29/ミョズニトニルン

 外は雨なので、ヒロラインのグラウベフェイトー山の浮遊城での座学を始めた。

中井出「いいかぁルイズ。ここでは系統って言ってる属性魔法には、
    弱点属性の他に魔法そのものへの弱点ってものがある」
ルイズ「魔法そのものへの?」
中井出「そう。火は水で消えるけど、水が蒸発するほどの火を出されれば蒸発。
    風は土を乾かして砂に変えるけど、土は風を防げる。
    火は風で消えるけど、風を含めば燃え盛る。水は土を泥や泥水に変えるけど、
    土は水を吸収して固まる。とまあ、いろいろ相性はある。
    それくらいは勉強してると思うからこの際そこは飛ばそう」
ルイズ「う、うん」
中井出「じゃあ問題を出していくから、自分で思ったことを素直に答えましょう。
    第一問。敵がファイアーボールを撃ってきた。どうする?」
ルイズ「ファイアーボールで相殺するか、アースウォールで防御するわ」
中井出「OK。でもファイアーボールには追尾性はないから、
    精神力を残しておくためにも極力自分で避けましょう。
    単発魔法は出来るだけ避ける。
    余裕があるなら相手を挑発して連発させる。精神力を削ってやろう」

 黒板にカッカカッと図や文字を連ねる。
 ルイズはそれを真面目に聞き、理解しようとしている。
 中井出は“さっすが座学ナンバーワン”と感心しながら、次々と問題を出していった。

中井出「……と。敵が突然レーザーを放ってきたら弾く。
    光線系は反射するものに弱いから、
    上手く傾けたものなら逸らすことが出来るわけだ。
    ただし速度が速いから、こっちも相当に早く反応しなくちゃいけない」
ルイズ「いろいろあるのね……避けるか防ぐかしか考えなかったわ」
中井出「そんなもんだって。で、風メイジが使う巨大な魔法といえば?」
ルイズ「ライトニングクラウドとかカッタートルネード?」
中井出「そ。ライトニングクラウドには、
    避雷針代わりに雷を誘導するモノでもぶつけてやればいい。
    カッタートルネードは……まあ、刃を持った竜巻だな。
    これもルイズなら簡単だと思う」
ルイズ「わたしなら?」
中井出「竜巻を出す相手が居たら、竜巻の中心に熱爆発をぶちかましてやれ。
    お前は潜在魔力が高いから、集中してやれば簡単に壊せるだろ」
ルイズ「熱爆発……フォトンだっけ?」
中井出「相手の魔力の強さにもよるだろうから、壊す気で行くならエクスプロードだな」

 言いながら、しかしエクスプロードと黒板に書いた文字にバッテンを上書きする。

ルイズ「? だめなの?」
中井出「ヒロライン魔法は、確かにTPさえあれば魔法は使える。
    ただし、レベルが低いと必要TPが高いんだ。
    100レベルで覚える魔法を1レベルで使う場合、
    消費TP+レベルとの差の分の数。初級中級上級とどんどん制約は増えていって、
    エクスプロードみたいな魔法だと、単純な差の分じゃ補えないんだ。
    今のルイズが使えば気絶は間違いなくするだろうし、その気絶もかなり長い」
ルイズ「じゃあダメじゃない」
中井出「おうさ。そこでだ」

 ピンと立てた人差し指をくるくると回し、笑顔で説明を続ける。
 説明しながら黒板に書かれる文字や図は、ルイズに解りやすいように書かれている。

中井出「お前の失敗魔法に詠唱は要らない。
    しかもそれ自体をヒロライン魔法で包み込むことさえ出来る。
    水魔法に失敗魔法を包み込んだウォーターバーストとかだな。
    まあこれはストックを上手く使った、結構面倒な魔法だけど、かなり役立つ。
    つまりな、それを上手く使って大爆発を起こしてやればいいんだ」
ルイズ「どうやって?」
中井出「竜巻ってのはモノを巻き込みながら移動する。
    なら竜巻に火薬みたいなものを吸い込ませて、
    離れた位置で失敗魔法で起爆してやればいい。
    外側にあるものには滅法強い竜巻だけど、
    実は内側から外に向かう力には案外弱いんだよ。
    座学が出来るなら、ヒロラインでの火薬の調合くらいお手の物だろ?」
ルイズ「あ……そっか。火薬草とニトロダケよね?」
中井出「そうそう。魔法が使えないからこそ伸ばしてきたものを、最大限に活かしなさい。
    その知識は絶対に無駄ではないことを、キミは必ず心に刻めるから」
ルイズ「…………うんっ!
    ……でも、火薬を飛ばしたとして、爆発が当てられなかったら?
    ただでさえ妙なところが爆発するのに」
中井出「だったら“ものを捉えなきゃ意味が無い魔法”を失敗すりゃいい。
    あるだろ? 便利なのが一つ」
ルイズ「……? ───あ!」

 授業は続く。
 早速様々を試したり、魔法の練習をしたり。
 途中でマナが尽きかけた中井出が吐血したところで終わりになったが、中断になってもルイズの表情は明るかった。

