11

 風の噂が人を呼び、コラル郊外の湖にはニシダの釣り仲間や、この階層に住むプレイヤーたちがごっちゃりと集まっていた。

アスナ「ふわぁあ……みんな、ヌシが居るってことは知ってたのね……。
    釣るって話が出た途端にこれだなんて……」
テツオ「あー……言っちゃなんだと思うけど、みんな結構暇人なのかな?」
ナナシ「この世界だからこそ娯楽がほしいのさ」
総員 『すごい説得力だ』

 この世界でもし暮らすことになったとして、敵なのは退屈以外のなにものでもない。
 なにせ今までやっていたゲームなどがないのだ。
 この世界に落ちたものの大半はゲーマーだからこそ、こうしてデスゲームに巻き込まれた。アスナは兄のナーヴギアを勝手に拝借して使ってみた結果だが、多くの場合がゲーマーだからだろう。
 でなければ“一万人”しか購入できないゲームをわざわざ並んでまで買いはしない。

ニシダ「では、いきますよ」

 ゲーマーの話とは無関係だが、このニシダという中年男性は東都高速線で保安部長をしていた。SAOのネットワークセキュリティ担当という職のため、半ば巻き込まれる形でフルダイヴ。
 ナナシ支援に助けられた一人であり、最初こそ怯えていたものの、子供たちだけでも守らねばと立ち上がる。そうして少しずつ戦ってはいたものの、自分に戦闘センスが無いと知るや別の方向で協力することに。それが、いわゆる水棲生物調査。
 初期の頃から釣りや水棲生物の調査をしていたため、それらのスキルは既に完全習得……スキルレベルでいうと1000に値する。
 メイスを極めればマスターメイサーと呼ばれるように、彼も釣りなどのスキルを1000まで高めたことで、釣りで彼の右に出る者は居ないとさえされている。
 あらかたのポイントで釣りをし終えてからは、こうしてのんびりと釣りをしながら暮らしている。現在の目標はもちろんヌシ釣りだ。

ニシダ「はぁあああーーーーっ!!」

 ニシダが持つ釣竿が、ソードスキル使用時のように光り輝く。
 桟橋があるそこで振るわれた竿が大きくしなり、重りであり餌となっている謎の生物が飛んでゆく。ぼちゃん、と落ちたソレが波紋を立たせ、あたりは緊張でしんと静まった。

ササマル「……ところで今の餌、なに?」
エギル 「生餌……だったな。なんて生き物かは知らんが……」

 いったいここからどうなるのか。
 見守る全ての人がごくりと喉を鳴らし、ヒットの時を待った。
 ニシダの傍ではキリトとナナシが控えており、今か今かと手をわきわきさせている。
 ……と、そんな時、水面に浮かぶウキがピクンピクンと反応を見せた。
 今か!? と思ったキリトだったが、ニシダは静かに水面を睨むだけ。
 きてるんじゃないですかー、と訊いてみても、「なんの、まだまだ」と返すだけ。
 そんなウキの反応を見守ってしばらく。
 急に、静かだった水面の波紋がドプンと跳ね、ニシダが「今です!」と叫ぶ。

ナナシ「まさに孔明! キリト、いっくぜぇええっ!!」
キリト「あ、ああっ! おぉおおおおっ!!」

 がっしぃと、ニシダに代わって竿を握る二人。
 途端、桟橋の中腹に立っていた二人が一気に桟橋の先端まで引っ張られる。

ナナシ「ギョワァアアアーーーーーーッ!!? すすすすげぇえ力ァアーーーッ!!」
キリト「ぐあぁあっはぁっ!! 釣りスキルがないとこんなに重いのかっ……!?」

 ニシダは割りと平然としていた気がする。
 そう思いつつも二人は踏ん張り、眉間に皺を寄せながらも向き合ってニッと笑む。
 それからはすぐに体勢を変えて、竿を持ったまま後ろを向いて全力疾走。
 引っ張られる力には引っ張る力でとばかりに強引に引いていった。

ダッカー「おおぉおっ! なんか面白そうだし俺も手伝うぜぇ!」
ササマル「こういうのには参加しなきゃ男じゃねぇよなっ! 行くぜテツオぉっ!」
テツオ 「え、俺もっ!? ああもういいや、どうにでもなれだっ!」
ケイタ 「お、おいお前らっ! あ、あー……まったくっ! いくぞサチ!」
サチ  「えぇえっ!? わ、わたしも!?」

 こうなればオレもわたしもと仲間が集い、ひとつの竿を掴んで駆け出した。
 それにはニシダも加わり、手の届くもの全員の力でヌシとの力比べに走った。

ナナシ「我らの力! 魚類に負けるものにあらず!
    たとえ一人では敵わなくとも、徒党を以って不可を可にするものなり!
    えぇーーーーんやこぉらぁ!!?」
総員 『どぉおおっこいしょぉおおおおっ!!!』

