47/再会はラリアットとともに

 その戦いは、壮絶なほど……美しくはなかった。

中井出「死んでる相手を始末するのも殺すことになるのかなぁ!
    だだだ大丈夫だよシャル! 僕は殺してない! 家族との約束は守るさ!
    それが友だったら破るためにこそ約束する気満々だけど!」

 銀と黒が混ざったような大剣を振り回しているそいつは、自分に襲い掛かるアンデッド相手にヒィイと叫びながら戦っていた。
 しかしながら攻撃には躊躇というものがなく、殺しはしないものの、攻撃手段を封じるための部位は遠慮なく切り落としていたりする。

中井出「アンデッド支配が上手く使えれば問題なかったんだけどね……。
    せめて操られている状況からは解放しましょう。
    さあ! 今こそ癒しのマナを───」

 ブブー! マナが足りません!

中井出「あれ? …………ゲェエーーーーーーーッ!!!」

 渾身の絶叫だった。
 やがて彼は手首から先を切り落とされた住人連中にわらわらと掴みかかられ、

中井出「お前ら人間じゃねぇーーーっ!!」

 と叫んだ。せがた三四郎チックだった。

中井出「ちくしょうならば腕力だ! くらえ究極形マッスルインパクト!!」

 精霊たちにより完成させられら筋力にて、群がる人々を振り払う。
 が───腕力で勝つことは容易いのだが、すぐにまた捕まる。
 とにかく数が多すぎるのだ。

中井出「アンデッドだからモロいし、
    殴ったらボチューンで首が取れそうだし……!
    ああもうシャルー! 助けてぇえええっ!!」

 しかしながら、だからといって自分が傷つく道理はないので押し通る。
 まず目の前の男の顔面に上から叩き落すような張り手。びしゃん、と痛烈な音が鳴る。怯んだ隙に足払いをすると、即座に足を掴んで───

中井出「さぁああああ後悔するなら今が旬!!
    STRマックス!! ジャァアアイアントッ───スウィーーーング!!」

 群がる敵も無視してのジャイアントスウィングである。
 当然周りに居た連中は吹き飛ばされ、近づこうとする者も吹き飛んでゆく。
 が、これで諦めるほど相手は優しくないらしい。
 離れた位置から銃を撃たれ、それが中井出の体へと───

中井出「村人バリアー!!」
村人 「《ボチュチュチュチュチュチュ!!!》ギエエーーーーッ!!」

 ……当たることなく、村人が犠牲になった。

中井出「危なかった……!(俺が)」

 連発式ではないため、一斉に撃たれれば銃はただの邪魔なもの。
 銃を構えていた連中はそれを捨て、次を構え始めた。

中井出「こんなへんぴな場所になんであんなに銃があるの!?
    エスターシュってやつ馬鹿だろ! ほんと馬鹿! 馬鹿だな!
    うーん馬鹿だ! 感心するほど馬鹿だな! 実に馬鹿だ!!
    ほんっと馬鹿! 何考えてんだ馬鹿! バカターシュだな!」

 矢継ぎ早に撃たれる弾丸を、村人バリアで防いでゆく。
 命を狙われたのなら命を狙われる覚悟も持つべきであり、ならばと踏み込んでからは早かった。

中井出「───そこだぁっ!!」

 まず一撃。ギリッと握りこんだ拳でストレートを放ち、目の前の死人を殴り飛ばす。
 次に地面を蹴り込んで一気に回り込んで肘鉄。周囲を巻き込みながら吹き飛んでゆく村人を横目に、自分に寄ってくる死人にダブルラリアットを「ハガーーーッ!!」と言いながら炸裂させ、そのままAGIマックスで回転。竜巻を発生させるほどの速度で回るという無茶苦茶加減を実現させてみせ、

中井出「ンギガティッ! サイクロォオ〜〜ンッ!!」

 クラウザー様謹製ギガティックサイクロンをしてみせた。
 どうやらまともな知識は残っていないらしく、竜巻が目の前にあるのに止まろうともしない死人たちが次々と巻き込まれてゆく。

中井出「ワハハハハハ!! 伊達にステキレベルで居ちゃいねーぜ!!
    マナが尽きても弱齢さえ抜けていればこれくらいは出来る!」

 弱齢は抜けている。が、長すぎた弱齢の反動かマナの回復がやたらと遅い。
 その所為で大変な苦労をしているのだが、彼は言う。

中井出「今の俺なら烈海王にも勝てるッッ!!」

 その瞬間であった。
 巻き込まれた死人の一人が回転している中井出の方へと飛んできて、

中井出「ハッ!? まさか捨て身のアタック!?
    ぬううなんと見上げた根性か! スバラ───」

 ズキュゥウウウ〜〜〜〜ン!!!!

