07/過去の記憶

【平賀才人/広大なる世界にて】

 ざあぁ、と草木が風に揺らされる。
 そんな世界を駆け抜け、思うさまに剣を振るい、汗を拭った。

才人 「ふぅっ……」

 フェルダールと呼ばれるここで、今日も元気に冒険の日々。
 現実の一時間が一ヶ月になるっていう異常な世界を、ギーシュと一緒に駆け回っていた。

ギーシュ「なるほど、こんなことをしていれば、僕にも勝てるわけだよ」
才人  「ちょっと反則だったよな、悪い」
ギーシュ「はは、なに、構わないさ。お陰で僕もいろいろと冷静になれたしね。
     薔薇は見る者を楽しませる存在でなければならない。
     だというのに平民、いいや、シエスタくんに罪を押し付けるようなことをした。
     僕は自分が恥ずかしくなったよ」

 ルイズに一人になりたいって言ってやって来た広場の隅で、人を斬った感触を思い出しながら呆然としていた。
 必要だからって、初めてやってしまった行為に、感触を思い出すたびに息を飲んで。
 でもそんな俺に歩み寄ってきたギーシュが、「そうしなければ才人。キミは誰も守れなかったんじゃないかい?」と言ってくれた。
 納得は出来たつもりでも、高校生に人斬りは辛い。
 でも守るためには、でも辛い、でも、でも……

中井出「ほっほっほ、まだ悩んでおるのかや、この小僧めが」
才人 「うぉおわっ!? てて提督っ、急に沸いて出るなよ!」
中井出「ばかもん! 博光ですもの、何処からでも沸いてでるよ!」
才人 「……そんな返し方されたの、初めてだよ俺」

 どういう思考をしてるのか、いちいち気になるやつだ。
 そういえば俺、提督のことって詳しくってほど知らないんだよな。

才人 「でも、ああ、悩んでる。守るためだからって人を傷つけていいのかなって」
中井出「売られた喧嘩は買うべきで、貫きたいものがあるなら貫き通す。
    そげな覚悟もないヤツが、戦場に立つでない。
    で、戦場に立たなきゃ守れないんだったら、とっとと覚悟決めちまえ。
    俺から言えるのはそれだけだ。
    戦場に立って敵対したからには、たとえ赤子だろうとブチノメーション。
    それくらいの心意気がないヤツが戦に出るなど……恥を知れィ!!」
才人 「うぐっ……じゃあ提督は出来るのかよ」
中井出「出来る。人殺した経験ありまくるし。
    赤子も子供も青年も中年も老人も、老若男女差別無く殺した。
    俺ゃ仲間は裏切らんが、敵には容赦せん。死にたくないからね」
才人 「…………なんか、そういうのって……」
中井出「嫌? ほっほ、青い青い。もっと深く戦いってものを知ってみなさい。
    世界を救うための力なんざ要らん。自分が自分らしくあれるための力をつけぃ。
    ルイズを守りたいなら、ルイズを全てから守ってやれる力を得なさい。
    世界を救えるほどの力じゃなきゃだめだっつーなら、
    それだけの力を得りゃあいいさ。ただし世界は救うな。
    力があるから何かをしなきゃいけないなんてこと、軽々しく思うんじゃあねぇぞ」
才人 「……世界、救ったことがあるとか?」
中井出「あるよ?」
才人 「うぇええっ!? そんなあっさり!?」

 きょとんとした顔でなんてこと言うんだこいつ!
 妙なヤツだとは思ってたけど、まさか本当に……!?
 あ、ギーシュのやつ固まってる。

中井出「でもね、ありゃつまんねーワ。結果として俺ゃあ絶望を味わうことになったし、
    だーれも俺のこと覚えてるヤツ居なくなったし。
    どーしても世界救うってんなら他人のためじゃあねぇ、自分のために救いなさい。
    誰かのために命を懸けるなんて疲れるダケヨー。
    伝記として聞くヤツぁ美談だどうだって言うだろうが、
    救ったほうなんて虚しいだけだもん」
才人 「うわー……あ、なぁ、何か証拠とかってあるか?
    疑うわけじゃないけどさ、そういうのがあると教訓にもなるっつーか」
中井出「…………どうしてみんな、知りたがるんでしょうねぇ……」

 とほー、と溜め息。
 けど指の先を光らせると、その光で空中に何かを描き───気づいたら猫の里に飛ばされていた。

ギーシュ「え? あ、え? い、いつの間に……?」

 と、それまで疑問符を浮かべながら話を聞いていたギーシュが、疑問を口にする。
 出発地点はそもそもここだった。
 それを一瞬で飛ばされると、さすがに驚く。

中井出「えーと……どうせならみんなに知っててもらおうか。
    姫ちゃんはえーと……OK、丁度仕事終わったみたいだし、ちょっと連れてくる」
才人 「え? ちょ、おまっ! 連れてくるって───」

 ビジュンッ!! …………消えた。
 ビジュンッ!! ……と思ったら戻ってきた。───姫さまも一緒で……ぇええっ!!?

