01/ゼロと使い魔と魔王

 ───トリステイン魔法学院の一角でそれは起こった。
 冷やかしと笑い声がざわめく中、一人の少女が教鞭にも似た杖を振りかざしたのがそもそも。発端を探せばきりが無いが、魔法学院の名が示す通り、この世界には魔法が存在していた。

 在り方はファンタジー。
 属に言う剣と魔法の世界というものであり、しかし剣が使えるから、戦えるからといって偉いわけでもなかった。
 ハルケギニアという大陸は人がモンスターと戦うといった世界ではなく、魔法が使える者が貴族として在り、
 逆に魔法を使えない者が平民として下に見られる……そんな階級制度の高い世界であった。
 だが当然、魔法を使える貴族の間にも上下関係があれば学び舎もある。
 トリステイン王国に存在する魔法学校、トリステイン魔法学院もその一つだった。

 その日は少女が一年から二年に進級して間も無くの日。
 教師であるコルベールの案内のもとに集った学院内の広い中庭で、集まった生徒たちは杖を振りかざしては、己の使い魔を呼び出していた。
 使い魔召喚……サモンサーヴァントという、二年に進級して初めての試験のようなもの。
 貴族として一生をともにする使い魔との契約の儀式でもある。

コルベール「これで全員かな?」
キュルケ 「いえ。まだミス・ヴァリエールが」

 様々な生徒が使い魔を召喚し終える中、一人残っていたのが少女。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールという名の、桃色の髪をした小柄な少女だった。
 一人残され、頭の薄い先生にまで忘れられていたことが気に障ったわけでもない。
 別の理由で気難しい顔をしながら、他の生徒たちが見守る人垣の中心に彼女は立っていた。
 だが“見守る”という喩え言葉を言葉通りで言うのなら、それは適切ではない。
 どちらかといえば面白いものを見物するといった、小ばかにした視線がルイズに集中していた。
 その先で何が起こるのかが……いや、何も起こらないのが解っていて、彼女……キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーはコルベールを促したのだ。

ルイズ「………」

 自分に視線が集中していることに緊張しているのではない。
 別のことに息を飲みながら、彼女は杖を掲げた。
 杖と言うにはあまりに細い、教鞭めいた杖を。
 そして唱える。

ルイズ「宙の果ての何処かにいる私のしもべよ!
    神聖で美しく、 そして強力な使い魔よ!
    私は心より求め訴えるわ! 我が導きに応えなさい!
    “五つの力を司るペンタゴン、我の定めに従いし、使い魔を召喚せよ”!」

 その詠唱に漏れた失笑を耳にしたが、そのまま続け、杖を振り下ろした。
 下に、ではなく前方に。そこに降りろと言うように、ピッと音を立てて。
 ───直後、大爆発。
 笑っていた生徒たちは爆風に吹き飛ばされ、予想がついていた生徒たちは離れた場所で、巻き起こった土煙に咳き込みながら笑っていた。
 また失敗だ、さすがゼロのルイズ、と口々に罵倒を飛ばして。
 もはやそれは日常的なものであり……彼女は魔術師でありながら魔法の一切を使えなかった。
 ついた二つ名が“ゼロのルイズ”。
 当然のように魔法が使える周囲にとっては、落ちこぼれのような存在だった。

ルイズ「ちょっ……ちょっと手元が狂っただけよ!
    見てなさいよ!? 今……今すぐにとんでもない使い魔を───」

 召喚してあげるんだから、と続けられる筈だった言葉は、風に払われた土煙の先を見たことで塞がった。
 厳密に言えば開いたまま閉じられてもいないが、それだけ呆然と……思わず口を利けなくなるくらいのものがそこに立っていたのだ。
 パクパクと開閉を繰り返すルイズの口。
 最初にこぼれた言葉はこれだった。

ルイズ「に……にん、げん……?」

 そう、人間だった。
 爆心地と思われる場所に、一人の男性が立っていた。
 いや待て、一人じゃない。
 立っている男性の足下に、一人の男が倒れていた。
 ナンダコレ。素直にそう思う少女はちらりと頭が禿げかかった男性、コルベールを見た。





