16/ドラえもんな彼

【中井出博光/吐いてゲボェリーナ】

 で、翌日。

中井出「オォエェエエエ……!!キラキラ……♪》」

 盛大に吐く僕の姿が。
 酒、得意でもないのにガブ飲みしたらだめだね。
 しかしそうも言ってられんのが決意を新たにした超・雄の意思!
 行動しようぜ!? なにをすりゃいいのかは漠然としていて解り辛いですねってなもんだが、落ち着いていられないのもまた事実なのだから!

中井出「よぅしまずは元気の出る美味ェ朝食!
    そしてシャキっとしたら村の手伝いをして、散々遊んだらガリアだーーーっ!!」

 何故か俺の上で眠りこけていたシャルは、木の幹に寝かせてあります。
 もちろん寝冷えしないようにと保温効果の高い火属性マントを纏わせた上で。
 同じく近くで寝ていたシエスタにも同様のものを纏わせようとしたら、丁度パッチリとお目々が開いた。やあ、と挨拶してみれば跳ね起きるメイドさん。

シエスタ「はっ!? あ、あれっ!? わたしっ……」

 思えば祭りも賑やかって時に酒を飲ませた所為か、シエスタって一番騒いでた頃にはもう寝てたんだよね。うーん、悪いことをしてしまった。

中井出 「もう朝でございます。朝食作るから手伝ってもらっていいかい?」
シエスタ「あ、は……はい……?」

 首を傾げているものの、誘えば素直に頷いてくれた。
 そんなわけで朝食作りは始まり、他愛無い話をしながら眠気を吹き飛ばしていった。

シエスタ「あの。昨日の記憶が途中から曖昧なんですけど……いったいなにが?」
中井出 「ああすまん。冷酒飲んで酔っ払ったんだよ、キミ」
シエスタ「え゙っ……あの。では」
中井出 「うん。盛大に悪酔いして、俺に酒を薦めてきて大変だった」
シエスタ「すっ、すすすすいませんっ!
     わたし、恩人であるヒロミツさんになんてことをっ!」
中井出 「いや、べつにいいんじゃない?
     恩人だからって、宴会の時にまで距離取られても逆に冷たい感じがするし」

 「でも」と言うシエスタの頭をぽむぽむと撫でる。
 うーん……撫でるとかそういう時には別に、人間への嫌悪感は出ないよな。
 違いはなんなんだろうか。やっぱアレか? 自ら進んで係わろうとする時は平気なのか?
 受身の時が苦手なだけで。

中井出 「気にしない気にしない。ほら、そっちの鍋、吹き零れるぞ」
シエスタ「え? きゃっ! いけないっ!」

 慌てて息を吹きかけて、薪の調整をするシエスタさん。
 青空の下での炊事ってキャンプみたいでわくわくする。
 ヒロラインで慣れてたつもりでも、一緒にやる人が変わると違った味があるもんだ。

中井出(しかし、実際に“きゃっ、いけないっ”とか言う人って居るんだな)

 僕の周りはゲーとかギャーとかホギャーとか、奇声が多かったことを自覚した。
 わぁっ、とかはあっても“きゃあっ”はなかった。
 乙女だねぇ、姫ちゃんもシエスタも。
 ……いや、僕の周りの女たちが雄々しすぎるだけか。

中井出 「でだ。俺は今日にでもガリアに行こうと思うんだけど、シエスタはどうする?
     せっかくの帰郷なんだし、のんびりと───」
シエスタ「ご一緒しますっ!」
中井出 「エ? ……いや、少しは考えてから」
シエスタ「い・き・ま・すっ!」
中井出 「イ、イエス」

 なにが彼女をそうまで必死にさせるんだろう。
 先生僕もうわけが解らない。
 とまあそんなことはさておき、完成した朝食を前に、僕とシエスタは手を叩き合せた。結構ノリいいよこのお子。ノリと言うか、頼めばやってくれるというか。
 セーラー服の時も思ったけど、ガードが緩い気がしてならない。
 おじさん心配です。
 まあそれもやっぱりさておきだ。
 いつまでも寝ている皆様を叩き起こして、さっさと食べてもらおう。

