【6月4日】

 翌日、早朝。

中井出「ヨイヤッサァ! ヨイヤッサァ! ヨイヤッサァ! ヨイヤッサァ!
    ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪
    海ぃんのォおぉ〜〜〜とこっにゃあよぉ〜〜ォオオォ〜〜〜ッ♪
    沖っのォカァ〜〜モメッもォ〜寄りつっかァぬ〜〜〜っ♪」

 海沿いの道路を突っ切った先、文字通り海沿いの漁協で働くのは僕でございます。
 いや、金はいくらでもあっても損はしないから、バイトやってるんすよ。
 稼ごうと思えば川神の時みたいに大量に稼げるけど、今回は土地と家を手に入れた時点でやめました。あんまりやりすぎるといろいろと目ぇつけられるからね。
 なので漁協。
 シラスで有名なここらは漁猟も盛んでございまして、その手伝いなどを少々。
 海って……いいね!

おっさん「ガッハッハッハッハ! 相変わらずハクは力強ぇえなぁ!」
中井出 「ガッハッハッハッハ! これしか取り柄がないですからねぇ!」
おっさん「ガッハッハッハッハ! 笑い方真似するんじゃねぇよぉ!!」
中井出 「ガッハッハッハッハ! まあまあいいじゃないですか!」

 ここの漁協は基本、おっさんおばさんばかり。
 しかし綺麗なオネーサマも居たりして、この人がまた強いのなんの。
 片手で底引き網とか海から引きずり出せるほどです。あ、もちろん魚込みで。
 辻堂真琴さん。
 綺麗な外見からはとても信じられん腕力と、時折見せる眼光で全てを黙らせることが出来る恐ろしいお方だ。
 なんで漁協に? と訊いてみたことがあるんだが、なんでも旦那さんが生シラス丼が大好きらしい。だからここで働く代わりに新鮮なシラスを分けてもらってるんだとか。

中井出「辻堂さんの旦那さんは幸せ者ですね」
真琴 「あら。違うわよ」
中井出「エ?」
真琴 「誠さんだけじゃなく、私も幸せなんだから……!《ぽわわぁ〜〜〜ん……♪》」
中井出「ワア」

 そう。
 大変ややこしいことに、夫婦揃って名前が“まこと”なのだ。
 誠に真琴。ややこしい。娘が居るそうだけど、そっちまでまことだったらどうしたものかとか考えてる。
 まあともかく、昨今の世の中にしちゃあ随分と幸せ夫婦らしい。
 そんな存在を見れただけで、どうしてこんなにも嬉しいのか。
 よくは解らないけど、俺も……いつか誰かと、そんな夫婦関係になりたい。
 だからってわけでも……まあ、あるんだろうけど、真琴さんとその旦那さんは俺の尊敬するお方リストに載っている。コロがすリストには食事を無駄にするやつら。当然ですね。

真琴 「けど、ハクくんも結構腕っ節がいいほうね。
    油断しっぱなしなくせに隙がないっていうか。昔なにかやっていたりした?」
中井出「中学時代にちょっとイタいことをやってました。えーと、中二病とか」
真琴 「え? ……あっははははは! そっかそっか、カッコマンくんだったわけね!」
中井出「いえまあ、無駄にカッコイイに違いないとか思ったことは、
    とにかくやりまくったカッコマンだったわけですが」
真琴 「ちゃんと黒歴史に出来てる?」
中井出「とんでもない。歩いた道は潰しません。あれは間違い無く俺ですもの。
    いつかは……そうですねぇ。
    こんな自分ごと愛してくれる誰かと一緒になれたらなぁとか思ってます。
    んでもって……愛してくれるなら、その愛ごと受け止められる自分になりたい。
    この想いよ届けー! ってくらい、ぶつけていきたいって思ってます」
真琴 「……そ。その気持ちは大事よ。私も誠くんと出会った時は……《ポポポ……》」
中井出「ワア」

 この人、ほんとに旦那さんとラヴんラヴんなもんで、誰にでもノロケます。
 一度始まると長ェーんですよ。
 なので華麗にスルーしつつイーグルアイで船の上から魚影確認。
 魚の影からアモルファスを出現させて、海面目指してタックル。
 思い切り浮き上がったところにこれまた影の針を突き刺し、本物の針があるところまで引っ張るとそのまま針に引っ掛けて一本釣りィイイ!!

中井出「大爆釣ウォーーーン!! …………ウォオオオーーーーーーッ!!?」

 どっぱぁーーーんと水面から飛び出たソレは……意外ッ! それはマグロッッ!!
 マグ……マグロォオオオッ!!?
 え!? や、そりゃあ湘南にはカツオとかマグロとか居るけどさ!
 この季節に捕れるもんなの!? 川神でも川でウナギ捕ったりしたけど、イマイチ季節ごとの漁猟のアレコレが解らんよ僕!