中井出「───」
死人 「───……」

 死人が風に飲まれて飛んでゆく。
 一瞬……ほんの一瞬だが、バーコーディーな頭部のアンデッドおっさんと唇が合わさった。彼はショックのあまりに脱力し、そのまま自分も風に飛ばされてドグシャアと大地に落下。
 少しののち、もそりと動き出し……T-SUWARIをしてしくしくと泣き始めた。
 サンドリオンが辿り着いたのは、そんな時だった。

サンドリオン「お、おい……? いったいなにがあれば、
       こんな状況でそんな格好で泣いていられるんだ」
中井出   「死人でバーコードハゲのおっさんとキッスした……」
サンドリオン「…………すまん。かけられる言葉が見つからない……」

 泥水でもあればエリナ・ペンドルトンのように口をすすいでいるところだ。
 しかしそんな悠長なことを言っていられる状況ではないらしい。

サンドリオン「……やれやれ。囲まれているな」
中井出   「逃げればよかったのに、どうして戻ってきたりしたのさ」
サンドリオン「ちょっと忘れものをしちまってな。
       それを取り戻さないと目覚めが悪いんだ。仕方ない」
中井出   「あらまぁうっかりさん。なに? なにを忘れたの?」
サンドリオン「ああ。なんでもそれは、
       いつかおれが言う願いをなんでも叶えてくれるらしいぞ」
中井出   「な〜るほど、そりゃあ捨てていくなんてもったいないわな」
サンドリオン「だろう?」

 言いながら立ち上がり、背を預けながら笑う。

サンドリオン「突破する方法、なにかあるか?」
中井出   「突破するっつーか……こいつら、ほっといたら他の街まで襲うだろ。
       きちんと処理していかないとダメだ」
サンドリオン「当てがあるのか?」
中井出   「サンドリオン、癒しは使える? 結構、規模大き目の」
サンドリオン「水さえあればな。
       水がなければ何も出来ないのが水メイジの哀しいところだよ」
中井出   「っつーことは……ここを突っ切って、
       何が何でも海岸まで行かなきゃいかんわけだ」

 高い丘から景色を見渡す。
 坂のずぅっと先にある海……その前には、うざったいくらいの死人が居た。

中井出   「ギガティックサイクロンで水竜巻を作るから、そこに癒しを混ぜてくれ。
       そうすりゃ、弾け飛ぶ水飛沫がかかったアンデッドを黙らせられる」
サンドリオン「なるほど、死人に癒しをか。けど、さっきの竜巻はたまげたが、
       水を巻き込むほど回転できるのか?」
中井出   「問題はそこなんだよなぁ……。
       どっかに呆れるほどに風を操ることに長けた、
       いっそそれしか能がないやつでもいいから居ないもんか───あ」
サンドリオン「うん? どうし───あ」

 気づいた。
 一人居る。それしか能がないというのは失礼だろうが、居た。

中井出   「よっしゃあ死中に活あり!!
       行こうサンドリオン! この勝負───僕らの勝ちだ!」
サンドリオン「だがあいつはもう姫殿下を連れて逃がしちまったぞ!
       呼び戻すにしたってどうやって!」
中井出   「とっておきの魔法を教えますから、まずは海岸までだ!
       んで、海岸に着いたら全力で声を出せ!
       “カリンのばーか!”って!」
サンドリオン「おまえおれに死ねっていうのか!!」
中井出   「大丈夫! きみなら出来る!」
サンドリオン「くそっ! “お願い”は奮発させてもらうからな!!
       というかそこまでやるんだから、
       嫌っているいないに係わらず叶えてもらうぞ!」
中井出   「なーーっはっはっはっは! まぁーーっかせなさぁーーーい!!」

 そうと決まればと、サンドリオンは空中の水蒸気からウォーターボールを作り、それを坂の下目掛けてブッ放す。

サンドリオン「いくぞ! 全速力だ!」
中井出   「OK! 背中に乗れサンドリオン! 疑問はいらん!」
サンドリオン「解った!!」

 疑問をぶつけようとした瞬間に遮られたので、すぐに背中に飛び乗る。
 と、中井出はVITとAGIにステータスを割り振って一気に駆けた。

サンドリオン「ぬわぁああーーーーっ!!? は、はやっ!?」
中井出   「舌噛んでもいいけど詠唱だけは出来るくらいに噛んどけよー!」
サンドリオン「無茶苦茶言う《ガヂッ!》はぐぅっ!?」
中井出   「ゲゲェほんとに噛んだ!!」

 走る。
 ウォーターバレットが死人の群れを吹き飛ばす様を見送りながら、そうして空いた道を突っ切って。
 当然邪魔も入ったが、そこは飛び蹴りをぶちかまし、時にガイル謹製ニーバズーカで吹き飛ばし、時にザンギエフ流回転ドロップキックで吹き飛ばし、時にサンドリオンが魔法でフォローを。
 それを続けているうちに海岸が目前まで迫った───というところで、中井出の背に居るサンドリオンがびくりと動く。背負っている中井出も、その尋常じゃない震え方に疑問を抱いた。
 そんな時だ。前方から、まるで意識の中に無理矢理入ってくるような澄んだ声が聞こえたのは。
 ソレは「お久しぶりね、ピエール」と言った。
 やさしげな声。心を直接撫で付けるような、そんな───

