05/神の左手ガンダールヴ

【平賀才人/震える左手にマインダー吠える時、奇蹟の閃光が闇を千切る】

 ───提督が飛んでいくのを見送ってから、俺はレアバードを駆り、向きを変えて飛翔する。
 すぐにギーシュもそれに習って、トリステインへ向けて飛翔。

ルイズ「………」
才人 「……ルイズ?」

 けどその途中、ルイズが一言も喋らず俯いているのが気になって、声をかけた。
 ……俺を見るその目は、不安と疑問でいっぱいで、いつもの無駄な自信にあふれたこいつの顔じゃあなかった。

ルイズ「どういうこと……? ワルド様が……アルビオンの貴族派(レコン・キスタ)……?」
才人 「ルイズ……」
ルイズ「うそよ。なにかの間違い。だってあんなにやさしかったワルド様が……!
    そ、そうよ、そうだわ、ヒロミツが間違えてるんだ。
    なにが覚悟よ、きっと私を騙すために───!
    そ、そう、あいつが、あいつのほうがレコン・キスタで───!」
才人 「お、おい、なに言ってんだっ! 提督が貴族派なわけがないだろ!?」
ルイズ「だってそうじゃない! 急に現れてワケの解らない力持ってて!
    姫殿下にも平気で手をあげるし馴れ馴れしいし!
    見たでしょ!? あんな大きい船が一瞬にして無くなった!
    あの船にウェールズ皇太子が乗ってたですって!?
    じゃあその船がどうして空賊まがいに発砲してくるのよ!」
才人 「ルイズ、ちょっと落ち着け。とにかく今はトリステインに戻ろう。
    嫌な予感がする……提督の話を信じる信じないはお前の勝手だけど、
    今ワルドのやつに遭遇するのはまずい……そんな気がするんだ」
ルイズ「なんでよっ!」

 口で何を言っても、ルイズは引こうとしない。
 軽いパニックになっているんだろう。
 憧れていた相手が反乱を起こしている者なんだと知れば、それも当然かもしれない。
 しかもその相手であるレコン・キスタって一派は、次はトリステインにまで攻め込むっていうんだ。
 ゲルマニアとの同盟が無ければ迎え討つことは出来ないし、それはアンリエッタさんの手紙を取り戻すことでしか成功しない。
 提督は任務完了と言っていたけど、手紙は手元に無いんだ。
 これからどうなるかなんて、俺達には解らない。
 解らないけど……あの人は、提督はふざけて人を騙すことはしても、覚悟を口にして人を騙すことは絶対にしないと確信が持てる。
 あの人は……“仲間は絶対に裏切らない”。
 だからドシュウンッ!!

才人  「!?」
ルイズ 「きゃあっ!?」
ギーシュ「サイト! ルイズ!」

 突然、背後から光の矢のようなものが飛んでいった。
 いや……光じゃない、あれは雷だ。
 いったいなにが、と後ろを見てみれば、そこには……飛竜に跨った“仮面の男”が……!

ルイズ 「……うそ……! そ、そんな……ほんとに仮面の男が……?」
才人  「マジかよ……! ほんとに襲ってきやがった!」
デルフ 『ヘッ、どーやらあのにーちゃんの言ってたことは本当っぽいぜ!?
     見てみな、あの背格好をよ!
     仮面と服装以外、身長も髪もまるっきりあのキザなニイチャンじゃねぇかよ!』
ルイズ 「───! うそよっ! そんなはずが!」
ギーシュ「問答は後にしたまえよ! それよりも空中では分が悪い!
     陸に降りねば狙い撃ちにされるだけではないかね!?」
才人  「っ……」

 ギーシュの言う通りだ。
 メイジならともかく、剣しか使えない俺じゃあいい的だ。
 だったらラ・ロシェールに……───!?

ギーシュ「陸が見えた! 町の人には迷惑になるだろうが、ラ・ロシェールに……!?
     な、なんだいあれは! 巨大なゴーレムが!」
ルイズ 「……フーケ!? うそ! どうして待ち構えるみたいに!?
     あ、でも違う! 待って! フーケが誰かと戦ってる!
     あれは……ワルド様だわ! ほら!」
才人  「っ……!」

 ルイズが俺のパーカーをぐいぐいと引っ張り、ほら、ほら、と何度も同意を求める。
 けど……戦ってるだって?
 あんな、ここに撃ちますよって解りきった遅い攻撃同士でか?

才人  「…………ギーシュ!」
ギーシュ「!? なんだい!? って、う、ううわぁあああああっ!!?」
ルイズ 「きゃあああああああっ!!?」

 ギーシュのレアバードにギリギリまで近寄り、ルイズを投げ渡す!
 上手く掴んでくれたのを確認するや、俺はレアバードを駆って───仮面の男へと向かい飛翔する!