【中井出博光/やあ】

 さて、ことの発端を言ってしまえば再びアレな世界に降りましたとしか言えやしねー。
 僕こと中井出博光が降り立った世界は、煙に満ちていたさ。
 “ちくしょー! もくもくが邪魔で見えねーざます!”と思いつつも風を発生させてモクモクを排除すると……なんか、嫌な予感。
 視線の先に立つのは……なにやらどっかで見たよーな存在。
 黒のマントの下に白いブラウス、グレーのプリーツスカートなんていう制服には見えない服で身を包み、メイジらしいのはせいぜい黒いマントくらいではなかろうかって姿の女。
 ……その。記憶が確かなら、ゼロの使い魔っていうライトノベルに出てくるヒロインで……

ルイズ「に……にん、げん……?」

 なにやら僕を見て呆然と……ああいや、足下で倒れるヒリガル・サイトーンも一緒に見てカタカタと震えてる。
 ああ、平賀才人のことです、はい。

才人 「い、いぢぢちち……! な、なんだ……? いったいなにがどうなって……!」
中井出「うむ。この博光にもよく事態が飲み込めてる」
才人 「いやそれって言葉が繋がってないから───ってあんた誰?」
中井出「秘密だ。その方が今は面白そうだし。
    ところでキミ、キミはあっちの桃色に召喚されてこの場に立ってるんだけど、
    自覚ある?」
才人 「へ? 召喚って……ここ何処だよっ!」

 ざぁ、と広い広場……ヴェストリの広場だっけ? ああいや、あれは決闘の場だったか?
 もはや数千年前の記憶だ、鮮明になんて残っちゃいない。
 しかも原作読み終えるより早く空界入りしちゃったから、どうなったのかも正直解らん。
 ウワーイ……恋姫の次はゼロの使い魔かぁ……なんか体も猫じゃなくて人に戻ってるし。
 次があるとして、何処に飛ばされるのかな。
 猟奇殺人モノとかは勘弁だぞ……僕いい加減、平和な“外史”に降臨したい。
 学園モノとか……いいね! 学園ものっていったらなんだろう!
 こう、ほのかにファンタジーとか混ざっててさ、解るだろ!?
 魔法があってもいい! ご都合主義なものでもこの際OKさ!
 ラヴがあるのもステキだと思う! そんな世界に私は降りたい。

 …………なんて思ってた自分は、しばらく後に熊パンとともに軽い後悔を抱くことになるんだが、それはまた先の話だ。


───……。


 さて、なんのかんのと説明をして、この世界がハルケギニアでここは魔法学校だ〜ってことを理解。
 他の生徒がさっさと学院に戻る中、僕らはといえば軽くお話中。
 別世界から来ましたよって証明として見せた、サイトーンが持ってたノートパソコン……そのデスクトップの画像に大変興味を抱いたゴルベーザ様や、フツーに感心してたルイズ嬢とともにきっちりと話を進めてゆきます。

中井出  「ところでこの画像を見てくれ。こいつをどう思う?」
コルベール「すごく……綺麗ですぞ……」

 なんて会話に才人が笑ってたのは置いておくとして。

中井出「まず、俺は召喚されちゃあいない。召喚されたのはこちらの才人であって、
    俺は普通に扉を開けてこの世界に来た」

 どうやって来れたのかは正直に言って解らん、ときっちり付け足すのを忘れない。
 その言葉にゴルベーザ様が戸惑いを見せていたが、纏める部分は纏めさせてもらおう。

ルイズ「つまり私の使い魔はこっちの平民であって、
    同じく平民のあんたは一切関係ないってことね?」
中井出「そゆこと。俺は貴様ら貴族の授業には関係ないし、
    そもそも人を見下しすぎる人種が嫌いである」
ルイズ「なに言ってんの? 貴族が偉いのは当然じゃないのよ」
中井出「……これだよ。それが当然って思ってるから嫌いなんだ。
    ふざけて偉ぶるならいい。冗談で偉そうにするのや、からかうのもいい。
    けどね、素で偉そうにしているヤツが、俺は嫌いだ。
    俺のことはいーからさ、さっさとコントラクトサーヴァント終わらせなさいな」
ルイズ「なによその言い方っ!
    関係ないっていうならいちいちむかつくこと言わないでくれるっ!?」
中井出「むう」