中井出「あー、こほんこほんっ。
    すぅ───アンタァァァッ!! いつまで寝てんのほんともォォォォ!!」
村人達『《ビクゥッ!》ふおぉっ!?』

 いつも通りと言えばいつも通り。
 八郎のかーちゃんの真似をして、皆様を強引に起こした。

中井出「ほら起きるっ! 朝ごはん出来たよ!」
親父 「うぅう……頭痛ぇ……恩人よぉお……もう少し寝させてくれぇえ……」
中井出「馬鹿言ってんじゃないのォォォォ!!
    朝ご飯は一日のエネルギーの源になるって、
    みのもんたも言ってたんだからァァァァ!!」

 二度寝しよとする者、逃げ出そうとする者、片っ端から捕まえて、暖かな飯の前へ。

中井出「まったくしょうがない子なんだから……ご飯はどうするの?
    大盛り? 中盛り?」
親父 「や……だから頭痛くて……。中盛り、というか、むしろいらない───」
中井出「なに言ってんのアンタそんな痩せた体でェェェェ!!
    男の子はねぇ! もっと筋肉質なほうがいいのォォ!!」
親父 「いや、私はこれでもこの村では───」
中井出「口答えすんじゃないのォォォォ!!
    アンタはもうほんっと人の揚げ足ばっかり取ってェェェェ!!!」

 俺が叫ぶ横で、シエスタがペタペタと米をよそる。
 東で米料理には慣れたシエスタだ、食べ方もよそり方も堂に入っている。
 そして無情にも、山のように積まれたご飯を己の父親の前に突き出す娘さん。

親父  「シ、シエスタ……? これはさすがに───」
シエスタ「お米を残したりしたら、お父さんでも許しませんよ?」
親父  「え゙っ……や、だがこれは」
シエスタ「勝手に飲みすぎたのはお父さんだよね?
     ほどほどにと誰かしらに注意されたはず。お父さんはそれを守った?」
親父  「…………《ガタタタタタ……!》」

 震えていた。
 だがその汗に濡れた顔がキリッと男の顔になると、彼はどんぶり山盛りの飯を受け取り、……やがて、ガツガツと食し始めた。

親父「むむっ!? この独特の食感と、飲み込めば心地良いとすら感じる喉越し!
   不思議な食感に心が震える! これはいったいどうしたことだ!?」

 おお! 親父さんの中に眠る日本人の血が、親父さんを震わせている!
 ……つーか、親父さんってどうなんだ? 婿養子? それとも曾爺さん家系?
 まあいいや、美味しいことに変わり無し!

タバサ「………《スッ》」
中井出「で、キミはいつの間に起きて、いつの間に茶碗をカラッポにしたのかな」
タバサ「お代わりを要求する」
中井出「答えになってません。なってませんが……報われました(作った者として)」

 食べるならやっぱり大盛りでしょう。
 そうして、僕らは食事を楽しみました。


───……。


 さてさて、そんなわけでタルブをあとにしてやってきたのはガリアとトリステインの国境付近のオルレアン邸。
 ママンに招待されたとあって、今日の僕は紳士的だ。
 なにせ似合わんスーツまで着てみた。

中井出 「どうだい!? 紳士すぎて声も出ないだろう!
     殺し文句はやっぱりアレだね! ───ご婦人方に、またモテそうだ」
シエスタ「あの……メイドであるわたしが言うのもなんですけど……」
タバサ 「驚くほどに似合わない。なぜ?」
中井出 「俺が訊きたいよチクショォォォオ!!!」

 ええまあはい、似合わないことはとっくにご存知だ。
 どうせ俺はフツーだよコノヤロー。

中井出 「もういいだろいつもの村人の服で! 旅人の服ですらないこの普通さで!
     フェルダールに居た時も、
     この服装で町を歩けば仲間にさえ村人だと思われて気づかれなかったほどだよ!
     ああ泣いたさ! 泣いたがどうしたぁ!!」
シエスタ「ごごごめんなさいヒロミツさんッ! そんなつもりじゃっ……!」
中井出 「ああうん、でももうそんな悲しみも僕の血肉の一つだから気にしないで?
     じゃあいこう! ママンがこの屋敷の奥で待っている!!」
タバサ 「案内する」

 少し、興奮したような様相のままに、シャルが扉に手をかけ、開く。
 大きな扉はゆっくりと開き、その先には……初めて会った時とは比べ物にならないほどに健康そうな、元気そうなマダムが立っていた。
 って、わざわざ扉が開くの待ってたの!?