ギーシュ「サイト!? 馬鹿な真似はやめたまえ! 空中戦は無謀だよ!」
ルイズ 「サイト!? サイトォーーーーーッ!!!」

 無謀は承知の上だ。
 けど、俺は提督さんをどうあれ信じる。
 胡散臭いあのワルドよりも、言動が滅茶苦茶で人をからかってばっかりだけど、根の方では人との付き合いを大事にしているあいつを。
 だから───

才人  「ギーシュ! ルイズ! よぉく“ワルド”を見ておけ!」
ギーシュ「!」
ルイズ 「……サイト、あんたまさか───!」

 攻撃をわざとくらう!
 証拠が無きゃ、ルイズはきっと何もかもを躊躇する!
 提督が言ってただろうが……ワルドの狙いはルイズでもあるって……!
 ルイズの力を狙っているって言われても、周りからゼロって言われているあいつの何が欲しいのかは解らないけど───敵を信じたままじゃ、いつルイズが危険に曝されるか解らねぇ! だったら、無謀だろうがなんだろうが証拠を見せてやる!

才人  「っ……うぅうおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
仮面の男「フンッ……ライトニング・クラウド!!」

 偏在がどうとか言ってたけど、ようするに魔法で象られた分身みたいなもの。
 ソイツが放つ魔法は、先ほどの光の矢のように虚空を奔り、俺目掛けて飛ぶ。
 それを姿勢をずらし、左手を犠牲にすることで証明とする!!

  ヂガァアアガガォオンッ!!!

才人 「ぐっ! あっ! がぁああああああああああああっ!!!!」

 奔る激痛……!
 半身が消し飛んでしまうんじゃないかっていうくらいの痛みが、左腕に走り、半身までを痺れさせる……!
 ───だが、直後。
 下方より俺と同じく叫ぶ声があり、涙に滲む視界で見下ろしてみれば……左腕を庇い、大地に膝をつくワルドの姿が……!!
 さらに言えば飛竜に跨っていた偏在の姿も反射ダメージによってか掻き消えていて、主を失った飛竜がレアバードの横を通りすぎていった。
 そして極めつけ……突然の出来事に、フーケがワルドを心配している風情で声をかけていたのだ。
 これで……全てが理解に至った。

才人 「っ───」

 誰かを憎いと思ったことがある。
 それは、理不尽にゲンコツをくれた親にだったり、つまらない理由で沸き上がる怒りだったりと、ばらばらだ。
 けど……その怒りってやつが、他人の憧れへの侮辱であることは、きっと初めてだった。

才人 「かっ───ぐっ《ゴクッ》」

 バックパックから取り出したグミを乱暴に飲み込み、火傷を負い、重症だった腕を一瞬で回復させる。
 もう……なんの憂いもない。
 いいよな、提督……怒る時が今で……構わないよな……!?

才人 「うぅおおおおおおおおおおっ!!!!」

 レアバードを爆発的に飛翔させて地面へと向かう!!
 目掛けさせるのは───フーケのゴーレムだ!!

フーケ「!? な、なんっ───」

  キュゴドバァンガァアッ!!!

フーケ「うわぁああっ!!?」

 衝突の瞬間にレアバードから飛び降り、衝突とともに発生する爆発と爆風を利用して地面に着地する。
 当然、フーケもバランスを崩してゴーレムの上から落下。
 それからは……背中にあるデルフを抜き取り、怒りのままに疾駆。

フーケ「い、いったいなんだって《ドボォッ!!》くはぁっ!?」

 構える隙なんて与えてやらない。
 煙に紛れるように走り、フーケの腹にデルフの柄を減り込ませると、気絶へと導き……さらに走る!

才人 「っ……ワルドォオオオオオオオオッ!!!!」
ワルド「!! 使い魔くん!? はは、助かっ───、───!?」

 リュフォォゥンッ!!
 全力で振るったデルフが、紙一重で避けられる。

ワルド「な、なにをっ……いきなりなにをするんだ!」
才人 「しらばっくれるのもいい加減にしろ!
    よくも……よくもルイズの信頼を裏切りやがったな……!
    よくもあいつにあんな顔をさせやがったな……!!
    よくもあいつにっ……他の誰かを疑うなんてこと、させやがったなぁああっ!!」
ワルド「っ……!? チッ、小僧が───!」

 あいつは確かに精神的に不安定なヤツだ……疑い出したらきりがないし、何かっていうと癇癪を起こす。
 それでも……あいつは頑張って“自分”になろうとしてたんだ!
 貴族でありながら平民のことを知るなんてことを、叱られてからでもちゃんと理解しようとした!
 なのに……せっかく叱ってくれた相手を疑わせるなんてことを、こいつはさせたんだ!
 それだけあんたのことを信じていたってことなのに……! それだけあんたに憧れてたっていうのに───お前はそれを裏切った!!
 ああそうだ、それはお前の勝手だ! 提督だってそう思うだろうさ!
 けどな……それを利用してあいつにあんな顔をさせたお前が! 俺は許せねぇ!!

ワルド「こんなに早く気づかれるとはな! やはりあの男か!
    明らかに私を疑う視線でずっと睨んでいたあの男……忌々しい!
    ───だが今はそんなことはどうでもいい……キミを嬲り殺しにして、
    ゆっくりと手紙とルイズと……そしてウェールズ皇太子の命を頂くとしよう!」

 瞬間、魔法が飛ぶ。
 エア・ハンマーが放たれ、腹に埋まるが───圧迫感を感じた刹那に自ら後方へと飛び、威力を殺した。
 体勢を立て直すより早く放たれたエア・カッターが皮膚を切り刻むが、それでも構わずただ只管に前へ───!

