【はじまりはじまり】

 何度親を亡くせば気が済むんでしょうか。
 そう思ったのも何度でしょう。
 今回の俺は孤児でした。
 亡くしたっつーか捨てられた。
 ひどい親も居るもんだと言いたいところだが、相手も生きるためだ、仕方ない。
 自分が生きるためなら、新たな食い扶持など捨てるに限る。
 人間、本当の窮地に立たされりゃあ恩人を蹴落としてでも生きようとするだろう。
 そんな世界を何度も見てきたんだ、今さら自分を捨てた親を恨んだりなどしない。

冴子 「だから子分になれっていってるでしょー!?」
中井出「黙れ小童が! この博光! 誰の子分にもならぬ!
    誰がなんと言おうがこの博光はこの博光のためにのみ生きるのよッッ!!」

 捨てられた先は寺。
 極楽院なんていう、とっても変わった名前の寺だ。
 養育施設ってものがあって、自分以外にもケッコー子供が居た。それだけ捨てる親が居るんだなーって考えると、ちょっとヘコむ。
 まあそんな話とは別に、まだガキャアだというのにここら一帯をシメてるガキャアがおりました。その名も長谷冴子。“ながたに さえこ”ではなく、“はせ さえこ”だ。
 お子でありながらその身に眠る才は凄まじく、眼力で気の弱い相手を気絶させることも出来る上、喧嘩でも大人にだって負けぬという、なんというかこー……ス、スケバン? お子なのにそんなボス的存在になっていた。
 相手が年上だろうが一発でシメるなど、ここらではほぼ最強の存在であった。
 なのに優等生とくる。どうなってんだ地球は!

冴子 「あと子分になってないのはヒロとあんただけなの! いいでしょー!?」
中井出「断る! ていうか俺もヒロだから、ひろとヒロでややこしーっつーちょろー!?
    もういいから俺のことはハクかコウとでも呼びなさいまったくこのお子はー!
    俺をヒロって呼んでいいのは風間ファミリーだけだっつの!」
冴子 「なによそのなんたらファミリーっての! こっちの方がいい名前じゃないの!」
中井出「なんだと貴様! ならばその名、ここでしっかり唱えてみよ!」
冴子 「えっ!? え、え、えーと……しょ……」
中井出「しょ?」
冴子 「しょっ……“湘南最強だぜべいべー”よ! 長いから湘南べいべー!」
中井出「解りました僕もう行きます《がしぃ!》離せぇええーーーーーっ!!!」
冴子 「言ったんだから子分になれーーーーっ!!」
中井出「いやじゃぁああーーーーーーっ!!!」

 そんな青春。
 暇を見ては寺に突撃してくる女番長は、ここら一帯ではそりゃあもう有名だった。
 子供はみんな、ヤツを恐れたものさ。恐れたのは、ほぼイジメをするやつだけだが。
 イジメをするやつが嫌いで、子分にはやさしいのだ。言うことを聞けば守ってやる、みたいな……まあ、モモみたいなお子だった。
 けれども……まあ、時間ってやつはほうっておいても流れるものです。
 言った通り、とうとう寺の連中の中でも俺とヒロシ以外の全員がヤツの子分になった頃、今みたいな勧誘がしょっちゅうくるようになった。
 どうやら一番であるということにうっとりする人種らしい。
 なので一番偉い存在に憧れて最強に至った恐ろしいお子。
 人に褒められるのがめっちゃくちゃ好きらしく、初対面の人の前ではモノスゲー変わりようだ。猫かぶりが得意なのだ。仮面優等生ってやつ。
 ちなみに……歳はまあ離れてる。
 あ、ところでだが、べつにサエちゃん……冴子さんも養育施設暮らしってわけではなく、彼女には両親も居るし帰る家もある。
 ただ子分ほしさに暴れ回り、勧誘も続けているといったところ。
 極楽院での暮らしはそりゃあ平凡なもんだが……サエちゃんくるとやかましいものの、子分扱いのみんなは結構楽しそうだ。俺は子分にゃならねーがなーーーっ!!