中井出「ポセイドンウェーーイ!!」
女性 「《ゴヴァァッチョオオン!!》へぎゅうっ!!?」

 ───そんな声の持ち主が、中井出の腕を中心に回転した。

中井出「オリンポスオーヴァーーーッ!!」
女性 「《ドゴッチャァア!!》へぶぅぅうっ!!?」

 ラリアットで倒れたところへダイビングエルボードロップ。
 背中にサンドリオンを乗せたままの、とても体重の乗った一撃だった。

中井出「ふう……! 危なかったぜ……!
    こんな土壇場で普通に話しかけてくるなんて、こいつ絶対ラスボスだぜ……!?」

 グイと一仕事終えた顔で汗を拭う馬鹿が一人。
 そんな彼の背から慌てて降りるのはサンドリオン。

サンドリオン「出会いがしらになんてことをしてくれてんだお前は!」
中井出   「え? なんてことって……ボスにダメージを与えた!」
サンドリオン「やっ……そうじゃなくてだな!」

 そんなことをガヤガヤと言い合っていると、のそりと起き上がる女性。
 服は黒の修道服で、髪はまばゆい金髪。
 女性が起き上がったことに気づくや、サンドリオンは顔を青くした。
 そう。自分はこの女性を知っている。知っているどころか、かつて愛していた。
 愛し、しかしこの手で殺───

中井出「ウィーーーーッ!!」
女性 「エ?《ボチュンッ!》きゃぴうっ!?」

 ───考え事をしている内に、中井出が女性に頭掴みラリアットを炸裂させた。
 またも一回転した女性はドグシャアと地面に倒れ、

中井出「ムキムキムキムキムキーーーーーッ!!!!」
女性 「《ズドドドドドド!!》ぶべらはべら!!」

 馬乗り状態で顔面をズドドドドドと殴られまくっていた。
 なにやらもう悲鳴が女性らしくないが、相手が悪かったと諦めるべきだろう。

サンドリオン「…………ハッ!? お、おいおいおいおい!!
       ジーク! おいジーク!!」

 ようやく状況に自分を戻すことに成功したのか、ハッと気づいて声をかけたサンドリオンの視界には、修道女にキャメルクラッチをする道化の姿があった。
 何故かラーメンマンのテーマが鳴っている。

中井出   「“機矢滅留・苦落血”(きゃめるくらっち)!!」
女性    「《ギリギリギリギリ……!!》うぶぶぶぶぅう……!!」
サンドリオン「人の話を聞けよ!!」
中井出   「え? だってこんな場所に修道女だよ? しかも普通に話してる。
       こいつぜってー親玉だって。なので手加減はせんんんん!!
       メイルストローム! パァゥワァーーーーーッ!!」
女性    「《メェエエリキキキキキ……!!》むぐぅうーーーーーっ!!」
サンドリオン「そうじゃない! 彼女は……! この女性は!
       おれがよく知る人だ! カリーヌ……カリーヌなんだ!」
中井出   「なんと! 以前一度だけ話してくれた、
       貴様が殺してしまったというあの女性か!」
サンドリオン「そう……そう、だ。
       有り得ないとは思うが、声も、顔も、髪も、全部覚えている……!」
中井出   「そ……そうだったのか……!
       おンのれこのアンデッドがぁああああ!!!」
カリーヌ? 「《メリキキキキキ!!》ピギャアーーーーッ!!?」
サンドリオン「だからそういう意味じゃなくてだな!? いいからやめろぉ!!」

 ドムッと押され、カリーヌの背から中井出が転がる。
 その拍子に岩に弱点である背をぶつけ、モギャアーーッ!!と泣いて叫んでいた。
 そんな彼は、その痛みも悲しみも、全部妹子の所為にして立ち上がる。
 カリーヌも、背中をかばうようにしながらよろよろと立ち上がった。
 せっかくの登場シーンが台無しである。

カリーヌ「……そ、それじゃあ、ええと……」
中井出 「あ、僕ら海岸目指すんで。それじゃー」
カリーヌ「え? ええ、それじゃあ……ってちょっと待ちなさい」
中井出 「な、なんですか急に話しかけてきたりして!
     誰ですかあなた! ポリス呼びますよ!?」
カリーヌ「ポリス!?」

 言い方が散々だが、いきなりラリアットをする人には言われたくはないだろう。

サンドリオン「そう……そうだ。きみは何者だ。
       カリーヌは……彼女はおれが、殺してしまったはずなのに」
中井出   「そうか! きっと太陽虫に操られてるんだ!
       太陽万歳! だから死ね!!」
カリーヌ  「だ、だからなんのことよ!」
中井出   「あ、アレ? 違うの? じゃあなんだってんだコノヤロー!!」

