中井出「な、萃香。お前は人間は好きか?」
萃香 「全員が全員、お前みたいに馬鹿だったら、まだ楽しめるんだろうねぇ。
    お前が下戸でなかったなら、家出したりもしなかったろうに」
中井出「気にしなくてよかったのに。でも、酒呑みもほどほどにな。
    いつか誰かに騙されそうで怖い」
萃香 「騙されたって負けるもんか。鬼はどんな状況でだって勝ってみせる」
中井出「………」
萃香 「《わしわしわし》わぷぷっ!? だから撫でるなーーーっ!!」
中井出「いいか、萃香。人は嘘をつくぞ。それを忘れないでくれ。
    その嘘は、お前の信頼ごと全てを潰していくものだ。
    だから、どれだけ気分を良くしても、人に心は開くなよ」
萃香 「当たり前だ。嘘をついたら食ってやるさ。
    というか、鬼に嘘つく人間なんてそうそう居るもんか。
    つけば殺されるって解っててつくなんて、馬鹿のすることじゃないか」

 萃香の言葉に、鬼達が「そりゃそうだ」と笑う。
 勇儀ももちろん笑っていて、妹紅もさとりたちも笑っている。
 けれど中井出はひどく寂しそうに、萃香の頭を撫でていた。

中井出「言えた義理じゃないけど、あんまり悪さするなよ?
    あと下の妖怪にもちったぁやさしくしてやんなさい」
萃香 「勝ったのは私なのに、どうして博光がそういうこと言ってるんだ。
    ここは私が言うところじゃないか」
中井出「いーから。なにか願いがあるなら、いつかまた会った時にでも聞くよ。
    ……だから、ちったぁやさしくなりなさい。
    父らしいことはしてやれんかったが、それでもそれくらいは、娘に願わせてくれ」
萃香 「う……うん……。……〜〜……調子狂うなぁ」

 戸惑いの表情を浮かべ、頭を掻く萃香。
 妹紅も少し困った顔をしていて、しかし……さとりとこいしは中井出の心を読んで、笑っていられなくなっていた。

中井出「じゃ、俺もう行くね。さすがに山から出ていけぇ! とは言えないしね。
    勇儀姐さん、きみどうするの?
    僕らこれからえーと、太陽の畑ってところに行くんだけど」
勇儀 「噂のフラワーマスターのところか。興味はあるけどやめておくよ。
    しばらくはそこらでも歩いて美味い酒でも探すつもりだ」
こいし「あ、それならヒロミツが《がぼっ!》もぐぅっ!? ん、んー! んー!」
中井出(おばかっ! そったらこと言ったら姐さん一緒に来ちゃうでしょ!?
    来てほしいのかほしくないのかどっちですかもう!)
こいし(……、)

 あ、そういえば、といった表情で目をぱちくり。
 口を塞がれながらだから、なんというか妙な顔だった。

勇儀 「よし、じゃあお前についていこう。
    そんなあからさまな態度を見せるってことは、いい酒を持ってるんだろう?」
中井出「……こいし。きみ、あとでくすぐりの刑ね」
さとり「手伝います」
こいし「わ、悪気はなかったんだよ? だからなでなでに負からないかなぁ」
中井出「やだなぁこいし。くすぐるのはこう、さわさわーっとやるからくすぐったいんだ。
    負けたら余計にくすぐったいだけなんだぞぅ?
    だから撫でるのは強くするだけであって、
    負かることが通ったら余計にくすぐったいだけだ」
こいし「え? あれ? そうなの、かな」
中井出「うむ。しかしこいしがそこまで言うのであれば、負けよう。
    思う存分くすぐるから安心するんじゃポルナレフ」
こいし「うんっ! ……あれ?」

 くすぐり地獄が全力の同意のもとに決定した瞬間である。
 すぐに慌てて取り消し要求に入るこいしの額を押さえつけて、中井出は萃香に別れの挨拶を。といっても、

中井出「じゃあ。また、いつか何処かで」
萃香 「今生の別れでもあるまいし。どうせふらっと現れるんじゃないか?」
中井出「その時は……ほれ。これと同じもん、ご馳走するよ」

 ひょいと投げるそれは、今も尚、ヒロラインで進化し続けている銘酒。
 揉上米から作られるそれは意思たちが飲み、美味いと感じるたびに超越を繰り返し、さらに美味くなり続けている。
 疑問符を浮かべつつ一口飲んだ萃香があまりの美味さに絶叫。
 次いで、次はもっと美味くなっていると聞いて目を輝かせた。

