47/衛士隊に栄光あれ

 とある宿の前で、中井出はぐうっと伸びをした。
 マリアンヌの護衛としてトリスタニアへ戻る最中に寄った宿だ。
 外には一個連隊が駐屯し、マリアンヌの部屋は厳重な警護が施されている。

中井出「ぬぅうううおおおおおおおお……!《ンゴゴゴゴゴゴ……!》」

 両手を天に向けて大地を揺るがすほどに震える。
 KOF97の七枷社の真似をしているつもりらしいが、傍から見ればただ両手を伸ばしてぷるぷる震えるおかしな格好の男である。

中井出「へへっ、今日もキマってるぜ」

 鏡もないのにナイトゥ(略)ともかく退屈らしい彼は、ここでも道化を始めた。
 トリスタニアに戻るまでの間だけでもこの場所で楽しいを振りまく。この男の頭の中は楽しいか楽しくないかばかりだ。

中井出「さあ寄ってたかって見てらっしゃい!
    道化、ジークフリードの手品でござーい!」

 道化と手品は違う気がするがと自分でツッコミつつ、別に道化だから全て道化チックにすることもないでしょと常識を破壊。
 物珍しさに寄ってきた人々に、それはもう笑顔でジャグリングなどを見せていった。
 宿の一室から「まだ死ぬなぁああああああ!!」だのなんだのと聞こえてきた……と思ったら、宿から飛び出てくるカリン。
 すぐに目の前を埋め尽くさんとする見物客にその姿は見えなくなるが、マア元気の良いこと、と納得することで特に気にするのをやめた。

……。

 ……のだが、なんでかそのカリンがマリアンヌを連れてぐったりした状態でやってきた。

中井出「おや主。どしたの、そんな疲れた顔して」
カリン「疲れてないどいない《キリッ》」

 擬音だけがやたらと凛々しく、顔はぐったりだった。

マリー「まあジーク! 丁度あなたを探していたのよ!」
中井出「やあマリー。どしたの? 僕になんか用?」

 用事はなんとなく解ってはいるが、あえて訊く。
 すると予想通り、ドーヴィルでのことを訊かれた。
 お忍びで遊びに行ったのに、着いたと思えば気絶して目を覚ませば違う街。そりゃ訊きたくもなるだろう。

中井出「いやー……もう兵から聞いてるとは思うけど、あの街全滅してたんだよね」
マリー「ええ聞いたわ。
    街の人全員が殺されて、しかも操り人形になっていたって。本当なの?」
中井出「本当さね。お陰でこうして急遽帰ることになったんさ。
    中途半端なお忍びになったけど、命には代えられません。OK?
マリー「……残念だわ。けど、守ってくれたことには感謝を言わないと。
    ありがとうジーク。詳しいことなんて知らないけれど、助かりました」

 言って、マリアンヌは優雅にお辞儀をした。
 もちろん中井出はそれを慌てて止め───ることなどせず、珍しくも貴族の礼を返した。

中井出「いやいや、こちらとしても“楽しい”を止める結果になって、まっこと残念。
    なのでマリーさん? トリスタニアに帰るまでは存分に楽しんでね?」
マリー「もうここらへんなんて知ったものばかりだわ」
中井出「なにを仰る! マリー言うところの王子様が一緒なのですぞ!
    そう、これはデートぞ! そげな状況を楽しまずしてなんとする!」
マリー「! そ、そうね! そうよ! 帰るまでは自由なんですもの!
    カリン! 一緒に来てちょうだい!」
カリン「へっ!? あ、しかしぼくは───……お、おいっ!
    お前っ、ぼくが……だということを忘れているんじゃあるまいなっ!」
中井出「失礼な! このジークフリードがそんな大切なことを忘れるとお思いか!
    もちろん解っていながら言っておるわ!」
カリン「ギィイイイイーーーーーーッ!!!」

 奇声を上げつつも腕を抱かれ、マリアンヌに引きずられてゆくカリンにハンケチーフを振った。世界は平和であった。

中井出「さてと。じゃあ僕も存分に楽しむかな」

 団体行動での休憩は案外長いものだ。
 それが姫様の休憩ともなれば、騎士や兵は気を使って長くとるというもの。
 彼はぐうっと伸びをしながらも再び道化を開始して、立ち止まる人々に愉しいを教えてゆくのでした。


───……。


 一行がトリスタニアに到着すると、姫殿下であるマリアンヌが乗った馬車はすぐに報告を受けていた兵や騎士に囲まれた。
 出迎えにしては多すぎやしないかという人数に囲まれ、警備として馬に乗っていたカリンらは大層驚いた。

中井出   「うわ、また面倒なことになりそ……。俺帰っていい?」
カリン   「いいわけないだろ」
サンドリオン「きみがこういうのを嫌っているのは知っているが、
       さすがにしかばねたちのことを王に報告しなくちゃいけない。
       面倒そうなのはおれも同意見だが、一緒に来てくれ。頼むよ」
中井出   「うぇ〜……」

