32/風の国との戦闘

 戦への準備は静かに進められた。
 宣戦布告によって、学院は無期限休校。
 ギーシュが実家に呼び出され、正式に軍隊に入ることが決定。
 他の貴族メイジの何人かは従軍することとなり、賑やかだった学院には静寂のみ。
 しかし全員が全員実家に帰ったわけではなく、急なことに帰る機会を失った者や、そのまま寮に残る者も居た。
 そんな者たちに、休校だというのに教鞭を振る者も居た。コルベールだ。

モンモランシー「先生。今は国を挙げての戦の真っ最中です。
        暢気に授業なんてやってていいのですか?」
コルベール  「暢気もなにも。ここは学び舎で君達は生徒。私は教師だ。
        戦いだからこそ、我々は戦の愚かさを悟らねばならぬのです」
キュルケ   「よく言うわ。戦いが怖いんでしょ。同じ火の使い手として恥ずかしいわ」

 生徒からの反応は冷たい。
 だが、コルベールはそれも当然だと思っていた。
 皆、不安なのだ。
 それぞれが思うことだろう。何も自分が生きている時代に戦などせずとも、と。
 しかしキュルケは、女でなければ自分も出ていたのに、と舌打ちをしたい気分だった。
 あのお調子者のギーシュでさえ志願したというのに。

コルベール「……。そうだな。私は戦が怖い。とんだ臆病者だ。
      だが、そのことに不満はない。
      戦いだけ、破壊だけが、火の見せ場ではないのだから」

 苦い表情をして、コルベールは俯いた。
 生徒席ではモンモランシーが呆れたように「もういいです」と言い、着席した。
 キュルケもつまらないものを見るように、溜め息を吐き、あーあとこぼす。
 その隣に座るシャルロットは、コルベールの胸の内までは知ることは出来ないが、言っていることの意味は理解できていた。

キュルケ  「タバサはどう思う?」
シャルロット「彼の言っていることは正しい。
       認識そのものに固定した考えだけを持つのはとても危険」
キュルケ  「え……なに? タバサまでそんなこと言うの?」
シャルロット「応用出来てこそ“力”。破壊しか考えられないのなら、学ぶだけ無駄。
       最初から戦で学んで、好きなだけ壊せばいい。
       …………あなたはただの破壊者? それとも、」
キュルケ  「わかった、わかったってば!
       〜〜……謝るから、そんな目で見ないでちょうだいタバサ。
       はぁ……そうよね。火メイジだからって、
       破壊だけがしたいならこんなところで学ぶだけ無駄だわ」
シャルロット「そう《こくり》」

 認識そのものに固定した考えを。
 シャルロットの言葉を思い返し、キュルケは思考を回転させた。
 させ始めると不思議なもので、じゃあ応用ってなんだろう、という考えに至る。
 炎は燃やすもの。燃やされればどんなものでも形を崩す。熱は最高の破壊だと思う。
 でも、それを操る者全てを破壊者と呼ばれるのは、キュルケとしてはごめんだった。

キュルケ  「破壊以外、ね……わたしは愛かしら。微熱らしい考えだと思わない?」
シャルロット「……魔法、関係ない」
キュルケ  「うぐっ……容赦ないわね」

 冷ややかな目にたじろぎながら、キュルケはちらりととある空席を見やった。
 いつもルイズが座っていた場所だ。

キュルケ(まさかあの子まで、ってことは……さすがにないわよね。
     大方、“わたしも出る”とか言って家族に捕まったってところかしら)

 適当なあたりをつけて、キュルケは視線を教壇へ戻した。
 そこではコルベールがフェニックスの話をしていた。
 火の鳥。炎を象徴する伝説の生き物だというのに、再生を司るといわれるソレだ。
 フェニックスの話をするコルベールの目は生き生きとしていた。
 火が再生を司る。素晴らしいじゃないか、と。
 けれどキュルケは、そんな様子をつまらなそうに見つめた。

キュルケ(なんだかんだ言って、伝説にすがっているだけじゃない)

 机に頬杖をつき、むすっとした顔で授業を見守る。
 しかしサボることをしなかったのは、退屈だからだ。
 つまり、授業までもが退屈だとは思わなかった。
 ちらりと、きっと同じく退屈しているだろうと思って見やった隣。
 シャルロットは、どういうわけか興味深そうにコルベールの話を聞いていた。

キュルケ「………」

 前までは授業中だろうが、本を開いて読みふけっていたのに。
 最近、この子が解らないわ。
 そう考えて、キュルケも仕方なく話を聞くことにした───途端のことだった。
 講堂に数人の女性が入り込み、声高らかに言った。

アニエス「女王陛下の銃士隊だ! 陛下の名において諸君らに命令する!
     これより授業を中止して軍事教練を行う!
     正装して中庭へ整列! 急げ!」

 突然のことに生徒も驚くが、急かしながらも凜とした声に背中を押されるように、講堂を出てゆく。
 慌ててコルベールが止めようとする。
 焦る思いが「戦争ごっこは授業が終わってからでも───」と言ってしまった。
 彼にとって、戦は後悔そのものだ。炎が破壊に使われる“見せ場”。
 それゆえに出た言葉はしかし、途中でアニエスに剣を突きつけられたことで止まった。

