12/男と女のもやもや事情

 それからしばらくの時が流れました。
 初夏というだけあってじわじわと暑くなる世界は、これで結構…………虫がうるさい。
 でも大丈夫、僕は自然と一体。
 寄ってくる虫も静かに迎えてあげるのです。害虫は殺すけど。

アンリエッタ「ああルイズ! ルイズ・フランソワーズ!」
中井出   「おぉっとそこまでだ! 動くな!
       動いたらこの桃色の髪をストレートにするぞ!」
アンリエッタ「えぇっ!?」

 さて、そんなしばらくを経た僕らが何をしているのかといえば、姫さんに呼ばれて城の中に……居ません。ヒロラインのガノトトス湖前におります。
 改めて礼をしてーとかで、使者まで送って呼びに来たらしいのだが、もちろん邪魔が入るのが嫌だった僕は、いろいろ理由をつけて使者には帰ってもらい、転移で姫さんをルイズの部屋に召喚、どうせならとヒロラインに引きずり込んで話の場を設けたわけですよ。
 そうしたらどうでしょう。よっぽど王ってのは退屈なのか、ルイズを見るなり駆ける姫ちゃん───を前にルイズの首に腕を伸ばし、ニヤリと笑うと脅してみせた。

アンリエッタ「……まあ! それは素敵ね! 是非やってくださいなヒロミツさん!」
ルイズ   「姫さま!?《がーーーん!》」
中井出   「おおノリがいい!」

 あなたの願い、叶えましょう?
 そんなわけでこのもっさりウェーヴヘヤーをストレートに。

中井出「オンラブラトルドアンベルト・オンラブラトルドアンベルト……!」
ルイズ「ちょ、ちょっと!? 呪いでもかけようって詠唱に聞こえるんだけど!?」
中井出「ゴハハハハ……! これは我が友が開発した由緒怪しき呪文よ……!
    だから大丈夫! 必ずや貴様に素晴らしき髪をプレゼント!」
ルイズ「そこは嘘でも“由緒正しき”って言うところじゃないの!?
    ちょっ……やめっ───離しなさいよっ!」
中井出「むかぁしむかし、あるところにお爺さんとお爺さんの兄と───」
ルイズ「昔話を話せなんて言ってないわよっ!
    ていうかその“はなせ”なわけないでしょ!?
    なんでこの状況で話をしなさいなんて言うのよ!」

 日本語って難しいね。
 日本じゃないけど。

中井出   「あらあらごめんなさいねぇ姫ちゃん、
       この子ったら話なんてしたくねぇって」
ルイズ   「おぉおおおおおおおこんのくされ馬鹿犬ぅうううううっ!!!!
       ああ言えばこう言う癖、直せって言ってんでしょうがぁああああっ!!!」
中井出   「そうだこのタコ!」
アンリエッタ「ええっ!? ご、ごめんなさい……?」
ルイズ   「きゃああっ!? ちちち違います! 姫さまに言ったわけではっ……!
       あっ……あんたねぇえええっ……!!」
中井出   「お? なんだ? やンのかコラ《バゴシャア!》つぶつぶーーーっ!!」

 返事をもらう前に殴られました……こんにちは、博光です。
 やっはっは、やっぱりからかうならストレートに限りますなぁ。そして何気に桃の髪の毛もストレートです。本人気づいてねーけど。
 仕返しされるのを前提にしてりゃあ、案外無茶も出来るってもんです。ヨイコのうぬらは真似しちゃメーよ? 殴られる覚悟、嫌われる覚悟を持てる者だけがやりましょう。

中井出   「そィで、姫ちゃん? 今日はなんの用だね?」
アンリエッタ「あ、そうでしたね。実は今回の戦での褒賞を───」
中井出   「貴族にするとか言ったらグーで殴る」
アンリエッタ「あ……な……たに……《だらだらだらだら……!》」

 …………。

中井出   「そィで、姫ちゃん? 今日はなんの用だね?」
アンリエッタ「あ、あ……ああええっと……そ、そうっ!
       ルイズ、あなたや、そのお友達には随分と助けられました。
       今回の功績は真実、わたくしだけのものではないのに……。
       だからね、ルイズ。わたくしはあなたがたに礼をしたいと思うの」

 あ。もしかして逸らした?
 ねぇ、逸らしたよね? 今、話逸らしたよね?

ルイズ   「姫さまが……私に?」
アンリエッタ「ええそう。といっても……
       あまりにこちらの一方的な礼だとは思うのだけれど。
       まずはルイズ……あなたに、わたくし直属の女官になってもらいたいの」
ルイズ   「えぇっ!? わっ……私が、姫さま直属の……?」
アンリエッタ「ええ。知っての通り、
       ワルド子爵の裏切りを始めとする動きや不可侵条約の破棄、
       それどころか戦にまで発展する状況を見るに、
       もはや様々なものを信用し辛い今にわたくしたちは立たされている。
       この国、この城にだって、
       どこに、どの地位に裏切りが潜んでいるかも解らない。
       そんな場所の王として立つ中でも、信頼を置ける誰かに……
       唯一の友であるあなたに、傍に居てもらいたいの」
ルイズ   「……姫さま……! もったいなきお言葉です……!」

 ……。

中井出「あらあら、目ぇ輝かせちゃって……。苦労するね、お前」
デルフ『こうして主が面倒事をどんどん抱えるから、
    使い魔ってのは苦労するんだぁね、相棒』
才人 「……あの性格だけはなんとかしてほしいよ。
    姫さんの頼みだとすーぐ頷くんだもんな、ルイズのやつ」
中井出「まあ、応援はしてやれんが、好きにしなさい」
才人 「え……提督もなにかあったら手伝ってくれるんだろ?」
中井出「え? やーよめんどい。
    あたくし、自分の楽しいを邪魔されない限りは知ったこっちゃねーざますのよ」
才人 「なっ……ちょっとそれ薄情じゃないかっ!? ここまで関わっといてっ!」
中井出「好きに言いなさいな。俺ゃあ自分の生きた道にしか責任なんぞ感じんよ。
    他人の責任まで背負って生きていたくねーもの。だから好き勝手にやるだけ。
    完全に首に突っ込んで身動き取れ無くなるなんて冗談じゃないの。
    あのさ、願われれば何度でも言うけど、なんぞ勘違いしてない?
    俺ゃ元々誰の使い魔でもこの国に仕えてるわけでもねーの。
    キミの主の勝手に付き合う理由も、
    絶対にこの国の味方をしなけりゃならん理由も、こっちにゃ一切無いのよ」
才人 「う……そりゃ、そうかもしんねーけど……」