 兵や騎士がみっしりと馬車を囲んで歩き出す中、五人はぼそぼそと囁きながら王宮へと向かった。ただでさえ妙なことがあって精神的に疲れているというのに、これから王に報告をしなければいけない。そもそもが姫の気まぐれに付き合わされただけだというのに、疲れた上に堅苦しい場所への移動。
 中井出は空を見上げながら、長く長く溜め息を吐いた。

……。

 さて。

フィリップ「いったいなにがあったのだ。余に説明しろ。早く!」

 王宮まで無事にマリアンヌを送り届けた一行は、その親であるフィリップ三世が待つ謁見の間に居た。先ほどまでは娘を心配する親の顔で、マリアンヌを抱き締め、涙し、部屋まで自らが付き添って守るという親ばかっぷりを見せていたというのに……謁見の間に居るフィリップはまるで鬼神だった。
 顔は明らかに怒っており、浮き出た血管とギリリと歯を食い縛った口がピグッピググッと痙攣していた。

中井出   「まあまあキング、まずは落ち着いてくだされ。
       そんな怒った状態じゃあまともに話も出来ませぬ。
       王とは勇者の羨望を束ねる存在ぞ。
       そんな貴方が冷静さを欠いてどういたします、英雄王」
フィリップ 「うぬ、ジークフリードか。
       此度の忍びの旅行、お前も同行したと聞いていたが」
サンドリオン「は。何を隠そう、一番にドーヴィルの異常に気づいたのが彼です。
       あのまま何にも気づかずにドーヴィルに入っていれば、
       姫殿下に動く死体を見せることになっていたかと」

 サンドリオンは続けて、そのドーヴィルでなにが起きたのか。
 そして、その死体連中を操っていたのが誰なのかを口にした。
 途端、フィリップの目がギヌロとサンドリオンを睨んだ。

フィリップ 「ではお前は、お前が手にかけてしまった元恋人が蘇り、
       ユニコーン隊のアンジェロやドーヴィルの民を操っていたと。
       そう言うのか? その事実が真実だとして、
       その元恋人とお前はこの事件に関係しているのか?」
サンドリオン「正直に申しまして、
       わたくしは彼女が蘇っていることさえ知りませんでした。
       いける屍との戦闘のさなかだというのに、
       その顔を見て動きを止めてしまったほどです。
       もしかしたら関係があるのやもしれませぬし、ないのやもしれませぬ。
       それすらも解らぬのです」

 知っていることはそれで全てですと言い切り、サンドリオンはフィリップの言葉を待った。どういう説明をするにせよ、罰があるのなら受けようと思っていた。ならばヘタに嘘をつくよりも全て話してしまえと。
 その結果の罰であるのなら、自分はあの日穿ってしまった恋人に誓い、その罰を甘んじて受けるつもりでいた。

フィリップ「………」

 フィリップがレイピア型の装飾杖に手をかけ、するりと抜く。
 これにはまずカリンが喉の奥で「ひぃ」と小さく悲鳴をあげ、バッカスとナルシスが目を伏せ天井を仰いで祈りの言葉を口にして、中井出は何故かインド人類は繁栄しましたを踊っていて兵士にボコボコにされていた。

フィリップ「ジーク……お前には緊張感というものがないのか」
中井出  「道化ですから。それにキング、もう解ってるでしょ?
      サンドリオンは嘘なんて言ってないし、
      それを王の権限や判断で嘘と決めてもそいつは逃げたりしないよ。
      逃げれば真実嘘になるしね。でもその場合はキングが馬鹿だ。
      きみの、兵とともに敵陣に突っ込む英雄王たる姿は好きだけど、
      若造見ると試したがる癖は苦手にござる」
フィリップ「ふん、お前も相変わらず口が減らん。ああ、まあいい、話は解った。
      ……諸君、わたしは戦場で幾多の勝利をあげてきた。なぜか解るかね」

 苦笑とともに中井出を見たフィリップは、その見事な白い髭を撫でてからニヤリと笑って全員を見渡す。オールバックの髪から額の中心のみ髪の房が存在する綺麗な神に、太く立派な左右に跳ねたカイゼル髭。バッカスが年老いてみればこんな感じになるんじゃ、と思うほどに似た部分がある彼は、少し悪戯っぽく笑ったままだ。

中井出  「兵士が強かったんじゃね?」
フィリップ「お前は本当に容赦がないな! わたしの戦果だわたしの!」
中井出  「ふむ? んじゃあ仲間が頼もしかったでしょ。
      で、その仲間ってのがキングが選んだ仲間。
      よーするに自分の仕官を見る目がよかったーとかそういうこと言いたいの」
フィリップ「解っているなら最初から言え! まったくお前は……!」

 ぶつぶつとこぼすフィリップ三世だが、サンドリオンらを始めとする衛士隊はぽかんとするばかりだ。この馬鹿の遠慮無用の口調は今に始まったことじゃないが、それに平気でノっている王はなんなのだと。

