13/水精霊とママン救出あっさり仕上げ

 ……困ったことになった。
 なんでもギーシュが持っていた謎の飲み物を、桃が呑んでしまったらしい。
 あ、ちなみにその飲み物ってのが実はモンモランシーが作った惚れ薬(ギーシュはそうだとは知らずにプレゼントされて舞い上がっていたもの)で、桃は桃で先ほどの僕らの会話を聞いていたらしく、ご主人様というものがありながら〜と食堂に降りるや飲み物を奪って飲んだ。調理続きで喉渇いてたんですって。
 で、それが惚れ薬だってことで、桃が降りてきた才人にトキメケマックス。
 紳士の笑顔で彼女を迎えた才人だったが、その豹変っぷりに絶叫。なにせ抱き付いてから「ばかばかばか、どうして浮気なんかするのよぅ」とか言って泣き出したというのだ。あのプライドの塊の桃がだ。そりゃ叫ぶ。
 そんなわけで諸悪の根源であるミス・モンモランシをネックハンキングツリーで締め上げて、効果を打ち消すための材料探しが始まりました。
 ええまあ……分析して創造してしまえば早いんだけどね? いっちょ才人に春を知ってもらおうかと。

ルイズ「……今、他の女のこと見てたでしょ」
才人 「見てないって」
ルイズ「だったらちゃんとわたしだけを見てよ」
才人 「み、見てるだろ? だってほら、目の前に居るんだし」
ルイズ「もっと見て」
才人 「見てるってば」

 まるで小説のような会話のやりとりをしている二人は、現在同じ馬に乗ってらっしゃる。
 僕はといえばロドリゲスに乗りながら、そんな二人を生暖かく見守っているわけで。

才人 「な、なぁ提督ー!? どうしてレアバードで───」
中井出「黙れぇええっ!!
    貴様には少しでも長く貴様と一緒に居たい乙女の気持ちが解らんかぁあああっ!」
才人 「だまっ……!? やっ、けどよっ!」
デルフ『それ以上はヤボだぜ相棒。
    あのあんちゃんはおめぇさんのことを思ってやってんのさ。
    ほれ、よーく見な。もしも相棒が娘っ子を本気にさせたら、
    二人きりの時はいつもこんな感じになるんだ』
才人 「ふ、二人きりの時は……い、いつも……《ごくり》」
ルイズ「サイト……」
才人 「ルイズ……」
ルイズ「サイトぉ……」
才人 「ルル、ルイズ……!」

 一頭の馬に、横座りで座る桃。そんな彼女は馬と同じ方向や、俺達からしてみれば横向きではなく、才人の顔しか見ていない。
 そんな桃を正面に捉え、どんどんと顔を緩ませていく才人は……なんというかこう、ね?

デルフ『どうよ』
才人 「…………正直……たまりません《ビシィッ!》」

 それはとても綺麗な敬礼だった。涙ながらの敬礼だった。
 とりあえずワムウに謝れ。

中井出「ふむ」

 えーはい、ではいつものように遅れた状況確認をしましょうか。
 へぇ、現在ワシらはラグドリアン湖ってところに向かっておりやす。
 あの飲み物はモンモランシーから貰ったと公言したギーシュの言葉通り、そしてさっきも言ったようにモンモンをネックハンギングツリーして口を割らせたの。
 したっけね、解毒といっても過言ではない薬の調合にはとても高級な材料が必要なんだとか。しかもそれが、普通に調達するならラグドリアン湖でしか取れませんっつーんだから大変だ。
 そげなもんは買えばよいのではと思ったものの、やっぱり高級でしかもギーシュや他のお子どもは金を持ってないといいはる。
 貴族だからって手持ちが豊かとは限らんらしい。いいことだ。
 なのでこうして現地調達目指してラグドリアン湖を目指しているわけさ。
 でも問題点として……

中井出 「すまんね、騒がしくて」
タバサ 「……問題ない」
キュルケ「問題大アリよ。うるさいったらないわ」

 同行者にはシャルとツェルプストーがいらっしゃるのよね。
 や、シャルはいいのよ? ラグドリアン湖ってのはシャルの実家方面にあって、僕はシャルのママンを助ける約束をしておりますから。
 でもこのビッグボインがさ、ことあるごとに桃にちょっかいだすもんだからうるそーてうるそーて。

キュルケ「それにしてもサイト? タルブの村での戦いでは大活躍だったらしいじゃない。
     思えばギーシュとの戦いでも、直接見てはいないけどラ・ロシェールでも。
     ふふっ……私、強い男って───」
ルイズ 「《ギンッ!》」
キュルケ「あっははははは! ほらほら見て見てタバサぁ!
     まるでご主人様を守る忠犬みたい! あのヴァリエールが!
     どっちが犬なのかしらね! あははははははは!」