アニエス 「訓練を戦争ごっこと言ったな。愚弄する気か?
      こちらがメイジではないからといって、あまりナメた態度をとられるな」
コルベール「い、や……私は……」
アニエス 「っ……ふん、貴様、火メイジか。焦げ臭い嫌な匂いがマントから漂ってくる。
      はっきり言ってやろうか。私はメイジが嫌いだ。特に火を使うメイジがな」
コルベール「………」

 言い返す言葉などない。
 焦げ臭い嫌な匂いというのは的を射ていた。
 それは、彼の後悔の証でもあった。
 コルベールはそうして、生徒たちが外に出るのを見ているしかなかった。


───……。


 そうした日々が二ヶ月続いた。
 即席とはいえ軍事教練を受けた生徒とは別に、募兵官に志願し、仕官教育を受けた生徒たちは、各軍に配属された。ギーシュも、その中の一人だった。
 別れ際の自信と不安に板ばさみにされて、おろおろしているギーシュの顔を、才人は思い出していた。

  ───時は夏期休暇から離れ、年末。

 ハルケギニアの気候では未だ秋である季節だが、年末である。あくまで気候が秋なのであって、時間は普通に過ぎている。
 冬は年明けにならなければやってこないらしく、日本人にとっては変わっている空の下、学院に保管しておいたゼロ戦を前に、才人は胸に覚悟を刻んでいた。
 既にアンリエッタから、取る行動は知らされていた。
 これからゼロ戦に乗り、先に待っている大艦隊と合流する。
 女王陛下であるアンリエッタの紹介だからといって、貴族たちがポッと現れたルイズと平民の才人の実力を知るはずもなく、最初は嫌な顔で応対されたが……そこは、同じく二ヶ月鍛えた実力行使で解ってもらった。

才人「トリスタニアとゲルマニア、合わせて六万か……」

 相手の明確な数は解っていない。
 しかし、宣戦布告はウソではない。空に浮かぶ島を狙うのなら、当然空を浮かぶ島の全てが敵となる。つまり、総力戦。
 才人は中井出にガリアからも兵を借りたらどうだと言ってみたが、却下された。
 答えは簡単だ。

「いやいや、俺とジョゼフたちの交友に、ガリアの兵は関係ないでしょ?」

 死ぬかもしれない場所に、他人の友情を理由に駆り出される身にもなってよ。
 そう言われ、才人はなにも言えなくなった。

才人「戦争か……まさか、この歳でそんなもんに巻き込まれるなんてな……」

 ゼロ戦を見上げ、言った。
 そこへコルベールがやってきて、儚げな笑みを浮かべる。
 この数ヶ月で随分やつれたように見えた。

コルベール「“がそりん”の注入はもう済んでいる。すぐにでも飛べるだろう」
才人   「すいません、コルベール先生。
      提督、自分のほうでもやることがあるって言って、どっか行っちゃってて」
コルベール「構わないよ。私にはこんなことくらいしか出来ないからね」

 コルベールもゼロ戦を見上げ、眩しそうに目を細めた。

コルベール「教師というのは、無力だね。いつも教える立場として立っているというのに、
      大事なことをまるで教えきれていない」
才人   「大事なことって?」
コルベール「……“死んではいけないこと”だよ。
      当然のことのようで、皆が忘れる大事なことだ」
才人   「………」

 死んではいけないこと。
 それを深く考えて、言葉の底にある意味が少しだけ解った気がした。

才人   「みんながそれを知っていれば───」
コルベール「ああ。きっと、戦など起きずに済んだのだろう。
      そう思うと、私は悔しくてたまらない」

 コルベールは自分の掌を見下ろした。
 思うのは、中井出博光という少年が生きた道。
 彼と同じく、この手は既に血に染まっている。
 ……いや、染まることはなかった。なにせ、自分は“炎”を放ち、町ひとつを燃やし尽くしたのだから。
 後悔を胸に抱いていると、そこへルイズがやってきた。
 コルベールは「もう行くのかい」と訊ねる。才人は、胸を叩いてから頷いた。
 ゼロ戦に乗り込もうとする二人を見て、コルベールはひとつの書物を才人へ渡した。

才人   「先生、これは?」
コルベール「私なりに竜のはごろもを調べ、研究した成果だ。
      様子を見に来てくれたヒロミツくんにも協力をお願いしたが、
      お陰で様々を知ることが出来た。
      ……キミは私の生徒ではないが、それでも……私は生徒だと思っている。
      そんなキミが兵器に跨る姿など、本当は見たくはないが───」
ルイズ  「コルベール先生……」