 問うてみると、カリーヌはクスリと笑って一歩前へ出た。
 その足は、サンドリオンのもとへ。

カリーヌ「ええそうね、わたしは死んだ。でも生き返ったの。
     いいえ、生まれ変わったと言うべきかしら。
     それでね……あなたを迎えにきたの、ピエール。
     わたしと一緒に、悲しみも悩みもない、
     優しさと愛だけが全てを束ねる世界へ行きましょう?」
中井出 「きみね、優しさと愛だけじゃつまらんだろ。
     そんな場所へ宅の可愛いサンドリオンは行かせられません」
カリーヌ「決めるのは彼よ」
中井出 「なるほど! じゃあ妨害するのが僕だね!」
カリーヌ「い、いえ、あのね? 配役を決めているわけではなくて」
中井出 「うるせー! 決めるのは俺だー! 貴様を妨害する!」
カリーヌ「っ……無茶苦茶ね。けどあなたにいったいなにが出来て?
     既にここは囲まれて《がしぃっ!》───え?」

 中井出、カリーヌの背後に回って首に手を回すのコト。

中井出「動くな! 動くとこの女が大変なことになるぜ!?」

 そして彰利式脅し術の完成である。

サンドリオン「………」
カリーヌ  「………」

 しかしまあ当然ながら、死人たちはのろのろとこちらへやってくる。
 カリーヌも今更止めるつもりはないのか、くすくすと笑っている。

中井出 「えーと、彼らをあんなふうにしたの、きみなのよね?」
カリーヌ「失礼ね。やったのはアンジェロとかいう騎士さまよ。
     お願いしたのはわたしだけれど」
中井出 「で、そのアンジェロは?」
カリーヌ「死んだわ。木偶にしたからそこらへんに居るんじゃないかしら」
中井出 「ナルホロ。ところできみ、ヴァンパイア?」
カリーヌ「さあ」

 問いかけてみてもカリーヌは余裕そうに笑うだけだった。
 そうこうしている間にものそりのそりと死人は寄ってくる。

中井出 「じゃあさ、自分が負けるイメージって出来る?」
カリーヌ「うふふっ、この状況で? 面白い冗談ね」
中井出 「そかそか、面白いなら躊躇することないね。
     ほいじゃあ───能力解放! デッドイーター!!」

 言葉と同時に貴族服の下の霊章が金色に輝く。
 言葉の意味を探るカリーヌだが、意味など解るはずもない。
 疑問の間に中井出はこの街の魂を食らい、自分の能力の糧とする。
 生憎とマナへの変換などは出来ないが、死神側の能力が爆発的に向上した。

中井出 「ホーホホホ! 街の人々を殺したのは失敗だったな!
     街の人々の魂、美味しく力にさせていただいたぜ〜〜〜っ!!」
カリーヌ「───あら。面白いことが出来るのね。何者か聞かせていただける?」
中井出 「約束に命をかける哀れな少年のケツを粉砕する男!! スパイダーマッ!!」
カリーヌ「本当に何者!?」

 余裕の心への大層な動揺。
 その隙をついて、死神の力を解放。月空力でサンドリオンを海岸まで素っ飛ばし、異翔転移で離れた位置に居るカリンも同じく……といきたかったが、位置を探ってみればどうしてかこちらへ向かってくるカリンの気配。
 中井出は主の無謀な突撃に驚いたが、その分力が温存できるならとニヤリと笑った。

中井出「サンドリオン! 今すぐ呼べぇええーーーーーーーっ!!」

 叫ぶ。海岸までの距離は、近いとはいえなかなかある。
 そんなにも離れた相手へと届けとばかりに大声で。間近のカリーヌにはいい迷惑だ。

カリーヌ「すごい声。耳が壊れてしまいそう」
中井出 「あれぇ!? まだまだ余裕!?」
カリーヌ「べつにどちらが勝とうが関係ないもの。
     わたしはわたしの仕事を、気の乗る間だけするだけ。
     ほかのことなんてどうだっていいのよ」
中井出 「なっ……そ、そうだったのか。そうとは知らず、すまなかった」
カリーヌ「……え? すまな……え? な、なにを謝って───」
中井出 「ねぇねぇ! どうだっていいならさ!
     今から僕がきみにキン肉族三大奥義を使っても気にしないよね!?」
カリーヌ「え? き、きんに……?」

 カリーヌに動揺が走るのとほぼ同じ時、サンドリオンは叫んだ。
 あらんかぎりに、誰かさんの悪口を。
 すぐそこに、馬を乗り捨てて駆けてきた本人が居ることにも気づかないままに。

サンドリオン「カリンのっ……ばっかやろぉおおおお!!!」
カリン   「なんっだと貴様あぁあああああっ!!!」
サンドリオン「うおわびっくりした! って、ええぇえええっ!!?」

 助けに来たのに馬鹿呼ばわり。
 恐怖と向き合えという言葉の通り、勇気の魔法を使わずに、本当に勇気を振り絞ったというのに、この男はなんてひどいことを言うのか。
 ───今、怒りが恐怖を凌駕した。
 死人の中を突っ切るという、心が砕けてしまいそうだった恐怖が今……そう、今こそ、怒りによって食われて消えた。

