【6月8日】

 ドドドドドドド……!

中井出「はぁああああ……!! 新聞でーーーーす!!」

 ゴヒャウと投げる新聞が、ポストにスコーンと納まる。
 うむ、今日も快調じゃわい。
 溜めて新聞投げるのはアレだ、トゥハートチックなアレ。
 伸びきったうさぎが大好きでした。

中井出「早朝に走るのって気持ちいいよね!」

 急ぐからこそ奔るッ! とでも言うかのような速度で走ってみてます。
 コードナンバー044とか歌いたくなるくらいの速度で、もはや電車にも負けぬ!
 その過程で新聞投げてポストにさっくり。
 雨が降ってない時だからこそ出来る芸当さ。

中井出「素晴らしい〜汗を〜かこう〜! 汗を掻くって素晴らしい〜〜〜っ!!
    何故なら! 人体として正常ということだから! 俺! 素晴らしい!」

 走る走る走る!
 そうして新聞を配達し終われば、次は漁協へ行ってお手伝い。

中井出 「おはようございまーす!」
おっさん「ガッハッハッハ! 今日も早ぇえなぁハクよぉ!」
中井出 「ガッハッハッハ! そりゃあバイトメンですもの!」

 仕事をきちんとして得た金は、なんか嬉しいのです。
 カジノとかでズルして手に入れた金は、もはや使うこともありますまい。
 土地はそれで買っても、家は……川神で暮らしていた頃の屋敷をコピーしたものだ。
 温泉もあるし道場もあるし…………金曜集会の基地もある。
 あの景色はいつかのままだ。
 いまでも、あそこに行けばみんなが迎えてくれるような気がして、螺旋階段を昇った回数は呆れるくらいで、基地に辿り着いてから泣いたのだって、数えるのも面倒なくらい。
 それでいいって思えてる。泣けるってことは、まだ自分は正常だから。

真琴 「〜♪」
中井出「およ? 辻堂さんご機嫌?」
真琴 「ああ、解る〜? 実はねぇ、旦那が会社から直々に、
    約束してた記念日に休暇をもらえたんだって。
    呼び出しがかかる可能性もあるかもって言ってたから、
    結構不安だったんだけどね。うふふ、うふふふふ、えへへへへへ」
中井出「うわっ! めっちゃいい顔ッ!!」

 頬を両手で包み、だらしのないとまでは言わないが、締まりのない顔になる辻堂さん。……なんだが、普段が普段なだけにギャップがスゲーです。
 ……ふむ。せっかくなのでケータイとかいうもので写真を。

中井出「……《ぱしゃり》」
真琴 「なに勝手に撮ってンだアァン!!?」
中井出「旦那さんのアドレス教えてください。
    辻堂さんのとろける笑顔を送ってさしあげたい」
真琴 「お前いいやつだなぁ!」

 どっちっすか。
 
中井出「いや、実際今みたいな笑顔、旦那さんももっと見たいと思いますよ。
    仕事だから仕方ないとはいえ、近くに居られないのは寂しいでしょ」
真琴 「あぁ……解るかぁ? そうなんだよ。
    アタシももっと一緒に居られたらなーとは思ってンだけどさぁ……」

 言いながらも顔は笑みでいっぱいです。
 なんというか自分が持ってる特別なものを自慢するガキ大将みたいな顔だ。
 ていうか素と普段とのギャップがあまりにもスゲェ。
 やっぱりこの人、絶対にヤンキーとかだったよ。

中井出「あ、でも俺のアドレスで送っても、迷惑メールかもとか思うか。
    じゃあ辻堂さんのに画像送って、辻堂さんが送ります?」
真琴 「自分の笑顔を自分で送れるわきゃねぇだろ!!」
中井出「タイトルはいつもあなたの傍に笑顔で、とかで」
真琴 「……《カタタタタタタピッ》───ふうッ……!」

 モノスゲー速度で送信してました。
 現在もモノスゲーやり遂げた顔で額の汗拭って、キラキラ輝いてる。
 そんな辻堂さんのケータイとかいうものが鳴る。
 開いてみれば、辻堂さんの顔がモノスゲーとろけた。
 失礼とは思いながらも光の屈折を利用して覗いてみました。
 すると、向こうは向こうで辻堂さんの写真を見た旦那さんを、お仲間さんが撮影したものを飛ばしてきたらしく……急にケータイとかいうものからンバッと顔を上げたかと思うと、俺の肩をバッシンと叩いて

真琴 「でかしたっ!」
中井出「え? いや、ハイ」

 急に感謝された。
 いったい何が起こったのでしょう。

真琴 「お前気に入ったよ……なにか困ったことがあったらなんでも言いなっ」
中井出「お互い様って言葉が好きなんで、そう気負わんでくださればそれで」
真琴 「なんだよ〜、私に恩を売れるなんて、滅多なことじゃないんだぜ〜?」
中井出「はいはい肩に腕を回してこないでください。旦那さんが嫉妬しますよ」

 あと口調がモモっぽくなってる。
 モモも親になるとこんな感じなのでしょうか。
 今の僕には解りませぬ。

真琴 「うちの旦那はそんなに心が狭くないわよ」
中井出「狭くなくても、別の男の匂いがするのは嫌なもんなんです。
    男って妙なところで子供っぽいですから。
    辻堂さんが思っているよりもずっと、
    自分の辻堂さんであってほしいって思ってるはずですよ」
真琴 「…………誠君たら……《うっとり……!》」

 そしてとろける人妻さん。
 誠君……そういや、クラスメイツである辻堂さんのパパも誠っていったっけ。
 スゲー偶然もあるもんだ。
 ともあれ、仲がさらによくなったようでなによりだよね。

中井出「さて」

 今日も沖に出てシラス漁だ。
 気合入れていきませう。

……。

 沖に向かいながら貝などを捕る。
 ちょっとした朝食です。

中井出「貝を炭火で焼いたことはなかったなぁ……《ヂリヂリヂリヂリ……》」
真琴 「ン? 七輪なんて積んでたっけ?」
中井出「自前でやんす。お、開いた開いた。で、ここに醤油をひと差し」

 絶命した。
 腐れ外道道、懐かしいなぁ。
 たしかオウム貝を焼いて、醤油で抹殺したんだっけ。

中井出 「ほいどうぞ。砂抜きもしてあるから安心です」
真琴  「どれどれ? ……ん、んんー……おおっイケんじゃないっ」
中井出 「おお、それはよかった。おっちゃんもおばちゃんもどうー!?」
おっさん「ガッハッハッハ! まーた懲りずに適当な料理作ってんのか!」
おばさん「それじゃあちょっともらっちゃおうかねぇ」

 豪快に笑いながらもがつがつ食うおっさんと、ゆったりと食べるおばさん。
 他のおばさま方も喜んで食べてくれて、朝っぱらからの仕事にぐったり気味だった皆様も、割と元気になってくれました。

真琴 「ハクはどういう経緯で料理とか覚えたんだい?」
中井出「アレェ!? なにやら口調が変わってらっしゃる!?
    お近づきになれたって理由なら嬉しいけど他の理由だとちょっと怖い!」

 やめてよもう! 急に愛称呼び捨てとか怖いんだけど!?
 なのにちょっぴり嬉しい僕も居ます。ガッコで友達居ないんだもの、こんな些細で喜んだっていいじゃない。

中井出「アー……言った通り、家族居ないんで。
    寺で拾われたんですけどね? そこからさらに別の人に引き取られて、
    そやつがひどい虐待者でしてねー……。
    日頃の鬱憤を俺に当り散らして、そのくせ料理とか掃除とか洗濯は俺任せ。
    マズイ料理を作ろうものなら拳や足が飛んできたんで、
    上手くなるしかなかったんですよ」

 そう、ヤツはマズイメシを作ると怒った。
 一般では美味しい料理を出しても怒った。
 何故って、少々ラリってらっしゃって、味覚がおかしかったから。
 苦労しましたよ、ヤツの味覚に合わせた料理を完成させるのは。
 ……と説明したら、辻堂さんの顔がビキッと変調。
 メンチ切る見たいな表情になり、体が震えるような低い声で「……そいつの住所は」と訊いてきました───って怖ッ!?

中井出「え、えと。既にいろいろやりすぎて、ポリスに捕まったのでご安心を。
    それを機に役所に行って正式に縁も切れましたし」
真琴 「ン───そか。って、じゃあ身元引受人は? 今苗字とかどうなってンのさ」
中井出「旧名をそのまま。中井出って旧名なんですよ」
真琴 「自分捨てたヤツの苗字使ってンの?」
中井出「あぁいやいや、それも誤解が。確かに自分、捨てられましたけどね?
    それは家族にじゃなくて親戚になんですよ。
    早くに家族が全員死んじゃって、自分らで手一杯だーって理由で孤独に」
真琴 「…………」
中井出「あ、あの。辻堂さん?」

 あ、あれー? どうしてか睨まれてる。
 嘘は言ってないよね? 実際最後の家族であるじーさんを毒殺されて、俺の身元を引き受ける気なんざないから出て行けーって有様だったし。
 なのにギロリと睨んできていて……あ、ああ、なるほど。あれですね? 言い出したなら全部吐き出してスッキリしちまえって、そんな温かい状況なのですね? 今は。……暖かい状況のはずなのに、心の芯からカタカタ震えるのは、きっと僕がヘタレだからだよ。
 気に入ったヤツは大事に思う……ここらへんの感情、確かにヤンキーっぽいかも。

中井出「……子供の頃、地震が起きたんです。
    老朽化した家の、一部の天井が落ちてくるほどの。
    ばーさんはその下に居た俺を庇って死にました。
    両親は金欲しさに強盗まがいにやってきた近所のおっさんに刺されて死亡。
    残った唯一の家族であるじーさんは、
    それらを纏めた財産……保険金とかすごかったから、
    それを狙った親戚に毒殺されました。
    家のものは全部差し押さえられて、
    俺の身元を引き受けるやつなんて当然居なくて、そのまま孤児扱いです」
真琴 「……じゃあ、つまり?」
中井出「捨てたのは家族じゃない。金欲しさに暴走した親戚です。
    俺はたまたま拾われたからいいけど、そうじゃなかったらとっくに死んでます」

 事実、晦に空界を紹介されてなかったら死んでただろうし。
 生きてはいられたものの、こんな人生を送るとは思いもしなかったけどね!
 ほんと人生って解らないです。

真琴 「仕返ししてやろうとかは考えなかったのかい?
    なんなら私が、今でも300人くらいなら集められるから、
    総力以ってそいつら“ツブす”ぜ?」
中井出「いやいやそんな怖い顔をなさらんと。
    旦那さんがせっかく喜んでくれた笑顔が台無しです」
真琴 「はうっ《ポッ》」

 そしてこの変わり身の速さにございます。
 顔をビキバキ鳴らして怒ってたのに、もうこのとろけるような照れた笑み。
 人ってすげぇ。
 むしろ300人集められる人脈ってなんですか。
 俺なんて一人も集まらないのに。
 …………べ、べつに羨ましくなんかないんだからねっ!?《ポッ》

中井出「心配してくれてありがとうございます。なんか嬉しかったです。
    でも今の暮らしは楽しいし、掘り返して嫌な思いはしたくないんです。
    俺にとってはもう、縁を切った時点で決着がついたことですから」
真琴 「……───、……ン、そっか。
    しこりを残してるようだったら無理にでも訊いてやろうって思ったけど、
    そんだけ笑えるならもう訊かない」
中井出「ありがとうゴザルます。
    ……ところでカツオが釣れたんですけどどうしましょう」
真琴 「お前どんだけ引きがいいのさ」

 話しながらアモルファスで海の中を探索中、迷いカツオを発見。
 例のごとく仕留めて釣り上げました。
 ……その日は朝からカツオづくしの朝食となり、今回余った分はみなさまで分けました。朝食が豊かで新鮮になるよ! やったね誠さん!