 ゼロ戦のプロペラが大きな音を立てて旋回する。
 コルベールはその音にも負けないくらいの大声で、少年の無事と少女の無事を願った。

コルベール「いいか! 才人くん! ミス・ヴァリエール! 死ぬな! 絶対に死ぬなよ!
      無様でもいい! 笑われたって構わない! 必ず生きて帰ってこい!
      キミが異界から来た者だとしても!
      もう、キミが死ねば悲しむ人が居ることを忘れるな!」

 みっともなくてもいい。途中で逃げて、裏切り者と呼ばれようとも、生きていてほしい。
 待つ者の考えることなど、きっと一緒なのだ。
 ルイズはコルベールの言葉でカトレアに言われた言葉を思い出し、もう一度誓った。
 才人も、胸にコルベールの言葉を刻むように、胸をノックした。
 生きて帰ろう。必ず。
 やがてゼロ戦は陸を走り、空を飛び、空へと消えていった。
 コルベールはその場に佇み……なにもしてやれない自分と、己の過去を思い、顔を両手で覆った。


───……。


 中井出博光は地を駆けていた。
 なにせ移動手段がとことん無いから、仕方なく地を駆けていた。

中井出「ああっ! なんでこんなことに!
    俺も自由に使える飛行物体とか欲しい! マナ無消費の!」

 ともかく行動のひとつひとつでいちいちマナを使う男である。
 シャモン一匹出すのでさえ、マナを消費するのだから笑えない。

中井出「黒がマジック“アイテム”だったらなぁくそう!!
    だが俺はゆく! 大艦隊の下まで行って、
    あとはフロートと烈風脚で十分だろもう!」

 アンリエッタやウェールズに協力する。それは絶対に絶対です。
 自分で自爆したのだ、仕方ない。

中井出「結局、ピエールさんはルイズが勝手に戦に行くことを止めなかったなぁ。
    でも、協力することもしなかった。まあ、親だよねぇ」

 普通は兵でも寄越すだろうかと考えたが、それは甘い考えだ。
 娘が心配だからと、死ぬかもしれない場に無関係の兵を向かわせるほど、ピエールは戦というものを軽視していない。

中井出「ところで大艦隊ってどこだっけ? アルビオンの近くの上空?
    …………下まで行けねぇじゃねぇかよ!
    え!? なに!? 俺海を走らなきゃいけないの!?
    ちょっと姫ちゃん! アータ俺のことなんでも出来る英雄みたく思ってない!?」

 アンリエッタにとって、中井出はすっかり頼れる兄的な位置に居た。
 友達気分の中井出は、それを知らずに、しかし毎度毎度仕方ないなぁと手伝ってやった。それが年末まで続いたのだ、すっかりべったりだ。
 一人っ子で、成長過程でなんでもかんでも言いつけられてきたアンリエッタにとって、甘えられる存在とはそれだけでも宝物のようなものだった。
 何かにつけて中井出を城に呼び出しては、我がままを言った。
 中井出も断ればいいだろうに、その目が“中井出自身”を信頼しきっていたため、無碍に断れなかった。実に、親ばか気質である。

中井出「ああもう……“インスタントブースター”!」

 インスタントブースターをミョズニトニルンの力で解放。
 一時的に速度を一気に上げ、地を蹴り弾丸となって駆けてゆく。
 間もなくラ・ロシェール。
 大艦隊が待つのはその先の上空であり、もちろん定期便などは既に封鎖されているため、どれだけ頑張っても空を飛ばない限りは大艦隊になど届くわけもない。

中井出「えーとえーと、武装錬金からガンザックだけをエジェクトして、と。
    ルーン解放! あそーれ・とっかぁーーーーん!!」

 ラ・ロシェールに着くなり、ガンザックを背負い、切り立った崖から烈風脚で飛び立った。風をきり、ごう、と風の壁に阻まれてなお、その勢いは空へと届かんとする。
 しかしルーンは発動することなく、ガンザックがぷすんと煙を出すと、彼はオチを悟る。

