14/アンドバリの指輪

【中井出博光/頑張りを認めてくれる人って、ありがたいよね】

 デーテーテケーテテーン♪

中井出「ごぉーらんよぉー、あおーぞらーがーわーらあてーいるー!
    ガァーーーハハハハ!! ウェヒェーーーハハハハハ!! ウハハハハハ!!」
ルイズ「今すぐ黙って」
中井出「ソ、ソーリー」

 訪れた夜、ルイズ部屋。
 首を折って気絶させたルイズが目を覚ました。
 それはよかったのですが、モノスゲー不機嫌です。
 原因は首を折ったこと……でもあるのだが、それは自業自得。
 それよりも、自分がゼロではないことを誰かに見せ付けたかったようだ。
 モンモランシーが居たしね、プチファイアでも出して驚かせたかったんだろう。
 でもそれを邪魔された。それで苛立っておるわけです。

中井出「でもねルイズ、見せびらかすために渡したんじゃないよ? それは解って?」
ルイズ「わかってるわよそんなことっ」
中井出「いんや解ってない。だったらなんで怒ったか。
    なにか、怒りを才人にぶつけられなくて怒ってるか」
ルイズ「そ、それは……っ」

 現在は魔法学院女子寮のルイズ部屋。
 ひと悶着があったものの、今は静かなもんです。

中井出「少しずつでいいからさ、その刺々しい性格をなんとかおし。
    見栄張るのが貴族じゃないんでしょ?」
ルイズ「うぅ……」
中井出「ルイズは努力家さんです。それは僕も認める。
    でもね、努力家だからって、
    力を手に入れたら見せびらかしていいってことにゃあならんの。
    必要な時には迷わず使いなさい。でも、それはあくまでヒロラインの力。
    キミが見せびらかして使うのは、確かにもはやキミの勝手だ。
    でもいつか僕が帰ったあと、キミの手元にはネックレスがない。
    キミはその先でどんな言葉を、魔法を見せてきた人達に言うか」
ルイズ「───! あ……」
中井出「うす。そこでそんな顔が出来るなら、ルイズはきっと間違わんよ。
    貴族は嫌いだが、努力家さんは好きだ。
    すぐに暴力と権力を振るう性格を直せば、
    キミはもっとステキなレイディーになれるよ。
    他の誰に嫌われることも、そうそう無くなる。いいことだらけさ」
ルイズ「《なでなで》………」

 言葉の最後に頭を撫でる。
 払われるかと思ったが、よっぽど反省してくれたのか、黙って撫でられたままにコクリと頷いた。
 あらやだ可愛い。……っとと、いかんいかん。
 素直なもんだからつい甘やかしたくなってしまった。

中井出「つーわけで、どうしようか。暇だ」
ルイズ「あっ……その。ま、魔法……っ」
中井出「ぬ? どした?」
ルイズ「ま、魔法……! ヒロラインの魔法、教えて……?」
中井出「ふむん。たしかに我がヒロライン、
    詠唱さえ知ってりゃ低いレベルでも古代魔法でもなんでも使用可能。
    TPさえありゃどんな魔法も簡単発動だが、つまりTPが無いと出せん。
    今の嬢のTPだと…………」

 調べる発動。TPは……72。HPも72。
 ……なんだろ、72って数字に悪意を感じる。

中井出「よーしよしよし、じゃあまずは基礎練習だ」
ルイズ「散々やったわ。プチファイアとファーストエイド以外を使いたいの」
中井出「いやいや、そうじゃないって。
    いいか? まずは……こう、胸の前で軽く開いた両手を近づける」
ルイズ「ん……こうね?」

 言ったことを素直に実行。
 ……気の所為かもしれんけど、アルビオンから帰ってきてからは、多少は俺の言うことを受け取ってくれるようになった。あくまで多少。

中井出「で、プチファイアのイメージを両手に集める。もちろん詠唱はきちんとする。
    でも放っちゃだめ。魔力を両手の間に溜める感じで、ジワジワと」
ルイズ「ん、ん……んん……」

 ちなみに才人はヒロライン内だ。
 レゾンデートルで一刀と一緒に冒険中だと思う。
 シエスタも今は初心者修練場か、既に広大なるフェルダールの大地を旅していることだろう。ジョニーをオトモにしてるから、滅多にゃ死なんだろう。

中井出「おっ、よしよしその調子。一発でそれが出来るなんて、やっぱお前スゲーよ」
ルイズ「えっ……ほ、ほんとにっ?」
中井出「うむ。とりあえず姫ちゃんは失敗してた。
    指痛めてウェールズに泣きついたから、とりあえず引き剥がして正座させたけど」
ルイズ「ひ、姫さま……はぁあ。あのね、あんた誰を相手にそんなことしてるか……って、
    あんたに言っても無駄だったわね……」

 皮肉を混ぜた物言いに、俺はニッコリ笑って頭を撫でてやる。
 わぷぷっと今度は嫌がるルイズだったが、その心の揺らめきの所為で魔法までもが揺れると、それを慌てて調整する。

中井出「そそ。どんな時でも慌てるな。……いいか? お前は凄いやつだ。
    散々怒ったりしたけど、それはお前が慢心して道を踏み外さないためのことだ。
    俺は貴族が本当に嫌いだ。冗談でもなんでもなく人を見下すヤツが嫌いだ。
    魔法が使えなければ、糧を育む平民よりも下なのに偉そうなヤツが嫌いだ」
ルイズ「う、うん……」
中井出「でもさ、お前はきっと変わっていけるよ。
    自覚してないだろーけど、お前は才人と会ってから変わってきてる」
ルイズ「なっ、なんであいつがっ」
中井出「なあルイズ。前にも才人が言ってたけどさ。
    お前、本来なら才人に殴られても蹴られても文句言えない立場だぞ?
    急に知らない場所に飛ばされて、契約させられて、使い魔扱いで。
    蹴るし殴るし叩くし、見下すし怒るし突き放すし。
    あいつにだって家族が居る。帰りたい故郷がある。
    でもお前は返すことが出来ないって言葉をあっさり言った。
    それでもさ、あいつはお前を守るって言った。そんな言葉、フツーは言えねーよ」

 俺だったら絶対にごめんだ、と続ける。
 ルイズが構える魔法の光が激しく揺れた。

中井出「もし召喚されたヤツが才人じゃなくて、
    ガラの悪いヤツだったら……お前、ヘタすると刺されて死んでるって解ってる?」
ルイズ「な、なんで───」
中井出「ひとつ。家族を置き去りにして連れてこられて、怒らないヤツは居ない。
    ひとつ。にも係わらずほぼ奴隷扱い。これは残された家族だって激怒する。
    ひとつ。使い魔だからって理由で、ほとんど話も聞かん。
    ひとつ。奴隷扱いの延長だけど、養うことを脅迫条件に使ってる。
    ほれ、自分がやられて嬉しいものがあったら否定してみなさい」
ルイズ「………」

 はい、と促してみると、ルイズは顔を真っ青にして震えていた。
 魔法の光は強風に煽られる蝋燭の火のように、ボボボッと揺れている。

ルイズ「わ、わたしサイトにひどいこと……」
中井出「それでも才人はお前を守るために頑張ってる。大事に想われてる証拠だ。
    お前は間違い無く、いいパートナーを召喚したってことだよ」
ルイズ「パートナー?」
中井出「そ。使い魔は下僕じゃなくてパートナーだよ。
    なにせ、一生をともに過ごす相手だろ?
    お前がどう思っていようが、
    才人は少なくともあと10年はお前と一緒に居る決心を抱いてる。
    日食が出るのが十年後っつーからね」
ルイズ「………」
中井出「なぁルイズ。才人のこと、好きか?」
ルイズ「ふやわっ……!? な、なななななななにを急に言い出してるのよ!
    なひゃっ……にゃんでわたしっがっ、がががっ……!」