-_-/辻堂愛

 朝。
 目が覚めてからダイニングに行くと、母さんが上機嫌だった。

真琴「おはよ、愛」
愛 「おはよ。……? どしたの? 機嫌いいみたいだけど」
真琴「ハクが今度はカツオを釣り上げてね。
   大雑把だけど簡単な料理を教えてくれて、
   それを誠君に食べさせたらすごく喜んでくれて」

 どうやらシラスの入りはよくなかったらしく、それに落ち込んでいたところへのカツオ料理の提案だったようだ。
 それが当たりだったようで、母さんはとろけ状態なのか。
 ……ていうか今ハクって言ったよな。前まで“くん”付けじゃなかったっけ。

愛 「……ン、あれ? 父さん帰ってきてるの?」
真琴「届けてきた」

 朝っぱらからなにやってんだこの母は。

真琴「いや〜、ハクはいろいろと便利だわ〜。出張先教えたらチャリかっ飛ばしてさぁ」
愛 「チャリ!?」

 出張先まで自転車で行って、届けて戻ってきてこの笑顔……?

真琴「この歳になって仲のいいダチが出来たみたいで嬉しいのよ。
   話も良く聞いてくれるし気が利くし話聞いてくれるし」

 話聞いてくれりゃ誰でもいいみたいな言い方じゃんか。
 でも……母さんが他人を褒めるなんて珍しいかも。

愛 「でもチャリでって。どんだけ朝から行ったの」
真琴「ハクのチャリは単車の全速力を超えるわよ?」
愛 「母さん。それもうその時点でチャリじゃないと思う」

 とりあえず解ったことは、ハクという人物は異常だということと。
 朝食が、カツオがふんだんに使われたものだったってことくらいだった。




-_-/中井出くん

 さて学校です。
 本日は昨日のこともあってか、辻堂さん大人気。
 昨日かっこよかったよーと言い寄ってくる人が多く、隣に居る僕には誰一人寄ってきません。それがあもりに悲しすぎたので救いを求めて委員長もとい北条のところに行ったらいつも通りの委員長している姿に心癒されたというか鬼なる。

中井出「………」

 高校のクラスの長谷くんのアドレス帳は友人の名前と電話番号でいっぱいだ。
 五十人ぐらいはいるのだろうか? 百人ぐらいだろうか?
 母には父がいる。父には母がいる。自分はちがう。
 TVに出ている人とかロックスターはきっと何万人といるんだろうな。自分はちがう。
 花京院のモノローグを思い出してしまうような悲しみに襲われた。
 でもここで北条のアドレスにすがるのは友達とは違う気がして我慢した。

中井出「……うう」

 パカリとケータイとかいうものを開けば、待ちうけ画面にはいつかの風間ファミリー。
 ヒゲ先生に撮ってもらったファミリーの集合写真がそこにはあって、今では考えられんくらいの笑顔で笑う自分が写っている。
 そんな僕も今では寂しいものさ。
 ごらん、辻堂さん大人気。自分は違う。
 いや、言ってみたいだけで、それが悲しいとは言わないけどさ。
 こういう状況じゃないと出来ないことを全力でやってみようって遊びなんだけど、どうだろうか。

舞香「なんかすっごい武勇伝ありそー♪」
美唯「聞きたい聞きたい聞きたーい♪」
辻堂「な、馴れ馴れしいぞ」

 さて、そんな辻堂さん。質問攻めされても無視を努めようとしているんだろうけど、褒められるのに慣れていないのか顔が赤い。
 隣の席である僕の顔は、こんなにも寂しさで溢れているというのに。
 だ、大丈夫だよ? 僕は100人の友達より一人の親友を探してる最中なんだッ!
 だから寂しくなんかないやいッ!
 だだだ大体今僕、3会の準備で忙しいしっ!?
 あ、言っとくけどこれ負け惜しみなんかじゃないんだからねっ!?《ポッ》
 ……うむ、こんなところでOKだろう。

中井出「ところでさ。烏丸美唯さんの漢字の書き方ってさ」
北条 「未唯ですよ」
中井出「アレ? 美唯じゃなかったっけ」
北条 「未唯です。公式サイトの登場人物紹介でそう書かれてようと、
    他サイトでそう書かれていようと、未唯なんです」
中井出「そ、そうなんすか」

 なにやらとんでもない暴露があった気がしないでもないが別にいいね。
 さ、あちらは忙しそうだし、俺は俺で纏められるものを纏めておこうね。

……。

 昼。
 チャイムが鳴ると同時に開幕ダッシュ!
 地を駆け階段を飛び降り、購買に辿り着くや叫ぶ!

中井出「あんぱん2コちょーだい!?」

 何故か購買のおばちゃんに大笑いされた。

……。

 教室の自分の席に戻ると、あんぱん2コとパック牛乳を置いてにっこり。
 あんぱんと牛乳、大好きです。

中井出「ねえ北条。一番乗りで購買に行って、
    あんぱんと牛乳頼んだら大笑いされたんだけど、どうしてだろ」

 一人は寂しかろうとわざわざ来てくれた北条に疑問を投げる。
 北条は「普通は余るものだからじゃないでしょうか」と律儀にも応えてくれた。

中井出「俺、パンの中ではあんぱんが一番好きだけどなぁ」

 こんなに美味しいのに。
 特に出来立てのあんぱんは、他の菓子パンなんぞには負けないくらい美味ですよ?
 こうして開封しただけでも笑顔がこぼれるというのに。
 やっぱり笑顔って大事だよね。ISの世界でラウラに会えてよかった。
 笑顔を凍らせたまま進んでたら、絶対に“楽しい”も忘れていたよ。

中井出「それにしてもわざわざありがとね、北条。
    ひとりぼっちで食べる昼って、寂しくてさ」
北条 「いいんですよ。私もこれといった一緒に食べる人が居るわけでもありませんし」

 眼鏡をテコーンと輝かせる北条。
 なんというか自然な流れで北条って呼んでるけど、個人的にはさんとか付けたい気分。
 なんか俺、晦とか彰利以外にはさんとかくんとか付けたくなるんだよね。
 風間ファミリーは例外中の例外だろうけど。

未唯「お母さ……委員長〜、あたし誘ったよー?」

 ポヤポヤと呼び方を考えていると、北条の言葉に待ったをかけるお子が。
 烏丸さんだ。……ほら、烏丸さんは普通に烏丸さんって思ってるし。
 ていうか今、北条のことお母さんって言いかけたよね?
 もしやとは思うが、このお子───いやいや今はあんぱんだ。美味しい。

北条 「開拓する友情は、既存の友情より勝るべきなのです。
    というわけで、烏丸さんもどうですか?」
未唯 「あ、うん。今丁度マイが電話してるから、混ぜて混ぜてー」
中井出「ヨヨヨヨウコソ! コワクナイヨ!? ボボボボクトトモダチニナロウ!」
未唯 「あの、素直に怖い」
中井出「《ズォブシャア!》ゲァァアヴォッ!!」

 言葉のロンギヌスが心臓を穿った。

中井出「オ、オウ……アイムソーリー……。
    いや、確かにちょっと無意味にテンパってたね……。
    大丈夫、落ち着いたから、まずは知るところからいかせてください……」
未唯 「それは、うん。べつにいいけど」

 言って、とすんと北条の隣に座る烏丸さん。
 微妙に俺からは距離を取ってらっしゃる。防衛本能でしょうか。

中井出「えーと、じゃあまずは自己紹介から。中井出博光です。
    趣味は園芸。家で野菜とか栽培しております」
未唯 「これはどうもご丁寧にー。烏丸未唯です」
北条 (園芸……《テコーン♪》)

 大げさにペコーとお辞儀をしてみる。
 ……なんというかまったりマイペースなお子なのかな、このコ。
 雰囲気は大人びて見えるのに、見てると構いたくなるっつぅ〜んすか? 甘やかしたくなります。ところで北条の眼鏡が輝いた気がしたんですが、気の所為ですよね?

中井出「金平糖をどうぞ」
未唯 「うん、もらうね」

 あげればすぐ食べる。
 親の実家に来て、祖父母に構われる子供みたいな印象だ。
 ……マズイ、こういう、与えれば受け入れる系のお子、俺めちゃくちゃ好きだ。
 好意とかではなく、構いたいって方向の意味で。

中井出(ならば見せてやろう───
    これまで、56億もの歴史を生きることで得た超甘やかし術の全てを!!)

 男を嫌がる岳人でさえなすがままになった甘やかしを受けるがよかギン!
 俺達の戦いは───始まったばかりだ!

……。

 5分後。

未唯 「はう……んふぁ……」
中井出「はいはい動くでないよ。ちょっとくすぐったいけど我慢だからね〜」

 並べた椅子に寝転がり、俺に耳かきをしてもらう未唯さんが発見された。

舞香「ただいまー、ねーねー聞いてよミィ〜、カレシがさーってウォオーーーッ!?」

 と、そこへケータイとかいうもので彼氏と電話してたらしい片岡さんが帰還。
 北条とともにおかんとおとんオーラを出して、ともに烏丸さんを甘やかす異常空間を目に、絶叫。でもウオオーはないと思うんだ。うん。

舞香 「やっ、ちょっ! ミィになにしてんのこの変態!」
中井出「変態とは聞き捨てならん。そして見て解りませぬか? 耳掃除です」
舞香 「そんなの見れば解るわよ! そーじゃなくて、なんで耳掻き!?
    あたしが電話で離れてる数分でなにがあったの!?」

 なにが、って……当事者だとこういう場合、案外わからんものでして。
 などと若干困惑していると、北条がメガネを上げ下げして解説してくれた。

北条 「素晴らしい手技を目の当たりにしました……軽い日常的な会話から世話話、
    少し不安に思っていることから相談が始まって、
    やさしく受け止めてからの的確なアドバイス。
    合間には軽い小話も混ぜて会話を増やすことで少しずつ信用を得て、
    私もオススメする肩揉みから接触に成功。
    それからはあっさりと溶かされるようにこの状態に……」
舞香 「解説ありがとう委員長」
北条 「いえいえお気になさらず」
舞香 「じゃなくてミィ! 未唯ちゃん!? こんな危険な男に騙されちゃダメ!
    今にコロがすリストに載せられちゃうんだから!」
中井出「良い子良い子〜♪」
未唯 「《なでなで》ふぁぅうう……♪」
舞香 「すっかりとろけきってるーーーーーっ!!」

 膝枕しながら頭を撫でると、気持ち良さそうに身動ぎする烏丸さん。
 やっぱりこのお子、甘えん坊だったみたいです。
 なんかね、ワン子とか京に似たなにかを感じたのですよ。北条のオカンオーラを正しく読み取って、お母さんって言いそうになってたしね。
 だから金平糖(めちゃ甘)から入るというジャブから攻め、次々と好きそうな甘いモノで釣っていきました。お子はお菓子が大好物じゃて、孫を可愛がるおばあさんのごとく、どんどんおあがりとあげましたさ。
 もちろん全部創造物であり、食べたくても食べられない類の美味さのものまであげました。買収してるみたい? フフ、違うな。みたいじゃない、しているのさ。
 でもここから育むのは本当の信頼。
 きっかけが欲しかっただけですもの、これでいいのさ。
 まあ一番効いたのは膝枕でございましょう。
 皆様が言うにはこの博光、森の日向の香りがするらしい。
 そんな癒しとマナ溢れる僕の膝枕は、京とユキ曰く、殺人的な安心感を味わえるとか。
 膝枕で殺人ってなんでしょうね。未だに解らん。

舞香 「え、えぇえっ、ぇええっ!? ちょっと待って委員長!
    5分程度でその過程全てが終わるものなの!?」
北条 「実際終わりましたし……」
中井出「フフフ、試してみますかな、お嬢さん。
    それともォ……ルフェフェフェフェ、大切な友人を置いて、逃げるかね……?」
舞香 「この時点でもう悪でしょこれ! 未唯!? ミィーーーッ!!
    正気に戻って! やばい人だよコレ絶対!」
中井出「本人指差してコレ扱い!?」

 そっちの方が正気を疑いますが!?
 く、くそう僕だってほんとはこんなことしたくなかった! うそだけど!
 でもみんながわかってくれないから! うそだけど!