中井出「エッフ……ゲフッ……! お、おー……では最後に。
    ルイズ、キミは武器ではなく、実戦で“自分”が戦ったことはなかったよな?」
ルイズ「え……あ、でもヒロラインでならラットンくらいなら」
中井出「相手が人型だったことや、強かったこと、コロがされたことは?」
ルイズ「…………ないわ」
中井出「そか。じゃあ……一回きりだ。お前の実力を出しきれば勝てる相手を用意する。
    戦に出るかもしれないことを想定してのものだ。
    きちんと“全部”を使うこと。そうじゃないとひどい目に遭うからな」
ルイズ「えぇ!? ちょ、ちょちょちょななななんでっ……!」

 返事は召喚で返した。
 マントから出した黒が人型になり、ルイズを睨んだ。
 もちろん、殺気を籠めて。
 するとルイズが、ひう、と悲鳴を上げて身を竦める。

中井出「これ自体に命はない。
    でも、戦に出るってことは人をコロがすものだと知りなさい。
    これすら破壊できなくちゃ、お前は貴族としても人としても国のために働けない」
ルイズ「………」
中井出「……ルイズ。正直に言いなさい。……怖いか?」

 ルイズが黒の人型を見つめる。
 うぞうぞと動くそれは、時間が経つにつれどんどんと人間らしくなる。
 やがて時間経過が怖くなり、きゅっと目を瞑ると、ルイズは悲しそうに頷いた。

中井出「そっか。うん。でもな、それは恥ずかしいことじゃないぞ。
    戦いを怖がるのは当然だ。俺だって怖い。誰だって怖い。
    でもそれは、それぞれの人が意地や意思や野心を持ってるから戦えるんだ。
    人を殺すのはね、本気で怖いことだ。
    だからって“国のためにそれをやる”なんて大義名分に逃げるな。
    お前が殺す相手はお前が殺す。人殺しは国がするものじゃないんだから」
ルイズ「殺す……わたしが……」

 復唱すると体が震えた。
 どうして、と腕を抱くように身を傾けるが、震えは強くなる一方だった。

中井出「だからな、どうしても立ち上がれない時、
    どうしても怖い時のために、とっておきを教えてやる」
ルイズ「とって……おき……?」
中井出「ああ。“勇気が出る魔法”だ」

 にっこり笑って、震えるルイズの頭をやさしく撫で、中井出は言う。
 ルイズは震えながらもその手の温かさに、少しだけほっとして……その勇気の魔法とやらを聞き逃さずに耳にしようと構える。

中井出「なにも難しいことじゃない。自分はその勇気さえあれば、
    自分を、友達を、仲間を、家族を信じられるって……そう思うんだ。
    国の所為にもしない。誰の所為にもしない。
    自分の所為なら、誰を恨むこともなく戦える。
    そう思えるようになったら、それらの思いを手に籠める」
ルイズ「………………うん」

 言いながら、中井出はルイズの手を取って、その綺麗な人差し指にトンと指を置く。
 ようは自信を、勇気を彼女が持てばいいのだ。
 けれど“覚悟の魔法”は俺じゃなければ意味がない。
 だったら……そうだなぁ。
 この世界の魔法っぽく、胸が熱くなるようなものがいいだろう。
 ガンダールヴみたいに意思の強さで燃え上がるような熱さだ。
 そんな簡単な思いを心の中で巡らせながら、中井出はルイズの人差し指の腹をトントンと突いて呪文を唱え、最後にキュッと握る。
 ルイズは少し驚いていたが、その指に熱が籠もるのを感じると、それが“勇気の魔法”なのだと受け入れた。

中井出「これでよし、っと。いいか? 勇気が出せない、怖い時には、
    この人差し指で左手に“勇気”って書いて、それをペロっと舐めてごらんなさい」
ルイズ「………」

 言われた通りにやってみる。
 すると、心に何か、温かいものが溢れていった。
 それは余計な不安を打ち消す魔法。
 空界の式で、ブレイブという初級の式。
 言葉や行動には“意味”が宿る。
 たとえ意味が無いものでも、“そう”と信じればそうであれるように、信じる心を後押しする魔法でもあった。
 それが終わるとルイズの目は小さく据わり、雰囲気が変わった。
 一種のトランス状態になったかのように、ルイズの震えはぴたりと止まっていた。

中井出「ウオッ!? え、あ……えぇ〜……?
    まさかここまで効果があるなんて……。
    もしかして物事に影響されやすいのかね、このお子は」

 まあ、素直なことはいいことだよねと思いつつ、鋭い目つきのルイズの頭を撫でた。

ルイズ「不安が消えた……すごい、なにこれ」
中井出「それが勇気の魔法だ。いつかキミがそれに頼らなくてもよくなった時は、
    自分自身できちんと勇気を以って、前を向いてごらんなさい」
ルイズ「わかったわ」
中井出「でもね、出来るだけ状況を見極めてから使うこと。
    勇気は無謀に繋がる、一番危険な心の方角だ。
    死にたくないって思ったら臆病がいい。勝ちたいって思ったら勇気がいい。
    きちんと心の方角を決めて、逃げたくなったら迷わず臆病風に吹かれなさい。
    貴族は背中を見せないなんて、無鉄砲で強いやつだけが言えばいい。
    死んで家族を悲しませるくらいなら、臆病者だっていい。生き残りなさい。
    生き残って、それから強くなって、汚名なんて返上してやればいい」
ルイズ「解ったってば」