才人 「てめぇは───!!」

 ライトニング・クラウドが奔る───それを、AGIマックスの剣舞にて切り刻む。

才人 「一発───!!」

 その隙に編まれたルーンにより、偏在───模られた仮面の男四体が襲いかかる。
 それを、STRマックスで放つソニックブレストにて斬滅する……!

才人 「殴ってやらなきゃ───!!」

 走る……! 走る走る走る走る……!!

才人 「気がっ───!!」

 ついにはレイピアのように鋭利な細身の杖を構え、最も速度の速い突きにて攻撃をするワルド───! そのレイピアを、左手のグリランドリーで受け止め、掴むことで完全に動きを奪いぃいいいいいいっ!!!!

才人 「済まねぇえええええええっ!!!」
ワルド「なっ───!?」

 デルフを握ったままの右手!
 それを振りかぶり、STRとAGIにステータスの全てを振り分け、一気に振り抜く!!
 瞬間、何かを砕くような音が手に伝わり、バゴォッシャアッ!!

ワルド「ぶげぇぅっ!!?」

 頬を捉え、地面に叩きつけるように殴り落とす!!
 轟音を立てて地面に“ぶつかった”そいつはあまりの勢いにバウンドし、血を吐いて倒れた。

ワルド「あっ……、がっ……ぐあっ……! は、は……!」

 それでもそいつは起き上がる。
 杖を探しているのか、痛みに震えながら辺りを見渡して。
 そして、俺の左手にあるソレに気がつくと……俺は、そいつの目の前で杖を両断してやった。

ワルド「う、あ……!」

 その瞬間、ワルドの表情には敗北の色が浮かび上がる。

デルフ『お、おでれーた……どっちが悪だか解んねーや……だが! 思い出したぜ!
    相棒! おめぇさんはガンダールヴ! ガンダールヴだ!』
才人 「……? がん……ダム?」
デルフ『ガンダールヴだっての! 神の左手、始祖ブリミルの盾として立つ存在!
    つまり虚無の担い手に呼ばれし盾だ!
    ……あれ? つーことは……あの嬢ちゃん、虚無の担い手か!?
    ぶっはははは!! おでれーた! こりゃおでれーた!
    あのにーちゃんが言ってた“嬢ちゃんの力”ってのはこれか!』
才人 「デ、デルフ……? 頭がどうかし……もともと頭なんかないか」
デルフ『バカヤロッ! 頭ならこの柄が……ってンなこたどーでもいいんだよっ!
    俺もこんな錆びた格好してる場合じゃあねぇな───気をつけな相棒!
    その野郎、予備の杖を持ってるぜ!』
才人 「!」
ワルド「チィッ! だが───とった!!」

 倒れていたワルドの杖が、俺に向けられる! 位置は───心臓!?
 エア・ニードル、と唱えられた瞬間、首筋に冷たい何かが刺し込まれた気がした。
 それは、死という直感。
 あれを心臓にくらえば、生きてはいられない……そんな直感が、体を支配した。

デルフ『相棒! 俺を───!』

 デルフが叫ぶ。
 けど、それより先にグリランドリーに包まれた左手が───眩い光を漏らした。
 途端にデルフの意思が、俺の中に流れ込んでくるような錯覚を覚えた刹那!

  キュバァアンッ!!
  ……ォ……ォオオォォゥゥ……ゥン……!!

 放たれたはずの魔法が、全て……デルフリンガーに吸収された。
 気づけば俺は胸の前に剣を構えていて、盾にしていたのだ。
 しかも、その剣が……デルフが、錆びだらけの姿ではなく金色に輝く剣に変わっているじゃないか。

デルフ『〜〜〜ぷっは……! 持ち主の体を動かすのはどれくらいぶりだ!?
    成功するとは思ってなかったけどよ!
    こりゃ魔王のにーちゃんに感謝だな! 相棒、その左手の剣……とんでもねーぜ』
才人 「ああ、そんなの解ってる! 今はそれよりも───!」
デルフ『おうよ! それよりも───!!』

 立ち上がり、体勢を立て直しているワルド目掛けて走り───!

ワルド「くぅ! ウインド・ブレイク!」
才人 「効くかよっ! 馬鹿野郎!!」

 放たれる魔法の全てをデルフで吸収!
 再び懐に潜り込むと、左下から右上へと斜に振るうデルフでワルドの杖を叩き落とし、戻す斬撃で、身を庇おうと翳された左腕を斬り落とした───!!