カリン「ふっ……ふ、ふふっ……ふふふははははは!!
    あーーっはっはっはっはっは!!! あはははははは!!!」

 目がマジだった。
 そんな目を正面から見たサンドリオンは思わず悲鳴を上げるが、すぐにそんなことをしている場合じゃないとカリンを黙らせる。

カリン   「貴様っ! 人を大声で馬鹿呼ばわりしておいて、遮るか普通!」
サンドリオン「それどころじゃないって言ってるんだ!
       カリン! きみの風で竜巻を作ってくれ!
       水を巻き上げて空から雨を降らせるくらい大きな竜巻だ!」
カリン   「? な、なにを言って……」
サンドリオン「おれがそこに癒しを流す!
       操られてる死人を救うんだ! つべこべ言わずにやれ!」
カリン   「〜〜っ……くそっ! やればいいんだろうやれば!
       というかジークフリードはどうした! まさかやられたんじゃ───」

 言いながら探していると、その姿はひどくあっさりと確認できた。
 何故ならすぐ傍に黒の修道服を着た、カリンから見ても美しいと思える女性が居たから。

カリン「………」

 一瞬、その美しさとやさしい笑みに惹かれていきそうになる。
 馬鹿げた魔力量でその魅了にも似た効果は打ち消せたが、ずっと見ていると危険なのはすぐに解った。

カリン   「なに、あれ……。なんなのよ、あの女……!
       あんな女の傍に居て、あいつは平気なの!?」
サンドリオン「……ああ、そうだな」

 カリンは、女性の異様な気配に恐怖し、泣いていた。
 見つめられただけで心が鷲掴みにされたように怖かったのだ。
 口調が本来の女性のものに戻っていることにさえ気づかないくらいの動揺。
 そしてサンドリオンも哀しげにカリーヌを見つめていた。
 ……離れてみて気づけることがある。
 近くで、しかも愛しい人だからこそ疑いもしなかったが、アレは人間じゃない。
 サンドリオンは視界が涙で滲むのを感じて、すぐに目を閉じた。
 深呼吸をして、覚悟を。

サンドリオン(……きみを殺してしまった上、きみの敵になることを許してほしい)

 もはや彼が愛した彼女はいない。
 居るのは、街ひとつを動く死人の町にしてしまった魔女だ。
 躊躇すれば他の街が同じくこうなるだけだ。
 だから、きみがそうしようとする限り、自分はきみの敵になろう───

サンドリオン「───いくぞカリン!」
カリン   「っ……ああもう! あとでまとめて説明してもらうわよ!!」

 気合を入れる。
 カリンは人差し指で左手に勇気を書きそうになったが、それをなんとかこらえる。
 自分自身の勇気で、ただ前を見た。
 涙は出続けていたけれど、詠唱し、竜巻を発生させる。
 水を巻き込み水竜巻となるそれを眺め、さらにはそこに向かってゆく死人たちを見て、中井出はありゃまと笑った。

中井出 「きみの狙い、衛士隊っていうかサンドリオンなんだね」
カリーヌ「愛しい人だもの。欲しいと思って当然でしょう?」
中井出 「きみ、やっぱり最初からアンデッドだったの?
     それとも誰かにアンドバリの指輪かなんかでももらった?」
カリーヌ「水魔法の秘宝ね。さあ、知らないわ。
     むしろここで適当になにかを言って、あなたが信用してくれるとでもいうの?」
中井出 「面白かったら信用します」
カリーヌ「ふふっ……おかしな人。どう? あなたも一緒にわたしたちの世界へ───」
中井出 「んー……内側から面白おかしくするのもアリだと思うんだけどね。
     やめとくわ。むしろきみがこっちに来ない?」
カリーヌ「…………おかしな人。わたしを誘うなんて、ピエール以来だわ」
中井出 「ピエール? ああ、サンドリ…………ピエール?」

 ハテ、と彼は首を傾げた。
 ピエール。確かヴァリエール公爵の名前。
 で、その妻がカリーヌだったはず。
 …………ハテ。と、何か確信に迫りそうな彼だったが───

中井出「同名か!《どーーーん!》」

 ───しかし馬鹿だった。

中井出(カリーヌなんて珍しい名前でさえ同名があるんだもんね! きっと同名なんだ!)

 ちらりと金髪のカリーヌさんを見る。
 自分が見たカリーヌはピンクだったんだし、きっとこのお子ではない。
 なるほどやはり同名だ。まったく紛らわしいんだから。
 そう結論付けたらしく、彼は満足を得たといった風情でトヒョーと息を吐いた。
 思えばバッカスもナルシスも似たようなお子を未来で見たが、それも気の所為だ。
 バッカスはマリコルヌとかいうふとっちょに似ていて、ナルシスは思い切りギーシュ。

中井出(だがどれも気の所為に違いねー! なんでも関連づけるの、ヨクナーイ!)

