11/愛……覚えてますか?

 トリステイン城下街、ブルドンネ街では派手に戦勝記念パレードが行われていた。まあそんなことはとっくに知っておることなんですがね?
 そんな中にあって、ヤケクソになってサイトとともに姫さまを称える僕は、それはもう悲しみに満ちた顔をしていたことでしょう。

中井出「姫さまばんざぁーーーーい!! ばんざぁーーーーーーい!!」
才人 「アンリエッタ王女ばんざーーーーい! トリステインばんざーーーーい!!」

 僕ら帰れなくなっちゃったしね、いいんだ、もう。
 だから王女さまを盛大に称えるのだ。アンちゃんがどれだけ嫌がろうが知ったことではないわグオッフォフォ……!!

ルイズ「ちょっとあんたたちうるさいわよ……! もうちょっと声を控えなさ───」
中井出「うるせーーーっ!!
    無視すんなとか言ったり控えろって言ったりなんなんだコノヤローーーッ!!」
才人 「もう俺達には叫ぶしかねぇんだよ! 夢も希望もねぇんだよ!
    血まみれなんだよもう!!(心が)
    終わったぁあーーーーーっ!!
    元の世界でやりたいこととかいっぱいあったのに、終わったぁあーーーーーっ!!
    十年後の日食で帰れたとしても俺もう故人扱いになってるって!
    ちくしょぉおーーーーっ! 姫様ばんざぁーーーーーーい!!」
中井出「ばんざぁああーーーーーーーーーーーい!!!」

 街の人々の歓声もそりゃあ素晴らしいもんです。
 なにせアンちゃんとウェールズは不可侵条約を破ったクサレ貴族どもを、手を合わせてフルボコってみせたのですから。ええ、手柄なんぞ偉い人に渡してしまえばいいんです。誰が倒そうが姫の手柄。そうすれば僕らは自由。
 そんなわけでこのパレードの後は戴冠式です。
 母親のマリアンヌさんから王位を継承されるんですって。なんでも枢機卿マザリーニさんを筆頭に、ほとんどのお方がその戴冠に賛同したそうで。

中井出「ところで枢機卿ってなに?」
ルイズ「なっ……あんたそんなことも知らないの!?」
中井出「……ルイズさん? あなたの当然が僕らの当然と思ったら大間違いだよ?
    下に見るのも結構だけど、声を大にして呆れるのは感心しませんぞ?」
ルイズ「うっ……そ、そうよね。
    えっと……枢機卿っていうのは、てっとり早く言うと教皇さまの次に偉い人なの。
    様々な職位の取締役って言ったらいいのかしら」
中井出「え……もしかして王様とかよりも?」
ルイズ「私たちは始祖ブリミルに仕えているのよ?
    始祖の教えに従いながら生きる者は、たとえ王でも……解るでしょ?」
才人 「つまり、立場的には王様くらい偉いってのかよ」
ルイズ「そうなるわね」

 スゲーな枢機卿……じゃあ教皇サマってのも最強職?
 ……まあ、だからってそういう地位に立ちたいわけでもないけど。
 好きな時に好きに動けるのが一番だよね。王なんてまっぴらだ。
 よしんばなるんだとしても、暴れん坊将軍みたいな城下町に降りれる上様がいい。

中井出「よし、じゃあ盛大に見送ったところで、そろそろ二人を追おうか」
ルイズ「へぇっ!? 追う!? 追うってなんで!?」
中井出「いや……特にやることもなくて暇だし、王になる気分とか聞いてみたいし。
    なにより今二人はティョティェーィモーウ、緊張してると思うのだ。
    我が名は博光。楽しいを知らぬ者に楽しいを教える一人の修羅よ。
    だからそういうのはダメ。たとえ攫うことになろうともスマーイル♪」
ルイズ「戴冠式の前にそんなことしたら、戴冠式自体が無いものになるでしょ!?」
中井出「え? マジで? じゃあやめよう」
才人 「軽ッ! お前そんなんでいいのかよ……」
中井出「ほっほっほ、おかしなことを。僕個人が“ならばよし!”と思ってるなら、
    それはもちろんそんなんでいいに決まっているじゃないか」
才人 「まあ、そうだろうけどさ」