 ……ね? これでうるさくないって仰れるなら猛者だ。
 才人もなんだかんだでお年頃で、目の前の自分にメロメロな桃よりも、離れた位置に居るプロポーション抜群の褐色おなごにトキメケドキュン状態だし。
 いやほんと……大丈夫かアイツ。将来本気でモット伯になるんじゃないか?
 原中に生きた自分としては、愛する者は常に一人という大原則もあったため、正直キツイですそれ。

中井出 「ツェルプストー……今うるさくしてるのキミだから、お願い静かにして……」
キュルケ「あらなぁに? 居るだけでなんの役にも立てなかったお方が私に説教?」
中井出 「お願いを説教としか受け取れないお子よ、黙りなさい?」
キュルケ「………」
中井出 「………」

 ちなみに僕のことは伏せてもらってあります。
 僕は戦の時に、居るだけで大したこともできなかったことになってます。
 だってその方が平和に暮らせるし。
 ね? 戦績や誉れなんてものはさ、誰かが知ってりゃいいのよ。

キュルケ「けど、運が良かったわね。
     どうしてラグドリアン湖に行きたいのか知らないけど、
     わたしたちがオールド・オスマンから通行証をもらわなければ、
     あなたたちだけじゃあとてもじゃないけど通れなかったでしょ」
中井出 「キューちゃん、べつにそんなことないから静かにして」
キュルケ「キューちゃん!?」

 だってね、姫さまに発行してもらった通行証があるんだもの。
 オスマンのジジイに許可なんぞ貰わなくても、そんなの一発よ?

タバサ 「彼らはアンリエッタ王女から、専用の通行証をもらっている。
     オスマン氏の許可は……必要ない」
キュルケ「え……ほんとに!?」
中井出 「そうだぞー、コノヤロー。つーかそこの褐色、なんでキミついてきてんの?」
キュルケ「なんでって、わたしはタバサの帰省に乗っかっただけよ。
     心配だし、べつにいいじゃないの」
中井出 「いや、帰省にひっついてくるなんて聞いたこともねーが」

 言ってみれば、才人も桃もこくこくと頷いていた。何気にシャルも。

キュルケ「な、なによ……友達が心配で悪いっての?
     なんとなく雰囲気がいつもと違ったから、
     一緒に行ってあげないとまずいかもって思ったのよ」
中井出 「うわーい、公認で学院休めてよかったねー」
キュルケ「そうそう、まったくよねー───って、あ……」
中井出 「貴様のようなクズに宅の可愛いシャルちゃんは渡さねーざますーーーっ!!」
キュルケ「いつからあなたのものになったのよ!!」

 馬に乗りながらの喧嘩がしばらく続きました。
 え? モンモランシーやギーシュはどうしたって? 材料持ってくるから準備しといてくれーって待機させてありますよ。
 相手が精霊ならばきっとなんとかなりましょう。


───……。


 そうして許可証を見せて通行して、ガリアって国に到着。
 その先にあるラグドリアン湖を目指したわけですが、

おっさん「ああ、ここからの街道は通れないから迂回してください」
中井出 「だめだ」《どーーーん!》
おっさん「ええっ!? そんなっ!」
才人  「提督提督、遊んでないで……。通れないって、なんでですか?」
おっさん「あ、ああ……ラグドリアン湖から溢れた水で街道が水没しちまったんです」
中井出 「そうか。じゃあ行こう」
総員  『えぇええーーーーーーっ!!?』

 ホイ? ……あれ? なんか驚かれてる……なんで?

中井出「ど、どうしたの? ハッ!? まさか新手のスタンド使いからの攻撃が!?」
才人 「そーじゃなくてっ! わざわざ水没してるところに行ってどうする気だよ!」
中井出「え……? どうって……ラグドリアン湖の水で水没してるんでしょ?
    じゃあもうそれラグドリアン湖じゃん。
    迂回する必要ないし、そこで用事済ませようよ」
総員 『あ』

 解決した。

───……。

 そんなわけでラグドリアン湖。
 僕らはここで、水の精霊から“精霊の涙”ってのをもらわなきゃいかん。
 それは精霊の体の一部で、水の加護を得ている者が血の契約とともに得られるものだとかどーのこーの。

キュルケ「来たはいいけどどうするのよ。
     わたしは火だし、タバサは風だし、ルイズは…………聞くだけ野暮だったわね」
中井出 「そうだ黙ってなさいこのヤボ娘!」
キュルケ「皮肉にそこまで返されたのって初めてなんだけど!?」

 水没した街道とは言うけど、ほんと水没しちゃってて街道どころじゃなかった。
 もう近くの雑木林近くまで水没してて、もうここ街道じゃないもの。
 でもまあ、始めましょう。
 えーと、水の指輪、水の指輪と。アクアマリンでよかったっけ?