おっさん「あぁん? どしたいハクよぉ……オォオオーーーーーッ!!?」
おばさん「ちょちょちょいとぉ! マグロじゃないかいこれ!」
中井出 「ア、アワワーーーッ!! まさかこげな大物が釣れるとは!
     どどどどうしよう辻堂さん! どうしよう!
     あ、旦那さんのお土産にどうですか!? さすがに一人じゃ食い切れない!」
おっさん「食う気かおめぇ! 売れば結構な金になんぞぉ!?」
中井出 「若い身空で大金なんぞ持っててどうします! それより食を楽しみましょう!
     というわけでマグロ解体の技術も持つこの博光! 只今より解体を始めます!
     今食べる分と、あとは辻堂さん、旦那さんにどうぞ」
真琴  「え……そりゃあありがたいけど、いいの?」
中井出 「愛し合う夫婦って俺の憧れなんです。
     いつまでも互いに愛せる夫婦であってください。なので、是非に」
真琴  「……わかった。ありがたくもらっておくわね」

 ニカッと笑ってくれる辻堂さん。
 ありがたや。ここで無意味に遠慮されても……処分に困るところだった。
 まあいざとなったら昨日の青髪おなごにマグロ丼でもって考えてたけどね。

中井出「あ、ところで僕これからガッコ行くんで、捌くだけ捌いたらもう行きますね」
真琴 「稲村って言ったっけ。私あそこのOBだから、困ったことがあったら言ってね。
    ……ナメた真似する馬鹿が居たら、ソッコー片付けてあげるから《ギンッ》」
中井出「目付きがヤバイです落ち着いてください」

 多分この人、若いコロはヤンキーだったでしょうね。
 でも今は旦那のために尽くすおなご……いやぁ素晴らしい。
 俺もそんな恋がしてみたいや。
 ……と、そんなやりとりをしつつも解体終了!
 刺身をたっぷり使ったマグロ丼とかそのまま刺身とか、火で炙ったものとかマグロステーキとか、船の上でそりゃあもう豪勢なメシの時間が始まりました。

おっさん「ガッハッハッハッハ! こりゃあ美味ぇ!
     朝からマグロたぁ信じられねぇなぁおい!」
中井出 「がっはっはっはっは! まったくだコノヤロー!
     あっと、そろそろ時間だから行きますね。お疲れっしたー!」
おっさん「おーう! ……って、船陸につけねぇと降りられねぇだろ」
中井出 「大丈夫大丈夫! 走っていくから!
     それじゃー辻堂さん! 旦那さんによろしく! ジョォイヤァーーーッ!!」

 ターンと船から海へ!
 着水と同時に足をダカダカと高速で動かし、右足が沈む前に左足のアレの要領で駆け抜ける! 当然烈風奥義も使っているので、一歩一歩が激しく、水飛沫もステキ。
 皆様がぽかーんとしている中、さっさと陸を目指して走りました。
 ああ、僕ってなんて普通の男の子なんだろう。(川神生活で普通の感覚が崩れてる)

……。

 学園に到着すると、そこでは不良が整列しておりました。
 今日から通うことになるここで、不良たちが整列する理由とはいったい……と呆然とする僕。呆気に取られて歩を停止していたら、青髪の……昨日の短めの髪の青髪さんとは違い、長い髪のおなごが僕に向かって「なに見てんだてめぇ!」などと叫んできました。

中井出「押忍! 整列したりして、これはいったい何事ですか!?」
???「アァ!? テメェんなことも知らねぇのか!?」
中井出「知ってたら訊くわけないでしょうが! で、これってなんです?」
???「うるせぇ! とにかく通行の邪魔だ! あっち行ってろボケェ!!」
中井出「お、おう……」

 ゲシゲシと前蹴りで押され、整列する不良たちの列から押し退けられた。
 というか、ただ見てただけなのにこの仕打ちはなんなんでしょう。

中井出「………」

 面白そうなので一番端の不良の隣に立ってみた。
 ……蹴られた。
 まあいいや、ちょっと遅れ気味だし、職員室行って挨拶を済ませてしまおう。

……。

 迎えてくれたのは……なんというか普通な人だった。
 いまいち担任かどうかもわからん人だが、様々なことが幸せらしい。
 口癖みたいに“幸せだなぁ……”と言っている。
 名前? 名前は……なんだっけ。

担任?「幸せだなぁ……僕は転入生を教室へ案内している時が一番幸せなんだ……」
中井出「いやあの、センセ? さっきは転入生に自己紹介している時が一番幸せって」
担任?「さあ着いたよ。ここが今日からキミの教室だ」
中井出「聞いて!?」

 まあともかく教室です。
 まずは担任?が入って……グオッフォフォ……!! 定番の“呼んだら入ってきてね”がなかったから、俺はこのままあとに続くぜ!!

担任?「皆さんおはよう。……幸せだなぁ、僕は朝の挨拶をするときが一番───」
中井出「押忍! 今日からこのクラスの生徒となる中井出博光にござる!」
担任?「なっ……き、きみ、呼ばれてから来なければだめだろう」
中井出「恒例行事だけど言われなかったので、一度突貫してみたく思い、実行しました。
    えーと、そんなわけなので微妙な時期となりましたが、転入生!《どーーん!》
    好きなものは楽しいこと全般! 嫌いなものはつまらないこと!
    好きな言葉は勇往邁進!
    嫌いな言葉は誰々は出来るのにどうしてお前はとかそういう比較する言葉!
    好きな食べ物はうどん! うどん最強! あとあんぱん! 餡子最強!
    嫌いな食べ物は肉じゃがです……滅べばいいんだ、あんなもの……」

 途中まで元気に喋ってたのに、嫌いな食べ物でテンションガタ落ちな僕を見て、これからクラスメイツになる皆様がとっても困惑してました。

???「嫌いな食べ物で物凄いローテンションを味わったタイ」
?  「肉じゃがになにか嫌な思い出でもあんのかね。
    まあ俺昔はワルだったから、そういうのも解らなくもないけど」
?  「え、そんなもの? 肉じゃがに嫌な思い出ってどんなのさ」

 いろいろ言われてますが、僕は元気です。

中井出「あ、それから───嫌いなものは人種差別です。
    アレだからダメ、コレだからダメってのはどーも苦手でして。
    解りやすく言うなら……えと。戦場に立ったなら老若男女なぞない。
    子供だろうがナイフ一本で人を殺せる世界だ、
    立ち向かうなら誰だろうと、敵ならばブチコロがしましょう。って感じで」
総員 (怖ッ……!!)