 叫び、思い切り引く。
 すると水面が表面張力により大きく盛り上がり、次いで破裂したかのように水と……巨大な影が飛ぶ。釣り上げた皆は『いぃよっしゃあああっ!!』とガッツポーズ……をしたのだが、降ってくるもののあまりの巨大さに、全員が逃走した。

ナナシ「おぉおあぁあああっ!!?」
キリト「ななななんだあれなんだあれななななんだあれぇえええっ!!!」

 どごぉんっ、と桟橋前の芝生に落下してきたのは、巨大なナマズのようなカサゴのようなスレイプニルのような、とにかく不気味な魚だった。スレイプニルな部分は、魚のくせに足が六本生えているところにある。巨体であることももちろんだが、足もデカい。しかもその足で、奇声を放ちながら走ってくるのだ。

キリト「ニシダさぁあん! これが食材ってのは絶対ないだろぉおっ!!」
ニシダ「ししししかしこう見えて珍味なのかもしれません!」
ナナシ「その意見に同意! さあ、誰ぞ勇敢に立ち向かう者はおるか!」
アスナ「兄さんよろしく!」
ナナシ「え? 俺?」
シリカ「言いだしっぺのなんとやらです! お願いしますナナシさん!」
ナナシ「シリカちゃん強くなったねもう! エギルー! リズー! どうー!?」
二人 『誰がやるかぁっ!!』

 叫ばれてしまった。
 仕方もなしに、月夜の黒猫団に《ぶんぶんぶんぶんぶんっ!》……視線を向けた途端に思い切り首を横に振られてしまった。

ナナシ「ええいもう!
    せっかくLAとか経験値ボーナスが貰えるチャンスだってのに!
    じゃあいくよー!? どうなってもしらんぞー!?」
キリト「逃げながら言う言葉か!」
ナナシ「だってこやつ何故か俺だけ追ってきてるんだもん!
    ッチィ、ならば今ここで仕留めます! さあこいー!」

 湖のヌシの攻撃。
 自分の体の10倍以上はデカい魚の突進とスタンプが、そのまま攻撃に繋がる。
 ナナシはここで冷静に構え、自分を潰そうと迫る前足へと盾を構えた。
 スクラップシリーズではない、普通に防御力の高いシールドだ。
 それで魚のスタンプを受け止めるや、

ナナシ「奥義! STRにものを言わせた強引パリィ!」

 ドウゥゥウンッ……! と湖面の景色に響き渡るような音を高鳴らせ、巨大魚を仰け反らせてみせた。これにはその場に居た全員が口をあんぐり開けて驚愕。
 次いで盾を引っ込ませるとスクラップソードを装備。

ナナシ「いっ───せぇっ───のぉっ───でぇぃ!!」

 ファイナルストライクソードスキル“ウィンドブリンガー”を繰り出す。
 身を回転させながら両手剣型のスクラップブレイドを持ち上げ、渾身とともに振り下ろすだけ。
 しかし剣からは地面を抉り空を裂く衝撃波が放たれ、直線上に居る敵を容赦なくブッた斬るソードスキルだ。それは巨大なヌシとて例外ではなく、一撃で頭から尾びれまで両断され、ポリゴン片となってスクラップブレイドとともに消えた。

エギル  「おいおいぃ……」
リズベット「あの巨体を一撃……。ここまでくると、もう人外の域ね……」

 黙って見ていたエギルとリズベットは呆然。
 当然他の者も口をあんぐり空けて唖然とするほかなく、

ナナシ「ほいお疲れぇいっ!」

 そんな中、カラになった手をぱんぱんと叩いたナナシは、早速LAを報酬があるかどうかを確認。“湖のヌシ”という名前だったらしいそいつは、一応ボス扱いだったらしく……しっかりとLAボーナスとしてアイテムが手に入った。
 名称は……そのまま“湖のヌシ”。どうやら食材らしく、調理するために出すと魚のそれぞれの部位として具現化されるらしい。

ダッカー「すっ……すっげぇえーーーーーっ!!」
ササマル「ななななんだあれなんだあれ! 衝撃波がぶわーって出てずぱーんって!」
テツオ 「湖割った! ナマでモーゼのアレ見た気分! レベルってすごいなぁ!!」
ケイタ 「……両手棍のソードスキルは、
     どこまでいけばあんなところまでいけるんだろうなぁ」
ダッカー「うっ……見てみたい気もするけど、無茶はしたくない……」

 ユニークスキルには、得てから育てることで覚えられるものがある。
 キリトの二刀流が片手剣二つで片手剣ソードスキルを出すわけではないように、ファイナルストライクにもパリィやブレイクなどの自動発動スキルがある。
 その自動発動スキルに上乗せしたものが、熟練度の成長具合によって覚えるソードスキルだ。二刀流ではスターバーストストリームという16連撃スキルとジ・イクリプスといった27連撃スキル。
 シリカのハートファミリアも熟練度に応じてピナが取れる行動が増えてゆき、ブレスの数も増えていった。ナナシの場合はファイナルストライクに様々なものが増えていった。もちろん次の一撃で壊れることが前提のスキルなので、単発技しかないのだが。
 今放ったウィンドブリンガーもその内の一つであり、両手剣型武器のファイナルストライクとなる。いわばデモンズソウルのストームルーラーのエフェクトそのものだ。ただし効果範囲はストームルーラーよりは広い。
 と、そんな説明はさておき、景色を割るような一撃を目の当たりにしたギャラリーたちがどっと押し寄せ、一緒になってヒャッホウと喜び合った。中にはナナシに握手を求める者も居るほどだ。