 言うや、ルイズが詠唱を始め、黒目掛けて躊躇無く魔法を放った。
 「へ?」と中井出が戸惑いを口にした瞬間には、黒はもう爆ぜて消えていた。

中井出「………」

 “自己暗示って、やる人がやれば怖いんだなぁ”……と、彼は本気で思ったそうな。

中井出「よっしゃ! じゃあ勇気が続いてる内に鍛錬だっ!」
ルイズ「Yah!!」

 ともかく実戦経験乏しいルイズの前に、黒のモンスターを象っていった。
 もちろん先に言った通り、能力をフルに活用していけば問題無く倒せる相手を。
 使う能力を間違えれば倒せないのだから、苦労もするし、時には楽に倒せる。
 そういった“戦い方と相性”というものを叩き込みながら、時には普通のモンスターも混ぜることで、彼女のレベルアップを図っていった。
 ある程度それが済むと才人を呼び、連携を覚えさせることも抜かりなく。
 ルイズは気が強いために前に出すぎる傾向があり、それを守ろうとする才人もまた前に出すぎる。結果としてルイズの魔法を才人が食らう破目になったりもして、二人はその度にあーではないこーではないと言い争いを始め……黒にボコボコにされた。


───……。


 ある日、ギーシュ・ド・グラモンは、ヴェストリの広場で中井出に教授を受けていた。
 四系統の応用と、別にラインだのトライアングルだののように、系統を最初から合わせる必要性はさほど存在しないこと、などなど。

中井出 「じゃ、やってみよう。イメージからだな。まず土の塊を空へ飛ばす。
     これはゴーレムを作ることの応用だな。
     ゴーレムほど大きくなくていいから、丈夫は土の塊を作る」
ギーシュ「任せてくれたまえよ」
中井出 「あ、土に花びらを混ぜてね。ギーシュなら簡単さ」
ギーシュ「もちろんさ」

 ギーシュが土に向けて詠唱をし、土を圧縮した塊を作る。

中井出 「次にレビテーションでそれを空へ」
ギーシュ「こうかい?」

 土の塊を一定の高さへ浮かす。

中井出 「で、ここで錬金を使って花びらを油に変えます」
ギーシュ「浮かせたままは無理だよ!」
中井出 「落としていいから。で、油に変えたら即座に発火!」
ギーシュ「注文が多いね! “錬金”! “発火”(ウル・カーノ)!」

 魔法効果から離れ、落ちてゆく塊に魔法をかける。
 するとどろりとした土が完成したと思うや、それが燃えて火の塊となって地面に落ちた。

ギーシュ「えーと。これがどうしたっていうんだい?」
中井出 「いいかギーシュ。ヒロラインにはメテオスウォームっていう魔法がある。
     隕石を落とす魔法だが、これはその応用。プチメテオってやつだ。
     まずさっきの工程を……こうしてこうしてこう。
     土に花びらを混ぜて空に浮かべて、敵目掛けてリバースレビテーション。
     すぐに錬金と発火で」

 どっかーん、と大きな音が鳴り、地面に燃え盛る塊が落ちた。

ギーシュ「あ……当たったらと思うと、ぞっとするね」
中井出 「錬金で内側から油が溢れてるから、地面と衝突したくらいじゃ炎は消えない。
     ラインメイジでも出来る、簡単なマッシュスペルだ。
     で、レビテーションは浮かせたものを自由に操れるだろ?」
ギーシュ「……! つまり落とす塊を、相手にぶつかるまで操れるということかい!?」
中井出 「イエースザッツライト!!
     ただ連続で魔法を使うから、精神力を鍛えておかないと辛いな。
     一撃で決めるなら、それこそドットメイジで十分なんだけど。
     あ、最初から浮かせる前に燃やしておけばいいか。
     それでレビテーション使ってホーミングメテオ火球の完成だ。
     ハルケギニア版のコメッティックミサイルだな」
ギーシュ「これならば学院のメイジを整列させるだけで、恐ろしい光景が見れそうだよ」
中井出 「それこそメテオだろ、それ。
     まあ、俺もそれ考えてメイドたちに基礎叩き込んでるんだけどね」
ギーシュ「メイドにかい? 没落貴族のメイドの子でも見つけたのかな?」
中井出 「あー……と。ほら、オルニエールって知ってるだろ?」
ギーシュ「ああ、噂はよく聞くよ。トリステイン貴族でありながら、
     平民と貴族に溝を作らない変わり者だと。それがどうかしたのかい?」
中井出 「友だからキミには伝える。あれ、実は俺だ」
ギーシュ「………」