中井出 「シャル、才人、ちと離れてなさい」
才人  「あいよ」
タバサ 「……《こくり》」
キュルケ「え、ちょ……なに? 彼に任せるの? 大丈夫なの?」
タバサ 「平気。むしろ彼でないとだめ」
キュルケ「……?」

 水の傍まで歩き、マナを解放。
 バリアチェンジでそのマナを水のマナに変え、辺りに充満させた。

中井出「我、今、水の精霊に願い奉る。
    我が名は博光。指輪の加護のもと、この儀式を司りし者。
    ディエス・マイエス・ジェイド・シルフ・エル・エニテマウス───
    ハグエル・ベリエス・ペイモン・マルバス・レキエス・レキエル……」

 言を唱えると水のマナが踊り、湖面をやさしく撫でる。
 すると湖が輝き出し、暗くなる時間でもないというのに空が……いや、この場のこの空間だけが闇に包まれ、湖面の輝きを鮮明なものにする。
 同時に湖面から、光に誘われるようにして、大きな水の塊が浮き出る。
 それは空中でぐにょぐにょと蠢くと、あくまで水のままで女性の形を象る。

水精霊『……感じたことのない力を感じた。我は貴様を知らない。
    単なる者よ、貴様は何者だ』
中井出「単なる者だ。それ以上でもそれ以下でもない。
    今日は貴様に頼み事があってやってきました。貴様の体の一部をちょーだい?」
才人 「おいィ!? それはあもりにもストレートすぎるでしょう!?」
中井出「お黙り! この博光、誰が相手だろうと差別はしません!
    その時の気分によりすぎるけど! つーわけでよこせ! 持ってんだろテメー!」
水精霊『…………』

 やあ、だんまりだ。
 そして精霊の怖さを知るみなさまが震え出しております。

キュルケ「ちょ、ちょっとまずいんじゃないの!? タバサ、いざとなったら───」
タバサ 「《ふるふる》……平気」
キュルケ「え……?」

 水の精霊は動きを見せなかったが、敵意も見せなかった。
 逆にあたりに充満した水のマナに感謝するように僕に向けて、右手と思われし水の塊を延ばした。

水精霊『単なる者よ。体の一部はくれてやろう。ただし我が願いも聞いてほしい』
中井出「だめだ」《どーーーん!》
総員 『ホゲェエーーーーッ!!?』

 皆様絶叫! これにはさすがにシャルも驚きを隠せずに困惑してらっしゃった。

水精霊『……単なる者よ。それでは等価交換にもならないが』
中井出「元より交換する気なぞないんだが……じゃあこうしよう。
    さすがに街の水没はいかん。この水をなんとかしてくれ。
    さすれば貴様の願い、叶えてしんぜよう」
水精霊『ひ、単なる者よ……その上我が身の一部まで欲するのか』
中井出「ん? 不満? 不満なの? ならばお前さんはここで、
    願いも叶えられずに人々から嫌がられながら水だけ増やしていくの?
    新らしい展開に希望を持つ気はないのかの?
    いやならやめてもいいんじゃぞ。別に他の道がないわけじゃなかろう」
水精霊『…………単なる者よ。何故だか非常に貴様に殺意が沸いた』
中井出「まあまあ。で? どうする? 誓ったら守るから安心なさい?
    全ては貴様がどうするかだ。
    わしゃ別にあんたがいやならやめてもいいんじゃよ?」
水精霊『………』
中井出「………」
水精霊『……いいだろう。その言葉を信じよう。取り返してほしい秘宝がある。
    名を、アンドバリの指輪』
中井出「解った。じゃあ水かさ減らせ」
総員 『特徴も聞かないで!?』

 タバサを除いた皆様につっこまれた。
 ええ、もちろん水の精霊にまで。
 なんだ、結構きさくなやつじゃないか。

水精霊『……貴様に任せていいものか、我は悩む。だが───』

 と、ここで精霊さんはちらりと才人を見た。
 才人っつーよりは、グリランドリーに包まれた手を。
 近くに居なきゃ解らないくらいの視線の動きだ、恐らく他の皆様は気づいちゃいないでしょう。

水精霊『───否、信じるとしよう。指輪が戻るのならば、水を増やす理由もない。
    指輪はお前らの寿命が尽きるまでに取り戻してくれればよい。
    それを、貴様との誓約としよう』
中井出「何気に僕と皆様とで呼び方分けてるよねキミ……いいけどさ」