 ……その反応だけで十分だよ。
 本当に好きなのかは別にしても、惹かれ始めてるのは間違いない。
 うーん、ラブコメだ。いや、コメはいらんか。

中井出「恋の応援ほど面倒なものはねーから応援はせん。
    だが、もちろん邪魔もせん。お前の感情が恋だろうとそうでなかろうと、
    お前は素直な気持ちで才人にぶつかっていきなさい。
    素直じゃない心でぶつかって、傷つくことになっても俺ゃ知らん」
ルイズ「…………。……無理よ。だってわたし、かわいくないもん。
    サイトも言ってた。“可愛くねぇ”って。
    その時ね、目の前が真っ暗になった気がした。
    でもね、その時、自分でいられたのはプライドがあったからよ。
    なかったらきっと泣いてた」
中井出「そうなん?」
ルイズ「そうよ」

 きっぱり言う。
 そして少し考えたのち、俺の目を真っ直ぐに見て仰った。

ルイズ「…………わたしね、あんたの目、大嫌い。
    わたしを睨む目も、時々ちぃ姉様みたいにやさしい目になる時も。
    見透かしたような、解ってるって目がすごく嫌い」

 ひでぇ言われ様ですね。
 や、僕のほうがルイズに言いたい放題だから、べつにいいんだけどね?
 しかしちぃ姉様か。カトレアのことだよね? 猛者知識としてしか知らんし、その経由で病気を患っていることくらいしか知らんけど。
 シャルのママンは助けたから、今度はカトレアさん救出作戦だね。
 家に行くイベントとかあったりするのかな。

ルイズ「あんたもわたしのこと嫌いでしょ?」
中井出「偉そうにすることしか出来ないお前は大嫌い。努力するお前は好き。
    手を伸ばそうとするお前は好き。差し伸べられた手をプライドで叩くお前は嫌い。
    魔法にこだわるなとは言わんよ。お前はお前に出来ることをやれ。
    才人は帰れない可能性の方が高いこの世界で、
    きちんと立ってお前を守るって決めた。自分のやれることの全てがそれだ。
    じゃあお前は何が出来る? お前のことを一生懸命に考えてくれる男のために、
    お前が出来ることって、やりたいことってなんだ?」
ルイズ「………………」
中井出「俺はね、それがたとえ使い魔を躾けることだとか、
    下僕を叩くことって言ってももう怒らん。お前の人生だから、仕方ない。
    ……でもな、せめてこれだけは解ってやってくれ。
    その決断はあいつの人生をブチ壊す。
    既に十年不自由が約束された人生を、さらに壊す。
    ───……まあ、もちろんお前に罪はないよな。
    コントラクトサーヴァントで召喚された才人が悪いって言っちまえば、
    貴族のみんなは絶対に笑って納得するよ」
ルイズ「……そう思うなら、なんで怒らないなんて言えるの?」
中井出「簡単だよ。絶望した相手に怒ったってしょうがあんめーよ。時間の無駄だ」
ルイズ「…………そっか。それも、そうね」

 魔法の光が揺れる。ゆらゆら、ゆらゆら。
 けれどそれもやがては治まり、球体となって宙にとどまる。

中井出「おっしゃ。覚悟、決まった?」
ルイズ「……わたしね、やっぱりあんたのこと嫌い」
中井出「おう。俺も嫌いだ」
ルイズ「でもね、解ったの。嫌えるってことは、まだ相手に感心を持ててるってこと。
    そんな感心さえも持たれないのは……うん。とてもとても悲しい。
    嫌いなあんた相手でもそう思うんだもの。
    大事な人と離れ離れになるのはとても悲しいことよね。
    それでもサイトは……守ってくれるって言ったんだから」

 魔法の光がポンッと音を立てて消える。
 ルイズはふぅと息を吐いて、すっからかんになったTPが自然回復するのを待った。

ルイズ「パートナーね。いい響きだわ。ご主人様よりもよっぽど近いじゃない。
    なんでそんなことに気づかなかったんだろ。
    目にもなってくれないし秘薬も集められない。
    でも守ってくれはするなら……近くなきゃいけないんだもの、仕方ないわよね?」
中井出「おうさ、仕方ないね」

 くすくすと笑う。
 あらいやだ、マジで可愛いんですけどこのお子。
 なんだか吹っ切れたような顔してらっしゃるし。

ルイズ「ねぇヒロミツ。わたし気分がいいの。どうしてだかわかる?」
中井出「自分で答えを出せたからだろ?
    お前の“貴族然”って、偉そうな人の真似そのものだったもん」

 そんな吹っ切れ顔にきっぱり言ってやる。ルイズはそれを聞いて少しムッとしたが、溜め息を吐くとそれを認めた。

ルイズ「偉い親を持つと大変なの。
    魔法が使えないってことで勝手にがっかりされるし、
    使用人にまで見下されたことがあるわ。夢の中、見たでしょ?」
中井出「あれか。まあ、周囲が魔法のプロヘッソナルな状況ならやさぐれる気持ちも解る」
ルイズ「解るわけないじゃない、あんた、魔法使いたい放題だし。
    サーヴァントもたくさん持ってるじゃない」

 解ったフリなんていいわよ、なんて、やっぱりムスっとした顔で言われる。
 しかしやはり待ったはかける。

中井出「事実だよ。俺自身は魔法を一切使えない。
    あーと、ほら。インテリジェンスソード、あったろ?
    あれと似たようなもんで───俺自身に魔法がなくても武具に魔法が備わってて、
    俺はそれを使わせてもらってるだけなんだ」
ルイズ「……うそよ。前にも聞いたけど、
    それだったら魔法が使えるようになるマジックアイテムなんて、
    持ってるわけがないじゃない」
中井出「うそなもんかい。俺、こう見えてもガキの頃は虐められっこだったんだぞ?
    才能も無い。家族も居ない。成績は不優秀、運動もダメ。
    イジメに抗う力もなかった。ゼロってやつだ」
ルイズ「…………それ、同情からの嘘でしょ。やめてよ、せっかく前向きになってるのに」
中井出「嘘では───あー……そだな。胸の内抉ったって解決なんてしねーや。
    不幸自慢してーわけでもないもんね。そだね、今のは冗談だ、忘れてくれ」

 ルイズの言葉に思い直して、話を中断する。
 信じる信じないはルイズに一任するつもりだったから、同情だと感じたなら同情だ。
 そして、二度と語ることもないザンショ。

中井出「じゃ、魔法の続きな。さっき作った球体を、今度は棒状にしてみるんだ」
ルイズ「え? そ、そんなことできるの?」
中井出「基礎練習基礎練習。魔法のカタチを様々なものに変えてこその魔法ぞ」
ルイズ「わかったわよ」

 魔法の球体を作る。
 そこから集中して、そぉおおっとカタチを変えようとするルイズ。
 しかし部分的に焦ってしまったのか、魔法の光がパンッと破裂する。

ルイズ「難しいわ」
中井出「大丈夫! キミならできる!」
ルイズ「…………ほんと?」
中井出「ああ! 大丈夫! キミならできる!」
ルイズ「そ……そうよね、わたしなら出来るわよね。……うん、できる」

 ? なにやら少し頬を染め、こくこくと頷いてらっしゃる。
 ホワイ? 頬を染める要素が今の会話のどこに?
 不思議に思ったので、藍田くんの意思に質問してみました。

藍田 (そりゃ提督てめぇ、あれだ。
    ルイズ嬢が言われてた言葉を思い出せば、答えは出るだろ)
中井出(ゼロを越える者は……ゼロしか居ない《テコーン♪》)
藍田 (そうじゃねーだろタコ! 無駄に歯ぁ光らせんな!)
中井出(タコ!? なんてストレートな! タコに失礼だろうが!)
藍田 (それでいいのかよ提督! って、あーほら、あれだってあれあれ。
    ルイズが魔法を使おうとするたび、周りのやつらはなんて言ってた?)
中井出(……やめろ、無駄だ、また爆発する、ゼロのルイズ、とか?)
藍田 (そうそうそれだ。だからさ、真っ直ぐに応援されたことなんて、
    きっと数えられる程度しかないんじゃないか?
    しかもきちんと“キミなら出来る”って、ルイズとしての認識を強調してまで)
中井出(なんと!? しまった!
    才人に言わせておけば好感度UPだったかもしれないのに!)
藍田 (恋愛面でそういう打算的な考えやめろって……そういうの提督だって嫌いだろ?)
中井出(うん嫌い)