萃香 「これっ! 誰が作ったんだ!? 攫って作らせよう!」
中井出「やめなさい」
こいし「創ってるのはヒロミツだよ?」
中井出「……こいし。くすぐり地獄レベルアップ決定ね」
こいし「あれっ!? ち、違うんだよ? 今のはつい、いつもの調子で、こー……!」
萃香 「博光が作ってるのかー! もっと寄越せもっと! まだ持ってるんだろー!?」
中井出「あげません。その代わり……ホレ。
    あっちの山に僕の家があるから、欲しくなったら取りに来なさい。
    ただし作るのには時間がかかるから、あんま頻繁に来られても無理だ。
    姐さんもそれでいいね? ついてきたっていいことなんて無いって」
勇儀 「新鮮ななにかが欲しいだけなんだ、そう邪険にしないでほしいね」
中井出「…………《じりり》」
勇儀 「新鮮な人間ってわけじゃないから、そう距離を取るな」
中井出「う、うそだ! そんなこといって、
    近づいたら“フレッシュミート!”とか言って襲い掛かってくるんだ!
    テイルズオブファンタジアみたいに!」

 中井出の中にPSソフトのTOPの様子が上映される。
 しかし何故かそのモンスターの姿が勇儀であり、さとりとこいしが吹き出した。

勇儀 「あんた。今おかしなこと考えたろ」
中井出「僕の中ではおかしなことじゃないから、いいえ。
    嘘ついてないよ? ほんとだよ?」
さとり「ええ、うそはついてません」
こいし「それが当然だとしか考えてないよー? ……あ、今妙なのが頭の中で踊ってる」
中井出「鬱ブレイカーさんだ。紫色の体のニクイやつ」
さとり「この生き物は何故動くたびにバキューンバキューン鳴ってるんですか?」
中井出「鬱ブレイカーさんだからだ」

 頭の中でクネクネと紫色で目がデカくてタラコ唇な物体が踊る。
 名を鬱ブレイカーさんという。さん、までが名前である。

中井出「ほれもこたん、行くよ。じゃ、お邪魔しました。
    あ、他の妖怪にやさしくってこと、よろしくね。
    やさしくなかったら酒やらないからね」
萃香 「うわっ、ずっこいぞとーちゃ!」
中井出「こんな時ばっかとーちゃ言わない! とにかく行くからね!」

 言うだけ言うと行動開始。
 結局勇儀もついてくることになり、数人の鬼とともに山を降りることに。
 その途中、射命丸を発見したので他の者には先に下りてもらい、おそるおそる近寄ってきた射命丸に話しかけた。

射命丸「これはこれは中井出さん、下山中ですか」
中井出「なんだ急に口調を変えてきた>>斜面ガン
    おもえはいくなりケイン語で離される人の気持ちがわかるますか?」
射命丸「ケイン語!? ……あ、ああ、敬語ですね? あと射命丸です斜面ガンではなく」
中井出「おお失礼。で、そのサメイマルが何用?」
射命丸「いえ、鬼を連れての下山ということは成功したのかと。あと射命丸です」
中井出「なるほど。うん、星熊勇儀という姐さんと、
    それに付き従う鬼の何人かは下りるみたい。
    でも萃香と他の鬼は残るってさ。
    あ、その代わり下のものにやさしくすること、と言ってあるから。
    そこんとこよろしくね、社名アル」
射命丸「あやややや! なんとそんなことまで!?
    いやはやこれは、真実ならば大変な借りが出来てしまいました!
    このカメラというのも貰ってしまったというのに……! あと射命丸ですから」
中井出「ところでその口調どうしたのシャメシャメ。
    別に僕偉い人じゃないから、敬語っぽいのとかいいよ?」
射命丸「シャメシャメ!? しゃ、射命丸です。射命丸文。
    口調に関しては、こういった口調のほうが人と話しやすいと思いまして。
    もっと砕けた感じで話せたらなーとは思っていましたので」
中井出「ほむ フミの真面目な禁鞭さに勘当したか鬼なる ジュースを奢ってやろう」
射命丸「フミじゃなくてアヤですから。あと勤勉の部分に危険な香りがしました。
    それとは別にじゅーすっていうのには素直に興味あります。いただきましょう」

 月然力でコップ型の樹を生成。
 それを切り取ってから中にジュースを創造すると、ホレと渡す。
 何かの能力なのだろうと特に疑る様子もない射命丸はそれを受け取り、香りを楽しんでからごくりと一気にいった。
 途端、全身を貫く幸福感。
 この世に呑む幸せというものがあったのか! とばかりに味に目覚めた彼女は、その感動を忘れぬようにと息の続く限りに一気飲みを実行。