中井出「ご利用は計画的にぃいいいーーーーーーっ!!!」

 先に使えるかを調べておけばよかった。
 後悔を抱きながら、彼は海へと落下した。

中井出「だったら筏だ泥船丸!」

 懲りることを知らず、丸太で筏を作ると疾風斬での高速腕捌きで海を掻き、大艦隊を目指した。しかし速度は出ず、筏の上で体育座りをしながらたそがれた。

中井出「姫ちゃんのばかやろー……俺にだってなぁ、出来ないことがいっぱいあるんだぞ」

 でも信頼されきっていることが嬉しくて、ついつい頼み事を聞いてしまう。
 馬鹿ですか俺は。そうして頭を抱えていると、その上空をゼロ戦が飛んでいくのを見た。

中井出「ありゃ、才人じゃないか。メールでも───あ、そっか。
    そういや俺のネックレス、弱齢状況だと機能しないんだった」

 弱齢はまだ続いていた。
 猫になっていた時間が長かったからか、今回のは恐ろしく長い。
 恐らく、都合よく戦の最中に終わるなんてことはないだろう。

中井出「ならばこれだ! ミノタウロスの戦武石の力をルーンで解放!
    さらにアイテムマグニファイ!
    筏の一本を抜き取ってぇええ───馬場遠投!!」

 戦武石の力を全力で解放して、空へと放る。
 次いでインスタントブースターと烈風脚で筏を蹴り、飛んでいる丸太へ飛び移る。

中井出「桃白白ってすげぇよな……よくこんなの普通に出来たよ……」

 風圧がバチバチと顔面に当たって痛い。
 しかし丸太は問題なくゼロ戦に激突し、中井出はしたり顔で乗り込んだ。

才人 「な、なんだぁっ!?」
中井出「海より丸太で這い上がる男! スパイダーマッ!!」
ルイズ「ヒロミツ!? あんたどっから来たのよ!」
中井出「え? 海から」

 ゴシャリと開けられた風防。
 その先で、馬鹿がニコリと笑うさまを見て、才人は頭痛を覚えた。
 ……オリハルコンで作られていなかったら、とっくに墜落していた。
 というかゼロ戦に追いつくくらいの速度で丸太を投げないでほしかった。

中井出「お〜ぉルイズ〜、元気にしてたか〜?」
ルイズ「《なでりなでり》わぷっ! ちょ、だから会うたびに頭撫でるのやめなさいよ!」
中井出「なにを言う! 俺は差別は嫌いだが、赤の他人と家族の区別はつけるぞ!」
才人 「……なぁ。今日になるまでしょっちゅう領地を留守にしてたみたいだけど、
    いったいどこでなにしてたんだ?」
中井出「姫ちゃんに呼ばれて城に行きまくってた。
    なんでか知らんが異様に甘えてくるんだよ。なんで?」
ルイズ「知らないわよ」

 最初は控えめだった。
 しかし、軍の編成が本格化してきていたある日。
 大変静かだったオルニエールにおいて、そういえばこの屋敷って地下があったな、と中井出は探検を始めた。それがきっかけ。
 地下は随分と長く続き、いろいろと仕掛けがあり、それらを調べながら起動しながら進んでいくと、何故かアンリエッタの私室へと出た。
 ホワイ、と首を傾げる前で、身なりを整えるアンリエッタと目があった。
 どうやら、城の姿見に仕掛けがあったようで、それがオルニエールに繋がっていたのだと。あくまで予想ではあるが、先祖が愛人と逢引をするために作った隠し通路なのでは、というのがアンリエッタから聞いたものだった。
 それからは大変だった。
 なにかにつけてアンリエッタは私室から堂々とオルニエールへ来た。
 ウェールズに会いやすくなったことはもちろん、頼れる兄的存在に甘えることも容易になった。戦を前に不安を隠しきれなかったアンリエッタは、年頃の女性らしく自然に甘えた。
 そこできちんと叱ってやればよかったのだが、不安になる心ほどわかるものはないとばかりに、中井出は甘やかしてしまった。結果が、“妖怪・兄べったり”である。

中井出「なんかたまに兄さまとか呼んでくるんだ。
    そしたら恥ずかしそうに口を手で塞いで、照れ笑い浮かべて。
    あ、あれ? 俺、姫ちゃんの友達だよね? いつから兄になったの?」
才人 「友で仲間で家族なんだろ? だったらいいじゃねぇか」
中井出「グ、グゥウ……」

 用事もすぐ終わるし、仕掛けのお陰でそう遠くには感じないから別にいいんだけど、と呟いて、中井出はゼロ戦の風防に寄りかかった。
 今まで何処に居たんだと言われ、あちらこちらに行ったり来たり、あとはキュルケにあるもの渡してきたと言うと、ぐったりと休み始める。

ルイズ「キュルケに?」
中井出「はいはい、あからさまに嫌な顔しないの。
    これからはアルビオン改め、
    神聖レコン・キスタをぶっ潰すために動くんだから」
ルイズ「……なにがアルビオン改めよ。マジックアイテムで人を操っておいて、
    虚無を語るなんて最低な考えだわ」
中井出「ほんとね……」

 過去を見せたのち、そのお返しだと、中井出はジョゼフにレコン・キスタの事情を聞かされた。レコン・キスタというのは、そもそもジョゼフが裏で手を回していた組織らしい。
 アルビオンをクロムウェルに引っ掻き回させ、利用するだけ利用したら艦隊で一気に潰し、アルビオンを完全に無力化させるつもりだったのだ。
 アンドバリの指輪が死者を操るものならば、クロムウェルがアルビオンを利用するには、相手を死体にしなければいけない。上層部を死体にすれば、下は命令に従うだけ。その過程で貴族派と王党派が出来て、ウェールズは中井出に説得されて生き延びた。
 さて。
 そうなると現在のアルビオンは、いったいどれほどの死体とどれほどの命令に従う生者で編成されているのか。そして、それを一気に潰すならどうすればいいのか。
 ……簡単だ。ジョゼフを完全に信頼しているクロムウェルを、ここぞという場面で殺せばいい。あとは戦の中で死んだということにすれば、ガリアが疑われることはない。簡単に国をひとつ滅ぼせるわけだ。