ワルド「がっ───ぐ、おぉおっ……ぐぁあああああああっ!!!」

 響く絶叫。
 直後、怒りに任せた追撃がワルドを貫こうとした刹那、あろうことかワルドは切れた腕を振るい、血で俺の視界を潰してきた。

才人 「ぐっ! あぁあっ!!」
声  「ハッ……ぐ……! おのれ……おのれおのれぇえっ!!
    ガンダールヴ! ガンダァアアルヴゥウウウウウッ!!!
    この借りは必ず返すぞっ! 貴様を骸にすることで!!」

 叫び、走る音。
 そして、杖を拾ったのだろう。
 聞こえる詠唱ののち、剣を盾として構えたが───衝撃もなにも来ない。
 感じるのは周囲を囲う高熱と、燃える音。
 そして───空を裂くなにかの音だった。
 バサバサと力強く羽撃く音……恐らく、仮面の男が乗っていた飛竜が、ワルドを乗せ、遠ざかっていったのだろう。

声  『……相棒、平気か?』
才人 「〜〜っ……ああ……! 水で洗えばなんとか……!」

 言いながら、ぼんやりと見える景色を見て唖然。
 あの野郎……炎撒いていきやがった。
 倒れていたはずのフーケの姿もない。

デルフ『相棒、さっきの剣閃もういっちょいけそうか?』
才人 「〜〜〜……いや……なんか体がダルくて……無理そうだ」
デルフ『……ああ、そっか、そういやそうだった。
    相棒、ガンダールヴってのは主の詠唱を助けるだけの存在だ。
    暴れればそれだけ力を失うし、いつか動けなくなる。
    ハッキリ自覚させて解放するのは初めてだからなぁ、
    そんだけ負担が多かったんだろうさ』
才人 「な、なんだそりゃ……便利なのか不便なのか……!」

 よく解らないが……解ってることがあるとすれば、このままだと酸素を焼かれて窒息するだろうってことくらいだ。
 炎は勢いを増すばかりで、完全に俺の周囲を包みこんでいる。
 烈風脚で一気に……と行きたいところだが、ひどく体がだるい。使えはしないだろう。
 ギーシュのワルキューレで……とも思ったのだが、ルイズが暴れ回り、それを宥めるので精一杯のようだ。
 心配して取り乱してくれるのはありがたいけど……今の状況じゃあ、冷静でいてほしかったかも……。
 そんな風に思っていると、意思とは関係なしに体が地面にへたり込んだ。
 ……あ、やばい……酸欠……?
 頭がくらくらして……立って……られねぇ……。

デルフ『相棒!? おい相棒!』
才人 「熱ぃ……頭ががんがんして……きもちわるくて………………」

 酸欠? ああ、きっとそれもあるが───人を斬った感触が、今頃手に伝った。
 自分より背の高い人の、腕を、筋を骨を、一気に斬り落とす感触。
 自分の指はカッターなどで誤って切ったことはあっても、他人を切ったこと……それも、“斬ったこと”など一度もなかったのだ。
 怨敵であろうとなかろうと、人である。
 生物を刃物で斬りつける感触に、自分は気持ちの悪さを感じていた。
 だというのに……それと同じくらいの安堵を、心のどこかに宿していた。
 もう迷わない。
 俺が……あいつじゃなく、俺が、ルイズを守る。
 他の誰にも任せるもんか……あいつは、俺が……。
 だから、ああ……だから……こんなところで倒れてる場合じゃ……ないのに……。

才人 「…………」

 赤が迫る。
 その、血にまみれた景色をどこか他人事のように眺めながら、やがて……俺はだるさに導かれるように、気を失った。





【中井出博光/魔王】

 ジャガー♪ ジャガー♪ ぼーくらーのジャガー♪

中井出「ジャガー目潰し! ジャガー玉潰し! ジャガー爪剥がし!」

 つーよいーぞぼーくらーのスーパージャガー♪

中井出「エ゙ア゙ッ!!」

 はい、というわけで現在、貴族派に追われている最後の王党派を助けているところです。現在地は教会。なにやらブリミル様に祈りを捧げていたところを襲われたそうで、こんな場所でハラショーサンボ。
 や、面白いもんだね貴族って。
 僕の姿を見るや「ヘーミン! ヘーミン!」って杖を振り翳しては振り下ろして、魔法をブッ放してくるんですよ。
 だからブッ潰しました。卑劣外道の限りを尽くし。
 目潰し金的爪剥がし、人質身代わりなんでもあり。
 魔法放たれたから貴族の一人を盾に突っ走ったら、悪魔呼ばわりされました。
 まったく失礼しちゃうよね、これは暦とした貴族バリアーって技なのに。俺の中で。

貴族1「ウインド・ブレイク!」
中井出「マジックキャンセラァーーーッ!!」

  ガォオンッ!!

 けどまああれです。
 魔法使いが相手ならば常勝不敗、博光です。
 左手に宿る魔法破壊で魔法を削り取り、多方向からくる魔法はブリュンヒルデの魔法反射能力で反射。
 ゴーレムなどを召喚しての攻撃はゴーレムをジャイアントスウィングして逆に利用し、王党派の皆様を黒衣で収納すると、あとはもうバイバイ。

中井出「無双方天戟! ドゥォオオオリェエエエッ!!」

 あとはもう無双です。
 斬れはしないがフッ飛ばせる武器を手に召喚すると、貴族の海とでも喩えられる人垣へと一気に突っ込む!!
 そして───吹き飛ばす吹き飛ばす吹き飛ばす吹き飛ばす!!