中井出「まあまあ。えーと《チラリ》」
北条 「《テコーン♪》金平糖をどうぞ」
舞香 「え? あ、う、うん、あんがと、いんちょ《ぱく、ころころ》……あ。甘い」
中井出「《ギシャーン!》」
北条 「《メギャァーーーン!!》」

 その際、僕も、きっと北条も、目を輝かせながら同じことを思ったことでしょう。
 ちょろいもんよぉ、と。

……。

 5分後。

舞香 「ふぅわぁ〜〜〜……っ! 髪も爪もぴっかぴか……!
    なにこれ、美容院なんて必要ないじゃんっ……!」
中井出「こと、人についてはとても詳しい男……こんにちは、中井出博光です」

 こちら、片岡舞香さんは美容方面で攻めました。
 するとビンゴ。
 どうにも彼氏(?)と上手くいっていないらしく、そこらへんの愚痴を聞きながら髪とか爪の手入れをしてあげたら……コレモンヨ。
 現在は烏丸嬢のように膝枕をして、お顔の手入れをしているところ。
 栄養水を薄めたものをぺたぺたと頬に塗って、そこから軽く揉むようにして顔全体に馴染ませる。それが馴染んで乾いてから次のブツを塗って、やはりマッサージすることでデトックス。
 体に溜まった老廃物を気化させる液体だ。創造物なのでどこにも売ってはいません。

北条 「わああ……どんどん綺麗になりますね……!」
中井出「おなごは元々可愛いものです。
    化粧で変わるとかいいますが、人はそれぞれ好き嫌いがあるのですから。
    無理に変わる必要もなければ、元からの素材を活かせばいいだけのこと。
    そして俺はあまり飾らないお子のほうが好きな男。
    まあ、相手の趣味にとやかく言ってまでやめろとは、もう言わないけどね」

 体にどうしても溜まる毒素を抜いてやれば、お肌もあっさり生き返り、赤ちゃんのように瑞々しいお肌の復活。
 お肌が“こうなりたい”と叫んでいる方向へと成長ホルモンを向けてやれば、少し眠たげだった瞼もパッチリし、肌にあった弾力もさらに強化される。

中井出「はい、赤ちゃん肌完成〜」
舞香 「え? あか……え? なになになに?」
未唯 「完成って、出来るものなの? どれどれ〜」
舞香 「《ぽにゅり》ほわぅ!? ちょ、急に頬つついたりとかっ」
未唯 「ほわぁああ〜〜〜っ! やわらかっ! お肌もっちもち!
    こ、この吸いつくような弾力! けれど肥満ではないこのやさしい肌……!」
舞香 「え? え? そんなに違う?」
北条 「こう言ってしまうのも大変失礼だとは思うのですが、元の肌の倍以上は……」
舞香 「あぅう……確かにソレ、褒められてるのに褒め言葉じゃない気がする」

 それが済めば、片岡さんはむくりと起き上がってほにゅほにゅと自分の頬を触る。
 触って、ほわぁあ〜〜〜……!と奇妙な驚き声を漏らしていた。

中井出「じゃあえーと。あんぱん食べていい?」
北条 「勝手ながら、私もやっていただけると嬉しいんですけど……」
中井出「アウウ! あんぱん! あんぱーーーん!!」

 何故かお預けくらって美と愛の目覚めに協力する僕が居た。
 だ、だって北条が! 北条が僕のパンを取って、“友達を作るチャンスですっ! 食べてる場合ですかっ!”っておかんチックなお節介を焼くんだもの!
 あんぱんを人質にされてはこの博光、もはやなにも出来ん……!

中井出「うう……じゃあ、どうぞ」
北条 「では、失礼しまして」

 べつにさ、腹黒いとかじゃないのよこのお子。
 お節介焼きだしやさしいし気が利くしさ、よく周りを見てるなって思う。
 だからこそこういう風に、別の何かより自分を優先するのは珍しい行為なんだろうなと思うわけですよ。……思っちゃったら後には回せんでしょ?
 誰かに甘えるのって、これで結構勇気が要ることだ。
 それも、友達にすらなってない相手に対してだと余計にさ。
 だからそんなお子への対応も即座に実行!
 甘え子からの密かなメッセージも見逃さぬ男! スパイダーマッ!
 その代わり、いろいろなものを見逃している気がするのはどうして?
 ……気の所為だよね、うん。

中井出「いんちょ、髪キレーだねー」
北条 「女の子ですからっ《テコーン♪》」
中井出「や、膝枕しながら眼鏡の上げ下げって意味ないと思う」

 失礼ながら、断りを入れて眼鏡を机の上へと置かせてもらい、お手入れ開始。
 例のごとく栄養水やら天然由来成分混入液(フェルダール製品)を使ったお手入れに加え、髪にはそれ自体を活性化、癒す櫛を通しながら、コンパクトマナドライヤーでファゴーとお手入れ。
 するとさらさらだった髪がさらにさらさらに、ボリューミィに仕上がる。
 それをつい癖でポニーに……しそうになったところで踏みとどまる。
 危ねぇ……! つい自分の趣味が……!
 ていうか寝転がってる人の髪にそこまで出来るこの博光も相当よ。
 京とかユキのお世話の賜物ですな。ところかまわずやってやってとせがまれたのですから、この博光のお世話……場所なぞ選ばぬ!《どーーーん!》

中井出「ほい完成」
舞香 「………」
未唯 「………」
北条 「あ、はい、ありがとうございます《パパァアア!!》」
舞香 「うおっ! まぶしっ!」
未唯 「おかあ……委員長まぶしっ!」
北条 「はい?」

 ようやく戻ってきたあんぱんに笑顔でかぶりつく僕の横。
 椅子を丁寧に直してくれる北条を見て、烏丸さんも片岡さんも眩しがってた。
 ハテ、フェイスフラッシュでもされたのだろうか。

中井出「ぬ、ぬう。よもや北条がキン肉族の末裔だったとは……!」
北条 「全力で違いますからね?」

 それでもキン肉族は知ってるんだね。
 よかった、話が合いそうだ。

未唯 「まさか……眼鏡をとった委員長がここまで……!」
舞香 「3500……4000……戦闘力がまだ上がるだと……!?」
中井出「うまい! あんぱん!」

 人の反応はそれぞれ。
 視力に関しても少々いじったので、眼鏡をつけなくても目が十分に見えているらしい北条は、眼鏡の存在を忘れたのかつけているものと勘違いしているのか、普通に椅子を戻してくれている。
 そんな彼女は例のぐるぐる眼鏡を取ったら美人でしたな委員長パターンだったようで、片岡さんと烏丸さんは完全に驚愕モード。そしてそれは僕には関係ないのであんぱんが美味い。
 ワイワイ騒ぐお子めらを横目に、あんぱんと牛乳のコンビネーションに舌鼓を打った。

中井出(……そういや、辻堂さんは何処で食べてるんカナ)

 買って、戻ってきたときには既に居なかった彼女。
 やっぱ屋上とかかな。
 決闘場でメシか……イカス。

……。

 放課後。
 特に会議がなかった今日、特に話を合わせることもなく二人で居た。
 厳密に言えば、少し時間を潰してから誰も居ない教室に戻ると、夕焼け眩しい教室にひとりポツンと辻堂さん。
 目が合うと「オス」と軽く手を上げた。もちろん僕も「やあ」と返しました。
 挨拶って大事。
 あ……でもここじゃあ人目につくかな?
 なんたって辻堂さん、今日は猫ポスターを持ってるやもしれんのだ。
 ここはあえて、もっと人目がつかんところへ……!

中井出「辻堂さん、ちょっといい?」
辻堂 「ン? ───」

 クイッと天井を指差す。
 すると少しの驚きののちに溜め息を吐いて、先立って歩く僕のあとをついてきてくれた。
 廊下を歩き、階段を昇り、なんか途中でリーゼントな誰かに睨まれたけど、後ろに辻堂さんが居ることに気づくとハッとして、どこかへ走っていってしまった。
 なんだったんだろ、あれ。

中井出「ふんりゃっ……おお」

 少々重い扉を開ければ屋上。
 夕焼け眩しい高い位置へ来るたび、秘密基地を思い出す。
 もはや一種の郷愁みたいなものだ。
 もう戻ることも出来ないのだから、思っても仕方ないのに。

中井出(望みは消してはやらないけどね)

 いつか帰ることを夢見てる。
 その夢は、叶えるのがとても難しいが、諦める気は全然ないのだ。
 ……いや、今は言いますまい。

中井出「さあ、辻堂さん」

 話が終わればすぐに帰る予定だったので、持っていた鞄に目を落とす。
 辻堂さんも目を落とし、溜め息を吐いてそれを……屋上の地面に下ろす。
 ……アレ? なして下ろすの? 猫ポスターは?

辻堂 「……いつか来るとは思ってたけど、いい気分じゃねーな」
中井出「え? そうなの?」

 昨日はあんなに嬉しそうだったのに。
 もしかしてポスター刷るの、失敗した?

辻堂 「……クラスメイトから決闘を申し込まれるのはよ」
中井出「───」

 柴田亜美調で鼻血が出ました。もちろん笑顔で。

辻堂「いいぜ、クラスが同じよしみだ。立会人なし、ルールなしで勝負してやる」

 ……勝負!? え!? 決闘!?
 な、なにを言っている!? 解らない! 理解不能理解不能!
 ……あれ? そういえば前の時もヘロスィーがどーのこーのと思い出したことが。

中井出「………」

 決闘。屋上。特に説明なく屋上へ来てアピール=アタシと決闘。
 フワーォ!? 軽く考えてみたらすごく嫌な方程式が! 好みじゃないですこんなの!
 それなのに今はふとした弾みでやってくる訳のわからない胸の痛みを───楽しめないよこんなの!!
 フッ……だがよ。相手がノリノリならわざわざそんなノリを壊すわけには……いかねぇだろ? なので僕もそれっぽく鞄を置くと、にこりと笑う。

辻堂「つっても、アタシはこの身ひとつでやるがな」

 そんな言葉にステキな一言。

中井出「お前には出来ないかもしれない」

 少し渋い顔で笑みながら言うのがポイントです。
 屋上っていったら決闘。そうとしか考えられぬお子めが……後悔させてくれるわー!