 いかん、落ち着け僕よ。
 いつも心にトキメケを。苛立ち任せに人を悪く言うのは大変よろしくない。
 反省。
 ……しているうちに、とっとと契約を済ませてしまったらしいルイズ嬢とサイトーン。
 しかし僕は彼の左手にルーンが浮かぶのを確認するより早く、その左手の甲に呪剣グリランドリーを変形させた手甲を装着させることで、ルーンを隠した。

才人 「うわっ!? なななんだよこれっ! おいあんたっ、いきなり───」
中井出「餞別である。ちなみに呪われてるから絶対に取れん。
    あ、大丈夫。汗かいたり痒くなったり臭くなったりとかは一切ないから。
    常に清潔は保たれるスグレものよ!」
才人 「それ以前にどうしてこれを俺につけるのかを訊いてんだよ俺っ!」

 サイトーンのルーンがガンダールヴのものだというのは覚えている。
 しかしそれを公表されるのはなんか悔しいので、俺は才人超人化計画を自分の中で立案。
 彼にハルケギニア最強の剣士になってもらおうぜ!? ガンダールヴって肩書き抜きにしてさ! 抜きっていうか隠すだけだけど。

中井出(……外そうとなんて思うな。お前、今ヤバいルーンを刻まれた。
    それは周りに知られていいもんじゃない。それで隠しておけ)
才人 (っ……え!? マジかよ!!)
中井出(信じなくてもいい。けど、俺は貴様と同じ地球から来た。
    ここが地球……ああいや、日本やただの外国じゃないことはもう解ってるだろ)
才人 (そ、そりゃあ……人があんなふうに空飛んでりゃ……)

 OK、理解が速くてなによりだ。
 影でニヤァアアアアと笑いつつ、話を進める。

中井出(その装備は悪いもんじゃない。お前の能力を引き上げるものだ。
    試しに戦う意思を燃やして動いてみろ。体が随分軽くなってるはずだ)
才人 (───……おほっ、すげぇ! 体が羽みたいに軽いぞっ!?)

 あっちはあっちで話し合っているコルベールとルイズを余所に、俺達は俺達で軽く親睦を深める。

才人 「いきなりなんだこりゃって状況だったけど、
    同じ世界の仲間が居てよかったよ……あ、俺平賀才人。
    えーとひろみつ、っていったっけ」
中井出「うむ。中井出博光である。
    面白そうだから貴様のサポートをし続けると私が決めた今決めた」
才人 「ぽっぴっぽー? へぇ、スマイル動画見てるのか?」
中井出「いや、知識として知ってるだけで、実はスマイルは見たことが無いに等しい」
才人 「残念だなー、結構面白いのに。あ、なんだったら俺のPCで……ってだめだ、
    環境揃ってないからネット繋げなかった」

 修理してもらったばっかだから、いろいろ確認も必要だしと続けるサイトーン。
 うん、元の世界のことを話せる相手って大事だよね。
 僕も恋姫世界ではそんな存在を心から願ったもんさ。
 だってのに肝心の一刀くんはゴリモリマッシヴな貂蝉さんとほぼ同時期に発見されて、もう俺どうしてくれようかと。
 貂蝉見た時、本気で空いた口が塞がらなかったよ俺。
 だって貂蝉だよ? 呂布が心酔していろいろやっちゃう原因の人。それがアレって……浮かばれねぇなぁ呂布……。
 しかも声が若本さんなもんだから、バルバトスで恐怖を刷り込まれた猛者連中はビビリまくり。
 当然僕もあの強さは知っているから勘弁ノリスケ状態だった。

中井出「まあそんなわけで、最強の男になってみない?」
才人 「あ、んんー……そりゃなれるならなってみたいけどさ。
    そんな簡単にポンポンなれるようなもんじゃないだろ?」
中井出「いいやなれるね! 恋姫の一刀くんのようなものじゃない!
    キミにはこのハルケギニアに生きる貴族の在り方を、
    見事ひっくり返すほどの騎士になってもらう!」
才人 「………………あのさ。マジ? ほんとになれんの?」
中井出「約束しよう。俺は貴様をこの世界最強の剣士にする。
    時間はかかるだろうが、
    それはこの世界で生きるためにはどうしても必要なことだ」
才人 「必要って……なんで」
中井出「戦争があるからさ」

 ……そのたった一言に、彼は顔を青くした。


───……。


 結論から言やぁ才人は乗った。
 そらそうだ、帰れないっていうなら、生きるための術を選ぶしかない。
 「まずはこの世界に慣れるところから始めよう」っていう俺の言葉に真剣に頷いて、彼はルイズの使い魔としての仕事をこなしていく。
 え? 僕? 僕はといえば……マルトーさんのところで給仕の仕事を手伝っておりますよ。
 だってほら、別に僕使い魔でもなければ貴族でもないし。空いた時間をサイトーンの訓練時間にとって、みっちりとバトルの基礎を……レオンとかセトとか伯の意思を以って教えたりしてました。もちろんフェルダール内で。
 そんな生活を続けて早幾日。

  スッパァーーーン!!