貴族5「な、なんだこの平民は! 魔法がまるで効かん!」
貴族7「しかもこの動きは《バゴォンッ!!》ちぇるしぃーーーーーっ!!?」

 愚か者めが! 敵を前に暢気に喋るは自殺行為と知るがいい!
 知ったところでもはや手遅れだが!
 つーか多ッ! いくら無双で行ってるからって、この人数は……!

中井出「ならばよし! リハビリも兼ねて───フォアラドゥンク!」

 灼闇の魔人を召喚! そこに誰かさんの意思を込め、模らせる!
 その姿は───白銀の御遣いさん!

一刀 「…………あれ? 俺……」
中井出「よっしゃかずピー! 早速だが敵がいっぱいだから手伝ってくれ!
    目標は一分以内に敵の全滅!」
一刀 「あれ? お前───って、全滅!? この人数をか!?」
中井出「おうよ!」

 ほれ、と愛用の木刀を渡してやる。
 といっても、預かってたもんだ、俺のじゃない。

一刀 「これって……お前に渡したアレだよな?」
中井出「うむ! 預かってた“黒刀(こくとう)天樹(てんじゅ)】”(勝手に命名)である!
    確かに返した! だからやっちめぇ!」
一刀 「ってちょっと待った! 華琳は!? みんなは!?」
中井出「ええいこげな時にンなこと気にしてる場合かァーーーーッ!!
    倒したら教えてやるからさっさとなさい!」
一刀 「───よしっ! 確かに聞いたからな! ……すぅ……はぁ……ンッ!」
中井出「準備OK!?」
一刀 「いつでもこいだ!」
中井出「うむよし! ならば───」

 ザッ、と背中合わせに構える。
 そして言うのだ。真剣に戦う度に唱える言を、ただ一言。

中井出&一刀『覚悟、完了───!』

 直後に烈風脚で地面を蹴り、教会に群がる貴族どもへと飛びこんだ───!!

貴族12「馬鹿めがっ! 迂闊に飛びこんだなッ!? エア・スピアー!」
一刀  「魔法か───甘いっ!《ゴキュゥウンッ!!》」
貴族12「なっ……!? 左手で……受け止めた!? いや、き、消え……!?」
一刀  「悪いけど。
     わざわざ宣言しなきゃ撃てないものにやられるほど、鈍間じゃないんだ。
     それに遅すぎだ。左慈の蹴りの方がまだまだ、よっぽど速い───!」

 無双方天戟を振り回す中、かずピーが左手で受け止めた魔法を木刀に装填し、風の魔法剣閃として放つ様が見えた。
 その一発で面白いように吹き飛ぶ貴族ども。
 おぉっほっほっほ、強ぇえ強ぇえ! 烈風脚無しでも似たようなことが出来る上に、戦いなれてらっしゃる!
 こりゃあ……鍛えればモノスゲー強くなりますぜ!? つーか今でも十分強いって! なにあれ! 魔法を真正面から受け止めてるよ!
 魔法剣!? はたまた魔法吸収能力!?
 と驚いている間にも、次から次へと放たれる魔法を左手で受け止めては木刀に流し、その度に木刀に纏わせてる気が属性ごとに変色し、赤になったり青になったりを繰り返し、とうとうプッツンきた一人のメイジが強力な魔法をブッ放つ!!
 よほどの威力があるのだろう。
 貴族どもは余波を恐れて距離を開け、魔法の軌道上にはかずピーだけが残された。
 しかし彼は冷静にその魔法を睨み、ヒョンッと木刀を逆手に持つと、

一刀 「屈んでろあんた! ッ───おぉおおおおおおああああああああっ!!!!」

 なんと、そのバカデカい魔法にまで左手を突き出し、受け止めるや───

中井出「ゲッ……ゲゲェエーーーーーーッ!!!!」

 辺りに衝撃を一切通さずに木刀へ装填───と同時に、左手に受けた衝撃を利用して回転! 同時に逆手に構えた木刀から、込めたばかりの魔法剣閃をブッ放ち───!!

  キュボァアッキィインッ!!
  バガガガガガガォオオオオンッ!!!

中井出「ウヒョォオオオオアァアアアアアアアアッ!!!?」

 爆砕剣閃が彼を中心に放たれ、一回転した彼を軸に吹き飛ぶ景色! アンド貴族ども! そして僕!!
 爆風だけが剣閃として放たれたみたいに地面は砕け、空気は吹き飛び、やがて落下する頃には貴族の誰もがかずピーをバケモンとして見ていた。

貴族30「げっはごはっ……! な、なにが……ひっ!?」
一刀  「この人数でよってたかって魔法攻撃……当然、死ぬ覚悟は出来てるよな?
     殺していいのは殺される覚悟を以って戦うヤツだけだ。
     その覚悟があるなら立て。無いなら杖を捨てろ。このまま去るなら、見逃す」
貴族30「ひ、ひっ……ひぃいいいいいっ!!!」

 貴族の皆様、杖を捨てて大激走!
 そして僕はといえば、戟を構えた状態でひゅるりら〜と風に吹かれておりました。

中井出「ひょ?」

 アレ? おかしいな……僕の無双タイムが……あれ?