カリン  「し、失礼ながら。その……ジークフリードとは、その……?」
フィリップ「うん? ああ、何度か戦場をともに駆けた仲だ。
      といっても、オーク鬼討伐といったものばかりだが」
中井出  「無守備なる突撃王とはフィリップ三世のことさ。
      一緒に何度も突っ込まされて、
      もうその度に“俺今日死ぬわ”とか思ったもんさ。
      これが、王になる前はもっと凄かったっていうんだから呆れるね。
      つーか王になったなら自重してほしいとは思うけど、
      その型破りさが気に入ったので一緒に突撃してました。最強」
カリン  「お前……陛下とも知り合いだったのか。
      というか陛下と戦場に出れるなんて、ただの道化に出来るのか!?」
中井出  「そりゃ、兵を募集してる時に俺もいくぜ〜〜って言えば兵として出れるし。
      で、その時お金に困ってたから、
      “より多くのオーク鬼を討伐出来た者には褒美を取らす”っていう
      渾身のキングギャグに爆笑しながら突撃したわけ」
四人   『ぶふっ!』
フィリップ「こ、こらっ! それは言うなとあれほどっ……!」

 多くのオーク。
 真面目に募集したのだろうが、そんなユニークな募集文句に心打たれた。
 むしろ“こんなに堂々と王みずからが楽しいを提供するなんて!”と珍しく貴族を見直して戦いに身を乗り出したというわけだ。

カリン「で、その褒美とやらはもらえたのか?」
中井出「ううん、一番屠ったのは結局キングだったしね。
    僕弱体化してたからちょっぴりしか張り切れなかったし」

 ダオラ・ミストラルで次々とオーク鬼を滅ぼしていったのだが、弱体化はやはりきつかった。群がるオーク鬼に突撃をして次々と屠る王の迫力に“やっぱ王様も突撃しなきゃだよね!”と感心したとかしないとか。

中井出  「俺ね、命令ばっかで戦場に出ない王様って苦手です。
      やっぱり王はともに突出してこそでしょう。
      勇者とともに戦って様々なる臣下や兵とともにある者。最高です」
フィリップ「まあ、頭の良いことは出来んがな」
中井出  「適材適所ってやつでしょう。
      エスターシュの野郎はそこをついて、この国の王にでもなろうって魂胆さ。
      フィリピンのお気に入りを全部破壊して様々な点で上に立ってから、
      フィリピンの推薦で王の座に、とかね」
フィリップ「フィリピンはよせというのに。
      だが、てっとり早く王になりたいのならわたしを殺せばいいだろう」
中井出  「殺しってのはどうやっても跡が残るもんだよ。
      で、真っ先に疑われるのが次に王になったヤツ。
      だからこそ、キングが“王”ってものに嫌気がさして、
      “それじゃあ譲ります、文句はないですね”って言うまで、
      徹底的に潰していこうって腹なんでしょ」
バッカス 「うぬ! なんと卑劣で回りくどいことを!」
ナルシス 「美しくないね。知能戦は美学であるべきだ。
      それをそんな、街ひとつをしかばねに変えてまで手に入れようとするなど」

 ふん、と鼻を鳴らし、ナルシスとバッカスはそれはもう不機嫌を顔に出した。
 しかし王の前であることを思い出すと、すぐにキリッと表情を改める。

フィリップ 「だが、この国を動かしているのがエスターシュであることも事実だ。
       余に……わたしに政治は向かん。
       エスターシュが居なくなれば、この国は滅ぶぞ」
サンドリオン「それは……陛下が頑張るほかないのでは」
フィリップ 「わたしは戦しか出来ぬ。
       将軍でしかなかった者が、血筋だからと王になったにすぎん。
       そんなわたしに今さら政治を学べというのか」
サンドリオン「……陛下のお心のままに」

 サンドリオンの言葉に、フィリップは顔をしかめた。
 戦ともなれば頭の中が透き通り、どのような戦でも勝利を掴んだ勇者であるのだが、いかんせん戦以外となるととことん弱かった。
 英雄王と言われるだけはあり、王だというのに兵より前を行き敵を撃つというトリスタニアが誇る英雄。これで頭も切れれば、と臣下の誰もが思っただろう。
 しかし足りないものは補い合うべきであり、足りない知識を埋める役目がエスターシュであったことも事実なのだ。

中井出(ふぅむ。実際にここが過去だとして、
    じゃあ俺が降りた世界にゃ居なかったヤツと居るヤツを照らし合わせると)

 ここで必要になるのは、恐らく枢機卿マザリーニとリッシュモン。
 リッシュモンは結果的にああなってしまったが、そもそもがアンリエッタが幼すぎる王だったからという理由で裏切ったのだ。そうでなければ優秀な存在だったという現実は、あの歳まで仕えていた事実が物語っている。
 ならば向上心がある内は登用して働いてもらったほうがいいだろう。
 そんなことを考えて、中井出はいつになく真面目な顔でふぅむと唸っていた。

中井出(マザリーニは……確かロマリアから派遣されたんだっけ?)