 アルヴィーズの食堂にステキな音が響きました。
 え? その時の俺? ギーシュに届けるはずのケーキをムシャリムシャリと食べてましたよ? いや、美味いんですよ貴族ヤローが食うモノって。
 無駄に脂ぎってる朝食はフザケンナコノヤローだけど、美味いんですよ。
 おおっと話が逸れた。
 つまりそのー、ギーシュが二股で例の如くスッパーンと。

ギーシュ「……平民くん。キミは自分が何をしたのか解っているのかい?
     キミの軽率な行動のために、今……可憐な二つの花が傷ついてしまった」
才人  「傷つけたのは二股をかけたお前じゃねーか」

 原作では、落ちた香水の小瓶をギーシュに届けるのはメイドのシエスタ。
 それを庇って決闘が始まるわけなのだが───うむ、敢えてサイトに行かせました。
 断言しよう。妙なフラグは必要ない。原中大原則に則り、貴様が守り愛するのはルイズ一人と心得よ!
 あ、もちろん好き合っていくかは本人たち次第だけど。
 サイトの言葉にドッと沸く食堂の生徒たち。
 ギーシュは当然顔を真っ赤にして、

ギーシュ「決闘だ!」

 ……お決まりの言葉を放つのでした。
 ちなみにルイズが居ると絶対に止めようとするので、ちょっととある部屋に監禁してあります。
 でも大丈夫、あそこからはヴェストリの広場がよーく見えるんですよ。
 知ってもらおうではないか。貴様が呼び出したサーヴァントが最強でないはずがないと。

ギーシュ「さ、覚悟はいいかい平民のキミ。
     僕はメイジだから魔法を使うが、もちろん構わないよね?」
才人  「んじゃ、平民の俺はなにをやってもいいってことだよな?」
ギーシュ「ふふっ、もちろんさ。近づけるのならばねっ」

 さっさとやってきたヴェストリの広場で、早々に始まる決闘。
 ギーシュが薔薇を振るって花びらを落とし、それらがワルキューレゴーレムとなる───より速く、疾駆してギーシュに肉薄したサイトはフォビィッ!!

ギーシュ「〜〜〜〜っ……! なっ……!」

 眼前。
 本当に、鼻が潰れるか目が潰れるかってくらいのスレスレの位置で、グリランドリーに包まれた左拳を寸止し、ギーシュに尻餅をつかせた。

才人  「まだやるか?」
ギーシュ「……、いや。大海を知った気分だよ……僕の負けだ」

 見物をしていた誰もが呆れて口も開けない状況だ。
 始まった決闘が、ものの数秒で終わってしまったのだから無理もない。

才人  「あの……よ。誇りを大事にするってんならさ。
     どっちつかずで女の子を傷つけるの、やめろよな。
     それで誰かの所為にして自分は悪くない、なんて……。
     あの時のお前、相当に格好悪かったぞ? 平民、貴族関係なくさ……」
ギーシュ「ああ、頭ならたっぷり冷やしてもらったよ。彼女らに謝らなくては」

 苦笑し、起き上がった彼は真っ直ぐにえーと……モンモランシー?と、なんか年下のおなごのもとへと歩いていった。
 まさかギーシュに頭を下げられるとは思ってもみなかったんだろう。
 心底慌て、あわあわとたまげ、手をわたわたと振るってやめてほしいと言っている……気がする。遠くて聞こえん。そもそも周りがうるさいし。

才人 「……なんだ、結構いいやつじゃんあいつ」
中井出「うむ、悪いヤツじゃないんだ。ただ、貴族って肩書きがいろいろ歪ませてる。
    砕ければいい友達になれるはずだから、話し掛けるなら今だぞ」
才人 「だな。わり、ちょっと行ってくるなっ」