 伸ばされた右腕らしき腕が、僕の手のひらの前でぽちゅんと切れる。
 僕はそれを創造した瓶で受け止めて、青白く輝くそれに蓋をした。

中井出「あ、ところで指輪が無くなったってんなら誰かに盗まれたんだろうけど、
    誰が盗んだかとか解る? 些細なことでもいいんだけど。
    それとも自分で何処に仕舞ったか忘れたものを盗まれたとか言ってる困った奥方さ
    まみたいな状況?」
水精霊『否。風の力を行使して、我の住処にやってきたのは数個体。
    眠る我には手も触れず、秘宝だけを持ち逃げた』
総員 『や、その時点で捕らえろよ《ズビシ》』

 総員のツッコミが炸裂しました。気づいてるんなら止めろって。

水精霊 『その個体の一つがこう呼ばれていた。“クロムウェル”と』
中井出 「クロムウェル? ……あ、オリバー・クロムウェル」
キュルケ「聞き間違いじゃあなければ、アルビオンの新皇帝の名前ね」
中井出 「そーなん?」
才人  「人違いじゃねぇか? よくある名前かもしれねぇし」
中井出 「ままま、一応手掛かりになるんだから頭に入れとこう。
     で、そのアンドヴァリの指輪だっけ? それってどんなものなの?」
タバサ 『水系統の伝説のマジックアイテム。
     死者に偽りの生命を与え、意のままに操るもの』
才人  「うげ、マジかよ……!」

 うむ……たしかそれでウェールズの亡骸を操って、姫ちゃんを手中にとか考えてたんだっけ?
 僕が言うのもなんだけど、姑息千万だね。まあでも……偽りの命程度じゃあなぁ。

中井出「OK、必ずや奪還すると誓おう。
    手に入れたら返しに来るけぇ、ゆっくりしとればよし」
水精霊『ああ、のんびり待つとしよう』

 確認し合うと、精霊は再び水の球体となってラグドリアン湖に沈みました。
 すると水かさは減り、水没していた街がようやく姿を見せてゆく。
 闇に覆われたこの場も明るさを取り戻し、ようやく世界に平和が訪れた……!
 などと魔王を倒した勇者っぽくやってないでと。

中井出「よっしゃ、んじゃあ才人と桃はこれ持ってトリステインに戻れ。
    俺はちとシャルと一緒に行かねばならん場所があるから」
才人 「へ? あ、ついでだしこうして世話になったし、俺も───」
中井出「まあよまあよ。僕らと一緒じゃ出来なかったこともあるっしょ?
    道中お楽しみくださいな。
    二人っきりでねゲブレフェフェハハハハカッカッカッカッ……!」
才人 「意味在り気に黒く笑うのやめろよ! 怖いだろっ!?」
中井出「でもアニメ北斗の拳のラオウってこんな感じだったよね? 笑い方」
才人 「昔の北斗か。まあ確かにそうだけどさ」
中井出「ちなみに俺的には、デスノートのリュークの笑い方もおかしいと思う。
    ククク……っていうよりはフブレカカカカカッカッカッカッカだったし」
才人 「……それを別れ際の俺に聞かせてどうしたいんだよあんたは」

 まったくだった。


───……。


 そんなわけで才人や桃と別れた僕は、現在シャルやキュルケと一緒にガリア王家の紋章が刻まれた大きなお屋敷に来ております。
 いやいやご立派! でも紋章にはペケマークが刻まれており、なんでも王族でありながら王族にあるまじき行為をしたとして、権利を剥奪された者につけられる不名誉印章なんだそうで。……でもなぁ、この世界の王族考えると、あるまじき行為をしたほうが善行なんじゃないかと思えてしまうから不思議。

中井出 「ここがガリア王家の紋章が刻まれたシャルの実家、オルレアン家か〜〜〜〜っ!
     どおれ明日は大暴れしてやるとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
キュルケ「そんなことさせるわけないでしょーが」
タバサ 「《こくこく》だめ」
中井出 「あ、いえ、毎度言ってみてるだけなんで、気にしないで?」

 うむ。
 さて、こうして着いたわけだけど、なぜか家のほうからおじいさまがツカツカと歩いてきなさっている。何事?