 しかしそこらへんの知識は実に馬鹿なものだった。
 だから大した考えもなく口に出した。

中井出「ねぇキング? ロマリアにマザリーニっていう枢機卿、いたっけ」

 その言葉にぴくりと眉を動かすフィリップ三世と、“あれ? なんかやべーこと言った?”ときょとんとする中井出。
 しかし次の瞬間にはフィリップは笑い出し、「なるほどなるほど」などと言ってずんずんと中井出へと歩み寄ってゆく。

フィリップ「そうだな! エスターシュがダメならば次の相談役を雇えばいいのだ!
      国を愛し、この国のために尽力してくれるような者を!
      その点で言えば、ロマリアの枢機卿ともなれば愛国心も強かろう!」

 ハテ、なんかやばいことになってる。
 フィリップの豪快な笑いを前に、そういえば自分はこの時代のマザリーニが枢機卿かどうかも知らないことを思い出した。
 むしろ居るのかな。降りたばかりの時代……アンリエッタの時代では、マザリーニは40代だった筈。仕事のしすぎと心労の所為で、40代なのに白髪でガリガリで、貴族連中には鳥の骨などと呼ばれていたが……。

中井出(でもあの人ほどトリステインを愛してる人を、僕は他に知らんのだよね)

 貴族になる際、いろいろと言ってきたりもしたが、ひとえに国を思えばこそ。
 事実、彼はトリステインという国を愛していた。
 その“国のために頑張りすぎる姿”を国を乗っ取ろうとしているなどと貴族連中に誤解されたために、鳥の骨なんて不名誉な呼ばれ方をしていた。そんな貴族連中よりもよほどに国を愛しているというのに。
 段々と成長してきたアンリエッタの姿を見て、ようやく肩の荷が下りるだろうと思っていた彼だったのだが、中井出死亡の報せにより塞ぎ込んでしまったアンリエッタを見て泣きたくなったのは言うまでもない。

中井出(ままま、それはそれとして次はリッシュモンざんす)

 ふむりと頷く中井出は、彼が何処に居るのかを考えた。
 随分と長い間トリステインに仕えていた筈だから、案外既に下っ端としてトリステインに居るのかもしれないが、それはマザリーニも同じなのではないかと考える。
 たとえば布教活動のようなものでこの国に来ている、など。
 そもそもマザリーニのことで引っかかる部分が無いわけではないのだ。ロマリアを故郷とする彼が、何故トリステインに愛国心を持つのか。その一点だ。その愛国心が元で、トリステイン貴族には乗っ取りを怪しまれていたというのに。

中井出  「……まあ、なんとかなるでしょ」
フィリップ「うん? 他に誰か当てになる人材が居るのか?」
中井出  「いや。まずは国のことを考えてくれる人を探しましょ」

 三十余年を尽くしたと言っていたから、今居るかどうかは不明。
 当時見たリッシュモンはおっさんとじいさんの中間あたりの顔だった。
 あれで30余年を尽くしたとなれば、入ったのはかなり若い頃ではなかろうか。
 そもそもこのハルケギニアの人間は年齢が顔に出やすすぎる。
 30〜40などはもう高齢と受け取られるようだ。平均寿命が50あたりだと言われているのも頷ける。
 なので鳥の骨扱いのマザリーニはそろそろ危険なのかもしれない。なにせ40代だ。

中井出(問題はハードボイルドダンディのリッシュモンドさんなんだよなぁ)

 今はまだいい。
 向上心か野心かもあるから、存分に働いてくれるだろう。
 しかしその野心の方向性に問題があり、いずれはダングルテールを燃やす手立てを始めるのだ。その所為でコルベールはアニエスの故郷を燃やしてしまい、アニエスも唯一の生き残りとしてその青春の全てを復讐に燃やしてしまう。
 既に決まっていることとはいえ、それは少々辛い。
 彼……中井出博光は、たとえばこういう“知っている世界”に来たのなら、知識として知っている分なら好き勝手に生きる。未来とは抗うべきものだと決めているからだ。
 しかし彼が事故とはいえ“現在”から“過去”に来たのだというのなら話は別になる。
 過去は受け入れるもの。
 過去があるから現在があるのだと、“既に起こったこと”を壊すことを良しとは思わない。
 “力があるから救う”のは違うのだ。

中井出(……リッシュモンは登用する。未来でアニエスの故郷を燃やそうが、
    燃やすために編成された隊の隊長がコルベールであろうが)

 この過去があの未来に続いているかなんてことは知らないしどうでもいい。
 どれだけ周囲に外道だどうだと言われようが構わない。
 その外道を貫くために、彼はかつて訪れた過去で、幼い自分を命がけで救ってくれた恩人である祖母を見殺しにしたのだから。

中井出(まあ……周囲にとっちゃあ俺の覚悟なんてどうでもいいだろうけどね。
    こういう時はみんな口をそろえて“かわいそうだろうが”とか言うんだろうね)