 なのでもう移動開始。
 まだ何かを言いたそうなルイズと、やれやれと溜め息を吐く才人をマントに収納。
 離れたところで談話していた皆様も回収し、ヒロラインに入ってもらった状態で行動開始。猫になって二人の後を追ったのだった……! ……相手は馬車の中だけどね。
 ……と、進む途中で黒衣からひょいと顔を出した桃が俺に止まるように仰る。

中井出「え? なに?」
ルイズ「あ、あの……あれ……」
中井出「ヌ?」

 顔だけしか出せないので(僕がそう調整してる)、視線で僕を促す桃。
 視線を辿ってみるとアラどうでしょう。頭にターバンを巻いた、いかにもな商人が居るじゃないですか。ほら、あの、あー……なんだ、えー……おー……み、道端にさ、台置いてさ、そこに布引いて宝石乗っけてさ? あるでしょ? それを見た桃が歓喜の声をあげたのです。
 ようするに見ていきてーと。

中井出「ンム。祭りですもの、見たいものは見ないとね」

 二人を黒衣から解放、一緒に歩いて商人の前まで行くと、にっこり笑った商人が手もみをしながら騙り掛けてきました。この商人の手もみってなんなんだろうね? 手もみっていうか、もみ手っていうか。

商人 「おやいらっしゃい、どうぞ見ていってください貴族のお嬢さん。
    珍しい宝石を取り揃えました。錬金で作られたまがい物じゃあございませんよ」
中井出「……宝石がまがい物じゃなくても、趣味わりぃだろコレ……」
商人 「まっ……真正面からなんと失礼な!!」

 でもさ、ほら、ゴテゴテしてて、貴族がつけるにも誰がつけるにも、かなり独特な装飾だぞコレ。俺だったら勘弁ノリスケだ。
 と、そげなことを思っている僕の横ではルイズが、最初っからそれが気になっていたのかペンダントを手にした。ちなみに才人は端にあった服を。

才人 「商人さん、これは?」
商人 「おっとお目がたけぇ。それはアルビオンの水兵服でさ。
    分捕りものだが、安っぽく見えても逸品さ。
    こうして襟を立てれば風だってみれる」
才人 「水兵服……なるほど!」

 わあ、才人の目が爛々に輝いてる。
 これは……アレかね? 誰かに着させよーって魂胆かね。
 水兵服っつーても、これって我らの世界ではセーラー服って呼ばれてるものの上だから。

中井出「才人貴様、まさか唯一の黒髪であるシエスタに
    これを着せようって魂胆じゃああるめーな」
才人 「ぎっ……な、なななななにをオッシャル!?」
中井出「エッセンシャル!」《どーーーん!》
才人 「いやそうじゃねーって! やっ……でもっ…………でもさ、ほら……。
    やっぱ、帰れねーなら見たくなるものとか……あるじゃん」
中井出「本人が望むならまだしも、
    男の欲望丸出しにしか見えんことをさあやれって言うのもなぁ……」
才人 「や、それって提督がいっつもやってるところだから」
中井出「え? 俺?」

 やってたっけ? ……誰かに己の欲望のままにセーラー服を着ろと?

中井出「ゴハハハハなにを愚者な。この博光が己の欲望のために制服を着ろと言ったと?」
才人 「愚者な!? ヘンな馬鹿にされ方された!
    そーじゃなくてさ、なんでもかんでも軽くホイって突き出すような性格じゃん」
中井出「いや、相手が本気で嫌がるならしませんよ僕。いやマジで」
才人 「やれコノヤローとか叫ぶのに!?」
中井出「うん。本気で嫌なら何言われようと断るべきっしょ?
    つーかそれ言ったら僕の周りに居たやつらのほうがよっぽど強引だよ。
    いや、それよりも桃のほうがよっぽど黒いよ。嫌だって言ったって聞きやしねぇ」
才人 「……言葉もねぇやなぁ」
デルフ『なぁ……』
中井出「まあ、了承が得られればええんでないのかいのォ。
    ちなみに僕は見たいとは思わんのでええです。つーかこれ男ものっしょ?
    仕立て直しとか誰に頼むん?」