中井出「グオゴゴゴ《バゴシャア!!》ギャアーーーーーッ!!」

 2秒で沈められました。
 このままでは終わらんぞーって感じにキリモミで吹き飛びましたさ。

中井出「ほががががが……! い、痛い……!」
辻堂 「まだやるか?」

 で、脇腹から地面に着地してからは、生まれたばかりの小鹿のようにガクガク震えながらも立ち上がる僕。

中井出「フッ……もちろんさ。だが次は、ちとブツを使わせてもらうぜぇ……!」
辻堂 「……はぁ。いーよ、出すならさっさとしろ」

 一瞬、凄く悲しそうな、落胆したような顔をする辻堂さん。
 あれ? もしかしてなにか期待してた?
 一種のあのー……お前は武器を使うようなやつなのかとか、そんな?
 や、まあ武器といえば武器ですが。ただし武器とは言わずブツと言っただけです。

中井出「はい、3会のポスター」
辻堂 「───……は?」

 で、鞄を漁って出したのは3会のポスター。
 委員会から出されたものを僕が独自にアレンジしたものだ。
 だって文字が小さくて絵ばっかデカくて解りづらいんですもの。
 絵っていうか、加工した写真みたいだね。

中井出「いやー、昨日いろいろチャレンジしたらつい熱が入っちゃって。
    いろいろ工夫したらかなり見やすくなったと思うんだけど、どう?」
辻堂 「え? あ、え? えっ?」

 あせあせと、渡されたポスターと僕を交互に見る辻堂さん。
 さっきまでの凛々しい顔はそこにはなく、歳相応よりももっと子供っぽい彼女からは、なんというか隙だらけの可愛さが滲み出ていた。

辻堂 「え? だっ……え? 決闘……え?」
中井出「うん。なんか勘違いしてるみたいだったから、とりあえずは決闘してみました。
    一撃で負けたので、本題に入ろうかと」
辻堂 「………………か……かんち……がい……?」
中井出「屋上=決闘って、僕がンなことするわけないでしょうが。
    教室じゃあいつ誰が来るか解らないから、屋上でって思ったのです。
    辻堂さんももしかしたら猫ポスター持ってきてるかもと思ったから、余計に」
辻堂 「………………〜〜〜〜っ《かぁあああっ!!》
    ばばばっばば馬鹿野郎! そういうことは先に言えよ!
    テメェアタシをおちょくって楽しんでやがったのか!?」
中井出「殴られたので言いっこなし」
辻堂 「うぅ……わ、悪い……。
    急に屋上だなんていうから、アタシてっきり……」

 殴った頬をちらちらと見てくる様は、悪いことをしてしまって怒られやしないかとびくびくするお子でした。あの……撫でていいっすか? 可愛すぎるんですが。
 ……じゃなくてっ! おお危ない! 烏丸さんやらを甘やかしまくった所為で、そういう方面の感情が前に出すぎてる! 落ち着けー、落ち着くんだオックスベア……!

辻堂 「その……大丈夫か? 結構いいのが決まったと思うんだけど……」
中井出「殴られるのには慣れておりますとも。
    人をからかったのなら相手の行動のあらゆるものを受け止めて、
    これを両成敗と成す。それが僕の生き方です。
    なので辻堂さんももう気にしないで」
辻堂 「ン───そか。お前がそう言うなら、解った」

 結構さっぱりした性格なようで助かった。
 ここでネチネチとそれじゃあ気が済まねーとか言われたらどうしようかと。

中井出「では本題を。明日……休日を利用してポスターを貼りに行きまする。
    ついでにちらしも配ったりして。
    伝統ってくらいだから知ってる人も多いし、
    ちらしも受け取りやすい角度でソッと差し出せば受け取ってくれるハズ。
    一応確認のために商店街とか回って、連絡行ってるかどうかも調べたからOK」
辻堂 「そんなことまでしてたのか!? ていうか、呼べよ!
    そういうところで協力しなきゃ、アタシが居る意味ねーじゃんか!」
中井出「や、一緒に北条……委員長も居たから、辻堂さん困るだろうし」
辻堂 「うぐっ……委員長か……。
    言いふらすようなヤツじゃないとは思うけど、だからって……うう」

 仲間はずれにされたみたいで悔しいらしい。
 うーん、やっぱりこういう素直な面では、ちょっと子供っぽいのかもしれない。
 無理してツッパってるより、自然体でこういう人の方が大好きです僕。

中井出「それでだけど。猫ポスターのほうはどうです?」
辻堂 「ああ……それなら昨日フケてからソッコーで刷り切ってやったよ……。
    チラチラ見てくるナメた店員にニラミ効かせて、
    コピー用紙ガンガン削ってやったぜぇ……!」
中井出「で、コピー部分に本紙忘れて店員にクスリと笑われたとか」
辻堂 「しねーよ馬鹿野郎!!」

 想像してみて恥ずかしかったのか、実際しそうになったのか、顔が真っ赤な辻堂さん。
 そんな辻堂さんと明日について話し合う。

辻堂 「……つかさ、これ。
    家帰ってからケータイで話した方が安全だったんじゃない?」
中井出「ケータイとかいうものでの電話ってどうも苦手でして。
    やっぱりこうして面と向かって、目を見ながらのほうがいい気がしますです」
辻堂 「まあ、解るけど。
    ……相手がどんなツラで話してるのかなんて、解らねぇからなぁ……」
中井出「とりあえずなんでもかんでも悪い方向で考えるのはやめてください」

 気持ち、解るけど。
 声は上機嫌でも顔は嫌そうにケータイとかいうもので話をしてる、とかは勘弁だ。
 なら顔を見ながら話したいじゃない?

中井出「けどまあ、確かにこのまま屋上に居たら誤解されそうではあるかなぁ。
    じゃああとの気になったことは電話で。
    あ、もちろんケータイとかいうものに我が番号が映るのも嫌だとしたら、
    自宅電話でもOKです。我が家の黒電話が光って唸る!」
辻堂 「……お前さ。あんまそうやって自分を卑下すんな。鬱陶しい」
中井出「だってノート持ってるだけでキモイとか言われたんだもん!
    言いたくもなるよ! でもOK、そう言ってくれた心意気、実に感謝。
    辻堂さん、やっぱりいい人だ」
辻堂 「なっ」

 素直な心をぶつけてみれば、あわてふためく辻堂さん。
 やっぱり感謝とかされるのや、いい人とか言われるのは慣れてないらしい。

中井出「いつかの朝にさ。猫が捨てられてる時、拾ってやれればなって思ったんだ。
    でも俺は一人だし、広い場所で一人ぼっちっていう寂しさもよく知ってる。
    動物にそれをさせるのは、結構酷かなって思って、手を伸ばせなかった。
    でも、一時的にでも伸ばしてくれる人が居てさ、
    自分が雨に濡れてでも、寒がってる猫に傘を差す人が居た。
    なんか……嬉しくってさ」
辻堂 「なっ……う、や、やめろ馬鹿っ。
    アタシはただ、あいつがすげー寂しそうな目で見てくるから……っ」
中井出「うん」

 でも、そこに差し伸べられた時の安堵も知ってるんだよ、俺。
 だから眩しかった。自分のことじゃないのに、ありがとうって言いたくなった。
 いつか信じた先で裏切られても、温かかったことは嘘じゃないのだから。

中井出「俺はそんな人と友達になりたいって思った。
    ヤンキーだからとか、番長だからとかそういった目で見ずに、
    悪い人がやさしいところを見せたギャップがどうとかじゃなくてさ」
辻堂 「〜……」

 慌てた風情。
 ずっと目を見て話している俺に、時折思い出したようにガン飛ばしてくるんだけど、それも長く続かずにまた慌てだす。照れてるって、ひと目で解る慌てっぷりだ。

中井出「……ひどい言い方になるけど、結果的には朝に拾わなくてよかったって思った」
辻堂 「っ───な、なんでだよ」
中井出「辻堂さんの内面を知れたし、動物が好きってことも知れた。
    うん、仲良くなれたって思ってる」
辻堂 「───」

 ぴしりと硬直。
 彼女にとっては嫌な言葉回しだったのだろうか、固まったとはいっても怒りのあまりとかではなく、どちらかといえば驚きとか呆然とか、そっち側。

中井出「あ、もちろん迷惑とかだったら《ガキィッ!》はぼし!?」

 迷惑なら距離を置きますが、それでも仲良くなろうとすることはやめねー! と言おうとした口が、ガッシとクローされる。アイアンクローで顎を掴まれた感じのアレをご想像ください。

辻堂「〜……迷惑だなんて思ってねぇ。
   それ以上を言いたいってんなら顎外すぞコラァ!」

 えぇえ!? これってどんな状況ですか!?
 照れ隠しじゃないよね絶対! 顎外すぞコラァなんて照れ隠し、初めて聞くもん!

辻堂 「アタシだってそんなことはとっくに思ってんだ。
    お前が拾わなかったお陰であいつと遊べるし、お前とも仲良くなれたって。
    なのにお前がそれ否定したら、アタシがバカみたいじゃねぇか」
中井出「…………」

 真面目に。
 真っ直ぐに自分の気持ちのままに、説教された気分になったのはいつ以来だろう。
 ずっと昔か、それとも……ファミリーに全部を打ち明けて泣いた日以来だろうか。
 心の中に、小さいけれど、何か温かなものが生まれた気がした。
 そんな温かさを胸に、顎を掴む手にソッと触れると、辻堂さんは手を放してくれた。

中井出「……うん。ありがとう、辻堂さん」

 離れた手を軽く握って、真っ直ぐに彼女の目を見て感謝を。
 ああ、やっぱり人って暖かい。
 何度裏切られても、何度泣いても、踏み込んでしまえば感謝したくなる。
 何度、何回繰り返しても、裏切られるまで馬鹿みたいに信じて、たとえその先で泣いて後悔しようとも……信じて、信じられた瞬間は決して嘘じゃないのだと、何かに感謝しながら生きたくなる。

辻堂「……お、おう」

 真正面からの感謝に、照れながらも頷いてくれる辻堂さん。
 おかしな始まりだったろうけど、今ここに……不良と変人の友人関係が構築───

辻堂 「ていうかいつまで手ぇ握ってんだっ!」
中井出「《バッ》あぁんひどぅい!」

 ───された途端に振り払われた。
 や、別にいいんだけどね?

中井出「顔赤いですよ?」
辻堂 「うるせぇ!」

 夕焼けの所為だろうけど。
 なったばかりの友人に手を握られたくらいで赤くなるなんて、まさかねぇ?
 それとも“ハハハハァ〜〜〜ン? きっと友達なんぞ居なかったに違いねぇ〜〜っ!”と邪推したほうがいいのでしょうか。
 いや、さすがにこの博光、空気くらいは読みます。
 読んでないから顔赤いと言ったのやもですが。
 思ったことは口にしようって、出来る範囲で決めているもので。

中井出「じゃあ、改めて。中井出博光です。趣味は菜園の手入れと歌。
    得意なものはほぼ全て。苦手なものは逆上がりと指パッチン。
    肉じゃが以外はほぼなんでも食べられる、極々普通のヒューマンです」
辻堂 「ほぼ全てって。なんだそれ」
中井出「炊事洗濯掃除、子守もペットの手入れもなんでもござれ。
    いろいろあって覚えなきゃいけなかったもので、一通りは出来ます」
辻堂 「そっか……一人暮らしってやっぱ大変なんだな」
中井出「なにせ一人だもの。で、だけど。……よかったら友達になってください」

 思いよ届けとばかりに勇気を振り絞って願う。
 今でもこういう時は緊張する。
 改まった行動っていうのを嫌う人は多い。
 それが理由で嫌われやしないかとか、友達になんて大層な関係ではいたくないとか、そんな言葉が出てくるんじゃないかと……たとえ言うような人ではないと解っていても不安になる。
 そこに沈黙が生まれれば余計で、辻堂さんは俺を真っ直ぐに見たまましばらく沈黙していた。

辻堂 「…………───その」

 沈黙が解けたのは結構経ってからだ。
 なにをどれほど考えていたのか、難しい顔と、少々の疲れを混ぜたような顔を見せる。

辻堂「……解ってるのか? アタシは不良で───」

 出された言葉はそんなもの。
 来るんじゃないかと思っていた言葉のうちの一つだ、もちろん笑って受け止める。

中井出「辻堂さんこそ。
    俺は辻堂さんがそういう人だって理解した上で言ってるって解ってる?
    不良だからとか俺が一般的だからとかそんなんじゃないんだ。
    俺はちゃんと自分で知って、他人からの評価とかをアテにしないままの意思で、
    辻堂さんと友達になりたいって思ったんだ」

 珍しいんです、これでも。
 普通ならノリの延長でダチコーになる〜とかだ。
 でも、こうして真っ直ぐ伝えて友達になりたいって思ったのは、きっとすごく久しぶりなことだ。

辻堂 「うー……お前、よくそんな恥ずかしいこと、面と向かって……!」
中井出「人の付き合いっていうのは、その相手を知っていくことだと思いますです。
    いいところも悪いところも。やさしいところも厳しいところも。
    これから友達になって、
    辻堂さんの中に自分が嫌うなにかを見つけるかもしれない。
    辻堂さんだって俺の中に、かなりそういったものを見つけるやもです。
    でもいいじゃないですか、そんなの人間なんだから見つかって当然だし、
    それでも肩組んで笑っていたい人が居るから“親友”ってものがある。
    俺はそんな人の温かさが大好きです。
    そんな温かさを、他の誰が恥ずかしいと笑おうが、俺は大事にしていきたい」
辻堂 「………」