 戦い終わればキミは友。
 善き哉です。
 で、俺はといえば……

タバサ「………」
中井出「………」

 才人の戦いなんぞ見ずに、じーーーっとこっちを見てたタバサ嬢……シャルロットを見つめ返していた。
 ……み、妙ぞ。こはいかなること?
 現時点でこうして見つめられる理由は一切無かったはず……!
 なんとなく居心地が悪くなった僕は才人を追って、ギーシュ=ド=グラモンとの会話に花を咲かせた。
 あっさりと「キミは誰だい?」と言われたが、才人が「俺の武術の師匠であり友人だ」って言うと、目を輝かせて握手された。
 相手が平民だろうが力は認める人種……それがギーシュだった。
 完全に分け隔て無くってのは無理があるんだろうが、それでもきちんと普通に話してくれるギーシュには、素直で綺麗な印象を持つことができた。


───……。


 虚無の曜日をご存知だろうか。
 虚無の曜日っていうのは僕らの世界で言う休日。
 つまり学校は休み〜って日なのだ。日曜日だね。
 そんな日がどうした〜って話だろうが、今日……僕らは運命と出会う。
 うん、運命よりは偶然が好きだけどね? けど俺自身は家系の連中、主に彰利ほど運命ってものを嫌っちゃいない。
 受け容れるべきものは受け容れてこそのヒューマンソウル。
 とまあそんなわけで、今日はルイズの提案でトリステイン城下町まで来ていた。
 何故って、ギーシュとの戦いで才人が戦士だと勘違いしたルイズがそう決めたからだ。

才人 「スゲーよなー! お、俺、本物の武器屋なんて初めてだよ!」

 物凄く興奮しております。
 そりゃそうでしょう、俺だって初のヒロラインや初の空界にはワクワクしたもんさ。
 さて、訪れたのはトリステイン城下町の中でも随分と狭ッ苦しく、寂れた雰囲気の路地。
 その中にあって、まだ昼半ばだというのに薄暗い路地をぼんやりと照らすランプがかけられた、小さな小屋の前。
 剣のカタチをした看板がぶら下がっている……どうやらここがそうらしい。
 イメージしていたものとは大分違ったのか、才人はポカンとしていたが……そう。
 彼はここで最強の相棒と出会う。
 だから俺はさっさと促し、中に入るや物色を開始する。

才人 「うっわすっげぇええっ!! 武器だよ武器! うわーうわー浪漫だよ浪漫!
    あっ! ロングソード! こっちはグレートソードだ!
    おおおお盾も鎧もあるじゃんっ! くううっ、装備してみてー!」

 燥ぐ姿はまるで子供である。……ああいや、二十歳未満なんだっけ?

中井出「見ろ才人! この剣なんかカッケー!」
才人 「どれどれっ!? 〜〜〜うおおおおカッケェエーーーッ!!」

 そしてこの博光もまだまだ子供だったわ。
 かの伝説、インテリジェンスソード・デルフリンガーを探す傍ら、ステキなカタチの剣を見ては才人とともに叫び合っていた。

ルイズ「騒ぐんじゃないわよ犬っ! 恥ずかしいでしょっ!?」
中井出「うるせー! この素晴らしき瞬間はメイジなんぞには解らんのだ黙っとれ!」
才人 「提督提督! これこれこっち! これもスゲー!」
中井出「うおっ! なにこの無駄にすごい装飾盾! これ構えたら格好いいだろうなぁ!」
才人 「だよな!? だよなぁ!?」
ルイズ「こんのばか犬どもはぁああ……!!
    だよなじゃないわよ! いいから聞きなさいっ!」

 騒ぐ僕らを注意するルイズだったが、楽しみを中断させられた僕らはすこぶる不機嫌である。

中井出「なんだよもう……」
才人 「せっかく楽しんでんのにさー……」
ルイズ「だからっ! あんたの剣を買いにきてやったんでしょーが!
    そのあんたがギャーギャー騒いでてどーすんのよっ!」
才人 「……へ? そうなの?」
ルイズ「へ? そ、そうなのって……! あんたねぇっ!!」
才人 「だってルイズお前、ついてくれば解るって言うばっかりで、
    何処に行くかなんて言わなかったじゃねぇかよ」
ルイズ「ほえ? …………な、ななななに言ってるのよ言ったわよ私!
    貴族の使い魔が武器を持ってないなんて恥よねって!
    さささ先に言ったじゃないのよ!」
中井出「へー……」
才人 「……で、その言葉の何処に武器屋に行くって言葉があるんだ?」
ルイズ「………………〜〜〜〜〜〜〜〜っ」