中井出「ヒーホー! これより貴様らに戦争のくだらなさを教えてやる!
    だがくだらなくとも生きるためなら全力で突き進むことこそが我道!
    というわけで友達のアンリエッタ姫殿下とウェールズ皇太子です」
全員 『えぇええええーーーーっ!!!?』

 絶叫。
 どどんっと目の前に現れたのは、提督と姫さまだけじゃなく……なんとウェールズ皇太子まで。顔知らなかったけど、へぇえ……こんな顔だったのか。

ギーシュ 「ぷぷぷっぷぷプリンス・オブ・ウェールズ……!?
      アルビオンの貴族派に敗れ、てっきりその……」
ウェールズ「悲しいことだが、死んだようなものだよ。
      アルビオンを、王党派としても一人のウェールズとしても守れなかった」
中井出  「んーなもん貴族どもをブチノメーションで奪い返しゃあよかとよ。
      重要なのは貴様が生きておることさね。
      アルビオンの貴族どもにはきっちりと、
      やつらの絶望の在り処を訊いてブチノメしてやりますきん。
      この世界に居る間くらい、ただのウェールズとして休んでおるがよいわ」
ウェールズ「…………すまない」
中井出  「お辞儀なんかえーからさ。それよか話の続きじゃい。
      いーかい? これより見せることについて、詳しいことは他言無用だ。
      僕、これでも人畜有害で通ってるから」
才人   「や、その時点でいろいろだめじゃねえか?」

 一応ツッコミを入れてみる。
 ……と、視界の端に青を見た気がして振り向いてみれば、本を抱いて立っているタバサ。

才人 「あれっ……タバサ?
    シルフィードも……お前らもやってたのかよっ、ヒロラインッ」
タバサ「…………やってた」

 ゆったりと頷かれた。
 眠たげな目と、三角形に小さく開かれた口……相変わらず何を考えてるのか解らない表情だ。

中井出「一応確認ね? ネックレスを渡してあるのは、才人、ルイズ、ギーシュ、
    ヴェルダンデ、シャル、イルククゥ、アンリエッタとウェールズの7名だ。
    それ以外の人にこの世界のことや、これから見せることを話さないこと。OK?」
才人 「……シャルとかイルククゥって誰だ?」
中井出「秘密さ」

 ? ……あ、タバサのことか? 提督って人のこと妙な名前で呼ぶこと多いし。
 でもそっか、ウェールズ様……様ってつけるべきだよな? ……様も、ネックレスつけてるのか。姫さままで。

中井出   「ここにルイズがいねーのは、
       オスマンのじじぃに始祖の祈祷書を授かってるところだから。
       さすがにこればっかりは邪魔するわけにはいくまいよ」
アンリエッタ「………」
ギーシュ  「祈祷書……それはたしか、王宮の……なるほど、同盟のための、だね?」
中井出   「いや? ウェールズと結婚する時のためのものだよ?
       レコン・キスタもアルビオンも知ったことではないわ。
       相思相愛者がくっつかないのはなんか嫌だから、俺が我を通します。
       その障害となるものは、たとえゲルマニア皇帝だろうと容赦しねー!」
ギーシュ  「無茶苦茶だねきみはっ!
       そ、そんなことしてただで済むと思うのかい!?」
中井出   「済むと思うじゃねぇ……済ますのよ。つーわけでさあ上映会だよ。
       俺は料理作ってるから、キミたちはのんびり見ててくれ。
       あ、ここの時間だけ捻じ曲げるから、
       上映が終わるまでは外には出れないからね?
       何かやっておきたいこととかあれば、先に済ませといて。
       こっちもかずピーに意識繋げて、いろいろ見せる準備があるから」

 と、提督。
 ぽぽぽんっと草木で柔らかな腰掛けを作ってくれて、俺達はそれに座って息を吐く。
 とくにすることもないし、深く座ることを答えとして見せれば、提督はこくりと頷いて……また指を光らせる。
 現れたのは闇だ。
 俺達の周りだけ、真っ黒な闇に包まれたようだ。
 なのに、他の誰かの姿はきっちり見えるんだから不思議だ。