老人 「お帰りなさいませ、お嬢様」
中井出「うむ、今帰った《ドボォッ!》ニーチェ!」

 ロドリゲスに跨ったままにニコリと笑んで言ってみれば、褐色さんが僕の脇腹目掛けて石を投擲してきました。きっと投擲スキルが0.3くらい上がったことでしょう。

中井出 「おがががが……! な、なにも石を投げんでも……!」
キュルケ「細かいわねぇ。
     元々あなたが“行くなら馬車じゃなくて馬に乗ろう”なんて言わなければ、
     疲れずに辿り着けたのに」
中井出 「だって馬車なんて怖いじゃないか!
     絶対馬の中にジャック・ザ・リパーが入ってるって!」
キュルケ「なんのことよそれ」
中井出 「うん……なんだろね……」

 ジョジョは第一部が一番好きです。こんにちは、中井出博光です。
 埒もなし。
 ロドリゲスから降りるとその背中をポムポムと叩き、感謝を。
 「ゴエエ」とひと鳴きすると、キュルケが視線を外した瞬間に黒で便利に収納。

中井出「んじゃあシャル、案内頼んでいい?」
タバサ「………」
中井出「……シャル?」
タバサ「もう一度だけ確認したい。本当に……平気?」
中井出「はっはっは、お兄さんにまっかせなさーーーい!
    詳しく言うならお兄さんの武具にまっかせなさーーーい!
    必ずや、貴様に楽しいをプレゼントしてくれよう!
    ……だから、そんな不安そうな顔しないの。お子は笑顔が一番だよ?」
タバサ「………《こく……り……》」

 僕の言葉に静かに頷き、しかし笑みは見せてはくれなかったシャルが歩き出す。
 先だって僕らを屋敷に案内してくれた爺は、扉を開けると僕らを先に歩かせる。

キュルケ「ねぇちょっとタバサー? 話が見えないんだけどー?」
タバサ 「客間で待っていて。私は彼を案内しなければならない」
キュルケ「わたしも行───」
老人  「なりませぬ。どうやらあなたには見せたくはないようですので、
     今より案内する場でお待ちください」
キュルケ「えっ、ちょっ……なんでその男は良くてわたしはだめなのー!?」

 褐色さんがジジーソンに連れられていく。こっちを見ながら手を伸ばしたけど、僕はサムズアップして彼女を見送りました。最強。

中井出「………」
タバサ「………」

 城内といっても過言ではない広さの屋敷を歩く。
 シャルの足取りは不安と喜びが混ざったような、どうにもこう、おぼつかないとも違うんだけど、うん。不安気……だな、これは。時折立ち止まりそうになるのを無理矢理進めている感じだ。

タバサ「…………ここが、そう」

 辿り着いたのは、屋敷の……恐らく一番奥となる部屋。彼女はそこをノックしてから取っ手に触れ───ようとして躊躇し、しかし強く握って押し開く。
 返事も待たずに押し開いたのではない。……返事はなかったのだ。
 この部屋の主が彼女に対して返事をしたことなど、もう5年もないのだという。
 5年前……当時彼女は10歳だったとか。

中井出「………」

 部屋の中はどこかひんやりしていた。
 広い部屋にぽつんとあるのは大きなベッド。
 大きいはずなのにぽつんとした印象を受けるなんて、不思議な感覚だった。
 そしてそのベッドには女性が一人で、上半身だけを起こしながら人形と戯れていた。
 こけた顔、痩せた体、虚ろな目。どこをどう見ても健康とは言えやしなかった。

女性?「……だれ?」

 ベッドの上の女性は、怯えた声でそう言った。

中井出「博光である!」《どーーーん!!》

 そして僕は胸を張ってそう答えた。直後にベッド脇のテーブルにあった水入りグラスを投げられ、鼻にコパキャアとクリティカルヒット。思わず「ちぇるしぃいーーーーっ!!」と叫び、床でドッタンバッタンと悶絶した。

女性 「下がりなさい無礼者! 王家の回し者ね……!?
    わたしからシャルロットを奪おうというのね……!?
    誰があなたがたなんかに、可愛いシャルロットを渡すものですか!」

 そういって、ママンは持っていた人形に頬ずりをする。
 ずっとずっと何年も……それこそ5年もそうされてきたのか、人形は擦り切れ、綿がはみ出していた。

タバサ「…………母さま……」
中井出「…………ナルホロ。これはつまり───あの人形の名前がタバサか」
タバサ「……そう」
中井出「で、ママンは人形をシャルだと思い込んで、
    シャルのことは王国の回し者として捉えている───いや。
    きっときちんと見えてないんだな……」
タバサ「…………」

 悶絶を終え、立ち上がった俺の服をきゅっと掴んでくる。
 俺はお返しに彼女の頭をやさしく撫でて、見上げてきたその目に笑みを送ってやった。

中井出「シャル。ママンが戻ったらなにをしたい?」
タバサ「……。話をしたい」
中井出「他には?」
タバサ「話を……したい」
中井出「……ん。他には?」
タバサ「…………名前を……呼んでもらいたい……。
    頭を撫でてほしい……抱き締めてほしい……!」
中井出「……OK。キミの希望と絶望を受け取ろう」