 びしりと固まった。
 ホワイ? なぜ? 彼は貴族が嫌いだったはずでは? なのに何故男爵?
 ぐるぐると頭の中が回転するが、それは説明してもらったことで納得した。

ギーシュ「なるほど、プリンス・オブ・ウェールズを匿うためか」
中井出 「他にもいろいろ事情があるんだけどね。あ、このことはルイズには内緒で。
     診療所なんてものをやってる都合上、生徒と会うことはあっても、
     今のところルイズとは領地では会ってないんだ」
ギーシュ「しかしキミ、神の癒し手がルイズの姉を治したと聞いたぞ?
     それはキミのことで、ルイズもお礼をしたがっているんじゃないかい?」
中井出 「え? 隠し通すよ? ヴァリエール家からも逃げ続けてるし、
     お礼が欲しくて治したわけじゃないしね」
ギーシュ「キミは、欲がないな。
     ラ・ヴァリエールに借りを作ることが、僕ら貴族にとってどれほど───」
中井出 「貴族は相変わらず嫌いだって。だから貸し借りも余計に嫌だ。
     大体、借り返したいなら偉そうにするのやめろって言って、首を縦に振る?」
ギーシュ「無理だろうね」
中井出 「でしょ?」

 そんな話で言葉を切り、ギーシュは貴族である中井出を想像してみる。
 領地に行ったことはないが、とても素晴らしいところだという噂を耳にした。
 なんでも女性が多いらしく、皆美しいと聞く。
 一度は行ってみたいが……彼が領主となると、確実に色恋には厳しいだろうとアタリをつけた。しかも先ほどの言葉だ。“メイドに魔法を教えている”。それこそ、その大勢居る女性を敵に回せば、追尾する炎の塊が女性の数だけ飛んで来るかもしれない。

ギーシュ「薔薇でいようとするのがどれほど大変なのかを、再認識した気分だよ」
中井出 「え? いきなりなに?」

 疑問はいろいろとあったが、授業の合間や食事時など、授業の時間以外はこうして練習をしたり、ヒロラインへ出たりを繰り返していた。
 ラインの上位まで力が上がることで、ギーシュにもいろいろな自信がついてきている。
 しかしながら、“慢心はするな”がヒロラインの鉄の掟。初心者修練場でも無理矢理知るものであり、慢心して旅立ちの扉を開けた途端、その慢心ごとキングベヒーモスに潰された者などたくさん居た。
 東で格闘のいろはを叩き込まれてから、実際に冒険を始めることになったアンリエッタもその限りだったりもし、見事に自身と自信を叩き潰された。

ギーシュ「しかしレイピアというのはこう、美しいね。
     癪ではあるけど、ワルド子爵……いや。
     ジャン・ジャック・フランシスがレイピアを身に着けていた理由も、
     なんとなくではあるけれど解るよ」
中井出 「杖無くなったら何も出来ないんだから、武器の扱いを覚えるのも当然だ。
     むしろ薔薇とレイピアって合うじゃないか。
     ギーシュのために開発されたようなもんだろ」
ギーシュ「そ、そうかい? そう思うかねっ!」
中井出 「うむ! だから華麗に魔法とレイピアを操る薔薇の騎士になればいいのさ!」
ギーシュ「薔薇の騎士! 素晴らしい響きじゃないか!」
中井出 「ああ……もうマッスルボディは卒業だな。
     今やどの系統もドットは使えるギーシュだ。
     力技は卒業して、これからは華麗なる薔薇の騎士になるのさ!」
ギーシュ「もちろんだ! 僕はやれば出来るのだから!」
中井出 「その意気さギーシュ!」

 ヴェストリの広場に、男二人の楽しそうな声が響いた。
 二人はウォオオと叫びながら夢物語を話し合い、魔法の練習をし、精神力が尽きると別れ、それぞれの時間へと戻っていった。


───……。


 そんな生活を続けて、夏期休暇より二ヶ月。
 とうとう平和をぶち壊す、アルビオンからの宣戦布告が出された。
 アトリシアから聞いていたこともあり、中井出は「やっぱりくるのか……」としか思わなかった。

ジョゼフ「ほう。トリステインに宣戦布告か。また随分と面白いことを」
中井出 「ホヘ? おおジョゼフ、一人?」

 癒しの大樹を撫でていた中井出の背に、声が投げられる。
 振り向けばジョゼフが居て、一人かと思えばその場にはシェフィールドが。

中井出 「どしたの、他のお子めらが居ないなんて珍しい」
ジョゼフ「ああ。ガリアもまあまあ安定してきた。そろそろアレを頼もうと思って来た」
中井出 「アレって……アレか」
ジョゼフ「ああ、アレだ」

 アレ。つまりは以前言っていた仮死状態での虚無からの脱出の話だ。
 シェフィールドも使い魔の契約から離れてみたいのだという。
 そんなことを彼女が言い出したのには、シャルロットの「使い魔はルーンによって、主に好意を抱く」という言葉がそもそもだった。この私がジョゼフ様を好いていないとでも? とばかりにあっさりと今回の件を受け入れたのだ。

中井出「じゃあ……ザ・ワールド」

 火闇に時属性を混ぜ、魔人として召喚。
 ジョゼフの皮膚を擦り抜け、心臓だけを鷲掴みにし、心臓が止まるまでを体験してもらった。もちろん停止確認後はグワシグワシと心臓直接マッサージをして、彼を復活させたが。