 ずぱーーーん!!
 ……今日もまた、理不尽な張り手が飛んだ。

ルイズ「ちょっとそこの主人」
主人 「へ、へい貴族の旦那っ。うちは真っ当な商売をしてまさあ。
    お上に目をつけられるようなことは、これっぽっちもありませんや」
ルイズ「はぁ……客よ。お上がこんな口煩い駄犬どもを連れてくるはずがないでしょう?」
中井出「オイオイ……一番口煩いチワワが何か言ってるぞ?」
才人 「ぶふっ……! たしかに一番うるさいし、チワワっての、ピッタリ……!」
ルイズ「なにぶつぶつ言ってるのよ!」
中井出「ルイズ様最高!」
才人 「今日もお美しい!」
ルイズ「……な、なによっ。おだてたって何もでないんだからねっ!?《ポッ》」
中井出「生のツンデレ怒りいただきました!」
才人 「おめでとうありがとう!!」
ルイズ「だから黙れって言ってるのよ!!」

 悪ノリしたら怒られてしまった。
 とまあそんなわけで、武器のことなんてなにも知らんというルイズに対し、主人はぶちぶちとこぼしながらも金のツルギを持ってくる。

主人 「店一番の業物でさぁ。
    貴族のおともをさせるなら、これくらい身につけられんと───」
中井出「あ、ルイズ、それはダメだやめとけ。中身はただのナマクラだ」
主人 「なっ!?」
ルイズ「なに言ってんの? 綺麗で立派な剣じゃない。これ、おいくら?」
主人 「へ、へえ……エキュー金貨で二千、銀貨で三千でさ」
ルイズ「……!? な、なによそれ! 立派な家と森つきの庭が買えるじゃない!」
中井出「えーからやめときー。えーと……っと、あったあった!」

 ルイズにやめとけと言いつつ、物色をやめない。
 そういった経緯でキュッと握った手には、オンボロの剣が一本。

才人 「うわ、なんだよこれ」
中井出「親父、これいくら?」
主人 「おったまげた! デル公を引っ張り出す客が居るなんて! おったまげた!」
中井出「うるせーーーっ!! いいからいくらか言えってんだコノヤロー!!」
主人 「う、うるせーって……へぇ。
    それならもう口煩ぇだけなんで、貰ってくれれば万々歳でさ」
才人 「口煩い? 剣がか?」

 ちらりと才人がデルフリンガーを見る。
 ……と、剣の柄がカシャンと持ち上がり、鍔の部分がカタカタと動くと、『口煩ぇのはどっちだ、この出っ歯野郎っ!』……なんと喋り出すではないか。
 知ってはいたけど、なんか面白い。
 器詠の理力で意思疎通は出来るけど、ナマの声を聞いたのは初めて……だったっけ? アニメと同じ声だから、あまり違和感がなかったりした。

中井出(デルフ……この男、平賀才人は“使い手”だ。神の左手ガンダールヴ。
    今日は貴様と才人を引き合わせるため、わざわざ出向いたのだ)
デルフ(おっ……!? おめぇ、俺と意思を繋げられんのかよ! こいつぁおでれーた!
    まさかとは思うがおめぇ、ミョズニトニルンか!?)
中井出(いや、ただの人間。そういった能力を手に入れただけの、ただの人間だ。
    ミョズなんたらってのも知らんし、引き合わせに来ただけの平民でさ)

 軽い説明を意思を通して。
 才人がきょとんとしてルイズがイライラしてるが、話すことはきちんと話してから頷かせた。

デルフ『おう相棒、このデルフリンガー様をおめぇさんが握るなら、敵なんざ居ねぇ。
    これからよろしくされてやるから、せいぜい使いこなしてみな』
才人 「へぇ〜っ、結構面白い性格してるんだなこいつ。
    あ、俺平賀才人。よろしくな、デルフリンガー」
デルフ『おうよ、よろしくされてやるぜ相棒』

