15/休日で休めるヤツなんていやしない。居たら妬む。

【ルミエール=D=カーナ/わけがわからないよ】

 先生訳が解りません。

スカロン 「トレビア〜〜〜ン♪ とってもステキよルミエールちゃん!」
ルミエール「……悪夢だろコレ」

 どうしてこんなことに……。
 俺はシャルとシエスタと一緒に、夏季休暇といふものを楽しんでいたはずだったのに。
 何故、何故こんな、うっふん臭がするヴァーで働いておるのでしょう。
 しかも目の前には毛深きオカマノコフ先生。マッスルで胸毛が凄くてオカマで。
 なんでオカマのイメージってマッチョかヒョロいってものばっかなんだろ。
 バーコードハゲのオカマとかってまず居ないよね?

スカロン 「その調子で稼いでちょうだいねっ♪ んんっ、トレビア〜〜〜ン♪」
ルミエール「お、押忍……」

 現在あたしは女の格好、つまりルミエールになっており、きちんと体も女。
 その上で、うっふんヴァーにお似合いの露出の高いひらひらな服装をしており、そりゃあシースルーとかそんな店長をネックハンギングツリー・デッドエンドヴァージョンで絞め殺したくなるような格好ではないのだが、なんつーか…………うん。

ルミエール(なんだろう……男の意識として、
      踏み越えちゃいけない部分を踏み越えてしまったような……)

 たとえばあれだ。
 女の子が、“こんな格好恥ずかしくて出来ません!”ってのを成り行きで着なければいけなくなってしまい、間違っていると解っていながらも着てしまったというか……。
 あ、あれ……? なんか泣けてきた。そして父さん母さん、じーさんばーさんに無性に謝りたくなってきた。
 ごめんなさいみんな。あたしは汚れてしまいました。
 でもこれで稼いで生きている人が居るので、涙は見せません。

ルミエ「……とりあえずルイズ。あたしは貴様に恨みが出来たわ」
ルイズ「しょ、しょしょしょしょうがないじゃない! 姫様の頼みな───」
ルミエ「お黙りやがりなさいスットコドッコイ。
    頼まれようが受けたのは貴様で巻き込まれたのはあたしです。
    誰に頼まれようと断れなかった時点で貴様の責任です。
    それと姫ちゃんからもらった宿泊代をカジノでスったのも貴様です。
    ……貴様はあたしに、今の話を聞いた上で誰を恨めというのかしら?」
ルイズ「ひぃうっ……!」

 華琳さま流冷徹なる笑みで睨んだ上での言及。
 いやもうそもそもこやつが我が儘放題言わなければ、才人だってカジノで資金を増やそうだなんて言わなかったんだ。

ルミエ「なにか言うことは?」
ルイズ「……わたし悪くないもん」
ルミエ「まーだ言うのかいこの子はっ! あのねぇルイズ!?
    あんたがどれだけ我が儘言おうがあたしにゃ関係ないし、言うのもそりゃ自由さ!
    けどねぇ! それに他人を巻き込んでおいて自分は悪くないなんて、
    戯言遊びも大概におしっ! しまいにゃどつくよっ!!」
ルイズ「で、でもサイトが」
ルミエ「口答えすんじゃないのォォォォ!!
    アンタはもうホンット人の揚げ足ばっかり取ってェェェェ!!」

 そう。
 ここは魅惑の妖精亭……めんこいおなごが接待をする飲み屋のようなもんである。
 キャバクラ……とかいうんだっけ? 昔はエロスの使徒だったものの、そういう知識には弱いあたしを許してほしい。
 だ、だって実際におなごに触れるとか怖いじゃないか!
 そそそそういうのはですね!? ちゃんと出会って恋して、てててて手を握るところからはうあしまった文通を忘れていた! そうだよね! まずは恋文からだよね!
 とか暴走しているうちに客が来た。

ルミエ「いらっしゃーせー……魅惑の妖怪亭へよーそー……」
客1 「よ、妖怪!?」
ルミエ「あそこに筋肉おばけ、こちらには小さいながらもぬりかべがいます」

 ミ・マドモワゼル(スカロン)と、隣のルイズを促した。
 すると足をドギャアと踏まれた。ルイズ嬢に。

ルイズ「あんた……! 人のどこを見て、壁とか言ってるのかしら……!?」
ルミエ「知らんの?
    ぬりかべって才人の居た世界ではグラマラス美人の妖怪のことを言うのよ?」
ルイズ「えっ……ほ、ほんとに!?」
ルミエ「才人に訊いてみなさい? ここはあたしが受け持っといてあげるから」
ルイズ「え……いいの?」
ルミエ「あなた、まだ一度も接待成功してないでしょ。少しは落ち着きなさい、まったく」
ルイズ「うぅ……」

 そう。
 ルイズは自分の所為でこんなことになってるってのに、貴族が平民に媚売ることが出来るもんですかと駄々をこねていて、接待が全然上手くいってない。
 そろそろ貴族としての棘も丸くなってきたかなと思ってたのに、このザマなのよね。

ルミエ「さ、お客様、ご案内をします」
客1 「あ、ああ……へぇ、キミかわいいね。その後ろで結っている髪がまたなんとも」
ルミエ「ポニーテールでございます。
    もしよろしければ、この髪型の素晴らしさをみっちりと説いて差し上げますが」
客1 「それって僕の傍にずっと居てくれるってことかい? やっはは、まいったなぁ」
ルミエ「───《ギシャァアアアン……!!》」

 その夜、あたしは照れた彼に散々とポニーテールについてを語った。
 彼が気まずそうに逃げ出そうとすれば、話はまだ終わってないとばかりに座らせ、逃げようとすれば殺気で黙らせ、殺気の所為で喉が渇いたと言えばお手頃価格の飲み物をご提供。
 そうして地道にチップを稼ぎ、話終えた頃には彼は「ポニーテール・サイコウ!」と、渦巻き状になった瞳で叫ぶに至らせることが出来た。ふぅ、同士が増えたわ。