ジョゼフ「ぶはっ! がはっ! はっ、はぁ! はぁあ……!!
     あ、あれが死というものか……!
     シャルルは、あのような心寂しい思いをしながら死んだと……!」
中井出 「で、どう? 系統魔法」
ジョゼフ「ぐはっ、はぁ……ま、待て……! すぅ……はぁ……!
     うむ。ではいこう。“加速”」

 ジョゼフは系統魔法ではなく、まず虚無を使った。
 ───しかし失敗。エクスプロージョンも唱えてみたが、発動しなかった。

ジョゼフ「虚無が使えん。クフフ」
中井出 「うわっ! めっちゃ嬉しそう!」
ジョゼフ「まずは火系統だ! ウル・カーノ!」

 オモチャを手にした子供の顔で、いざ魔法をレッツゴー。
 バッと突き出した杖の先で、小さい灯火がメラリと揺れた。

ジョゼフ「ウォオオオオオオオオオオッ!!!
     ウオッ! ウオオッ!! オォオオオーーーーーーーーーーッ!!!!」

 そしてプラトーンのポーズである。
 大地に両膝を着き、両腕を天に掲げ、握り拳。顔は仰け反らせ、ただただ雄たけびを。

ジョゼフ「余のかわいいミューズよ! 俺はやったぞ! 系統魔法に目覚めた!
     忌々しい虚無を離れ、俺はついに、無能から貴族になれたぞ!!」

 いい顔だった。歳相応とはとても言えぬほどの、魔法を使いだす5歳時相応のような、とても元気で子供っぽい笑顔だった。
 続いて水、土、最後に風の系統魔法を試してみて、彼は大燥ぎだった。
 無能などとはとんでもない。
 魔法はそれはもう拙かったが、粒理論で発動する虚無を操った反動か、飲み込みは早く、次々と魔法を行使していった。

ジョゼフ「フライ! フライフライフライ! フラァーーーーイ!!」

 そして興奮したままにフライを発動。
 しかし風の才能が乏しいことを知ると、両手両膝をついてウォオオオオオオオオ!!と男泣きを始めた。

中井出    「……は、激しい殿方だったのね」
シェフィールド「当然よ。さ、次は私ね」
中井出    「御意」

 ジョゼフの時と同じく、心臓をグワシィと掴んで停止させる。
 するとその過程で額にあったルーンが消えて、それを確認するや心臓マッサージを始める。もちろん、あっさりと復活した。

シェフィールド「…………心臓の停止でだけは、もう死にたくないわね」
中井出    「誰だってそうだって。で、どう?
        あそこで子供のように泣いてるのがあなたの愛しいジョゼフだけど」

 ……訊くまでもなかった。
 シェフィールドはうっとりとした顔でジョゼフを見ており、むしろ“守ってあげたい”なんて言ってたりするので、もうなんというかバカップルっぽくて砂糖を吐きたくなった。

中井出「で、虚無が誰に移ったか、なんだけど。
    そういやさ、ジョゼットってシャルルの娘なんだよね?
    魔法使ってるとこ見たことないんだけど───」

 びしり。
 その言葉で、ジョゼフとシェフィールドが固まるのを、彼は首を傾げながら見ていた。

……。

 ジョゼットは魔法が使えなかった。
 イザベラとの違いは、イザベラは使えない時があるだけで、成功はする。
 ジョゼットは一切成功しなかった。
 しかし失敗すると“体が軽くなる”と言った。
 つまりそれは“加速”の片鱗であり…………ジョゼフから、無事に虚無が転移したことを知らせる、いい証拠となった。

ジョゼット「え……わたしが、虚無……?」

 ジョゼットは戸惑った。

中井出「そう、虚無だ」

 中井出は言った。
 ジョゼフとのアレコレがあった……当日。
 「セオリーの“翌日”など待ってられーん!」と迎えにいった中井出は、オルレアン邸でその事実を告白。
 驚いている家族をよそに、説明を続けた。
 ジョゼフの体から虚無が転移したこと。
 シェフィールドが使い魔から人間に戻ったこと。
 あとは、猛者知識である四人の使い魔のことも。

中井出  「つまり、ジョゼットが召喚の儀式を行えば、
      新たなるミョズニトニルンの誕生ってわけさ!」
ジョゼット「………」

 言われて、ジョゼットはちらちらと中井出と床とを交互に見た。
 杖は既に両親にプレゼントされている。
 自分にとっては宝物だ。
 しかしいくら振っても成功はしなかった。
 それがどうだろう、今日振ってみたら体が一瞬軽くなった。
 それは既に虚無が移ったから、なのだろう。

ジョゼット  「……召喚した使い魔とは……確か、くち、くちづけを……」
中井出    「え? あ、あー……うん、そうなるね。
        でも大丈夫! なんか虚無の使い魔の召喚の条件って、
        運命と、それから愛によって召喚されるものらしいから!
        運命かは解らなくても、愛した人とならチスできるさ!」
オルレアン一家『───《ぴくり》』
中井出    「……ホイ?」

 オルレアン一家の肩がぴくりと動いた。
 それから何故かジョゼットの顔がとても凛々しくなり、シャルロットがそわそわしだし、夫人は「あらあら」とおかしそうに頬に手を当て、オルレアン公シャルルはあわあわと落ち着かない。