 セーラー服……もとい、水兵服をンバッと広げて言ってみる。
 と、才人は引き攣った笑いを見せながら、「シ……シエ、スタ……」と言った。

中井出「え…………マジ?」
才人 「や……俺、裁縫技術とかねーし……。」
中井出「着てみせてほしい人に仕立て直してーって頼んで、しかもそれを着てくれって?」
才人 「…………《こくり》」

 ………………ある意味男だこいつ。
 でも欲望の権化なので漢ではない。うむ残念。

中井出「……貸せ。俺が仕立ててやる。ただし、シエスタに着てくれって言うのはお前。
    そィで、俺の名前をだしにしたら…………潰すよ?」
才人 「どこを!?」

 ったく……そうまでして見たいもんかねー。
 そりゃ、俺だって一時期はそんな頃もあったが……でも俺の場合、制服姿が見たいーとかではなく、寂しさ紛らわすために必死になって煩悩掻き集めてただけだしなぁ……。
 好きな人のコスプレ姿がみたいとか、そんな気分は全然だった。

中井出「んで、才人ー? スカートはどーすんのさ」
才人 「…………《ちらり》」

 才人が無言で桃を見る。
 その視線の先には、屈んで貝殻のペンダントを見て顔を輝かせる桃の、マントから伸びる太腿を軽く隠す存在。そう、プリーツスカート。

中井出「……いや……なんかお前いろいろ最低な……」
才人 「い、いいだろべつにっ! そうまでしてでも見たいんだよっ!
    帰れないってんだから、郷愁ぐらいいいじゃねぇかっ!」
中井出「ほどほどにな……まったく、マジで……ほどほどにな……。
    お前そんなふうに郷愁を理由にやんちゃしてたら、
    いつかモット伯みたいなヤツになるぞ……?」
才人 「《ゾブシャアアッ!!》〜〜〜〜っ……!! ……………ゴ、ゴメンナサイ……!
    でも……一度だけ……!
    たった一度だけでいいから、この世界でセーラー服姿が見たい……!
    それだけで俺……あと十年頑張れそうだからっ……!!」
中井出「わあ、血の涙」

 そりゃああげなヤツと同類になるのは血涙流すほど嫌だろうけど。
 やれやれ、しようのないお子ったいねぇ。
 ま、それはそれとして馬車を追いましょう。
 一応、貸しってことで才人も桃にペンダントを買ってあげられたようだし。
 え? ええ、僕のお給金とかいろいろ掻き集めた金で買ったわけです。
 水兵服はまあ……分析したのでOK。だって結構ふっかけてくるんですもの、買いたくなくなった。だからスカートもこの博光が創ることとなった。……なるほどね、彰利の趣味を創造してくれと迫られる晦の気持ちがよく解ったよ。


───……。


 ゴゾォオ……!

提督猫『URYYYYYY……!!』

 さて、猫です。
 ひっそりとペガサスに引かれる馬車に張り付き、中の様子を伺っております。
 え? 見つからないのか? ゴーホホホ、矮小化を使っているからそうそう見つからないぜ〜〜〜〜〜〜っ!!