 ……えー、で。
 なんでこんなことになったのかといえば、話は結構戻るわけだが───

ルイズ「ちょっとヒロミツ! ぬりかべのこと話したらサイトが笑い転げたわよ!?」
ルミエ「だって嘘だもの」
ルイズ「なぁあああああっ!!?」

 一度も“本当だ”なんて言ってないのですから。
 ってこれから回想ってところで邪魔しおって……───うん、俺が悪いね。

ルミエ「あ、魔法は禁止よ? お忍びできてることを忘れないで。
    使ったらネックレスは取り上げるからね?」
ルイズ「ふぐっ!? ……〜〜〜っ……あんたってずるいわよね……」
ルミエ「なんでも魔法と鞭で解決しようとするのが悪いのよ。ん、いい子いい子〜♪」
ルイズ「《なでくりなでくり》あぅわうあぁあ〜〜〜……」

 いろいろ訊かれるのも面倒なんで、あたしとルイズは姉妹ってことにしてある。
 あたしは黒髪、ルイズは桃色髪なんて、説得力の無い話だが……スカロンさんはあっさり信じた。なんでも娘さんも黒髪だそうで、“んん〜〜んん、トレビア〜〜〜ン! そういうこともあるわ〜ん!”と、腰をクネクネ動かしながら言っていた。
 トレビアンが口癖って……やっぱりすげぇよな。
 ……まあともかく。
 あたしとルイズはこの魅惑の妖精亭で住み込みで雇われている。
 才人も一緒で、主に皿洗い担当。
 あたしとルイズはこうして接待をしてチップを稼いでいるわけだが、まあなんというか。
 …………死にたい。
 でも命は粗末にしたくないから、腹癒せにルイズの頭を撫でる。
 巻き込んだ負い目があるからかどうか知らんけど、払われることなく……むしろ少しもじもじしながらも撫でられていた。
 もしかして撫でられるの好き? それとも“いい子”とか“偉い偉い”とか言われ慣れてないとか? ……あるとしたら後者か。撫でられるのが好きなようにはあまり見えないし。

ルイズ「でも、よく姉妹だなんて信じてくれたわよね」
ルミエ「貧乳はステータスだからな……《ずぅううん……》」
ルイズ「……あんた、男のくせにそういうの気にしてるんだ」
ルミエ「アホお言いでないよ、あたしは性別変えたなら中身も変えるって決めてんだ。
    女が貧乳気にして何が悪いってのさ」
ルイズ「男のあんたと比べると笑いたくなるわ」
ルミエ「口が減らないわね、ほんとに。誰に似たんだか。ほら、それよりも仕事よ仕事」
ルイズ「わ、解ってるわよっ」

 じゃあ、いい加減回想いきますか。




【中井出博光/回想】

 よく晴れた日だった。
 外に出てまず最初に口から出た言葉なんて、

中井出「うむ。今日も良い風車日和であるな!」

 だったくらいだ。
 高いところに登ったらフーアムアイを叫びたくなるほどの快晴だったよ。

中井出 「じゃ、そろそろいきますか。シャルー、シエスター、準備いいかー?」
タバサ 「《こくり》問題ない」
シエスタ「荷物の確認も終わりました、大丈夫そうです」
中井出 「そかそか。ではいこう! GO! ロドリゲス!」
ロド  『ゴエェエ!!』

 そんな快晴の日、俺とシャルとシエスタは、一路タルブへ向けて旅立った。
 ミル・ルルカであるロドリゲスに跨り、チョコボ的な旅の始まりである。
 三人乗りでも平気だろうかと訊ねたところ、ルルカはニヒルに笑んでみせた。
 ミルの称号は伊達じゃないと言いたいらしい。
 そんなわけで旅だ。
 馬車よりもよほどに早く、障害物があれば空を飛ぶことも可能。
 いいとこだらけのロドリゲスとともに、僕らは朗らかなる旅を続けた。シルフィードが少し不満そうだったが、たまには誰も乗せない旅を満喫しなさいと言ったら、きゅいきゅいと頷いてくれた。納得してくれたようだ。
 問題があったとするならばこの後のことだろう。
 一日と経たずに到着したタルブで、シエスタとシャルが歓迎を受ける中、俺はシエスタの親父さんにひとり拉致されていた。

親父 「やあヒロミツくん。また会えて嬉しいよ。
    ところでなんだがキミ。うちのシエスタに手を出したかね?」
中井出「ブチコロがすぞこの野郎」
親父 「あっ、やっ……その反応を見れば十分だ。キミは手を出していない。実にいい。
    だがべつに私はキミが手を出していても怒らなかった。むしろ応援した。
    もちろんそれが一途であること前提なわけだが」
中井出「……《ゴキベキバキゴキ》」
親父 「いやいやいや! なんでそこで指を鳴らすのかな!?
    男だもの、当然のことだろう!? シエスタはあれでなかなかの娘だ!
    むしろなにもしないというところに疑問を抱くほどで───」
中井出「おーいシエスター、親父さんがキミに欲じょ───」
親父 「ホワァアアアア!!? ななな何を言い出すんだねキミは! 娘に欲情などと!」
中井出「回りくどいのどうでもいいからさっさと言えこの野郎」

 言ったらとりあえず殴るから。
 おなごと男との関係をそういうものでしか見れないんだったら、本気で殴るぞコラ。

親父 「あー……む、娘はキミを好いているようだしっ、よかったらそのー……交際を」
中井出「それはシエスタが決めることで、親が決めることじゃないっすけど」
親父 「言いたいことは解る! だがそれでも、幸せになってもらいたいんだ」
中井出「そりゃ同感だ。じゃなきゃモット伯から助けた意味がない」
親父 「……そう、それなんだ。キミはシエスタの雇用主。主人だ。
    キミがシエスタを買い戻してから、もう何度夜が明けただろう。
    もしやすると既に娘のお腹には《メゴルシャアアア!!》シェヴァアーーッ!!」