ジョゼット「道化のお兄さま。お願いがあります」
中井出  「おおなんだい? なんでも言うだけ言ってみるとよかギン」
ジョゼット「なにか、銃のようなものはありますか?」
中井出  「銃とな? えーと……」

 中井出が霊章を探る。
 それから手応えを得て、ズチャリと取り出したのはフルウノングンだった。

中井出  「魔払いの銃なら。どうするの?」
ジョゼット「わたしはここに誓います」

 それを受け取りながら、ジョゼットは言う。
 凛々しい目で、まるで王族そのものの視線で真っ直ぐに中井出の目を見て。

ジョゼット「セント・マルガリタ修道院を出る時、わたしは誓いました。
      ずっと、一生あなたについていくと。
      もしこれで知らない男が現れて、それが愛でなく運命なら。
      もし、わたしが恋に恋をしているだけで、あなたを愛していないのなら。
      わたしはこの銃で自分の頭を撃ちます」
シャルル 「なにににににににィイーーーッ!!?」

 オルレアン公、絶叫。
 ジョゼットの、以前のような物語の少女のような口調は、いつの間にか少女のそれに変わっていた。中井出はそれを受け取り、そこまでの覚悟か……と頷く。
 そうして頷いてから、“愛? え? 愛って誰を?”と笑顔で鼻血を流しながら思った。

ジョゼット「あなたを愛していないのなら、わたしの決心も嘘になる。
      そんなわたしに生きる価値なんてないわ」
中井出  「ぬう。愛が全てではないぞ、ジョゼットよ」
ジョゼット「違うわ、ヒロミツ。
      人の“全”は人が決めるべきで、あなたはわたしにそれを教えてくれた。
      わたしは愛に生きる。我が儘でも身勝手でも、それがわたしの“楽しい”よ」
中井出  「───! 解った、もう止めぬ! うぬの覚悟、存分に披露されませい!」
ジョゼット「はいっ!」

 道化のお兄さまではなく、覚悟を以って“ヒロミツ”と呼んだ。
 怒られるかもとも思ったが、受け入れられたことが嬉しかった。
 そうだ、こんな気持ちが嘘なわけがない。ならばわたしは───
 様々な想いがジョゼットの中に溢れ、魔力となって杖に集まる。
 ジョゼットはそれを感じながら、呪文を唱えていった。

シャルロット「………」

 そんな光景を、シャルロットは黙って見守った。
 どうなるのだろう。
 運命ならば誰が召喚されるのか。愛ならば誰が召喚されるのか。
 妹が好いている相手が誰なのかなど、一目瞭然だった。
 もちろん本人は気づいていないようだったが、それならそれでも構わないと思った。
 なぜなら彼自身には好いている相手が居る。
 思うだけならば勝手で、叶うなら傍に。
 そんな想いを抱くことくらい許されるはずだ。
 そんな感情を持つ妹を、どこかで微笑ましく思っていた。
 だが、ではこの胸に渦巻く感情はなんなのか。
 運命でも愛でも、彼の前にゲートなど出てきてほしくない……自分はそう思っている。
 それはなぜ?
 それは───

中井出「……ややっ!?」

 ───空気を押し退けるようにして、白く大きなモヤのようなものが、中井出の目の前に現れた。
 瞬間、シャルロットは目を見開き、ジョゼットは「は、あ……!?」と声にならない声を出し、オルレアン夫婦は驚きを口にした。

中井出「ウェエーーーーイ!!」

 なにやら張り詰めた空気があったので、それを壊す意味も籠めて中井出は走った。
 走り、ゲートを抜けると、目の前にはジョゼットが。
 しかしそのジョゼットが、急にその場に崩れ落ちた。
 咄嗟に支えると、ジョゼットは汗だくになった顔を拭いもせず、息を荒くしていた。

中井出  「ひょっ!? すごい熱じゃ! ……じゃなくてどうしたんだい急に!」
ジョゼット「あ、安心したら……気が抜けたの……」
中井出  「ぬう……あの覚悟の量から察するに、本気で死ぬつもりだったのは解ったが。
      無茶するなぁキミも」
ジョゼット「人を愛するとは、そういうものでしょう?」
中井出  「……そだね。で、愛するって誰を?」
ジョゼット「………」

 部屋の空気が一気に凍った。
 ジョゼットはふるふると震えながらもコントラクトサーヴァントの詠唱をして、困惑する中井出の顔をぐっと押さえると……熱烈なキスをかました。
 ドジュウウという音が鳴って、彼の額に使い魔のルーンが現れ、ルーンを刻む熱に襲われた彼は「ウギャアアアーーーーッ!!!」と割と本気で苦しんだ。
 現れたのは当然、ミョズニトニルンのルーンだった。

 ……のちに樹木の蔓によって締め上げられた中井出が語るが、ディープだったらしい。
 タンがマウスに潜り込んで来ましたと素直に懺悔すると、彼は締め落とされた。


───……。


 でってーでげってってー……でげってってってー♪

中井出「ひったっいーにーバンダナァーーッ!!」

 その日から、彼は額にバンダナを巻いていた。もちろん、ルーンを隠すため。
 これでエロなら横島だねっ! なんて嬉しそうに言っている。
 それとは関係なしに、ジョゼットとシャルロットがオルニエールの屋敷に訪れる回数が極端に増えた。