射命丸「あやややややややや!! これはまたなんとも! あややややややや!!」
中井出「慌てるな煮麺丸! 冷静に落ち着いて静かに鎮まるべき!」
射命丸「射命丸ですってば! なんですかシャメンマルって!
    そしてどれも似たような意味です!」
中井出「ハリケーン力丸に進化しないだけ十分だよ謝礼丸」
射命丸「わざとですか!?」

 言いつつも笑顔は崩さないあたり、心構えが素晴らしいと拍手を送った。

射命丸「ええ、まあ、これで退屈せずに済みそうですし。
    長く生きると、退屈だけが敵になりますからねー」
中井出「そうだよねー……」

 とほー、と溜め息を吐いたのち、射命丸は人間がなに言ってんですかと笑う。
 中井出は中井出で今日もまたひとつの笑顔が産まれましたと笑顔で返す。

中井出「じゃあなにか必要になったらあちらの山までどうぞ。
    印刷される紙は、たとえ捨てられても土の栄養になる特殊加工。
    たとえ興味なしと捨てられても大地のためになるぞ! やったね!」
射命丸「いえいえいえ捨てられること前提で話を進められても乗っかりませんからね!?」
中井出「ちなみに燃やされても何故かマイナスイオンが溢れ出る」
射命丸「そのまいなすいおんとやらがなんなのかはよく解りませんが、
    とりあえず私の新聞が読まれる可能性が否定されているのは解りました」
中井出「急に文字だらけのもの渡されて、素直に読む妖怪がそうそう居るもんかい」
射命丸「む。それは確かに」

 いかに娯楽に飢えようと、それが文字だらけのものであったらどうか。
 先を急ぐあまり文字を飛ばし飛ばしに読み、結果だけを求める性格になるかもしれない。
 そうなれば大切な部分までもが飛ばされ、結局は苦労も水の泡、と。

射命丸「文字を連ねるのも楽じゃありませんねー」
中井出「文字はなぁ……一文字一文字に、見る者には解らん苦労が滲むからなぁ……」

 手書きだと余計だよ、と言う彼は、子供の頃の漢字の書き取りを思い出していた。
 同じ文字を何度も何度も書いて提出する。
 思うのだが、あれをチェックする教師は同じ文字列にうんざりしないのだろうか。
 ……するのだろう。
 そう結論付けて、1ページ1ページに花丸を描く脳内の教師の姿に敬礼した。

中井出「じゃあ、僕もう行くね。妖怪を待たせてるんだ」
射命丸「恋人を待たせているかのような反応ですね。好きなんですか?」
中井出「大事だって意味ではまあ。ただ恋とは違いまする。この感情、まさしく家族愛」
射命丸「他人同士で妖怪相手でよくもまあ」
中井出「差別とか嫌いなんだ。楽しむなら種族を越えて楽しみたい。
    我々は妖怪だから人間とは相容れぬゥウウ!とか言ったら、
    そこにあるかもしれない楽しいがぜーんぶなくなるんだ、もったいないじゃん」
射命丸「そもそも妖怪は人を食べますよ?」
中井出「きみは俺を食う? 食うなら腕の一本でも差し上げましょう。
    だから俺と楽しいお話をしましょう」
射命丸「たかだか話ひとつで腕を差し出すなんて、どれほど楽しいことに飢えてんですか」

 言いつつも呆れを混ぜて笑う。
 そうして生まれた笑顔にホレ、と指を差すと、射命丸は「あや……」と目を丸くした。

中井出「楽しんでくれりゃあ十分なの。
    他人はそうじゃないとかは関係なく、俺がそれでいいのです」
射命丸「これは一本取られましたね。そういうことならばこの射命丸文、
    打算も含めて人間との架け橋的ななにかを担いましょうっ」
中井出「解りやすいくらい私欲が見えてていいね。で、架け橋って?」
射命丸「妖怪相手に新聞渡しても見ないのが大半でしょうから、
    文字が解る人へと配ってみます。
    あぁご安心を、名高い陰陽師が待ち伏せていようとこの射命丸文、
    速度には自信があります!
    ぶつぶつとよく解らない言を唱えているうちに視界から消えてみせますよ」
中井出「で、気づいた時には足元に新聞?」
射命丸「はいっ。そうして妖怪の何気ない日常を見せたりして笑みを育みます。
    さらにそうして油断させたところを───!」
中井出「ぱくりといただく!」
射命丸「その通り!」

 笑顔の天狗に拳骨が落ちた。




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