 彼の意識はそこに答えを置いたらしい。
 大体にして無理矢理関連づけて、成功したためしがないのだ。だから今回も違う。

中井出 「ふむ? ありゃ、肩凝ってるね。揉んだりましょう」
カリーヌ「あらありがとう。というか、余裕ね。なにもしなくていいの?」
中井出 「ああ、いいのいいの。基本は傍観で。
     主が成長するには、なんでも助けちゃいかんのです。
     見てください、涙しながら立ち向かうあの勇気。
     ぼかぁあんな主が見れて、嬉しくて嬉しくて」
カリーヌ「主? あの可愛い女の子?」
中井出 「まあ、女だって解るよねぇ。僕の周りのお子らは気づかないんだけど」
カリーヌ「体の中の色が違うもの。男の子のフリを精一杯しようとしている可愛い女の子。
     あなた、あの子の従者なのね」
中井出 「グヘヘヘヘ……それもヤツが騎士になるまでの関係よ。
     騎士にさえすれば俺は自由だ……! その時こそ支配してやるのよ!」
カリーヌ「支配。へえ、なにをかしら」
中井出 「え? 道化道を」
カリーヌ「………」
中井出 「極めれば。シーザー」

 特別な味です。
 などとドッグフードのCMチックに胸を張った中井出の腕の中で、カリーヌはくすくすと笑った。笑いながら、水竜巻に癒しを混ぜた水が雨のように降り注ぎ、動く死人たちを動かぬ死人に変えてゆくのを眺めていた。

カリーヌ「あら。まるで雨ね。水流に癒しを混ぜて、
     死人を“支配”から癒す……よく考えたじゃない」
中井出 「雨っつーかスプリンクラーっつーか」

 竜巻の頂上から弾かれた水は確かに雨のようで、カリンとサンドリオンの魔力が続く限りに癒しの雨を降らせた。
 結果として死人は死人へ還り、やがて立っているのが中井出とカリーヌだけになると、竜巻は治まりを見せた。

中井出 「どうする? やっぱこっちに混ざる? エスターシュと居るより楽しいよ?」
カリーヌ「そんなことをすれば、衛士隊は一層に風向きが悪くなるわよ?
     あら、なにこれ、いやだ、ふふっ。それ、望むところだわ」
中井出 「まだ20にもなってなさそうな顔して、随分ご婦人チックに笑うのね」
カリーヌ「いいじゃない、落ち着いた感じのほうが、彼は好きなんだから」
中井出 「そりゃ結構。でも、多分もうきみのこと、殺しにくるよ」
カリーヌ「───……」

 言いながら離すと、カリーヌはとくに気にしたふうでもなく、魔法の使いすぎで倒れたカリンに肩を貸すサンドリオンを見た。

カリーヌ「殺すのが彼なら、それもいいかもしれないわね」

 呟いて踵を返す。
 愛しいと言う彼に背を向けて、静かに。

カリーヌ「訊いてもいいかしら。どうしてわたしを仕留めないのか」
中井出 「んー……まあ、あれだよ。俺がなにかするでもなく、きみはきっとどうにかなる。
     未来から来たから、って言葉も嫌味になるけどね。
     ここの人たちが死んだのはきみの所為かもしれんけど、
     だからって俺が敵討ちをするのは違うし。
     つーか、魂食っておいて敵討ちとか最低でしょ。むしろ俺が殺されそうだ」
カリーヌ「…………まあっ。ふふふっ」

 ぽかんとしていたカリーヌだったが、吹き出して笑った。

中井出 「おお、笑ったね。人殺しに笑え〜ってのもヘンだが、笑えるうちに笑っとけ。
     きみ、きっと死ぬことになるから」
カリーヌ「ええ。楽しみにしているわ」

 歩いてゆく。
 その過程、どこからか現れたメイジが影のように付き従う。
 そのまま彼女は坂を上り……やがて、消えた。

中井出「……こんな昼間っから陽の下を歩く……やっぱ吸血鬼ではないのかねぇ」

 人間じゃないのはよーく解ったが。
 しかし修道服。ジョゼットを思い出して、少し郷愁にも似た感情を抱き、コリコリと頭を掻いた。


───……。


 先日泊まった宿場町につくと、そこにはバッカスとナルシスが居た。
 当然マリアンヌも無事であり、当身状態のまま幸せそうに眠っていた。

バッカス「おい! あいつら生きてたぞ!」
中井出 「やあ《どーーーん!》」

 バッカスたちが寄ってくるなり片手を挙げての挨拶。
 途端に肩に腕を回され、ゴンスゴンスと押し付けるように頬を殴られ、ぐりぐりされた。

ナルシス「まったく無茶をする! ひとりであれを止めるつもりだったのか!」

 サンドリオンもナルシスにいろいろと言われ、困った顔をしていた。

中井出「エ? あれ、ってなに? もしかして俺?」

 問いかけてみても華麗にスルーされた。
 カリンは……精神力の使いすぎで、少しふらふらしている。
 というか中井出に負ぶさっていた。 
 その状態でのバッカスのもてなしは大変に気持ちの悪いもので、しかしそれを口にするほどの気力も残っていなかった。