アンリエッタ「思えば……なにゆえ、わたくしが即位しなければならぬのですか?
       母さまがいるではありませんか」
マザリーニ 「あのお方は我々が女王陛下とお呼びしても返事をしてくださいませぬ。
       私は王の妻でしかない、王女の母でしかない。そればかりなのです」
アンリエッタ「母さまはどうして王女になることを拒むのでしょう」
マザリーニ 「太后陛下は喪に服しているのですよ。
       亡き陛下を未だに偲んでらっしゃるのです。
       ……それに、この戴冠が今の王女にどのような不都合があると?
       不可進条約を破り、
       それどころか攻め入ってきたアルビオンの軍勢を止めてみせた。
       その栄誉あっての戴冠を、貴族の代表たる王女が拒むと?」
アンリエッタ「これはわたくしのみの力がもたらした勝利ではないのです。
       それを知ればこそ、余計に戴冠式を受けることが怖い。
       わたくし一人では何も出来なかったというのに……」
マザリーニ 「何を仰います。あの時、指揮をしていたのは貴女でしょう。
       隊の誉れは指揮官の誉れ。貴女が認められるのは当然のことなのです。
       そしてこれは、民が、全てが望んだ戴冠ですぞ。
       殿下のお体はもう、殿下ご自身のものではありませぬ」

 じゃあ誰の?
 ……ウェールズのでいいよね?
 さーて、引っ付いてはみたけど……このムッツリーニ郷も随分と頭でっかちのようだ。
 どうしたもんかねこりゃ。こーゆー頑固さんの相手って激烈嫌いなんだけどな。
 今だってこれからの予定をネチ……ネチ……としつこく語ってるし。
 アー……こりゃ関わらんほうが安全だね。ちゃっかり僕に気づいたウェールズが、アイコンタクトで“王なら乗り越えなきゃいけない面倒だ。成長させてやってくれ”と語ってきもうした。
 こうなればもうあっしに出来ることなぞありんせん……姫ちゃんの成長を生暖かく見守ろうじゃないか。

アンリエッタ「隊の誉れは指揮官の誉れ……ならば、どれだけ戦に貢献しようとも、
       隊に贈られる褒賞などは指揮官には及ばないのですね……。
       それどころかどれほどの吉なる行動を見せたところで、
       独断専行と罵られるだけ……。
       わたくしは、そんなものの代表とならねばならぬのですね……」
ウェールズ 「アン……」

 でもやっぱりいろいろ引っかかるところはあるみたい。
 ……成長なさい、姫ちゃん。
 いつかキミにも王としての在り方を知る時が来ます。
 あたしゃそげなおなごを恋姫世界で見届けてきたのじゃよ。
 大丈夫! キミにも出来る! 出来なきゃ出来るように鍛えてくれるぜ〜〜〜っ!
 ……華琳が。


───……。


 そんなわけで戻ってまいりました、アルヴァニスタ王立魔法アカデミー……ではなく、トリステイン魔法学院。城下では盛大に祝ってはいたものの、基本的にここは政治とは無縁なんだとさ。
 だから労いの言葉もオスマンのジジイのささやかな言葉で終わったし、生徒たちはとても静かなもんですよ。聞いてみりゃあ、戦なんてものは年中無休でやってるんだって。今こうして平和を感じていても、別の場所では必ず誰かが小競り合いをしてるんだとか。
 ……アホだね。争いなんて、疲れて死んで悲しんで恨んでの連続なのに。
 まあそれを知ってもなお、譲れんなにかがあるんでしょうけどもさ。

才人 「すごい! マフラーだ!」

 で、戻ってきた僕らがなんばしよっとかといいよると、少しベンチでこれからのことをのんびりと話していたのですよ。したらシエスタがやってきて……小包をくれたんですね。
 僕と、それから才人に。
 え? ギーシュ? 戻って早々にモンモランシーに会いに走ってったよ。
 ちなみに彼の分のマフラーは元々無かった。

シエスタ「あのですね、ほら。
     あの───ひこうき、でしたっけ? あれに乗るとき、寒そうでしょう?」

 初夏であるこの季節にマフリャー……珍しい。
 でも確かに空飛んでると寒いのよね。だからこれはありがたい。ほんとありがたい。

才人 「そうそう、風防開けた時なんか寒くて寒くて!」

 で、早速首に巻いてみるサイトーン。
 その暖かさをじんわりと感じているのか、なんか涙流し始めた。

中井出「初めて流す嬉し涙か……。
    男はそうやって何度か泣いて、初めて本当の男になるのさ」
才人 「な、何度かって……何度だよ」
中井出「嬉し涙、悔し涙、苦し涙、感情の悉くで流す涙だよ。
    そういうもんを乗り越えた先で、男ってのは本当の男になるの」
才人 「……なんか、解る気もするけど。ターちゃんだよな、それ」
中井出「うむ。様々から学ぶことに、隔てなど必要ねーざます。
    学べるならなにもかもから学びんさい。それが男だ任侠だ。
    ということで俺も───装・着! じゃーーーー……ん……って、ア、アレ?」