 殴りました。ええ、グーで。
 キリモミしてドグシャアと倒れる彼を、ニコリと笑って引き起こす。

中井出「おい親父殿。どの歯を折られたい? 折れるまで殴るから言え」
親父 「ままま待った! さすがに話が飛びすぎたね! あ、謝るから許してほしい!」
中井出「あのね。俺はそうやって、体目当てで人を買う男が大嫌いなの。
    それと同じく、体を許せば男がなんでも言うことを聞くって思ってる女も大嫌い。
    心配しなくてもシエスタは自由にさせてるし、
    恋だってしたいなら誰とだってしたらいい。俺に止める理由はないっての」
親父 「……キミは欲がないな。あのかわいさにあの体。
    家族贔屓だろうとシエスタはかわいいのに」
中井出「貴様の家では可愛いけりゃ襲うのか?《コロキキキ……!!》」
親父 「あ……今ちょっと死を覚悟しかけちゃった。パパ謝るから許して?」

 ケンシロウよろしく、コロキキキと指を鳴らしたら頭を振って謝られた。

親父 「ふむ……では本当にシエスタとはなにもないんだね?」
中井出「体目当てのゲス野郎に買われることはないって思っただけだよ。
    別に俺が買い戻したからって、俺の言うことを聞く必要はないって言ってあるし。
    それについての約束事だって、無理に頼んでシエスタに書いてもらった。
    立会人としてオスマンのジジイのサインもある」
親父 「なにもそこまで徹底しなくても」
中井出「や、娘の自由を喜ぼうよそこは」

 いろいろと不思議な親父さんだ。
 ……少し様子を見たが、特にこれ以上話はなさそうなので、失礼させてもらおう……と、思った矢先に腕を掴まれた。

親父 「やはり気に入った! うちの娘をよろしく頼むよ!」
中井出「ん? そりゃ、生活面においては苦労させないように取り計らってあるよ?
    三食昼寝付きだし、お風呂だって毎日だし」
親父 「いやいやそういう保護者的な意味ではなくてだね!」
中井出「雇用主としてって意味でも同じだけど」
親父 「違うと言っているんだが……その。娘と本気で付き合う気は」
中井出「それは娘に任せておけばいいって。ヘンな虫がつきそうなら排除するから」
親父 「義父さんと呼んでくれ!」
中井出「いやです」

 好かれる理由が見当たらん。
 そう言ってみれば、自分たちの村を救ってくれたし、きちんと娘のことも考えてくれているし、なによりシエスタが想っている相手だからとかそんな理由で、何度も拝まれた。頼まれた。願われた。当然却下したが。

中井出「そういうのは娘さんに全部任せればいいじゃないのさ。決めるのは娘さん。
    強制されたものじゃないのならそれでOKだし、俺も邪魔はしませぬ」
親父 「それは理想的だ。ではあの娘がキミに告白したら頷いてくれるのかい?」
中井出「俺の気持ちはまた別問題でしょうに。
    ちなみに断るよ? 俺、好きな人居るし」
親父 「好きな人!? だ、誰だね! もう付き合っているのかい!?」
中井出「あんたは俺のなんだァァァァ!! なんでそこまで執拗に訊いてくんの!?」

 とりあえず往復(ビンタ)で正気に戻ってもらった。
 親父殿も「す、すまないね、つい熱くなってしまった」と言っているし。
 夏季だもんね、熱くなるのはしょうがないよね。
 ちなみにいろいろ悩んでいる途中、夏季休暇の“かき”の部分は“夏期”であるべきだということをホギーに教えられた。恥ずかしい。

中井出「はぁ……男も女も解んねぇ」

 猫でいた時間が長すぎたからだろうか。
 男女の関係ってのが少し曖昧なものになっている。
 俺は俺で人殺しって自覚を持っちまってる所為で、人と深く係わり合いすぎることを避けている自覚はあるし、いつでも離れる準備は出来ている。
 “どっかの国”に腰を下ろさないのもそれが理由だ。
 トリステインの騎士や貴族にでもなってみろ、王が白って言ったら黒でも白だ。
 俺はそんな自由度の無い場所になぞ腰を下ろしたくない。

中井出「ははっ、大体にして人殺しに惚れるだって? 在り得ねぇだろ」

 親父さんから逃げるように距離を取ったのち、そう自嘲した。
 それを受け入れてくれるのはドリアードくらいだ。
 それだってノートン先生の意見に似通った理由があるからだからだと自覚している。
 ……精霊は、マナを削る人間を善しとしない。
 だから人殺しだろうと、精霊にとってのプラスになるなら忌み嫌う理由などないのだ。
 そういう理由で、ドリアードも俺のことを許容範囲に入っているものだと思っている。
 ……仕方ないじゃん。殺したの、事実だし。
 話して誰かが許してくれたところで、死んだ人は生き返らないんだから。

中井出「…………どこで……間違っちゃったんだろうな……ばーさん……」

 ただ普通に生きていた。
 平和が好きで、楽しいが好きで、仲間と馬鹿みたいに笑う日々を愛していた。
 取柄がなくたってよかった。
 才能が無くたって、勉強はなんとか出来たし仕事だってなんとか出来ていた。
 家が無くなって追い出されて、着の身着のままで歩いて、晦の家に行って。
 そこからの人生が間違ってたなんて思いたくはない。
 だって、楽しかったなら、それを否定する理由なんて俺にはない筈なんだから。
 自分のドジの所為で、自分がどうしようもない子供だった所為で、目の前で無くなった命を見た。もう戻ることのない、手を伸ばしかけていた笑顔に手が届くのならと、どれだけの日々を歩いただろう。
 楽しまなければ嘘だと思った。
 だから俺は……