男性 「ナ、ナナシさんっすよね!? 握手いいすか!? 俺ファンなんすよ!」 
ナナシ「嘘つけコノヤロー!」
男性 「即答!? いやいや嘘じゃないっすよ!
    自分、ボス攻略こそ一緒じゃなかったっすけど、
    ナナシさんに戦い方教わったんすから!」
女性 「わ、わたしもです!
    攻略とかで大変だったのに、わたしたちに支援とかしてくれて!
    ほんと助かりました! ありがとうございます!」
男性 「あ、あと、支援がなくなって腹立てたのってキバオウや、
    そいつと一緒に居たやつらばっかっすから!
    あいつらと一緒に居たくなかったから俺らここに来たんですし!」
ナナシ「どこでも人気ねぇなあいつ……」
キリト「そりゃそうだろ、根がアレじゃあ……」
アスナ「テイウカキバロウッテダレ?」
シリカ「キイタコトモナイデスキエテクダサイ」
ケイタ「……よっぽど嫌いなんだな……」
サチ 「その、わたしはあんまり知らないんだけど……どんな人なの?」
総員 『寄生虫と疫病神の融合体みたいなヤツ』

 満場一致だった。
 月夜の黒猫団とその他以外の全員が声を揃えて言ったところで、サチが戸惑う。
 そこへダッカーが頭の後ろで手を組んで、けだるそうに語り出した。
 その間にもナナシは握手をせがまれ、X-MENvsストリートファイターのタイトル画面のようにガッシィイイと握手しては、ハワーと騒いでいた。

ダッカー「あーキバオウねー、知ってる知ってる。
     一時期前線に出てたからってヤケに態度デカくてウザいヤツだよ。
     やたらと自分をデカく見せたがって、
     他のヤツが目立つとやたらと絡んでくるのな。
     わざわざ近づいてきて小声でイヤミ言ってきてやんの。
     お調子者ってほら、普通はいい感じで場をくすぐるようなヤツじゃん?
     あいつは嫌な方向でのお調子ものでさぁ。
     腕のあるヤツに寄生して、ナンバーワンよりナンバーツーを気取って、
     自分はなにもせずにいいとこだけ拾うクズ野郎だよ」
ナナシ 「え? 俺?」
シリカ 「どうしてそうなるんですかっ」
ナナシ 「い、いや、俺も結構ナンバーワンよりナンバーツーが好きだし、
     シリカを強化させてギルドマスター押し付けたし……」
シリカ 「じゃあギルドマスター権限受け取ってくれますかっ!《ぱああっ……!》」
ナナシ 「フン断る」
シリカ 「なんでですかーーーっ!!」

 騒ぎがよりやかましくなった。
 まあまあまああまあと止めに入る黒猫団に紛れてソッと騒ぎから抜け出たナナシは、ガヤリータと騒ぐ皆様から離れた位置に居たキリトに、ダッカーのキバオウに対する言葉についてを語り掛けつつ、訊ねてみる。

ナナシ 「でさ、キリト。キバオウについて、なにか反論的な言葉、出る……?」
キリト 「否定文句のひとつさえ浮かばないな。
     なんていうか、やりすぎたよな、あいつは」

 陰が差した顔で二人はとほーと溜め息を吐いた。
 べつになにか言ってやりたかったわけではなく、語るのも馬鹿らしいのだ。
 いつの間にかキリトの隣に居たサチは、その言葉にきょとんと首をかしげた。

サチ 「キリトもナナシくんも似たような印象持ってるの?」
ナナシ「そうだねー……あいつの心の中って相当醜いんじゃないかなーとは思うよ。なん
    ていうのかな。もしヤツがお菓子のプリッツだとしたら相方はポッキー。で、い
    っつもこう思うわけよ。“畜生! どいつもこいつもポッキーポッキーとキャッ
    キャウフフしやがってーーーっ!! 11月11日はポッキーの日じゃあない!
    ポッキー&プリッツの日だ! それをポッキーゲームなんぞと合わせてポッキー
    ばかり目立たせやがってーーーっ!! そんなにチョコの部分が大事ならチョコ
    を食えばいいだろう! ポキっと折れるのがいいのならこのプリッツとて引けを
    取らぬわ! チョコのとろける甘さがいい!? だったらチョコバットでも咥え
    ていろこのど畜生がァアーーーッ!!”……と、まあ」
キリト「つまり小さい男なんだ」
サチ 「うん……なんかよく解らない喩えだったけど、
    その人が酷い人だっていうのは解った」