冴子「……! 〜〜!? ……っ!!」
大 「? ……、……」

 その日も大(と書いてヒロシと読む)が、サエちゃんに捕まって勧誘されているのを発見する。大はなんというかいろいろなものに静かに反発するタイプのお子だった。
 子分になれと言われてもならないし、誰かが話しかけても群れを為さないというか。
 一匹狼とはまた違って、仲が良い子が居ないってわけでもない。
 その例が極楽院マキ……この寺のお孫さんで、それはもう大人し〜〜〜い娘っこじゃったぁ……。そんな大人しさが大とは噛み合ったのか、よく二人で遊んでらっしゃった。
 てゆゥか大でひろしってややこしいな……もうヘロスィーでいいんじゃないかな。こう、下段ガードが効かない的な意味も込めて。

中井出「ふむり」

 と、そんな賑やか劇場を前にして、前の世界のことを思い出しました。
 例の如く皆様に忘れられたわけだが、忘れられる前に言われた言葉があったのだ。
 一度、誰かに恋をしたという記憶を飛ばしてみたらどうか、と。
 ただ一人を愛し続けるのはそりゃあ美しいことかもだが、そのままじゃ最果てを目指して半永久的に旅をするのは辛すぎるだろう、と。……まあ、言ってきたのはチッフィーとタンバリンだったわけだけどさ。
 や、結構ズキンときました。
 人と人との繋がり合いが心を癒すものだってのは、もう痛いくらいに知っているのだ。
 風間ファミリーに惚れ、ラウラに人を思う心を思い出させてくれた時のように。
 だから……一度だけ。この世界でだけでもいいから、麻衣香やドリアードに“恋をしていた”とか“結婚していた”って記憶を封印してしまうのも……いいんじゃないかなって思った。
 ようするに疲れてたんだろうね、僕。
 いろいろと深く考えすぎることに。長々と変わる世界を旅し続けることに。

中井出「デスティニーブレイカー」

 幼いいつか、振り上げた鎌は運命破壊の鎌。
 溜まっていたマナを少量利用して、あっしは───この世界でだけ、麻衣香とドリアードに恋をしていたことを……忘れた。

……。

 それからの日々は、なんというか……結構輝いておりました。

中井出「レディーーー……ファイッ!」
マキ 「うー……ん……!」
中井出「《メキメキメキメキ》アモギェーーーーーッ!!
    強ぇえーーーーーっ!! このお子強ぇええーーーーーーっ!!!」

 ヘロスィーと仲の良い、僕やヘロスィーとは一歳上のお子、極楽院マキさんとの腕相撲。まだまだ小さきお子だというのに、その腕力は単純に周囲のお子めらとは一線を画しておったぁ……!
 そして僕も人器とかヒロラインパワーを使わなければてんで勝てない有様で、なんとなーく嫌な予感を抱きつつ成長していったんさ。
 したっけね、よもやとは思ってたんだけどね…………この世界、川神市がありやがりました。しかもマキさんの祖母さんが川爺と接点を持ったお方でございまして。
 勢いで川神市に乗り込んで、まだ中二病中の大和や元気いっぱいのキャップを見て、号泣してしまったのは……もはや思い出です。京はこの頃、まだ椎名菌だとか言われていじめられていて、でも……それは中二卒業と同時に大和が救った。京は俺じゃなくて大和に依存するようになって、でも……大和はユキを救わなかった。
 差し出したマシュマロをつっぱね、ファミリーには迎え入れなかった。
 準や冬馬も病院のことで捻じ曲がってゆき、風間ファミリーとはろくに接点もないままに成長し……大人になった頃、呆れるくらいに大きな問題を起こすことになる。
 それでも俺はなんもしませんでした。したかったけど、我慢しました。
 この世界は俺が知ってる世界ではございません。
 なるべくしてなったことも、たくさんあるのでしょう。
 だから……もし何かをするのだとしても、それは自分が生きることになる環境の、軽い周囲と呼べる場所でやろうと思っております。