声  「……それと。ルイズが居ないのにはもうひとつ理由があってね。
    これ見たら、僕への認識がいろいろと変わるんじゃないかって思えてね。
    同情哀れみ大いに結構。でも、対応が変わることを良しとは思わん。
    だから、いっそ楽しんでくれ。絶望も悲しみも。
    これより始まるはこの博光の過去よ。その姿を見て、せいぜい楽しむがよいわ」

 最後に聞こえたのはそれだけだ。
 人の気配が去って、直後に映像が現れる。
 黒の景色の全てを塗り潰し、まるで自分がその場に立っているような錯覚をよこす。
 ……いや、立ってみれば、そこは確かに日本の大地……コンクリートの感触がした。
 俺以外のみんなが、見たこともない景色に驚いていた。
 これが……提督の過去か。
 レオンさんや伯、セトから聞いた提督の特徴とかは、ただひたすらに“仲間は裏切らない”ってものばかりだった。
 これから見るものがどんなものなのか……気にならないわけがなかった。

アンリエッタ「変わった大地……ですね」
才人    「………」

 みんなが一様に、物珍しそうに触れる。
 そう、触れることができる。
 電柱にも、生えている雑草にも。
 なのに、時折通りかかる通行人は、俺達を認知しないどころか触ることも出来なかった。


───……。


 幼少時、祖母が死んだ。
 落ちた天井から提督を守ってのことだった。
 幼少時、両親が死んだ。
 近所の知り合いが金欲しさに犯した不幸な出来事だった。
 それからじいさんとの二人暮し。
 自分の所為でばーさんが死んだと思いこんでいた提督は、じいさんの言葉に救われる。
 中学に上がるとヘンテコなやつらとばかり出会って、親しい者同士で“迷惑部”というものを設立。その部長となり、いつしか提督と呼ばれるようになった。
 そんな仲間とも中学で別れ、高校ではつまらない人生を送る。
 働きに出て、同窓会でモミアゲさんたちや原沢南中学校のやつらと再会、散々と騒ぐ。
 それから少しもしないうちに、一緒に生きてきたじいさんが親戚連中に財産目当てで毒殺される。家のもの全てを差し押さえられ、追い出され、行く当てがどうとか考える余裕も無しに、歩いて歩いて……モミアゲさんの家でもある晦神社へ。
 空界って呼ばれてるファンタジー世界で住むようになって、ちょっと変わった普通の日々を生きていく。

……。

 時が流れた。
 普通の日々は続いて、“千年の寿命”ってものを飲んだ提督は、空界で生き続ける。
 幼馴染と結婚して子供も授かり、紀裡と名付けられた女の子と麻衣香っていう妻と、幸せな日々を過ごしていた。
 ───ある年の夏。
 再び集まる約束をしていた提督たちは、昂風街って場所に集合して、一つの祭りを行った。知り合い全員を集めて、若い頃の姿になるまで自分たちの時間を操って、散々と騒ぐため。
 そののち、ふと思いついた創造世界での冒険を実際に始め、夢中で楽しんでいた。
 世界の名前は“博光の野望オンライン”。
 略称でヒロラインと呼ばれる、つまり今俺達が居るこの世界だった。
 仲間や妻と冒険をして、イベントをこなしてレベルを上げて。
 武器や防具を強くして、強い敵と戦って、ゲーム世界の住人と仲良くなったりして。

才人  「うぅわ卑怯だ……」
ギーシュ「卑劣だね……」
タバサ 「外道……」

 言いたい放題だけど、勝つためならばなんでもするっていうのは最初からだったようだ。
 鍛錬なんて全然しないで、昔のRPGよろしく、武器とレベルだけで突っ込む人。
 鍛錬に身を費やさないだけあって、武具の強さは超一級。けれど武具が無くなるや、究極と言っても差し支えがないほどにザコだった。
 戦い方には美しさのかけらもない。
 泥まみれのボロボロになりながら、死に物狂いで勝って。でも、笑顔で素材を剥ぎ取る。
 武具を強くして、発動したスキルに喜んで、強敵に襲われてキャーキャー叫んで。
 心から楽しんでいるのが解るくらい、その姿は楽しそうだった。