 ふう、これできっと掴みはオッケーじゃよ?

中井出「あと基本、自分のためにしか動きたくないんで、よろしくお願いします」
総員 (……係わるの、よそう……)

 うふふ、これで休み時間には質問タイムでおいおいまいったなぁ状態に!
 やっぱり最初って大事だよね!

担任?「で、では博光くんには……えー、辻堂さんの隣に座ってもらおうかな」
中井出「ウィ」
総員 『ざわっ……!』
中井出「ウィ?」

 ハテ、何故皆様ざわざわと?
 そして……ハテ? 辻堂? 真琴さんと同じ苗字?

中井出(……偶然だね!)

 だってあの人全然若いもの! 同年代の娘が居る!? ないない! ないって!
 促されるままにスタスタと歩いていくと、長い金髪のおなごの隣にストンと。
 よろしゅう、と設楽さんみたいに言ってみたけど、辻堂さんは窓から外を見ていて、僕の存在など眼中にないようです。

担任?「ああそれと。転入生くんに早くこの湘南に慣れてもらうために、
    先生、とっておきのことを思いついていたんだ。
    長谷くん、今回の3会担当はキミと辻堂さんだったね」
長谷?「はい」
担任?「その役目を、転入生である中井出くんに譲ろうと思うんだが」
中井出「よっしゃあ賛成! やるやる! 僕やるよ!」
長谷?「え……えと。担当にはもう一人居るんだけど、いい?」
中井出「私は一向に構わんッッ!!
    それが楽しいに繋がるなら、たとえどのような障害があろうとも貫く覚悟!
    この博光! そんな覚悟なぞ……耳にした瞬間に決めているッッ!!」
長谷?「3会委員のもう一人、辻堂さんなんだけど、それでも?」
中井出「? これヒロくん、僕の隣が辻堂さんだってのは解ってるし、
    一般で言うところの不良だってのもまあ、見た目で言えば解るけど。
    自己紹介で言った通り、僕ァその人ってものを自分で知らなきゃ気が済まん。
    不良だからの一言で離れるのは嫌なんで、
    誰が相手でもやると言ったらやりますよ?」
長谷?「へ? ひ、ひろくんって」
中井出「うむ! 長谷って聞いてまさかとは思ったけど、久しぶりである!
    中井出博光! 極楽院ではコウで通ってた男に候!」
大  「あっ……あーーーーっ!!?」

 ようやく気づいてくれたらしい。
 いや、俺も長谷だけじゃ解らなかったけど、あの人畜無害っぽい顔は間違い無い。

大  「コウ!? コウなの!? うわぁ久しぶりだ!
    ってそうだそうだよ! サンドバッグ! 大丈夫だったの!?
    あれの本当の意味知った時、そっちがどれだけ心配だったか!」
中井出「えーとまあ、引き取られた先で年中無休で虐待受けて育ちましたが。
    そんなこと続けてた所為かそいつもポリスに捕まったので、
    ようやく縁を切って独り立ちしたところです」
大  「独り立ち!?」

 再び教室がざわりとどよめく。
 って……アー……しまった。教室で大声で話すようなことじゃなかった。
 ええいもういいや。

中井出「まあ自分で言っちゃったからもうどうでもいいっすね。
    自分、捨て子にございます。極楽院ってところに拾われて、
    そこの養育施設で地味に生きていたところを虐待者に引き取られて、
    ず〜っとボコられながら生きてきました。
    なので耐久力だけはバケモノ並みなので、どうぞよろしく!
    あとカワイソーとかそういう干渉まっぴらごめん!
    むしろ笑い話として扱ってくれたほうが嬉しいですはい」

 言い切る。
 と、窓を見ていた辻堂さんがぽかんとした顔で、立って言い放っていた僕を見上げておりました。なのでにこりと笑顔でやあと手を上げる。
 ……フイと視線を逸らされてしまった。

中井出「あ、じゃあすいません先生、自己紹介が今度こそ終わったので続きをどうぞ」
担任?「幸せだなぁ……。
    僕はヘヴィィな人生を歩んだ生徒の教師をするのが一番の幸せなんだ……」
中井出「担任すごいですね」
担任?「それほどでもない」

 すげぇ、言い切った。
 ウフフ、でもこれで僕に興味を持ってくれた人が休み時間にウッフッフ……!