 なるほど、それは確かにいかん。
 そしてさらになるほど、ルイズは喜んでおったのか。
 ……うむ、なんか少しやさしい気持ちになれた。
 お礼にみっちりと魔法を教えましょう、ぞ。


【SIDE】  一方その頃。  二人の男女が城を抜け出し、ある場所を目指し、駆けていた。  表情は笑顔。  子供が、いけないと解っていても悪いことを二人でやり、笑っているような顔だった。 「夜に女王が城を抜け出すなんて、前代未聞だね」 「あら。受け入れてくださったのは貴方でしょう」  二人して笑う。  夜に身を隠すように駆け、時には魔法で空を飛び、見張りをしている兵に向けて空から謝った。そんなことをしながら降り立った、夜の城下町。  アンリエッタとウェールズは、その暗がりを、二つの月明かりを頼りに歩いた。 「わたくし、夜の城下の顔など知りもしませんでした」 「うん、私もだ。いろいろと腹の中には溜めていても、親や臣下の期待は裏切りきれないものだね。そんなことを、たった今ここで知ることになるなんて」 「ふふっ、まったくです」  姿は平民のそれに近く、パッと見た程度で二人が国の重要人物だと理解出来る者は居ないだろう。  既に就寝時刻。  見回りだろうとも、果たして誰が恐れ多くも女王の寝室を覗き見るというのか。  そういう事実も含め、二人はくすくすと笑っていた。 「さ、アン」 「ええ、ウェールズ」  手を握り合う。  向かう先はラグドリアン湖。  ナビチャットを介して知ったことだが、今日は自分の親友がいろいろあって、ラグドリアン湖まで行ったのだという。それを知ったアンリエッタは、仕事の途中にも係わらずウェールズを呼び出し、己の気持ちを恥じることなく打ち明けた。  誓約の水精霊と呼ばれている水の精霊の前で誓うこと。  それは、変わらぬなにかへ想いを託す行為という伝えがあった。  人が人として目まぐるしく代を替える中、水精霊は姿を替えず、そこに在る。  だからこそ、人はその精霊に変わらぬなにかを祈りたくなった。  ゆえに、誓約の水精霊。  この二人もまた、幼き日に精霊を前にし、誓ったことがある。  ともに、永久に愛すること。  アンリエッタにしてみれば、それだけを頼りに今日までを生きてきたと断言できるほど。 「うふふっ、でも、悪いことをしているというのに。どうしても笑ってしまうわ」 「期待に応えねばと胸を張りすぎていたのかもしれない。これは、彼に感謝かな」  二人の頭の中に、一人の無礼な平民の顔が浮かぶ。  が、二人の表情は緩んだままだった。  そういえばと、ふと気になっていたことがあるのを思い出す。  ルイズ・フランソワーズ。彼女の大切なおともだちが言っていたこと。  “アンドバリの指輪”。  死者に偽りの生命を与え、意のままに操るもの。  もし知っていたら、情報を得たなら教えてほしいと言っていた。  オリバー・クロムウェルという名前も一緒に聞いたが、彼が持っているとなると手に入れるのは難しい。  しかし彼女や彼女の使い魔さん、そしてヒロミツさんにはお世話になりっぱなしだ。  ならば報いねばと、彼女は少し張り切りながらも、今はこの夜の散歩を楽しんだ。 「見て、ウェールズ。空が綺麗」 「ああ。綺麗だ」  見上げる空には二つの月。  寄り添うように存在する月は、いつか衝突するのではと思うくらいに近しい。しかし変わらずそこにあり、引力というものは存在しないのだろうかと、誰かしらツッコミはいれたであろうもの。  二人寄り添い、秘密裏に手配しておいた馬を探し、歩く。城下の先、つまり町の出入り口に待機させている手筈だったのだが、おかしなことに見当たらない。 「……? 妙だな」 「まさか、マザリーニに気づかれたのでしょうか」 「う……ありえるかもしれない」  ウェールズは、彼には珍しく少し戸惑いの声をあげる。  いつでも凛々しき紳士たれ、と言われるような者の代表といった風情を幼き日から見につけていた彼にとって、そんな姿を見せるのはアンリエッタの前くらいだろう。  しかしそれにしても妙なのだ。  静か過ぎる。  もし枢機卿マザリーニにバレているのだとすれば、もうとっくに……出入り口に差し掛かった時点で、そこで彼は待っているだろう。  しかし見渡してみても枢機卿はおらず、気味の悪い静けさだけがその場を支配していた。 「もしや、頼んだ相手が寝過ごしてしまったかな?」 「まさか! アニエスは信頼できる者です。ワルド子爵ほどの方が裏切ってしまう中で、彼女には平民ながらもシュヴァリエの称号を授けているのですよ? そんな彼女が言いつけよりも睡魔に負けてしまうなど、よほどのことがない限り───」 「はは、そうか、彼女に頼んだのか。なるほど、それなら間違いはないね。けれど、では何故彼女は居ないのだろう」  もう一度辺りを見渡す。  しかし人の姿は見えない───代わりに、壁の後ろに隠されるように転がる麻袋のようなものが目に入った。 「?」  いや、袋にしては大きい。  詰まれているには小さく、近寄れば近寄るほど妙であるそれは─── 「───」  絶命していた。  もはや吐息も漏らさぬ二頭の馬が転がっており、他の王族に比べれば間近で死を見たウェールズも、軽く息を引き攣らせ、距離を取る。  その光景にアンリエッタが首を傾げ、近寄ろうとするが……当然それは押し留めた。  その時だ。  どこからか乾いた音が聞こえた。  それから、耳を澄ませば罵声も。  これにはアンリエッタも気づいたようで、顔を見合わせてから頷き、音が聞こえた方へと駆けていった。 ───……。  そこには、屍があった。  ただし屍であるはずのそれは動き、集団で一人の女性を襲っている。  乾いた音の正体は剣と剣がぶつかり合う音であり、襲われている女性は、馬を連れてくるように指示された者、アニエスだった。 「アニエス!?」 「っ!? 陛下!? 来てはなりません!」 「アニエス、なにをしているのっ!? 彼らは同じ隊の───」  アニエスと呼ばれた女性騎士の周りに、群がるように存在する兵士たち。  彼らは流れる動きでアニエスに襲い掛かり、存分にその刃を振るう。  だがその悉くがアニエスの剣によって弾かれ、反撃で腕を斬られるも、気にした様子もないままに反撃にかかる。 「……!? これは……!?」 「プリンス・オブ・ウェールズ! 陛下を連れ、早く城へ!」 「下がりなさい! 貴方達! 何故アニエスを襲うのです!」  アンリエッタが女王として声を放つ。  だが、それを聞いても兵達が止まる様子など微塵もない。 「命令です! 聞こえないのですか!!」 「っ……無駄です、陛下! 彼らはもう、既に死んでいるのです!」 「───……、……え?」  暗闇に目が慣れてくる。  いや、嫌な予感など最初からしていた。  目などとっくに慣れているはずなのに、彼女は最初からアニエスしか見ようとしなかったのだ。だがその目が、アニエスの言葉を確認するために動くと……アンリエッタは小さく悲鳴を飲みこんだ。  一人は喉がバックリと裂かれていた。  一人は心臓部分に大きな血の染み。  一人は腕が落とされていて。  一人は目を失っていた。  だが、動いている。  痛みを感じている様子もなく、動いていた。 「あ……」  そんな光景を前に、頭の中に名前が浮かんだ。  アンドバリの指輪。   死者に偽りの生を与え、意のままに───  では。  ではこれは、オリバー・クロムウェルの……!?  歯噛みし、しかしすぐに意識を切り替える。  杖を取り出し、詠唱、発動。  元々、兵であった者のカタチを水の魔法で吹き飛ばすが、吹き飛んでもむくりと起き上がり、生前と変わらぬ動きで襲いかかってくる。  水ではだめだ。  そう思うより先に、隣から風の魔法。  ウィンディ・アイシクルが放たれ、兵の体を貫く。  胸に、腹に風穴が空いた。  