ナルシス  「しかし、随分と頭の痛い状況になったものだ」
バッカス  「ああ。街の……死人たちは、どうしたんだ」
サンドリオン「なんとか死体に戻して、ジークの力を借りて火葬してきた。
       死体は放置しておくと、病を撒き散らすと言うから」
バッカス  「……そうか。だが、あの場にアンジェロが居たってことは───」
サンドリオン「ああ。ユニコーン親衛隊が係わっているのは間違いない。それと……」

 サンドリオンは、かつての自分の恋人が糸を引いていたことを語った。

バッカス「………」
ナルシス「………」

 なんともいえない空気に包まれる。
 ただ、アンジェロが居たということで、親衛隊から通してエスターシュに関係があることはほぼ間違い無いと頷けた。

バッカス「なんだな、王にでもなりたいのか、やつは」
ナルシス「魔法衛士隊が落ちぶれていったのも彼の仕業と見て間違い無いね」
中井出 「きっと少しずつ自分のもので埋めていってる最中なのよ。
     で、最後は王位を手中に! って」

 そこまで言って、アルビオンを乗っ取ったオリバー・クロムウェルを思い出す。
 ……どの歴史でも、似たようなやつは居るもんだ。
 さて。そうはいってもここでのんびりしていることは出来ない。
 こんなことがあって、帰り道まで無事であるとも思えないのだから、一刻も早くトリステインに戻る必要がある。
 互いに頷き合い、逃がしていた馬に跨って移動を開始した。

バッカス  「なあサンドリオン。お前の昔の恋人が、あの街の人を操っていたことだが」
サンドリオン「……陛下にはちゃんと言うよ。隠し立てすることじゃない」
バッカス  「おいきみ! オレはきみのことを思ってだな!」
サンドリオン「それはありがたいがね。おれは、もう逃げないって決めたんだ」

 ある時、恋人を殺した。その時点で、自分の歩むべき道はここ以外にはなかった。
 その恋人が、彼女の言うとおりならば生まれ変わって悪事を働くというのなら。自分はそれを止めることを責務として、自分の責任で止める。たとえ……そう、再び涙を流す結果になろうとも、止めてやらなければいけない。
 その覚悟を、あの海岸でしたのだから……もう迷わない。

ナルシス  「しかしね。相手はあの大公殿下なんだろう? どんな手を使ってくるか」
サンドリオン「なんなら降りてくれてもいいんだぜ?」
ナルシス  「ばか言うない。乗りかかった船さ。最後まで付き合ってやるよ。
       バッカスだって同じ気持ちだろうさ」
バッカス  「ああ。当然、船は豪華で頑丈だがな!」

 バッカスの言葉に、サンドリオンは苦笑した。
 同時に、安心のようなものを心に得た気がした。
 なんとかなる。
 そんなことをふと自然に考えた時、口までもが自然とそれを呟いた。なんとかなるよと。
 そして、中井出の腰に腕を回しながらぐったりしている小さな背中を指差して言う。

サンドリオン「おれたちには、風がついてる」
ナルシス  「………それはまた」
バッカス  「……なんとも、小さな風だな」

 たははと苦笑はするが、バッカスもナルシスも、どこか吹っ切れた顔をしている。
 水は傷を癒す。自分は水使いだから、負った傷はそうして癒してきた。
 だが……自らが被った灰は、水では余計にへばり付かせるだけだった。
 もしかしたら……自分の灰を吹き飛ばしてくれるのは、見ていて危なっかしいが、どこか未来に期待をさせてくれる、あの小さな風なのかもしれない。
 そう思うと、サンドリオンは自然と笑っていた。
 かつての恋人との対峙は辛い。覚悟を決めたとき、カリンに肩を貸しながら無様にも泣いていた。それでも。……そう、それでもと思えた。やらなければいけないことがあるのなら、立ち上がらなければと。

サンドリオン「……うん?」

 そこまで考えて、そういえばと思い出す。
 カリンが駆けつけた時、そこに違和感が───

サンドリオン「あ」

 ───そう、女言葉。
 少しだけだったが、なんというかこう、言い慣れているような、自然体のような女言葉を喋っていた。
 ……え?
 あれ?

サンドリオン「………」

 必死になると、ああいう言葉遣いになるのか?
 というか、まさか。まさかだが……。

サンドリオン「あいつ、もしかして…………実は……」

 サンドリオンの顔がみるみる赤くなっていった。
 バッカスとナルシスは話すことも話したのか少し前に馬を走らせ、中井出に追いついてなにかを話している。途端に笑いが出るところをみると、また馬鹿話でもしているんだろう。
 あんなことがあったあとで、よくも笑える。……ああ、それは自分もか。

サンドリオン「………」

 馬を走らせる中、“二人きりになれたらそれとなく訊いてみよう”。そんなことを考えて、小さな背中を眺めていた。


───……。


 その機会が訪れたのは、案外早いうちだった。
 どたばたの所為でろくにものも食べていないことに気づいて、さらに言えばマリアンヌが気絶から覚醒、いろいろと文句を言い出したので、とある街に寄った時に訪れた。
 その時のカリンはといえば、散々とマリアンヌの愚痴と行動に振り回され、街から少し離れた草原で溜め息を吐いている、といったところで───まだ疲れているだろうということもあって、サンドリオンがそれに付き合った状況が今だった。