中井出「デーンデーンデーンデーンデーデー・デゲデデデデデデ〜〜〜ン♪」

 寂しかったので、せめて真・三国無双2あたりの戦闘勝利音楽を口ずさんだ。
 ……余計寂しかった。

中井出「つーかいいの? 逃がしちゃって」
一刀 「よく解らない場所に出された途端に人殺しなんて、勘弁してほしいんだけど」
中井出「…………おお、それもそーだわな」

 博光納得ゥ。
 そんなわけで、彼への説明を開始しました。

一刀 「ゼロの使い魔……へぇ!? こ、ここ、ゼロ魔の世界!?
    じゃあ才人が居てルイズが居て!?」
中井出「うむ、その世界。なんの因果か、開いてみればホーコラびっくり。
    で、相手もキミのこと知ってるかもしれんから、あまり妙な詮索はせんよーに」
一刀 「へ? …………あ、いや、ちょっと待った。
    あ……れ……? それって…………つまり、つまりだったりする……のか?」
中井出「……キミだけが知ってることにしなさい。華琳達に教えるのは酷だ。
    そう、キミって存在は“真・恋姫無双”って世界に存在している。
    才人がゼロの使い魔に存在するみたいにね。
    簡単に説明すると、俺達の世界は“外史”ってもので繋がっている。
    どこがほんとの世界なのかは誰にも解らんが、“軸”ってのが存在する。
    俺達はその軸を基盤に一人一人の行動で幾つもの“時間軸”を展開するんだ」
一刀 「……俺が、左慈と銅鏡を割ることで、外史の繋がりを持ったみたいに……か?」
中井出「そゆこと。俺だってどっかの物語の人物かもしれん。
    自分で気づいてないだけでね。だから、他のヤツには言うでないぞ?
    余計な混乱はつまらんし、知ってりゃいいのはその覚悟を持てるヤツだけでいい」
一刀 「いきなり重い話だなぁ……」

 外史は軸に繋がる枝のようなもんだ。
 過去から始まり、今までを伸びる。
 人の思念ってのが世界ってものに様々な影響を齎すものなら、たとえ誰が思いついて描いたものでも、どこかに必ず関連がある。
 その関連の根元を辿れば、辿り着くのが創造の原初。
 星が無ければ俺達は住めない。その星がどうして出来たか、俺達はどうやって産まれてきたのか。いや、生まれたのか。
 様々な事柄の“原初”を軸とし、俺達が構成されている……そう考える。
 そう、俺達はつまり、“物語”を軸に繋がっている。
 世界のカケラ探しをする中で、その扉をうっかり開けてしまったってのが俺達が今、ここに居る理由だ。

中井出「ま、いいじゃない? 何を知ろうと俺達ゃ俺達だ。
    それと簡単に説明すると、
    あの時キミに貸してもらった木刀は、きちんとキミに返したよ。
    で、今ここに居るキミは、木刀を返されたキミとは違う。
    いわば、木刀に宿った“北郷一刀”の意思だ。思念ってやつかね。
    それを読み取って、体現させたのが今のキミさ」
一刀 「…………実体はないってことか?」
中井出「んにゃ、それは僕の能力でどうとでも出来るから。
    ちゃ〜んと他のみんなも意思として吸収されてるから、会いに行ってみなさい。
    もちろん大喬小喬も吸収してあるからOKさ! ……もちろん左慈と干吉も」
一刀 「……そっか。で、問題なのが───」
中井出「ヌ? …………お、おーおーおー! もちろん貂蝉も卑弥呼も一緒さ!」
一刀 「やっぱりかぁあああっ……!!」

 あ、ひどくショックを受けた。
 気持ちは解らんでもないが、話してみると結構面白いんだけどね、あの二人。

中井出「ま、とにかくだ。前後して悪かったね、まずこれをどうぞ」

 と、まずナビネックレスを差し出す。
 疑問符を浮かべながらも受け取ってくれるかずピーに謝謝と言って、軽い説明をした。

中井出「冒険の世界ヒロラインへようこそ。
    あ、ヒロラインってのは博光の野望オンラインの略ね?
    嫌な名前だけど、まあよろしく。舞台はフェルダールとレゾンデートル。
    華琳たちはフェルダールに居るけど、
    キミと才人にゃあしばらくレゾンデートルで冒険してもらう」
一刀 「? よく解らないけど、なんでだって訊いていいか?」

 はて、と首を傾げるかずピー。
 しかしながら、わざわざ瓦礫をドカドカと積み、椅子を作って促してくれる。
 おお、気が利く人だ。

中井出「今ね、フェルダールに魏・呉・蜀の国を設置していってるのよ。
    何分人数が多いから、地盤作るのが大変でさ。
    なにせキミたちの意思を取り込んでから四千年近く記憶喪失だ。
    基盤もガタガタ、意思もガタガタ。それらを直すので今まで時間を食ってた。
    で、最初に言っておくけどヒロラインってのはゲームだ。
    死んでもすぐ蘇れる、まあ……FF11とか思い出してくれればいいや」
一刀 「……あ、ああ、ああいうのか」

 しっかりFF11があるらしい……ウウム、やはりどこかで繋がりがあるね。
 つーことは、行こうと思えばハヤテのごとくとかの世界にも行けるってわけか。
 いつか、ナギがヴァナディールを喩えに出してたし。