 で、ボロではあるものの、“面白くて珍しい”剣を手にした才人の心は、もはや綺麗で豪華なだけの剣など目につくこともなく。
 ルイズだけは“買ってやる”と言ったわりに、何も買うことがなかったことに対して面白くなさそうだった。


───……。


 虚無の曜日を過ぎて、とある日。
 王宮のどこぞから、一人のおっさんが来た。
 名を、ジュール=ド=モット伯。
 かつて、僕とナギーとが大いに叫んだ、あのモット伯である。アイキャンフラーイ!
 で、なにを言いだすのかと思えば(黒を使って盗み聞きしてたんですがね?)、近頃フーケとかいう泥棒がうろついてるから、宝を盗まれんように気を付けろ〜ってことと───

中井出「よし、ぶちのめしに行こうか」
才人 「へ? だ、誰をだ?」
中井出「おっと」

 ヴェストリの広場で鍛錬をしていた才人を前に、ハッと我に帰る。
 そうだったそうだった、鍛錬の途中だったね。

中井出「なぁ才人よ。俺は貴族が嫌いだが、貴族全部が嫌いなわけじゃない。
    しかし中には最強のド外道ってやつが居て、そんなヤツらが大嫌いなわけだが」
才人 「? なんだよいきなり」
中井出「平民ってな、貴族の言葉にゃ逆らえないんだ。
    腹が立つことに、言われればやらなきゃいけないことが山ほどある。
    金を積まれれば、生活の苦しい娘は言うことを聞かざるをえない。そんな世界だ」
才人 「……それ、今関係あることなのか?」
中井出「ジュール=ド=モット伯って知ってる? たまにルイズが愚痴ったりしてるけど」
才人 「ああ知ってる。偉ぶってて嫌いだ〜ってやつだろ?
    そういや今日も来てるとか……なんの用なんだろうな」

 解ってないのは当たり前だ。
 だからこそ言ってやる。貴族ってものの汚さを知る必要が、この世界にはあるのだ。

中井出「一人のメイドを買いに来たのである。名をシエスタ。
    自分に奉仕する相手を買いに、わざわざ出向いたんだよ、あのエロは」
才人 「奉仕? 奉仕……って! な、なんだよそれ!
    この世界の平民ってのは、そんなことさえ断れないのか!?」
デルフ『そーゆーこった。魔法が使えず金も持ってなけりゃ、下の下扱いなんだよ。
    で、どーすんだ博光よぉ。おまえさんがこんなことを持ちかけるってこたぁ、
    どーせ動きを見せるってことなんだろ?』
中井出「うむ! ここ最近、博打で溜めた金がこんもりあるからさ。
    正当な方法でシエスタを買い戻す。
    で、断ったら俺の中の正当な方法でシエスタを取り戻す」
才人 「博打って……お前、そういうのやめたほうがいいぞ……?」
中井出「グエフェフェフェ大丈夫大丈夫、狡賢い貴族どもしか相手してないし、
    イカサマで負けることはこの博光、絶対にせぬわ」
才人 「イカサマなのかよ!!」

 イカサマである。
 未来視して金積んだり、時を止めて金積んだり、それだけで済むもの。

中井出「大丈夫大丈夫、悪名名高いやつらからしか巻き上げてないから。
    そして俺は自分が義賊だなんて言うつもりもなければ、外道の自覚も持っている。
    この博光、目的のためならば手段も自分の誇りもドブ川行きを良しとする猛者!
    そんなわけだから行くぜ才人!
    ヤツが学園から出る前に捕まえて、金で解決するのだ!
    ……巻き上げた金の大半が、モット伯のものだけどな!!」
才人 「……ぶふっ! ぶははははは!? なんだそれ自分の金で支払われるのかよ!」
中井出「うむ! 闇賭博なぞに手を出す貴族に因果応報をくれてやる!
    いくぜ才人! なんでも貴族の思い通りになると思ったら大間違いなこと!
    ヤツに知らしめてやるのだ!」
才人 「おうっ!」
デルフ『こりゃおもしれー使い手に拾われたな! 退屈せずに済みそうだ!』