しかしそれでも、メキョメキョと気色の悪い、砕けた骨が歪み、突き刺さる音を立てながらも兵だったものは起き上がる。  風でも、だめだった。 「!?」  魔法というものに自信を持っているからこその動揺は強く、ぼうっとしている間にゾンビは迫っていた。もはや兵とは呼べないそれは、アンリエッタとウェールズへと襲い掛かり、ようやく反応を示したアンリエッタとウェールズを攻撃。  咄嗟に避けることが出来たが、拍子に杖を叩き落とされてしまった。 「くっ!」 「っ……」  同時に己の失態に舌打ちをしたい気分になる。  だが敵は待ってはくれない。  ゾンビと呼ぶにはあまりに人間味のある、素早く鍛えられた兵士然とした動きを前に、 「はぁぁああっ!!」 「《ガゴゴキャァンッ!!》アギッ……!?」  流れるような連撃を叩き込んだ。  右足で素早く両膝の皿を砕き、崩れ落ちたその顔面に蹴り。  目を完全に潰し、物理的に動けなくした。  ふぅ、と息を吐いた彼女は、ぽかんと固まるアニエスへとにこりと笑ってみせた。  隣に立つウェールズもいつの間にか剣を握り、ゾンビの足の筋を切断。倒れたソレの首筋に剣を突き立て、脳からの指令の一切を遮断した。 「なるほど。杖を落とした時の対処法を習ってなかったらと思うと、ぞっとするよ」 「ゾンビとの戦闘経験が無ければ、とも考えると、余計にですわ」  拳を構える女王陛下と、剣を構える皇太子。  アニエスは視線の先の光景をマボロシかなにかだと信じたかったが、群がる兵を次々とブチノメしてゆく二人を見て、もちろん己も襲われていることもあり、やがて考えるのをやめた。  だがそうして全てを倒してみせても、うごけなくなったわけではないのか起き上がり、ゾンビどもは三人を狙い、歩いた。  筋が切れた足がメキベキと崩れても、砕けた骨が皮膚を突き破ろうとも。  意のままに操るとはよく言ったものだ。  ならば炎ではどうかと思い、彼女はナビネックレスを用い、───炎のメイジがおともだちに居ないことを思い出し、少し泣きたくなった。 「迷うことはないよ、アン。彼に頼もう」  ならばと、ウェールズが誰かさんへメールを送信。  あとは返事が来るのを待つだけだとばかりに、のろのろと動くそれらから距離をとった。
 ───ピピンッ♪ 中井出「オウ?」  プチファイアの密集昇華魔法、ファイアボールを会得したルイズが、きらっきら輝く目で“次はっ? ねぇ、次はっ!?”と次の魔法を催促する中で、僕のもとへとメールが届く。  差出人は……ウェールズ。 中井出「なんだろね?」  “じゃあ次はアイシクルなー?”とルイズを宥めつつ、メールを確認。  すると……   “アンデッドに襲われている。アンも一緒だ。水や風では敵わない。助けて欲しい”  と、簡潔に纏められた文章が。  なんと! 城に乗り込むとは中々やりおるわ!  つーかアンデッド!? アンデッドっつーことは……もしやクロムウェルが!? 中井出「よ〜しルイズ、まずは心を凍てつかせるイメージで、こう唱えろ。     “凍てつく刃よ、アイシクル”」 ルイズ「うん、わかった」  魔法が上手くいったのが嬉しいのか、高揚したままに素直に頷いてくれる。  ……こんくらいが普通だったら、才人ももっとメロメロなんだろうに。 ルイズ「凍てつく刃よ……アイシクルっ!《ヒョキィンッ》ひゃうあっ!?」  唱えてみれば、ルイズが指差した指先に、ちっこいツララの先っちょ。  それがコトリと床に落ちた。それだけでもルイズは大燥ぎだ。 ルイズ「すごいすごいっ、わたし、やればできるっ!     ねぇヒロミツっ、できた! わたしできたわっ!」 中井出「よーしよしよしっ!     えらいぞっ! すごいぞっ! そうだ、やれば出来るんだよ!」 ルイズ「うんっ!」  ……ちなみに。  僕の視点がお送りする映像を、才人へと届けてみてましたわけですが。  才人が悶絶しました。彼もきっと僕と同じ気持ちでしょう。頭を撫で回してやりたいと。  ええ、僕は撫でてますが。  すっげぇいい笑顔です。努力が報われたお子の、眩しい笑顔です。  こりゃあやばい。愛でたくなる。  しかし今はそれどころじゃねーのです。  なので、ファイアボールの要領で、溜めるみたいに応用してみなさいと助言。  あとはちょっと用事があるからこれでと言って、颯爽と部屋を抜け出してレッツ転移!! ───……。  キィンッ───ズシャアッ!! 中井出「ィヤッフゥッ!!」  ウォーマシンチックに登場!  すると僕を歓迎してくれた数人の───ゾンビ! うおお嬉しくねぇ!! 中井出「ウェールズ! 姫ちゃん! これ何事!?」  言いつつヤクザキックでゾンビを蹴り飛ばした。  するとどうでしょう、倒れたこいつや他のやつら、どっかで見たような格好をしてる。  あれ? これって…… ウェールズ 「アニエスくんから聞いた話だが、        外で私達を待っていた時に、一人の兵が刺され、殺されたらしい!        アニエスくんは刺した彼を斬ったそうなのだが、        死んだというのに起き上がり───!」 アンリエッタ「これは、つまり───」 中井出   「アンドバリの指輪……だよねぇ」  ゾンビが。恐らく兵士だったものたちが、のろのろと襲いかかってくる。  その中には見慣れない鎧を着た兵も。  恐らく最初からゾンビで、最初から使い捨て目的で寄越されたのだろう。  それが丁度、姫ちゃんとウェールズの逢引の時期と重なってしまったと。 中井出「はぁ。恋路を邪魔するなら馬ではなくこの博光が蹴りましょう。     ブレイブポッド発動! “アンデッド支配”!!」  使うのも久しい能力を発動!  意のままに操られているゾンビな皆様を操り返し、回復させ、元の姿まで再構築!  もちろん生き返らせるのは流儀に反するのでアンデッドのままですが、アンドバリ効果なのか腐る心配はなさそうだった。 ウェールズ 「ヒ、ヒロミツ? これはいったい……」 中井出   「アンデッド支配です。これでもはや彼らは僕の仲間。        さぁ貴様に質問です。        こんなことをやらかしたのはオリバー・クロムウェルで間違いなし?」 他国兵士  『ハイ……私ハ、ソノタメダケニ殺サレテ……』 アンリエッタ「そんな……なんてひどい」 他国兵士  『家族ガ、待ッテイル……帰ラナクテハ……帰……ラ……ナク、テハ……』 中井出   「無理です。キミ、もう死んでますから」 他国兵士  『…………ナゼ、コンナコト、ニ……。私ハ、間違ッテイタノカ……?』 中井出   「知らん」  こやつの人生を見たわけでも聞いたわけでもないし。  しっかし、こりゃまた…… 中井出   「あのさ、姫ちゃん? 秘密裏のデートは結構だけど、        ゾンビがものっそい居るんすけど……。        いったい何人で秘密裏に行動しようとしてたの?」 アンリエッタ「いえ、それはその、アニエス、が……」 アニエス  「当然です。二人だけで逢引など、もしもがあったら───!」 中井出   「そのもしもでモノスゲー数が死んでらっしゃるんですが……」 アニエス  「《ぐさり》ぐっ……!」 アンリエッタ「あの、ヒロミツさん」  姫ちゃんがこちらをジッと見る。  恐らくはなんとかして蘇らせることは? と言いたいんだろうーけどね。 中井出   「やだ。その信頼は誰からのものでも俺の軌道にゃ乗っからない」 アンリエッタ「……ですね。それは信頼とは別の、わがままというものですから」 ウェールズ 「だが、どうしても無理だろうか。        生きて恥を掻かされた私からの願いでも、だめだろうか」 中井出   「ウェ〜〜〜ェルズ。アンリエッタの前でアンリエッタ以外とキスできる?」 ウェールズ 「…………すまない。愚問だった」  信条ってものがあります。芯ってものがあります。  それを裏切っては、ここまでああまでして生きた意味が霞む。  