中井出「………《ずっ》」

 鼻をすすって、歩いた。
 早速ヨシェナヴェパーティーだーと叫ぶ村の人達を見ながら。
 手を振って俺の名前を呼ぶシエスタに笑いかけ、じーっと何も言わずにこちらを見ているシャルを促して。
 一人は辛いなって思う。
 一人だと、辛いことばかりが頭の中に浮かぶ。
 だから人と一緒に居たいと思うのに……“俺にはそれが許されないものなんだ”ということが理解できていることが、ただただ悲しかった。


───……。


 歓迎パーティーは賑やかなもんだった。
 親父殿が終始暴走していたが、何度言われようと何を言われようと断った。

シエスタ「ひ、ヒロミツさんはわたしのことが嫌いですか……?」

 と涙目で言われるほどに断った時は、さすがに正直すまんかったって気分になった。

中井出「嫌いとかじゃなくて、恩とかで恋を説かれるのはなんか違うだろ。
    そんなこと言ってたら、恩売ったら恋人だらけになっちまいますよ。
    なぁシャル? 助けられたからって、好きになるとは限りませぬよなぁ?」
タバサ「………」
中井出「…………いや、あの。シャルさん? なんでそこで黙りますか?」

 訊ねてみると、「好意ではない、憧れ」と言われた。
 ……ママンのところでも言ってた言葉だよね、それ。
 好意って……高位のことじゃなかったの!? 高位なる村人チックな存在に僕が憧れてるって意味じゃ……!

中井出「いやいやそりゃキミおかしいよ!? お、俺に憧れる部分がどこにあると!?」
タバサ「《ずびし》イーヴァルディ」
中井出「…………《サァアーーーーッ》」

 イーヴァルディ。
 なんかどっかで聞いた名前よねと脳内を検索。
 説明しよう! この博光はクロリストであるからして、いろいろなものは一応マクスウェル巨大図書館を利用して、記録されているのだ! なので重要なこととかそうでないこととか、些細なキーワードが出てくると記録されるのである! ただし俺本人が覚えてるわけじゃないから、わざわざ検索しなければならない。それが面倒な場合はもう一度尋ねたりします。怠けてるわね。
 で、イーヴァルディですが。
 俺がタバサをシャルと呼ぶようになったきっかけを作った……じゃ、順序が逆か。
 俺がシャルと呼んだあとに自己紹介した名前だ。
 イーヴァルディ。
 名前の意味は解らんが、猛者連中の意思がそう言えと言ったから言った。
 で……その結果がこれである。

タバサ「誰にも出来なかったことで母さまを救ってくれた。私は無条件であなたを信じる」
中井出「ワーハーイ!?」

 モノスゲー速度で誤解してません!?
 普段の無表情が、ママーン復活のお陰で最近少し柔らかくなってきたかなーとは思ってたけど、なんかヤバイ方向に柔らかくなってる気がッツ!!
 おのれぇ! イーヴァルディという名前が、シャルにとってそこまで大切なものだったとは知らなんだ! つーか思いっ切り騙されたよちくしょう! 猛者どもめ、ヒロラインであったら、その時が貴様らの神父面会の瞬間だ!! 秒と掛からず瞬殺してくれるわ! フルブラスト灼紅蒼藍剣で!!

中井出「シャル……信じてくれるのは嬉しいけど、
    悪い人に騙されやしないかっておじさんは心配だよ……」
タバサ「《なでくりなでくり……》………」

 思えば、紀裡には父親らしいことはなんにもしてやれなかった。
 だからかなぁ、こうして頭を撫でると、やさしい気持ちになります。
 ほんとは“父さん心配だよ”と言いたかったのだが、シャルの前で自分を父さんって言うのは気が引けた。冗談でもそりゃないって、俺でも解る。
 まあほら、あれですよ。
 あっしゃあ無駄に長生きしてます。不老不死だもの、してますよ?
 だからね、付き合い方なんてものはある意味悟るべきだと理解したよ。
 俺は少年っぽく付き合うんじゃなく、いっそパパン視点で付き合っていこうと思う。
 もちろん、時にはママンチックに。ママンっつーかオバハンだな。オカンでも可。
 しかしこの博光、パパ〜ンがどんなことをすればパパンチックなのかを知らん。
 知っているのは原中で鍛えた逞しき楽しみ方と、じーさんばーさんを見て知ったやさしさだけだ。困ったね。

中井出「えーと……シャル。おじさんにしてほしいこととか、ある?」
タバサ「…………《じー》」
中井出「シャル?」
タバサ「“おじさん”はやめて」
中井出「おうっ!? き、気に入らんか?」
タバサ「“おじさん”をやめてくれたらなんでもいい」
中井出「なっ………………なんでも……いいのか……」

 何気に突き刺さった。
 おじさん、嫌いなんかなぁ……。

中井出「ま、まあ今はパーティーを楽しむか。シャル〜、食べたいもの、あるか〜?」
タバサ「はしばみ草」
中井出「おっ、了解。シャルのお陰で順調に美味しさ増していってるぞ?
    あくまでシャルの味覚としてだけど」

 ヒロラインではしばみ草を育て始めてからというもの、その味は少しずつ昇華され、ステキな味になっている。あくまでシャルの味覚で。
 昨日の夜、興味本位で味見をした観咲雪音嬢が盛大に吐いたほどだ。
 しかし、そんな植物兵器もシャルの前では……

タバサ「《もしゃもしゃ……》…………《ぱぁああ……!》」

 パッと見では解らないが、物凄く輝いた目をしておられる。
 ……だめだねぇ、どうしても恋を思い出す。

中井出 「シエスタはどう?」
シエスタ「あ、ではわたしはそのっ……モミアゲおにぎりをっ」

 モミアゲおにぎり。
 ご存知、日本大好きモミアゲ野郎が土から徹底して耕し、水も選び、気候なども調査して作られた伝説のお米、揉上米(もがみまい)を使用したおにぎりである。もみあげまい、ではないので注意されたし。言ったら逆鱗に触れるどころか剥がすことになる。
 フェルダールで広く知られ、一部のお米愛好団体であるジャポンの皆様の間では、大変貴重な品とされている。もちろん塩にも海苔にもこだわりを持っているため、一口食べればアレを言わずにはいられない。それを食べた者達が口々にそう言っていたことから合言葉のようなものとして知られ、それを食べたあとには必ず言われることがある。