……。

 で、休み時間。

中井出「…………」

 自分の席で頭を抱える僕が発見された。
 誰も来ない。
 いや、ヒロは来たよ? 久しぶりって、当たり障りない挨拶をしました。
 途中、話を聞いた冴子さん(ここで教師をしているらしい)も来ました。
 なんかスゲー猫被ってて、逆に怖かった。
 あれが今の素なんだとしたら、お子時代に最強を誇ったガキ大将が、どうやったらああなるのかを誰かに説明してほしいほどだ。
 ああうん、まあいいや、ともかく3会ってのの委員になったなら、やることやろう。

中井出「さて、3会とは……開海会。かいが三つ並んで3会。
    OKこれは理解した。ようするに海開きを学園で仕切る、みたいな感じか?
    うん、解らんことは調べていこう。えーっと辻堂さあれ居ねぇ!」

 ホワイ!? さっきまで隣に居たのに!
 馬鹿な……この博光に気配を察知させずに移動するなど、どんなカッパーフィールドを……!(質問タイムを期待しすぎていた所為で気づかなかっただけ)

中井出「ま、まあいいやね。まずは授業だ授業」

 真新しい教科書やノートを用意して、お顔ほっこり。
 新しいノートって、最初の一ページ目はやたらと文字が綺麗だよね!
 で、途中からダルくなって雑になるの! ステキ!

未唯「うわ……なんかノートを両手で持って、目をキラッキラさせてる……」
舞香「きっとアレ、コロがすリストよ。
   あそこに戦場でコロがしていく人の名前を書くんだわ」

 そしてモノスゲー勢いで誤解されまくってる俺参上。
 あ、あれー……? 掴みはオッケーだと思ったんだけどなぁ。
 今日に備えて人の輪は、大和を見習って広めていたのに……どこで間違ったんだ?
 町を歩いておはよーございます言えば、みんな返してくれるくらいの仲なのに。

中井出「み、みんな聞いてくれ! みんな誤解してるよ!?
    俺べつにコロがし屋とかそういうのじゃないよ!?
    つーか自己紹介しただけでモノスゲー距離置かれるってどうなの!?
    あ、でも一応みんな名前を教えてくれてありがとう!
    そしてもひとつよかったらお友達になって!?」
総員 『…………《ササッ》』
中井出「一斉に目ぇ逸らした!?《がーーーん!》」

 ひどい! なんてひどい!
 くそうだったらもういいよ! 一匹狼からスタートして、ジワジワと誤解を解いてやるんだから! ……べ、べつにあんたのためにやるんじゃないだからねっ!?《ポッ》

舞香 「うわキモッ! なんか急に頬染めたよ!?」
中井出「ひどいですねキミ!!」

 距離置いてるくせに頬染めただけでキモい言われた!
 フフフだが甘いぜおなごよ。この博光とてイジメを味わってきた猛者よ。
 今さらそんな言葉でヘコむほど、弱い人間では───ないのだよ!!

中井出「…………《ずぅううう……ん……》」
舞香 「う、うわっ……滅茶苦茶ヘコんでる……!」
大  「いくらなんでもキモいは言いすぎだよ……」
中井出「へこんでなんかないさ! 僕元気だもん!!」

 地味にダメージデカかったようです。

……。

 お昼時。
 朝にマグロ丼なんてものを食べたから、そこまでお腹は減っていなかった。
 なのでジュースだけでも飲んで……と、自販機の前まで来ていた。
 や、ガッコ内に自販機あるのってちょっと新鮮だ。
 俺が通っていた高校にはなかったからね、ちょっと嬉しい。

中井出「えーと……お医者さんペッパーはと……ゲゲェ売ってない……!
    あのいかにもな薬品っぽい味が好きなのに……。お、麦茶はあるんだ。
    じゃあ久しぶりにジークスフィアの能力を解放して……と」
???「ァんだよ……100円玉ねぇじゃん……」
中井出「ひょ? おや、朝の」

 整列していたヤンキーのおなごがおった。
 この自販機、場所はヘロスィーに教えてもらったんだけど、購買前ではなく人気のないこの時間じゃあ部室棟の横にあるのだ。
 困ったことに小銭のみ認識の型。札じゃあ無理なようで。

不良B「どうします? 愛はんの頼まれごとやのに」
???「チッ……どうするったって……ん?」
中井出「ぬ?」

 困っていた様子のおなごが、僕を発見。
 一緒に居た不良らも僕を見て、急にニタリと笑みを浮かべました。
 ……やあ、そういや“人気が少ない+不良+お金がない=……アレ”ですわねぇ。
 ど、どうしよう! 憧れの“ちょっと跳ねてみろやぁ!”が命令されるかも!

???「おーおーおー! ちょうどいいところに!」
中井出「お、お、お……?」

 3人いた不良らにあっという間に囲まれてしまった!
 どどどどうなってしまうんだ僕は!《ドキドキ……!》

???「わりぃなぁビンボーな俺らのために募金してくれるなんて」
中井出「おや、一人称“俺”なんですね。おなごなのに」
???「ンなことたどーでもいンだよ。募金、してくれンだろ?」
中井出「………」

 僕を囲む不良のニタニタ感が増しました。
 募金……募金ときましたか。
 いかんなぁこれは……いかんいかん。

中井出「ぼぼぼ僕、お金持ってなくて……!」
???「金持ってねぇやつが自販機来るわけねぇだろォ?」
中井出「鏡があったら見せてやりたい」
???「ンだとコラァ!!」

 ギャアやばい図星突いてしまった!
 だがフフフ、安心おし、こう見えてこの博光もエンタートゥェィヌァー。
 相手は楽しめずとも第三者くらいは笑わせたい心をいつも胸に秘めている。

中井出「いえあのほんとです、お金なんて持ってなくてっ!」
???「アァ!? じゃあそこでちょっと跳ねてみろやぁ!」
中井出「ヒィイヤッホォオーーーーーッ!!《ぱあああっ……!!》」
???「《びくぅっ!》うわっ!?」

 来た! 来ましたよ奥さん! 跳ねてみろ! 伝説の跳ねてみろです!
 初めて聞いた! どどどどうしよう! 今ぼくカツアゲされてる!