タバサ「あ───母さ《がばしっ》まむっ」
ママン「シャルロット! ああ、シャルロット! わたくしの可愛いシャルロット!」

 そんなオルレアン公夫人は、扉を開けたシャルをがばしぃと抱き締め、頬ずりしております。まあ、なんという親ばか。でも美しい。

中井出 「やあ」
シエスタ「あ、あのっ、わたっ、わたしっ、ヒロミツさんのメイドでシエスタとっ……!」

 …………。

ママン「お帰りなさいシャルロット、母はあなたの帰りを今か今かと……」
タバサ「母さま……」
ママン「ああ、いけませんよシャルロット。以前のような輝く笑顔を見せて?
    あなたを痛めつけるものはもうなにも無いのですから。
    もしイザベラがあなたをどうこうしようとするつもりならば───」
タバサ「つもり、ならば……?」
ママン「母は、鬼にだってなりましょう《めらり……!》」

 みっ……見えるッッ!
 夫人の背に、天の文字が! てゆゥか俺達無視ですか?

タバサ「……! そ、それはだめ、お願い、やめて母さま」
ママン「なにをいうのですシャルロット。母は、シャルロットのためならば───」
タバサ「違う、そうじゃない……その。まだ、父さまに会える可能性が……。
    だから、危険なことはやめてほしい」
ママン「え───」
中井出「ゲッ!?」

 マアシャルロット!? あなたなにを!?
 そりゃあ“あなたのママンには───内緒だよっ♪”とは言わなかったけど!
 そんなあっさり秘密をバラすって、どれだけ知ってもらいたかったんですか!
 もしアンドバリの指輪を手に入れられなかったとか考えないのか!?
 …………あ、ああなるほど、“勝手に”信頼してるんですね……? ちらりとすがるような目でまた見られた瞬間、全て解ってしまったよ……。

ママン「シャルロット……あなたの父は、オルレアン公は───」
タバサ「彼が、救ってくれる……《ずびし》」
中井出「彼です《ムキーン♪》」

 なんか指差されたから、ヤケクソでマッスルポージング。
 するとママンがつかつかと歩いてきて、僕の両腕をがっしぃと掴んだ。
 こう、二の腕付近をわっしと。

ママン「本当……なのですか? あの人が……!?」
中井出「可能性の問題であって、しかもそれは蘇生じゃない。
    肉体は完全に元の姿に戻せるけど、生きてはいない。
    つまりゾンビになるんだ。それでいいなら」
ママン「……! それは、その……」
中井出「あ、もちろん血も通ってるし意思もある。
    機械か魔法でもない限り、
    血の通わんものが動くなんて人体構造状だと難しいっつーか無理だし。
    ただし、成長はしない。死んだ頃の姿のままだ。それでもいいなら」
ママン「構いません! あの人に、あの人に会えるのなら!
    王位よりも戦よりも、ただあの人とシャルロットが傍に居る世界を、
    わたくしは望みます!」
中井出「………」

 姫ちゃんも一歩間違えたらこうなってたんじゃないかと思うと、ちと怖い。
 ウェールズを生かしてよかった。本当によかった。

中井出「解った。あなたもシャルもそれを望むのならこの博光。必ずや成功させましょう」
ママン「まあ、ありがとう」
中井出「というわけで」
ママン「はい?」
中井出「楽しみましょう。いつまでも不安そうな顔をするのはいかんです」