中井出「そゆこと。で、そんな世界を実体験できるのがヒロライン。
    そんな世界でキミたちには生きてもらう。
    意思しか無い存在だから、生きるってのとはちょっと違うのかもしれないが、
    敢えて言おう。生きてもらうと。
    ちなみに実体持ってるのは俺とドリアードだけで、
    あと全員は意思体だからね?
    んーと……おおそれと、なにをどうしても子孫は残せないし成長もしないから、
    そこんところは少し自重してください恋姫の主人公さん」
一刀 「《かああぁっ……!》その言い方っ……お、お前知ってるんだな!?
    俺がどんなことしてきたかとか知ってるんだなぁっ!?」
中井出「いや、俺も詳しいことは知らんのだけどね?
    でも僕の中の意思たちが知ってるから、文句はそっちに言ってね?」
一刀 「うっ……ぐ……!」

 まあお顔が真っ赤! 実に真っ赤!
 と、そろそろ戻るか。敵さんも追い払ったし。

中井出「んーじゃ戻りますかい。マジモンのファンタジーの中で、冒険を楽しんでくれ。
    あ、なんなら霞だけでも同行させましょか? 羅馬の約束してたっしょ」
一刀 「あー……いや、いい。一人で考えたいこともあるし」
中井出「ありゃまそう? ではよいヒロラインライフを」

 言って、黒衣で包みこむとレゾンデートルへと───

一刀 「あ、ちょっと待った! ……ちなみに物語的に、今どのへん?
    教会ってことは……アルビオンか? じゃあウェールズは───」
中井出「強引に生かした。今ニーベルマントルに収納してある。
    生憎だが俺は歴史に従順じゃあねぇぜ?
    過去は受け容れるもの。現在は生きるもの。そして未来は抗うもの。
    ゼロの使い魔って物語が存在し、先を知っていようがな、
    今ここを生きている俺達が歩く先は、“抗うべき未来”に他ならない」
一刀 「……じゃあ、あんたは……」
中井出「故に俺は俺のやりたいようにやる。ウェールズは生かす。姫ちゃんとくっつける。
    タバサの心を救ってやりたい。カトレアを救ってやりたい。
    楽しいを知らないやつらに、目一杯の楽しいを教えてやりたい。
    “仲間の笑顔を見たい自分のため”なら、
    たとえ俺が外道と呼ばれようと一向に構わない。
    自分の目的のために傷つくことなどとっくの昔に覚悟の内だ。
    その全てを背負い、抱き、噛み締めて刻むために、
    俺は“魔王”の二つ名を授かった。
    たとえ全てに忘れられようと、俺に向けられる笑顔がなかろうとも。
    俺が仲間だと信じたやつらが笑っていられるなら、それでいいって思ったんだ。
    手段は選ばない。俺は俺の理想のために、いつだって自己満足の結果を残す」

 今度は止まらない。
 返事を口にするより先に黒衣で包み、レゾンデートルへと飛ばした。

中井出「……………俺の道連れは武具とドリアードだけ。
    全てに忘れられた俺がどうなろうと、悲しむやつはもう居ない。
    だから…………な。いいんだ、これで。これでいいんだよ」

 誰も居なくなった教会の礼拝堂。
 一刀の一撃でボロボロのそこで、どんなやつかも知らないブリミルに祈ってみた。
 ……当然、その祈りは誰にも届かなかった。


───……。


 キィイッ───ビジュンッ!

中井出「やっほーフーケちゃーーん! おにーさんと遊ギャアアアアアアアアアッ!!!」

 しんみりした気持ちを一転させるべく、転移でラ・ロシェールへと舞い降りた僕!
 ……を、突然襲う業火!!
 イヤア何!? なんで突然燃えてるの僕! ───ハッ!? よもやこれは罠!? 孔明の……朱里の巧妙な罠!?
 なんて思ってたら、急に空から突風!
 何事!? と思うより先に炎が消し飛ばされ、僕は平穏を手に入れた!

中井出「ふ、ふ〜〜〜っ、死ぬかと思ったチェン───ややっ!? 才人!?」

 と、炎から助かってみれば、なんと近くで倒れている才人を発見!
 何事!? いったいなにが───って、まさかワルドかフーケと戦ったとか?

中井出「うわあ無茶しなさる……!」

 ともかく口にグミを突っ込み、ポーションで流し込んでやる。
 するとパチリと目が開き、ガバッと起き上がるサイトーン!

才人 「提督!? あ、あれ? 炎は!?」
中井出「や、なんかほれ、空から風が……って、ゲェーーーーーーッ!!」

 空を見上げた! するとそこにおわす、風竜に跨るシャルとキュルケ!