 目を深紅眼に、自分の在り方を亜人側に向けた上で、ラインゲートを解放。
 全て自分の中で処理して、様々な世界の回路と精霊の回路を解放。
 賢者の石で分析する、ママンの中の毒の全てを読み取り、それを溶かす薬を無から精製。

中井出「───刮目せよ」

 言を短く唱え、虚空に突き出す手にジークフリードを杖にした上で召喚。
 スッピーの杖であるそれを回転させ、その底を床に叩きつけると、この場を一つの世界として構築。

中井出「全ては終わり、そして始まる。是即ち……全ての始まりにして終わりなる者」

 世界を作った理由は単純だ。
 まず空気の浄化に彼女の体の浄化、体内の浄化に精神の浄化、それら全てを行う世界がここだったからだ。そして願い通りに毒の全てを払った彼女は、今必要である栄養をマナから与えられ、伸び放題だった髪もシャルが覚えているであろう美しい状態に戻り───それら全てが終わる頃、世界は俺の右手の上に吸い込まれるようにして消えた。
 あとに残ったのは一錠の薬だ。
 ボーっとしているママンに、これを飲ませれば───ハイ終了。

ママン「───《キピンッ♪》───は、あ───!?」

 ママンの体が跳ねた。
 しかし表情はスッキリとしたもので、どこか困惑気味に辺りを見渡し……シャルを見つけると、ベッドから跳び降りるようにして駆け、シャルを抱き締めた。

タバサ「え……あ───」
ママン「シャルロット……! おお、シャルロット、わたしの可愛いシャルロット……!」
タバサ「か、あ……さま……?」

 抱き締められたシャルは当然困惑状態だ。
 思考がまだ追いつかないのか、状況に追い付けないのか、固まってしまっている。
 しかしその目が俺を見て、俺が頷いてみせると───おそるおそる、また回し者だと拒絶されるのではないかと恐れながらも、その手が母の背に回った。
 罵声なんて、当然吐かれない。
 それを確信として受け取った瞬間、シャルは目に涙を浮かべ、何度かの我慢ののちに声をだして泣いた。

中井出(……うむ)

 飲ませたのは、この部屋の記憶のようなものです。
 復活して、母親は実はなにも覚えてませんじゃあまりにもひどいし。
 なのでこの部屋の記憶を飲んでもらったわけです。もちろん、“ようなもの”であるからには別のものも混ざっていて、まあよーするに抗体みたいなものです。
 次に同じものを飲まされても効果はありませんよってものさ。
 分析の過程で、ママンが飲んだ毒がエルフが作ったものだってことも解ったし、まあその、なんでしょうね。エルフってほんと、いい印象残さないね。どの世界でも。

中井出「………」

 なんてことは別にここでなくても考えられることですね。
 フフ、僕ったらとってもお野暮。
 ここは親子水入らずで積もる話をさせてあげるべきなのさ。
 なのでスピードワゴンはクールに去るぜ。

中井出(よかったなぁシャル。これでキミの願いは叶った。
    よかったなぁ……本当によか《ベキィ!》ゲェエーーーーーーッ!!!」

 クールに去るつもりが枝を踏み折ってしま───って、えぇえーーーーっ!!?
 なして枝がこがぁなところさあるでよ!?
 せせせ清掃員ーーーッ! 清掃員を呼べぇえーーーーーっ!!

中井出「あ」
ママン「………」
タバサ「………」

 や、やだ……アタシ、見られてるッツ! じゃねぇだろ!
 やべェェェェ!! デケェ声出しすぎたァァァァ!!!

中井出「………」
ママン「………」
中井出「スピードワゴン! アグレッシヴに去るの巻!」

 何かを言われるよりも無言の重圧に耐えられなかった!
 だから蹴ったッッ! 床をッッ!!
 そして僕は一瞬にして窓までの距離を縮め、烈風となって窓ガラスをぶち破り、大いなる蒼の下へと躍り出たのだ───!!
 さらに大地に降り立つと、キョンシーのくせに跳ねずに猛ダッシュして逃げ出した周富徳似のキョンシーが如く大激走してその場から逃げ出した。
 ……直後に賊と間違われて、刃物を持った爺に追われまくったのは良い思い出です。


───……。


 しゅううう……

中井出「いやさ……べつに俺、なんも悪いことしてないよ?
    それがどーして殴られたあとに正座させられなきゃならんの?」
ママン「それはあなたが窓を破壊したからです」
中井出「いやあの、それも僕がきっちり直したンスけど」