 しかし、ルドラの生き方を否定した自分がそれをする気は全く無い。
 未来に絶望して過去を壊しに来たかつての仲間の姿。そこには絶望以外にはなかった。
 一緒に来てくれと言われて一緒に言ったらなにかが変わっただろうか。
 ……否だろう。
 彼は中井出のことを道具を見るような目でしか見ていなかった。
 信頼して契約した筈の精霊たちでさえ、既にそんな目でしか見れなかったのだから。
 最後の最後、創造世界で彰利と戦った瞬間のルドラだったなら、中井出も頷いていたのかもしれないが───

中井出 (痛むのが俺の心だけならなんの問題もないよね?)
脳内博光(なんの問題が?)
脳内博光(なんの問題ですか?)
脳内博光(なんの問題もないよね)
中井出 (ラミレスビーチの誓い)

 ───既に心が壊れている存在が、自分の本当の気持ちに気づくことはほぼ無い。
 いつかそれに気づけた時、彼らはそれまでの道を後悔するのだろうか。
 それとも、それすらも笑い飛ばし、更なる楽しさを探すのか。
 その気づけた時に、心から手を差し伸べてくれる仲間が居るのなら、彼もいい加減に“本当の涙”を以って泣けるのかもしれない。


───……。


 結局、呼ばれたエスターシュは頑なに自分の無関係を白々しく述べるだけだった。
 フィリップにユニコーン隊に生けるしかばねが居たことについて問われれば、自分は全く知らないとばかりに首を振り、「心当たりがあるのならば陛下に報告しておりますよ」と言う。
 それどころか「ペドロのしかばね化はアンジェロの企みでは」とまで言い出す始末。ならばとそのアンジェロも操られていたことを言えば、「敵は得体の知れぬ存在で、ユニコーン隊を狙っているのかもしれませぬ」と被害者顔をして無理矢理にでも逃げようとする。
 ここまでくるとさすがに怪しいとカリンは思ったが、困ったことにその挙動の全てがまるで初めて知ったかのようなものであり、怪しいと踏んで見ていなければ誰でも“この人ではない”と思ってしまうほどのものだった。怪しいと思っていたカリンでさえ“もしかしたら違うんじゃ”と思いかけてしまったほどだ。
 だがその疑いに傾きが走った。
 切っ掛けは……エスターシュの言葉であることは当然なのだが、その内容にあった。

  ユニコーン隊を陛下の警護任務から外し、後任を衛士隊に任す。

 この言葉にフィリップは驚愕ののちに目を輝かせ、カリンもサンドリオンもバッカスもナルシスも耳を疑った。
 衛士隊が邪魔だから今までの行動を取っていたのではなったのか?
 ここでユニコーン隊を……自分の駒を退かせる理由は?
 いろいろ考えてしまったが、エスターシュは申し訳なさそうに俯き、「除隊しているとはいえ、元隊員が引き起こしたこと。そんな隊に陛下の警護を任せることは出来ませぬ」と、王に告げただけだ。
 話も終わり、エスターシュが退出すると同時にフィリップが感激のあまり子供のように飛び跳ねて喜び出すほどの異常事態。四人は驚くばかりであり、中井出はコリコリと頬を……いや、仮面の端を掻いて溜め息を吐いた。

中井出(まあ、そうするっきゃないよねぇ……)

 責任逃れの常套手段じゃないか。ぽかんとする理由もない。
 原中時代で自分も散々と使った手なので、対して驚く風でもなく王の話が終わるのを待った。結局は王直々に警護任務復帰が衛士隊に言い渡され、バッカスとナルシスはウッヒャッホォーーイってなものだ。
 カリンは喜びよりもエスターシュの尻尾を掴みたい気持ちでいっぱいであり、サンドリオンは……退出が命じられたのちに一人だけ王の前に残され、いろいろと話を続けていた。彼女……カリーヌとの間に起きた様々を、隠すことなく。
 旅芸人の娘であったカリーヌと恋に落ち、父に知られ、別れさせられそうになり、駆け落ちし、彼女が捕まり、助けるために放った魔法の矢が彼女を貫いたこと。
 その後は家を出て、こうして灰被りという名を名乗っておめおめと生きていること。

フィリップ 「貴族とは思えぬ振る舞いだな。
       あまりに軽率だ。若さ故、で済ませるにはあまりにも軽率極まりない。
       流れの女にうつつをぬかし、あまつさえその手にかけるとは」
サンドリオン「仰る通りにございます」
フィリップ 「で、きみの父上の名は。家名は」
サンドリオン「………」

 サンドリオンは王の質問に深く項垂れ、戸惑う。
 王は「どうした」と先を促すが……偽名を使うということは、相当の家柄でなければ大した意味もない。有名でもない家名がどれだけ汚れようと、それ以下が大したことがないのであれば意味をなさないのだ。
 故に……ピエールの戸惑いから、フィリップは彼が相当な家柄であることを理解。
 「きみが話したくなるまで牢獄に閉じ込めておかねばならん」とまで言い出し、これに負けたサンドリオンはついに己の家名を口にする。

