19/ハードボイルドダンディーのリッシュモンドさん

【中井出博光/日々、賑やかに】

 さて、ところ変わって修道院。

修道女1「まあ! ジョゼットさんってば、
     お勤めの時間でもないのにお祈りをしているわ!」
修道女2「いったいなにをお祈りしているのかしら?」
修道女3「それはやはり───」

 窓から普通に侵入した僕は、部屋に誰も居ないことを知ると、適当に歩いて辿り着いた礼拝堂できゃいきゃいと騒ぐお子めらを発見。
 ジョゼットが祈りを捧げているけど、なにを祈ってるんだろうね?

中井出  「世界にもっと楽しいが広まりますように?」
修道女1 「うひゃあっ!?」
修道女2 「ど、道化のおにいさまっ!?」
ジョゼット「!?」

 ちなみに、何度も通っているうちに呼ばれ方が固定されました。
 人を楽しませるための道化なのですと胸を張って言ってみたら、まずジョゼットに“道化のお兄さま”と呼ばれ始め、そこから一気に広まった。
 いつしか別の部屋の修道女までもが、時間になると一つの部屋に集まることから院長にまでバレて、浦安鉄筋家族もかくやという勢いで投げられて窓ガラスぶち破りながら退場させられたのは、記憶に新しいことである。

中井出「やあ」《どーーーん!》

 でもまあまずは挨拶から。
 手を軽く挙げて挨拶をすれば、お祈りをしていたジョゼットがピエロを前にした子供のように、ぴうと走ってくる。

ジョゼット「道化のお兄さま!」
中井出  「《がばしーーっ!》おわぁっとと!?」

 というか、走るだけでは済まなくて、むしろ首に抱き付いてきた。

中井出「おっほっほ、ジョゼットは今日も元気だねぇ。
    でもあんまり騒ぐと院長が来るから、出来れば静かに───」
院長 「またですかあなたという人はぁああああっ!!」
中井出「ゲェエーーーッ!! もうバレた!!」

 早ぇえ! なんなのこの人!
 誰にも感づかれないようにひっそり来たっていうのに!

中井出「は、話し合いをしましょう!
    僕は争いにきたんじゃないよ!? ほんとだよ!? 僕いい子だもん!」
院長 「いい子が許可無く修道院に入るわけがないでしょう!」
中井出「だって院長が入れてくれないんだもん!」
院長 「怪しさしかない男を笑顔で招く院長がどこにおりますか!」
中井出「俺……院長のこと信じてる!」
院長 「輝く笑顔で言ったところで無駄です」
中井出「ケチー!」
院長 「けっ……ケチとはなんですかケチとは!」

 年老いた院長さまは、これで結構元気です。
 というか、俺がからかうようになってからパワフルさが滅茶苦茶上がった気がする。
 年老いていても動きが結構機敏ではございますし。

院長 「さあ、懺悔の時間ですよ。神と始祖にお祈りを捧げなさい」
中井出「やあブリミルさん、今日も楽しいを振り撒きに来たよ。
    どうか院長も楽しんでくださるよう、見守っててください。よっしゃ終わり!」
院長 「あなたはお祈りというものをなんだと思っているのですか!」
中井出「ヒィイごめんなさい!?」

 結構な勢いで怒られました。さすが修道院院長。

中井出「だ、だって! 始祖に祝福された人や始祖に祈る人が、
    己が子を捨てたから孤児が居る! 戦災孤児もそりゃあ居るだろうけど、
    親が子を手放す事実が悲しいのですよ僕は!
    そういった人達と同じ始祖へと祈るのって、とっても悲しいじゃないか!」
院長 「む……それは……」
中井出「なので僕は楽しいを伝える!
    ブリミルさんが正しきを説くのなら、僕は楽しきを説きましょう!」

 抱きついたままのジョゼットさんをなんとなくお姫様抱っこして、ビシィと言ってみる。
 結構お姫様抱っこって好きです。
 ジョゼットさんは顔真っ赤にしてますが。
 最近どうにもジョゼットさんが顔を赤くすることが多くなった気がする。
 いやまあ……原因は間違い無くアレなんだろうけどね?
 あれは見事に誘導されたとしか言い様がないね……恨むぞ、猛者どもめ。

中井出「というわけで、はいみんな〜、
    今日は紙芝居を作ってきたから、楽しんでいってね〜」

 僕の言葉にきゃいきゃいと騒ぐみなさま。
 そんな彼女らの前で、ジョゼットさんをすとんと下ろして準備を。

ジョゼット「道化のお兄さま、なにか手伝えることはありますの?」
中井出  「ぬ? おおそうだね、じゃあ少し───」

 紙芝居を用意するのを手伝ってもらい、アレコレと準備が終了。
 何気に院長も見る姿勢をとっているところがステキだ。
 なんだかんだで楽しんでもらえているようだ。なんか嬉しい。