 目は逸らさない。これは俺の中の“真”だ。
 温かさを大事にしないなら、最初から誰も信じないし裏切られることもなかった。
 裏切られて辛い思いはしたし、泣いた数だって呆れるほど。
 それでもだ。それでも、俺はそういう、他の誰かが恥ずかしい行為だって思う温かさを大事にしたい。大事に大事にし続けた先に絆ってものが生まれるならなおさらだ。
 そこに絆があったなら、泣くのが俺だけでもいいじゃない?
 きっと、泣くまでは幸せなんだから。
 なんてことを、どこか自虐的に考えていると、辻堂さんが深呼吸をしたのちに僕へと言葉を放ちました。

辻堂 「───稲村学園番長、辻堂愛だ。
    好きな食べ物は蕎麦。飲み物ならココアとか甘いもの。
    趣味は……今さら隠してもしょーがねぇし、その。ど、動物と遊ぶことだよ。
    嫌いなことは曲がったことをすること。中途半端は嫌いだ。
    だから……だから、その。あー……ああもう、いいから出せっ!」
中井出「……《ソッ》」
辻堂 「だから10円じゃなくて! ケータイだよケータイ!
    〜〜〜……番号登録だっ! そのっ……もう、ダチ、なんだからっ!
    相手の番号とアドレスくらい知ってねぇとおかしいだろっ!」
中井出「エ? でも僕、辻堂さんには番号もアドレスも渡して───」
辻堂 「なんでテメェはヘンなところで察しが悪いんだよ!
    赤外線やったほうがダチって感じがするだろーが!」
中井出「……ああっ!」

 なるほど! 言われてみれば!
 慌ててケータイとかいうものを取り出し、赤外線通信でピピッと完了。
 画面に出てきた番号を見て、なんか、なんとも言えない奇妙な気持ちが浮上するのを感じる。

中井出「…………〜」
辻堂 「な、なんだよ、笑うなよ!」
中井出「え? わ、笑ってる? うそ」
辻堂 「思いっきりニヤケてるだろうが……そんなにおかしかったかよ」

 少し拗ねと寂しさを混ぜた表情で言う辻堂さん。
 そんな顔をさせてしまったことに、ちょっと罪悪感。

中井出「………」

 おかしかったんじゃない。
 人のことをニヤケて笑うのは、人をからかう時ばっかりだ。
 なのに自然と笑みがこぼれていたようだ。

中井出「……いや……はは……違うんだ」
辻堂 「あン?」
中井出「違くて。……〜……ああ、もう…………っ……嬉しいなぁ……っ」

 ……義理の姉が居ました。
 もうずっと会ってなくて、どう成長したかも解らない。
 友達とは呼べなくても、知り合いがいっぱい居ました。
 友達でもなかったために、もうどういう顔だったかさえ思い出せない。
 中学では不良まがいのことをやって、喧嘩ばっかりで、友達なんて居なくて。
 そんな俺に、ここに来てようやく一人。
 この世界での、多分初めてになるであろう友達が出来て、そんな一人目が“友達”って関係を大事に思ってくれる人で。
 難しいことなんてなく、複雑なこともなにもない。ただ、嬉しかったのだ。 

辻堂 「え、え? な、なんで泣くんだよっ」
中井出「いや……なんかもう、なんかで……嬉し泣きだから、気にしないでやって……」
辻堂 「いやっ、ダチの一人くらい居るだろっ? こんなことで泣くんじゃねぇよっ」
中井出「あっは……うん、
    そういうのじゃないんだ……そういうのじゃないんだよ、辻堂さん」

 俺ってこんな、涙もろかったっけなぁ。
 人の関係に線を引くのには慣れた筈なのに、内側に招いた人の前だとどうもだめだ。
 ……って言っても、この世界じゃ内側に来てほしいって思ったのが辻堂さんだけだったわけだ。それがこんなに嬉しいなんて、ほんと、人の関係ってどこでどう転がるか解らない。

中井出「……宣誓。俺、中井出博光は、辻堂愛さんを我が友とし、
    自分が裏切られるまで信じ続けることを誓います。───覚悟、完了」

 だから思いっきり胸を殴って胸に叩き込んだ。
 裏切られるまで裏切らないは自分の中の幾つかの“真”の一。
 川神で覚えた己の“真”(まこと)は、今も自分の中で燻ぶることなく燃えている。
 けど……それを相手がどう受け取るかは別だ。
 こんなことを目の前で宣誓されれば、嫌な気分になる人だって当然居る。
 もちろんそんなことは知っているんだ、解っててやったんだから。

中井出「……みんなね、俺の“友達”は重いって言うんだ。
    目の前でそんなこと言われちゃ、気楽な関係でなんていられないって。
    でもさ、そんなんじゃないんだよ。やることなんてなにも変わらない。
    友達なんだから、友達でいてくれるだけでよかったのにね」
辻堂 「………」
中井出「辻堂さんはどう? やっぱり、重いって思う?」
辻堂 「……誓わなきゃ安心も出来ねぇくらい薄っぺらな友情ってわけじゃないよな」
中井出「逆だよ。ほんと、裏切られるまで裏切らない。
    最初は気軽に付き合ってみりゃあいいのにってみんな言うね。
    でも……俺にはもう、こんなやり方しか出来ないんだ。
    押し付けだろうが重かろうが、最初から最後まで信じ抜く。
    裏切られたら俺が泣くだけで済むんだから、それでいいって思える」

 生きていてほしいと願ってくれたみんなは過去になってしまった。
 その時点で俺はまた、“俺が泣くだけで済む”を“真の一”の中に入れてしまっていた。今言った言葉にはこれっぽっちも嘘はない。
 それを鬱陶しい、重いと受け取るもよし。そもそも築く友情すらもがないとつっぱねるもよし。落ち込むのは俺だけなんだ、相手にとってはなんの問題もない。
 ただ、もしそれを、双方がいいように受け取ることが出来たのなら。

辻堂「……ふぅん。なんだ。じゃあアタシが裏切らなけりゃいいだけの話じゃねぇか」

 これほど心優しい関係などないことになるのだ。
 互いが互いを裏切らずに、ずっと互いと馬鹿やっていける。
 こんな理想的な関係、作ろうと思っても作れるものじゃあない。
 別にそんなこと普通で当然だという顔のまま、辻堂さんは俺の胸の前に拳を構えて、

辻堂 「覚悟完了、だろ? 文句は聞かねーぞ」
中井出「……おうっ、ドンとこいマイフレンド」

 くすぐったそうな、けれどやさしい笑みを浮かべた辻堂さんが、俺の胸をドンッとノックした。腕力はかなりあるようで、ズドンと芯に響いたが……それだけ胸に染みる威力があった。

中井出「〜〜〜……ったぁ〜……!」
辻堂 「え、あ、悪いっ、つい嬉しくて力がっ───嬉しくなんてねーよ馬鹿野郎!!」
中井出「えぇっ!? 嬉しくないの!? 俺嬉しいのに!」
辻堂 「うぐっ!? う、うー……!」

 慌てふためき、けれど少ししてから自分も嬉しいことを教えてくれました。
 ああ、やっぱりいい人……!
 勢いで偽ってしまうことはあっても、根っこのほうでは嘘が嫌いなんだろう。
 考えることをしっかり考えると、まず曲がったことはしないようだ。
 むしろ頭をがしがし掻き乱したあと、じとりと僕を見る彼女。調子狂わされっぱなしだとでもいうかのような「調子狂う」……言われた。

辻堂 「……なんか、お前に嘘とかついたりヘンな見栄張るの、あほらしい」
中井出「べつについてもいいよ? 冗談とか大好きです。
    許容範囲広いから、キッツイ冗談だろうと受け入れる所存にございます」
辻堂 「いいよ。わざわざつく必要もないだろ」
中井出「べつに気にしないのに。“こいつには嘘つかない”とか気負わないでね?
    言った言葉は重いものだったかもだけど、
    規則作って縛りたいとか全然そんなことないから。
    俺、楽しいのが大好きです。だからヘンに気負われるのは辛いです」
辻堂 「ン……そんなもんか?」
中井出「押忍。覚悟してね辻堂さん。俺は、線の内側に入った人には容赦しないから」
辻堂 「容赦しないって。たとえば?」

 急に元気になってポーズまで取る俺に、辻堂さんは小さく噴き出しつつ言う。
 そんな彼女を前に、俺はファイティングポーズを取ってみせた。

中井出「ククク、実は先ほどの攻撃はわざと受けたのだ……!
    俺がその気になれば、貴様なぞイチコロぞ……!(俺が)」
辻堂 「…………《ぽかーん……》…………ハッ!?
    いや、その……なんだ。えと……やる気……か?」
中井出「友達の青春! それは喧嘩も込みの楽しいもの!
    喧嘩しても許し合えるから友達だって誰かが歌ってました!
    そして俺は相手が内側の相手なら、
    たとえハゲにされようがビンタされようが大抵のことは笑って済ます!
    あどけない少年の友情にむせびなく男! スパイダーマッ!」
辻堂 「そ、そんなもんなのか?」
中井出「YES! そんなわけで勝負!」

 もちろん本気など出せようはずがございません。
 あくまでじゃれあいの延長の喧嘩さ! そしてこれはそう……今ここへ向かっている者どもへの見せしめよッッ!!
 とか思ってるうちにドヴァーンと開かれる屋上の扉! そこから駆け出てくる辻堂軍団の不良たち!

久美子「愛さぁん! 男を連れて決闘してるって───」
中井出「《ゴシャーン♪》今! ───グオゴゴゴ《バゴシャア!》ギャアーーーッ!」

 そして再び空を飛ぶ僕参上。

久美子「出たーーーっ! 愛さん77の必殺技のひとつ! ギャラクティカ昇竜!」
中井出「お、恐ろしい! あれを喰らったものは顎が砕け、
    立っていられなくなるともっぱらの噂ッッ!」
久美子「ああ───ってうぉわぁーーーーっ!!?」
中井出「ホイ?」

 吹き飛んだけど受身取りました。最強。

久美子「んな馬鹿な……!
    喰らえば顎が砕けて立っていられなくなる愛さんの一撃をくらって……!」
中井出「ククク……当たる瞬間に自ら後ろに飛んだのよ……!
    なのでダメージは最小限でグオオ脳が揺れる……!!」

 ただしキリモミで飛んだ所為で目は回りました。
 ほんといちいち格好つきません。

久美子「ははっ……愛さんに単身で挑戦するって根性は認めてやるけどなぁ。
    そんなザマじゃあ愛さんには一生……いや、来世でも勝てねぇぜっ!」

 ぬおおこのお子め、ここぞとばかりにひどいことを!
 だがOK、きちんと決闘していると受け取ってくれたようだ。
 辻堂さんのことだし、一般生徒とダチになったなんて思われたくないだろうしね。
 チラリと見れば、そんなことを見透かしていた俺を慌てた表情で見つめ、おろおろしていた。おお、どうやら殴ってしまったことに罪悪感を覚えているらしい。
 でもね、そんな心配とかは必要ないのです。
 どうか安心してください。

中井出「ぐふっ……! た、確かに……貴様の言う通り……お、俺の負けだ……。
    だが辻堂愛! 俺は諦めたわけじゃあないぞ!
    たとえ何が起ころうと決して折れぬ! 俺の覚悟は曲がらぬ!
    何度殴られようと、裏切られぬ限りは貫く覚悟が俺にはあるッッ!!」
辻堂 「───!」