そういうものを越えて生きているのだから、それは出来ない相談だ。 中井出「まあ、死んだけど意思が無いわけじゃないし……ふむ。     姫ちゃん、ウェールズ、固定化の魔法って出来る?」  この言葉で、この日以来、一つの隊が完成した。  その名も……不死者騎士隊(ゾンビーヌ)。  ひどい名前だが、意思を以って、死してなお生きた。フリをした。  支配して、言い聞かせる言葉は簡単だった。  普通に過ごせと。  敵国の利用された兵には、この国で働いて、家族に仕送りでもしてやれと。  姫ちゃんもウェールズも頷いてくれたし、それで段落はついた。 ───……。  さて。  そんなこんなで二悶着があったわけだが……俺とウェールズと姫ちゃん、そしてアニエスとかいうおなご剣士はラグドリアン湖に居た。  「馬ももう用意出来ません。走っても飛んでも間に合いませんわ」と言った姫ちゃんは、俺にデートのおねだりをしてきやがったのです。もうほんとドラえもん扱いだよ俺。  けどまあ応援はしないけど多少手伝う程度ならと、転移でひとっ飛び。  ラグドリアン湖まで一気に飛んで、アニエスを驚愕させながらも二人のデートを眺めた。 アニエス「貴方が話に聞いた“魔王”のヒロミツ殿か」 中井出 「え? あ、うん。僕博光。殿とかはいいよ、僕平民だし」 アニエス「平民? ……しかし魔法を」 中井出 「あれはマジックアイテムの恩恵。だから殿とかはご勘弁を。      姫ちゃんやウェールズとはただの友達なんだ、かしこまられても困るよ」 アニエス「……そうか。自己紹介が遅れてすまない。      私はアニエス。アニエス・シュバリエ・ド・ミラン」 中井出 「シュバリエ? なんと、騎士殿でござったか。これは失礼を」 アニエス「あ、いや、そちらこそかしこまらないでほしい。私は……私も平民の出だ。      たまたま功績を得て、騎士勲章を得たにすぎない」 中井出 「なんと」  平民でも騎士になれるんだ。初耳だ。  フムス。  姫ちゃんもウェールズも楽しんでるようだし、僕も少しアニエスロビーさんと話をしませう。といっても共通の話題なんて、それこそ姫ちゃんとウェールズのことだけなんだけどね。 ……。  それからしばらく話し込んでいると、些細なことで言い合いに発展。  言いたいことをガミガーミと言っても、姫ちゃんとウェールズは笑うだけだった。  アニエスさん、結構ガンコです。  これと決めたら譲らないところなんて、案外貴族っぽいですよ? アンリエッタ「あの。肝心なところが聞こえなかったので、        何をそんなに喧嘩のように言い合っているのかは存知ませんが、喧嘩は」 中井出   「だぁかぁらぁ! 姫ちゃんの鼻毛は絶対に赤《ドボォ!》ぐぉっほぉ!!」  見事なる氣の乗った脇腹崩拳であった。 中井出   「ゲッホガハゴホ! ななななにをするだァーーーーーーーッ!!」 アンリエッタ「そそそそれはこちらの台詞ですミスタ・ヒロミツ!!        あぁああああなたはいったい何を話して……!!」 中井出   「え? 鼻毛《ドボォ!!》ヴオォオッホォオ!!」  崩拳(再)。  なるほど、魔法を使わぬメイジがこれほど恐ろしいとは。 中井出   「あ、あのね姫ちゃん……!? 俺ゃ確かにキミに武術を教えたよ……?        でもそれはけっして、武力行使を容易にさせるためじゃなくてね……?」 アンリエッタ「ヒロミツさんがあんなことを言わなければ使う必要もありませんっ!!」 中井出   「あんなことって?」 アンリエッタ「えっ……そ、それは」 中井出   「なに? なんなの? ほら言って、言わなきゃわかんない」 アンリエッタ「そ、その、わたくしの」 中井出   「姫ちゃんの? 姫ちゃんのなに?」 アンリエッタ「わたくしの、は、はな……はな……!」 中井出   「なんなの! ほらお言い! あなたのどこの毛が赤いって!? ほら!        そこまで恥ずかしがるほどのどこの毛が赤いの!?」 アンリエッタ「〜〜〜〜〜〜っ……!!」 中井出   「ごらん諸君。これが鼻毛で真っ赤になる王の姿さ《ズパァン!》ゲボル!」  ビンタされました。 アンリエッタ「ヒ、ヒロミツさんっ! からかうのはもうおやめになって!」 中井出   「はっはっは、照れて真っ赤になったアンも可愛いなと、        きっとウェールズも思っているさ!」 アンリエッタ「きゃあ! ち、違うのウェールズ! これはヒロミツさんが!」 ウェールズ 「はははっ、いや、ありがとうヒロミツ。        お陰でいつかのように元気に喋るアンに会えたよ」 アンリエッタ「ウェールズ様!?《がーーーん!》」  思わず様とつけて呼ぶほどにショックだったらしい。  理解力と包容力のある、良いラヴァーズなのにね。 中井出   「あっはっはっは、姫ちゃんはかわいいなぁ。ま、ともかく。        これからいろいろと面倒があるだろうけど、がんばっていきんしゃい。        向こうから仕掛けてきたとなると、案外近いうちに面倒事が起こるやもだ」 ウェールズ 「そうだね。それだけは油断無く対処していかなければいけない」 アンリエッタ「いざとなればヒロミツさんのマントの中に───」 中井出   「俺はシャガクシャにはなりたくないから嫌ざんす。        オクビョーモンだからさ、俺。誰かの命を囲うとか、そういうの怖いの」 アンリエッタ「……それは。映像の中の“信頼”のこと、ですか?」 中井出   「まあ、うん。えーと《コリコリ》」  頭を掻く。  ついでに姫ちゃんの頭を撫でる。  剣を構えるアニエッスィー。宥めるウェールズ。  まあ、なんだ。  この世界で意識革命を狙ったってのはある。  高校デビューにも似た意識革命。  ようするに、信頼におびえるようになってしまった自分を変えたかった。  信じること、信じられることに怯えるようになってしまっていた俺は、怯える猫な自分から羽撃くコックローチになりたかったのだ。喩えがひどいけど飛びたかったのだ。  でも実際はひどいもんだ。  勝手に信じてくれと言った俺は、結局責任がついて回る信頼を恐れていた。  ……ままならんよなぁ、人の心って。 中井出「あいつらにゃあ好き勝手に利用してくれって言っておいて、     キミたちにゃあ言わんのはナゼだって話になるよな。     いや、もう散々利用されてるけど」  俺の言葉に顔を真っ赤にして、ペコペコと頭を下げる姫ちゃん。  とりあえず起き上がりこぼしな頭にチョップ。  王が簡単に頭下げてんじゃござんせん。いや、そんな王の態度、僕は好きだけどね?  でも一応アニエスが居るので示しはつけてもらわんと。 中井出「ヤハハ、気にしなさんな気にしなさんなァ。     俺が勝手に信頼しなさいって言ったんだし、俺は俺で好き勝手やるだけなんだ。     まあ俺の話なんていいからさ、それよりこれからのこと、考えよう」  「これからの?」と返された。  う、ううん、少し緊張感を持ってほしいような……いや、俺が言っても説得力ないか。 中井出  「あのさ、ほら。例のゾンB田中くん。       国境とか許可とかすっ飛ばしてトリスタニアに来たわけじゃないですか。       死人がだよ? 確かに喋れるようだけど、       どこぞに穴ァ空いた死人を気づかずに通す?」 ウェールズ「───つまり、内通者が」 中井出  「でしょう。そうなるとワルドの件もあるし、       地位の高いヤツが逆に怖くなってくるわけだけどね」 アニエス 「そんなことをしてなんの得がある。最悪今の地位を捨てることになるのに」 中井出  「失う確率よりも、手に入れる報酬の方が魅力的ってことでしょうさ。       ヘタすりゃトリステインを我がものに、って考えかもしれん」 アニエス 「なっ! ならば、まさか……!?」 