 言われて、少しぽかんとするママン。
 しかしシャルにクイッと服を引かれると、にっこりと笑って頷いた。


───……。


 それからの僕らは飲めや騒げの大宴会をした。
 ママンは大人しめだったから、それはいかんと散々と楽しいを教えます。
 最初は遠慮したり戸惑ったりのママンだったが、次第にくすくすと笑い、やがては肩を揺らして笑うほどまで。
 うむ、やはり笑顔がなくては。

中井出 「よっしゃシエスタ、次いこ次!」
シエスタ「うぅう、恥ずかしい……」
中井出 「恥ずかしがってて人を笑わせられますか!
     というわけで次の漫才は、やっぱり身近なところからの、
     “あっ、それあるわ〜”といった何気ないもの!
     笑いとは身近なものであるべきだ! なのでGO!
     そして着ぐるみすごいですね」
シエスタ「ヒロミツさんが着せたんですよ!」

 笑わせるのは主に僕とシエスタ。
 シャルはママンに抱き締められてるので、参加は無理でした。
 僕とシエスタは着ぐるみを着て馬鹿話を繰り出し、ママンを笑わせる。
 ママンが笑えばシャルも嬉しい。
 そして僕らも嬉しい。
 この流れを、僕らは作り続けたのでした。

中井出「さぁ! 今日の料理は博光特製のひんやりシャッキリざるうどんだよ!」

 もちろん料理も僕特性!
 うどんの素晴らしさを知ってもらうべく、超がつくほど全力で取り組みました。押忍。
 初めて見るっぽい料理を前に、皆様は食べ方で困惑していたようだったけど、教えて、さらに行儀というものも気にしないで食べるものなのですと教えると、おずおずと食べ始めてくれた。むしろ「ここは母が」とママンが率先して食べた。
 するとどうでしょう。
 ママンは目を見開いてその味に驚き、シャルにもシエスタにも美味しいからと薦めてくれた。こうなればもはや止まらぬ。
 用意した様々な薬味も試してもらって、味の変化も楽しんでもらう。
 つゆも数多く用意して、様々な組み合わせを知ってもらい……やがてシャルが辿り着いた場所は、全部入りぶっかけうどん(冷)だった。
 当然ながら熱いつゆも用意したんだが、シエスタは熱いの、オルレアン親子は冷たいものがお好きのようで。つーかシャルが食う。めっちゃ食う。どこにそんだけ入るんだってくらい食う。

ママン「はぁっ……うふふっ、こんなに騒いで、食べたのは初めてです」
中井出「それはなにより。では食後のデセルをどうぞ」
タバサ「!」

 ズチャアア……と取り出だしましたるは恐怖の戦慄の象徴、シャルベットである。
 シャルの味覚により、ヒロラインで強化されたはしばみシャーベット……果たして、母は娘の愛に応えることが出来るのか───!?

ママン「《ぱくり》ンブゥウッフェォグゥ!?」
タバサ「!?《ビクゥッ!》」

 大ダメージ! ダメだった!
 なんかハイポーションをストローで飲んだ馬的な声が響いた!
 しかしシャルが作ったということは事前に話してあるので、堪えた。彼女は……堪えたのだ……!

ママン「ご、ごめんなさいシャルロット……!
    あんまりにも美味しいものだから、
    少し飲み込むのを急ごうとしすぎてしまったわ……うふふ……コフッ……!」
タバサ「母さま……」

 母って強ぇえ。
 真っ青な笑顔でカタカタ震えながらも食ってる。
 むしろ隣でぱくぱくと、平気な顔をしてシャルベットを食うシャルに驚愕してる。
 そしてママンは目の端に涙を浮かべ、カタカタと震えながら怯えを孕んだ笑顔で俺を見ました。うん解ってる。さすがにそれをこのまま食べさせるのは拷問だ。
 なので……ドナルドォ〜〜〜マジック♪

ママン「…………───?」

 シャルがシャルベットに夢中になっている隙に物質変換。
 しかしマナが少ないってのにそんなことをしたために、ゴッファアと口から血を吐き出した。いや大丈夫、家族が居ない俺にとっちゃ、家族の笑顔ってのは大事なものだ。
 その笑顔を俺が見ていたいから、こんなことは平気へっちゃら。
 どうぞとママンを促すと、おそるおそる食べて…………綺麗な笑顔を取り戻した。