中井出(ほんと、何が無能王だよあんちくしょう。友達になれてよかったよ、マジで)

 事情も知らぬままに動いた結果、友達になれたのは大変ありがたかった。
 そもそもシェフィールドがクロムウェルの秘書をしていたらしいので、クロムウェルの動向など筒抜けすぎた。それこそ、いつでも捨てることは出来たのだ。
 中井出は思った。ガリア……いや、ジョゼフは敵に回しちゃならないと。
 しかしこの事実を知っているのは中井出だけであり、ジョゼフにもそれは皆に話さないでおくれと釘を刺した。無駄な諍いはもう結構だ。

才人 「っと、提督! 艦隊だ!」
中井出「おお! あれが!」
ルイズ「ふわぁああ……! おっきいわ……!」

 大艦隊と呼ばれるだけはあり、どうやらその空飛ぶ船に飛竜などを乗せているようだ。
 竜騎士隊の一人が目印を振るい、誘導してくれた。
 艦隊の傍には風メイジが編んだロープがあり、そこに降りろと命じているようだった。
 大した問題もなく着艦した三人は、降りるなり兵に案内され、奥に居る総司令官、ド・ポワチエ将軍の前へと連れられた。

……。

 作戦内容は、ようするに騙し打ち。
 1.5倍の兵力を誇っているとはいえ、連合軍の弱点である連携が、真っ向勝負を不安なものにさせていた。空の国だけはあり、空の戦いが上手いのだ。たとえ数で勝ろうとも、技術であっさりと覆される状況を恐れての作戦だった。
 ド・ポワチエは三人を見て「まだ子供ではないか」と舌打ちをした。
 しかし女王陛下が用意した信頼おける者だというから、受け入れるしかない。
 むしろ、どのような方法であれ、死のうがどうしようが、作戦を遂行すればよし、出来ぬなら死ぬだけだと最初から捨てるつもりで作戦を立てていた。

中井出 「あー、つまり? あなた方はロサイスに、無傷で上陸したいから?
     俺達には陽動となって、
     ダータルネスってところに敵が攻め込んだと相手に思わせてくれと」
ポワチエ「その通り。噂に聞く“竜のはごろも”があれば陽動とて……わけあるまい?」
中井出 「オッケー! とにかくダータルネスででっけぇ騒ぎを起こせばいいわけだ!
     作戦はいつから? っとと、陽動には俺達三人だけでいくから。
     余計なやつはいらない。OK?」
ポワチエ「……そのまま逃げる気ではあるまいな」
中井出 「よっしゃよく言ったこの野郎!!
     この博光をヒロミツ子爵と知ってのお言葉! 許せる!
     ならば今より開戦ぞ! 明日までまて!? 出来るかタコ!」
ポワチエ「なっ!? いや待て! そんな急に───」
中井出 「挑発したのは貴様である! よっしゃいくぜ才人!
     敵に仕掛けられるよりこっちから仕掛ける!」

 だから待てと、とポワチエ将軍が口にするのに被せるように、中井出は大きな声で作戦内容の確認を行った。

中井出   「作戦内容の確認を行う!」
才人&ルイズ『サーイェッサー!!』
中井出   「これより我々はゼロ戦に乗り込み、
       ダータルネスへ突撃を仕掛けるものとする!」
才人&ルイズ『サーイェッサー!!』
中井出   「しかし間違うな! これは陽動である!
       騒ぎが大きければ大きいほど有効であり、勝利は我らに傾くのだ!」
才人&ルイズ『サーイェッサー!!』
中井出   「我々にこの戦の勝敗がかかっている!
       恐れるがいい! 怖気づくがいい! だが最後に笑うは我らぞ!!」
才人&ルイズ『サーイェッサー!!』
中井出   「ではこれより状況を開始する! 各員、迅速に作戦に当たれ!
       イェア・ゲッドラァック! ライク・ファイクミー!!」

 ザザァ!!

才人&ルイズ『Sir(サー)!!YesSir(イェッサー)!!』

 随分と懐かしいやり取りをすると、才人とルイズの心に勇気が沸いた。
 というか、映像で見てからというもの、一度はやってみたかったのだ。

才人 「おおお! なんかやれるって気がしてきた!」
ルイズ「急ぐわよ才人! レコン・キスタなんか潰してやるんだから!」
才人 「おう! 行こうぜ提督!」
中井出「オーラァーイ!!」

 駆け出す。
 ド・ポワチエ将軍が止めるが、止まる者は誰も居なかっ……いや。
 一人、中井出が止まり、背中を見せながら言った。

中井出 「そうだ、ド・ポワチエ将軍。大切なことを訊き忘れた」
ポワチエ「な、なんだ?」
中井出 「陽動し、時間を稼ぐのはいいが。
     べつにそれらを倒してしまっても構わんのだろう?」
ポワチエ「へ……? ば、馬鹿馬鹿しい! 三人ごときでなにが出来ると───」
兵   「あの……将軍。既に居ません」
ポワチエ「なっ!? いや、今までそこに居ただろう!」