ウェールズ「枢機卿マザリーニがそんなことをするとは思えない」 中井出  「じゃあ次に偉い人か、それくらいの権力のある者は?」  ぐぐっと、俺とアニエスとウェールズが姫ちゃんを見る。  姫ちゃんは考えるそぶりを見せて、そして───ハッとした。 ウェールズ 「アン? 心当たりが?」 アンリエッタ「いえ、心当たりというよりは、この者ならばと思う者が。        ただ……信じられません」 中井出   「で、誰?」 アンリエッタ「リッシュモン。高等法院の長です。        30年ほども王家に仕えてくれているお方ですわ」 中井出   「そやつが?」  こーとーほーいんってのがなんなのかはよく解らんが、王様よりも偉いムッツ……もとい、マザリーニ枢機卿のことを考えれば、それはとても偉い人なのでしょう。  偉いからこそ裏に手ぇ回せるんだろうが。 中井出   「でも、捕まえるにしても確定的に明らかな証拠がなきゃなぁ」 アンリエッタ「………」 中井出   「あ、ヤな予感」 アンリエッタ「そ、そう仰らないでくださいまし、ヒロミツさん。        あなたに断られたら、        わたくしが頼れるのはもうルイズ・フランソワーズだけなのです」 中井出   「ルイズかぁ」  今現在、目をきらきらさせて魔法の練習中。  そんな彼女に頼んだらどうなるでしょう。  新魔法を試しまくった挙句、街が燃える姿が思い浮かびました。  やべぇ。  でもまあそこは才人がフォローしてくれると信じよう。勝手に。 中井出   「あい解った! でもルイズも才人も一緒にってのが条件。        俺は変わらず無報酬でいいし」 アンリエッタ「あなたはまた……        わたくしに王としての然を振る舞わせてくださらないのですね」 中井出   「だってキミ、報酬っていったらやれ貴族だのジュバリエだのなんだのって。        俺は俺のままがいいの。そういうのは全部才人にやってくれ」 ウェールズ 「欲の無い人だ、まったく」 中井出   「欲ならめちゃくちゃございますわい。        ただそれが、貴族や騎士になったからって手に入るものかっていったら、        そういうわけじゃないってだけなの」  ともかく解散。  追って後日、アンリエッタから使いのフクロウが飛ばされるらしいから、それを待って実行に移してほしいとのこと。  作戦内容もそこに書いておくというのだから文句もナッスィン。OK任せよう。 ───……。  それから幾日が経ちました。 中井出「ルネェーーッサァーーーンス! 情熱ー! 僕のこの手〜は〜♪     いつもーなにかー探しー! 燃ぉーえーてるゥー!《ゴォオオメラメラ……!》     …………うああっちゃぁあああああーーーーーーーーっ!!!」  いつも燃やすのは無理があると思います。  今日も有言実行。おはようございます、博光です。  そう、朝です。  今日もお空はピーカンさ。 中井出「素晴らしい〜汗を〜かこう〜♪ 汗をかくって素晴らしい〜♪」  そんなお天気の下、僕がなにをしているのかというと、洗濯をしています。  ジョヴァジョヴァ溢れる湧き水を利用して、やさしくやさしく。 中井出「親〜衛〜隊〜は〜、洗い残しし〜ない〜♪」  何故そんなことにといえば、まあちょいとありまして。  えーとね……ヒロライン内の三国構築段階で、マナが随分と削られました。  お陰でボロボロだった地盤も基盤も完成&復活を遂げたわけですが、マナがない。  なので、安定するまでは無茶が出来ず、こうして素手で洗っているわけです。  フェルダールの安定にもマナは使うからね、仕方ないのよ。 シルフィード『きゅいきゅいっ♪ お兄様、おはようなのね、るーるるー♪』 中井出   「むむ? おおイルククゥじゃないの。おはよーさんがりあ」 シルフィード『なめたらかんでぇ! なのね!』 中井出   「るーるるー♪」 シルフィード『るーるるー♪』  歌いながらの洗いものの最中、シャルの使い魔である風竜のシルフィードさんが寄ってきた。ええまあ、実際は風韻竜って種族の竜なもんで、喋ろうとすれば喋れる。  使い魔としての名前がシルフィードで、元の名前はイルククゥ。  自分のことはシルフィと呼んでいるようだ。  なんだかね、シャルのママンの一件以来、やたらと懐かれまして。 中井出   「むっ!? 人の気配だわ! イル、サイレント!」 シルフィード『任せるのね!』  まあそうは言っても魔法ではなく、ただ黙るだけでござんす。  と、少し経つと現れるシエスタさん。 シエスタ「あ、ヒロミツさん」 中井出 「やあ」  洗い物をして、水もしたたる右手を軽くあげて挨拶。  その隣では、シルフィードがきゅいきゅいと鳴いている。シエスタには解らんかもだが、おはようなのねと言ってらっしゃる。 シエスタ「言ってくだされば、わたしが洗濯しますよ?」 中井出 「ノォゥ! 確かに誓約書云々で専属使用人ってことにはなってますが、      あなたは自由なのです! だから僕を甘やかしてはいけません!      ……ところでこれ汚れ落ちねーんだけど、どうすりゃいいかな」 シエスタ「あ、これはちょっと染みこんじゃってますね。えっとですね、これは……」  全部を任せるのは断りつつも、教えを乞う……博光です。  いや、だってさ、こっちの世界にゃ地界とかの洗剤がないんだもの。  洗濯ひとつをとっても結構難しいもんですよ?  と、そんなことをしていると、退屈になったのかイルさんが俺の体に顔をごしごしと摺り寄せてくる。構え、と言いたいらしい。 中井出   「マッスルウォッシャー!」 シルフィード『《バッシャア!》きゅいっ!?』  なので、キャシャリン謹製マッスルウォッシャー!  するとよほどに驚いたのかバッと離れ、ぷるぷると水がかかった顔を振るうと…………睨むでもなく、きゃらんと表情を輝かせ、襲いかかってきた。   ゴヴァーーーン♪《イルククゥが襲いかかってきた!》  とりあえず話を───   だめだ話にならない! イルククゥはやる気だ!  やっぱりぃいいい!!  とか思っているうちにシルフィードは湧き水が溜まった部分へと口を突っ込むと、それを口に溜めて───まるでブレスでも吐くかのように水鉄砲を吐き出してくる! 中井出「《ズヴァアシャア!》ぐあああ!! お、おのれぇこの博光に水をかけるとは!     ならばこちらも───誠意を以って応えねばならんな!!」  霊章から、いつか晦が創造したミクキラー圧縮水鉄砲を取り出し、ひとつをシエスタに。  二つを僕が持ち、水かけっこをし始めた。 シルフィード『《ぶしー!》きゅいー!?』  ただのマッスルウォッシャーとは違い、なかなかの威力。   しかし竜種ともなるとくすぐったいとか、痒いところに丁度いい程度の威力のようで、シルフィードはむしろくすぐったそうに喜んでいた。  もちろん、最初は驚いていたようだったが。  そうして散々と騒ぎ続けた結果……着ている服も、乾かし途中だった洗濯物も水びたしになり、たまたま通りかかったミセス・シュヴルーズ先生に怒られました。 ……。  さてさて、それから服が乾くまでを適当に過ごした僕とシエスタは、離れようとしないシルフィードとともにこれからのことを話しておりました。  いえですね? これからしばらく夏季休暇ってのが始まるらしいんですわ。  だから学院に居ても暇だし、帰郷するならするで、もしよければタルブの村に遊びに来ませんかとシエスタに誘われまして。 中井出   「タルブかぁ。        自分で好き勝手に用意出来ない状況だし、ヨシェナヴェは是非食いたい」 シエスタ  「じゃあ、いきましょうよっ。        家族も出来ればヒロミツさんを連れてこいって言ってましたしっ」 シルフィード『きゅいっ!? それはだめなのね! お兄様はお姉様の家に行くのね!』 