 今現在、ママン……オルレアン公夫人を前に正座をしている……今日も元気な博光です。

ママン「それよりあなたには言いたいことがたくさんあって……ああ、
    なにからどう感謝していいものか」
中井出「あのー。用事済んだんで僕もう帰っていい?」
ママン「とんでもない!
    恩人になにもせずに帰したとあってはオルレアンの……主人の名が廃ります!」
中井出「廃っても僕には関係ないからとんずらぁああ《がしぃ!》ぬうう離せぇええ!!」
タバサ「それはだめ」

 立ち上がって逃げ出そうとしたら、シャルにタックルされた。
 ええ、見事な腰から下へのタックルでした。

ママン「まあシャルロット? 元気なのはいいけれど、恩人に無礼を働いてはいけません」
タバサ「……ごめんなさい、母さま」
中井出「うむうむそうだぞぅ? だから僕もう帰るね?」
ママン「それは許されない行為ですわ、ミスタ・ヒロミツ」
中井出「なんで!?」

 言いつつ、再びちらりと窓を見る。隙あらば逃げてくれようと。
 するとその窓には鈍器を持った爺が……! ギャア怖い!! すげぇ怖い!!

ママン「わたしはなにもかもを覚えています。シャルロットがわたしにしてくれたこと。
    わたしが、シャルロットにしてしまったこと。
    そして……姪のイザベラが、シャルロットに命じた様々な物事」
中井出「あっ! てめぇ!
    イザベラさまをさま付けで呼ばないなんて無礼にも程があるぞ!」
タバサ「落ち着いて。あのイザベラさまとは違う人」
中井出「え? そうなの? ……じゃあ仕方ないね」
タバサ「仕方ない」
ママン「?」

 ちなみにイザベラさまとはロミオの青い空に登場する人物。
 “さま”を付けるのは最早当然。
 この博光を始めとする猛者や、ロミオ好きの皆様は“さま”を付けずには呼べない人。それがイザベラさまさ。
 世にはイザベラさまを心酔しすぎていて、イザベラという名の者は強く気高くしかし冷静であらねばならぬとし、そうでない者にはそれが本名なのにそうと名乗らせず、ザベラと呼ぶ者まで居るほどさ。
 まあ乱闘殿様のことなんだけど。

中井出「それでママンは僕になにをしてほしいの? したいの?
    仕方ないから聞くだけ聞くからそしたら解放しろコノヤロー」
ママン「ま、口の悪い」
タバサ「母さま。彼はその気になれば空間転移が可能。
    ここにこうして居る時点で、最初から話を聞く気がある」
中井出「あっ! これシャルッ! そーゆーことはバラさないから面白いのに!」
ママン「…………《じーーー……》」
中井出「グ、グウウ……! あーもうなんだよぅ! 用件があるなら言えよぅ!
    無いなら本気で帰るから言いたいことがあるなら今が旬だぞコノヤロー!」
ママン「……随分と変わった子なのね」
タバサ「………」
ママン「? シャルロット?」
タバサ「……その。こう見えて彼は、四千年も生きている。
    “子”と呼ぶのは失礼……」
ママン「…………あらあら」
タバサ「………」

 どこか弱々しく、しかししっかりと伝えた言葉は、なんだかまるで自分が知っている母が知らないことを自慢気に話すお子を見ているようでした。
 つーか夫人がどこか含んだ笑みで僕を見つめてきようぜ? なにこの状況。

ママン「あなたはもしかして、風韻竜なのでしょうか?
    その種には人の姿を模すことの出来る者が居ると聞きます」
中井出「んにゃ、正真正銘の人間です」
ママン「そうなの? ならばなぜ四千年も」
中井出「人生いろいろである。あ、これ飲んで?
    そろそろ体がエネルギーを求め始める頃だと思うから」

 そう言って突き出すのは、クオリティーナッシャー。
 ヒロラインで採れる梨をジュースにした、ジハードの大好物です。
 あの痩せようからするに、あまり固形物は摂ってなかったろうからまずは飲み物からさ。
 ……さっき錠剤飲ませたけど気にしない。

中井出「つーかさ、分析した時に見えたけど……飲み物で心を砕かれたってのに、
    よく差し出されたものを飲む気になったね?」
ママン「シャルロットが心を許している人を、わたしが警戒する理由があるものですか」