カリン   「はあ。まったく、台風のような人だ」
サンドリオン「お疲れさん」
カリン   「またお前は人事みたいに……!
       大体な! お前はいつになったらあの時のことを話すんだ!
       訊いてみてもあとで話すあとで話すと!」
サンドリオン「きみ、ジークの後ろでぐったりだったじゃないか。
       そうして元気になるまでは、
       疲れるようなことを言ってやりたくなかったんだよ」
カリン   「うっ……」

 心配してくれてのことだったために、それ以上は強く出れなかった。
 しかし今は元気なのだから、聞かせてもらおうじゃないか。
 ムンと無駄に胸を張って、カリンはサンドリオンを見た。
 ……のだが、そのサンドリオンが何故か、目が合うとスイッ……と視線を逸らし、赤くなったのだ。

カリン「?」

 おかしく思い、しかし説明が先だとサンドリオンを促した。

サンドリオン「ああ、その、な。その前にひとついいか? 言っておきたいことがある」
カリン   「へ? あ、ああ……、……? な、なんだ」

 やたらと本気の顔をするものだから、カリンは少し困惑した。
 普段はやる気のない顔ばかりの男だが、キリッとした表情になるとやたらと綺麗だ。
 こういう男が幻獣に跨って杖を振り翳して、名乗りを上げて颯爽と登場したら格好いいんだろな、なんて乙女チックに考え───てしまったのを、慌てて頭を振って掻き消した。
 自分は英雄になるんだ! ぼくは男! 男! 女の子みたいな考えはいらない!
 そうやって頭を振り続けていたときに、爆弾は投下された。

サンドリオン「カリン。きみの、あの時の口調のことなんだが」
カリン   「ひぃぅっ!?」

 びくーん!と肩が跳ねた。
 口調……く、口調? 口調!! やっぱり聞かれていた! バレていたんだわ!
 みるみる青くなっていくカリンの顔に、サンドリオンは確信した。
 確信して頷いたサンドリオンを見て、逆にカリンは目の前が真っ暗になる思いだった。
 終わり。終わりだ。自分の、騎士となる夢はここで───

サンドリオン「安心しろ、誰にも言わん」
カリン   「───え?」

 ───終わらなかった。
 絶望という名の沼に自分がずぶずぶと沈んでゆくイメージが湧いていた頭の中が、一瞬にして花畑になり、その中を女性の格好をした自分が笑いながら駆けてゆく。
 ……い、言わん? 言わない? たす…………かった? え? でもなんで?
 ハラハラとした気持ちと安堵感がいっぺんに来訪し、カリンはカタカタと小動物のように震えながらも軽く手を持ち上げ、口を少し開けながらおろおろとしていた。
 そんな彼女へ、サンドリオンは“ふぅ”と溜め息を吐きながら苦笑する。「誰にだって事情のひとつやふたつはあるだろう」と言って。
 その時カリンが、自身の中のサンドリオンの評価が天井知らずに上がってゆくのを感じた。
 なんだ、こいついいやつじゃない!
 真っ暗だった視界が明るくなってゆき、頭の中の花畑を走る自分はとうとうどこから吊るしているのかもわからないブランコに乗り、ぶーらぶーらと笑みを浮かべながら漕ぎ───

サンドリオン「しかし、まさかきみが“オカマ”だったとは」

 ……ぶちーんと吊るしてあったブランコが千切れ、脳内カリンが落下していった。
 ご丁寧にその下には絶望の沼があって、ずぶずぶどころかどっぱーんと沈み、脳内カリンは最後にサムズアップしながら沼に消えた。

サンドリオン「一瞬、女かも、とも思ったんだが。
       いくらなんでもそんな薄い胸の女はいないしなあ。
       それに……たとえ女だとしても、
       そこまでじゃじゃ馬じゃあ嫁の貰い手が───うん? どうした?」

 ごひゅう、と風が動いた。
 カタカタと戸惑いに震えていた姿はそこにはもう無く、ただ……台風の目がそこに存在していた。

サンドリオン「お、おい、なんだよ。どうして怒るんだよ。
       い、言わないって! 言わないったら!
       誰にも言わないって! 約束するって! おいこら!」

 さすがに状況に気づいてか、サンドリオンは慌てて落ち着くようにと爆弾を投下してゆく。そもそもが間違っていると、やさしい言葉はこうも凶器になるのか。カリンの顔がサンドリオンが言葉を放つたびに、“バキッ、ビキッ、ミシッ”と怒りに満ちてゆく。

カリン「ぼくはオカマじゃなぁあああああああああああああいぃいいっ!!!」

 “烈風”が吹いた。
 サンドリオンの体は、高く空へと吹き飛ばされた。




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