アンリエッタ「ふふっ、とても楽しそう」
ウェールズ 「元気だね、彼は」

 妖精との出会い、竜族との戦い、精霊との戦いや、守護竜との戦い。
 どれもがギリギリで、見ているこっちがハラハラした。
 てか、カイザードラゴンとの戦いは、正直この場に居る全員が叫んだ。
 臨場感どころじゃない、実際にその場に立っているような感覚なんだから、目の前にカイザードラゴンが実際に居るって錯覚できるのだ。叫びたくもなる。
 ともあれ、のちに武具能力でオーディンを召喚。
 グングニルの槍をモンスターに向けて投擲するのを見るや、それを横取り強奪&逃走。
 武具のためなら本当になんでもする人だった。
 結局主神の怒りに触れて追い掛け回され───強引にブチノメし、まんまとグングニルを入手。
 冒険を続け、休憩の合間に現実世界で過去の清算を始めて、時間移動で過去へと飛ぶ。
 そこでモミアゲさんの過去の清算を手伝い、巻き込まれるカタチで自分の過去の清算が出来る場所へと飛ばされる。
 それは幼い日の提督が居た世界。
 提督のばあさんとじいさんがまだ生きていて、自分を庇うことで死んでしまうばーさんを救えるかもしれない瞬間だった。

才人 「………」

 ……助けると思った。
 後悔してなきゃこんな瞬間に飛ばされることもなかったはずだから。
 なのに映像の中の提督は、潰れるばあさんを助けることもせず、ただ瞬きもせず、涙を流しながら、その様を眺めていた。
 同じく猫になってその場に居たモミアゲさんたちが、何もしなかったどころか、助けようと駆け出さんとした自分達を邪魔してまで見捨てた提督さんに罵倒を飛ばす。
 姫さまもウェールスさまも驚きを隠せていない。
 それは他のみんなもだ。
 けど、俺は思い出していた。
 “助けられる力があるからって助けるのは何か違う”。
 世界を救える力があるから救わなきゃいけないんじゃない。
 提督はたぶん……たとえどんなことがあろうと、過去に起きたことを変えるつもりなんかなかったんだろう。
 だから見捨てた。
 大事な祖母だろうと、自分がこれからする行動を覚悟として貫くために……そう、見殺しにしたのだ。

 それでもやはり生きてゆく。
 ゲームの世界に戻り、レベルを上げて、武具も鍛えて。
 様々な守護竜と戦って、イベントをこなして、刻震竜っていうバカデカい竜のバケモノとも戦って。
 世界が揺らぎ、フェルダールからレゾンデートルへと変化したその先でも。

  でも……レゾンデートルでの新たな旅を始める前の現実世界で、それは起こった。

 どれだけ武具が強くてもレベルが高くても人間でしかない提督は、敵……イドっていう死の精霊に人形のように操られ、その手で空界の住人のほぼを殺す。
 言っていた通り、老若男女差別することなく、幾度も、幾人も。その頃から血が眼球の奥にこびりついたように、提督が見る世界は真っ赤だった。
 曇天の空を仰いでも、赤の曇り空があるだけ。降る雨も赤く、きっとその先にある青空さえもが赤いのだろう。
 娘の紀裡ちゃんの友人までをもその手で殺し、なのにその足で仲間のところへ戻らなきゃいけなかった。
 戻り、待っていたのは仲間からの拒絶。
 娘から「大嫌い! 死んじゃえばいいんだ!」とまで言われて、それでも……

才人 (……ああ……)

 それでも、そいつは“自分から仲間を裏切ること”だけは絶対にしなかった。
 ルドラってヤツの力で、仲間のみんなが提督のことだけを忘れてしまっても、人殺しとどれだけ罵られようとも、自分が仲間だと思っている限りは仲間なのだと、魔王を名乗りながら裏切ることを絶対にしなかった。

ギーシュ「………」
タバサ 「………」

 誰も何も喋らない。
 ただ、“自分がみんなに生きていてほしいから”なんていう“自分のため”に行動し、独りで様々な思いを背負う“人間”の生き様を見ていた。
 生き様と呼ぶにはあまりにも無様。
 なのに、笑ってやるにはあまりに残酷な人生がそこにあった。
 もう提督の仲間だったみんなは、提督のことを仲間とも思っていない。
 それどころか、自分たちが逃げるための囮役になれとさえ言うような相手だったのに、映像の中のそいつは……たった一人で地平線を埋め尽くすほどの“黒”の大群を前に構え、囮になった。