中井出「だからね? 真の恐怖を知ることは、
    軽い恐怖へ立ち向かうことへの良き勇気とナルノデス」
マキ 「ゆーき? ……怖いものなんて、おばあちゃんくらい」
中井出「いやいや、真の恐怖とはそんなものではございません。もっと怖いのです」
マキ 「……わからないよ」
中井出「解ればきっと、ばっちゃのこともそう怖くもなくなるよ。
    ばっちゃ、家族のために仕事してるんだから、あんまり嫌わないであげて」
マキ 「……こーくんはおばあちゃんの味方なんだ」
中井出「家族は大事にするべきだと言ってイルノデス。まあ無理にとは言いませぬ。
    それに俺は誰の味方〜っていうのはしてないの。
    家族の味方であり面白いことの味方。
    家族って意味では極楽院の家族だし、まーちんの義理の弟だしね」
マキ 「ふあ……そっか。こーくんはおとーと……」
中井出「そしてそんな義理の弟が! 今ここで!
    真の恐怖というものを見せつけようとしているのですが、どうでしょう。
    知っておけば結構怖いもの知らずになれるやもですが」
マキ 「…………」

 こくりと頷いたお空の下。
 僕は早速大きなバックステップとともにフルブラストを解放。
 まるでラージャンが激昂した時のように“ジョガァァッキィン♪”と綺麗な音が鳴って、僕の髪が銀色に、目が深紅に変わる。
 体の周りに金色のスパークが走って、威圧感もとってもステキ!
 せっかくなので着地と同時にラージャンのように咆哮してみたら───まーちんに盛大に泣かれた。ウギャアごめんなさいそりゃそうだよね子供だものね! でもこういうものを先に知ってれば、いつか役に立つと思ったんだよぅ! なんか僕のところに妙なおっさんが来て俺を引き取るとかぬかしやがったから!
 じっちゃとばっちゃしか居ないなら、いつか一人になった時のためにって思ったのに、これじゃあ逆にトラウマになりかねなかったごめんなさい!

中井出「おぉーーーおおおごめんなさいごめんなさい! 泣かないでお願い!
    ほ、ほらもう解除したから! ね!?」
マキ 「あぅうう……」

 必死にあやしました。
 あやす? ちょっと違う気もするけどともかく落ち着かせました。
 まーちんが泣き終えてからはなんというか微妙な空気になってしまい……まあ、いい機会だからと、おっさんに引き取られることを伝える。
 寂しそうな顔をされたのがモノスゲー心苦しい。
 なので義理とはいえ弟として出来ることをいろいろとしていると、その場にヒロが。
 なにをしにきたのかと思えば、なんとヒロもどこぞに引き取られることになったのだとか。……いや、なんでこういう時にそういうこと言うのヘロスィー。

マキ 「出て行っちゃうの?」
大  「うん。長谷さんのおうちが引き取ってくれるって」
マキ 「ふーん…………じゃあもう会えなくなっちゃうね」
大  「そんなことないよ」
マキ 「だって遠くへ行っちゃうんでしょ?
    仲のいい子がいなくなったら私、一人になっちゃう。
    お父さんもお母さんもいないし」
大  「コウが居るじゃない」
中井出「いや……キミねぇ。よりにもよって、
    俺が出て行くって話をしてから30分もしないうちにそういうこと言う?」
大  「え……コウ出て行くの!?」
中井出「んむ。元気ありあまってて頑丈だからって、
    ブタみたいなフェイスしたおっさんが引き取るってさ。
    多分、当日からサンドバッグだ。……生きてたら、またどっかで会おう」
大  「さんどばっぐ?」
中井出「…………《カリ……》」

 頭を軽く掻いて、笑う。笑ったりました。ストレス発散のために頑丈なガキを連れていくって魂胆をするやつは、まあ稀に居る。それは拾った猫や犬がそうであったりするパターンが大体だが、まさか自分がなるとはなーなんて思っていた。
 いつか子供の頃のワン子を引き取ろうとした明らかにおかしいおっさんにも、それに似た下種い感覚を覚えたもんだが……俺を引き取ると言ったおっさんは相当だ。
 まあ殴られたら殴り返す満々ですがね。

中井出「サンドバッグってのはね、
    むしゃくしゃしている気分を吹き飛ばすステキなもののことを言うんだ」
大  「あ、それ解る。コウといると楽しいことばっかりで、怒ってるひまがないもん」
マキ 「うん」
中井出「でしょ? だからね……俺は、サンドバッグになるみたい」

 真実は告げません。
 この世界でも道化になるしかないのかもしれんのなら、それは早い内からのほうが楽しい。そのためなら平気で嘘もつくし、楽しいことを優先する態度も改める気なぞないわ!