 どうしてプリッツだったのかはこの場の全員が解らないことだろう。
 ともあれせっかくヌシを釣り上げた記念日なのだからと、改めて人々は喜び合った。
 喜び合い───


───……


 ……とっぷりと夜。
 夜の表現に“とっぷりと”と使われる理由は、使っている人の大半が実は知らないというオチがまあ存在するわけだが、実はこの“とっぷりと”。日が完全に暮れる様や、なにかに芯まで浸かる様を指し、よく使われる言葉などでは“すっかり”という言葉と似たような意味を持つ。

ナナシ「ってばーちゃんが言ってた」
アスナ「兄さん、おばあちゃんなんて知らないじゃない」
ナナシ「まあまあ。えー、では! ニシダさんのヌシ釣り達成を祝しましてぇっ!?」
総員 『カンッパァーーーーーイ!!』

 グラスに注がれた謎の液体が掲げられた。
 アルコールではない。断じてだ。
 二十歳以上の方(ニシダ)はビールだが、他はジュースなどだ。

ニシダ「いやー、まさか祝ってくださるとは! しかも料理まで!」
ナナシ「良いことがあった時は祝うべきですとも。つーわけで、さあ!
    これがニシダさんが釣ったヌシで作った料理でゴンス!」
ニシダ「おおこれが! では早速刺身から!」

 奨められるままに、ニシダがヌシの刺身を取って醤油を少々。
 ぱくりと食べると……カタカタと震え、涙を流した。

ニシダ 「〜〜〜〜っ───んまい! これはなんという美味しさでしょう!
     刺身も、醤油も、刺身の温度も! なにもかもが舌に馴染むようです!」
ダッカー「刺身って……食ったことないんだけど、そんな美味いもんなの?
     食ったことない俺にしてみりゃ、なんつーかこう……
     磯臭い豆腐に醤油かけて食べるー、みたいで、
     魚の種類に係わらずみんな醤油の味しかしねーんじゃねーの?
     って感じなんだけど」
ニシダ 「いやいやそれは誤解も曲解も甚だしいことです!
     疑るならばまず己の舌で知ってみてもらいたい! さあ!」
ダッカー「え? く、食うの? 俺が? ……ナマモノ苦手なんだけどな」
ケイタ 「ダッカー、食ってもいないのに文句を言うのはマナー以前の問題だぞ」
ダッカー「おっと、そりゃ確かにだめだな。俺が嫌いな行為でもあるっ。
     言われなきゃ自分じゃ気づけないもんだよなーこういうのって。
     じゃ、いただきますっと。あ、んー……んむっ。
     んむ、んむ……ん、んんっ!?」

 ぱくりと刺身を頬張るダッカー。
 醤油をつけて、一気に一口だった。
 しばらく咀嚼すると、突然クワッと目を見開いて───

ダッカー「ん゙っ……ぶっふっ……! ごふっ……! ん、んぐっ……!」

 涙目になって咳き込みつつ、しかしなんとか飲み込んだ。
 やがて涙目のままにカタカタと震えながら振り向き……

ダッカー「ごめん……やっぱナマモノ無理みたい……」

 料理漫画でありがちな奇跡は訪れなかった。

ササマル「お前……そこは無理してでも口から光線とか吐くとこだろ……」
ダッカー「俺そこまで人間卒業できてねーよ!」
テツオ 「するつもりはあるんだな……」
ダッカー「言葉のあやだよ!
     大体ナマモノ苦手なヤツがどれだけ美味いもん食ったって、
     美味くないに決まってんじゃねーか! だってナマモノ苦手なんだから!」
総員  『まあそりゃそーだ』
ダッカー「解ってんなら止めよーぜぇええ!!?」

 ダッカーは知り合いたちの温かな態度に涙したという。いろんな意味で。
 しかし彼はめげず、ならばと箸を進めた先にはラグー・ラビット料理。
 これだ、これを待ってたのだとばかりにパパァアと顔を輝かせ、まずはシチューになったそれから肉だけを掬って一口。

ダッカー「───…………」

 目を見開き、スゥウと涙し……気絶した。

ササマル「うわっ! うまっ!
     怖いくらいに美味いって表現あるけど、これまさしくそれっ!
     なぁダッカー! ……ダッカー?」
ダッカー「………」
ササマル「ダッカー!? ダッ……うぅわやばいこいつ気絶してる!」
ナナシ 「なんと!? お、おぉお……!
     きっと嫌いなものから好きなものを食べることで味覚が限界以上に刺激され、
     脳が機能を停止させたのだ……!」
サチ  「脳が機能停止したら死んじゃうよ!?」
ナナシ 「ゲゲェそういえば! 起きろ! 起きるんだダッカー!
     ヨォオ! しっかりしてくれよォ!!」
ダッカー「《ズパァン!》トドメ!」