中井出「ありがとう! 夢が叶った! いやぁ一度言われてみたかったんだ!
    じゃあ僕はこれで《がしぃ》離せぇええーーーーーっ!!」

 どさくさまぎれの逃走……失敗! そうだよね! 囲まれてるんだもんねぇ!

???「てめぇナメてんのか!? いーから募金してけっつってんだよ!」
中井出「募金で思いつくフレーズはなんですか?」
???「アァ!? そりゃあおめぇ……恵まれないなんたらかんたら……?」
中井出「ン……立派におなり……」

 ひどくやさしい顔になって、おなごヤンキーの手を取って、くしゃりとブツを握らせる。そう、これぞ賄賂的な渡し方。ハッとして自分の手元を見る彼女の手には……“おてもと”と書かれた弁当の箸の袋が!

???「てンめぇナメてんのか!?」
中井出「細かい笑いがほしかったんですごめんなさい!!」

 そして結局逃げられませんでした。
 えーとえーとこういう時はどうしましょう。

中井出「つまり恵まれないあなたたちに募金すればいいんですね?
    それで満足、アナタハッピー僕ハッピー?」
???「あぁそうだよ、さっさと出せや!」
中井出「はいな。じゃあこれ」

 シュピィンと出すのは一万円! 諭吉先生が光って唸る!
 それを空へ向けてピンッ……と弾くと、三人の視線はそこへ釘付け!
 その間隙を縫って逃走!! 脇目も振らずにレッツ&ゴー!!
 万券はデカいんじゃないかって!? 馬鹿言っちゃいかん! これは募金!
 そう、恵まれないほにゃららに出したお金ぞ!
 それに自分で稼いだ金だしね、誰にもったいない言われても関係ないです。
 そんなわけで見事に……否、お美事に逃げおおせました。
 結局ジュース買えなかったけど、こうなりゃ水でいいや。
 今日から俺は!に習い、“水道水カルキ入り”の缶を創造。
 そこに栄養水を満たし、それを持って教室に戻りました。
 着席すればハフーと安堵。
 ふう、もう少しで転校初日で問題起こすところだったぜ……!
 普通の生活も楽じゃないね、これはこれで楽しいからいいけど。

舞香 「見てアレ……水道水カルキ入りだって……」
未唯 「あんなの売ってるんだ……ていうか水道水そのまま飲めばいいのに……」
舞香 「ああいう人って付き合うと苦労しそうだよね。無駄遣いとか多そう」
中井出「せめて聞こえないように言おう!?」

 転入初日から、なんかもう非常で非情なくらい肩身が狭い気分です。
 でも……僕は負けませんよ!?
 ……サイキックフォース、またやりたいナ……。

……。

 さて。
 100円しか認識しない自販機で一万円を募金するというステキな行為をしたその後。
 特になにもなく授業は終了。
 3会の会議があるとかで放課後は居残りみたいなことになったけど、むしろどんと来いさ! で、もう一人の委員の辻堂さんなんだけど……おらん。
 ぬう、まさかサボるというのか、こんな面白いイベントなのに。
 や、俺自身この委員がなにをするものなのかは知らんのだけどね?
 でも面白いと思えば面白いもんだよこういうの。
 まあ、居ない人に強制するのも悪いよね。俺だけで行こう。

中井出「頼もう!」

 そんなわけで会議室へ。
 そこでは右手を左方に添えるようにする、いわばおーほほほなポーズを常にとっているおなごが待っていた。

中井出「あ、えと。3会委員の中井出にござる。会議室はこちらと聞きましたが」
副委員「お疲れ様です。席についてくださいまし」

 わお、くださいましとか喋る人が居る。
 恋姫とかの世界なら解るけど、まさかこんな平和な世界でまみえるとは。
 さてさて3会会議……いったいどんな無理難題をふっかけてくれるやら!
 この博光も今から、頬を伝う汗を顎に流れるまで待ってから拭う気満々で待機さ!

……。

 ……エエト。

中井出「………」

 20分もしないで終わりました。
 あのね、なんかね、3会ってね?
 準備なんかは稲村の町内会だけで事足りるんだって。
 むしろ俺達動く意味全くないんだって。
 ……え? 委員? なんのために組まれたの? わけがわからないよ!!
 街の行事を学生が手伝う伝統を継承するだけ!? フゥ・ザ・ケルゥ・ナァットゥ!!
 実働があるのは前日あたりだけ!? そんなもんで湘南がわかるもんか!
 違う! なんか違う! 僕らの知る祭りの準備ってこんなもんじゃない!
 これじゃあダメだ! 楽しいが足りない!