 まったく勘弁してほしいわさ。
 自分で立てた旗の下ならともかく、なんで他人の面倒毎に喜んで首突っ込まなければならんのか。そーゆーのはさ、どこにも属さずにやりたい時にやるのが一番でしょーが。
 だから何処にも属さん。
 俺は、俺がそうしたい時にそうする……その生き方を未来永劫貫く修羅よ。
 主の命令や許可が無ければ動けない駒になぞ、俺はなりたかないのです。
 負いたい責任は勝手に負うさ。勝手に負うんだから、わざわざそれを言う理由もない。
 “そんなもん”なのさ、俺の悪ってのはさ。

中井出「俺が巻き起こしたことならまだしもさ……
    あの桃が勝手に決めてきた約束ごとに巻き込まれるのって、
    正直冗談じゃねーぞ……(本気声で)」
才人 「どうしよ……気持ち解るから言い返せねぇや……」
中井出「解ってくれるだけでもじゅーぶんさね。
    そんなわけだ、なんか妙なもん受け取ってるし、苦労するよお前」
デルフ『ふんふん……? なんか許可証がどうとか言ってるねぇ。
    皇宮を含む、国内外へのあらゆる場所への通行、
    警察権を含む公的機関の使用を認めた許可証だそーだぜ、相棒』
中井出「なにそれ。スゲーの?」
デルフ『そぉおりゃあスゲーさ。
    ある意味女王の権利を行使する許可を貰ったようなもんなんだしな』
才人 「うげっ……マ、マジかよ……」

 絶望の声がここに。
 姫ちゃんてば、あの暴走はっちゃく桃娘になんてものを渡しやがるんだ……!
 そ、そげなもんをあの娘に渡したらぁあ……!!

アンリエッタ「あなたにしか解決出来ない事件が持ち上がったら、必ずや相談いたします。
       表向きはこれまで通り、魔法学院の生徒として振る舞って頂戴」
ルイズ   「……はっ、はいっ! 必ずや姫さまのご期待に添えてみせますわ!」
中井出&才人『あーあ、やる気になっちゃったー……』

 なあ猛者ども……?
 虚無が無くてもえらい方向に話が向き始めている気がするんだが……?

ルイズ「あ、そうでした。皇帝との婚約が破棄されたのなら、もうこの祈祷書は……」

 と、ここで思い出したのか、懐から虚無の祈祷書を取り出す桃。
 しかし姫ちゃんは目を伏せ、うっすらとした笑顔のままに首を横に振る。

アンリエッタ「いいえルイズ・フランソワーズ、それはあなたが持っていて頂戴。
       それは確かに国宝ですが───いいえ、
       国宝だからこそ持っていてもらいたいのです」
ルイズ   「姫さま……」
アンリエッタ「それは白紙の国宝ですが、
       その白が赤に染まってしまわぬよう頑張りましょう。
       ……サイトさん、ヒロミツさんも……力を貸してもらえますか?」
才人    「え゙っ……や、俺はっ……」
ルイズ   「〜〜〜《じとぉおお……!!》」

 やあ、あれは“いいからハイって首縦に振っときゃいいのよこの駄犬”って顔だ。
 だめだな、全然だめだ。犬を駄犬なんて呼ぶのは、飼い主の勝手な思い込みだってのに。

中井出「悪いと思わんから悪いけどとは言わんけど。
    俺ゃあ力は貸さんよ? 元々僕関係無いし、勝手にやるだけだもの」
ルイズ「え───なっ! あ、あんたっ!」
中井出「あっはっはー、どうしたのかなルイズくん。
    お兄さんが協力してくれなくてさびしーのかーい?」
ルイズ「さびっ……!? んなわけないでしょなに考えてんのよばっかじゃないの死ね!」
中井出「うぅわ……桂花以外にそこまで言われたのって初めて……。
    しかしまあ答えは変わらんから、好き勝手やってちょーだいよ。な、姫ちゃん」

 そう言って似合わないウィンクをしてみると、姫ちゃんはくすくすと笑いながら元気良く頷いた。

アンリエッタ「うふふ、いいのですよルイズ・フランソワーズ。
       ではヒロミツさん、わたくしも“勝手に”やらせていただきますね」
中井出   「うむ、そうするのが良かれでしょう。
       うじゃ、話が終わったなら僕これから用事があるから《くいっ》お?」
アンリエッタ「勝手に、やらせていただきますから。これをお持ちになってください」

 きゅむと手首を掴まれ、振り向かされた上で渡されたのは───手のひらいっぱいの金貨と宝石。あんれまぁ、これって……なんていったっけ? エキュー? あの立派なお屋敷が買えるだのどーのと桃が武器屋で言ってた……? いや待て、俺は金貨の価値なぞ知らんし、これがエキュー金貨だと解っているわけでもない。きっと大したことのないお金なのよ。……だよね?