 ビンタ炸裂。しかし通るのは衝撃だけであり、パチクリと目を瞬かせたダッカーは復帰。ハッとするとすぐに食事を再開させ、ンまいンまい言いながら食べ続けた。

ナナシ「アー……なんか、ダイジョブそうだね」

 他のメンバーより少しだけ小柄なダッカーは、お調子者の悪ガキのような勢いで食べ物を口に突っ込んでゆく。
 その度にきゃらんと輝く目は、美味しいものを口にした子供そのものだ。
 月夜の黒猫団はそれを苦笑で見つめ、自分達も食事を再開させた。

エギル「いいもんだなぁ……美味い料理に賑やかな食卓。
    オレもいよいよって時にナーヴギア被っちまったから、懐かしい気分だ」
キリト「あぁ、そういえば既婚者なんだっけ。奥さんってどんな人なんだ?」
エギル「こんな席で誰が言うか」
キリト「……そりゃそうだ」

 見れば、先ほどまで騒いでいたほぼが目の色を変え、そっぽを向きつつ聞き耳を立てていた。騒ぎがビタァと止まったんだから真正面から聞けばいいのに、あくまで聞き耳を立てている。
 キリトは苦笑しながら食事を再開させて、ラグーラビットの肉の美味さに頬を緩めた。


───……。


 そんな日から数日後。
 とある階層、とある森で、レアモンスターと戦っているパーティを発見。
 アスナとともに散歩をしていただけという、敵が居るフィールドですることないだろうな状況の中、おや珍しいとモンスターを眺めていたナナシの前で、ソレは討伐され……どうやらレアアイテムをドロップした模様。
 パーティはそのアイテムの能力に『おぉっ』と驚き、どうするかを相談し始めた。
 売って金にするか、誰かが装備するか。
 なかなか決まらず、それどころか空気が悪くなるのを予想した彼は、「やあ」と声をかけつつ相談に乗った。

女性 「あなたは? って……あなた、まさかナナシ支援の」
ナナシ「え? おお! 覚えてくれてた人が居た!
    なんか嬉しい! なんか嬉しいよアスナ!」
アスナ「はいはい解ったから」
ナナシ「妹が冷たい……あ、はい、そうです、俺がナナシでございます」
女性 「死んだと噂されていたから、まさか会えるとは……。
    あ、わたしはギルド・黄金林檎のギルドマスター、グリセルダ。
    ナナシ支援には随分とお世話になったわ、ありがとう」
ナナシ「いやいや、役に立ててたならそれで。で……なにやら悶着しているようですが」

 ちらりと見る。
 グリセルダの手には、敏捷力を20上げるアイテムが。
 この階層では非常に珍しいレアアイテムだ。

グリセルダ「これを売るか、誰かが装備するかで少し揉めていたの」
ナナシ  「そいつぁいけません。みんな、パーティなら仲良くせにゃあいかん。
      というわけでどうでしょう」

 ナナシはトレード画面を展開。
 グリセルダとトレードを開始して、この階層では十分すぎるほどのお金を用意。

グリセルダ「なっ───」

 当然グリセルダは驚愕。
 他のメンバーはトレード画面が見えないために首を傾げるだけだが、グリセルダはそれはもう驚いた。

ナナシ「それは敏捷度が必要な誰かが装備してくだされ。
    現実に帰れば無くなってしまうもののことで喧嘩はいけません。
    もしそのアイテムが喧嘩の原因になるなら、あっしが買い取りますが?」
アスナ「ちょっと兄さん! そんな勝手に───」
ナナシ「黙りゃっ! せっかくゲームをしているのに楽しむどころか喧嘩!?
    冗談ではないでおじゃる! いいですか皆様! これはゲームです!
    たしかに死ねば死ぬ世界だが、そんなことは現実でも同じ!
    だがゲームだ! ゲームで楽しんでなにが悪い!
    現実では出来なかったことが出来る世界で、出来ることを楽しむ! 素敵!
    お陰で引っ込み思案だった妹が随分と活発になりました。
    ああ、お兄ちゃんお兄ちゃんと後をついてきたあの可愛い明日奈はどこ?」
アスナ「なっ! ちょっ! おにっ……兄さん!?」
ナナシ「お義兄ちゃんって呼んで!? ほら! 言いかけたでしょ今!」
アスナ「嫌よっ! 今さら恥ずかしいでしょ!?」
ナナシ「ひどい! なんてひどい!」

 騒ぐ。
 驚いていたグリセルダはぽかんとするほかなく、しかしくすりと笑って緊張を解いた。

グリセルダ「……大切な妹さんなのね。現実世界で? それともこの世界で?」
ナナシ  「どちらでも大切な妹ですよ? こうしてじゃれ合いはするけど、
      喧嘩らしい喧嘩もしない、仲睦まじい兄妹です」
アスナ  「……少し前、ちょっと喧嘩したじゃない」
ナナシ  「おっほっほ〜っ、あんなもん喧嘩のひとつにも入らんわ。
      義妹の成長を見届けようと目を輝かせていたくらいだし」
アスナ  「うくっ!? 〜〜〜〜っ……! どうして兄さんはそう……!」
ナナシ  「まあ、世界が変わろうと現実よりも立派になろうと、義妹は義妹です。
      自分が知っていた相手の姿よりかけ離れても、大切なのは変わりない。
      しかし大切だからといって、所有物扱いしては人として最悪です。
      成長を喜び、たとえ置いていかれてしまっても、
      僕は喜び続けましょう。こやつは我が義妹で、かつては我の傍に居たと」
アスナ  「………」