 僕らの戦いは始まったばかり!
 まずはモット伯が乗ってきた馬車の馬に、しばらく動かんでくれとヒソヒソ。
 そんでもって、歩いてきたモット伯に書状を突きつけた。
 この世界の文字での誓約書……まあシエスタを買い取ります的なもの。
 金額はモット伯が学院とシエスタの里親に支払った金の数倍。

モット「ほほう……だが残念だったな。これしきでは私は動かぬ。
    どう集めたのかは知らぬが、こんなものでは───」
中井出「じゃあこれ」

 ハイ、と差し出す一冊の書物。
 それはこの博光が過去の戒めとして持っていた、禁断の書物だ。
 記憶が確かならこいつは相当なドスケベだ。
 シエスタを自分の使用人にしたのも、その顔立ちと大きな胸が目当てだったはず。
 だからね? まあそのつまり、僕の過去の過ちの集大成を具現化させたものを、彼にどうぞと渡したわけですよ。
 つまりこれは僕の過去との……エロとの決別!
 エロスよ、俺はついに貴様を越えた! 俺は一人の博光として、永久にドリアードを愛してゆくと誓うよ!
 だから…………謝謝、今まで俺の寂しかった心の隙間を埋めてくれて、謝謝。

モット「……? なんだこんな書物。
    やけに分厚いだけで、中身などどうせぬおおっ!!?」

 溜め息混じりのモット伯の前で、本を開いてみせた───ら、絶叫。
 食い入るように続きを見ようとするモット伯だが、即座に閉じた。

中井出「さあ……どうするね?」
モット「売ります! 売りますとも!!」

 そう。これは……とても正直な一人の男の物語。
 よーするにいくら金を積もうが、この世界にはエロ本なんてものはねーということなんでしょう。
 ほくほく笑顔で自分が持っていた書状(多分シエスタを使用人として受け取るための、オスマンが書いたもの)を破り捨て、代わりに僕が差し出した誓約書にきっちりとサインをしてくれた。
 というか、「返せと言われても返さんからな!」と血の拇印まで捺していく始末。
 最後は爽やかな笑顔で「いやぁいい交渉だったよ!」と去っていった。

中井出「…………貴族って……」
才人 「……俺……目移りしやすい自分、なんとかしよ……」
デルフ『へっ、いい勉強になったみてぇじゃねぇかい』

 僕らはモット伯にたくさんのことを学んだ。
 さよならモット伯、貴様のことはきっと忘れない。エロ貴族として、永遠に……。

  ───と。
  さて、そんなわけで……よく考えずに行動したもんだから、あとが案外大変で。

 そののちにきっちりとオスマン氏に誓約書を見せ、妙に感心されつつもシエスタはこの場に残ることになる。
 安堵からか涙まで流して、マルトーの厚い胸板に抱き締められていた。誰でも抱き締めるからね、マルトーさん。
 俺はといえばそんなことにうむうむと頷きつつ、美しき光景を眺めていたつもりだったのだが───ここにきて、オスマンのジジィめ余計なことを口走ったらしい。

シエスタ「ありがとうございましたヒロミツさん、いえヒロミツ様。
     貴方のおかげで、私は───」
中井出 「だからァァァァ!!
     僕の使用人になるとか言わないでくれって言ってるでしょォォォォ!!?」

 ……シエスタが、僕の使用人になりました。
 誓約書って怖ぇ……。

マルトー「いいや! 俺はシエスタの親じゃあねぇがおめぇにならいいと思えるぜ!
     なんてったって我らが剣の師匠なんだからなぁ!」
才人  「ああっ、俺も提督なら大丈夫だって思うぜ? 面白いやつだしなぁっ」
デルフ 『良かったじゃねぇか、大団円だぜ』
ルイズ 「人を雇うってのは簡単なことじゃないのよ!? 解ってるの!?」
中井出 「ち、ちくしょーーーっ! 好き勝手言ってんじゃねーざますーーーっ!!」

 今の俺の立場……学院の給仕&才人の師匠&シエスタの主人。
 どこをどう間違えたのかなんて、あのじじぃが余計なことを言ったことに終着することなど解りきっていた。
 この博光、老人にはやさしいがそれは老人全てというわけではない。
 大事な老人であろうが容赦せんといったら容赦せん……外道の恋人、博光です。

  その日のうちに、オールド・オスマン学院長が白く長い髭を全て毟り取られるという事件が起こったが、オスマン氏は犯人の名を決して口にすることはございませんでした。






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