大  「でも……そっか。じゃあマキちゃん、
    じいちゃんやばあちゃんだけになっちゃうのか」
マキ 「……うん」
中井出「じゃああれだ。いつかまーちんもヘロスィーを追っていけばいい」
マキ 「え?」
中井出「将来の約束だよ。まーちんがヘロスィーのこと好きなら、
    いつかばっちゃとじっちゃの許しが出た時に、ヘロスィーと家族に」
マキ 「家族に……」
大  「あ、それいいね。そうすればずっと一緒だよ」
マキ 「ん、んと……一緒? 家族? ……いいの?」
大  「もちろんっ」
マキ 「……うん。約束、ね」

 そう言って、まーちんは指切りをしようと小指を差し出しました。
 しかしヘロスィーは首を横に振ってから、まーちんの両手を自分の両手できゅむと繋ぐと、

マキ 「? なに?」
大  「家族になるセンセイをするんだ。えっと」
中井出「センセイ? ああ、宣誓ね」

 しかし家族になる宣誓とな?
 …………アレ? そういやヘロスィー、サエちゃんにもヨイちゃんにも同じことを……

中井出「お、おうあのな」
大  「私、長谷大は、あなたを姉とし……って、違うや。
    姉ちゃん以外とは姉弟になっちゃダメなんだっけ」
中井出「お前人の(モノ)を! ……つかやっぱりあの時のアレ!?
    いやいやいかんよヘロスィー!
    サエちゃんが言ってたのはそういう意味じゃなくてね!?
    ヨイちゃんにやって問題になったのは宣誓じゃなくてそのあとの───!」
大  「ねぇコウ。姉以外で家族って何がある?」
中井出「ホワッ!? ……そりゃおめぇ、アレだ。お嫁さんっきゃねーベヨ。
    ……じゃなくてあのね聞きなさい!
    なんでキミってなにかに夢中になると人の話聞かないの!?」
大  「そっか。じゃあそれで。私、長谷大は……マキちゃんをお嫁さんとし、
    良い時も悪い時も、富めるときも貧しいときも、
    病めるときもまた健やかなる時も、マキちゃんを愛すると誓います」
マキ 「ふぇ? わ、はうっ」

 ズキュウウウウウウウウン!!!

中井出「や、やった!」

 じゃなくてやっちまいやがった!
 これでサエちゃんとヨイちゃんとまーちん、三人目だよ!
 こ、怖い! こいつ絶対天然ズィギョリョゥの才があるよ! ジゴロだよ!
 ところでジゴロの意味ってなんだっけ!
 ああもう僕まで大混乱! なのにまーちんまんざらでもなさそう!
 そりゃそっか! キスの重大性とかまだそこまで意識してなさそうな年頃だもの!

マキ「……なんでちゅーするの……?」
大 「家族はこうするらしいよ。冴ねーちゃんが言ってた」
マキ「ふーん……」

 ……エート。
 なんか僕……邪魔じゃない?
 ス、スピードワゴンはクールに去るぜ!
 でも無自覚とはいえチッスまでしたんなら、やっぱ責任はとらんといかん。
 ……ハテ? チスでなんで“俺が言えた義理ですか”って言葉が浮かぶんでしょう。
 ア、アレー……? おかしいなー……。
 ま、まあいいよね! それよりヘロスィー!
 チッスの決定的瞬間は僕のメモリーに録画されておりますゆえ、これを創造すれば、ハイ決定的瞬間の現像完了!
 あとはこれを、彼が忘れそうな頃にポストに投函すればグオッフォフォ……!!

中井出「ほいじゃ。達者でな」

 そんな悪巧みを最後に、養育院を出た。
 あれからまーちんがどんな人生を送ったのかは……正直に言うと解らん。
 何故って、こっちはこっちで大変だったから。

おっさん「ちくしょうあのドグサレがァーーーッ!!
     いつもいつも偉そうにしやがって!
     誰のお陰で会社が保ってると思ってやがンだァーーーッ!!」
中井出 「《ホリュリュリュピキィーーン♪》ドラゴンスクリュー!!」
おっさん「《ゴキメキィ!》ギャアーーーーッ!!」