キュルケ「おまたせー♪」
中井出 「いや、お待たせって……もう全部終わったんですけど……」
キュルケ「───…………え?」
タバサ 「…………遅かった?」
中井出 「んーにゃ、そんなこたぁないよ。よく来てくれた、シャル」
タバサ 「……《こくり》」
キュルケ「えー? ちょっと、私はー?」
中井出 「どーせワルド目的っしょ?
     彼ならトリステイン裏切ったから、追いかけるなら好きになさい」
キュルケ「えぇえっ!? 魔法衛士隊隊長なんて地位なのに!? 信じられない!」

 貴族にしてみりゃ、やっぱり大変なことらしい。
 僕にしてみりゃ不意打ち裏切りなんてものは、生きていく上で必要なものだと認識されてるものなんだけどね……。

中井出「よっしゃ、皆様の無事を確認したところでいざトリステインへ!
    ……あ、ルイズへのフォロー、しっかり頼むよ才人」
才人 「……ああ。任された」

 で、と。
 才人にレアバードは? と訊ねてみると、なんでもフーケのゴーレム破壊するのに特攻させたとかなんとか……。
 オウ……そりゃあいくらでも作れるけど、なにも特攻と書いてぶっこみをさせんでも。

中井出「まあいいや、一度行ったことある場所なら転移でラクラクポンだし。
    はいみんな、僕に触れてー? ってギーシュー!? キミもはよぉせんねぇっ!」

 レアバードに乗って、ぐるぐる回っているギーシュに声をかけるんだが……どうやらルイズがいろいろと暴れているらしい。
 多分だけど、ワルドのことへのショックをギーシュにぶつけているんだろう。
 埒も無し。
 異翔転移でレアバードごとこの場に転移させると、目に涙を溜めてギャースカ喚くルイズを抱きかかえ、月清力で眠らせる。
 あとは……ほい、と才人に渡す。
 ルイズを受け取った才人は、涙を溜めて眠るルイズの顔を見下ろし、少しだけ安堵する。
 けれど次の瞬間には男の顔つきになり、こくりと頷いた。
 なにか新たな覚悟でも決めたのやもしれません。

中井出「じゃ、帰るぜ〜〜〜〜っ!!」
総員 『おぉおっ!!』

 こうして……風のアルビオン特攻絵巻は幕を下ろした。
 これからアルビオンが特攻を掛けてくるだろうが、そんなものは実力で排除する。

中井出「……戦争か……。
    こんな気持ちで、剣を握ることなんてもう無いって思ってたのにな……」

 ───貴族は嫌いだ。
 楽しいを率先して探そうとはせずに座し、探そうとするものから様々な楽しいを奪う。
 だから、その貴族全てが敵だというのなら……俺は、アルビオンの全てを破壊しよう。
 俺はなんの味方でもない。ただ只管に、楽しいの味方。
 産まれた運命、生き様のために楽しいを知らない者たちに楽しいを教えよう。
 知りたいのに届かないのなら、届かない場所まで引っ張ってやろう。
 結局は仲間のために未来を捨てた俺は、自分のために楽しいを振り撒く道化の魔王。
 誰の記憶に留まらなくてもいい。
 俺が全てを記憶し、俺が全てを連れていこう。
 人としてでなく意思として、俺が全部連れていこう。
 ずっとそうして笑っていてくれ。
 俺が、痛みも苦しみも悲しみも受け止めるから。
 だから、子供は子供らしく、大人は大人らしく、ずっとそんな世界で笑っていてくれ。
 誰に理解されなくてもいい……俺がそんな世界を見たいから、俺は俺のために頑張れる。

中井出「ねぇシャル。トリステインに戻ったらさ、はしばみ草ご馳走して?」
タバサ「了解」

 力強く頷くシャルに感謝をしつつ、ラ・ロシェールをあとにした。
 苦味を口にして、一度自分に喝を入れたかった。
 そうして戻ってきたトリステイン王立魔法学院の塔を見上げ、静かに、誰にも知られずに覚悟を決める。
 ずっとそうして生きてきた。
 これからもずっと、不老不死の人生を生きるのだろう。
 何かと直面するたび、戦いを前にするたび、かつて“人間だった自分”のように覚悟を口にするのだろう。
 それでいい。
 なんの覚悟も決めずに走れるほどの勇気を、自分はきっと持っていない。
 誰に勝てようとも、死なずとも、心だけはずっと弱かった人間のままで生きていく。
 それが、臆病なくせに魔王になった俺が辿る永劫の未来だ。
 そんな未来でも……笑って歩いてやろうじゃないか。
 そんな姿こそ、忘却の猫になった自分に相応しいに違いない。

中井出「ゲブォオオッフェェエエッ!!!」
タバサ「!?」

 ……などと考えていた心が一発で吹き飛んだその日。
 俺は、シャルが独自に作ってみたというはしばみシャーベットの前に悶絶した。
 苦いなんてもんじゃない……はしばみ草数十枚を擂り下ろし、にっちゃにちゃなそれをさらに擂り、氷で固めたソレはもはや苦味の極致。
 盛大に吐き、テーブルに倒れ伏し、ビクンビクンと痙攣を始めた僕をシャルが珍しく動揺しながら揺すります。
 原因を考えて、シャーベットを口に含むシャルだが……美味いのか、ほっこりと少しだけ頬を緩ませるだけ。
 ……俺は神を見た。苦味の神を。
 あーはい、なにやら意識が薄れてきたのでこのへんで。
 エ? ウェールズ? ……あ、出すの忘れてた───……





Next
top
Back