シエスタ  「…………え?」 中井出   「…………ばか」 シルフィード『……きゅいっ!?』  で、お馬鹿さんがシエスタの前で喋ってしまいまして。  韻竜っていうのは絶滅種らしく、その存在は明るみに出ることを種族間で禁止しておるくらいです。実際、イルククゥだってシャルに召喚されなきゃ会うこともなかったでしょう。  だから、韻竜と知られることは、自分の種を脅かすことに繋がる。  なのでこうしましょう。 中井出   「ほうら腹話術ー」 シルフィード『ダ、ダメナノネー、オニイサマハ、ダメナノネー』 シエスタ  「あ、なんだ。もう、ヒロミツさん? あまりからかわないでくださいっ」  笑顔で冗談だと受け止めてもらえた。  しゅんとするイルククゥの頭を撫でて、「話せないのが寂しいのは解るから」と言う。  すると、顔に自分の顔をごしごしと擦り付けてきて、舐めてきて、しまいにはガブリと噛んで……ヴァアアーーーーーッ!!! 猫とかもたまに舐めたあとに噛んだりするけど、それが竜種だとゴリって! ゴリリゴリゴリってルヴォアァアアーーーッ!!  あ、でも思うほど痛くないや。 中井出   「はっはっは、かわいいかわいい」 シルフィード『きゅいきゅいっ♪』  なので、噛まれようとも撫でることにした。  シエスタは驚いていたようだったけど、ムツギャローさんもびっくりのこの博光の動物友愛能力を前に、やはりくすくすと笑っていた。
【SIDE】  “はっはっは、かわいいかわいい” シャルロット「………………」  違う。ち、違う。  これは自分が言われているものではない。  違う。  本、本を読もう。  使い魔が見ている視界を繋げてみたが、これは失敗だった。猛省すべき。  本。  本……イーヴァルディの勇者。 シャルロット「………」  ぺらり、ぺらりと読んでゆく。  もう何度も読んだ。  勇者。  居たらいいのにと夢に見たことはある。  それは憧れであって好意ではない。  母さまはあの時、“がんばりなさい”と言ってくれた。  けれどそれはきっと勘違い。  シルフィードもそれに乗っかるように、彼に付き纏うようになった。  でもきっと勘違い。  ……“私が頼んで監視してもらっている”と思われたら、どうしてくれるのだろう。 シャルロット「………」  ぺらり。 シャルロット「………」  ぺらり。 シャルロット「………」  …………なにか失礼を働いていないだろうか。  もう一度だけ。  もう一度だけ“目”を繋げて───   “ふぅ、すっかり濡れてしもうたわい。水が渇いても唾液はどうにもならんわなぁ” シャルロット「───…………!?」  彼は、上半身裸だった。  どうしてか顔が熱くなり、即座に視界の回線を閉ざす。  そして窓を開けると口笛を吹き、しばらくして飛んできた使い魔の頭を、杖でポクポクと叩いた。 シルフィード『いたいいたい! きゅいきゅい! なんなのね!? なんなのね!?』 シャルロット「彼に、迷惑をかけてはいけない」 シルフィード『迷惑なんかじゃないのね。お兄様笑ってた。るーるる』 シャルロット『………』 シルフィード『それにいい匂いがするのね! 舐めるとくすぐったくなるの!        噛んでも笑ってたのね! シルフィかわいい! きゅいきゅいっ♪』 シャルロット「………」 シルフィード『《ボカボカボカ!》きゅいー!? なんで殴るの!? いたいいたい!』  とにかくだめだ。  散々お世話になった。  返しきれない恩がある。  自分ではどうにもできなかった母さまの心を救ってくれた。  そんな彼に迷惑をかけることなど出来るはずもない。  むしろこれからは自分が返すくらいでなくては、逆に失礼というものではないだろうか。 シャルロット「………」  頑張りなさいと母さまは言った。  どう頑張るかは私に任せる、ということだろうか。  よく解らない。  よく解らないけれど、なんとなく……彼の声が聞きたくなった。
 ぎゅううううバシャバシャ…… 中井出「FUUUUM、これでよしと」  シルフィードの唾液に塗れた服とシャツ、それから頭と顔を洗って、衣服を搾ってパァンと伸ばす。うむ! 柔軟剤は入れられんが、このすっきりとした洗い心地! 最強! シエスタ「それで、どうでしょう。      というか、ヒロミツさんは学院の授業に参加しているんですか?」 中井出 「んにゃ? 暇な時に混ぜてもらってるだけ。      教師連中には俺と才人、      どっちが使い魔だかはゴルベーザ先生に黙ってもらってる感じかな。      だから入り込んでも黙認されてる」 シエスタ「そうなんですか……」  よく両方とも追い出されませんねと言われて、確かにと頷く。  と、そんなことを考えていると、シルフィードが再びやってきた。  なんか急に飛んでいったと思ったら、どうしたんだろね。  ……って、あれ? なんか背中に乗ってない? つーかシャルじゃないのさ。 中井出「やあ」  モーニン、と手を挙げると、近くに降り立ったシルフィードからひらりと降りるシャル。  そしてなぜか服装などをちらちら見たり、マントの端なんかをぱたぱたと正したりしたあと、こちらへてこてこと歩いてきて、一言。 タバサ 「これから夏期休暇」 中井出 「そうみたいだな。やることなくてまいってたところさ。あ、でも───」 タバサ 「退屈なら、一緒に来て」 中井出 「シエスタがタルブの───え?」 シエスタ「!?」  口はへの字口。  目は眠たげなまま。  しかし頬あたりがなにやら赤い、白い肌のシャルちゃんが、杖を胸に抱いて俺を見上げながら仰る。 タバサ「帰郷する。母さまも、是非招待しなさいと」 中井出「そうなんか。ウムムー」  そういや夏季休暇って何日あるんだろ。  あれか? 日本のガッコの夏休みみたいに一ヶ月近くあるんか?  だったら別に、ガリア行ってタルブ行ってってのも出来るけど。 中井出 「ほいじゃあまずタルブ行って、そのあとにガリアってことでいいんかな?」 タバサ 「? なぜ?」 中井出 「先約が入ってイルノデス。シエスタに、タルブの村に遊びに来ないかって」 タバサ 「…………《じーーー……》」 シエスタ「はうっ……!?」  眠たげな目のまま、口を三角形にしたシャルがシエスタをじっと見つめる。  あれ? なんかシャルっちってば不機嫌? シエスタにいたっては、貴族に睨まれていると勘違いしているのか、びくびくしてらっしゃるし。 中井出「まあそんなわけだから、まずはタルブに行こう! あ、シャルも来れるよな?」 タバサ「? ……いいの?」 中井出「私は一向に構わんッッ!! ちなみに、ガリアにはシエスタを連れていきますが」  僕の言葉にビクーンと肩を弾かせるシエスタさん。  そんな彼女にメイドって名目ならへっちゃらさー!と言ってみせると、彼女はむしろやる気を見せていた。メイドって職業にプライドを持っておられるのですね。いいことです。  そんなこんなで夏季休暇での身の振り方が決まりました。  あれから姫ちゃんから連絡はこねーけど、来たら向かえばいいさね。  それまではヨシェナヴェパーティー&シャルママさん快復記念パーティーだわさー! ───……。  洗濯物が、良い風車日和のお陰でさっさと乾く頃。 ルイズ「汝を戒める凍てつく氷槍! フリジットランス!」  手の中で作ったツララを大きくし、カタチを変えて放つはルイズさん。  その氷の槍は壁に突き刺さると、しばらくしてから破裂。  そんな二度楽しめる効果が楽しいのか、ルイズは今日も上機嫌だった。 中井出「魔法の飲み込み早いねキミ……」 ルイズ「ふふん、勉強したもの」  次はっ? 次はっ? と、まるで子供のような輝く瞳で迫る嬢。  もはやそこに嫌味ったらしい貴族然はなく、だからこそ桃と呼ぶのをやめた僕の前で、彼女は今日も元気です。 