 ド・ポワチエがいくら言おうが、既にその場に姿はなく。
 中井出は才人とルイズを小脇に抱え、ジグザグな通路を走り、甲板へ出た。
 才人とルイズはゼロ戦に登り、中井出は無意味に追っ手がないかを確認していた。

中井出「よっしゃあ時は待ってくれん! さっさとダータルネス行って暴れるぞ!」
才人 「あぁあちょっと待った提督!
    ゼロ戦で飛ぶのはいいんだけど、飛ぶまでの距離が足りねぇ!」
中井出「んーなもんは努力と根性と腹筋でなんとかする!
    戦武石レッツゴー! ハイパーストレングス!!」

 ゼロ戦のプロペラがまず回転され、次に一人の男に持ち上げられる。
 「オリハルコン製になったからって、どんな腕力だよ!」とは才人のツッコミだ。

中井出「舌噛ませてやるから喋ってろ!」
才人 「ウソでも閉じてろって言ってくれ!」
中井出「舌出したまま閉じてろ!」
才人 「どうあっても噛めってのかよ!」
中井出「舌をしまってきちんと口を閉じてろ! ウソだけど!」
才人 「どうしてほしいんだよあんたうわぁああああっ!!?!」

 言ってる傍から遠投した。
 ダータルネスがある方向目掛け、渾身の投擲である。
 しかしながら叫んでいても上手く風に乗ったゼロ戦は、そのまま空の旅へ。
 中井出も艦隊の船を蹴り弾くと、ゼロ戦へと飛び移って《ズリャア!》

中井出「おや?」
才人 「へぇっ!?」
ルイズ「ひえぇああっ!?」

 勢い余って滑った。
 二人は、驚きの表情のままに落ちてゆく馬鹿者を見送った。

中井出「ちくしょうなんで俺ばっかこんな目に! でも解ってる。子爵解ってるよ?
    こういう時こそ能力を使うと、起死回生の力が発動するって。
    さあいくよ僕のルーレット! ランダムルーレット発動! パンドラポッド!」

 その日。
 ラ・ロシェールと神聖レコン・キスタの間の上空に、巨大な火柱が立った。


───……。


 はっきり言えば、それで浮遊島の方から竜騎士隊が出てきた。恐らくは偵察部隊の何人かだろう。
 あれだけの火柱だ、当然敵から見れば、こちら側のなんらかの攻撃なのだと思うだろう。
 才人は叫んだ。

才人「わーーーっ!! 馬鹿! あいつばか!」

 もうもうと煙を出しながら落ちてゆく、もはや豆粒よりも小さな影が、ボチョーンと海に消えた。

ルイズ「どどどどうするのよ!
    確かに敵をひきつけることには成功したかもしれないけど、
    これじゃあダータルネスに着く前に集中攻撃の的よ!?」
才人 「一応、このゼロ戦ならちょっとやそっとの魔法くらい大丈夫だろうけど……」

 心配ごとはあった。
 装甲はいい。魔法耐性も十分だし、衝撃耐性だってワルドの攻撃にも耐えられる。
 ただ……プロペラが風で停止させられたら、落ちる可能性も。
 それを考えると、どれだけの装備を積んでいようが、勝利の確信だけがあるなんてことは言えそうになかった。

才人「とにかく提督にメールを……って無理だ。
   あー、弱齢の時期だかなんだか知らないけど、不便だなぁ」

 溜め息ひとつ、才人は機銃のトリガーを引いた。
 ゼロ戦に備え付けられた機銃から弾丸が放たれ、竜騎士たちを落としてゆく。
 だが、仲間が落とされたことを知るや、竜騎士の動きは目に見えて変わった。
 
才人 「あいつら多分、味方が来るまでの時間稼ぎだ! 無視して突っ切るぞ!
    報告しに戻ったやつを落とさないと、そっちのほうがまずい!」
ルイズ「え……なんで? 敵が向かってきてくれるなら好都合じゃない」
才人 「こんな、ダータルネスにもロサイスにもすぐに辿り着けない、
    あんまりにも中途半端な場所で敵を迎えたら、陽動もなにもないだろ!」

 操縦桿を握り、ともかく前へ。
 竜に跨った騎士が魔法を放ってくるが、無視して飛んだ。
 しかし味方の艦隊を狙われても困るとして、マーキングミサイルを発射。
 残さず撃ち落とし、先を急いだ。
 作戦というか、既にゴリ押し万歳の状況だった。

……。

 既に戦が始まった大空。
 竜騎士から竜騎士に伝えられ、広がってゆくトリステインからの神聖レコン・キスタへの攻撃の報せ。
 それを追って突撃するゼロ戦と、大海原に浮かぶ一人の馬鹿。
 馬鹿者は、痙攣していたが、急に回復し、ざぱりと海の上に立ってみせた。