中井出   「あの……なにこれ」
アンリエッタ「あなたがどう勝手に思おうと行動しようと、わたくしは助けられました。
       トリステインに生きる者として、礼には礼を、報いなければなりません」
中井出   「あの……要らないンスけど……」
アンリエッタ「まあ! なんと欲のない!」
中井出   「厚意だろうからすまんと言っとく。すまん、人と人との関係ばっかりは、
       金で代償が可能なものにしたくねーんだわ。
       メシ奢ってくれるとかならまだしもさ、
       現金とか宝石とかとなると、いかにも“仕事した”って感じじゃん。
       だからさ、姫ちゃん」
アンリエッタ「え? あの《ディシィッ!》はにゅっ!」
中井出   「関係を大事にしたいって思ったなら、金を出すのはやめとけ」
アンリエッタ「《ぐりぐりわしゃわしゃっ!》はわわわわっ!!」

 きょとんとした姫ちゃんの額にデコピンをして、驚いた彼女の頭を片手でわしゃわしゃと撫でてやる。やれやれ、こりゃ大変なオーサマになりそうだ。部下も大変だぁね。

中井出   「……立派におなりよ。
       立派な王女じゃなく、立派なアンリエッタになりなさい」
アンリエッタ「よく……解りませんが……。
       あの、ヒロミツさんは立派ななにかになられたのですか?」
中井出   「ん。なったぞー? そして今も続行中!」
アンリエッタ「それは素敵ですね。参考までに、それはいったい……?」
中井出   「……。教えてもいいけど、絶対に参考にしちゃだめだからな?」
アンリエッタ「まあっ、ふふふ、それは聞いてみないことにはお返事が出来ませんわ」
中井出   「…………ったく、随分と図太くなったな、じょーちゃん」
アンリエッタ「きっかけをくださったあなたがそれを言いますか?」
中井出   「んにゃ、結構。俯いてばっかだった以前よりも、
       今のほうがよっぽどじょーちゃんしてるんだろうさ」

 ギャーギャー騒ぎ始めた桃と才人とデルフリンガーを見る。
 アンリエッタの頭に手を乗っけたままだった俺は、最後にやさしく彼女の頭を撫でると……多分、笑顔で言えた。

中井出「俺がなれたのはな───裏切り者。立派な、裏切り者だ」

 そんなことを言う俺を、姫ちゃんは表情を無くした顔で見つめていた。
 けれどハッとすると言葉の意味を訊いてくる。

中井出「俺はね、信用に値しない人間なんだ。
    だから勝手に信用するだけして、使えなくなったら遠慮なく捨ててくれ。
    値しないのに信用してくれーなんて言うの、
    烏滸がましいっつーか相応しくないだろ?」

 どうしようもなく解ってしまっていることがあるから、これは言わなければいけないことなのだ。そうであることを事前に知っていたなら、俺だって恋姫の世界で……。

中井出「おにーさんはねー、好奇心で猫を殺してしまうタイプの人間なのだよ。
    だから、俺に深入りをしてはいけません。
    過去は見せたろ?
    でも同情は同じ経験をしてなけりゃ一銭の足しにもなりゃしない。
    俺と同じ境遇のヤツなんざ、探したって居るもんか。
    立派な裏切り者に深入りする王女になんかなるもんじゃあありませぬよ。
    じゃないと、そうしたくなくても俺みたいに大切な誰かを裏切っちまう。
    誰も信用出来ずに誰もを裏切って、ひとりぼっちで泣くんだ。
    いやだろ? そんな道。だから、お前は立派なお前を目指せ。
    そうすりゃ、少なくとも自分にだけは胸を張れるからさ。
    どれだけ孤独でどれだけ泣こうが、自分に胸を張れるならまた歩けるから。
    また……独りでも、楽しいを探せるから。───これでおーけーね?」

 くにおくんの真似をしつつ、ニコリと笑ってみました。
 するとどうでしょう、姫ちゃんは困ったような顔で遠慮がちに笑ってから、僕の服をきゅむと軽く掴みました。

中井出   「おや? お姫さんや? 掴まれては移動が出来ぬのですが」
アンリエッタ「言いましたよ、わたくしは。勝手にすると。
       言いましたよ、ヒロミツさんは。
       人と人との関係を、金で代償が可能なものにはしたくないと。
       一銭の足しにもならないことならば、
       それはきっとあなたが望んでいることだと思います。
       あなたは寂しがり屋で、あなたは強がりで、あなたは信用を欲している。
       でも、それを欲せない理由が……きっとあるのでしょうね」
中井出   「…………」

 ……わあ、スゲーよこの人。
 しかもきっちりと一銭ってのが金だってことを覚えてらっしゃった。
 映像でしか見せてねーってのに、勉強熱心ですこと。

中井出   「……まあ、人間だからねぇ。欲しいモンはそりゃああるけど。
       寂しがりとか強がりって言われると反発するのが人間でして。
       しかしそんな常識は破壊しましょう。うん僕寂しい。
       だけどそれで誰かに甘えると思ったら大間違いだコノヤロー!!」
アンリエッタ「えぇっ!?」
中井出   「クククよくぞ見破った……! 貴様にはしてやられたわ……!
       というわけでハイシリアス終了。もっと楽しく行こう。
       金はほんとに要らんから、あげるならルイズか才人にやっとくれ。
       俺は正式に働いて稼いだ金とか、自分が欲して得た金以外は受け取らぬ!」
アンリエッタ「え……けれどそれは報いに反します。あなたはわたくしに、
       働いた者への褒賞を授けぬひどい王女になれというのですか?」
中井出   「そうだ《どーーーん!》」
アンリエッタ「えぇえええっ!!?」

 あらやだ、さっきから驚いてばっかりですよこのお子。
 よっぽど刺激の無い日々を送っておったのねぇ。
 だがグオフォフォフォ甘い甘い……! そう言えばこの博光が受け取ると思ったら大間違いよ……!

中井出   「あたしゃ勝手にやっただけダーヨ。
       だからモノ受け取る理由も報いがどーのと言われる理由もナッスィン。
       俺がやったことの報いは全部才人にあげて?
       給料ならちゃあんとマルトーさんに貰ってるから」
アンリエッタ「……本当に、要らないのですね?」
中井出   「いりません。金なんて、生きて楽しめる分ありゃ十分さ。
       そして大変頼もしいことにこの博光の武具は全知全能っぽい。
       だから生きていくには事欠かないし、
       給料だけでもまあまあやっていけてるよ。
       この国の住人じゃないから、税金払う必要もないしね、ウハハハハ」
アンリエッタ「……そうですか。なんのお礼もして差し上げられないというのは、
       これで寂しいものですね……」
中井出   「つーかキミが感謝しすぎなの。
       いきなり金貨と宝石握らせてくる王様なんて初めて見たよ俺」
アンリエッタ「はぅ……! で、ですがこれしか無くて……!」
中井出   「あ、ごめん、言い方が違った。
       ポケットに宝石とか金貨をそのまま突っ込んでるその姿に驚いた」
アンリエッタ「〜〜〜〜〜……!《かあぁああ……!》」