……。

 紙芝居も終わり、今日も元気に笑ってもらったところで、僕も帰り支度をする。
 しかし皆様が眠たげに戻る中、ジョゼットだけが僕のもとへと近寄ってくる。

ジョゼット「道化のお兄さま、今日も楽しかったですわ」
中井出  「やあジョゼット、それはなによりだ」

 アメリカンホームドラマチックに喋りつつ、サムズアップ。
 手が届く位置まで近寄った、くすくすと笑うジョゼットの頭を撫でて、俺も笑った。

ジョゼット「お兄さまは撫でるのが好きなのですか?」
中井出  「前にも言ったでしょ」
ジョゼット「わかっていますわ。それでも聞きたいのです」

 前にも、というのは……ジョゼットがここまで僕に懐く原因でもあるのですが。
 あのですね? 以前ですね? えーと……

中井出「……ジョゼットの撫で心地は特別だよ。これからはキミのために来る」

 と言ってしまったのですよ。
 猛者どもから言われてたことがあったとはいえ、この修道院ではジョゼットは随分と小柄なほうだ。当然、頭も撫でやすい位置にある。
 他の修道女はてんで撫でないくせに、ジョゼットの頭ばかりを撫でるもんだから、ある日ジョゼットに問われたのだ。“なぜわたしの頭ばかりを?”と。
 もちろん、男というものを大して知らず、そういうものへの免疫もなかったであろう彼女がそげなことを言われれば、いくら相手が僕でもドキンコきてしまうようで…………こんなことになってしまったがね。
 ちなみにセリフは猛者どもに助言され、一言一句間違いなく言われるままに言った言葉であったりスルノデス。お陰でそれ以来、ジョゼットがやたらと懐くようになって。
 ……ああ、それを僕に言えと言った助言者である殊戸瀬は、ドリアードに捕まっていろいろとひどい目に遭ったようだが……巻き込まれるのもイヤなので無視した。さらば殊戸瀬……強く生きろ。

ジョゼット「けれど、修道女の髪に触れるなど、地獄に落ちますよ?」
中井出  「む。ならば死なないように頑張らないといかんなぁ。
      けどまあ、死んだあとのことは死んでから考えるよ。
      それに、銀髪だろうがなんだろうが、髪は髪だ。
      俺は綺麗だと思うよ、ジョゼットの髪」
ジョゼット「はう」

 ポムとジョゼットの顔が赤くなる。
 素直な意見を言ってみたが、どうにも効果が強すぎたらしい。
 というのも、ジョゼットはこの髪の色が好きではないそうなのだ。
 おばあちゃんみたいで嫌なのだと。
 事実、銀髪というにはあまりに白に近かった。
 院長の髪にさえ色が似ているほどで、横に並べなければ違いが解りづらいほどでさえあったのだ。それを気にしていたジョゼットは、最初の頃も僕に頭を撫でられるのは、その白髪にも似た髪を珍しがってだろうと思っていたそうだ。
 それがこうして褒められて、自分のために来ると言ってくれた。
 それだけで十分だそうだったのです。
 ええ、修道院から離れた途端、霊章から大樹の蔓がゾルゾルと這い出てきた時は、もう殺されるかと思いました。俺って女運無いのかな。いや、そりゃ好きだよ? ドリアードのことは真剣に好きだ。
 浮気だってするつもりもないし、そもそも言わされたんですけど僕。
 そう言ってなんとか許してもらえたが……恋人が怖いです、先生。

中井出「さらっさら〜のサラ13♪」

 しかしながら彼女の髪が好きというのはマジでございます。
 触り心地ステキだし。
 ところで“触り心地”を“さわり心地”にすると、ひらがなの方がなんか卑猥に感じるのはどうしてなんだろうね。

院長 「さ、用が済んだのならもう出ておゆきなさい。
    ジョゼット、あなたもいつまでもそのような男と触れ合っていないで───
    というか修道女に触れるとは何事です!」
中井出「修道院の習わしは知らんのですが、撫でたいものがそこにあるから撫でるのです。
    たとえシスターに何を言われようと、僕はジョゼットの頭を撫でますとも」

 また小さく、ジョゼットが「はう」と言った。顔は真っ赤だ。
 フッフフ、も、猛者どもが言う、彼女が利用される状況などこの博光には解らんのだが、これだけは言える。この調子で顔が赤くなるようなことを続ければ、今日の帰りにでも霊章から蔓が延びるだろう。
 だがそんな恐怖など越えてみせよう! だって、楽しいの前には多少の苦痛など無意味なのだから! そう! 多少! 多少…………た、多少の……苦痛は…………ね?

中井出  「ねぇ院長。ジョゼット、連れてっていい?」
ジョゼット「ひゃうっ!? え? ええっ?」
院長   「いいわけがないでしょう、ブチコロがしますよ」
中井出  「怖ッ!?」

 まさかのコロがす宣言!?
 よもやシスターがそのようなことを仰るとは! おでれえた!