 ───……見ていられないものってあるよな。
 ホラー映画を見に行ったはずなのに、怖くて目を逸らしたり、恋愛ものを見て恥ずかしくて目を逸らすとか。
 ……まあその、親が近くに居るのにテレビの野郎が女性下着のCMやり始めた時とか。
 それらとは明らかに違う見ていられない世界がそこにはあった。
 作りものじゃない、人の生き死にがそこにある。
 腹を貫かれて、人形のように操られて、仲間と戦うはめになって、育ててきた武器で自分を貫くことで自分を取り戻して。
 滅びゆく世界に独り残り、やがて消滅する姿に、なんて声をかけてやればよかったのか。
 今この世界に提督が居るってことは、生きていられたんだろうってことに繋がる。
 そう解っていても、目の前で起こった全ては事実で、見ていられない現実だった。

 せっかく生きていられたのに、今度は精霊と戦わなきゃいけなかった。
 自分のためだとどれだけ言おうが、ただ生きたいだけなら逃げればよかったのに。
 それでも戦って、傷ついて、最初から全力でいけない理由を前に歯噛みしながら、ようやく発動させた全力。
 人に扱えるものではないそれを振るうことで、提督は人であることをやめることになる。
 精霊を斬り滅ぼした際に発生した次元の穴にソレは落ち、空界って世界で猫として生きることになる。
 それは、自分が何者だったのかも、どうしてそこに居るのかも忘れてしまった、死ぬことは許されず、生きることだけを許された……忘却の猫だった。


───……。


 ……。

才人 「………」

 ……重いな、これ。
 こんな人生歩んでおいて、人と一緒に居られるって凄いだろ。

中井出「はい終わったね? メシ出来たよー」
才人 「……で、人が暗い気持ち背負ってるってのに、当の本人はどうしてこう笑顔かね」
デルフ『イカレてんじゃねぇのかね』
中井出「いきなり失礼だねオイ!!」

 孤独な男の物語が終わった。
 厳密に言えば、今この時も続いている。
 英雄の虚しさとか、世界を救うなんてことのつまらなさとか、理解できることはいろいろあったものの、結局この人は救われているんだろうか。
 そんなことを、小さく考えた。
 ちらりと見てみれば、姫さまもウェールズさまも固まっていた。
 ギーシュもタバサもだ。

才人 「あのさぁ提督」
中井出「ホイ?《ニコリ》」

 声をかけてみると、提督はにこりと笑った。
 浦安鉄筋家族の春巻龍のような笑顔だった。

才人 「見せてくれって頼みはしたけど……逆に気になった。
    あんな目に遭ったってのに、どうして人間に……その。
    俺達の世話を焼くようなこと、してくれるんだ?」

 おそるおそると、訊きづらいこ

中井出「面白そうだから」

 とを、ってウェエエエッ!!?

中井出「過去は過去さね。起きたことは受け容れてあるからぐちぐちこぼせるもんデショ?
    そんなつまらんことよりメシ食おうぜメシ!
    俺ゃもうとにかく面白けりゃなんでもいいのさ!
    ただしチャラリーナさんが言う面白さとは一致しないのであしからず。
    からかうのは好きだけどチャラリーナさんは大嫌いだ」
才人 「チャラリーナさんって?」
中井出「あーほらドラマとかでよくあるじゃん。
    チャラチャラしたのが集団で一人を囲ってさ、
    オラオラウッヒャッヒャッヒャってイジメるアレよ。
    あれはね、反撃できる相手にするから面白いんであって、
    反撃出来ない相手にやるとただのイジメにしかならんのよ。
    ちなみに僕は黒竜王にソレをやってボコボコにされた経験がある」
才人 「……なるほど、やるなら実力が上の相手にやってこそってわけか」
中井出「楽しめるならば自分の痛みも糧とする! それが我らの原ソウル!!」

 ビシィとよく解らない謎のポーズを取る提督。
 JOJOっぽいポーズだった。

中井出「ちなみに今僕が会いたい人は不老不死の誰かです。
    そんな誰かと巡り会えたら、もう遠慮することなくいろいろとぶちまけるのさ!
    主に実力行使で」
才人 「相手が死ぬだろそれ……って、不老不死だから死なないか?」
中井出「大丈夫大丈夫、やるとしても肉技に統一するつもりだから。
    肉技ってのはアレね? キン肉マン系の技」
才人 「映像見るだけで、どれほど好きなのかがよく解ったけどさ。
    もちろん、相手が女でもやるんだよ……な?」
中井出「老若男女、差別なくキャプチュードする男ですよ? 俺」
才人 「ああうん……まあ、それはちっこいほうのドリアード見ればよく解ったけど」