 なにせ原作でもそうらしいからオッタマゲーション。
 と、ここでいつまでもこうしておるわけにもいくまいよ。

中井出   「で、姫ちゃんはこれからどうする? もうちょい息抜きしていく?」
アンリエッタ「あ、はい。少々纏めたい考えもあります。
       それに、一国の王女となったのなら、少しは強くなりませんと」
中井出   「その意気や良し! ならばまず肉弾戦を覚えなさい。
       メイジが魔法を使うのは当然です。だから、杖を奪われた時用にですね」
アンリエッタ「ふんふん……?」

 きっといろいろ新鮮なんでしょうね。
 姫ちゃんは僕が教えることを真面目に聞いてくださった。
 ちなみにルイズと才人は追いかけっこをしている最中です。ホッホ、微笑ましいこと。

アンリエッタ「ステータス移動ですか……あの、わたくし、暴力は……」
中井出   「暴力ではない、力である。自分や何かを守るためには力が必要。
       魔法覚えるのとそう変わらないよ?
       メイジが魔法を、格闘家が拳を振るうのとなんら変わらん。
       というわけでですね? まずは身の振るい方を───」

 こうして僕は姫ちゃんに格闘を教えることとなりました。
 用事は───まあ、ここでの時間は外とは違うからなんとかなりましょう。

才人 「大体ッ! お前はなんでも安請け合いしすぎなんだよっ!
    姫さまからの頼みだからってなんでもかんでもハイハイって受け取って、
    それで本当にやっていけるって思ってるのかよ!」
ルイズ「やっていけるわよっ! 姫さまは私を頼りにしてるのよ!?
    出来ないなんて言えるわけがないわっ!」
才人 「振り回される俺の身にもなれってんだ!
    守るとは言ったけど、お前から危険に飛び込まれたらいい迷惑だ!
    降りかかる火の粉ならまだしも、
    かかりにいった火の粉を蹴散らしたらそんなのっ……!」
ルイズ「うるさいわねっ! いいからあんたは黙って私の言うこと聞いてればいいの!
    使い魔のくせにぐだぐだ言うんじゃないわよ!」
才人 「っ……! お前っ……役に立つなら俺の意思なんてどうでもいいってのかよ!」
ルイズ「え……そ、そこまでは言ってないでしょ!?
    私はあくまで、使い魔なんだから傍に居るのは当然って───」
才人 「ああそうかよっ! かわいくねぇっ! 結局“力”しか見てねぇんじゃねぇか!
    勝手に召喚して勝手に使い魔にされて!
    それでも帰る方法後回しにしてでも頑張っていこうって思ってたのに……!
    お前、俺の立場になって考えたことあるか!?
    普通の人間だった俺が急にファンタジーに連れてこられて!
    急に難癖つけられて戦うことになって!
    守らなきゃいけないからって初めて人を斬って!
    生きなきゃいけないから、死にたくないから兵器使って人や竜を殺して!
    なのにそこまでやってもお前は人の話をまともに聞きやしねぇ!
    口を開けば使い魔だから使い魔だからって!
    使い魔じゃなきゃ俺はそこまで価値がねぇかよ!
    その程度の存在かよ! ふざけんな!」
ルイズ「あ……」
才人 「この際だから言っとくけどな! 平民か貴族かなんてのはここだけの話だ!
    普通に生きてきた俺にも、提督にだって関係がねぇ!
    それを勝手に見下して衣食住を引き合いに脅して言うこと聞かせて!
    なにが貴族だ!
    そんなもん、奴隷を買う下衆なやつらと変わらねぇじゃねぇか!」
ルイズ「!!」

 あ、今なにか衝撃が走った。
 そしてこげな場合、ルイズは絶対に反発するに決まっている。
 姫ちゃんも、何気に痛い所をつかれたみたいな顔になってるし……。
 でもね、サイトーン。

中井出「さーいと。そりゃちょっと違うよ」
才人 「えっ……提督……?」
中井出「よいかね? メイジが使い魔をどーのこーのするのは、
    今までに“人”が召喚された例が極めて少ないからですよ。
    人を召喚してしまった時用のマニュアルがあるならまだしも、
    桃にとっても初めての出来事なのです。戸惑うのも当然でしょう」
才人 「っ……け、けどさっ……! いくらなんでもこれは……!」
中井出「ん、解っとーよ。……おい桃」
ルイズ「もっ……!? あ、あんたねぇっ! いい加減に呼び方を───!」
中井出「ツンデレも大概にせんと、信用無くすよ?
    きっちりこう言ってやりゃあいいんだ。才人だって馬鹿じゃあねぇ。
    “才人が居てくれればなんだって出来る気がするからこうして無茶も出来る。
    使い魔使い魔言うのはきっちりと才人と呼ぶのが恥ずかしいから。
    確かに力も必要だけど、それは力だけじゃなくて力を持つ才人自身”って」
ルイズ「ふあぁっ!?《ぐぼんっ!!》」
才人 「へっ……ふえぇっ!?」
ルイズ「はっ、やっなっ……にゃなっ……にゃにゃにゃにゃに言っふぇ……!?」

 わあ、顔真っ赤。
 よっぽどの図星を突かれたのか、これでもかってくらい赤くなって目まで潤ませて。

中井出「よいかね才人。桃のコレはただの強がりだ。
    ヒロラインで多少力がついたから、その力を試したいって気持ちももちろん、
    キミと居ればなんでも乗り越えられるって思ってるんでしょーよ」
才人 「え……それって」
中井出「そ。キミが桃に言った言葉。なまじ実際に乗り越えたものがあったばっかりに、
    自分でも無意識に信じちゃっとるのよ。
    だからね、才人よ。自分の言葉の責任くらいは取りんせぇ。
    それが出来るようになる材料なら、このヒロラインに大体揃っておるわ」
才人 「………」
ルイズ「……なっ……ななななによっ!
    言っとくけど今のはヒロミツが勝手に言ったことでっ……!」