院長 「大体、殿方が勝手に入ることさえ禁じているというのに、あなたという人は」
中井出「日々刺激を求める人に刺激を与えないなんてあんまりだ!
    なので僕はその刺激を“楽しい”というカタチで提供!」
院長 「楽しいかどうかよりも、あなたのような人がジョゼットを連れていき、
    幸せに出来るのかと問いたいのです。
    わたしも孤児院の出です。ならばわたしの妹のような少女たちに、
    夢と希望を与えたいだけなのですから」

 “え……? 妹……?”とツッコミたかった。
 “娘か孫の間違いでは?”とも。でもコロがされそうなのでやめておいた。

中井出「喜びの涙を流させることをお約束します。
    神にも始祖にも誓いません。あなたに誓って」
院長 「ま、無礼な」

 神の御前で、と顔をしかめて言うが、口は笑っていた。

院長 「……解りました。しかし条件があります。
    定期的にここへ来て、修道女たちにお話を聞かせてあげてください。
    もちろん、ジョゼットとともに来ることが前提です」
中井出「なるほど、楽しくしているかどうかの報告ですな?」
院長 「わたしはあなたが悪い人ではないことくらいは解っているつもりです。
    あなたは本当に、人に楽しいを与えることしか考えていないのですから。
    しかしそれで人が幸せになれるのかといえば、そうではないでしょう」
中井出「もちろんだね」
院長 「ですから……わたしの妹をお願いします。
    孤児としての繋がり程度ではありますが、赤子の頃から手を尽くした子です。
    不幸にしたら、この身に替えてもあなたを恨み尽くしますよ」
中井出「修道院院長の言う言葉じゃないって……だが任せとけ!
    こう見えても俺は! 幸せ作りの達人!」

 対象は俺以外になるけどね!
 でも大丈夫。必ずや幸せにしてあげましょう、ぞ。

中井出  「というわけでさあジョゼット。いきましょう」
ジョゼット「え? え? ですが」
中井出  「みなさんに行ってきますの挨拶をどうぞ。
      暇な時に来れるよう調節するから、別れにはならないし」
ジョゼット「あ───……はいっ」

 穏やかに、そして安心したようににこりと微笑むジョゼットさん。
 年齢よりもよっぽど幼く見える彼女の頭を、やはりさらりと撫でて俺も挨拶に付き合う。
 さて、これで猛者どもの思惑通りになったわけだが───どうなるんだろうね?
 グムムーと唸りながらも皆様との挨拶を済ませて、何故だかジョゼットが頑張るのよとかなんとかいろんな人に言われていたが、俺は“ジョゼットを泣かせたら殺しますよ”って……いや、だからなんでみんな俺を殺したがるのさ。
 と、軽く落ち込みながらも修道院の外へ。
 ジョゼットの服は修道服のままだが、修道服以外では寝巻きくらいしかないらしいのだ。
 なので着の身着のままGO。
 あとでどうとでもなるしね、服は。
 体型は……シャルとほぼ、というかウリ二つってくらいだ。
 分析したから間違いねー。

中井出(……ま、まさか、だよねぇ?)

 ペンダント取ったらシャルロットでしたー! ギャア双子! なんてことには……ねぇ?

中井出  「よっしゃ、じゃあ行きますか」
ジョゼット「そういえば道化のお兄さま。ここへはどのようにいらしていたの?
      ここは飛行生物くらいでしか、近寄れないような場所ですが」
中井出  「飛行武具で来たのさ。ジーク」

 霊章よりジークフリードを召喚。
 巨大長剣を空中に寝かせると、その上にひょいと乗ってジョゼットに手を差し伸べる。

ジョゼット「まあすごい! マジックアイテムですの!?」
中井出  「そうそうそんな感じ」

 ていうか、どうしてこの世界のお子めらは芝居がかった驚き方をするのでしょうか。
 シャルのママンもアンリエッタも似たような感じだし。
 ギーシュは…………すまん、ギーシュは存在自体が芝居がかったような人だった。
 ともあれ、おそるおそる伸ばされた手を掴み、ひょいと乗せてあげればきゅむと胴に抱き付いてくるジョゼットさん。しっかり掴まってろよと言う前だったから、地味に驚きました。

中井出「力、緩めるなよ〜? ───各馬一斉にスタートォッ!!」

 空を飛ぶ。
 カタパルト射出がごとく、一気にゴヒャアと。
 しかしながらさすがにまあ、レアバードと同じく風抵抗を無くす能力はあるので、風の影響は受けない。

ジョゼット「と……飛んで……ほんとうに、飛んでいますわ……」

 背後から、乾いたような、しかし興奮も混ざったような声。

中井出  「どーだい、ガリアを見下ろす気分は」
ジョゼット「す……」
中井出  「す?」
ジョゼット「すごいすごいっ! 道化のお兄さまはなんでも出来てしまわれるのですね!」
中井出  「ヤハハハハ! 俺にだって出来ないことの一億はあるさ!」
ジョゼット「一億も!?」