 言うと、アスナがきゅむと服を掴み、軽く引っ張った。
 昔から一人でぐんぐん進もうとする名無子に対し、服を掴んで置いていかないでとばかりに唇を波線にして上目遣いをしていた。それを随分と久しぶりにやられた彼は、口を猫口にしておっほっほっほ〜とカズヤ笑い(木吉)をした。

グリセルダ「成長……置いていかれて……?」
ナナシ  「うす。たとえば友達が居て、
      現実世界では強気だった友達がこの世界では死に怯えて、
      逆に気弱だった友達がこの世界では強気になれてさ。
      そんな違いに焦った気弱な友達が、その友達に嫉妬心やらなにやらを抱く」
グリセルダ「嫉妬心を?」
ナナシ  「うす。人の嫉妬心や独占欲とかって怖いからね。
      お前はオレの知ってる友人Aじゃねぇ! とか叫びつつ、
      殺すなんてこともあるかもしれない。
      そういうギャップに驚くのは、誰にでもあるもんさね」
グリセルダ「………」

 グリセルダは少し戸惑いつつ、そっとメンバーの一人の男性を見つめた。
 彼はグリセルダを見ず、ナナシの言葉に顔を俯かせていた。
 思えば、この世界に降りてから、自分の夫である彼は塞ぎがちだった。
 街から出るだけで存在する死に怯え、酒に逃げることもあった。
 そんな彼をなんとか引っ張ろうと頑張った自分にも驚いたが、それでも彼のためにと頑張った。しかし───それは、彼が知っている自分ではなかったのかもしれない。
 知らぬ世界に降りて、知らぬ妻の姿を知って、不安が不安を呼び続ける中、彼はなにを思っているのか。それは……確かに、妻として現実世界で暮らしてきた自分にも解らない、彼の葛藤に違いなかった。

グリセルダ「───……ナナシさん」
ナナシ  「ホイ?」

 未だに服を引っ張るアスナを撫で回し、それでも離さないので抱き締めつつ頭を撫でていたナナシが、ニコリと笑いつつ振り向く。

グリセルダ「攻略は、どこまで進んでいるの?」
ナナシ  「95層。もうちょいで終わるよ」
グリセルダ「───! ……ひとつ、聞いていい?
      それは、あなただけでも終えられること?」
ナナシ  「おうっ! どーんと任せとけぃっ!
      って言い切るとなんか死亡フラグ立ちそうだし、
      やれることはやるよってあたりで勘弁を」
グリセルダ「…………そう。じゃあ───」

 ふっ……とやさしいため息を吐いたグリセルダは、自分のメンバーへと向き直って言った。笑顔のままに。

グリセルダ「ギルド・黄金林檎は、本日この時をもって解散とします」
メンバー 『っ───!? えっ……!?』
ナナシ  「ホエ?」

 当然の動揺がこの場に走り、しかしグリセルダは穏やかに笑ったままだ。
 その視線は自分の夫のみに向いており、その夫……グリムロックというアバター名の男性は、自分の妻の笑顔を見て呆然としている。

女性   「急になにをっ! この人になにか言われたんですか!?」
グリセルダ「そうじゃないわ。ただ……死ぬのが怖くなった、かな。
      ううん、今まででもずっと怖かったけど。
      ただ、その……随分と勝手な理由で申し訳ないんだけど」

 グリセルダは綺麗な笑みを少し崩し、申し訳なさそうな照れた顔で自分の頬をカリ……と掻くと、

グリセルダ「主人に……グリムロックに嫌われたくないから」

 そう、言った。
 ハッとするのはグリムロック。
 はぁっ!? とするのは他メンバー。
 どういうことですかとかグリムロックになにか言われたんですかとか、様々な言葉が飛び交う中で、彼女はグリムロックの傍に立って彼の腕を抱き締め、やはり照れながらも言う。今まではこの世界だけの夫婦という形だったが、現実世界でも夫婦であることを。
 そして、自分はそんな夫が塞ぎ込んでいるのが嫌で、怖いのを押し殺して頑張っていただけなのだということも。

グリムロック「……きみは……」
グリセルダ 「……もう、無茶をするのはここまで。
       頑張ってみたけど、やっぱり死ぬのは怖いの。
       どこかの層で家でも買って、のんびり暮らしましょう?
       ……現実世界の頃みたいに、のんびりと」
グリムロック「きみは……きみのままなのか? 私は……私だけが怯えているとばかり。
       きみはこの世界で立派に立ち、
       私の知らないきみのまま、どこかへ行ってしまうのかと……」
グリセルダ 「ふふっ……わたしだって、
       あなたが突然のことに臆病だったなんて知らなかったわ。
       いつも穏やかで、けれど凛々しい時には凛々しくて。
       喧嘩もしたことがなかったわたしたちだけど……
       これが初めての喧嘩だったのかもしれない」