中井出「ええいどうしてくれようか……こんなんじゃダメだ。
    ちょいと手伝うことが伝統? そんなものを伝統って言っていいのか?
    いいやよくない! ……反語。こうなりゃ意地でも盛り上げまくってやらぁ!
    そのためには───」
声  「辻堂ォオーーーーーーッ!!!」
中井出「そう辻堂……ホワッ!?」

 声が聞こえた。
 なんか上の方から。
 そういやこのガッコ、屋上には出れるタイプのガッコ? それとも立ち入り禁止?
 まあいいや、なんか叫んでたし、普通の生徒はきっと興味本位でつい行っちゃうんだ☆
 男物の野太い怒鳴り声で、しかも3会役員の片割れを呼んでいたのだ。
 恐らくそいつに呼び出された所為で会に出られなかったに違いない……これは許せん!
 人がせっかく普通の生活をしようって時に、片割れを呼び出しなんざぁ漢のやることじゃあ……ねぇぜっ!!

中井出「屋上へGO!」

 走りました。
 廊下は走ってはいけませんとはよく言うけど、なんかこうしたほうが青春っぽい!
 なので走った! 昇った! 開けた! 開けた先には───あからさまに不良な男たちに囲まれた辻堂さんが!

中井出(ぬ、ぬう。そういえばヘロスィーが言っていた……!
    うちの学園は少々特殊で、湘南最凶稲村と呼ばれる場所である学園の屋上では、
    各地から集まる不良たちが決闘に使うと……!)

 などと雷電チックに脳内説明を開始。
 そんな僕の視線の先ではご丁寧に説明をしてくれる不良たちが。

BABY「ここで会ったが100年目……! 今日こそテメーを倒して、
     この湘南最強は俺達湘南BABYだって証明したらァ!」

 ……ちょっと待て。
 今湘南BABYって言った?
 それって確か、冴子さんが作ったチームじゃ……えぇ!? まだ続いてたのアレ!
 つーか普通に他校の生徒が乱入してるって……どんだけセキュリティゆるいのこの学園! 常識が薄れてゆく! 川神でももうちょっとマシだったよ!?

BABY「さぁ勝負だ辻堂ォオ!」
辻堂  「声がデケェよ」

 BABYさん3人は全員バット装着。対する辻堂さんは、素手でございます。
 しかも動じた様子一切なく、ぽりぽりと耳を掻いてらっしゃる。
 あら余裕。
 まあうん、予想はつきますよ? 川神があるこの世界なら、絶対おなご強い。

BABY「3対1で卑怯とかぬかすなよォ!?
     今日こそテメェをベッコベコのボッコボコに───」
辻堂  「だから───」

 威勢よく叫ぶベイビーさん。
 そんなやかましさを前に、辻堂さんは溜め息ひとつののちに、

辻堂「───うるせェ!!」

 ギンと殺気を放ちました。
 ガン飛ばしとも言いますが、殺気がぎっしり詰まったそれは、一般生徒が出せる類のものとは一線を画しすぎていた。
 案の定ベイビーさんは小さな悲鳴とともに硬直してしまい、辻堂さんはそんな固まった三人の間を余裕の顔ですたすたと歩いてくる。

???「出たーーーっ! 愛さん77の殺し技のひとつ! 鬼メンチ!!」

 で、そんな様子に手に汗握るお子が一人。昼にカツアゲしてきたヤンキーだ。

???「あン? ───あぁっ! テメェ!」
中井出「やあ、恵まれない青の人」
???「誰が恵まれねぇだこンのヤロウ!!
    さっきはよくも100円機の前で万券なんぞ置いていきやがったなァ!?
    お陰で愛さんにカツアゲしたって勘違いされて怒られたじゃねェか!!」
中井出「ほっほっほ、なにをおっしゃるのかこのタコは。あたしゃ募金しただけぞ?
    恵まれない人のために諭吉にさよならをした。募金ですよ募金。
    大きければそれだけ人が救われる。なのに何故あなたが文句を?
    募金言い出したのキミよね? ン? 違う? ン? ンンーーッ?」
???「ほぎゃああああああウゼェエエエエエエッ!!!」

 うざったい顔でうざったい口調とともに言ってみたら、血管ムキムキ状態で激怒。
 うーむ、カルシウムが足りておらんな。
 と、そんなところに辻堂さんが。

辻堂 「なにやってんだ、クミ」
クミ?「あ、愛さん。昼のやつですよ。因縁つけに来たみたいです」
辻堂 「は?」
中井出「やあ《どーーーん!》」

 軽く手を上げて挨拶。
 はてさて、転入生の顔なんぞ覚えていてくれているのか。
 まあ知らなかったら知らなかったで、べつにいいんだけどね。

辻堂 「放せクミ。アタシのクラスメイトだ」
クミ?「え? あ、はあ……」

 あらぁ!? 覚えててくれた!?
 みんなに距離を取られて、聞こえる声でいろいろ言われているこの博光を!
 お、おおお……なんと心優しい……! きっと天女さまだぜこの人……!(注:さみしさとかいろいろなアレで基準がおかしくなっている)

辻堂 「悪かったな、中井出。うちのはどうも血の気が多くて」
中井出「…………《ほろほろほろ……》」
辻堂 「うわっ!? な、なななに急に泣いてんだテメェ!」
中井出「い、いや……転入初日だっていうのにみんな距離とって、
    なんかもう言いたい放題されまくってるのに、
    そのくせなんでか名前すら覚えてくれない人ばっかで……。
    ありがとう、ありがとう……苗字だけでも覚えててくれてありがとう……!」