 いや、それだけでは済まんかもしれないし。
 なんでもってのは無理だよなぁ。
 というわけで、ジークフリードで飛べばあっという間でした。オルレアン邸です。

ジョゼット「大きなお屋敷……ここはお兄さまのお屋敷なのですか?」
中井出  「やっほーシャルー! 遊びにキタヨー!」
ジョゼット「ち、違うのですね」

 扉をノックして元気に声をかける。
 するとゆっくりと近付いてくる気配を感じて、少しあとにキィ、と開く大きな扉。
 その先にはシャルが居た。

中井出「ハロォ〜アゲェィン」
タバサ「……? アゲイン……?」

 デモンズソウルの荷物番の真似をすると、無表情で返された。疑問符もあり、こてりと首を傾げながらの返事だったが。
 でもなんか嬉しかったので頭を撫でておいた。

中井出「やあシャル、今日はちょっとお願いがあって来たんだけど」
タバサ「言って」

 即答だった。
 断るとか聞いてから決めるとか、そういう判断をするつもりはないらしい。

中井出「や、このお子なんだけどね? 実は探し人をしているのですよ。
    でね? 出来れば協力してくれればって。
    ガリアで銀髪の人ってどれくらい居るかな」
タバサ「…………《じぃっ……》」

 ああ、なんかシャルがジョゼットのこと見てる。めっちゃ見てる。
 こころなし、睨んでいるような気が……気の所為?

ジョゼット「あ、あの……初めまして、ジョゼットと申します、貴族さま」
タバサ  「……。タバサ」
中井出  「え? お? え? あ、ああうん、僕博光!」

 自己紹介を始めたので、なんとなく疎外感を感じる前に名乗ってみた。
 ……ら、二人の視線が俺へ。

中井出  「いや……なんかここで名乗らないと悪者みたいな気がして。悪者だけどさ」
タバサ  「悪者は人助けをしない」
ジョゼット「そうですわ、道化のお兄さま。
      今もこうして、わたしの家族を探してくれているではありませんか」
中井出  「ククク、それは全て俺のためなのさ。だから僕、悪だよ?」
ジョゼット「くすくす♪ ではそれはどのような自分のためですの?」
中井出  「俺がジョゼットの家族を見てみたいだけ。どーだ!
      ジョゼットの気持ちとか心の準備をまるで考えてないこの外道っぷり!」
タバサ  「とても外道」
中井出  「だよね!?」
タバサ  「けれどそれが万人に対しても外道とは限らない」
中井出  「ぬぐっ!」

 ……そうっすね。
 そうなんだよね。
 受け取り方は人それぞれだもの、そういうこともあるさ。
 でもはっきり言ってくれたのはありがとなので、シャルの頭を撫でた。
 すると、何故かム〜〜ッと頬を膨らませたジョゼットに睨まれる。ワ、ワッツ?

中井出  「ど、どうしたのジョゼット、そんなに頬を膨らませて。
      ア───ハハハハァ〜〜〜〜ン?」
ジョゼット「な、なんですかその顔はっ」

 頬を膨らませるジョゼットを前に、疑り深いアレキサンドリア=ミートの真似をしてニヤリとほくそ笑む。いやぁ、あの時のミートって腹立ったね。猛者知識で生成されたキン肉マン二世でしか知らないんだけど。

中井出「頬袋に種を詰め込んだリスの真似だろ!
    ふくらみ具合とかそりゃもう絶妙に《ごすっ》痛い!」

 きっとそうだと思うことを口にしたら、シャルが「それは失礼」と言って、杖で僕の頭を叩いた! つーかこれ硬い! なるほど、これならばシルフィードにも痛い痛いって言わせられる! 鉛ででも出来てるのかねこれ。

中井出「え? リスの真似じゃなかったの? …………えーと、もしかして何か怒ってた?
    それはいかん。俺はキミに楽しいを教えたいのに、怒らせるのは本意じゃない!
    さあジョゼット、なにをしてほしい!?」

 この道化めが楽しいを教えてしんぜよう!
 そうやって、サムッと手を差し伸べてみると、ジョゼットは「頭を撫でてくださいませ」とだけ。…………え? 頭?

中井出「いいけど……これでいいの? ほんとに?」

 解らん。
 何故これが頬を膨らます原因になるんだ?
 でもとりあえずは撫でてみると、ほやーととろけるジョゼットさん。

中井出「…………ん?」

 あれ? いやちょ……もしかしてあれか?
 猛者どもが言えって言った、“ジョゼットの撫で心地は特別だよ”って……あれの所為?
 ……やべぇ、そうだとしか思えねぇ。
 ちくしょうやられた! 猛者どもがやたらと推してくるからヘンだとは思ったんだ!
 くそう! こっちが原作を最初の頃しか知らないからって、人のピュアで遊びおって!