中井出 「ほい」
シエスタ「わあっ、ありがとうございますっ」

 ポムッと出して差し出すと、早速頬張るシエスタさん。
 そして幸せそうな顔をしつつ咀嚼し、飲み込むと───

シエスタ「よくぞ日本人にうまれけりっ!!」

 合言葉を口にした。
 そう、それが合言葉。
 やっぱね、おにぎりは日本ですよ。
 お米よ、ありがとう。

中井出 「ご一緒に冷酒をどうぞ」
シエスタ「? なんですか? それ」
中井出 「ご飯によく合うのですよ。これも安心と信頼のモミアゲブランドだ」
シエスタ「えっ、いいんですかっ!?
     モミアゲブランドっていったらとても珍しいことで有名なのにっ!
     おにぎりをもらえただけでも嬉しいくらいなのに……」
中井出 「パーティーなら無礼講無礼講♪ ささ、おにぎりと一緒にどうぞ」
シエスタ「は、はいっ、では……!」

 緊張した面持ちでおにぎりと冷酒を口にするシエスタさん。
 米の甘さと酒の旨味が口の中で合わさり、最強に感じる。
 それを嚥下すると、少しポーっとした表情になって……シエスタは嬉しそうに「とてもとても美味しいですっ」と言ってくれた。
 よかった、酒は人を選ぶから、美味しくないと言われたら悲しかった。
 ……な〜んて思ってたんだけどね。

シエスタ「おいヒロミツ」
中井出 「なんじゃいシエスタ」

 酔っ払いました。
 そして、親父さまたちが逃げ出した。
 ……なるほど、一瞬で理解した。このお子、酔うと性格変わるわ。
 そんな彼女が俺の前にズイと酒を突き出した。つーか俺があげた冷酒だ。

シエスタ「飲め」
中井出 「俺は下戸だ。酒は飲めん」
シエスタ「あぁん? なんだぁ? わたしの酒が飲めねぇってか」
中井出 「誰の酒も飲めんわ」
シエスタ「平気だから飲め飲め、飲まないと帰さねぇからな」
中井出 「うわーいひどーい」

 まあ事情も知らずに酒飲ました俺もひでぇけどさ。
 しかしこうまで性格変わるもんかね。
 普段どんだけ腹の中に溜めてるんだか。

中井出 「いや、ほんと酒はね?」
シエスタ「だいじょーぶ、だいじょーぶだから」
中井出 「や、ほんと」
シエスタ「平気平気っ、ちょっとだけだから」
中井出 「だから俺は」
シエスタ「いいから飲めっつっとるんじゃああああっ!!!」
中井出 「ヒィなんかごめんなさい!!?」

 怖い! 怖いよこの人! なにこの人!
 家族や村の人達が逃げた理由がよく解った!
 仕方もなしに、口の中に入ったらヒロラインに飛ばす影を口の中に作り、酒をごきゅごきゅと飲んだ。
 その際、町に辿り着けなくて野宿をしていた永田くんが突然の酒のスコールに襲われることになるのだが、まあ今はどうでもいい。

シエスタ「あっはっはっはっは! どーだぁ、美味いかぁ? 美味いだろぉお〜〜?
     タダで食うものほど美味いものはないからなぁ〜〜〜……」
中井出 「アンタどこのレイオット輸入商会のボスですか」

 笑いながらヨシェナヴェ食ってる。
 ちなみにシャルははしばみパーティー中。
 くそう、人のマナが万全じゃないってのに好き放題に飲み食いしおって。なにが欲しいって訊いた俺が言うのもなんだけどさ。
 ……ん? はしばみ草?

中井出 「これだおぉりゃあっ!!」
シエスタ「《がぼっ!》ふぐっ!? …………───《どしゃあ》」

 リーサルウェポン・はしばみ草。
 シャルのお陰で大変美味しくなったハシバミ草の威力は最強であった。
 酔って暴走したシエスタの口に突っ込んでみれば、一撃でノックアウトだ。
 シャルロットがどこか不満そうな顔でそんな彼女を見つめていたが、少しして、自分の好物を気絶剤として使われたことに気づくと、俺を睨んできた。
 グ、グウウウ〜〜〜〜ッ、こ、こういう時の対処は〜〜〜〜っ!

中井出(あ、そうだ)

 ナギーやシードはこうすりゃとりあえず機嫌直したっけ。
 と、シャルロットをひょいと抱き上げて、自分の胡坐の上にすとんと乗せてみた。
 そして左手を腰に回し、右手で頭を撫でてやる。
 子供の甘やかし方さえ結局マスター出来なかったダメな親だった俺だが、ナギーとシードはこれが好きだった。俺が出来る精一杯の甘やかし方だ。というかコレか、撫でるくらいしか知らんのだ。
 でもさ、これってフツーに考えて、かなりヤバイよね?
 娘にやるならまだしも、パーフェクト他人な人にやったら軽く犯罪の香りがっ!!
 ……まあでも、他にやり方知らんのも事実だしなぁ。
 もし捕まりそうになったらあれだな、“堪忍やー! 仕方なかったんやー!”で。

中井出(………)
タバサ「………」

 しかし動じない。
 特に何事も無く、時は動いていた。
 親父さんたちもシエスタが気絶したとなると戻ってきて、どんちゃかと騒ぎだす。
 ……うん、やっぱ俺はあれだな、パパンだ。
 きっとシャルロットもそんな感じで付き合ってくれてるだろう。いや、シャルロットとしては親父さんは親父さんだろうし、パパンはないな。