 叫ぶ言葉に、辻堂さんがハッと息を飲む。
 覚悟って時点で意味を受け取ってくれたらしく、驚きに見開かれた瞳に力強さと熱さが篭っていくのが解る。

久美子「愛さんの技をくらってまだ折れねぇとは見上げた根性だけどな、
    生憎そんな覚悟ごときじゃ、愛さんには一生勝てねぇんだよ!
    この雑魚野郎! 出直してこいやコラァ!」
中井出「フ、フフッ……今日はこれくらいにしといたるわぁあーーーーーーっ!!!」

 ステキな捨て台詞を吐いて逃走。
 こういうことが出来るから負け戦はステキ。
 決闘ってことだし、囲んでボコるとかないから余計に。
 鞄を拾って屋上から校舎へ入って、階段を下りながらケータイとかいうものをいじって、早速メールを飛ばした。
 それで今日のガッコでの行動は終了となりました。



-_-/辻堂愛

 捨て台詞を吐いて走ってゆく中井出を見送った。
 屋上では、やってきたばかりの軍団連中がわいわいアタシの勝利を喜んでいる。
 特にクミ。お前は少し静かにしてくれ。

愛 「………」

 また乗せられるままに殴ってしまった。
 クミたちが来るって解ってたのかな。
 それを思えば、なんで急に襲いかかってきたのかなんて、いくらアタシでも解る。
 アタシと仲良くやってるのがバレると、アタシにとって都合がよくないからって。
 なんだよアイツ、自分のためにしか動きたくないとか言ってたくせに。言ってることとやってることが滅茶苦茶じゃんか。

愛 「《ピピンッ》ン……メール?」

 ポケットに手を突っ込んで、ケータイを取り出すと着信。
 開いてみれば中井出からで、件名は“またね”。
 内容は……『別に話すことや決めておきたいことがあったらメールか電話ください。こんな形でのお知らせで申し訳ないけど、ばいばい辻堂さん。また明日』って感じだ。

愛 「………」

 またね。
 なんでだろ、あいつが言ったり書いたりする“またね”は、凄く大事なもののような気がした。ただの挨拶なのに。ヘンなの。

愛 「……あは」

 知らず、笑みがこぼれた。
 中井出博光か。はは、ヘンなヤツ。
 相手との関係で涙出来るやつなんて初めて見た。
 一般的に見りゃあ気安くなくて重いヤツなのかもしれないケド、とんでもない。
 重いって考えるから重いんであって、多分アイツほど重くない友情を提供してくれるやつなんてそう居ない。
 一言で軽いって言っちまうのと、重くないって言うのとでは大分違う。

久美子「愛さん? どうかしましたか? ケータイ見て笑ったりして」
愛  「なっ……なんでもねぇよ。それより何事だよ、急に」

 言いつつもケータイをしまう。

愛 (……そういや……男を登録するの、初めてだ)

 ふと頭の中に浮かんだ自分の言葉に、少しだけ躊躇みたいなのが生まれた。
 でもすぐに消える。別にいい。男だどーだって括っちまうのは、なんだかつまらない気がした。

久美子「いえ、愛さんが男連れて、屋上に向かってるのを軍団の一人が見たとかで」
愛  「……はぁ。もういいよ、そういうの。アタシが負けるとでも思ってたのか?」
久美子「もちろんそんなことはこれっぽっちも!
    でもあれから結構時間経ってるのに、相手が満足に動けたってのは意外でした」
愛  「う……タ、タフなやつだったんだよ。
    強くはねぇけど、頑丈さをウリにした恋奈みたいなやつだった」
久美子「片瀬恋奈……アノヤロウと似たやつだったのか。
    アイツ、さっきの服……稲村のでしたよね。
    今度見かけたらタダじゃおかねぇ……!」
愛  「クミ。私怨で人ォ襲ったりしたら、アタシが黙ってねぇぞ《ギロリ》」
久美子「ひぃっ!? そ、そそそそりゃもちろんです!」
愛  「あ……むしろお前、前に言ってた万券置いてったヤツって」
久美子「? ………………そういえばさっきのヤツに似てるようなそうでないような」
愛  「お前はもうちょっと人の顔を覚えられるようになろうな……」
久美子「愛さん以外の存在の顔なんてどーでもいッすよ!」
愛  「………」

 中井出のことをヘンなやつとは言ったけど、こういうのはもっと扱いづらい。
 もうちょっとなんとかならねぇかな、こいつの性格。
 思いつつもケータイを取り出して、メールを送る準備を。相手はもちろん中井出だ。

愛 「………《カタカタカタ……カタ……》」

 ン……やっぱメールって苦手だ。
 電話で話すか直接話したほうが早いんだろうけど、軍団の前で堂々と話をするわけにもいかない。そもそもそんなことをすれば、あいつがわざわざ殴られてまで屋上の件を決闘にしてくれた意味がない。

愛 (お前、前にクミに一万とられたか、と)

 ……物凄く微妙な本文が出来た。
 ばいばい、とかまたね、に対して届けるもんじゃない。絶対にだ。
 でも一万だ。大金だ。それを取ったままなのは気分が悪い。
 クミには一切使うなって注意したから残ってるはずだし、取った相手が解ったなら返さなきゃ筋が通らない。
 覚悟を決めて送信すると、あっという間に戻ってくるメール。
 本文は『募金したんであって、盗まれたわけじゃあございません。それで軍団のみなさんと一緒にラーメンでも食べるか、猫に猫漢でも買ってあげてください』ってものだった。
 クミも言ってたけど、まさか本当に募金で通すつもりなのかアイツ。
 ていうか猫漢ってなんだ? ……猫缶って書きたかったのか?

愛 「………」

 付き合いは短いケド、なんというか……あいつは絶対に、一度言ったら聞かない。
 募金だと言って手放したなら、あの一万はもう戻らないものだと覚悟を決めている。
 そんな気がした。

愛  「クミ。その一万だけど」
久美子「あ、はいっ! もちろん使わずに取ってあります!」
愛  「えと。……さっきの決闘の勝利条件がソレだったんだ。
    アタシが勝ったから、お前らで好きに使え」
久美子「え───いいんすか!?」
愛  「ああ。そーいう条件だ。それと、勝ったとはいえ決闘は決闘だったんだ。
    向かってくる勇気は認めてやれ。
    元はこっちがちょっかい出して所為で出された万券、
    取り戻しにきただけなんだからな」
久美子「あ……ハイ、すいませんっした」
軍団 『すいませんっしたァ!!』
愛  「はぁ……解ったならいいよ。今日はもうハケろ。アタシも帰る」
久美子「お疲れ様です!」
軍団 『お疲れ様です!!』

 疲れた。
 こいつらの相手ってやっぱ疲れる。
 でも厚意や善意でやってきてるから無碍にできないし。

愛 (……家に帰って、猫で癒されよう)

 中井出がくれた猫グッズは完璧だった。
 猫じゃらしには無邪気にとびつくし、爪とぎしてる時のお尻をぷりぷりさせる様は感動ものだ。そして……マタタビ。あれはヤバイ。言われた通り、手にシュッとかけたら猫がスッ飛んできた。
 夢中になって手に体を摺り寄せてくるし、舐められるし、ごろごろ言うし、可愛すぎてたまらない。どこに行ってもついてくる様は、まるで自分が母猫にでもなったかのような緩い感動をアタシにくれた。あれはいいものだ。
 家に帰ればあんな可愛い存在が待っていると思うと、今から楽しみでならない。
 今日はどんなことして遊ぼうか。

久美子(愛さんが笑ってる……しかも鋭い目つきで……。
    まさかこのあとも、誰かとヤる気じゃ……!)

 猫というのは意外に素早い。
 どれだけ巧みに猫じゃらしを捌いてもすぐに追いつかれる。
 アタシも半端な遊び方ではあいつを満足させてやれない。
 ……今から腕がなる。

愛  「たっぷり可愛がってやるぜ……!《ニタァ……!》」
久美子「ひぃっ……!?」
軍団 『ざわっ……!』

 さあ帰ろう。
 帰って、まずは今日こそ鋭い爪を……

愛 「じっくり削り取ってやらねーと……!」

 めらりと闘志が燃える。
 もらったものの中にはヤスリもあったから、丹念に削ってあげよう。
 嫌がって手を引っかかれもしたが、あのマタタビを使えば今度こそ……。

久美子「……なんてこった。愛さんがとうとうその気になっちまった……!」
軍団B「削りとるて……愛はん、まさかとうとう武器を手に……!?」
軍団A「あの、素手で熊さえ倒すって言われてる愛さんが……!?」
久美子「気になってはいたんだよ……あの愛さんの腕に、小さな傷があったんだ……。
    まさかとは思うが、今日これから傷をつけたそいつを殺りに……!?」
軍団 『誰だか知らないが、明日の朝日は拝めまい……』

 後ろから何か聞こえたけど、猫を思えばどうでもよかった。




-_-/中井出博光

 家に帰ると自然が出迎えてくれた。
 少し高い位置にある林の中にある自宅は、いつかの世界のままの姿でここにある。
 京やユキが手入れしてくれていた菜園も、二人がいつも使っていた道場も。
 ……一人で寝るには大きすぎる布団も、そのままだった。

中井出「〜……♪」

 菜園の手入れが済むと、歌を歌って自然に癒しを。
 家の周りはマナの花で溢れており、当然マナと癒しの大樹も存在している。
 購入した敷地内はゼロの使い魔のド・オルニエールやウエストウッドでそうしたように、膜を張ってマナと癒しの流出を防いでいる。
 だから敷地内に入れば問答無用で心が落ち着くし癒される。
 ……そんな理想的な環境にあっても、寂しさだけは紛れなかった。

中井出「…………我が家に帰ってきて、寂しいって思うのもヘンだよね」

 もう慣れた筈じゃないか、そんなもの。
 なのに……友達が、線の内側に招きたい人を見つけてしまうといつもそうだ。
 人って弱いね。いつまで経っても……いや、経ったからこそなのかもね。

中井出「………」

 ケータイとかいうものを見る。
 なんで毎度毎度“とかいうもの”をつけるのかは、まあいろいろあるのだ。
 電話、がついていなければただ“持っている”という意味でしかないケータイ。
 その言葉の全てをこの小さな電話のみに宛がうこの世界が、この博光は許せンのだァーーーッ!! ……ああだめだ、理不尽な理屈をこねてみても、心が晴れない。

中井出「やっぱり、俺が飼うんだったかなぁ……猫」

 そしたら家で一人ぼっちなんてこともなくなるのに。
 代わりに俺がガッコとかバイトに行くと猫が一人ぼっちになってしまうから、そんなのは俺が嫌なのだ。世の中上手くいきません。

中井出「……電話、こないかな」

 もう心が弱くなっている。
 だめだな、ほんと。
 違う世界に来るたびに覚悟を決めて進むのに、多少孤独じゃなくなった途端、すぐに心に隙が出来る。こんなんじゃいけないのに。
 もっと強くおなり、博光よ。
 約束もされてない希望を目指して、最果てまで行くんだ。
 いつか、このちゃんが言ってた世界の果て。忘れられたものが集うそこで、ずっと暮らすらしい俺……暮らせるらしい俺。“ずっと”があるのなら、呪いの運命を破壊できるほどのマナが溜められるはずなんだ。
 だから……きっと、俺を忘れたみんなの記憶も集うであろう最果てを目指して。

中井出「勇往……邁進、だよな。京」

 生きて傍に居てほしいと言ってくれた人に向け、声を漏らした。
 今ならば会える人。姿は同じでも、大和に救われた過去を持つ彼女。
 会っても結局感謝なんて届けられないから、そこに意味なんてまるでない。

中井出「会えるのに、本当の意味で会えないって……辛いなぁ」

 それでも近いうちに川神に行かなきゃ。それが川爺とした約束だ。
 辻堂さんのパパさん、楽しくしていられるといいなぁ。

中井出「さてと。いつまでもしんみりしてないで、お風呂お風呂」

 温泉にでも浸かって、寂しさなんて吹き飛ばそう。
 考え込むと暗くなるのはよくない癖だよ、きっと。

……。

 風呂に入ってさっぱりしてから、自室で時間を潰す。
 なんというか……夜は暇だ。やることがない。
 勉強も適当にやったし、明日のおべんとの準備も完璧だ。
 たまにあんぱんが無性に食べたくなるから作らない時もあるが、完璧だ。
 というかね、自分で作る弁当って結構虚しい。
 誰かに作って喜んでもらえたほうが、作り甲斐があるよアレ。
 そう、この博光は、誰かの笑顔が見たいこの博光のためにこそ誰かに弁当を作るのだ。
 舌がとろけて幸せ顔になるがいいわグオッフォフォ……!! って、そんな感じ。

中井出「うう、暇だ……暇だー……ウオッ!?」

 ふと気づくと、手にケータイとかいうものを持っている自分に気づく。
 ウ、ウオオ……どれだけ気にしてるんだ俺。
 もう遅いし、きっと電話なんてこないって。だから離そう? ね?