───……。


 夜である。
 散々と騒いだ所為か安心からなのか、シャルは随分早くに眠ってしまった。
 自分の寝室ではなく、母の寝室、母の横で。
 俺はなんでかそんな寝室に呼び出され、爺の案内のもと、再びこの部屋へやってきた。

ママン「……あなたには、感謝してもしきれません」
中井出「じゃあ忘れましょう」
ママン「とんでもない! 忘れるのはもういやですわ!」
中井出「ぬっ、これは配慮が足りなかった、すまんです」

 少し怯えを孕んだその言葉に素直に謝った。
 俺としては、そんな感謝とかよりも純粋に楽しんでくれればそれでよかったのだが。
 そんな話をしてみれば、「本当に呆れた人」と言って、くすくすと笑われた。
 よく解らんが、楽しそうでなによりだ。

ママン「聞いてもいいでしょうか。あなたは何故、わたくしたちを助けてくれたの?」
中井出「楽しいを忘れそうなお子が居たからね。いつも眠たげで、人から離れて本を見る。
    話しかけるのなんてツェルプストーくらいで、本人も他人に関心がない。
    そんなお子に楽しいを教えたかった。本当にただそれだけでございます。
    ……貴族嫌いだからね、俺。そんな理由がないと、話しかけるのも嫌」
ママン「まあ、ひどい人」

 言いながらも笑顔だった。
 本気では言っていないことが見て取れる。

中井出「……貴族嫌いにはいろいろと理由があるけど───俺、昔ね?
    友達の誕生日を祝いたかったんだけど、
    生憎と金も無ければ、世界の常識なんてことも知らなかった。
    俺はその時、盗みを働きました。謝りながら、盗みを。
    でも帰ってみれば友達は殺されていて、
    俺は愕然としながらも、もうプレゼントすることは出来ないソレを返しにいった。
    謝って返して、殴られるのは当然だと、殴られるままに堪えたんだけど……
    そのあとがひどくてさ。吊るされて棒とか刃物で殴られるわ切られるわ」
ママン「………」
中井出「俺の体が異常であると知ると、人々は俺を見世物にしました。
    殴る蹴る、切る、切断するなんて当然。魔法の開発や魔法の威力実験に使われた」
ママン「そんな……」
中井出「でもいろいろあったけど僕は元気です。
    人を信用することが怖くなったけど、寂しがり屋でさ。
    手ぇ伸ばされると馬鹿みたいに近寄っちゃうんだよね。
    グシャグシャにされたのだって、元はといえば俺が盗みを働いたからだし、
    そこんところはいい加減納得しないといけない。罪には罰をだね」

 知らなかったからなんでも許されるんじゃ、法律なんて意味ないし。
 あの時代に法律があったかは、俺は知らんのだが。

中井出「えーっと。なにが言いたいのかというと。……強く生きてください。
    家族が居て、仲がいいってのはそれだけで有り難いことです。
    俺の家族はとっくに居ないし、取り戻すこともできないけど……
    取り戻すことが出来るなら、人の基準にもよるけど、それは幸せって呼ぶべきだ」
ママン「ヒロミツさん……」
中井出「それじゃ」

 歩く。
 なんで呼ばれたのかは、訊かれると困ったことになりそうな予感が走ったから聞かずに、

ママン「待って」

 ……というわけにはいかなそうだった。

ママン「ヒロミツさん。あなたのご家族は───」
中井出「………」

 頭をがりがりと掻く。
 いろんな人にしてみれば、家族は居て当然。仲が良くて当然ってものだ。
 俺の家も例外ではなく、みんな仲が良かった。
 ただ、やっぱり過去形で、仲が良いままに死んだ。それだけ。