 引き取った先で待っていたのはやっぱりサンドバッグ人生。
 しかしこの博光、ただ殴られるだけの人生などまっぴらごめん!
 蹴りがくればドラゴンスクリューを閃き、

おっさん「なァにしやがるこのクソガキがァーーーッ!!」
中井出 「《ホリュリュリュピキィーーン♪》パリィ!!」
おっさん「《ドゥウン!!》ぬわぁっ!?」
中井出 「ダイヤモンドナックルアタァーーーック!!」
おっさん「《ほごぉおん!》覇王!!」
中井出 「───……徹った」

 拳がくればパリィを閃き、相手を大きく仰け反らせたあとは黄金に音速拳キメて黙らせました。病院送りになったけど、まあ自業自得でしょう。
 まあそんなこんなで、問題児と認識されてからは仲間を呼ばれてフルボコルボバルボですよ。縛られてボッコボコ。成長するに従って、元の筋肉に急速に近づくのは毎度のことなので慣れっこですが、そこに行くまでは子供の筋力なんですよね。
 だからボッコボコ。
 VIT上げて耐えたけど、殴られ続けるってことはやっぱりストレスとか溜まるわけでして。いかんなぁこれは……いかんいかん。
 なのでせっかくだから、中学ははっちゃけました。
 中二病全開でキザりまくり、喧嘩だってしましたさ。
 ついたあだ名が“獄殴狼のハク”。
 まるで不良扱いですよ。
 掃除洗濯炊事やら、なんでもござれな良い子ちゃんで通ってたのにね。
 お陰で友達ゼロでした。失礼しちゃいますわい、中二と不良は違うというのに。

中井出「はーふぁぁ……」

 とまあそんな生活を続け、俺を引き取ったおっさんがなにかヤバいことやらかしてポリスに捕まってからは縁を切りました。
 貰い手がなかった俺は中学卒業を機に別の場所へ移り住むことにして……ここ、湘南へとやってきたのでした。





  辻堂さんの純愛ロード




【6月3日】

 湘南に来てから一年が経ちました。
 一言で言うと……湘南はやかましい。
 なんで俺、こんなところに来たんだろ……と呟いてしまうくらい、不良がたっぷり。
 あ、不良と書いて“よからず”と読みます。フリョウじゃないので気をつけよう。

中井出「ま、まあわざわざ遠い高校を狙ってやってきたんだし、
    中学時代の知り合いが居ないなら……ねぇ?」

 獄殴狼……ゴクオウロウと読みますが、とにもかくにも拳しか使わず、素早いところとか一人で居るところとかからそんな名前がつけられました。一匹狼とかそういう意味での狼ね? 大体がワンパンで相手を沈めるもんだから獄殴。そこに一匹狼で獄殴狼。こんなんなら“一撃のハク”とかのほうが良かったよ、もう。
 違うのに……僕友達欲しかったのに、みんなが距離を取って、ただボッチなだけだったのに……。

中井出「だが違う、今日からは違うぞ! なんか手続きで手違いがあったり、
    クソ養父が捕まった所為でどーのこーのあって一年入れてもらえなかったが、
    今日から稲村学園二年生! 転校生扱いだけど、友達たくさん作るのさ!」

 時は6月。
 なんかもういろいろとおかしな時期での転校生扱いだが、父親との縁が正式に切れたのが最近なので仕方ない。そこまでしてようやく学園が受け入れてくれたんだから、もうそれでいいよ。
 つーても転入明日からで、今はこうしてブタメン片手に夜の道をテフテフと歩いておるのですがね。やあ、実は結構良い空き地を発見して、川神時代の時のように購入したのですがね? 困ったことにコンビニとかから遠いんですよそこ。
 でも急に食べたくなるものってあるじゃあないですか。
 だからこうしてコンビニで買ったブタメンにお湯を注いで、少々急ぎ足で帰っているところで───

族A 「ひぃい〜〜〜やっほぉおお〜〜〜っ!!」
族B 「来たぜ湘南ンンーーーーーッ!!」
族C 「轢かれてぇのかァ! 道空けろォ!!」
中井出「ひょっ!?《ガッ》あっ……アーーーッ!!」