中井出(でもジョゼットに罪はないもんね)

 騙された僕が悪いのさ。
 そして猛者どもがそういう行動をとったのなら、きっと面白さに繋がるさ。
 そう結論づけて、僕はシャルに促されるままに屋敷内へ足を進めた。
 そうそう、そんな簡単な考えでいいのさ。
 どんな能力を武具として手に入れようが、回路として植えつけられようが、俺が俺であるように。どんな姿だろうが偽りの姿だろうが、ジョゼットはジョゼットだ。俺は彼女の姿を疑わん。ペンダントを取って、姿が全く変わったとしても、驚きはするだろうけどジョゼットだと受け入れる。それが男だ任侠だ。

中井出「ところでさ。ジャイアンツのラミレス選手は、
    名前の頭に“薬用”をつけるとなんとなく“それっぽくなる”気がしませんか?
    “それっぽく”がどれを指すのかは俺にも解らんが、
    解らないなりに“確かに”と頷ける、妙な説得力がある気がするんだ。
    薬用・ラミレス! ライオンあたりのCMでありそうだよね」
タバサ「……?」

 首を傾げられた。


 で……そのあとのことなんだけど。
 オルレアン公夫人がジョゼットの服装とペンダントを見て、飲んでいた紅茶を笑顔のままにゲフゥと噴き出したんだけど、どうしたんだろうね? もしやペンダントとあの修道院の服に見覚えがあるとか? はっはっは、だとしても僕ァもう受け入れると決めたのさ。だから気にしない!





【───/リッシュモン捕り物帖】

 あれからしばらく経った。
 夏期休暇はまだまだあると言いたいところだが、夏休みは余裕を持って過ごすとあっという間に過ぎるのが常である。
 さてさてそんな中で、中井出はルイズたちとは別に、アンリエッタにとある依頼をされていた。それが、この劇場で劇団員の真似事をする、というものだった。

中井出   「えっと? 劇団員に混ざって劇をするの?」
アンリエッタ「いえ、この場全てを鼠獲りにするつもりなのです。
       リッシュモンはここで内通をしているという情報を得ました。
       その時を見計らい、わたくしがここで直接リッシュモンと話をします」
中井出   「なるほど。相手が姫ちゃん一人であると油断させて、
       あとはみんなでボコると!」
ウェールズ 「相変わらず随分と直接的に言うね」
中井出   「その方が解り易いじゃないか」

 劇場の名前はタニアリージュ・ロワイヤル座というらしい。すごい名前だ。普通にタニア劇場でいいのではないか、と思った人は大勢居るだろう。

中井出   「劇ってどんなものやってるの? あ、芝居か」
アンリエッタ「トリスタニアの休日、というものです」
中井出   「それって面白いの?」
アンリエッタ「どうでしょう。身分を隠した男女の恋のお話と聞いていますが」
中井出   「なるほど……それを俺流にアレンジして面白おかしく演じていいと」
アンリエッタ「あの。役者が偽者であると知られるのは困ります」
中井出   「ぬぐっ! それは確かに……!
       くそう、真デレラ並みに引っ掻き回してやろうと思ったのに」
ウェールズ 「はは……危なかったね、アン」

 アンリエッタもウェールズも、中井出の記憶の中で真デレラのひどさは知っていた。
 しかし笑ったことも事実なので、それはそれで見てみたいとは思うアンリエッタ。

中井出   「解った。じゃあトリスタニアの休日をそのまま演じよう。
       ただし全力で。人器全開で役者の才を演じてみせよう」
アンリエッタ「ええ。お願いいたしますわ」
中井出   「ウェールズはどうする?
       やることなかったら役者として手伝ってほしいんだけど」
ウェールズ 「私が出るのは危険だろう。これでもアルビオンの皇太子だったんだよ?」
中井出   「ぬう……きっと面白くも貴重な体験になると思ったのに」

 しかし諦めるのは早く、中井出は笑いながら早速準備に取り掛かった。
 マントを召喚するとそこから黒の塊を吐き出し、それらが彼の仲間へと変形する。

彰利 「ジョワジョワジョワ……久しぶりのシャバの空気だ……!」
悠介 「アホウなことやってないで、配役とかさっさと決めるぞ」
彰利 「じゃあ主役は悠介で」
悠介 「俺は脇役がいい……つーか提督、なんで真っ先に俺と彰利なんだよ」
中井出「貴様が苦労しないなんてウソだ」
悠介 「久しぶりに対面したってのにひどいなおい!!」
中井出「あっはっは、今さら今さら」
彰利 「ほんにね、おぉっほっほっほ!」

 ワハハと笑い、作業を続けた。
 こういうことに慣れている仲間たちの準備は素早いものであり、練習もまた本格的なもので、それを見ていたアンリエッタとウェールズが、その演技に熱い溜め息を吐くほどだった。

悠介「よーし! それじゃ最初から通しでいくぞー!」
彰利「オウヨー!」
藍田「つーかここでバトルとか必要かー!?」
悠介「そこで鬱憤晴らせー! 息抜きしなきゃ続かないだろー!」
藍田「おー! そっかー!」