フィリップ「───! なんと! それほどの名門とは!」

 この言葉には、その名には、さすがのフィリップも目を見開いて驚いた。
 その名はフィリップもよく知る名であり、戦場を幾度もともにし、命を救われたことさえある者の家名だったのだ。家を飛び出てしまった息子のことまで聞いていたが、まさか目の前の男がそうだとは。
 しかしサンドリオンは父の名を嬉しそうに口にする王に、冷たく「今は全く関係がありませぬ」と言い捨てる。確かに自分は人を殺めた。しかし、そもそも無理に別れさせようとなどしなければ……どうしてもそう思ってしまうのだ。
 家名を気にし、大道芸人の娘との恋も許さぬ“名”というものに溜め息も吐きたくなる。そんなだから後継に家を出られるのだ。もし認めてくれたのなら、自分はきっと笑顔であの家でカリーヌと暮らしていただろうに。
 そこまで考えて、サンドリオンは考える。
 もし恋愛というものが自由ではなくとも、たとえば相手が誰であれ貴族であったなら……家はそれを認めてくれたのだろうかと。旅芸人だからこそだめだったのなら、貴族であったのなら認めてくれたのだろうかと。
 ……いや、きっと無理だろう。
 そんな自由すら許されない。恋愛さえ自由ではないのが貴族なのだから。
 旅芸人の娘との恋だろうと貧乏貴族の娘との恋だろうと、認めてくれればどれだけ自分たちは救われたのだろう。
 それを思うと、もし自分に子供が出来たのなら……そんな恋愛の自由くらい、認めてやりたいと思っていた。その時の自分がどれだけ自分の息子か娘かを愛しているのかは知らないし、カリーヌ以外を愛せる自信もないのだが……いつか愛すことが出来て、子供が出来たなら……せめて自分は子供のために懸命になれる自分になろう。
 そう思い、サンドリオンは自虐的に笑った。

サンドリオン(子供だって? 愛する人を殺めた自分が、なにを……)

 それでもせめて幸せを願わずにはいられない。
 たとえ性格がキツかろうが不治の病気にかかろうが魔法の才無しの子供が産まれようが、自分はその子供らのために懸命すぎだと笑われるくらいの存在になり、精一杯愛そう。ただ、この時にはなんとなくそんなことを思っていた。

フィリップ 「まあ、帰りづらいという理由も解らんでもない。
       だが帰参したくなったらいつでも余に言うのだぞ。
       彼には恩がある。跡継ぎが居ないとなれば苦労もしよう。
       余から彼に取り成すこともできるのだ、その時は遠慮なく言うのだ」
サンドリオン「……は」

 フィリップの言葉に一度だけ頷き、サンドリオンは再び自分のかつての想い人……カリーヌのことへと話を戻した。


───……。


 宮殿から帰ってきた日の夜。
 衛士隊の皆に警護任務復帰の報せが届き、ヴィヴィアンの屋敷は大盛り上がりだ。
 バッカスもナルシスも楽しそうに酒を飲み、いつも通り自分の武勇伝を捏造しては話して聞かせている。同じ相手に、何度も何度も。
 他の衛士隊連中も完全に酔っ払っていて、どこを見ても笑顔ばかりがある。
 しかし……ただ一点、むすっとした顔でいる者が居た。
 カリンだ。

中井出「主よーう。どうしたの、そんなヴスっとした顔をして」
カリン「……おい貴様。今はぼくのことを……と知って、“ブス”を強調しなかったか」
中井出「してないよ? そもそも俺が言ったのヴスであってブスじゃないし」
カリン「……ああいい、この際だからお前でいい。───どうなってるんだこれは!
    こんなことをしている暇があったら、
    エスターシュの尻尾でも掴むことを優先させるべきだろう!」
中井出「アホだなぁ主は」
カリン「アホ!? アっ……え!? アホ!?」

 はふぅ〜うと吐かれた溜め息にカリンは驚き、その溜め息に意味を訊く。
 中井出の返答はこうだ。

中井出「あのね。そもそも尻尾掴ませてくれる相手ならとっくにボロだしてるし、
    こんなことをしている暇がとか言うけど、
    じゃあみんなはいつ“こんなこと”をすればいいのさ。
    尻尾を掴んだら? じゃあ尻尾を掴む前に誰か死んだらどうしますか。
    気の毒だったなだけで済ませるのですか、主」
カリン「うぐっ……それは」
中井出「相手には死体を操る力を持つ者が居る。これが確定してるなら、
    相手側にとってはこっち側の人間なんて殺したほうが早いんだ。
    そんな敵を相手にしてるなら、
    浮かれる瞬間なんていくらあってもいいくらいなの」
カリン「………」
中井出「それに主。キミ、陛下の警護任務から外されてた衛士隊が嫌だったんでしょ?」
カリン「はうっ!?《ぎくぅ!》」

 実を言うとそうだった。
 そもそもトリスタニアに来て最初に目を輝かせたのがユニコーン隊のユニコーンを見た時だ。最初はあのユニコーンが衛士隊管理の幻獣だと思っていたほどだ。
 しかし現実の衛士隊はひどくさびれ、隊員もどこそこのごろつき貴族だと言われた方がまだ頷けるやつらばかり。ユニコーン隊に憧れるのは当たり前だろう。誰だってそうする。普通の貴族ならそうする。