中井出「殺されました。ばーさんは地震で崩れた天井から俺を守って死んで、
    両親は金目当ての男……それも見知った人に殺されて、
    じーさんは……毒を盛られて死んだ」
ママン「───! ……では。あなたがわたくしを救ってくれたのは……」
中井出「別にそれが理由ってわけじゃないよ。可哀相に思ったわけでもない。
    せっかく生きてるんだから、楽しいを探してほしいっていう俺の身勝手の結果」
ママン「………」
中井出「俺ね、不老不死なんだ。シャルが言ってたように、4千年近く生きてる。
    そうなる前に結婚もしてて、子供だって居た」
ママン「え……ほ、本当に!?」
中井出「うん。でもね、これからきっと幸せになれるって時に、
    俺は呪いで操られて人を殺した。もう本当に、呆れるくらいの数の人を。
    目にこびりついた血が今も剥がれずに、視界が赤いままって幻覚が見えるくらい。
    ……正気に戻れば周りには死体しかなくてさ。
    娘の友達まで殺した俺は、娘にパパなんて死んじゃえばいいんだって言われた」
ママン「あ……」
中井出「その呪いの所為で、俺は全ての人に忘れられたんだ。
    そして、人を殺したっていう事実だけが残った。
    妻は別の男と連れ添って、娘もそいつを親だと本気で思ってる。
    そういう呪いだった。人殺しの魔王。残った結果はそれで、俺の二つ名もそれ」
ママン「………」

 何かを言われる前に、言葉を並べた。
 同情は慣れてる。つもりだ。
 ただ、だからってやさしくされるのは嫌なんだ。
 だからあまり深くは係わらないでくれとばかりに言葉の壁を作る。

ママン「……辛く、なかった?」
中井出「いや、辛いっす。めっちゃ辛いっす。
    でも、だからって楽しいを探さないのは俺の中ではウソなので。
    だってさ、周りが俺を忘れても、
    周りが賑やかならその賑やかの中に居られるじゃん。
    俺にとって、仲間の笑顔は俺の笑顔だから。
    俺の楽しいがそこにあるなら、他の誰かを笑わせるのは“俺の楽しい”だから」
ママン「あなたは───…………っ……少し、こちらへ来ていただけますか?」
中井出「フン断る」
ママン「えぇっ!?」

 まさか断られると思ってなかったのか、オルレアン公夫人は大層驚いた。

中井出「慰めはいらないから笑って笑って♪ これを話したのは同情目的じゃなくて、
    こんなことがあっても笑うことは出来るんだぜ〜〜〜って知ってほしかったから。
    それを慰めに移行しようとするのはメッ! 激しくメッ!
    むしろそのやさしさをシャルにもっとあげてやってください。
    そうしてシャルが微笑むなら、それが俺の楽しいなんだから」
ママン「…………不器用ですね、あなたは」
中井出「いやいや、器用ですよ? お、俺不器用なんかじゃないよ? ほんとだよ?」
ママン「くすっ……うふふふふっ……♪
    まるで小さな失敗を隠そうと必死だった頃の、シャルロットのよう」
中井出「ゲッ……あ、いや、失敗じゃないって! 俺別に不器用じゃないし!?
    ややややろうと思えばなんだって出来るよ!? 本気出してないだけだもん!
    ほ、ほーら指パッチンだって《コシュッ》みんな大ッ嫌いだバッキャロォオ!!」
ママン「あっ! ヒロミツさん!?」

 泣いて逃げた。
 あんな場面でくらいパチンと鳴ってくれてもいいのに! いいのにぃいい!!
 そして僕は逃げ出した勢いのままに屋根の上に登り、そこで───

中井出「ウフフ、今日も夜空が綺麗ダナァ……」

 軽く現実逃避をした。
 いかんなぁ、どうにも教訓にでもなればって、自分の過去を話してしまう油断がある。あのことはそうベラベラ話していいことでもなかろうに。
 ただね、笑うことが出来るのに笑おうとしようともしない人を見ると、ムズガユイんだよね。大丈夫、キミならできるって言ってやりたくなる。

中井出「まったく、これだから僕って凡人は───《ジジッ》……お?
    もしもーし? みんなのアイドル博光くんだよ」
声  『あ、ああえっと……ヒロミツ?』

 耳に違和感。
 繋げてみれば、ルイズの声。
 ハテ? 今頃は才人と一緒に隠密情報収集をしているはずだが?