 救いは屋上にありました。
 この世に救いがないのなら、俺が救いになればいいなんてスーパー化しそうになっていたのに……まさかこんなところで。

クミ?「ていうかてめぇ、こんな時間までなにやってやがったんだ?
    よいこちゃんはもうとっくに帰ってる時間だろが」
中井出「フゥハハハハハ! よくぞ聞いてくれました! えーとクミちゃん?」
クミ?「ぶっは!? だだ誰がクミちゃんだコラァ!!
    俺は久美子! 辻堂軍団No.2、葛西久美子だ!
    二度とちゃんなんてつけて呼ぶんじゃねぇぞ!!」
中井出「押忍。俺は中井出博光イイマス。
    時間のことなら今まで3会の準備してたからですわ。
    ……20分もしない内に終わっちゃって、拍子抜けですがね……。
    もっと盛り上げたいなぁ、なにか出来ることないかなぁ。
    あ、辻堂さん、3会のことでなにか出来ること知らない?
    あるなら俺全力でやるんだけど。町内会に任せきりなんてやってられますかい!
    伝統と謳うのであれば全力を以ってこなしてこそ! なのでなにかご提案を!」
辻堂 「特にない」
中井出「あれぇ!?」

 無いときました。
 そりゃそうだよね、うん解ってた。
 会議に出た俺でさえ知らんのだもの、出てない辻堂さんが知ってるわけなかった。

中井出「ぬぬぅ、そうかぁ。
    あ、じゃあおいら資料とか見てこの街のこと、もっと知るところから始めるよ。
    ばいばい辻堂さん、また明日」
辻堂 「へ? あ、ああ……ん」

 手を振ってお別れ。
 屋上をあとにして、そのまま帰宅しました。
 夕焼けまぶしや、夕暮れの頃。
 のんびり歩いて、ケータイとかいうもので湘南のことをチェックしたりなどしました。
 湘南っていうか、稲村のこと、だね。
 でもよく解らんかったので図書館へ。
 そこでいろいろ調べているうちに夜になり……帰り道にコンヴィニで、再入荷されていたブタメンを手にヒタヒタと夜道を歩く僕参上。

中井出「フフフ、同じ失敗は二度としねぇぜ? もうブタメンをこぼすようなことなど」

 お湯はバッチリ。プラスチックフォークも完備!
 これで家に戻ってずぞぞーですよ。
 ホオオオ、この博光の胃袋も、食事の時を今か今かと昂ぶっておるわ……!
 まあ、図書館来るためにちょっと遠くまで来ちゃったね。
 これ3分以内に自宅までって無理じゃないかなぁ。

中井出「まあいいや、3分経ったらその場で食べよう。
    この3分って定められた時間が、またステキなんだよね」

 硬めが好きだと2分程度で食べてしまう人も居るし、常識破壊が好きな僕としてもそういうのもいいとは思う。だがラーメンや焼きそば、うどんなどのカップ系統は、時間通りにやってこそだと思うのです。
 人によって好き好きはあれど、僕的には定時の硬さが好きなのだ。

中井出「ややっ、考え事してたら3分経ってしまった」

 まだ街中なのに。
 でも食べましょう。3分待った。もはや待てぬ!
 いざ、フタをモファアと空けて……実・食!!

チンピラA「邪魔だどけコラァ!」
中井出  「《ドンッ!》オワッ!?」
チンピラB「うろうろしてんじゃねぇブチクラワスぞラァ!!」
中井出  「………」

 ベシャーリ。
 アワワ、ブタメンが、ブタメンがアスファルトに広がってゆく……!!

中井出  「死をも上回る苦しみを味わうがいぃいいいいいっ!!!」
チンピラA「あぁん!? ンだテメぎゃあああああああ!!!」

 よくもッ! おどれっ! この汚らしい阿呆がァアーーーーーッ!!!

中井出「貴様の死に場所はァァァ……!! ここだぁああああっ!!!」

 チンピラAの頭を掴んで地面にクラッシュ!
 再びアスファルトごとアッパーで浮かせたのちに、川神流かわかみ波で衝天。
 月夜に浮かぶ雲さえも貫いたそれは、チンピラAを星にした。

中井出「ごぉおおおおお……!! なんの恨みがあるんだやつらめは……!
    ブタメンが……俺のブタメンがぁあああ……!!」

 チンピラB、CはAに気づかず行ってしまった。
 でもまあ気にしないでいいでしょう。
 Aの所為で落ちたんだから、Aだけ仕留められればよかった。

中井出「くそう! こうなりゃ意地でもブタメンだ!
    さっきの店でもあれが最後だったし……さすがの人気だぜブタメン……!
    纏め買いしてるヤツがぜってぇー居るぜこりゃあ……!」

 解ってるぜ、見知らぬ誰かよ。
 半端なカップメン選ぶくらいなら、やっぱブタメンだよね。
 思うんだがカップメンってのはメガ盛りだのなんだのがあるが、量が多いと途中でノビるし味も同じだから飽きやすい。
 その点ブタメンってスゲーよな! 最後まで美味しく味わえるし!

中井出「うおおおおおおブタメェエーーーーーン!!!」

 故に走るンだッッ!!
 ブタメン目指してレッツゴー! トゥ・コンビニー!!
 まあスーパーとかでも結構売ってるけどね!
 なので適当な店に入ってみました。
 そこには……単品はなかったものの、箱詰めされて未開封なブタメンが!