中井出「今はこの状況を楽しんでおればよいのですよ。
    大体、どうせすぐにエスターシュの野郎の仮面は剥がれるだろうし」

 そんな当然を考えていたカリンにしてみれば、中井出の言葉は不思議なものだった。
 え? 仮面が剥がれる? なんで? と、まあそんな感じだ。
 それが表情に出たのだろう。中井出はハフゥと仮面越しに苦笑を漏らすと説明を……

中井出 「よいですかな主。あれは───」
バッカス「おぅいジーク! 我が友よ! こっちへ来て芸を見せてくれないか!」
中井出 「お呼びとあらばすぐ参上!!
     楽しいを求める者の味方、ジークフリードが今行くよ!」
カリン 「なっ!? ちょ、待て! ぼくとの話がまだ終わってないだろう!」
中井出 「……主。終わらないものは、いつか終わらせればいい。
     “今”に必要なのは、今でしか出来ないことに向かって“今走ること”さ!」
カリン 「ぼっ……ぼくにとってはそれが今しか出来ないことだ!」
中井出 「なら主も一緒にきやがれぃ! それを拒むとするならば!
     主のソレは一緒に来て追求するほどの価値も“今”に含まれちゃいないのさ!
     主は英雄になりたいから状況を利用するために逸ってるだけだ!
     そんなものは出世を急いで身を滅ぼす誰かに任せりゃいい!」
カリン 「なっ……!」

 カリンは絶句した。
 英雄になりたいと話したことは確かにあるが、自分が急いでいるだって?
 こんなことをしている間にも誰かが死んで、エスターシュの駒にされているかもしれないというのに! だから急いで何が悪い! こいつは、こいつはわたしをそこいらの誇りの欠片もない貴族と同列に見ているのか!
 カッとなったカリンは中井出の腕を掴み、殴ってくれようかと拳を固めたが───

中井出「あのね。きみはどこに所属していて、なにに憧れてるの?
    隊の喜びに水差して、任務復帰を“こんなこと”扱いして、
    掴める可能性も解らんことに無理矢理隊の連中を動かして。
    それできみ、隊の連中が殺されて操られたらどうするつもりだね」

 ───中井出の言葉にひくりと喉が鳴って、拳に込めた力も散ってしまう。
 中井出の……ジークフリードの目は、それがきみが憧れる英雄像かと問いかけていた。
 自分の出世のために隊を動かして、それ以外のことはだらしがないだの弛んでいるだの文句を言う。出世に関係していないのだとしても、王の傍に立つ者を疑えと堂々とそそのかすような行為をするのがきみの英雄像なのかと。

カリン「ち、違う! ぼくは!」
中井出「はいな。そこで違うって言えるなら十分です。
    ……あのね、主。現実に衛士隊はさ、警護任務を解かれる前は輝いてたの。
    でも、いろいろあって死んだり、
    事故にあったりで隊は減って、警護任務からも外された。
    そんな経験をしている者も居るし、知らないヤツはまず居ない。
    そういうことを理解した上でみんなここに居るの。
    エスターシュが怪しいからなんだってんだ。
    それがほんとなら、衛士隊が警護任務に復帰したってことは、
    またユニコーン隊を返り咲かせるためにいろいろ手を回してくるに決まってる」
カリン「あ───そうか。だから……」
中井出「そ。そこで尻尾を掴みゃあいいのですよ。警護任務を衛士隊に返したのだって、
    そうしなきゃ自分から責任問題を逸らせないからさ。
    今回誰が一番損したと思う? エスターシュか? 違うね、ユニコーン隊だ」
カリン「───! あっ……!」

 そうだ。問題のエスターシュは完全にとぼけ、罪をユニコーン隊になすりつけたお陰でなんの罰も受けてなければ注意もされていない。
 結局あいつは街ひとつをしかばねに変えた現実を、アンジェロという死体に全て押し付けた上に、そいつが所属していたユニコーン隊に押し付けただけだ。それからどうするのかなんて、また衛士隊を突いて弱らせ、ユニコーン隊を就かせればいい。適当な失敗でも起こさせて、やはり今のごろつきまがいの貴族連中が集まった衛士隊に、陛下の警護など無理ですなぁとでも言えば、王に遣えるものは口々に賛成を唱えるに違いない。

中井出「解っていただけた? 人に罪をなすりつけるのなんて案外簡単なのよ。
    周囲の信頼を得ていて、何かを管理しているのなら、
    管理しているところから適当な存在を見繕って駒にして。
    不都合が起こればそいつを始末して全部ソレに押し付けりゃいい。
    死体はなにも喋らないからね」
カリン「……お前。そんなこと、簡単に思いつくのか? ぼくには考え付かなかった」
中井出「主はやさしすぎるんだ。貴族は貴族らしくあれ、なんてことを貫こうとしてる。
    ただね、そりゃいくらなんでもきみ、自分を理で縛りすぎだ。
    こうと決めたらこうとしか動けないのなんて、
    自分で自分を人形にしているようなもんだ。
    そんなんじゃあ学ぶことも日々を楽しむことも出来やしない。
    与えられる“楽しい”に埋没するだけで、そんなものは青春謳歌にゃ程遠い」
カリン「ぼくは楽しむよりも先に進むことを願う」