 泣きついてきた子供精霊にキャプチュードって……普通しないよなぁ……。
 他にもガウロンセンドロップしたり、首をゴキャリと捻って気絶させたり、フェニックスドライバーやったり……うん、普通じゃない。

中井出「まあほれ、それはいいからメシ食いにいこうメシ!
    もうルイズ嬢が待ってるから、早くいかねーと彼女の腹が大・号・泣!!」
才人 「それ鳴るっていうか泣いてるだろ!」
中井出「うむ! あ、ちなみにね?
    ルイズ嬢はキミを探してうろうろしてたところをひっ捕らえました。最強」

 ……結局。
 俺達はそんな提督の明るさに毒気を抜かれるような心境で、猫の里の中心、大樹ユグドラシルのもとへと集まってメシを食うことになった。
 そこにはほんとにルイズが待っていて、「私だけノケモノにして、どどどどうしてくれようかしらねこの犬……!」とか言ってらっしゃいまして……!
 イヤ、チガウンデスヨルイズサン、と返そうと思った途端に鞭が振り上げられた。

中井出「ルイズ! 食事時に鞭を振り上げるなんて果てしなくてよ!」
ルイズ「《ビクゥッ!》ひゃうっ!?」
才人 「……言いたいことは解るけどさ。この場合、はしたない、じゃないか?」
中井出「エ? …………《かぁああっ……!》ち、違うよ!? いいんだよ果てしないで!
    なななんだよなに言ってんだよいいに決まってるじゃん!
    それよりさっさとご飯食べるよご飯! べべっべべべつにっ!
    みんなに食べてもらいたくて作ったんじゃないんだからね!?《ポッ》」
才人 「提督キモいからやめてくれ」
中井出「鬼ひでぇ!!」

 どこかぽかんとしている皆を前に、提督は全然変わらなかった。
 そりゃそっか、変わったのは俺達の考え方や見方だもんな、当然だ。
 そんなふうにしんみりと思いながら、切り株で出来た椅子に座ると食事を前に喉を鳴らした。映像の中でも見たけど、提督の料理はいろいろと美味そうなものばかりだ。
 特にうどんには相当なこだわりを持っているようで、鍛錬はしないくせにうどんの研究はしているらしい。
 残念ながらここにうどんは無いようだけど、いつか食わせてもらえる機会があるだろう。

中井出「……で、が……ね? ……れを……すると……」
ルイズ「……? あんた嘘ついてんじゃないでしょうね」
中井出「じゃあ出来たらルイズの分のプリン、俺食うかんな」
ルイズ「べつにいいわよ? プディング一つで大騒ぎするほどの子供でもないもの」
中井出「じゃあどうぞ? 目標に向けて手を突き出して」
ルイズ「“出でよ灯火! プチファイア!”」

 ポムッ。

総員 『ざわっ……!!』

 …………見た。
 なにか喋ってたと思ったら、ルイズが杖を突き出して……“魔法”を使った。

ルイズ「ふえっ……? う、うそ…………魔法……? わたし……ほんとに……?」
中井出「よっしゃーーーーっ!! 英雄忍者のレアサインゲットォゥッ!!
    じゃなくてルイズの分のプリンもーーーらいっ!!」
ルイズ「え……? え……? ど、どういうことなの……?
    ねぇヒロミツッ、これ、これっ……!」
中井出「あぁん!? お客さん!? もうこれ僕のだからあげないよ!?
    言ったからには守ってもらわないとね。仕方ないね」

 ルイズの“どういうことなの”って言葉に反応した提督が、ガチムチ言語で返す。
 相手の慌てた様子なんてどうでもいいらしい。

ルイズ「プディングなんてあげるからっ! これっ……わたしっ……ねぇっ!」
中井出「テメェエエエエ!! プリン馬鹿にすんなよコノヤロー!
    このプリンはなぁ! 僕のマールが妖精蜂蜜を丹念に寝かせて作った、
    世界広しといえどもここでしか食えない数量限定のプリンなんだぞ!?
    いーから一口食ってみれ! ほれっ!」
ルイズ「《かぽっ》ふむっ!? む、むー……───…………ふぅうううあぁああっ!!?
    なななななにこれっ! おいっ……美味しいっ!?」

 で、次は何故かプリンの美味さに絶叫していた。
 おーい、魔法はー?