 しばらく、キャーキャー騒ぐルイズを見つめるサイトーン。
 やがてその顔が、恋人っつーよりは仕方の無い妹を見るような目に変わり、表情が和らいだ。

才人 「……仕方ねぇよなぁ」
中井出「仕方ないね」

 守ることの大変さはよーく知っておる。
 それは、僕の過去を見たサイトーンだって知りすぎているくらいだ。
 下手を打てば死ぬ。怪我だけじゃあ済まない、本当に死ぬのだ。
 それでも守りたいって思っちまったんならまぁ……それがそいつの生き方で、僕に迷惑がかからんのなら止めはせぬ。晦の時と同じさ。

才人 「ルイズ。一つだけ確認させてくれ。俺は、お前の中ではただの使い魔か?」
ルイズ「なっ……ば───あ、当たり前でしょ!?
    使い魔が使い魔じゃなくてなんだってのよ! そうじゃなければ犬ってだけよ!」
才人 「───……」
中井出「……それで、いいか? お前の覚悟は」
才人 「ん。いいや。こんなちんちくりんのどこに惚れたのか、自分でも解んねぇけどさ。
    ほんと、仕方ねぇよなぁ……」
中井出「ま、しっかり頑張って犬になってりゃ、いつかほんとに心開くさ。
    それまでは犬や使い魔の立場で楽しむ方法を知っていきゃあいい。
    耐えられなくなったここに来なさい。鬱憤晴らしも教えてあげよう。
    ここには全ては無いが様々があるぞぅ? ゲームもあるしマンガもある。
    アニメだってあるしドラマだってなんだって」
才人 「ゲーム………………と、ととと時に提督サマ?
    あの、たたたたとえばPでCな機械でご利用いただけるウフフなゲームとかは」
中井出「……才人くん。あるにはあるが、それは言った時点でバレてボコボコフラグだ」
才人 「それでもやるのが男の浪漫です! 提督殿!」《ヴァアーーーーン!!》

 才人が今までに無いキリっとした顔で仰った。
 省いたから桃や姫ちゃんにはなんのことだか解らんようだしなぁ……。
 逆に桃が、そんなキリリとした顔をポーと見つめているのが少し可哀相だった。

中井出「……桃。なんか食いたいもんある? 俺、全力で作っちゃる」
ルイズ「な、なによいきなり……ていうか桃言わないでよ」

 まあともかく、そんなこともあって、そういえばきちんと自然要塞を案内していないことを思い出した。
 なので案内をすることに。
 …………んーむ。しかしこう……しかし、ねぇ?
 いいや、やっちまおう! なんとかならぁ!


───……。


 ……。

中井出 「というわけで新人のシエスタさんです」
シエスタ「…………《ぽかーーん…………ハッ!》あ、どどど、どうもっ……!」
才人  「シエスタまで連れてきたのか……」
中井出 「ンゃあ、だって仲間はずれみたいじゃないか」

 ハイ、シエスタを連れてきました。
 一応僕が雇っているってことになってるし、それを撤回したらどこぞの下衆貴族がまた買おうとするやもしれんから堂々巡り。
 しかし雇っているならこの博光、無碍にはせぬ。
 なのでこうして迎えました。最強。
 一緒にギーシュも連れてきたんだけどね、これは才人の問題なのでご退室願った。

中井出 「はいシエスタ、まずはこのネックレスをキミに」
シエスタ「えっ……こ、こんな高価なものを、私に!?」
中井出 「え? 高価? ───うむ!」《どーーーん!》

 出そうと思えばいつでも出せるけど、なんとなく言われるままに胸を張ってみたの図。
 ああ、才人がジト目でこっち見てる。

中井出 「あ、付け方とか解る? どうもこちらの世界のことは解り辛い。
     いくらなんでもネックレスつけたことくらいは───」
シエスタ「あ……あの。つけてもらっても、構いませんか?」
中井出 「……ね?」
才人  「だよなー、平民ってどのくらいのレベルなのか、解り辛いよなー」

 ちなみに現在は自然要塞エーテルアロワノン内。
 猫の里の中心に下ろしてあるソレの中の、衣装部屋にて彼女を迎えましてござい。
 やっぱ最初は武器防具選びでしょ?

中井出 「ほいじゃあネックレスをこうして……と」
シエスタ「《きゅむ》ひゃうっ!」
中井出 「ホイ?」

 なんしょっとかこんげら、急に叫びおって。

才人  「あー、提督提督ー、どうして正面からつけるんだよ」
中井出 「ほっほっほ、何を言いだすのかと思えばこの馬鹿めが。
     ネックレスってのは古来よりこうつけるものだと藍田くんが言ってたぞ」
才人  「いやこの状況で提督にだけは馬鹿って言われたくねぇんだけど!?
     つか騙されてる! それ絶対に騙されてるって! 見てみろよシエスタの顔!」
中井出 「む? ……おお、なにやら顔赤いよ? 風邪引いた?
     ……ひょっ!? すごい熱じゃ!!」
シエスタ「《メリメリメリメリ》いたたたたたたぁああーーーーーっ!!?」
才人  「強く絞めすぎだ!! 額に手ぇ当てるだけでどこまで力込めてるんだよ!」
中井出 「やぁ、かぁるいジョーク」

 絞めてしまった頭に癒しを流し込みつつ、パッと離せばはいスッキリ。
 ククク、この博光には常にマナと癒しが流れておる。
 それを流せば痛みなぞスッキリ爽快!
 と、それはそれとしてさあ参りましょう。

中井出 「ほいじゃあシエスタ、この中から好きな装備を選びなさい。
     今時のおなごは強くあらねばなりませぬ。
     それも、貴族なんぞにいいようにされんために。
     ゲフェフェフェフェ貴族なんぞ杖さえ無ければただの権力馬鹿ぞ。
     もし捕らえられたとしても、杖を手放した隙にボコボコにしちまえば勝ち!
     なのでシエスタ、あなたは戦うことを知りなさい。
     大変頼もしいことに、この世界には師匠がたくさん居るから」
シエスタ「あ、の……世界と言われましても」
中井出 「ふぅむ。武術を習うなら凪がいいかな?
     剣なら晦あたりで、刀は篠瀬さんか凍弥ボーイ、
     銃なら閏璃か佐知子さんで、弓は更待先輩か三国の誰かに……まあ。
     護身術ならやっぱ格闘か。ではまず、姫ちゃんと同じである先生を紹介だ」
シエスタ「先生……ですか?」
中井出 「うむ。まずは東に行くがよろしい。紹介状を書きましょう。
     でもそのまま行ったらモンステウ(モンスター)に襲われるだけだから、
     まずはロドリゲスに送ってもらう。たっぷり修行なさい?」
シエスタ「………」