 なんか…………長くね?
 一人で巻くには異様に長いっつーかなんつーか。
 きょとんとシエスタを見てみれば、いたずらっぽく微笑みながらトトッと歩み寄って、そのマフリャーの端を掴んで自分の首に巻いてみせた。

シエスタ「えへへ……実はこれ、二人用なんです」
中井出 「なんですって!?」

 二人用……ほう、そんなマフラーもあるのか。じゃなくて!
 なんということ! これではまるで寒さを凌ぐためにひとつのマフラーを二人で分ける遭難者みたいじゃないか! …………あれ? じゃあ悪いことなんてなにもないんじゃない?

シエスタ「いろんな人に救ってもらった村ですけど、
     それもこれもヒロミツさん……ご主人様が居たからこそだと、
     私はそう思ってますから《デゴシッ!》はにゅっ!?」

 ご主人様言ったシエスタの額にデコピン一閃。
 しかしそうされると覚悟していたのか、額を押さえながらも笑っていた。

才人 「まあ、そうだよなぁ。俺達だけであの軍団を倒すのはまず無理だったよ。
    特に空中戦艦とかは。なぁルイズ───って、なに頬膨らませてるんだよ」
ルイズ「べっ、べべっべ別に! あんたはそうやって、
    くれるもの拒まずでなんでもかんでも受け取っておけばいいでしょ!?」
中井出「そうだこのタコ!!」
才人 「タコって言われる理由が微塵にも見えねぇんだけど!?」
中井出「いや、なんかノリで。ところでシエスタ? この文字ってなんて書いてあるの?」

 マフリャーに書かれた文字をハテと見下ろす。
 恋姫の時もそうだったけど、世界が違うと文字も解らん。
 言葉は解るのにね。不思議だね。

シエスタ「あの……これはですね、えっと……ヒロミツさんの名前が書いてあるんです」
中井出 「なんですって!?」

 なんと……これで博光と読むのか……。
 モット伯に書状書いて突き出したことはあったけど、あれってホギーに任せっきりでババーと書いたものだからうん僕知らない。

デルフ『なぁ相棒、お前んところには……』
才人 「いや、ちゃんと書いてあるって……読めねぇけど。
    なぁルイズ、これってなんて書いてあるんだ? やっぱサイト?」
ルイズ「知らないわよっ、ふんだっ」
才人 「……? なに怒ってんだよ」
デルフ『かっかっか、ニブいねぇ相棒』

 しかしまあ、こうして暖かさを感じつつも、ほっこりとした気分になっているところであることを思い出したわけで。
 いえね? タルブの村での宴会騒ぎの時のことだけどね? シエスタパパが言ったのよ。「敵を追い払ってくれたことには感謝する。キミたちは恩人で英雄で勇者だ。私はそんなキミが大好きだ。でも……娘を泣かせたら、殺すよ?」と。
 怖いよね。泣かせただけで殺されるの。
 嬉し涙も悔し涙も流させてやれない……やったら殺される……!
 当然隣に居た才人もその時の親父さんの顔を見たから、下手に傷つけることは言えるわけもなく。というかフツーにいい出来だから傷つけることもなにもないんだけどね。