ルイズ「ちょっとそれよこしなさいよ! 私のなんでしょ!?」
中井出「あぁん……!? どういう意味!?
    これはきちんとした賭けを経て僕のものになったのよ!?
    さっきのあげる宣言は茶番!? あれか見せ掛けで超ビビってるな!?」
ルイズ「ビビってなんかないわよ! 全部あげるなんて一言も言ってないでしょ!?」
中井出「《がしっ!》ヴォオッ!? お前人のモノをっ!!」

 どーでもいいけど提督、その喋り方やめてくれ。

中井出「はぁ……まあいいけどさ。美味いって言ってくれるなら、マールも喜ぶだろうし」
ルイズ「んくんくんく…………んん〜〜〜〜〜〜っ……あまぁああいぃい…………!!」
タバサ「……新しい味」
才人 「……流していいのか? 今のって」

 魔法……使ったんだよな。二つ名が“ゼロ”のルイズが。
 映像を見た俺達にしてみれば、それがナビネックレスによるものだってのは解るけど。
 ……いいか、あんなに笑顔なんだし。

中井出「じゃ、食事しながら簡単に説明するかい。
    えーかいルイズ。今のが初級魔法のプチファイア。
    他に使えるのはファーストエイドっつー回復魔法だ」
ルイズ「マム?」
中井出「誰がママンだこの野郎!!」
ルイズ「ひ、ひってはいふぁひょ、ふぉんなふぉふぉ」
タバサ「……いってないわよそんなこと」
中井出「通訳ありがとね、シャル。
    で、口の中をプリンでいっぱいにして真っ赤なルイズさん?
    キミはこれからこの世界で大魔法使いになりなさい」
ルイズ「《クミクミ……こくんっ》…………大……魔法、使い? 私が?」
中井出「うむ。この世界は野望を叶える世界である。
    経験さえ積めば、元居た場所では出来なかったほぼ全てが可能になる。
    ここでの経験は貴様を絶対に裏切りはせん!
    故に頑張りなさい。大丈夫! キミなら出来る!」

 ブートキャンプっぽい投げっぱなし文句だった。
 あれってつまりは勝手に大丈夫って言って押し付けてるだけだよな……。
 って、なんで笑ってんですか、姫さま。

ルイズ「……ねぇ。あんたも魔法、使えるの?」
中井出「んにゃ、俺自身には魔法の才能一切無し。
    ナビでブーストされててもぜ〜んぜん使えないんだわ、不思議なことに」
ルイズ「ふ〜ん……、───? ……あんた……自身?」
中井出「うむ。武具の力を借りて、式とか魔法とかを使うことは出来るけど、
    俺が出来ることといえば武具の意思を読み取るだけ。
    その才能も、武具が無ければ使えもしないっていう、いろいろゼロな博光です。
    家柄も普通。平民だし家族全員死んじゃってるし、帰る家も無いし。
    よいかねルイズ。ほんとのゼロってのはこの博光のような状態のさらに上を言う。
    もっとひでぇ状況だって実際にあるもんさ、多分。
    糧が得られりゃゼロじゃあねぇやな。だから言おう!
    ゼロだゼロだと言われて悔しいのは、貴様に満たされている部分があるからだ!」
ルイズ「!!《がーーーん!!》」
中井出「真のゼロってのはね……夢も希望もありゃしねぇのよ。
    底辺の底辺、底の底に落ちたものは、ゼロと言われようがなんも感じない。
    悔しさがあるうちは頑張っていいのさ! だからここで大魔法使いになれ!!」
ルイズ「……言われるまでもないわよっ! 私は立派な魔法使いになるわ!
    今までゼロゼロって馬鹿にしてきた連中を見返して、
    ラ・ヴァリエールの名に恥じないメイジになってみせる!!」
中井出「うむよし! ならばまず、たくさん食ってたくさん冒険しようね?
    よっしゃあみんな食え食えェイ!!
    貴族だろうがなんだろうが、あの世界では絶対に食えないものを用意した!
    貴様らの味覚に革命起こしたるわ!」

 待ってましたとばかりに手を動かす。
 提督は作法とかには一切気を使わない。だからどんな食べ方でも怒らないのが特徴。
 早速近くにあった皿から肉を取り、口に含むと天が見えた!!

才人 「ううぅうううおおおっ!!? なななんだこりゃうめえぇええーーーーっ!!!」

 今なら口から波動砲だって撃てる!!
 このとろりととろけるようなのにしっかりと歯応えも感じられて、旨みが口いっぱいに広がってうわわわわ涙が! 涙が!!