中井出「んー……なぁシャル。俺はこれからみんなのダメ親父的な立ち位置で、
    皆様を影ながら見守ろうと思ってるんだが。
    シャルは俺にどんな立ち位置であってほしい? やっぱ親父さんはまずいよな」
タバサ「《こくり》とても」
中井出「だよな。だからさっき“おじさん”って言ったんだけど、それも嫌だと。
    でもなぁ、兄貴って歳じゃないもんなぁ俺。やっぱ近所の悪ガキあたりか?
    ───スカートめくりなら任せろ!
    これでもいじめられるのが嫌になってヤケになってた頃、
    仕返しに女子のスカートを辻めくりしまくったことがきっかけで、
    パンチラ博士と呼ばれていた! 博光と博士をかけるなんて、失礼しちゃうよね」
タバサ「それはしてはいけないこと」
中井出「子供の頃の話だよ。そうしなきゃ堪えられない時期が本当にあったんだ。
    映像見たなら解るだろ?」
タバサ「…………毒を盛られたという意味でなら、あなたとわたしはよく似ている」
中井出「……ほんと、なに考えてんだろな。
    金で大事な家族は買えないってのに、金や地位目当てで人を殺してさ」
タバサ「………」
中井出「……たまんねぇよなぁ……ほんと……」
タバサ「…………《こくり》」

 溜め息が同時に出た。
 シャルロットは、俺が人を生き返らせることが出来ることも、過去に戻ることが出来ることも知ってる。だが、その結果も知ってるから何も言ってこない。
 過去が未来に繋がってるのは当然だ。
 だから今過去に戻って歴史を変えても、歴史が変わった未来が作られるだけで、俺達が居た未来はそのまま残っている。
 だからそれは“歴史を変える”のではなく“歴史を創る”のとなんら変わらない。
 俺達の時代ではシャルロットのパパンは死んだままだ。
 それが時間軸ってもんなんだから、どうしようもない。

中井出「シャルの親父さんがアンデッドとしてでも操られてれば、
    まだ救う方法もあったんだけどな」
タバサ「!? ……それは、本当?」
中井出「ん? おお。内緒な話になるんだが、夏期休暇になる前に姫ちゃんのところに、
    アルビオンからアンデッドな刺客が来てさ。
    で、そいつに兵の大半がやられちゃって、しかも倒された先からアンデッド。
    だから逆にアンデッド支配の能力で仲間にした。
    アンデッドだから体の再構築さえ続ければずっと若々しい姿のままって寸法です。
    でも、シャルの親父さんが死んだのって───」
タバサ「…………」

 さすがに無理だよなぁ。
 それこそ塵も残っているかどうか。
 あれ? でもアンドバリの指輪を取り戻して、水の精霊に返す前に……遺灰があればそれに向けてアンドバリってみれば、アンデッドとして復活可能……とか? 死人を蘇らせる趣味はないが、アンデッドなら俺的には問題ないし。

中井出「シャ、シャルっ、親父さんの遺体、
    言っちゃなんだが葬る時に固定化の魔法とかかけなかったか!?
    火葬か土葬かも解らんが、土葬ならまだ希望が持てる!
    親父さんとまた会えるかもしれないぞ!」
タバサ「!!」
中井出「あぁああでもその前にアンドバリの指輪回収しないと!
    ぬおおなんかすげぇやる気出てきた! で、どう!? 土葬!? 火葬!?」
タバサ「ど、土葬……土葬っ」
中井出「〜〜ぃよしっ!!」

 少し興奮した様子で、すがるような目で言ってくるシャルの体を抱き締めた。
 ベネ! それは実にベネ!
 骨の一つでも残ってりゃ死体だ! そこに偽りの命を入れて支配する! 大丈夫! 俺の能力じゃないから心はまったく痛まん!! 外道と呼びたきゃ勝手に呼べ! 俺ゃあ元々自称でそうさねウワァーーーハハハハ!!
 ネクロマンサー能力と黄泉路還りの杖があれば、アンドバリが無くても出来そうってなもんだが、あれでアンデッドにした死体って、使用者に無条件で忠実になるからダメだ。……あれ? アンドバリも似たようなもんか?
 ともあれそうしてシャルと話していると、いい感じに顔を赤くして酔っ払った親父殿がやってきた。

親父 「土葬だのなんだのって物騒だなぁ。いったいなんの話かなぁ?」
中井出「貴様の将来をどうしようかと相談を」
親父 「私がなにかしたかねっ!?」

 特にしていないけど、シャルロットはなんだか邪魔をされたみたいに不機嫌そうにして、会話を中断して本を見始めた。
 そんな彼女の頭を撫でつつ、親父殿との話を続ける。
 さすがに今の話は誰にでも話せることではないし。

中井出「自分の娘を人に押し付けないでいただきたい」
親父 「娘の幸せを願うことのなにが悪いっていうんだいっ! いいじゃないかっ!」
中井出「ええい泣かんでください鬱陶しい。つーか酒くさっ! どんだけ飲んでんだ!」
親父 「私は言ったね。キミに言ったね? 娘を泣かせたら殺すと」
中井出「殺す気で来るなら俺も殺す気でかかるけど?」
親父 「………」
中井出「………」
親父 「ち、父親は強いのだよ。そんな言葉の脅しで父親が怯むとでも?」

 なんだって?
 父よ、あなたは強かったってやつか?