中井出「じゃあ次はまた基礎ね」 ルイズ「わかったわっ」  基礎の大切さは既に叩き込み済みアマス。  フェルダール魔術に関しては、基礎を昇華させねば魔法論理の発展には繋がらん。  レベルアップすりゃあ覚える魔法も、基礎をしっかり学んで基礎昇華させれば、レベルアップで自動で覚えるものよりも威力に差が出るのだ。 ルイズ「ウィンド・カッター!」  杖を振るうと発生する風の刃。  ファイアーエムブレムのマリクさんのエクスカリバーのように、スッフィィンと飛翔し、的である木にぶら下げた板を切断した。 中井出「よし。今回の基礎鍛錬は、散ったマナを利用しての追加攻撃だ」 ルイズ「追加? そんなことができるの?」 中井出「うす。俺の知り合いがアホみたいに得意なヤツだ」  風魔法のあとの追加でやりやすいのはシルフカッターだっけ?  ともかく、コツを教えてみる。 中井出「さっきみたいにウィンドカッターで切った対象を狙う意識を保ったまま、     自分の中のTPは少ししか使わないで、散ったマナを繋げて魔法にする」 ルイズ「えと……つまり、使った魔法で消費したTPを、そのまま繋げて使うわけね?」 中井出「そうそう。だからえーと」  霊章からホギーの杖、ディスト・ディムスを召喚。  意思を引き出して魔法を放つと、意思に誘われるままにTPを解放。  するとウィンドカッターで切れた板が、さらに発生した集中鎌鼬によって微塵切りにされる。 ルイズ「……すごい」 中井出「あれがシルフカッター。昇華が上手くいけば、もっと強い追加魔法も出来る」 ルイズ「……!」  おもちゃを前にした子供の図です。  早く教えてと服を引っ張られるが、頭を撫でて宥めます。  焦らない焦らない、と言いつつ。  と、ここでフェルダールから連絡が。 中井出「もしもし?」 声  『あぁ博光? 少しいいかしら』 中井出「ありゃま、華琳でねぇの」  華琳からでした。  基盤の完成を果たして、これからってところで話があるそうで。 声  『……というわけなのだけれど、それはこちらで好きにやっても構わないのね?』 中井出「うむ。存分にやってしまいなさい。出来るなら天下目指しても構わんよ?     竜種やモンスターに勝てる自信があるなら」 声  『ふふっ、誰に向かって言っているのかしら?』 中井出「おお強気。潰されんように頑張んなさい?     モンスターユニオンとかも頑張ってるところだろうし」 声  『まずはレベルの差をなんとかしなくてはね。休む暇もないわよ、まったく』 中井出「その割には楽しそうだけど?」 声  『察しなさい。それじゃあね』  ぶつりと一方的に切られた。  元気やね、彼女。 ルイズ「誰?」 中井出「俺の知り合い。それよりどう? 出来そう?」 ルイズ「わたしなら出来るわよ」 中井出「うむす、その意気アマス」  言って、ウィンドカッターを発射。  木に当たったのを確認すると、追加で詠唱を完成させてシルフカッターと言ってみるのだが、残念ながら散ったマナはそのまま消えてしまった。 ルイズ「うっ……成功したけど、TPが減ったわ……」 中井出「ふむ。まずはマナを感じるところからいったほうがいいか。     んじゃあこれをどうぞ」  霊章から取り出したメンタルリングをスポリと指に嵌めてやり、さらに然精霊の月桂冠を頭にすぽりと乗せる。 ルイズ「? なにこれ」 中井出「メンタルリング。TPが上がります。     で、頭のは然精霊の月桂冠。マナ感知を容易にします」 ルイズ「もらっていいの?」 中井出「あげません。貸すだけです。で、指に魔法を集中させて指パッチン」 ルイズ「えと、こう?《ぱちんっ》…………あ」 中井出「どう? 指の周りから何かが散るの、解った?」 ルイズ「……ちょっとだけ」  …………いや。べつに羨ましくないよ? 指パッチンくらい僕も《コシュッ》……。  べべべべつに悔しくないんだからねっ!?《ポッ》 中井出「OK。やっぱキミ、魔法に関しては結構感覚鋭いよ」 ルイズ「ほんと? ほんとに?」 中井出「うむ! でも慢心は敵だよ? 見下すよりもやさしい貴族になりなさい。     たとえばキミが憧れる人を思い浮かべてみて、そこに近付くために」 ルイズ「………」  こくりと頷いた。  それから指を何度か弾かせると、もう一度頷いてウィンドカッターを発射。  散ったマナを感知し、自分のTPと繋げるように─── ルイズ「風の檻にて汝を刻め! シルフカッター!」  詠唱、発動。  するとどうでしょう、散ったマナが少しだけ動き、そこから風の刃が発生する。  風の檻と言うだけあって、板を中心に鎌鼬の折が円形に発生。  板はさらに切り刻まれ、刻み方は荒いが、確かに木から落ちてズタズタになっていた。 ルイズ「…………できた」 中井出「うむ。ちと散ったマナの消費が少なかったけど、とりあえず成功だな。     ん、偉いぞぅ。やっぱりお前は凄いやつだ」 ルイズ「………うん」  頭を撫でると、もういい加減撫でられるのも慣れたのか、撫でられるままになる。  それからも練習を続け、TPが尽きれば休憩を繰り返した。  やがてTPどころか集中力が切れると、ぽてりと倒れそうになるルイズを抱え、レゾンデートルにおわす才人を召喚。  ハイと託すと、彼はくーすーと眠るルイズを抱え、部屋へと戻っていった。  ……少しして一刀の悲鳴がネックレスを介して届いた。  どうやらタッグ組んで闘技場に出ていたらしく……話の途中で切れた。  状況を調べてみれば、相手はオルランドゥ伯だったらしく……そりゃ勝てねぇわ。 中井出「よし。んじゃあそろそろ明日に向けて移動を───おろ?」  開始するか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ! と移動しようとした時。  空から一羽のフクロウが飛んできなすった。  ……あれってアレか?  姫ちゃんが寄越すって言ってたフクロウ? 中井出「《バサリ》おっとと」  腕を差し出してみれば、しっかりと乗っかるフクロウさん。  そのクチバシが銜えている手紙をシュルリと取ってみると、 中井出「フムフム?」  やっぱり姫ちゃんからの手紙だった。  内通者の情報収集と、治安維持のための情報収集をしてほしいとのこと。  内通者のことはまあ解るとして、治安維持?  ふむふむ……? アルビオンは艦隊ぶっ潰されたから、それが再建されるまでは正面から突っ込めんから? 内通者を使ってトリステインを内側から混乱させて、暴動を起こさせたりするつもりかもしれんから? それを未然に防ぐための情報収集……と。なるほどなるほど。  まあ確かに艦隊ブッ潰したの俺だし、そんなことで裏を掻かれたらなんつーか責任感じてしまいますじゃ。ならばやらぬわけには……お? 中井出「トリスタニアの宿に泊まりながら、     身分を隠して平民の間に流れる情報を得られたし、か。     ルイズに行かせる気満々ざますね」  でも……いいかもしれん。  最近のルイズは少し角が取れてきてるし。  そこに来て、この平民のフリしての情報収集……いいね! 中井出「じゃあこれはルイズと才人に任せましょう。     よしフクロウさん、えーと……」  バックパックからメモとマジックを取って、さらさらと文字を連ねる。  日本語だけど、ネックレスの翻訳機能で読めるはずだ。 中井出「ルイズと才人に任せるから、何か不都合があったらメールをください、っと」  書いたものをしゅるりと丸めて、フクロウさんに銜えてもらう。  そして促すと、飛んでゆくフクロウさん。 中井出「……よしっ」  あとは才人にこの密命書を渡して、目を覚ましたルイズに見てもらうとして。  どおれ俺はシエスタとシャルを誘ってタルブへ向かうとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ! Next top Back