中井出「マジックアイテムつかーむとー! 額が光るぜミョズニトニルーーン!!」

 額に現れたルーンは神の頭脳。
 全てのマジックアイテムを使えるということで、彼は面白がっていた。
 というわけで、いろいろあり……現在はオルニエール。
 ジョゼットとシャルロットがやってきた理由を話して聞かせると、これまた何故かシエスタとティファニアが泣いてしまい、マチルダが激怒。必死に説明する中井出がスクウェアゴーレムに握り締められ気絶するまで、そう時間は必要じゃあなかった。

中井出「ちくしょう! その領主を領主とも思わぬ態度! 許せるっ!!」

 でも許した。
 マチルダにもティファニアにもきちんと説明して、別に結婚するから一緒に居るわけじゃないよ? と言うと、さらにどうしてかティファニアに“ほんと? ほんと?”と訊ねられ、頷いたらへにょりと微笑をもらった。
 そんな笑顔にホッとするのも束の間、肩をポムと叩かれると、

マチルダ「次、テファを泣かしたら殺すよ?」
中井出 「………」

 むしろ彼が泣いた。
 それからはシエスタとも話をして、

シエスタ「わたし、愛人でもいいんですっ! ヒロミツさんの傍に置いてくださいっ!」

 …………話の途中にそんなことを言われ、再び彼は泣いた。
 泣いて、霊章から這い出した蔓に捕まり、ゴキベキと締め落とされた。

……。

 日常が激化してゆく。
 国は慌しく兵を募り、しかしその捗りは大したものではなく、ついには貴族学生を軍に登用する、などといった事態にまで及んだ。
 学生。つまりは魔法学院の生徒も、戦に出る必要があるということだ。
 そしてそんな激化とは別に、一人の男の人生も激化していた。

ジョゼット 「姉様! ヒロミツはわたしの使い魔で愛しい人です! 離してください!」
シャルロット「許容できない。彼の自由は彼のもの。
       主だからといって、縛る理由にはならない」
シエスタ  「ヒロミツさんっ、今度は寒い時期に向けてセーターを編んだんですっ!」
ティファニア「ヒロミツ、そ、その、お散歩にでも、いかない?」

 姦しさが、やかましさになっていた。三人ならば姦しさだったのに。
 おかしい。
 彼はそう思っていた。
 確か、才人に妙なフラグを立たせずにルイズに真っ直ぐになってもらおう……最初はそう思って行動していた。だからフラグは徹底的に才人が立てないように、しかし手柄は出来るだけ才人にと望んできたはずなのに。

中井出「ハハハハ! おいおいまいったな! 手がいくつあっても足りないよ!」

 なのでフォルゴレの真似をすることにした。
 直後に彼はカレーパンマンになった。

ジョゼット「ヒロミツはわたしの他にもこんなに手を出していたの?」
中井出  「手を出す? 違うな……俺は楽しいを届けたくて届けただけだよ?
      ていうかあのー……俺、一度だって好きだとか愛してるだとか言った?」
ジョゼット「行動から十二分を受け取るのが女性なの!」
中井出  「そうなの!?」

 “すげぇ! でも誤解も十二分の速度で広がってる!”
 そう思っては見ても、言わなかった。
 女って怖い。

シャルロット「そもそも彼には好きな人が居る。あなたの行動はその妨げになる」
ジョゼット 「霊章、というこの紋様から出てくる蔓の正体ですね。
       姿も見せないで嫉妬だけをするなんてひどいではありませんか。
       わたしはそんな人、認めたくありません」
シャルロット「《こくり》それは同感」
シエスタ  「でも、とても綺麗で素敵な人ですよ」
シャルロット「……それも同感」
ティファニア「会ったことがあるの?」
シャルロット「時々そこらへんをうろついて…………居た」

 視線で促す庭の先。
 大樹の陰からこちらを見る、緑髪の女性が居た。
 じろりと敵意を以って振り向くジョゼットだったが、あまりの綺麗な顔立ちに「うっ」と怯んでしまった。次いで自分の体と、姉であるシャルロットの体を見て、この世の終わりのような溜め息を吐いた。
 ほっそりとしてぺたんとした、あんまりにもあんまりな体だった。

中井出  「あ、おーいドリアード〜〜〜っ、お話あるからこっち来てー?」
ドリアード『!』

 びくりと肩が跳ねる。
 そして木陰に隠れた。

中井出「………」

 再び顔をひょいと出し、中井出が呼ぶ。隠れた。
 三度目の正直。ダメだった。
 ズカズカと歩いていく中井出、逃げるドリアード。
 中井出、烈風脚。
 勢いのままにウェスタンラリアットを炸裂させ、絡めるように抱き締めるとトルネードフィッシャーマンズスープレックスで落とした。

中井出  「ほい連れてきたよ」
ドリアード『…………《死ュウウ〜〜……》』
女衆   『………』

 ぴくりとも動かないドリアードを見て、なんとなく悪いことしたなぁと思う四人だった。
 というか、恋人相手で、しかもこんなにも綺麗な人相手にここまで出来る中井出にこそ、四人は驚き固まっていた。