中井出「どしたの? もしかしてもう任務が終わった───」
声  『ヒ、ヒロラインに行かせなさい! そして綺麗なベッドと食事を用意して!』
中井出「あ、キャッチホンだ。切るぞルイズ」
声  『あぁああああ待って! 待ってぇええ!! い、言い方が悪かったわっ!
    そのっ……おおお恐れ多くもこのラ・ヴァリエールの───』

 ブツッ。
 ……切った。
 そしてやってくる耳への違和感。

中井出「なんじゃいコナラァ! この通信は貴族サマご遠慮モードだこのタコ!
    てめぇまた桃とか呼ばれてぇのか!?」
声  『ひうぅっ……! そ、そんなに怒ること、ないじゃない……!
    本当に困ってるんだから……じゃなきゃこんなこと……』
中井出「ぬ? なんだ困ってたの? まったくどうしたんだい?
    まさか姫ちゃんにもらった軍資金を倍にしよーぜーとか言って、
    カジノっつーか賭場でスッたとか───」
声  『………』

 息を飲む音。
 俺は静かに通信を切った。
 そしてまた違和感。

中井出「おい貴族てめぇなに人様の通信使ってんだブチクラワスぞコラ……!」
声  『うぅううう……お、怒らないでよ……!
    才人にも散々言われて、だからこうしてあんたに……』
中井出「あのね。説教ってのは誰かが言ったからそれでいいってもんじゃないの。
    むしろ何度も言われたほうが“もうしない”って思えるからこそするの。
    それをするだけ無駄って思うのは、覚えないほうの一方的な意見だ。
    迷惑被ったんなら言いたいこと言うの当たり前だろうが」
声  『ご…………うぅうっ……ごめん、なさい……』
中井出「うし。で、どした? 賭場でスったの?」
声  『……うん……』
中井出「なんでまた。姫ちゃんからは必要な分だけ貰ったでしょーに」
声  『だって……安物のベッドで寝るなんて───待って切らないでお願いぃい!!』
中井出「嘆かわしい! せっかく平民の気持ちも解ってきてくれたかなと思えば、
    安物ベッドで寝たくない!? だから賭場!? 馬鹿じゃなかと!?」
声  『ふぐっ……う、うぅうう〜〜……ヒロミツぅう……』
中井出「妙な声出すんじゃないのォォォォ!!!!
    任務より自分の貴族像を大事にするなんて、
    お前ほんとに任務ってもん解ってんの!?」

 ぐしゅぐしゅと鼻をすする音がする。
 次いで、才人が謝る声も。
 しかし聞けば才人はむしろ稼いでいたらしく、それを全部スったのは桃だという。
 ……もうね、どう怒っていいんだか……。

中井出「あのね。俺べつにお前の保護者でもなんでもないんだけど……?」
声  『い、いいじゃない、今はその、ただヒロラインをやりたいなーって思っただけで、
    べべべべつにあんたのお世話になりたいなんて言ってるわけじゃ───』
中井出「そうかじゃあな」

 ブツッ。切った。そして違和感。
 無視してたら大量のメールが来た。迷惑メールってやつだ。
 これもシカトしてたら、今度は強制接続を行使してきやがった。
 なんて迷惑なヤツだ。

声  『ごごごっ……ごごごごめんなさい……!!
    正直に言うから、ふかふかベッドで、休ませて、くだ、くだだだだ……!!』
中井出「いや、べつに俺そういこと言わせたい願望とかないから断る」
声  『なぁああっ!? あぁああんた人がせっかく恥押し殺して頼んでやってるのに!』
中井出「その恥を押し殺せずに賭場に入ったヤツは誰?」
声  『わたしです』