中井出「父の責務ってやつなのか。
    そりゃすごいな……俺の親父は俺が子供の頃に死んだから、
    そんな責務があったなんて知らなかった。
    解った、じゃあ容赦無く殺してやるから安らかにくたばれ」
親父 「キミは少し遠慮ってものを知ったほうがいいんじゃないのかね!?」
中井出「殺しに来るヤツ相手に遠慮するなんてただの馬鹿だ。
    そんなことを知れってのたまうヤツはただの自殺志願者か、一層の馬鹿だけだろ」
親父 「シ、シテスタぁ! いいのかっ!? こんな彼がいいのかっ!?」
中井出「あっははは、やだなぁ親父殿。親父殿の答えに、シエスタは関係ないじゃんか。
    で? あなたは殺しにくる人を前に何もしない馬鹿ですか?」
親父 「………」
中井出「………」
親父 「こ、殺すは……言い過ぎだったよね?」
中井出「だよねぇ、勢い任せだからって、言っていいことじゃないよねぇ」

 ワハハと笑って肩を叩き合った。
 シャルロットも密かに握っていた杖から手を放してくれて、一安心。
 声はかけずに頭を撫でたら、何故だか頷かれた。

中井出「さて。今日はゆっくり休んで、明日ガリアに行こうか。
    シエスタはどうするかはシエスタ自身に訊くとして、
    残るっていうならのんびり帰郷を楽しんでもらおう」
タバサ「いいの?」
中井出「大丈夫だ、問題ない」

 誤解されっぱなしって好きじゃない。
 やれ娘をあーだこーだって言われ続けて、のんびり休暇を楽しめますか? 無理だよ。
 だからね、オルレアン邸で爺とオセロでもと。彰利はオセロ苦手だったが、ゲームを得意とするこの博光! ボードゲームでも多分負けは知らないといいね!
 なんでか機械ゲーでしか上手くいかない僕だけど、ボードゲームくらい余裕さ!

中井出「……でもさ。もしパパンをアンデッドにするとしても、
    墓掘り返すことになるわけだ。堪えられる?
    言っちゃなんだが、死んだ人は死んだ人だ。
    記憶はそこで止まってるだろうし、
    ハッキリ言うと死んだ体から出る魂とは別のものになるはずだ」
タバサ「別の……?」
中井出「そう。死んだら魂になって、おばけとして人の傍に居ることが出来るとする」
タバサ「……!」
中井出「あーほらほら、怯えなくていいから。喩え話だから。
    でね? そのお化けなパパンが今までのシャルの成長を見てたとするだろ?」
タバサ「………」
中井出「でもな、多分アンドバリの指輪で起き上がるパパンは、
    “肉体に宿った記憶”を持ったパパンだ。
    その人の中ではシャルは小さなままだし、それからのことは何も知らない。
    急に何年後かの世界を見させられることになる。
    当然、衰弱しかかってたママンのこともだ」
タバサ「あ……」

 つーか、急に「イェーイパパダスよー!」ってゾンビとして蘇られたら、ママンったら気絶するんじゃなかろうか。俺もヒロラインでやった時は、その場に居るみんなに叫ばれたもんだし。
 え? そんなママンが気絶しそうなことをするのかって? しますとも!
 もちろんシャルの意見を優先させますが。

中井出「それでも会いたい? 俺は人を蘇らせることも出来る。
    その場合はきっちり魂を使うから記憶も万全! でも芯に反するからやりません。
    しかしアンデッドは死体! 偽りの命と言いつつも命無いからアンデッド!!
    でも肉体に宿る記憶を糧に動くから、生前の記憶バッチリ。
    死んだことも納得済みだってことはあの夜に解ったし、あとはシャル次第だ」
タバサ「………」
中井出「覚悟が決まったら言いなさい。どのみち明日にはガリアに《きゅむ》OK」

 胡坐に乗ったまま振り向き、服をきゅむと掴まれた。
 見上げる瞳はやはり縋るようで、その反応を見れば願うことなど一目瞭然だ。

中井出「後悔しようが突っ走れ我が道! 一度の人生、“楽しい”は楽しまなきゃ損さ!」
タバサ「………」
中井出「あ、ちなみに。
    もしパパンがパパンを殺したヤツに復習したいってんなら協力するよ?
    殺されたんなら殺すのも大いに結構!!
    しかも毒殺とくるのなら、相応しい死に方をくれてやるわウハハハハハハ!!」
タバサ「………」
中井出「ん? どした?」

 じーっと見てくる。
 ふむ? デマとはいえイーヴァルディを名乗ったのなら勇者らしい笑い方をしろって言いたいのでしょうか。でもなぁ、俺勇者とか英雄嫌いだし。なるなら臆者だろ。