中井出「………」

 ……だめでした。
 やっぱ寂しいみたいです。
 お、俺からかけちゃおっか? 明日の集合時間とか待ち合わせ場所、気になるし。
 あ、でもメールで場所指定するだけのほうが面倒って思われなくないですか?
 …………ウ、ウギギー! あれ!? 俺ってこんなんだっけ!?
 なんか上手くいかないよ!? なにこれ!
 元々ケータイとかいうものは得意じゃないけど、ちょっとおかしいって!

中井出「《ナルルルル》キャアーーーーーッ!!!?」

 とか悶えていたら急に鳴り出すケータイとかいうもの!
 お、恐ろしい! この機械め、どれほどこの博光を混乱させればっ……!
 だが落ち着こう。落ち着いて、まずは手元でケータイとかいうものを拳銃をくるくる回転させるようにゴシャーと回転させて、スチャッと開いて耳に当ててハイ一言。

中井出「俺だ! 瀬戸内だ!」

 アニメクロマティ高校の瀬戸内ジャクソンの真似をしてみた。

声  『いや、お前獄殴狼だろ』
中井出「あれ? ───川神百代!?」

 百代先輩からでした。
 ええ、この世界ではモモとは呼びません。
 俺の中の特別はあの世界だけだったのだから、本人が居る場所では決して呼びません。

中井出「なんの用ですか切りますよ」
声  『おいこらー、こんな美人のお姉さんに電話かけられて、
    嬉しい嬉しくない以前に切ろうとするなよー』
中井出「知りません。今暇を持て余すのに忙しいんで切りますよ」
声  『そうか暇か。なら遊ぼう。
    ジジイから聞いたぞ? 決闘、する気になったんだってな』
中井出「いろいろあってねー……。で、どーせそうして誘って戦いにもつれこんで、
    今日のは遊びだから決闘はまた別でするぞとか言うんでしょ」
声  『はっはっは、お姉さんのことよく解ってるようで嬉しいぞ。
    というわけで今からそっち行くな。拒否は聞かん。そうするって私が決めた』
中井出「どこのジャイアンですかキミ! や、ちょ、来るな!
    来るんじゃあない! 来《ブツッ》……ギャアア切りやがったァァァァ!!」

 ヤベェェェェ!! モモが来る!
 ていうかヤツの性格からすると絶対に電話しながらもこっち向かってた!
 するってぇと今まさに《ピンポーン♪》

中井出「キャアアーーーーーーーアアアアッ!!!」

 その日僕は、玄関から聞こえるチャイムに絶叫するという奇妙体験をした。
 ていうか、どうして僕の居る場所解ったんだろ。川神院って怖い。



-_-/辻堂さん

 …………。

愛 「………」

 夜。
 リビングのソファに座って、ケータイを手に思考中。
 そういや明日ポスター貼りにいくのに、集合場所も時間も決めてなかった。
 そのことを訊かなきゃいけないんだけど……アタシから電話するのか?
 なんかちょっと躊躇が生まれる。
 や、そりゃメールとか苦手だから電話するのが一番手っ取り早いし、っていいや、しちまえ。うだうだ考えるなんて面倒だ。

愛 「《プルルルル……》あ、中井出か? アタシだけど」
声 『ホワウ!? つつつ辻堂さん!?
   ああ辻堂さん! 辻堂さんだった! よかった!』
愛 「?」

 よかったって、なにが。

声 『あ、いえ、こちらの話で……えと、もしかしなくても明日の?』
愛 「ああ、うん。朝からでいいのか? もしなにかあるなら多少合わせるけど」
声 『いえいえ、こちらも十分暇してるんで余裕です。
   あ、でもいろんな店が開くのが大体十時だから、十時頃でいきませう』
愛 「解った。何処で合流する?
   計画表混ざってたから読んだけど、まずは八幡の商店街からだよな?」
声 『ウィス。そっちからのほうがいろいろ回りやすいんです。なので鎌倉駅前で』
愛 「了解。助かるよ、あっちの方ならあんまり稲学のやつもいねーし」
声 『オ、オス。どうせなら楽しいほうが嬉しいもんね』

 どこか緊張を含んだ声で中井出は言う。
 “楽しい”。
 好きなものが楽しいことという、普通は誰でもそうだと思うことをハッキリ言う。
 口にしなくても解るって、と返すやつは……多分こいつのことを知ろうともしないヤツか、からかい半分に言うだけのやつだろう。
 楽しいって思えるってのは、そうじゃない時に深く考えてみれば、どれほど大事なことなのかってのが解るもんだ。
 退屈で、熱くなれるものがなくて、他のことに手を伸ばしてみたくても……今自分が立っている立場がそれを許さないことばかりが続く。
 でも、望んでその位置に立ってしまったのは自分で……───なのに。

愛 「…………」

 ふいになにかに感謝したくなる時ってある。
 今そう思ったアタシは多分、電話の先の男に感謝した。
 したいならしてしまえばいい。迷うことはない。

愛 「……ありがとー……な」
声 『ホイ?』

 口からこぼれる感謝。
 こぼれ出たら、なんだか気恥ずかしくなるんだけど、同時にするすると口からこぼれてゆく。それは過去の自分への呆れだったり、今の自分への小さな情けなさの吐露だったり。

愛 「アタシ……ほら、普段あんなだから、色々できないこととか多くて。
   でも、その生き方を選んだのもアタシで……その所為でできないことあっても、
   それは仕方ないことだって思って……」

 お前が引っ張ってくれた。
 ほんの少しの、自分の中の意地を崩せるなにかがあれば、きっと踏み出す一歩なんてのは軽く出てしまうはずなのに。喧嘩ばかりに勇気を以って、普通の人なら簡単に踏み出せる勇気を持てないヤツになっていた。
 ナメられるのが嫌だからなんて理由じゃ、自分の意思とは別に、相手の好みでナメられた事柄からまで気を張らなきゃいけなかった。誰々から見たアタシがこうだからこうでなきゃいけないとか、番長なんだからそんなことはいしない筈だとか、周囲の勝手な理想を押し付けられて……でも、押し付けられたもので一度でも身を固めてしまえば、それは全部自分の責任で。
 だから。だけど。

愛 「……ありがと。感謝してる……ホント」

 ……静かに、自分の奥底から漏れるような感謝だった。
 たぶん、こんな風になったのは初めてで、嬉しいのか恥ずかしいのかよく解らない。
 ありがとうって言えたならきっと嬉しい筈なのに、思ったことを素直に口にしたはずなのに、ケータイに耳を近づけることが……今は少しだけ怖かった。
 どんな言葉を返されるのか。それともアタシが感謝するだけでこの会話は終わってよかったのか。そんなことをぐるぐる考えていると、

声 『辻堂さん』
愛 「え───あ、なんだ?」

 ふと、改まって名前を呼ばれる。
 それはとてもやさしい声で、どんな返事でも来いやコラと構えたはずなのに、そんな構えがすぐに解けてしまうくらい……なんて言うのかな。……ン、たぶんこれ。“近い声”だった。
 声が近いとかうるさいとかじゃなくて、なんていえばいいのか……家族にやさしく話しかけるみたいな、そういう意味で近い声。そんな近い声が、少しだけ耳に届いた。ただ息を吸って吐いただけだったんだろうけど……その声が少しだけ震えていたように感じて───

声 『……ありがとう』

 ……感じた時には、生きてりゃ一度は耳にする言葉で胸がいっぱいになっていた。
 顔がチリチリして、自分で赤くなってるって、照れているって自覚できるほどに恥ずかしさを感じるのに……いつものように罵声で誤魔化すようなことが出来なかった。しちゃいけないって思えた。そこに理屈なんてなくて、ただ……そうしなきゃいけないって思った。

愛 「………」

 アタシはアタシの人生しか知らないし、これからもそうなんだろう。
 だから、あいつがどんな過去を背負って生きているかなんて考えても仕方ない。
 でも……“でも”だよな。
 解らねーから“知る楽しみ”ってのもあるんだ。人間、それでいいんだと思う。
 あいつはありがとうって言った。なら、返す言葉なんて一つでいい。相手からの素直な感謝は、胸張って愛けりゃあいいんだから。

愛 「……どーいたしまして」

 言ってみたらくすぐったく、どこかやさしく苦笑するみたいな声が漏れた。
 ほんと、ヘンなやつ。こんなヤツ初めてだ。

声 『……はは。えと、なんかしんみりしちゃったね。
   や、しんみりっていうかくすぐったいっていうか』
愛 「あ、ああ。そうだな。じゃあ、えと。明日だけど」
声 『ん。十時に鎌倉駅前で合流で。
   一日かけての作業になりそうだけど、食べたいものとかリクエストある?
   お弁当でもなんでも作っちゃうけど』
愛 「一日かかるのか?」
声 『オス。湘南も狭いようで広いから』
愛 「そか。ン……じゃあ、いい店知ってっからそこで食おう」
声 『ホエ……ええの? 店とかだと誰かに見られるかもだよ?』

 ム。ほんといちいちそういうところには気が向くヤツらしい。
 アタシから提案してんだから、ンなこといちいち気にしなくていいのに。

愛 「いーよ。ここまでお前に迷惑かけてんだ。見られたら見られたで構わねーさ」
声 『辻堂さん……あ、じゃあ見られたら全力で誤魔化すね俺!
   大丈夫! なにを隠そう、俺は誤魔化しの達人だぁあああっ!!』
愛 「ふーん? ははっ、じゃあ参考までに、どう誤魔化すんだ?」
声 『エ? えと……ポスター貼ってる途中で偶然会った、
   日頃隣でお世話になってる辻堂さんを奢ってる最中なんだ! って』
愛 「説明くさすぎんだろ……」
声 『じゃあいっそ双子の兄ってことで博光が世話になってる隣の辻堂さんに奢りを』
愛 「つーか世話になる理由が隣ってだけなのかよ!」
声 『だって大切な友達だから奢るとか言ったらバレちゃうじゃないですか!
   ほんとは胸張って紹介したいけど迷惑はかけたくないのです!』
愛 「………」

 ほんと、まったく、こいつはいちいち……。
 むず痒くなる。
 あーもういい、アタシも覚悟決める。
 いいヤツだってのは解ってたことじゃねーか。見つかったヤツに友達だって紹介して、なんも恥ずかしいことはねーよ。そりゃ、クミたちはいい顔しねーだろうけどさ。
 アタシにしてみりゃ、人のことを大切な友達って言ってくれるやつのことを誤魔化すほうが、よっぽど曲がってる。

声 『なので誤魔化しはどうぞお任せを。
   むしろ見つかること前提じゃなくて、見つからずに過ごす一日を考えましょう。
   ほら、考えてみれば観光みたいじゃないですか。
   地元とはいえ、知らない場所だってあるやもです』
愛 「あ……そういやそうだな。一日かけて湘南めぐりだもんな。
   あはっ、なんかフツーに楽しそうだ」
声 『こういうのは楽しんだもの勝ちですとも。仕事と割り切るのも大事ですが、
   その仕事が楽しいのならもっと簡単に割り切れると思うのです。
   なので、楽しい一日にしましょう』