 カリンはキッと中井出を睨んだ。
 自分の行き方を人形なんて言われたのだ、当然だ。
 しかし中井出はコリコリと帽子と仮面の間から頭を掻いて「うーん」と漏らす。

中井出「楽しめなくてもいいって? そりゃきみ、俺にとっちゃ専門外だ。
    逆にこっちが訊ねたくなる。英雄になってなにがしたいのさ。
    ただみんなに褒められたいだけ? すげぇすげぇって言われたいだけ?
    そんな状況で自分がしている表情思い浮かべてみて?
    楽しくなくていい英雄は、その時どんな顔をしてる?」

 問われてみて、つまらなそうにしている自分が思い浮かんだ。
 まるで自分を英雄だなんて呼ぶなと言っているかのような自分。
 ……ああそうか、夢を果たしても、それが嬉しくなければ喜びには繋がらない。
 楽しいっていうのはそういう、結果に喜ぶことなのか。
 軽く納得すると、カリンはやはり中井出を睨んでぽつりと漏らす。

カリン「………………お前。いちいち、人を抉りすぎだ」

 時々嫌になる。
 人の心にやたら敏感なくせに、とぼけきったこの性格。

中井出「夢を叶えたなら笑ってて当然でしょ。
    だから問われたなら胸張って答えりゃいいんです。
    笑ってるさ。“楽しんでないけど笑ってるんだ、まいったか”ってね」
カリン「……………」

 ぽかんとする。
 しかし言われてみて、小さく内容を自分の内側で噛み砕いてみると……少しおかしくなって、くすりと笑った。

カリン「なんだそれ。悪いけどそれは頷けない。
    ぼくはな───楽しんでいないのに笑うなんて器用な真似が出来ないんだ」

 そう言って、笑ってみせた。
 今度は中井出がきょとんとして、嬉しそうに「そっか」と漏らすとニカッと笑う。
 そして自然に動き───ルイズにそうしていたかのように、カリンの頭をわしゃわしゃと撫でた。

カリン「ひゃぅぷぷぷっ!? なっ、なななっ!? なななにをするんだお前は!!」

 当然カリンは驚愕。
 焦りながら言葉を並べるが、向けた相手が何故か目の前に居ない。
 エ? と辺りを見渡すと、既にバッカスの前で芸をしているお馬鹿が一人。

カリン「え? な、ちょっと待て! お前今ここでわたっ……ぼくの頭撫でてたろ!」

 瞬間的に目の前から消えた従者にツッコミを入れるべく、さっきは拒んだバッカスのもとへ。中井出も「主主! こっちこっち!」と手招きまでしている。
 途端に感じたのは気安さだろうか。
 従者になったのに壁のようなものを感じていたカリンにとって、この違いは少し……いや、結構……心地良かった。何がきっかけでそうなったのかも解らないままに、それでも軽い嬉しさを抱きながら、それでも貴族然とした振る舞いでツカツカと歩く。

中井出「さあ! 本日は衛士隊復帰の記念ということもあり、
    衛士隊と関係ないけど道化が参上!
    いっつも入り浸ってるだろという言葉はご遠慮願う!
    なにせ今日の料理や酒は、この道化が趣味で開いている店からのもの!
    みなさま! 料理は美味いですか!」
衛士隊『美味いぞぉーーーーーっ!!!』
中井出「ならばよし! 皆様が料理を楽しんでいる事実にこのジークは感激にござる!
    味覚と嗅覚を楽しませ、視覚では道化で楽しませる!
    ならば次は聴覚で! 何もないところから音楽が出ますよっと!」

 流れる音楽に、皆が一様に「ほぉおお……!」と声を漏らす。
 訊いたことのない音楽だが、どこか故郷を思い出させるやさしい音楽だ。
 カリンは夕焼けに染まる自分の故郷の景色を思い出し、心が温かくなるのを感じた。
 姉は元気でやっているだろうか。家族に持ち前の元気っぷりで迷惑をかけてやしないか。友達は今も元気だろうか。子供の頃に仲間だと手を取り合った人は笑っているだろうか。
 そんなことを自然に思ってしまうくらい、その音楽は友達や仲間や家族を思わせる。

ナルシス「相変わらず凄いな! どんな原理で音楽が流れているのか見当もつかない!」
中井出 「ディェ〜〜〜〜フェフェフェフェ、道化ですからねェエエ〜〜〜ェェエ」

 一方の中井出はといえば、滝口順平氏の声真似をしてニコリと笑うだけ。
 声の本人を思い浮かべてやさしい気持ちになりながら、ただただその場の人々を楽しませ続けた。
 まあそれも、サンドリオンが戻ってきた時点でいろいろと終わったのだが。




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