中井出「うぐっ……ひっく……うぇええ……」

 だが泣いていた。
 自分はとことん窮地に強い勇者ではないのだなと自覚しつつ、それでもあんまりだと思い、泣いていた。

中井出「うう……なんで俺ばっかこんな……。
    他人がやれば指差して笑ってやりたくなるようなことばっか……。
    霊章輪がマジックアイテムとして認識されてなかったら、終わってたぞ……?」

 中井出は霊章輪をルーンの力で解放し、水の属性を引き出していた。
 故に水の傍では回復が早く、こうして立つことも出来た。
 特殊スキルのひとつである“マナ集気法”が水のマナを吸収し、体を癒した。
 ただし最大量が制限されているため、溜め込むことは出来ない。

中井出「ゼロ戦はもうあんなところか……。
    まるで仲間との旅行で、一人冗談で取り残された谷川のような気分だ」

 詳しくは今日から俺は!をどうぞ。そう独り言を呟いて、中井出は走った。
 インスタントブースターと烈風脚の同時行使の速度はゼロ戦の速度にも負けず、陸を駆けるのと変わらぬ速度で、やはり弾丸のようにゼロ戦のあとを追った。
 しかしながらゼロ戦の真下に来ようが、フロートは所詮重力を無くして浮くだけのものであり、自由な飛行移動が可能なわけではない。連絡手段もないため、つまりは空中で合流なんてことは不可能だった。
 ならばどうするか? ……そのままダータルネスを襲う以外、特に思いつかなかった。

中井出「余がオルニエール子爵である!《どーーーん!》」

 戦の前に名乗りを上げる武将がごとく、彼は叫んだ。
 当然ながら、まだダータルネスすら見えていない。
 少し恥ずかしくなって、ポッと頬を染めるが、誰かが見たら絶対にキモいと言っていただろう。
 そんなキモさを撒き散らしながらも、恐ろしい勢いで海を駆ける馬鹿者がダータルネスに辿り着くまで、そう時間はかからなかった。ただし、アルビオンなので当然上空であり、彼はフロートで重力を無くすと弾丸となってアルビオンはダータルネスの港の桟橋へと突撃。
 勢い余り過ぎて、船を迎え入れる硬い桟橋の一つに頭からゴメシャアと激突し、それを破壊して余りある勢いで地面へ落下。アモギェーー!と奇声をあげて激痛に襲われた頭を抱え、悶絶した。

中井出「ちくしょう……いてぇ……!
    やっぱなにやってもだめだよ……! 全部妹子の所為だ……!」

 号泣である。
 今までは武具の力で操っていた力が、今度はルーンで扱わなければいけない。
 その感覚に慣れないままの実戦なので、調子は狂いっぱなしだ。泣きたくもなる。

中井出「と、とにかく大騒ぎを起こさねば!
    ───ややっ!? 何故か港の人々が驚き叫んでいる!? いったい何事か!
    もしやこれは───クライシスの仕業か!」

 とりあえずクライシスの所為にしてみた。
 意味は無いし、そもそも港に居る者たちは中井出を見て驚き叫んでいた。
 ───アルビオンには、首都ロンディニウムの南部に位置する空軍基地ロサイスと、北部の港ダータルネスの二つがある。他にも港はあるのだが、六万もの軍を着陸させるには大きな港でなくてはいけない。
 その条件に当て嵌まるのがロサイスとダータルネス。
 さらに言えば港湾設備を選ぶのであれば、港よりも空軍基地であるロサイスのほうがいいとし、ド・ポワチエらはロサイスを目指す。代わりに彼らは陽動を頼まれた故、こうした行動をとっていた。

中井出「原作では虚無魔法の“イリュージョン”とかいうので、
    大艦隊の幻影をこの港町に出現させて、
    ロサイスに配置する筈だった3万の兵をここへ誘き寄せる。
    ……と、そんな凄まじい作戦だったらしい」

 虚無は覚えさせてないから無理だけどね! そう元気に言って、痛む頭をさすりながら立ち上がる。

中井出「ルイズを慢心させず、素直な心のままに成長させる。
    虚無魔法がなんぼのもんじゃい! そんなものに頼らなくても、
    明日の朝陽くらいは何度でも見せてやれるってことくらい教えてやらぁ!」

 ルイズにとってはありがた迷惑な話……いや、むしろ迷惑な話だろう。
 本来ならば得られるはずの、自分だけの力を、勝手な都合で得られなくしている。
 それを考えれば、今までひどいことしてきたなぁと中井出は思うわけだが。

中井出「………」

 才人の傍で魔法の練習をして、笑顔でいるルイズも、あれはあれでいいなと思うのだ。
 新しい魔法を覚えた時など、目をきらきら輝かせながら才人に見せつけ、自慢していた。
 思わず頭を撫でたら失敗魔法で吹き飛ばされたが。