才人 「これっ……ジュエルミート!? トリコのアレか!?」
中井出「おお! さっすが解ってるじゃないのさサイトーン!
    いかにも! この世界は我が武具、
    我が大樹ユグドラシルに宿る全ての意思から構築されるもの!
    誰もが鮮烈にイメージし、美味いに違いないと思えば、
    それは想像を超えた想像となり続ける!
    たとえば初めて食ったラーメン! 一度目が滅茶苦茶美味かったのに、
    次に行ったらなんか普通だった───そんな経験あるね!?
    それは味覚が想像に負けてしまったことに他ならない!
    だがこの世界では想像が武器になるため、想像が勝れば勝るほど美味くなる!
    故に美味しいと感じたものはもっと美味くなる!」
才人 「おっ……おぉおおおおお!! すげぇ! ヒロラインすげぇ!!」
タバサ「……! ……是非、はしばみ草を栽培させてほしい」
中井出「うむ構わん! あ、こういうのがいいかもって食材があったら言ってくれ。
    俺か晦に頼めば、創造することが出来るから」

 「こう、相手の頭に触って、イメージを吸い出して」とゼスチャー。
 なんでもありだなぁほんとに。

才人 「あ……ゲーム機とかは?」
中井出「フッ、愚問! この世界の構築想像要素の大半は我ら原中が占めている!!
    素晴らしき原中な我らがゲームを創造しない!? 馬鹿な! 有り得んよ!!
    つーわけで、教会横が芸夢大聖堂となっております。
    我らにとってゲームとは神聖なるもの。
    故に、巨大な空間を創ってゲームのみが出来る空間に!
    記憶と経験から引きずり出したものだから、完全に一緒とまではいかんがね。
    もちろんローディング一切無しのストレス省エネモードです。
    一番人気は魔物ハンター。
    モンハンをスタイリッシュハイスピードハンティングアクションにしたものです。
    これをやった人は、どうにも魔法使いな方でも近接バトルに目覚めちゃってね。
    要望をさんざんと受けたのち、スキルの経験も自由に移動できるようにしたのさ」
才人 「スキルの?」
中井出「熟練度だね、ようするに。
    今まではローラに許可を得ないと出来なかった熟練度移動を、
    ネックレスで簡単に移動できるようにしたのさ。
    この世界では自由がウリ! 故にジョブもフリースタイルに統一!!
    ただし創造とか特異なものは限定されるけど」

 熟練度移動……それってつまり、射撃上手な人が射撃の才能を殺して、歌が上手くなるとか……そんなところか?
 うわっ、すげぇじゃんそれっ! 人間なら誰でも欲しい能力だっ!

中井出「ちなみに人の身体的特徴はどうやっても変えられませんので」
ルイズ「くっ……!」
タバサ「………」

 ……今、視界の端で二人の視線が自分の一点に集中してた。
 大丈夫、俺は何も見なかった。ツッコんだら負けだと思ってる。

中井出「んで、メシくったらちと出掛けましょう。
    実はシエスタに“村に遊びに来ませんか?”と誘われておってね?」

 提督の話はこうだった。
 提督がシャルベット(はしばみシャーベット)を盛大に吐き出した昨日、何気無く始まったシエスタとの会話で、空を飛ぶ乗り物の話をしたそうだ。
 シエスタの故郷であるタルブ村ってところには、かつて空を飛んでいたっていう“竜の羽衣”なんていうものがあるそうで、今度帰郷する自分と一緒に遊びに来ないかと誘われたんだとか。
 竜の羽衣について、詳しいカタチを訊いてみれば、なんでもソレは“飛行機”っぽいっていうじゃないか!
 どうすれば元の世界へ帰れるのかさえ解らなかったこの世界で、飛行機みたいな科学の結晶の情報を得られるチャンスはそうない。
 「とくにすることもねーから」なんて簡単な理由であっさり頷いた提督と、それを偶然聞いていたコルベール先生は行く気満々。
 せっかくならばと今誘われているのが、俺達ってわけだ。

才人 「昨日今日と、そんなに急いでなにやりたいんだよ提督は」
中井出「俺は今を生きるのに必死なのさ! …………今のちょっと格好よくなかった?」
ルイズ「どこがよ」
中井出「…………」

 格好つけたい年頃が今さら訪れたんだろうか。
 提督は少し寂しそうな顔をすると、儚げにニコリと微笑んだ。





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