 ものすげぇ陰の差した声だった。

中井出「はぁ……姫ちゃんは平民からの情報をって言ったんだろ?
    なのに平民のところで寝なくてどうすんだよ。
    姫ちゃんの方針を破った挙句に賭場でスって? しかも次は人頼り?」
声  『海より深く反省シテマス……』
中井出「今からでも方針通りにいきたいなら、住み込みで働ける場所でも探しなさい」
声  『なっ! 嫌よ! 住み込みなんて、それこそそこらの宿よりも汚いじゃない!』
中井出「そうでもしなきゃ、どうやって姫ちゃんに経過報告すんのさ。
    “陛下に頂きましたお金はスったので俺を頼って楽しみながら情報収集しました。
    平民の気持ち? 解りません。だって私、貴族だもの!”とでも?」
声  『えぐぇっ……!?』

 ……カエルを踏んだような声が聞こえた。

中井出「……あのねぇ、確かに俺はキミらにとっての役立つお兄さんだよ?
    便利な能力いっぱいもってます。でもね、姫ちゃんはキミに頼んだんだ。
    キミの力で解決してやらないで、どうして信頼を得られるっての。
    なに? これで俺の力借りて任務終わらせたらキミ、
    大したことありませんでしたわとか胸張るの?
    とりあえず張ったら俺の拳を中心に、縦に百回転くらいしてもらうけど、いい?」
声  『死ぬじゃないのよそれ!!』
中井出「だぁーーまらっしゃぁあ〜〜〜い!! そういう無礼なことしてるのキミは!!
    とにかく! 続行したいんだったら住み込みの仕事を探すか、
    姫ちゃんに金をもう一度せびりなさい!」
声  『いや!』
中井出「……翌朝、彼女は腹を空かせたままに道端で餓死して───」
声  『それもいや!!』
中井出「どうしろっていうんだお前は!!」
声  『だ、だからぁああ……! ヒ、ヒロライン〜〜〜……!!』

 もはや泣き言だった。実際泣いてるし。

中井出「ともかくダメ。ヒロラインは逃げ道にアラズ。
    とにかく出来ることはやりなさい。どうしてもだめだったら考えるから」
声  『むぅううっ…………《ドタバタドタバタ……》……だめだったわっ!』

 サワヤカな声だった。
 部屋の中を走り回って軽く息を切らしただけですね。
 とりあえず通信を切って、ルイズのナビナンバーを通信拒否ナンバーにした。

中井出「悪は去った……」

 これでおーけーね?
 ……っと、また違和感? 誰? ……って、才人だ。

中井出「もしもし?」
声  『ちょっとどうして拒否設定するのよ!!』
声  『うわうるせぇっ! 耳元で怒鳴るなよ!』
声  『そんなのヒロミツに言いなさいよ!』
中井出「………すまん才人。貴様のも拒否する」
声  『えぇえええっ!!? いや俺どう考えたって被害者《ブツッ》』

 ……悪は去った。
 ふぅ、まったく。
 こんなんで大丈夫なんか、トリステインって───おや違和感。
 姫ちゃんだね。

中井出「もしもし? なにか掴めたりした?」
声  『あ、あの。ヒロミツさん? よかったらなのですけど、
    ウェールズと二人きりになりたいのでヒロラインに───』
中井出「………」
声  『もう、会議会議と疲れてしまいました。
    わたくしがなにを言っても、決めるのは結局マザリーニ枢機卿。
    ならばとマザリーニに任せようとすれば、王としての立場がどうのと』

 ……本当に、大丈夫かこの国。
 なんか本気で心配になってきた。
 そして、こんなお子に頼まれたルイズが逆に不憫に思えてきた。
 ……さ、さっきのはさすがにちょっと突き放しすぎ……だったかもネ?
 なので「二人きりの時間なんて自分で作りなさい」と言って通信を切って、次にシエスタとシャルにメールを飛ばす。
 もうこうなったらさっさと情報収集とやらを済ませて、任務を終わらせてやる。
 しかしこの博光、あまりにも村人フェイスがすぎるため、このまま任務に参加しても面白くない。なのでルミエール化して服装もチェーンジ! ナビでルイズの反応がする場所を探知して、各馬一斉にスタートォ!!






Next
top
Back