 道の端を歩いていたというのに、わざわざ寄ってきて馬鹿笑いしながらカッ飛ばしてゆくバイクメン。いわゆる暴走族的なアレだ。
 いや、そんなことはどうでもいい。
 急に来たもんだから思わず距離を取ろうとしてさらに端に寄ってしまい、その拍子に標識に腕がぶつかった。さらにその拍子に持っていたブタメンを落としてしまい……ゴチャッ、と……無残な音とともに、ブタメンが地面にぶちまかれた。

中井出「………」

 相手はバイク。
 もちろん爆音は聞こえるものの、とっくに姿は遥か遠く。
 しかし僕は静かに両手を胸の前で合わせるとブタメンとその材料と、作ってくれた人やお湯を提供してくれた店のお方に感謝と謝罪を述べたのち、地面を蹴った。

  ───ここは湘南。

 かつても今もヤンキーが聖地として崇める約束の地。
 ここで頂点に立った者こそ不良中の不良とされ、ヤンキーの神として一目置かれる存在となる。
 現在のトップは“湘南BABY”とされており、なんかどっかで聞いた名前だとか思っても決して気にしてはいけない気がしたので気にしないが、ともかくこの湘南は弱肉強食。
 その地にあって、現在は湘南BABYの総災天のおリョウがトップであり、その頂を狙う者、狙わずとも強き者三人を三大天と呼び、そんな場所で名をあげようとする猛者たちが集うのがこの湘南。

族A 「湘南をぶっ潰せぇえーーーーっ!!」
族ども『オォオオーーーーーッ!!』

 その日、この湘南に訪れたのは9人の不良どもだった。
 走り屋の聖地にやってきて、ハイになっていたのだろう。
 周囲への迷惑なんぞ知ったことかと暴走したのち、

??「はいストップ!!」
族B「だわっ!?」

 道路の真ん中で、一人の少女に叫ばれ、停止。
 普通ならばそのまま無視して通り過ぎたのだろうが、止まらなければならない理由があった。

??「ふぅん? 粋のいいのが居るって聞いてみれば……ひのふの……9人か」
族A「あ、あんだぁ!? このガキィ!」
族C「お、おいっ!」

 啖呵を飛ばそうとしたAを、Cが押さえる。
 止まらなければいけなかった理由は、少女の後方にあった。
 壁。
 壁は壁でも無機質なものではなく、それらは光を放ち、上には人が乗っている。
 呆れるほどの数のバイクのライト。
 10や20では済まないその数は、ゆうに───

??「湘南の夏が平穏に過ぎたことはない。
   アンタらみたいな資材を得るには最高の季節ってとこね」

 言いながら一歩前に出るは、後方の壁とも呼べる不良を滑る者。
 名を───片瀬恋奈。

??「歓迎するわ。ようこそ、私の湘南へ」

 湘南三大天を担う中の一人であり、現在98の不良を従えるチーム“江乃死魔”の頭である。

族A「なんだ……この数」
族B「10や20じゃない……なにこれ……!」

 息を飲む9人。
 その怯えに付け入るようにニタリと笑う少女は、さらに一歩を踏み出して言う。

恋奈「今日は運がいい。今、江乃死魔は98人。これでついに3桁に乗る」
族B「え、江乃死魔?」
族A「てめぇらいったい……」
恋奈「《ぴくり》……私を知らないの? 見ない顔だと思ったら、時代遅れの田舎者か」
族A「あぁん!? ンだとガキが《ポム》……あぁ!?
   誰だコ《バゴルシャア!》ぷぎゅるあぁああっ!!?」

 さて、実況終了。
 叫ぼうとした族Aさんの肩にポムと手を置いて、振り向いたところにカウンターキメさせてもらいました。

中井出「食い物を粗末にするヤツはァァ……貴様らかぁあああああああっ!!!!」
族B 「きゃあああっ!? なな、なによこいつ!」
中井出「許さぬ! あれは……あれは最後のブタメンだったんだ!
    俺に買われるのを今か今かと待っていてくれたんだぞ! それを……それを!」
族C 「お、おい……なんだよあれ! 一発で10メートルは飛んだぞ!?」

 最初に殴ったヤツが空を舞い、道路の先の海にぼっちゃんしました。
 だがそれがどうしました。

中井出「カップメンを侮辱するヤツ……許せん!!
    生きるためならば畜生とて食を大事にする!
    そんな畜生にも劣る下劣な行為……見過ごすほどの腑抜けではないわァ!!
    ネズミのように逃げおおせるかァ! この場で死ぬかァ!!
    どちらか選べェエエエエエイィ!!!」