 腕を抱く妻に目を向けるグリムロックは、確かめるように言葉を紡ぐ。
 グリセルダもそうしてゆっくりと言葉を交わして、自身にも相手にも安心を与えてゆく。そして急に二人の世界を展開されたメンバーとナナシとアスナは、実に置いてけぼり状態。

ナナシ「エ、エート。なんかすんません、僕の一言が原因でこげなことに……」
女性 「えっやっ、そそそんなことはっ! ていうかあの……ほんとに、ナナシさん?
    名前が消えないのはバグだとか言われて、勝手に死亡報告が出されてた……」
ナナシ「これでもちょくちょくはじまりの街には行ってたんだけどね……」
女性 「あの、わたしヨルコっていいますっ。忘れているかもしれませんが、
    ナナシさんには戦い方とか支援で随分とお世話にっ」
ナナシ「おおヨルコさん。よろしゅう。短剣で頑張ってた人だよね?」
ヨルコ「は、はいっ、覚えていてくれ───」
ナナシ「フレンジーボアにお尻をタックルされた」
ヨルコ「忘れてください!」
ナナシ「ええっ!?」

 言っていることが滅茶苦茶だったが、そんな言葉で突然の解散宣言にざわついていたメンバーも笑い、緊張を解いた。むしろ人前で甘い夫婦劇場を見せられては、口から砂糖を吐く勢いで苦笑するしかない。

ヨルコ  「うぅ……で、でも、解散っていうのは……これからどうすれば」
ナナシ  「戦う意思はまだあるの?」
男性   「そりゃああるさ。じゃなければ、こんなところに居ない。
      っと、俺はシュミット。このパーティで盾役をやっている」
ナナシ  「おおご丁寧に。
      最初の頃、“こんな小さな盾で身が守れるか! 大きな盾を作ってくれ!”
      ってエギルとリズに無茶な注文してた人だよね?」
シュミット「……忘れてくれ……」

 ニカッと笑った顔が赤く染まり、彼は重装備独特の厚い篭手で顔を覆った。
 そんな姿に同じく苦笑を漏らしながらも、肩をがしょんと叩くのは同じく盾役の男。

ナナシ 「おお、あなたは確か……カインズくんだったね。
     頑張れば盾だって武器になるんだって叫んでフレンジーボアを盾でボコって、
     そのまま盾を壊してフレンジーボアに黄金タックルを」
カインズ「忘れてくれ!」
アスナ 「……兄さん。なんでそんないやなことばっかり覚えてるのよ」
ナナシ 「恥ずかしい過去って印象に残るものじゃない」
アスナ 「だとしても、もっといい思い出を───」
ナナシ 「たとえば俺が入院してた時、明日奈がリンゴを剥こうとして」
アスナ 「忘れて!」
ナナシ 「ぎょ、御意」

 なんのことなく、ウサギのリンゴを作ろうとしたのだ。
 皮の部分を立てて耳にするアレではなく、リンゴ一個の形をジョリジョリ整えて、ウサギのリンゴに。もちろん失敗して、完成したものは名無子によって“モンスター・ザクロパス”と名づけられ、彼女は泣いた。

ナナシ  「あ、解散のことで不安があるなら、良いギルドがあるんだけど。
      そこなんてどう? まあ、皆様よりはレベルは下がるけど」
カインズ 「いいギルドって?」
ナナシ  「うす。月夜の黒猫団ってギルドなんだけど」
ヨルコ  「あ、知ってます。武具がやたらと整っていて熟練度も高いのに、
      命を大事にをモットーにじっくり攻略するギルドだって」
ナナシ  「そうそうそこ。じっくりのんびり行くなら、そこなんてどうかな。
      一度デストラップにかかって死ぬ思いをしてるから、
      絶対に無茶はしないメンバーが皆様を迎えてくれますぞ」
シュミット「ふむ……しかしな。こちらにも黄金林檎として突き進んできたプライドが」
ナナシ  「プライドで安心と命と楽しさは手に入らないよ。
      べつにソロで進むのも、
      誰かがギルドマスターになって突き進むのも止めたりゃせんです」