 親馬鹿が現れた。
 なるほど、溺愛されてますな。

ママン「断っておきますがミスタ・ヒロミツ?
    シャルロットを泣かせたら───殺しますよ?」
中井出「なんでみんな僕のこと殺したがるンスヵ」

 シエスタのパパンにも同じこと言われたンスケド。

中井出「この博光、シャルに楽しいを教えるためにこの地へやってきました。
    いっつも落ち込んでる感じだったからね。
    つーか泣かせる要因があるとしたらアンタでしょーが。
    ボカァただ、楽しいを知らぬ者に楽しいを知ってもらいたいだけである。
    だのに世の中は貴族がどーだ平民がどーだと。つまらん! 実につまらん!
    なので貴族であろうが平民だろうがからかう博光が降臨です」
ママン「ならば本当に、シャルロットに楽しいを教えたいだけ……それだけのために、
    あなたはいろいろと尽くしてくれたのですか?」
中井出「だってつまらんよりは楽しいほうがいいじゃない?
    よしっと。そいじゃあ僕もうトリステインに戻るね?
    親子水入らず、まだまだ話したいことがあるでせう?」
ママン「……ええ。あまり長く引き止めるのも悪いわ。
    ミスタ・ヒロミツ。本当に、ありがとう」
中井出「その呼び方やめてくれません?
    僕ただの平民だから、貴族っぽく呼ばれてるみたいで嫌だ」

 平民という言葉にピタリとママンが止まる。
 しかしにこりと笑うと仰った。

ママン「呆れた人」

 それがどういう意味かは解らんが、傍に居たシャルの頭を撫でると、小さくなにかをお呟きめされた。……ここが草原だったら、なんて言ってたかを草花がリレーで伝えてくれたんだけどね。

タバサ「……好意じゃない。憧れ」
中井出「?」

 部屋を出る前にそがぁなことが聞こえたんだけど、コーイ? アコガレ?
 こうい……こうい…………高位? おお、まるでこの博光が高位なる平民に見えたと!?
 グレート! 実にグレートだ!
 この博光が高位なるただの平民に憧れていることが、よもやバレバレだったとは!
 ちなみに高位なる平民ってのは、貴族になぞならずに日々を精一杯生きる者のことです。
 地を育み草花を育み糧を育み子を育む。
 踏ん反り返っているだけではなく、ちっぽけな村だろうが精一杯に一日を生きる……そんな至高と究極に、僕は至りたい。


───……。


 さて、せっかくの帰省なのでとシャルと褐色さんを置いてきた僕ですが、戻ってみればいろいろありました。

ルイズ「わたしがっ……わたしがっ、貴族のわたしがっ!
    よよよよよよりにもよって犬なんかに色目使って泣きついてころころした猫撫で声
    でサイトサイトぉなんてうがががががぁああああああああっ!!!!」
才人 「おちっ、おちつけっいや落ち着いてくださいルイズさま!
    俺なにもしてないし何言われたって適当にはぐらかしてたし!
    ていうか記憶が残ってるなら覚えてるだろ!?
    俺ほんとになんにもしてないって!」
ルイズ「ええそうね……ものの見事になんにもしなかったわ……。
    わたしが、このわたしがあれほどの醜態を見せても手を伸ばしもしないでここここ
    ここここの犬ったら……! 手を伸ばせば無理矢理にでもあんたが襲いかかったと
    かそういう難癖つけられたのにどこまでご主人様を愚弄すれば……!」
才人 「怒りの矛先が異常なんですが!? や、ちょっ……待てっ!
    まだモンモンが居るんだぞ!? ヒロラインの力を使えば提督に迷惑が───!」
ルイズ「知ったことじゃないわよ!
    今すぐあんたをぶちのめさないと気が済ま《ベゴキャア!》げひゅんっ!?」

 なにやら物騒なことになっていたので、首を折って気絶させました。
 なんか……うん、だめだねこの桃さん。
 まずは精神から鍛えてやらないと、我慢強さってものがまるでない。
 これでよく才人のことを犬とか呼べたもんだ……これじゃあキミは破壊好きの魔法馬鹿ではござんせんか。
 ……一度マクスウェルのじーさんのところにでも送るかなぁ。

モンモランシー「ちょちょちょちょっと! 今すごい音が鳴ったわよ!?」
中井出    「大丈夫大丈夫。ほぅら、首はもう治ってるし、気絶しているだけ。
        ここでこうして背中をトスと押せば、」
ルイズ    「オクレ兄さぁーーーーん!!」
中井出    「このように元気な声がっ!」
才人     「腹話術するにも、もう少し気の利いた声だそうぜ提督……」
中井出    「うん……なんかごめん……」

 とまあこんなことがありましたが、僕らは元気です。
 ……つーかこの世界、どこをどうすりゃ終わるんだろ。
 やっぱり何処かの国に世界を握らせるとか?
 恋姫の世界は…………いろいろあったからなぁ。
 あ、じゃあもしかしてクロムウェルってのを倒せば終わり?
 …………まあいいか、当分の目標はそれで。




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