 芝居とはこうやって組み立てられるのだなと、王族二人は物珍しく見入っていた。
 芝居をする連中は真剣そのもの。
 それが遊びだと認識すれば、なによりも集中する馬鹿な連中である。
 任務という大事なものであるが、だからこそそこにある楽しみを知っていた。
 芝居というからには歌を歌う場面もあるのだが、歌といえば然精霊である。
 響く歌声は心を震わせるもので、自然と客席に座り、見入っていた二人は己で気づかぬままに涙を流していた。
 時に笑い、時に戦いに緊張し、時に感動の涙を流し、時に驚き。
 それは二人が王族だからこそ出来なかった、“普通のデート”であった。
 やがて練習という名の本番まがいの全力芝居が終わると、二人は拍手を送った。
 送りながら、これがデートであることに気づき、顔を見合わせてくすぐったそうに、しかし幸せそうに笑った。


───……。


 そんな日から数日。
 あの日から劇場は大人気であり、デートとなればほぼがタニアリージュ・ロワイヤル座を訪れていた。
 ここに居る二人も例外ではなく、彼も彼女も今回が初めてのデートであった。

ルイズ「遅い!」
才人 「悪い! 出る途中でスカロンさんに捕まって、茶化されちゃって。
    すーはー……んっ! ではレイディ、お手を」
ルイズ「……ん」

 少しムスッとしたが、差し出された腕に自分の腕を絡めると、尖っていたルイズの機嫌はあっという間にふにゃりととろけた。
 そう。初めてのデートなのだ。小さなことで怒りっぱなしなんて冗談ではない。
 遅れたのだってほんの少しだ。なのに全力で走ってきてくれたことは自分の目で見たのだから、彼女はむしろ少しだけ嬉しかった。
 対する才人は、女性のエスコートの仕方というものをウェールズに教わっていた。
 もちろんヒロライン休憩所で会える時だけであったが、それだけでも教わらないよりはマシだった。何も教わらなければ盛大に遅刻し、エスコートもせず、終始ひどいデートになっていたことだろう。なので教わった。全力で教わった。ウェールズが珍しくもアンリエッタとのことを惚気た瞬間、彼は翌日に控えたルイズとのデートを打ち明け、彼に紳士たる者のデートというものを教わった。

ルイズ「どこに行くか、解ってる?」
才人 「もちろんだよ、レディ。きちんと調べてきてある。せっかくのデートだもんな」
ルイズ「あっ……」

 事前に調べるほどに楽しみにしてくれていたのかと思うと、ルイズは幸せというものを纏ったような、なんとも心が暖かい状態になった。
 ありがとう、と言いたかったのだが、素直になれない自分の性格がそれを邪魔した。
 ついっ……とそっぽを向いてしまうのだが、才人はそれでも微笑んで彼女をエスコートした。というか、せざるをえなかった。事前に調べはした。したが、そこまでここらの地理に詳しいわけではない。
 忘れてしまわないうちに、覚えている道を歩まんとして、少しだけ急ぎ足になってしまった。ルイズにしてみればそれは、“自分とのデートを楽しんでいるために早足になっている”と受け取れてしまい、怒るどころかむず痒い気持ちに襲われながらもその早足歩きに付き合った。
 ほどなくして劇場へ辿り着いた。
 噂になるだけあり、列は結構なものだ。
 ジェシカに「タニアリージュ・ロワイヤル座でやっている劇が流行ってるのよ」と言われなければ、ルイズは一生こんな場所も芝居も気にも留めずにいただろう。心の中でジェシカに感謝し、しかし胸の大きさには憎悪を抱きつつ、彼女は笑った。
 大きな劇場というだけあり、一度の芝居が終われば一気に客が出ていく。
 長い列もあっという間に劇場内に納まり、席もきちんと確認した才人はルイズをエスコートしたまま、席へと着いた。

才人 「広いな。多少は芝居とか見たことあったけど、こういうところ来るのは初めてだ」
ルイズ「わたしも」

 そういう理由からだろう。
 二人は初めてのことになんだか解らない共有感を抱き、顔を見合わせて気恥ずかしそうに笑った。初めてのデートなのだからと、ルイズは意識してツンツンしないようにいた。
 幕が上がるまでの時間を他愛ない話で過ごし、幕が上がればごくりと息を飲んだ。
 ルイズは初めて見る芝居に。才人は初めて間近で見る芝居に。
 耳に気持ちよいとさえ感じる音楽が奏でられ、劇場内に響き渡る。
 学校の観劇とは違う、勢いもあり静けさもあり、胸が弾むような気持ちのいい芝居が視線の先で繰り広げられている。
 二人は夢中だった。
 お互い話すことも無くなり、他の客もまた、息を飲んでは笑い、驚き、芝居で何かが起こるたびにさまざまな反応を見せていた。

……。

 芝居が終わり、タニアリージュ・ロワイヤル座をあとにした二人は、心地良い脱力感に包まれていた体をぐぅっと伸ばした。

才人 「いやぁ〜! よかったなぁ!」
ルイズ「芝居ってあんなにいいものだったのね……もっと早くに見にくればよかったわ」

 伸びをしたあとの二人は、とろりととろけそうな顔だった。
 才人も、芝居を見ていてここまで心動かされたのは初めてだった。
 学校で見た観劇とは比べ物にならない。あれが本物なのかと、ハルケギニアという世界を見直した瞬間だった。
 ……さて、そんな二人が出て行った劇場内だが。
 既に公演も終わった筈の劇場内では、リッシュモンとアンリエッタ、他数名の客を除いた者以外、誰も居ないというのに劇を始めていた。