中井出「てっ……店員さァーーーーン!!」

 ブタメン! 大人買いせずにはいられないッ!!
 そんなわけでブタメン(20個入り)を購入し、箱は背負って二つにお湯を入れ、夜道をしずしずと歩く俺参上。
 ウ、ウフフ……とうとうやっちまったぜェエ……!! かつては軍曹さんも憧れた、カップラーメン二個食い……! フフ、普通に憧れた俺も、とうとう悪の道に入っちまったようだぜ……!?
 なんて、かいてもいない顎の汗を拭いたい気分を味わっていると、海沿いの砂浜に見慣れた(?)人を発見。ありゃま、辻堂さんと……えーと、葛西久美子……だっけ? がおった。

中井出「博光イヤーは地獄耳!」

 なにかぶつぶつ言っているようなので、耳を済ませてみれば……どうやら喧嘩のあとらしい。お、恐ろしい……また喧嘩があったのね。
 きっとさっきのようなチンピラにブタメンを落とされたのよ。
 ほら、なんか辻堂さん、少し疲れたような残念なような顔してるし。
 あまつさえ、喧嘩に飽きたとか暴れても熱くなれないとか言ってるし。
 そうだよね、もう夏が来るっていってもまだ6月。夜は少々寒いくらいさ。
 そして僕の手にはブタメンが二つ。
 こりゃあ……ブタメイツ(ブタメン好きの仲間)を作るっきゃ……ねぇぜ!?

中井出「やっほー辻堂さーん!」
辻堂 「……あ?」

 声かけてみたらギロリと睨まれました。だがそんなことはどうでもいい。
 今さら人に睨まれてもどうということはない。
 基本臆病だけど、こういう時は図太い男……こんにちは、博光です。

中井出「熱くなれるなにかをお探しならこれをどうぞ!
    安くてちっさくてお手ごろサイズの夜食のオトモ!
    ブタメン! ブタメンをよろしく!」
辻堂 「………」

 サム、と差し出すブタメン(フォーク付き)。
 フタと容器をフォークで串刺しにして止めとくのって、なんていうかそれっぽくて大好きです。

久美子「またてめぇか! てめぇもしや俺たちをツケて、
    なにかしら探り入れてンじゃねぇだろうなぁ! どこのモンだコラァ!」
中井出「中井出さん家の博光くんだよ? 葛西さんもブタメンどう?
    いやー、あっちの店でブタメン箱買いしちゃってさ、
    このささやかな幸せをみんなにも!」
久美子「いらねぇよンなもん!」
中井出「そりゃ残念。美味しいのに……。あ、辻堂さんはどう?」
辻堂 「いらねーよ。つか、てめぇなに気安く声かけてんだ、あぁ!?」

 ギヌロと睨まれた。
 あんれまぁ……もしや嘗められてるとか思ってらっしゃる?
 そうだよなぁ、不良って嘗められるの嫌いだもんなぁ。
 俺もそうだったからよーく解ります。解りますけど、それとこれとは話が別だ。

中井出「自己紹介の時言ったでしょ、差別とか大嫌いなの。
    不良に最強、バケモノに地上最強、
    なに言われたってどれだけ危険だって関係ない。話したいから話すのです。
    さっきもせっかく買ったブタメンがチンピラのタックルで台無しになってね?
    だからこうして買ってきたのがこのブタメン。
    そんなささやかなしゃーわせをあなたがたに」
辻堂 「…………だから。いらねーって言ってるだろうが《ギンッ》」
中井出「むう。確かに好きだからって押し付けるのはよくないか。
    じゃあもう帰るね。明日も早いから」

 漁協の仕事は良い仕事。
 なんていうか、男ォ! って感じの仕事だ。
 ああいうの好きだな、シンプルで。漁の仕事って男の子だよな。
 や、女の人も結構居るけどね?



-_-/辻堂愛

 中井出が去ってゆく。
 背にブタメンと書かれた箱を背負い、両手にはブタメン(お湯入り)。
 ……悪いことしちまった。
 別にあいつが何をしたわけでもなく、ただ二つ持ってたブタメンのひとつをと声をかけてきただけなのに。
 教室内でも珍しくアタシに声をかける存在……転校生なんだから、アタシのことを知らなくて当然だが、困ったことにアタシは対話がそんなに得意なほうじゃない。
 堅気……いやいや、ヤンキーでもないヤツ相手にべらべらと喋る口を持っていない。
 ヤンキー相手だって自分の言いたいことを言う以外に、特に話す言葉もないのだ。

愛 (……ばいばい、なんて言われたの……どれくらぶりかな)

 屋上での一件を思い出す。
 クミに絡まれても顔色一つ変えず、睨みを利かせたあとのアタシにさえ気安く声をかけてきた珍しい男。
 アタシは人にナメられるのが嫌いだ。
 番長なんて肩書きになってるのだって、ナメられるのが嫌で売られた喧嘩を全て買ってきて、全てに勝ってしまった結果だ。
 そんなアタシだから、今では“気安く声をかけられる=ナメられている”、みたいな先入観を持ってしまっている。
 それもこれも全部母さんやクミの所為だろう。

愛 (ブタメン……)

 ブタのイラスト、ちょっと可愛かったな……。
 ……考えてたらちょっと腹が減ってきた。
 クミの手前、受け取るのは施しを受けてるみたいで頷けなかったけど、素直に貰っときゃよかった。

愛 (……はぁ)

 あんな風に睨んでまで突っぱねたんだ。
 もう明日、話しかけてくるなんてこと、ないだろうな。
 それで3会の委員はアタシじゃなくて別のヤツに頼んで……。

愛 (………)

 準備。手伝いたかったな……。




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