タバサ「……あなたには、もう殺させない」
中井出「ひょ?」

 コロサ・セナイ?
 コロサ───


【SIDE】  ───コロサは旅人だった。  彼女は産まれてすぐに両親を無くし、………………死んだ。                               〜Fin〜
 ……。 中井出「俺、思うんだ。赤子が一人で生きてくのって無理だろって。     父親が居るとしても、ブロリーって母乳無しでどうやって成長したんだろうね?」 タバサ「なんのこと?」 中井出「なんだろね」  たまたま辿り着いた星に哺乳瓶とミルクがあったのさ。そうに違いない。  サイヤ人が生後間も無い頃から肉とか食えるならまだしも。  生態系とかいろいろ違うだろうに、他の星のミルクが体に合ったかとかどうでもいいや。  “それはそれ”。そーゆーもんだって見るのが一番楽しめる。 中井出「でもそっか、殺させないようにしてくれるのか。     そりゃあそう簡単に殺しなんてしないけど、いざとなりゃあ危ないぞ?     ……不老不死でも痛いのはイヤだから反撃はするし《ボソリ》」 タバサ「構わない。私がやりたいだけ」 中井出「……そか」  ポムと頭を撫でた。  不思議だね、もう汚れてる俺の手の赤なんて、これ以上増えても変わらないのに。  やっぱあれか? 殺しはいかんって思ってくれてる?  ……でもなぁ、俺アルビオン兵随分殺しちゃったんですけど。  ジワリと汗が滲みました。そんな僕のもとへと、ニヤァと笑みながら近付く親父殿。 親父 「ところでヒロミツくん」 中井出「ほい? なんでしょうか親父殿」 親父 「娘が寝ている傍で別の女の子を膝に、とは……中々度胸があるねぇ」 中井出「度胸? ……え? 俺度胸あるの?」 タバサ「それは間違い無い。あなたが気づいていないだけ」 中井出「なっ……マジか……」  知らんかった。  度胸あったんだな、俺……。 中井出「それでっ!? 度胸世界一の僕に何の用だいっ!?《テコーン♪》」  無駄に歯が輝いた。  しかし親父殿はにっこり笑って僕の肩をみしみしと掴みます。 親父「殺しはいけない。けれど、娘の想い人がこうも他人に気安いと、    父としては娘が泣いてしまうんじゃないかと心配でねぇええ……!!」  ……むっ!?  つまり娘が惚れてんだから、他のお子を愛でるんじゃねーと? 中井出「ハッキリ言うけど色恋においては後手に回ったヤツが悪い。     さっき挙げた男女も嫌いだが、色恋において嫌いなヤツも居る。     想いを伝える勇気も無いくせに、     惚れてるヤツが他の女を見てると嫉妬して攻撃加えるヤツだ。     そういうのは恋人になってから、浮気してやがるクズにこそしろってんだ。     もちろん、恋人じゃなくても“好きだ”とか言いながら、     他の女も口説いたりするのはどうかと思う」 親父 「ああ、ああいうのはねぇ。     自分が惚れたからって所有物扱いかよって思うところはあるねぇ。     私も昔はいろいろと───」 中井出「いろいろと?」 親父 「こ、こほんっ…………ときに。娘はキミに想いを告げたのだろうか」 中井出「いや。親父殿が騒いだ所為で初めて知った。     可哀相に、暖めておきたかった想いもあったろうに……」 親父 「ギャアアアーーーーーッ!!?     す、すまんシエスタ! すまんーーーーーっ!!!」  でも実際、ゼロの使い魔はどうなって終わるんだろうか。  やっぱり才人はルイズと? それとも……惚れられた女全てと愛を?  天地無用は驚きだったなぁ……まさかあんなことになるとは。  と考えたところで、じーっと見られっぱなしだったことを思い出した。  視線を合わせてみれば、すぃっと逸らされ───……なかった。あれ? タバサ「あなたは嫌いなものが多い」 中井出「いや、結構なんでも食うぞ? ホムンクルスだけは遠慮するが」 タバサ「そうじゃない。対人に関して?」 中井出「対人? …………なるほど」  人嫌いは仕方ない。  だって、人に何度殺されたか知らんし。  しかし本当に仕方ないで済ませてえーのんかいなぁ……努力すりゃ克服できるんとちゃうかのぉ。…………こうして、人に触れることだって出来るんだから。 中井出「意思たちに依存してるって自覚はあるんだけどね。     こればっかりは難しい。でも、なんとか頑張ってみようかね。     人に未来を語るならまず自分から、だね。     よし、何年かかってもいいから人を克服しよう。     なにせ僕ァ地界人! 順応には慣れておりますけぇ!     ……その順応の所為で人嫌いになったなら、もう目も当てられないけど」 タバサ「……協力する」 中井出「おお、ありがとなぁシャル」 タバサ「《なでくりなでくり》……んぅ」  実際、なにをどう努力すりゃいいのかなんて解らないもんだ。  それでも何かをしなきゃ、ずっと人間に怯える自分なのは解っていた。  信用がどうとか人に言うわりに、きっと俺は信用できてない。  相手の勝手な信頼に応えれば、自分も相手を信じているのかといえば───そうじゃないのだから。それでも手を伸ばされれば、その手を掴みたいと思ってしまうのだ。俺は相当の馬鹿者なんだろう。 中井出「まあ……助け合っていこう。アンドバリの指輪を手に入れたらパパンを復活。     で、殺した相手はどうするかだけど、それはシャルに任せるとして。     いや、むしろパパンに任せるか? 殺されたのは彼だし」 タバサ「………」 中井出「ともかく。それまでよろしくな、シャル」 タバサ「よろし───……どういう意味?」 中井出「へ? ……や、よろしくって」 タバサ「“それまで”」 中井出「むぅ? むー…………あ、そういうことか。     シャルちゃん? あなたはもう少し主語を求めることを覚えなさい。     で、“それまで”ってのはパパンをゾンビにするまでのこと。     パパンが蘇れば、シャルもこのじぃめとともに居る必要もなくなるでしょう?」  思う存分甘えられるきん、あっしの役目もおしまいということでさぁ。  役目もなにも、俺は撫でたいから撫でてただけなんだけどね。  じぃめ、というのは彰利が好きな言葉だったな。  やぁ、本当につくづくみんなの意思の影響を受けている。  この意思無かったら俺、本当の本当に完全人間恐怖症候群だったんじゃないかな。 中井出「思い切り甘えられるし、きっとパパンも受け入れてくれるだろうさ。     向こうが“蘇ってみれば5年後”とか言っても、     “蘇ってもらったのに五年後”ってこっちの意見もあるんだ。     どうせなら一緒に生きたかったってのはどっちも同じなんだもん、     そもそも文句言い合う理由もなければ、キミがシャルロットだと知れば、     きっとパパンは抱き締めてくれたり撫でてくれたりするに違いない」 タバサ「父さまが……」  想像してみる。シャルがパパンと元気に笑い合う姿を。  ………………あれ? イメージ出来ん。  というかシャルが元気に笑うって……。 タバサ「……?」  見つめ合ってみても想像できん。  この眠たそうな顔のお子が笑う? にっこりと?  ……まあ、それはいつの日か必ず、パパンとママンが叶えてくれるでしょう。  その頃には俺ももう…… 中井出(頑張りますか)  頑張り方なんて解らんこの時代、とりあえず行動するのが吉に違いない。  なので突き進むが吉!  うだうだと考えるのはやめて、シャルを巻き込んでの飲めや歌えの大騒ぎ大会を開始した。 Next top Back