 そうだな、そりゃそーだ。
 仕事だと割り切って仕方なくやるか、仕事だとしても楽しみながらやるのか。
 そんなの、楽しいほうがいいに決まってる。

愛 「ああ。男連れて出歩くなんて初めてだから緊張してたけど、
   なんかお前相手だとそんなことも考えずに気楽にいけそーだ。助かるぜ」
声 『そだねー。俺も誰かと出歩くことがなかったわけじゃないけど、
   改めて女の子と出かけるってのは……ははっ、まあそうだよねぇ。
   男女二人だけとか滅多なことじゃ───』
愛 「だよなぁ。男女二人だけとか……」
声 『………』
愛 「二人……」

 二人。二人きり。
 ちょっと待て、それって───

声 『エ、エト。デートじゃないよね? これ』
愛 「へあっ!? なななに言ってんだンなわけあるかボケェ!」
声 『だよね! ははっ!? だだだよねぇ!? 仕事と猫のことだもんねぇ!』
愛 「お、おう、そうだ、その通りだっ」
声 『あはははは』
愛 「はは……」
声 『………』
愛 「………」
声 『猫のため、ね』
愛 「ああ、猫のため、な」

 納得した。

声 『っと、そうだ、猫といえば。猫は元気? どうしてる?』
愛 「ン? ああ、ここに居るよ。ほら、挨拶しろ」

 ふりふり片手で振るっている猫じゃらしを両手で掴み、引き摺られてなお離さずじゃれる猫に、ケータイを近づける。
 すると雰囲気で察したのか、中井出が向こうで猫に向けてなにかを喋った気がした。

猫 『にゃう、ふにゃーぉお』
声 『……ホウホウ。
   なるほど、辻堂さんは今リビングのソファの上で、猫じゃらしで遊んでいると』

 んなっ!?

愛 「ちょっと待てなんで解んだそんな細かく!!」
声 『実は猫の言葉が解るのです……! あてずっぽうだけど……!』
愛 「あてずっぽうかよ! ……当たりすぎてて驚いたじゃねーか……!」
声 『あっはっは、すいません。でも当たってたとすると、
   猫じゃらし、気にいってくれたみたいですね』
愛 「ああ。もう面白いように飛びつくんだ。
   必死に飛びついて、前足できゅっと掴む姿なんて……
   もう、もう……可愛くて可愛くねーよ馬鹿野郎!!」
声 『や、もうそれいいですから』
愛 「うぅっ……」

 自分で言ってて恥ずかしくなった。
 いや、実際可愛いのだ。
 困るくらい可愛い。

愛 「くそ、可愛いなぁ。このまま飼えりゃいいのに……」
声 『アレルギーを治す薬くらいなら出せそうな人知ってますよ?』
愛 「ほんとかっ!? なんだよぉっ、そんなヤツが居るならさっさと───」
声 『保健室の城宮楓センセ───』
愛 「冗談でもやめろ馬鹿」
声 『言ってから後悔しました本気ですいません』

 あいつ猫の毛を薬の材料にしようとしてたんだぞ。
 そんなヤツに薬を頼んだら、こいつこそが薬になっちまいそうだ。

声 『ヒウッ!? あ、あー……つつつ辻堂さん?
   なんかそろそろいろいろとアレみたいなので、今日はこれまでで……』
愛 「ン……そか。悪かったな、長々と」
声 『いえ、こちらも楽しかったです。じゃあ、また明日。おやすみなさい、辻堂さん』
愛 「……おう」

 相手が居るわけでもないのに目を伏せ、勝手に浮かぶ笑みを殺しもせずに言った。
 通話は途切れ、ふぅと溜め息を吐いてみれば……

愛 「……? あれ? なんか暑い……?」

 部屋の温度が上がっているのか体温が上がっているのか、のぼせるような暑さを感じた気がした。そんなアタシを気遣ってか、上目遣いに見てくる猫。

愛 「ははっ、よしよし」
猫 『んにゃーん』
愛 「お前、ほんとにこの猫じゃらし気に入ったんだな。お前…………お前」

 お前、か。名前どーしよ。

愛 「んと……ラブ、とか?」

 ……いや。いやいや、ねーよ。アタシの名前が愛だからって、ラブとか。
 そうだよな、飼い主に決めてもらやいいさ。明日にはきっと見つかる。見つかって、こいつとの関係も明日までだ。
 なんて思ってると、母さんが妙にニヤニヤしながら近づいてきた。

真琴「なぁにぃ愛。男の子と約束?」
愛 「ふぇっ!? ちょ、聞かないでよ母さんっ」

 どうやら電話してるのを聞かれたらしい。
 そりゃリビングで堂々とやってるアタシが悪いんだろうが、なにもあえて訊いてくることはないだろう。

真琴「あんなに大きな声、いやでも聞こえます。……男の子となんて珍しいわね。
   ……珍しいっていうか……初めてじゃない?」
愛 「ま、まあね」

 嫌な笑みだ。
 根掘り葉掘り訊く時の顔だ。
 逃げ出したいけど、もはや知っていることだ。この母からは逃げられない。
 案の定「なんの話、してたの?」とウキウキ笑顔で訊ねてくる。

愛 「猫だよ。こいつの飼い主、一緒に探してくれるって」

 その言葉に微妙に表情を崩す母さん。
 父さんがアレルギーだということを誰よりも知ってる母さんだ。残念に思うのは当然だろう。なにせ父さん、アレルギーなのに動物大好きだから。

真琴「ゴメンね。飼ってあげたいんだけど、誠君がアレルギーだから。
   なのに動物好きだから、どれだけ症状が出ても遊んじゃいそうだし」
愛 「うん。なんとか明日中に里親探してくるよ」

 苦笑。
 大丈夫、すぐ見つかるさ。
 手伝ってくれるヤツも居るし、ポスター貼ればきっとすぐだ。
 だから、今考えるべきは───

愛 「………」
真琴「……? 愛?」
愛 「母さん、3会、楽しみでしょ?」
真琴「ええ。誠君と初めて会ったお祭りだもの」

 そう、今はこっちを考えておけばいい。
 必ず成功させてみせる。
 そのためには、やることやらねーと。

真琴「急になに?」
愛 「ふふっ、なんでもない」

 くすぐったい気持ちになる。隠し事ってのはなにも、嫌なことばかりじゃない。
 相手にとっては微妙な気分だろうけど、こっちにしてみれば隠した分だけ驚かし甲斐があるってもんだ。……いや待て、驚かす要素はなかった。

真琴「それで? 電話の相手、どんな子なの?」
愛 「会話に脈絡くらいもとうよ母さん……って、あいつ? べつに、普通」

 普通だよな。
 ただちょっと頑丈で、“人思い”ってだけの。

真琴「普通……堅気?」
愛 「普通だよ。カタギって言い方やめて」
真琴「へぇ……やっぱり珍しいわぁ。好きなの? あんな楽しそうに電話して」
愛 「そっ……! そんなわけないじゃんっ、相手転校生で、話出来たのも最近だよっ」

 なんてこと言い出すのか、この親は。
 楽しそうに話してりゃ好きって、違うだろ。楽しそうに……楽しいっ!?
 え、なに? アタシそんな顔で電話してたのかっ!?
 やっ、そりゃ、隠し事するだけ馬鹿らしいって能天気な相手だから、ヘンに身構えずに済む相手なのは確かだけどっ…………あれ? それ、友達なんだからいいんじゃねぇか?
 ……友達だもんな、楽しくて当然……だよな?

愛 「うん、そんなわけない。ただの友達。でも……」
真琴「でも?(……友達。愛がはっきりそう言うなんて、やっぱり珍しいわぁ……)」
愛 「……。すげーいいやつなのは確か」

 そうだ。あんないいやつ、滅多に居ない。

愛 「度胸あるし、人のことよく考えてるし。
   自分の痛みより、周りの笑顔を望んでるっていうか」

 それも、自分のためだーとか言って突っ込んでいくやつだ。
 お節介焼きとかそういう次元をちょい越えてる。

愛 「あと……」

 母さんはそんな友達のことを話すアタシを、さっきとは打って変わってやさしい顔で見守る。それに気づいた時点で、話し方にちょっと熱が入ってたかもと思い、少し冷静に。

愛 「ちょっと……いや、かなりヘンなやつ」

 転校初日から今日までのあいつの行動を思い出して、つい浮かんでしまうのは笑み。
 ヘンなやつって言葉だけで紹介が済んでしまいそうなヤツなのに、それだけじゃ伝えきれないおかしさがあるんだから面白い。
 母さんは「そう」と苦笑したあと、くすっと笑う。

真琴「ふふっ、愛は単純だから、案外そういう子にはコロっとイっちゃいそうね」
愛 「なっ……!」

 だから! どうしてこの母は!

愛 「なに言ってんだよ! イくわけねーだろっ!」
真琴「解らないわよぉ〜? アタシと誠君のときもそうだったもの」
愛 「母さんたちがそうでも、有り得ないってっ……!
   ア、アタシとあいつじゃ合わないよっ!
   ……。アタシみたいにデンジャーな日々を送ってるのとは」

 そうだ。
 よしんば、奇跡的に好きになったりしようが、あいつが普通である以上無理だ。
 アタシと居るんじゃ喧嘩にだって巻き込まれるし、アタシの弱点として見られて連れ攫われる可能性だってある。
 合わないんだ。デンジャーすぎて。




-_-/中井出さん

 辻堂さんとの電話が切れてから、ほんの少しあと。

中井出「デンジャー! デンジャァアーーーッ!!」

 居留守を使ってだんまりを決め込んでいた僕は、鍵ごと玄関を破壊してきた武神から逃走していた。

百代 「はっはっはっは、おいおい獄殴狼〜、
    こんな美人のお姉さんを前に逃げることないだろ〜?」
中井出「玄関ブチ破ってきといてそれ言いますか!? い、いやだいいやだい!
    約束以外の決闘なんて誰がするか! 帰れよぅ! 帰ってぇえええっ!!」

 前略モモ先輩。
 真剣恋世界のあなたは今どうしてますか?
 こちらの百代先輩は戦闘狂すぎて怖いくらいです。
 あちらの世界のあなたは小さい頃から僕とぶつかってた分、周囲にはやさしかったのかもしれませんね。
 ぶつかる相手が居ないで成長した結果がこれだよ!
 助けて! 次元を超えて僕を救ってください! 強敵なんて自分以外にゃ滅多に居ないんだから、むしろ自分と戦うべきじゃないですかモモ先輩!

百代 「さあ戦え獄殴狼……! 約束の日なんて待っていられない……!
    今すぐにでもヤらないと、私はなにかに当たってしまいそうなんだ……!」
中井出「なしてそんなに暴走してるの!? 今でも挑戦者とか結構居るんでしょ!?」
百代 「ジジイからお前が挑戦受けるって聞いてから、
    意思が燃えて抑えが効かなくなった」

 俺の所為でしたァアアーーーーーーッ!!!
 なに自分で自分の首絞めてるの俺! つーか川爺!? そういうことは当日になってから伝えましょう!? 百代さんならこうなるって想像つかなかったわけじゃないでしょう!?

中井出「ち、ちくしょう! じゃあ海岸いくぞ!
    ここだと屋敷が壊れるし花たちも無事には済まんわい!」
百代 「えー? もういいだろここで。さっさとやろうー、なぁなぁ〜」
中井出「子供ですかキミは!! いいから出る! じゃないとやりません!」
百代 「ちぇー、わかったよ……」

 根っこの性格自体は変わりようがないんだろうね。
 素直な部分は素直なままなようだった。
 けどまあ結局は戦うことになりました。
 ああもう俺の馬鹿……。




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