リッシュモン「驚きましたな。
       まさか陛下がそのようなお姿で城を抜け出しておられるとは」
アンリエッタ「ふふ、どうです? 街娘のようでしょう。
       隣に座ったというのに気づきもしないなんて。
       やはりわたくしなど、
       貴方にとっては王の格好をしていなければ王ではないようですね」
リッシュモン「お戯れを。この老いた目を欺き、何を楽しもうというのですか、陛下」
アンリエッタ「なにを? ……ふふっ、それはもちろん、
       今日までの芝居の間にあなたと間諜が話し合っていたことですわ」
リッシュモン「間諜? なにを馬鹿な。私は商談の話をしていただけで───」
アンリエッタ「まあ。アルビオンと商談を? それも、とっくに捕まった人と?」
リッシュモン「なっ───!? どっ……どういうことですかな、陛下」

 リッシュモンが目を見開き、アンリエッタに答えを求める。
 しかし彼女はくすりと笑うと、ポニーテールにしていた髪をしゅるりと解き、指定席から立ち上がった。

劇団員   「芝居中です! 立たないでください!」
アンリエッタ「あっ……も、申し訳ありません」

 そして怒られて、しゅんとしたまま座った。

リッシュモン「………」
アンリエッタ「………」

 なんともいえない空気が漂った。
 しかしそんな空気にリッシュモンはニヤリと笑む。

リッシュモン「やはり若い」
アンリエッタ「そして、あなたは老いたというのに欲張りすぎた」
リッシュモン「……ほう?」
アンリエッタ「あなたがお待ちになっている間諜は来ませんよ。
       全てを吐かせた上で、チェルノボーグ監獄行きにしました」
リッシュモン「……いつから、私を疑っていたのですかな?」
アンリエッタ「とある夜からですわ。
       その時から、お友達を頼ってあなたを徹底的に洗いました」
リッシュモン「友達? ……この国に30余年尽くした私は、友達に負けたと」
アンリエッタ「……あなたは。なぜわたくしを売るような真似を?
       信じたくなかった。疑いが晴れればと、むしろ別の方ならばと思ったのに」
リッシュモン「陛下は私にとって、未だ何も知らぬ子供です。
       そんなあなたに国を任せるくらいならば、
       アルビオンに支配されたほうがまだマシというもの」

 リッシュモンは、哀れむような目でアンリエッタを見た。
 こんな子供ではこの国はおしまいだと。
 夢ばかりを語る子供に、国の未来は託せぬと。

アンリエッタ「……リッシュモン高等法院長。あなたを女王の名において罷免します。
       大人しく逮捕されなさい」

 しかしアンリエッタはその言葉を冷静に受け止めた上で、そう返した。
 何故だか余裕ぶったアンリエッタの、怒る姿を予想していたリッシュモンは逆に驚かされた。

リッシュモン「逮捕? まったく、小娘がいきがりおって。誰を逮捕するだって?」
アンリエッタ「なんですって?」
リッシュモン「私をワナに嵌めるなど百年早い。そう言っておるのですよ!」

 リッシュモンがポンと手を打った。
 すると、

劇団員「うるせぇ! 芝居中だって言ってんだろうが!!」

 ……怒られた。

リッシュモン「あ、いや……うむ、すまん……」

 興奮とともに立ち上がらせていた体を再び座らせ、アンリエッタとともに芝居を見た。
 やはり微妙な空気が漂っている。
 しかし劇団員は懸命に芝居をしている。
 小声でリッシュモンが語りかけるが、「俺達ゃこれでメシ食ってんですよ……! お願いですから邪魔しないでください貴族さま……!」と、切羽詰った言葉を返された。
 ならばと金を握らせるのだが、「賄賂で仕事が買えると思うな!」と怒られた。
 ……しっかりと金は奪われた上で。

リッシュモン「………」
アンリエッタ「………」

 律儀に芝居が終わるまでを待った。
 実際芝居は面白く、年甲斐もなくリッシュモンも楽しみ、やがてそれが終わる頃。

リッシュモン「陛下。あなたには昔から仰ってやりたいことが幾つかありましてな」
アンリエッタ「まあ。それは?」
リッシュモン「ふふっ……その一つがこれでございます。───詰めが甘い」

 再度、リッシュモンがポンと手を打った。
 すると客席に居た数名の男女の客が急に立ち上がり、

男女『あの子は太陽ォオオの小町っ! えぇんじぇえええッ!!』

 ……何故か急に、叫ぶように歌いだした。

リッシュモン「……エ?」

 当然、伏兵を忍ばせておいたつもりのリッシュモン、困惑。

アンリエッタ「詰めが……なんでしょう?」
リッシュモン「ぐっ……な、まさか……陛下……!?」
アンリエッタ「相手の舞台で、まさか何も用意していないとでも?」
リッシュモン「…………ふ、ふふふっ……だが、撤回はしませんぞ?
       お一人で、しかも私の隣に座ったことが陛下の敗因だ!」