中井出「…………ごめんなぁ、アルビオンに生きるみんな。
    俺は、俺の勝手な都合で、あんたたちの平和を壊すんだ」

 バックパックから、用事その一で手に入れた鉄刀を取り出す。
 斬れはしない、ただの鈍器だが、シャルロットに散々と固定化をかけてもらった特別製。
 マナを使わない武器を用意しようと考えたら、切れ味などよりも頑丈さが大事だと悟る。
 それ故の鈍器だった。

中井出「恨むなら、俺とジョゼフとクロムウェルを恨んでくれ。───覚悟、完了」

 深呼吸ののち、胸をノック。
 それからは、もう止まらなかった。

中井出「やあやあ我こそは“道化”!! 道化のヒロミツである!!
    故あってこの港を───騒がしくする!!」

 地面を蹴るのと同時に、上空をゼロ戦が走っていった。
 直後、ダータルネスの港の、誰も人が集っていない場所へと大きな雷の剣が落ちる。サンダーブレードだ。恐らくはルイズが放ったものだろう。
 港に居たものたちはきゃあきゃあと叫び、逃げ惑う。
 しかし、少しの間ののちにもう一本、もう一本と雷の剣が落ち、ルイズの思惑にピンとくると、中井出はその場から少し離れた。
 今日まででレベルが上がってるとはいえ、無茶するなとこぼす。
 恐らくは詠唱しながらグミを噛んでいるルイズを思い、とうとう六本目がダータルネスの大地に突き刺さるのを確認すると、にっこり笑って「ヘルユー」と言った。
 次に来るのは、今のルイズではまず使えない魔法。
 雷のマナをそれだけ集める必要があるからこそ、大きく、そして消滅まで時間がかかるサンダーブレードを選んだ。事実としてダータルネスの港の中心には雷のマナが密集しており、相当離れた位置であるこの場に立っているだけでも、肌がバチバチと小さな刺激を受けている。

中井出「神の雷だな。うん」

 そのマナが、六本刺さったサンダーブレードの中心。その上空へと飲み込まれてゆく。
 当然、サンダーブレードもそれに吸い込まれるようにマナへと崩れ、天へと登り───直後、轟音を高鳴らし、目で十分確認出来て、逸らしても瞼の裏を焼くほどの雷が、ダータルネスの港を破壊した。
 インディグネイション。
 雷系魔法の、いっそ禁呪に近い魔法である。
 雷のマナがその場にあればあるほど威力を増し、詠唱次第、術者の魔力次第では魔法秘奥義にもなるほどの威力を誇る。

中井出「注意……十分すぎるくらい引けたよね、これ……どうしよ」

 少し思案。
 しかし斥候かなんかが来て、これ以降に攻撃もせず、しかも人数がこれだけならば、そのままロサイスに向かう可能性大だ。
 そう軽く考えてみたら、もうひと暴れは必要だという結論に行き着く。
 ならば今さらなにがどうなったところで構うものかと、中井出はパンドラポッドを発動させた。いっそ自爆してくれようぞと気合を籠めてルーレットを開始すると、生分身が発動。中井出は本人を含め、25人へ分裂した。
 そこでハッとし、無茶ではあるがルーレットを回しまくった。
 時に麦茶を飲み、棒人間スキルルーレットを堪能しつつ、回しまくった。
 結果として爆発もするわ輝き始めるわで相当な騒ぎとなったが、それらの複合がなされたのち、彼が期待した通りの事態は見事に起こった。

中井出『ワハハハハハ!! これぞ複合武具スキル奥義!
    エンペラータイムが許す奥の手!
    己を武具とし、六閃化と冥空斬翔剣で四閃化+双剣モードで48閃!
    そこに庭師剣をプラスで×10!
    480人の分裂博光に、さらに生分身で12000博光である!!』

 ダータルネスは地獄絵図といえた。
 一万二千もの中井出に覆われた港で、その全員が一斉にパンドラポッドを使うものだから、ある場所では巨大な火柱が、ある場所では幸せ光線が、ある場所ではゴブリン爆弾が爆発し、またある場所では臭い息が発動してほぼ全員が吐いたり、催眠フラッシュで自分まで眠くなったり、超弱体化が発動してゴーファになったり。
 それらは3万の兵が辿り着くまで続き、辿り着いた途端───死のルーレットが本人の頭の上で止まり、分身も本人も全滅した。ただ、不老不死だったので死ぬこともなく、ルーンは無事だったのだが。
 ともあれ陽動は成功した。
 12000博光の様子が恐ろしくて、降りるに降りられなかった才人たちは、作戦成功を喜び……3万の兵に囲まれたゴーファを見て、ただ合掌した。
 本隊である大艦隊がロサイスを襲撃、守備隊である500人あまりを制圧し、無事に入国した報せを受けたのは、ボコられてぼろぼろになっていたゴーファをロープでなんとか救い出して、鼻がもげ、口から謎の汁をコポコポと垂れ流すゴーファをそのまま吊るしてロサイスに逃げ延びる途中。空中で、竜に乗った下級貴族から報されてのことだった。




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