 叫ぶ!
 もはやこの博光、辛抱たまらん!
 ちょいと小腹が空いた時……人々がすやすや眠る午前零時に食べるちょびっとだけど結構美味しい、至福のブタメンタイムを! よくもっ! おどれがっ!!
 い、いやしかし落ち着けッ! ここで暴れてしまっては、江乃死魔のお方に目をつけられるッツ! 僕はもう不良も中二病も卒業したのさ! だからここで暴れるわけにはいかぬ!
 紳士だ、紳士たれ……一人を殴ってブタメンの仇は多分とれただろ!?

族D 「な、なに言ってやがンだァ!? あァン!?」
中井出「今日の俺は紳士的《ガシッ》ぶるぁああああああっ!!!」

 なのに紳士的態度を取った途端に触られたもんだから、僕の中のデストロイヤーが暴れ出しました。相手の頭を掴んで地面にドッカーン。その後、アスファルトをも抉り砕く拳で地面ごと跳躍アッパーカット。
 族Dは星になった。

恋奈「なっ……なにこいつ! こんなやつが皆殺しや喧嘩狼の他に───!?」

 ア。
 やべぇえええええっ!! 顔見られたァァァァァァ!!
 なんかちっこい赤っぽい髪のボッサリツインテールのお子が僕を見ているッッ!!
 こりゃあとっとと逃げたほうが安心安全!
 僕は……僕は平和に楽しく生きるンだッッ!

中井出「というわけでとんずら《どむっ》……オヤ?」
?? 「………」

 走り去ろうとした先におなご。
 青髪ショートな綺麗なお子が、不機嫌そうな顔で立っておったぁ……!
 わ、ワカルッ! こいつはヤバイ! 川神とかの女子めらと同じ香りがする! 絶対に強者だこの人! なので逃走!

?? 「私の至福のひとときを邪魔したヤツは誰だ」
中井出「え? いや、あのあの……あ、あいつだよ!? 僕見てたもん!」

 美ッ! と指差した先に、先ほど僕のブタメンを落としたヤツの仲間。
 指差した途端に「アァン!?」とか叫んできたけど、僕は構わず逃走することに《ガシィ!》離してぇえーーーーーーっ!!

?? 「待てよ。お前、仲間じゃないのか?」
中井出「冗談じゃない! 俺だってやつらに至福のブタメンタイムを邪魔されたんだぞ!
    だから二人ほど血祭りにあげたけど、
    不良らに目ェつけられるのも面倒だからずらかるところなの!」
?? 「なんだ。お前も食べ物台無しにされたのか」
中井出「エ? キミも?」
?? 「………」
中井出「………」

 ギロリ。

族ども『ヒィッ!?』

 ホーホーホウ……! 食ってものを邪魔する野郎はでぇっきれぇだが、よもやこの短時間で二人の食事を邪魔しよるとは。
 こりゃあもうツラがどうとか言ってる場合じゃあねぇよなァアア〜〜〜〜ッ!

中井出「さてうぬら」
?? 「次に私が腹減ったって思う前に、肉まんを買ってこい」
中井出「じゃなきゃ皆コロがしだ。あ、僕はブタメンね?」

 睨みつつ一歩。
 族どもは後退るが……ああそれにしても腹減った。

中井出&??『時間切れだ』
族ども   『ひっ……ヒギャアアアアアアアア!!!!!』

 もはやストレイツォどころではないほどに容赦せんかった。
 我先にと逃げ出した男にウエスタンで大回転させて、振り向きザマにシュート。
 それを青髪のお子が、強引に引っ掴んだ別の男をバットにホームラン。
 さらに逃げ出したおなご目掛けてバットな男を投擲。もろとも吹き飛んだところで俺がブロリーシュート。二人が胃液をぶちまけながらピッコロさんのように飛んでいった。

恋奈「っ……勧誘は中止! 全員下がるわよ!」

 暴れまくるのは黒と青。
 目はまるで怒り狂ったナルガクルガのように赤の眼光の軌跡を描き、それは暗い景色にはひどく不気味に映った。
 赤の線が走った先では人が飛び、悲鳴が弾ける。