中井出「暖かいね。ありがとうなぁシエスタ」

 だが敢えて言おう。殺す宣言が怖くて外道が歩けますかいってんだ。怖いけど。
 なので僕は今まで通りでシエスタに接します。感謝の言葉とともに頭だって撫でます。

シエスタ「あ……は、はい……」

 シエスタは嫌がるでもなく、何故か頬を染めて俯きました。笑顔で。
 そんな僕らを他所に、ルイズが才人の背中からデルフリンガーを抜き取って駆け足。
 離れたところまで行くと、追おうとした才人に「来るんじゃないわよっ!」と怒声にも似た……つーか……うん、むしろ怒声以外のなにものでもないソレを放った。

ルイズ「ねぇ、あんたに訊いてあげる。由緒正しい貴族のわたしが、
    あんたなんかに訊いてあげるんだから感謝しなさいよね」
デルフ『貴族の娘っこよぉ。
    お前さん、そんな喋り方だとま〜たあの常識破壊のあんちゃんに怒られるぞ?』
ルイズ「あんなやつのことなんてどうでも───ひぃっ!?」

 ちらりとこちらを見たルイズにニコリと笑んであげる。
 ええ、もちろん全部筒抜けさ。自然が僕に教えてくれるから。
 あんのクソガキャ、まだ貴族の名を盾にするクセが取れていないと見えるわ……! おのれどうしてくれようか……!

ルイズ「やっ、あっ、そのっ……! お、お願い訊かせて?」
デルフ『……嬢ちゃんのそういうところをもっと相棒に見せれば、
    問題なく相棒も落ち続けると思うんだがね』

 んむ、同感。

ルイズ「その……あの……わ、わたしよりあのメイドが勝っている点を述べなさいっ!
    簡潔に、要点を踏まえ、解りやすくっ」
デルフ『おお? やきもち? そういう部分を隠すからいけねぇんだと思うがね。
    まぁいいさ。まずあの村娘は料理が出来る』
ルイズ「……料理なんて注文すればいいじゃない」
デルフ『解ってないねぇ娘っこ。
    男は“好きな女が自分のために作ってくれた料理”が好きなのさ。
    んじゃ次。裁縫も上手そうだな。あのマフラーを見れば解りそうなもんだがね』
ルイズ「わたしだって出来るわ。母さまに仕込まれたのよ」
デルフ『お前さんとあの村娘で比べたら、
    ドラゴンとトカゲくらいの差が《がんっ!》いたっ! な、殴ったね今っ!』
ルイズ「……次よ。早く述べなさい」
デルフ『顔はまあ、好み次第だぁね。お前さんも整ってるが、あの村娘には愛嬌がある。
    なのにお前さんときたら常にしかめっ面で、
    相棒に会えばやれあれはあーだこれはあーだと文句ばっかり。
    それに付いていく相棒も相棒だが……決定的に村娘が勝っている部分がある』
ルイズ「な、なによ」
デルフ『胸《ガンゴンガンゴン!!》ゲファーーリゴフォーーリ!!
    ちょ、やめっ、岩に叩きつけるのはっ! 腹じゃなくてせめて刃で斬って!』

 胸ねぇ……そんなん好みの問題だと思うのだが。
 好きになったおなご相手なら大きかろうが小さかろうが……ねぇ?

ルイズ「人間はっ……成長する生き物よっ……!
    い、い、今小さくたって、いつかちぃ姉様みたいに大きく……!」
デルフ『ちぃねぇさまってのが誰かは解らんがね。その人はお前さんに似ているのかい?
    もしやすれば性格が真逆で、苦手な相手のほうと性格が似てるとかは?
    もしそんな人が居て、そいつも胸が小さかったら絶望的だねぇ……って、』
ルイズ「《ゴリッ……》……」
デルフ『あ、俺様終わった《ガンゴンガンゴン!!》しぎゃああーーーーーーっ!!!』

 デルフリンガーがボコボコにされてゆく。
 剣がボコボコってすげぇ状況だなーとか思いつつも、シエスタが楽しそうでなによりだったからさらにさらにと撫でる僕がおりました。
 やあ、今日もいい天気。ルイズのことは才人が止めに入ったし、僕は僕で平和を噛み締めようと思います。どっかで起こってる戦争なぞ知ったことではござんせん。そんなもん全部助けてたらルドラになるわい。




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