 わあ、すごい汗。にっこり笑顔なのに少し顔が青ざめてる。

シエスタ「あの、わたし一介の村娘でして」
中井出 「シエスタ。この博光も常に一緒に居られるわけではありんせん。
     だからね、敵国に急に攻め込まれたーなんて時には大変なことになる。
     そ−ゆー時、せめて自分だけでも守れるようになっていてくれ。
     押し付けな考えで悪いけど、
     巻き込まれて殺されましたなんてこと、起きてほしくない」
シエスタ「……ヒロミツさん……」
中井出 「あ、ジョニー、護衛よろしくな? ついでに戦い方とか教えてやってくれ」

 声をかけると、どこからともなくシュパーンと飛んできたジョニーがこの場に滑り込み、バババッと構えて「そこまでニャッ!」と叫ぶ。うむ、相変わらずのキャプテンコマンドー。

ジョニー『任せるニャ旦那さん。このお姉さんは僕がきっちり護衛するのニャ』
中井出 「うむ頼む」
シエスタ「ね……ねねね、猫が……しゃべっ……!?」
ジョニー『お姉さん、ここでは常識を捨てるニャ。
     常識に囚われたままだと、一歩目でドラゴンに食われて死ぬニャ』
シエスタ「そんな日常的にドラゴンが居るんですか!?」
中井出 「え? 居るよ? 当たり前じゃない」
シエスタ「え……えぇええ……!?」

 ここヒロラインはいわば竜族の世界よ。
 なんでもかんでもほぼ居るが、種類でいったら竜族が一番多い。
 なにせ守護竜とかごっちゃり居るし。

中井出 「強くおなりよ。最強になれとか言わんから、
     ほんに自分くらいは守れるようになりんさい。
     そうなれる材料が、この世界には満ち溢れておるわ」
才人  「そうそうっ、自分を守れるくらいにってのは大事だ! ……冗談抜きで。
     と、ところでシエスタッ!? 折り入ってその、お願いがあるんだけどっ!」
シエスタ「え……は、はい? なんでしょう、サイトさん」

 ……エ? オイオイ、まさかここで言うつもり?
 確かにここ、武器防具があって試着室もあるけどさ。

才人 「なにも言わずにっ……これを着てくれーーーっ!!」

 才人がバッと突き出す!
 それは、僕がイメージして創造したいわゆるセーラー服!
 いったー! テリー……じゃなかった、才人がいったー!
 あ、きっちりスカート込みです。

シエスタ「服───え? わ、わたしに服を……?」
才人  「そ、そうっ! 服っ! 是非これを着てみてほしいんだ!
     こればっかりはシエスタが……シエスタじゃないとダメなんだ!」
シエスタ「え、えと……《ちらり》」
中井出 「ホイ?」

 シエスタがこちらをちらりと見てきました。なんかこう、伺うように。
 え? なに? ……と考えるまでもなく、どうしたらいいのでせうって意味だろうね。

中井出「……しようのないお子だねぇ。
    すまんねシエスタ、それ、我らが祖国の服なんだ。
    俺たちゃ日食の都合であと十年は元の世界に戻れないからさ、
    そんな些細なものでも郷愁の中の一つらしい。
    まあそんなわけで……シエスタさえよかったら着てやってくれんかね?」

 お節介とか勘弁なんだけどなぁ……しかしここでこうして見つめられちゃあ、話進めてやるしかないじゃないの。

シエスタ「あの……それは、ヒロミツさんにとっても郷愁になるんですか?」
中井出 「いや。俺にとっての郷愁ってそーゆーのじゃないし。
     学生だった頃なんて、もう数千年以上前のことだしなぁ……」
才人  「う……んじゃあ提督にとっての郷愁ってなんだよ」
中井出 「郷愁っつーか……墓参りがしたいかなぁ」

 今の地界に望むことなんてそれだけだ。
 しかしだ。俺って存在が消されてるなら、やっぱり家族の墓なんてものは無くなっているんだと思う。無事に帰れたら今度こそって……約束したのにな。

中井出 「やっぱ墓参りは無しだな。むしろ郷愁になるとか郷愁ってなにとか、
     微妙に質問の仕方おかしくありません?
     しかし訊かれたからには答えてみるのが暇人。
     そうですね、祖国に求める想いは……やまふじのレバニラ炒めが食いてぇや」
シエスタ「やまふじ?」
才人  「って、提督の記憶の中にあった定食屋の名前だっけか」
中井出 「そ。ニラレバじゃないのがミソだ。そしてうどんでもないあんぱんでもない、
     普通に一番食いたいものはなんだって言われたら、
     やまふじのメシっきゃねーべよ」

 それは我が内に眠る……っつーかこのヒロラインに居る、やまふじを知る者の総意であろうよ。やまふじは美味い。マジで美味い。学生時代にはどれだけお世話になったことか。安くて量多いからありがたかったものさ。

中井出「で、話を戻しやすが、着るかどうかは完全にシエスタの自由だよ?
    なにもそのー、郷愁を癒すためだからって、
    自分が嫌だと思うものを着る必要はござんせん」
才人 「提督! 提督にはこの熱き思いが解らないのかよ!」
中井出「うむ、そのテの思いは悲しみと映写機とともに、空界に置いてきたから」
才人 「う……そりゃあ、あれは確かに納得出来るけどさ……」

 怯むが、それでもセーラー服は突き出したままのサイトーン。
 おおナイス根性。それだけ故郷に思いを馳せているということですね?