族I 「て、てめぇら解ってんのかッ!? 俺らの後ろにゃ柏さんがっ!
    30人を相手に一人で勝った、千葉最強の柏さんが!」
中井出「ツっぱるんなら己を立ててかかってこい!! くぉおおの軟弱者がァァア!!」
族I 「《グワバボッギャォオン!!》アギッ───……」

 完成された音速拳で殴り、振り抜くと、族Iさんはそれこそ星となりました。
 悲鳴も中途半端に見えなくなったから、なんかもうどうでもいい。

中井出「……はッ!? しまったカッとなってまたやってしまった!
    殴ったところでブタメンは戻らんというのに……!」

 スっとしたけど大後悔時代。
 少しどんよりしながらちらりと見れば、あちらももう終わったのか、苛立ちを含んだままに舌打ちをする青髪のお子。
 ……ふむ。

中井出「……おーいそこのキミ!」
?? 「アア? ンだよ、てめぇも殺されてぇのか?」
中井出「死にたくはないからどうでもいいけど、気晴らしにメシでも食いに行かんかね?
    肉まんで済ませるも良し、どっかで食い放題やるも良し。奢るぜよ?」
?? 「すぐ行こうっ!」

 モノスゲー笑顔でした。
 ええ、なんつーかこう……興味の対象がめんこいおなごや強者じゃなく、メシに向いているモモみたいな感じ。
 なので、モモといえば肉。
 焼肉食い放題の店へと向かいました。
 チェーン店で、味はまあ一般的。でも食べ放題は遠慮がいらんからステキだ。

?? 「いたーきまーす! がつがつはぐはぐもぐもぐウマー!!」
中井出「食うの早いよ!? 完全に焼けるまで待ちなさいもう!」
?? 「うるっせぇなぁ。だったらどんどん焼けよ」
中井出「え? 俺が!? ……うう、奢りなのに……」

 まあいいけどね! こういう、メシでの支援行動は大得意さ!
 なので注文しまくって、来た先からじゃんじゃん焼く!

中井出「ほいほいほいほいほいほい!! あ、店員さんライス追加! 大急ぎでね!」
?? 「はむはむむぐんぐがつがつウマー!!」
中井出「早よい!?」

 焼いた先からすげぇ速度で無くなってゆく! まるで次を次をと望むあまり、大して味わいもせずに丸呑みする犬のようだ!
 フッ……いいだろう、女。
 貴様がその気ならば俺も……誠意を以って応えねばならんなっ!!

中井出「そりゃそりゃそりゃそりゃそりゃそりゃァアアーーーッ!!
    はい肉どんぶりの完成! ここで網交換!
    どんぶりが食われているうちに網を熱し、すぐさま焼く!」
?? 「まだ焼けないのかよ」
中井出「早よい!? 早よすぎるぞおなごさん!!」

 この人いろいろとヤバイ!
 み、見なさい! 店員さんがなんか睨んでるじゃあないですか!
 一人で何人前食うつもりなんですかこの人! まあ食べ放題の料金は既に払ってあるんだから関係ないがね!
 さああどんどん焼くぜぇえ〜〜〜〜〜〜っ!!!

……。

 追い出されました。
 さすがに食いすぎたらしい。

?? 「ぷあぁはぁ〜〜っ♪ 食べた〜〜っ♪」
中井出「出入り禁止くらったの初めてじゃないか……? トホホイ……」

 善良一般市民として通ってきていたのに、まさか出入り禁止をくらう日がこようとは。
 けどまあこのおなごめが満足そうなので、べつにいいか。

中井出「ほいじゃあね。お互い災難だったね」
?? 「おー」

 腹が膨れればとりあえずはよかったらしい。
 青髪のお子と別れ、僕は自分の家を目指してのんびりと………………

中井出「あれ? 俺、全然食べてなくない?」

 …………あれぇ!? しまった! 焼くのに夢中になってて食うの忘れてた!
 結局制限時間いっぱいまで焼いてた所為で気づかなかった!
 ……トホホ……いったい俺ゃあなにしに店に入ったんだ……。
 自分の分の金まで払っておいて、アホですかまったく……。




Next
Menu