 ふむ、ともう一度考え込むシュミット。
 ヨルコとカインズはもう決めたらしく、「じゃあ」と皆に別れの言葉を届ける。

シュミット「い、いいのか? もっと考えてからのほうがいいんじゃあ───」
ヨルコ  「正直、わたしはグリセルダさんが居たから、
      ここに入っていようって決めてたようなものだから」
カインズ 「俺もだ。だから、グリセルダさんが抜けるなら、黄金林檎は解散だ。
      それに……そろそろ攻略が終わるなら、命を大事にで行きたいんだよ」
シュミット「だが、そうなると効率が……分け前も随分と分かれることに」
カインズ 「この世界の分け前なんて、現実に戻れば全部無くなる。
      残るのは人付き合いの結果だけなんだよ、ショミット。
      俺が持ってるレアでいいなら譲るけど、俺はきみに呆れる」
シュミット「…………なるほど、確かにそれは手厳しい。じゃあ、俺も行こう。
      お前だけじゃあ盾役は不安だからなぁ」
カインズ 「言うじゃないか。防いでばかりで、ランスの熟練度が低いくせに」
シュミット「い、今に上がる! いずれ攻略組にって思ってたくらいだぞ!」
ヨルコ  「ふふふっ……はいはい、喧嘩しない」

 笑いながら、ギルド・黄金林檎は解散となった。
 グリムロックは驚きの顔を次第に緩め、ひどく穏やかな顔に。
 グリセルダはそんな夫の表情に、自分も少し攻略というものに囚われすぎていたのかもしれないと息を吐き、穏やかな顔に。
 やがて二人で転移結晶を光らせて戻っていくのを、パーティーメンバー全員が祝福しながら見送った。
 結局、ヨルコ、カインズ、シュミット以外は別のギルドを探すと言って別れ、それから何処に所属したのかは解っていない。

……。

 それから少し後の三十層。

シュミット「ええい! スイッチのタイミングが遅い! もっと早く!」
ダッカー 「お前が早すぎるんだっての! 言葉と行動が全然バラバラじゃんかよぉ!」
シュミット「なんだとぉ!?」
ダッカー 「なんだよぉ!!」

 ギルド・月夜の黒猫団は、随分と賑やかになっていた。
 少ないと言って困っていた盾役が増えたことで攻略もスムーズになったのだが、その分いざこざは増えたようだ。
 しかし双方これでなかなか気が合うらしく、戦いが終わればニカッと笑って拳を合わせたりしている。

ダッカー 「ナイスガード! これでもうちょいランスが上手けりゃなー」
シュミット「むっ……お前はもっとトラップ解除を上達させろ」
ダッカー 「なんだとぅ!? これでも随分上達したんだぞ俺は!」
シュミット「どこがだ!
      下層のトラップですら解除できずに逆さ吊りになっていたのは誰だ!」
ダッカー 「俺だけど! 俺だけどやれば出来る子なんだよ俺はぁあ!!」

 主に言い合いをするのはシュミットとダッカー。
 普段はむすっとしているシュミットだが、ダッカーと絡むと何故だがやかましい。
 ともあれ、賑やかなのはいいものだと、糸目のテツオとマッシュルームヘアーのカインズは笑い合った。サチもヨルコとなかなか気が合ったらしく、女の子な会話をしつつ……まあ、ほぼサチが真っ赤になるような決着で、親睦を深めていた。

ナナシ「仲良きことは美しきかな。だね。
    じゃあまた今度、宴会でもする時になったら呼びますわ」
ヨルコ「あ、帰るんですか? キリト君って人によろしく言っておいてください。
    機会があったらサチと一緒に行きますから」
サチ 「ヨヨヨヨルコさん!?」
ナナシ「オーライ今度いろいろからかっておきまする。
    ただ愛だの恋だのでからかうのは、ちゃんとお互いがそうなってからね?
    じゃないと実る前に意地張って成立しないって例もあるから」
ヨルコ「あ、それは解ります。なるほど、じゃあからかうのは……たまににしよう」
サチ 「ヨルコさん!?《がーーーん!》」

 くすりと笑いながらの宣言に、サチがガーンと悲しんだ。
 コメディチックに描くなら、デフォルメされた容姿の丸い白目の端に涙を浮かべたような驚きだ。

ナナシ「さて。じゃあやることも段々無くなってきたし……
    レベリングやってからラストまでかっとばしてみますか」
アスナ「目標レベルは?」
ナナシ「最大まで。もちろんピナとユイもマックス」
アスナ「はあ……気が遠くなりそう……」
ナナシ「確実に行きたいじゃない。どーせ茅場のことだし、最後あたりは激ムズさ。
    だったらピンチにもならぬほど己を高めりゃヨロシ。
    カンストまでいったらまた限界突破クエストがないか探して、
    無かったらクリア目指してGOだ!」
アスナ「兄さんは……帰れると、思ってるんだ」
ナナシ「当然。帰れるって思うから帰れる。
    帰れないって決まりきってるならむしろこの世界を堪能し尽しますとも。
    そうしないってことは、帰れる可能性がゼロじゃないからですぞ?
    つまりキミは大手を振って帰れるのさ。OK?」
アスナ「……うん」
ナナシ「よっしゃ。じゃあ帰るか。今頃皆様が首を首長竜ほど長くして待っているぞ」
アスナ「怖いよ!」

 談笑しながら居住区へ。
 転移門から90層へ転移して、ささやかなる堪能の日々は終わった。




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