 リッシュモンがアンリエッタを人質に取ろうと手を伸ばす。
 しかしアンリエッタはこれを冷静にパンと手の甲で弾くと、

アンリエッタ「───掌握」

 小さく呟き、リッシュモンを軽く投げ飛ばしていた。

リッシュモン「へ……!?」

 回転するリッシュモン。
 呟いた直後にグシャアと床に落下したが、悶絶をしたのちにしっかりと起き上がる。
 意外に頑丈でパワフルである。

リッシュモン「ぐっ……ま、まだですぞ……! というか、何処でそのような業を……!」
アンリエッタ「一国の王が杖が無くて抵抗できずに捕らえられた、では示しがつきません」
リッシュモン「…………なるほど。
       どうやらこのリッシュモン、陛下を下に見すぎていたようだ。
       いや、見ることをやめていたのやもしれませぬなぁ……」
アンリエッタ「……さあ、大人しく逮捕───」
リッシュモン「だからといって、この国の未来は変わったりなどしませぬがな!
       やはり甘い! 抗うだけが策だと思うなどと!」

 リッシュモンがとある位置に駆け、その床をダンッと強く踏んだ。
 するとその場が落とし穴の要領でバクンと開き、

アンリエッタ「〜♪」
リッシュモン「!?」

 アンリエッタが笑顔でひらひらと揺らす杖(リッシュモンのもの)を見ると、余裕の顔を驚愕へと変えた。もちろん落とし穴は深く、途中でレビテーションでも使わなければ命さえ危ないものだった。レビテーションを使えば最高の逃げ道であったそこは、その瞬間ただの落とし穴と化した。

リッシュモン「ひぁっ……あ、ひぎゃぁああああああああぁぁぁぁぁぁ───…………」

 落ちてゆく。
 悲鳴はあっという間に聞こえなくなり、アンリエッタは静かに目を伏せた。

劇団員「せんせい! こ、このゆかはだれかのわなだったんだ!
    このたかさからおちたのではせんせいは……
    あぁもしさいしょからやりなおすことができればなんんとかなるのに……」

 劇団員が駆けつけて説明口調で言うが、言葉から解る通り、助ける気はゼロである。

アンリエッタ「それで、ヒロミツさん。下の方へは───」
劇団員   「ギリギリ死なないように、体操マットを敷いてあります。
       まあ足の複雑骨折くらいでなんとか助かるんじゃない?
       助けなくていいならアモルファスで食ってマナの足しにするんだけど」
アンリエッタ「……申し訳ありませんが」
劇団員   「だよね。いいっていいって。こっちも全力で演劇とかやって楽しめたし」
アンリエッタ「そういえば、修道女役の方、初めて見る人だった気がしましたけれど」
劇団員   「ああ、ちょっと事情があって修道院から身元引き受けたお子です。
       名前はジョゼット。とってもいいお子で、お兄さん嬉しい。
       ガリア出身だけど、まあそこんところは気にしないでやってほしい」
アンリエッタ「ガリアの……」

 ちらりと見る舞台の上では、修道服に身を包んだ少女が何故か胴上げされていた。
 しかし楽しそうであったため、アンリエッタはくすりと笑うと歩き出す。

劇団員   「下へ?」
アンリエッタ「下にはアニエスが居ます。
       私怨による復讐を許可する王を、あなたはどう思いますか?」
劇団員   「私怨? んー……なんのこっちゃ解らないけど、私怨なんでしょ?
       それは誰にも否定出来ないよ、きっと。
       誰かに言われて“じゃー忘れます”って言えるのは、私怨にも満たないよ。
       殺したいほど憎い相手がたまたま国を売った処刑確定の馬鹿だった。
       それだけの話で片付ければいいよ」
アンリエッタ「ありがとうございます……その言葉で、少し救われました」
劇団員   「……信用するのって辛いでしょ? 誰を信じればいいのか解らなくなる」
アンリエッタ「はい。少し、ほんの少しだけ、ヒロミツさんの気持ちが解った気がします。
       相手が勝手に信用するなら、自分は自分に出来ることをしていればいい。
       それは……とても心が軽いことなのですね」
劇団員   「背負うのは辛いからね。ところで、私怨っての、聞いても大丈夫?」
アンリエッタ「それは、アニエスから聞いてくれればと思います」
劇団員   「ムー……そうだね」

 納得し、劇団員として出ていた皆をマントへ収納。
 結果として胴上げ中だったジョゼットが悲鳴をあげて舞台に落下した。
 ゲゲェと大声で叫んだ彼は、ジョゼットにこってりと叱られることとなった。

アンリエッタ「くすくす……♪」

 全ての人がマントへ消えた頃、そんな二人を見ていたアンリエッタだけが、口に手を当ててくすくすと笑っていた。
 夏期休暇も中盤に差し掛かるというそんな時期。
 その日を境に、タニアリージュ・ロワイヤル座はつまらなくなったという噂が、あっという間に広まったという。





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