シエスタ「…………解りました。帰れなくなるかもしれない気持ちは、
     モット伯に買われそうになった時に思い知りましたから。
     だから……わたし、着ます!」
才人  「えっ……ほんと!? ほんとに着てくれるの!? ほんとに!?」
シエスタ「ひえっ!? あ、は、はい……」
才人  「やったぁああーーーーーーっ!! やった! やったぁああーーーーーっ!!」
中井出 「………」
シエスタ「………」

 鼻息荒く迫り、確認をする才人が……正直遠くの人に思えた瞬間でした。
 なのでなんとなく才人の隣ではなくシエスタの隣に立って、喜びまくる彼を遠い目で見つめ───ていると、困った顔でシエスタが僕の顔を見上げた。

シエスタ「あの……ヒロミツさん。着るのはいいんですけど、少し困ったことが」
中井出 「え? なに?」

 それは、才人には聞こえないように努めた、とても小さな声でした。
 なんでもね? 貴族でもなければ小さな下着……まあ地界で言う一般的な下着だね。ショーツとかヴラジャーとか。そういうのって無いんですって。だから平民の方々の下着は、下着というか下穿き。ドロワーズとからしい。
 ドロワーズってのはあれだね、かぼちゃパンツに煮たようなアレ。……煮てどうする。似てだ、似て。
 でもかぼちゃパンツはパンツってついてるけど下着じゃないから気をつけよう。ラピュタでシ−タがドーラに渡されたデケェあれがかぼちゃパンツってことでいいのかな? ともかく、ドロワーズは結構デカ目の下着のこと。
 しかしながらスカートにドロワーズってのは……いやむしろセーラー服にドロワーズはいろいろとアレではと言いたいのでしょう。
 ならばとシエスタの頭を撫でてから試着室の方へ。
 才人はまだ感激乱舞に忙しいみたいだからそっとしておいて、僕はその試着室の前でシエスタにいろいろとプレゼントしました。といっても下着を数着だけど。

シエスタ「……あ、あのー、ヒロミツさん? これは、どこから?」
中井出 「うむ。適当にフリーサイズの下着を創造してみた。
     大変頼もしいことに我が武具は万能に近いので、いろいろ安心。
     さ、着てしまいなさい。その下着はプレゼントですから」
シエスタ「……あの、ヒロミツさん。
     ヒロミツさんも、わたしがこれを着たら喜んでくれますか?」
中井出 「む? さっき似た質問をされたけど……まあいいや。
     そだねー……制服少女を見てなにが嬉しいのかと訊かれると、疑問が先立つ。
     でもまあシエスタくらいの歳の瀬だと、地界では着てるものだしねぇ。
     喜ぶかといえば、愛娘に“ゴハハハハ似合っとうぜグオフォフォフォ”と……
     まあ、そう返すくらいの気持ちかな」
シエスタ「解りづらい感情なんですね……」
中井出 「そりゃあねぇ。でもまあ、喜びじゃなく嬉しさならあるから安心おし。
     家の都合かどうかはさておき、
     仕事ばかりで娯楽も着る服も少なかったキミじゃて、
     時にはいろいろと着飾るのも娯楽となりましょう。
     だから、着たい服があれば言いなさい。この博光が用意してあげよう」
シエスタ「ヒロミツさん……はいっ、では着てしまいますね」

 にこっと笑って、シエスタは試着室に入っていった。
 すると感激乱舞していた才人がピタリと停止。キリッとした顔でこちらに歩いてきた。

中井出「覗いたら殺すよ?」
才人 「ノゾキマセン」

 そして到着早々にしゅんぼり顔になった。……しゅんぼり。しゅんとした顔としょんぼりが合体した状態である。つまり“にょろーん”チック
 男だねぇほんと。
 ふらふらする癖直すって、モット伯の背中に誓ったろーに。
 それを言ってみると、

才人 「見てみたいものがあるのと浮気は別だと思う《キリッ》」

 なんかテメー勝手なことを言い出したので、メイプルリーフクラッチであの世へ送ってやりました。

才人 「うぅ……だってよぉ。
    ルイズは怒ったり怒鳴ったりばっかで、人のお願いなんて全然聞いてくれねぇし。
    ほら、その……シエスタにあってルイズに無いものもあるし《ボソボソ……》」
中井出「復活早々返す言葉がそれでいいのかねキミ」
才人 「それに俺、ルイズの下着洗ってる時に、シエスタに聞いたことがあるんだ。
    この世界には、なんとブラジャーが無いって。貴族はレースの下着をつけるけど、
    平民はそういったものはつけないって。だから、だから!
    これより降臨しますはノーブラのセーラー服少女!
    あのたわわに実った果実が薄いセーラー服の生地を柔らかく持ち上げて、
    そそそ、その先端には薄い布が証明するアレが《ゴキャア!》ギャーーーッ!!」

 首折った。
 なるほど、エロマニアとして走っていた俺は、周囲からこんな風に映っておったか。
 一応とはいえ宅のかわいいシエスタをなんて目で見ておるのだこの勇者は。

才人 「い、いぢぢぢぢ……! なにすんだよっ!」
中井出「キミ、落ち着きなさい。それもう郷愁じゃなくてただの欲望だ」
才人 「《ぐさり》はうぐっ!」

 ヒロラインパワーであっさり回復した彼は、首を押さえながらも続く言葉に貫かれた。
 ……うーむ、おなごが気になるお年頃なのは解るが、欲望任せに突っ走るのはよくない。それはこの生きたエロマニアが証明します。よくない。

中井出「それから、下着のことは俺がきちんと世話したから履いておるよ。
    キミの願いはあくまで郷愁回復。欲望までは叶えん」
才人 「! て、提督あんた! なんてことを!
    中学や高校生男児なら、一度は見てみたいと思うノーブラ制服を───」
中井出「はっはっは、こいつぅ。おなごを自分の欲望の道具としか見てないなんて───
    ───……一回マジで死んでみる? ネックレス取ってブチ殺すぞコラ」
才人 「《ビクゥッ!!》ゴゴゴゴメンナサイ!?」
中井出「ああ、じゃあこうしよう。強制的に勃起する薬飲ませて、
    パンツ無しで薄いズボンを履かせて女生徒の前でさらしモノに───」
才人 「ひぃいっ!? いやっ……ごめんっ! マジでごめん! 俺が悪かった!
    っ……そ、そうだよな、わりぃ……俺が思ってたのって、
    そういうのと変わらないんだよな……」
中井出「危うくキミの将来がモット伯だよ。あとシエスタには散々と聞こえただろうから、
    自分の心の方向性、きちんと考えておきなね……いやマジで」
才人 「…………穴があったら埋まっていてぇ……」