シエスタ「い、いいんですか? 精霊さまにこんなことをして」
中井出 「え? 話があるのに逃げ出して、嫉妬したら攻撃なんて、仕返しは当然だって。
     追加の脱穀スープレックスがなかっただけありがたく思うのね。きゅい」

 再び無駄にイルククゥの真似をしつつ、ぐったりとして動かないドリアードを芝生の上に寝かせた。

中井出   「ところで宣戦布告されたってのにこんな話し合いで大丈夫か?」
シャルロット「大丈夫、問題ない」

 顔立ちは綺麗で、ティファニアを少し大人っぽくしたようなドリアードを見下ろしながら、シャルロットは言う。
 寝転がってなお存在感のある胸に、その視線は向かっていた。

中井出   「シャル。触ったら蔓が走るからやめとけ」
シャルロット「《こくり》」

 触るつもりだったらしい。

中井出   「それで、話ってなんの話?」
シエスタ  「そうでした。えっとヒロミツさん。
       ヒロミツさんはこの方のことが好き、なのですよね?」
中井出   「え? ああうん」
ジョゼット 「!?」
ティファニア「えぇう!? そそそれはその、えっと、ええ……!?」
シエスタ  「ではズバリ訊きます。どこに惹かれましたか?」
中井出   「え? どこって」
シャルロット「見る限り、あなたは傷心のところに手を伸ばされたから、
       ただ伸ばし返したようにしか思えなかった」
中井出   「え……そうなの?」

 過去を知るシャルロットからのツッコミに、された本人が首を傾げるが───記憶を漁ってみると、確かになりゆきみたいな流れで恋人になっていた。
 レベルEの馬鹿王子の真似をして、“精霊と結婚する”と言って指輪を嵌めたあの日。
 自分にはきちんとした恋愛感情があっただろうか。
 確かに段々と好きになっていった……と思う。
 しかしそれは、吊り橋効果に近いものではなかったか。
 ……考えてみたが、告白したのは自分からだから、今さらそれを知ったところでどうする気もなかった。

中井出 「でも告白は僕からしたし、今さら自分の気持ちを確認しようが、
     今は好きじゃなかろうが、これから好きになればいいだけですよ?」
シエスタ「それならそれはわたしたちにも当てはまると思います!」
中井出 「エ? …………この博光が、キミたちを好きになる……と?」
シエスタ「そうです!」

 …………停止。
 けれど少し考えたらすぐに答えは見つかって、彼は笑った。

中井出   「人の感情は人それぞれですけどね、僕はやめといたほうがいいよ?
       ここでやることが終われば居なくなるし、
       俺よりも他の人のほうがステキ・オブ・アルティメットでしょ?」
シエスタ  「居なくなる……?」
中井出   「うん。召喚の儀式の時のこと、シャルなら知ってるだろうけど。
       俺は他の世界から来た迷い人だし、
       この世界でやることやったら帰らなきゃいかん。
       それに……今の俺でも起きるかどうかは半信半疑だけど、
       もしやすれば記憶消去が始まる可能性だってある。
       そうなったら、俺って存在自体を忘れるから、好きでいてもしょうがない」
シャルロット「───!」

 シャルロットの肩が跳ねる。
 顔は驚愕に染まり、想像してみて怖くなり、中井出の服を掴んだ。
 事情を知らないシエスタやジョゼットやティファニアは、その行動の意味が解らなくて首を傾げていた。
 しかし、彼の過去を見たシャルロットには理解はあった。
 そもそも他の世界から来たこと自体は知っていた。が、男爵にまでなったのだから、帰ることなどしないのだろうと決め付けていた。

中井出   「こればっかりはどうにもならないって。
       俺にもやらなきゃいけないこと、あるし。
       いつだってこっちに来られるならまだしも、
       次元の狭間から飛ばされたような場所だからさ、
       来ようと思って来れる場所じゃないのよさ」
シャルロット「………」

 視線が集まる。
 その先で、中井出博光は頬をコリコリと掻いて、溜め息を吐いた。

中井出   「そうだね……明日。明日、癒しとマナの大樹の間で上映会をしましょう。
       丁度明日はジョゼフたちも来るし、俺の過去をお届けしよう。
       好きになるとかそういうのはその後にしてほしいのよ。
       人を好きになること。スバラシイ。
       しかしながらスバラシイと知っているからこそ知ってほしいのよ」
シャルロット「それは、以前のものと同じもの?」
中井出   「見せなかったキッツイ光景をお見せします。
       別の意味でハンカチ必須かもしれん」
シエスタ  「……?」
シャルロット「………」

 首を傾げるシエスタだったが、シャルロットは予想がついていた。
 母から聞いたことがある。
 彼が捕まって、人に散々と八つ裂きにされてきたこと。
 以前の時はひどすぎる場面は映さなかったようだが、今回はそれがあるようだ。
 見るのなら覚悟が必要だ。
 その上で受け入れられないようなら、彼の傍に居る資格はない。
 そう思い、きゅっと杖を握り締めた。




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