 試着室を前に、才人が頭を抱えて崩れ落ちた。
 丁度その瞬間にシエスタが試着室から出てきて、崩れ落ちた才人が彼女を見上げるのと、歩んだ拍子にスカートがふわりと揺れたのはほぼ同時だった。

才人 「あ、白《ズパァーーン!!》ぶぎゅっす!!」

 次の瞬間にはシエスタのビンタが飛んでましたが。

シエスタ「きゃあっ!? ごごごめんなさいサイトさん! ついっ……!」
中井出 「いや、この場合謝るよりも目を逸らすよりも先に、
     マジマジと見て色を言ったこいつが悪いだろ」
才人  「おぉおおおおお……!!《ズキズキズキズキ……!!》」
中井出 「その欲望なんとかしないとキミの将来本気でモット伯だよ?」
才人  「お、押忍……! これで最後にします……!」

 そんなわけで復活した才人が、立ち上がって改めてシエスタを見る。
 主に胸を。その先端を。

中井出「才人。力いっぱい殴っていいかい? その根性が裏返るまで」
才人 「いやいやいやいやああはいったけどやっぱり気になるだろ人として!
    もう確認したから! だからやめてくれってば!」

 ……ほんといい根性してはりますわ、このやんちゃ坊主。

才人 「…………」

 しかもシエスタのセーラー服姿に見とれて、鼻の下の伸びてること伸びてること。
 おまけに次の瞬間には目を光らせて、いろいろ頼み事をする始末。

才人  「そ、そうっ! そうしてふわっと回って、“お待たせっ♪”って!」
シエスタ「え、えと……お、おまたせっ……?」
才人  「違うちっがぁあーーーう! そんなもたもたした回り方じゃなくて、こう……!
     ふわりとスカーフとスカートが軽く浮くくらいになめらかに!
     そして最後は指を立てて、ネ!? はいもう一度!」
シエスタ「ふぇえ……ヒロミツさぁああん……」
中井出 「……はぁあ。あのね、シエスタ。
     今から俺の友人が言っていたことを教えるから、
     特に気にせず忠実にそれを行ってくれ」

 鼻息荒い才人から少し離れさせ、その先で小さく教える。
 もうね、彼、平賀才人っつーかハナイキ=アライでいいよ。マホメド=アライ風に。

シエスタ「それで……いいんですか?」
中井出 「ん。ほんとごめんなぁ、こんなことに付き合わせて。
     これじゃあモット伯に貰われたほうがよかったかなぁ」
シエスタ「そんなことはありませんっ!」
中井出 「おおうっ? ……まあ、そりゃそうだわな。じゃあお願いな?
     次のお願いとか言い出したら、今度こそ黙らせるから」
シエスタ「……はい、ヒロミツさん」

 頷き、一度服装を整え直し、才人の前へと歩くシエスタ。
 その表情はメイドさんのそれであり、しかし客人を迎えるように柔らかな笑みになると、胸に右手をソッと当てて目を伏せ、目を開くと同時に回転。そのやさしい回転に軽くスカーフとスカートが揺れ、才人がハッとした時には回転は止まり……才人が視線を持ち上げた先には綺麗な笑顔で、「お待たせっ」と言って指を立てるシエスタが。

才人  「………………《スゥウウ……───》」
シエスタ「きゃあっ!? サイトさん!?」

 才人は泣いていた。
 目の前の光景に心を奪われ、邪なだけだった思いを受け止めてくれた彼女を前に。
 その表情は、波紋をくらって邪を払われた黒騎士ブラフォードのように美しかった。

才人  「ありがとう、シエスタ……。俺、これであと十年は生きていける……」
シエスタ「サイトさん……」

 才人は紳士となった。
 才人が無意識のうちにとっていたのは“敬礼”の姿であった……。
 既に涙は止まり、涙は流さなかったが、無言の男の詩があった。奇妙な友情があった。

才人 「さあ行こう提督。欲望は晴れたよ。
    いや、浄化されたんだ。ここ、エーテルアロワノンで。
    生かされたんだ。男として腐っていくだけだった俺が、この場所で。
    欲望とは狂える奴隷だ……俺はそれに打ち勝つことができた。それが勝利なんだ」

 そして、とてもとても穏やかな顔でそう仰る才人は、そんな輝きを身に纏わせたままに歩いていった。
 ……うーん、ほんとにただ、欲望を解放したかっただけなのかね。

中井出 「まあいいさね。シエスタもご苦労さま。
     ……っとせっかくだからこのまま服、決めてしまおうか。
     えーっと、着てみたい服とかあるかね? 全部無料だよ?」
シエスタ「え……いいんですか?」
中井出 「おー構わん構わん。ここは初心者用の武具部屋みたいなもんだから。
     服選びが終わったら、あー……すまんジョニー、
     ロドリゲスにはちょっと遅れるって言っておいてくれ」
ジョニー『先に修練場に行かせるニャ?』
中井出 「うむ。やっぱり基本くらいは覚えてからじゃないと」

 それ考えると、姫ちゃんにはひどいことしたなぁ……。
 まあ、ウェールズも無理矢理引っ張り込んで同行させたし、なんとかなるでしょう。

中井出「では冒険の始まりである! ようこそ、冒険の世界フェルダールへ!」

 ともあれ彼女の冒険が今始まる!
 強くなって、半端なメイジでは勝てないメイドさんになるがよい!
 ……僕はちと用事があるのでここを離れますがね。

中井出 「あ、そういやギーシュは?
     なんか妙な飲み物持って困惑していた僕らのギーシュ」
シエスタ「はい。ここのことはよく解りませんけど、
     下の自然食堂でのんびり待つことにする、とかで」
中井出 「ふむふむ」

 下の自然食堂って言やぁ、桃が猫に教わって料理をしていたはずだが……どうなったかね。
 なんて思ってた矢先でした。才人の困惑の悲鳴と、桃の泣き声が耳に届いたのは。





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